NHK 1987年6月9日(火)
あらすじ
歌劇「椿姫」の公演が終わった。プロの現場にすっかり刺激を受けた蝶子(古村比呂)は、この夏帰省せずに次に向けて練習に励むことにする。いよいよ歌劇「蝶々夫人」の練習が始まった。コーラスガールとして再び参加する蝶子の前に、バイオリニスト・岩崎要(世良公則)の姿もあった。合奏の練習中、ミスをしたからもう一度やり直したいと申し出る岩崎に、楽団員の坂上(笹野高史)が不満を募らせ、激しい口論になる。
2025.5.27 NHKBS録画
脚本:金子成人
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音楽:坂田晃一
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語り:西田敏行
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北山蝶子:古村比呂…字幕黄色
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岩崎要:世良公則
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河本:梅津栄
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北山道郎:石田登星
木村益江:山下智子
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梅花亭夢助:金原亭小駒
浜田千代:岩下雪
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佐山いと:横田早苗
岩下信子:灘陽子
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合唱団:二期会
オーケストラ:慶応ワグネル
ソサィエティー
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管理人:三川雄三
指揮者:有福正志
鳳プロ
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野々村富子:佐藤オリエ
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神谷容(いるる):役所広司
野々村家前
せみの声と夢助の稽古の声
蝶子「母さん、歌劇『椿姫』のコーラスガールとして出演していた公演も昨日、終わってしまいました。本物の一流の声楽家の皆さんと仕事をして、やはりすごいなと実感しました」
狭い路地を擦れ違う浴衣姿の女性たちと金魚売り。女性たちは向かいの生け花教室に入っていく。
蝶子「私なんか足元にも及びません。でも、頑張ります。来月もまたコーラスガールとして『蝶々夫人』の公演に参加することになっています。ですから、夏休みとはいえ、帰れません。父さんや母さんに一度、私が出ている歌劇を見てもらいたいと思いますが」
蝶子は浴衣姿で自室で手紙を書いたり、窓の外の生花教室に来る女性たちを見たり、発声練習をしたり…
⚟富子「チョッちゃん!」
蝶子「は~い!」
⚟富子「益江ちゃん。上がってもらうよ!」
蝶子「は~い!」
手紙の文字がきれいだな~。ガラスペンってやつかな?
手紙の続きを書いている。”…歌劇を見てもらひたいと思ひますが、無理ですね。”
⚟夢助「それでなくたって足の早いもんだよ、豆腐なんてなあ。ダメだよ、気を付けてやらなきゃ。人間がダメなんだから、こいつは。蓋取ってくれ、蓋を」
豆腐が足が早いというキーワードから「酢豆腐」かな?
⚟益江「入るわよ!」
⚟夢助「もう腐ってるよ! においをかいでみろ」
益江「ラブレター?」
蝶子「うちに。北海道」
益江「何だ」
蝶子「もう少しなの」
益江「うん、いいよ」
⚟夢助「腐っちゃってんだよ! 腐っちゃってんだ、これは」
益江「よっ、梅花亭!」
⚟夢助「もう! 稽古中、口出されると調子狂っちまうな」
益江「ごめん、ごめん、続けて!」
⚟富子「入るよ」
蝶子「はい」
富子がソーダ水の瓶2本とコップ2個をお盆に乗せて運んできた。
⚟(夢助の稽古の声)
富子が栓を開け、コップに注ぐ。「どうぞ」
益江「はい、すみません」
富子「話、聞いたよ」
益江「え?」
富子「ねっ」
蝶子「ん?」
富子「男の人に交際申し込まれたんだって?」
益江「ん?」
蝶子「あのね」
富子「チョッちゃんに相談したことよ。その後、どした?」
益江「は?」
蝶子「叔母さん、あれ、いいの」
益江「何?」
蝶子「何でもない」
富子「解決したの?」
蝶子「したの」
富子「あ、そう!」
益江「何が?」
蝶子「あ、叔母さん、私たち、ちょっと話あるから」
富子「ああ! そうかい。それじゃあね、うん」部屋を出ていく。
⚟(夢助の稽古の声)
⚟富子「夢ちゃん、お茶にしよう。下りといで!」
⚟夢助「へい!」階段を降りる足音が聞こえる。
ソーダ水を飲む蝶子。
益江「話って?」
蝶子「え?」
益江「今、おばさんに」
蝶子「ああ」
益江「話あんの?」
蝶子「ううん、私はない。益江さん、あるんじゃないの?」
益江「ないけど」
蝶子「あ、そう」
益江「どうして?」
蝶子「用事あって来たんじゃないかと思って」
益江「いや、別に」
蝶子「ふ~ん」
益江「用事も何もなくて、うちにいてもしかたがないから、ここに来たの」
蝶子「暇潰し?」
益江「そう」
蝶子「ふ~ん」
せみの声
蝶子「暑~い、ふう~」立ち上がって、うちわを2本取り、益江に1本渡す。「『蝶々夫人』の稽古は何日からだったっけ?」
益江「あさって。ねえ」
蝶子「うん?」
益江「お兄さん、ここには、めったに来ないの?」
蝶子「来るわよ、時々」
益江「今日は?」
益江を見る蝶子。
益江「何よ?」
蝶子「益江さん、あ、そうなの?」
益江「何が?」
蝶子「でも、無理だわ。兄ちゃんには片思いし続けてる人がいるのよ」
益江「誰!?」
蝶子「このうちの前の生け花教室に通ってる人。自分から声かけられないもんだから、2年間も片思いし続けてるのよ」
益江「へえ、お兄さんて、てれ屋さんなんだ」
蝶子「度胸がないの」
益江「そんな言い方ない!」
蝶子「みつ豆、食べに行こうか?」
益江「行く」
蝶子「手紙も出さなきゃいけないし」
益江「うん、うん」
蝶子「用意して行こう」
野々村家の玄関を出た益江と蝶子。
益江「暑い…」
路地を信子が歩いてきた。
蝶子「あの人」
益江「え?」
蝶子「兄の…例の」
擦れ違いざま、信子の方から会釈してきた。
蝶子「よ~し、一肌脱いでやるかな」
益江「え?」
蝶子「あの~」
信子「はい?」
蝶子「あの、私、このうちの者なんですけど」
信子「存じてます」
蝶子「で…私には実は兄がいるんですけれど」
うなずく信子。
蝶子「ご存じでした?」
信子「時々、お見かけする方だと」
蝶子「あ、そうでした。その兄が実は以前から、あなたのことをその…」
うつむく信子。
蝶子「あなたと『おつきあいしたい』などと身の程知らずなことを申してまして。兄は何だかそんな思いを持っていながら口に出せないようで、その~…」
信子「私…」
蝶子「はい?」
信子「来月、結婚します」
蝶子「はあ」
信子「そういうことなので…」
蝶子「それは…」
益江の顔が輝く。
蝶子・益江「おめでとうございます」
信子は会釈して去っていった。
益江さんも2年前の夏に初めて道郎に会ったんだから、結構長いね。
野々村家
道郎「結婚…」
うなずく蝶子。
富子「だから言ったろ。『早く打ち明けろ』って」
蝶子「残念だったね」
道郎「これは最初からダメだったんだ」
富子「どうして?」
道郎「あの人には、ずっと以前から親の決めた許婚がいたに違いない」
蝶子「どうして分かるの?」
道郎「そうに決まってる! だから生け花を習ってたんだ。花嫁修業をしてたんだ。打ち明けたって、どうせ、無駄だったに違いないんだ!」ご飯をかきこむ。
蝶子「そう思えば、気も楽よね」
富子「うちの人も、こういう性格だ」
蝶子「あ、そう?」
富子「さすが叔父とおいだ。よく似てる」
蝶子「叔父さん、今ごろ旅先でくしゃみしてるわ」富子と笑う。
道郎「よし!」
富子「どうした?」
道郎「今後は脇目を振らず、執筆活動にまい進する!」
ぽかんとする富子と蝶子。
道郎「お代わり!」
富子「はいよ」
<こうして道郎さんの片思いは実ることなく終わったのであります>
練習場
<歌劇「蝶々夫人」の稽古が始まっています>
練習場の中には氷柱が数本立てられている。
演奏をやめてしまった要。「いや、すまん! ちょっと間違えた。申し訳ない。もう一度、やり直してくれんか」練習を止める。
坂上「おいおい、岩崎! どこ間違えたって?」
要「いや、ちょっと俺がミスした」
坂上「そんなもん誰も気が付いてないんだからさ、ス~ッといきゃいいでしょ、ス~ッと」←笹野さん、若い~。トランペットが特技だそうです。
にらみつける要。
坂上「いちいち止めることないんじゃないの?」
要「間違えたんだよ」
坂上「お前さんがだろ?」
要「そうだ」
坂上「だったら、ほかのもん巻き込みなさんなよ! 自分のミスは後で自分で復習すりゃいいんじゃないの?」
要「そうかね?」
坂上「そうだよ」
要「そうかねっ!」
指揮者「岩崎!」
坂上「そうなのっ!」
指揮者「坂上!」
要「公演中だったら、そうするけどね、今は練習中なんだ! ミスしてもやり直す時間はたっぷりとあるんだ!」
坂上「ああ、たっぷりね」
要「今、ミスしたら、今、やり直すべきじゃないのか! 坂上さん、あんた、たった一人のミスって言うけどね、その一人のミスだって聴いてる方はオーケストラ全体のミスと見るんだよ! 許しちゃいかん! 甘えちゃいかんのだ! 練習だからこそ見逃しちゃいけないんだろ!」
坂上「だからさあ、みんな、疲れてるんだからさ、ねえ、いちいちさあ…」
要「早く終わらせるためにミスを見逃して、そのままいけって言うのか!」
坂上「なにも、そんな…」
指揮者「坂上は、そういう、あれじゃ…」
要「よりよい公演をするための練習、あんたは、それ、いい加減にやれって言うのか」
坂上「いい加減にとは…」
要「あんたの言うことは、そういうことなんだ!」
坂上「かたいこと言うなよ」
要「何がかたい!」
坂上「もっと楽にさあ…」
要「本番を楽にやりたいから練習は厳しくしなきゃいけないんだ!」
蝶子「うん!」と大きくうなずく。
振り向く要。
蝶子「あ、あ…あの~、私も岩崎さんの意見が正しいと…」
要「余計なことは言わんでいい!」
ま、でもどっちがいいとか悪いとも言えないような? 要のように1つ1つミスを潰して先に進むやり方もあるけど、全体通してやってみるのも大事だと思うし。
カフェ泉
♬~(シャンソン)
またGoogle検索のお世話になりました。蝶子の心情みたいなタイトル!?
益江「岩崎さんて優しくない」
いと「北山さんは、かばったのに、あんな言い方」
蝶子「別にかばったわけじゃないのよ」
千代「じゃ、何?」
蝶子「かばうとか何とかじゃなく、私も『ああ、そうだな』と思ったから、つい」
千代「そりゃね、私も岩崎要に賛成しないわけじゃないのよ。だけど、ああまで厳しく言われるとさ」
益江「坂上さんの気持ちも分かるわよね」
いと「気持ちは分かるけど」
千代「けど、何?」
いと「音楽を職業としている人があんなこと口にしちゃいけないと…」
益江「チョッちゃんもそう?」
蝶子「私は…いけないとか、いいとか思わないけど、言いたいことは言えばいいと思うけど、言ってることは岩崎さんの方が正しいと」
千代「正しいかもしれないけど疲れてたものねえ」
益江「暑いし」
千代「みんな、早く終わりたいと思ってたに違いないのよ」
蝶子「そりゃ、私だって」
益江「でしょう? その辺、岩崎要は融通が利かないっていうのよ」
千代「柔軟じゃないのよ」
益江「寛大さに欠けるの」
下を向く蝶子。
練習場
廊下を掃除している管理人。「おや、早いね」
蝶子「早いって、だって12時じゃ?」
管理人「え? 今日は1時に変更になったんじゃなかった? 昨日、そう伝えられたはずだけどな」
蝶子「あ、そうだ!」
管理人「ハハハッ、忘れてたか」
蝶子「うん!」
練習場からバイオリンの音色が聴こえる。
蝶子「誰か来てるの?」
管理人「岩崎さん。練習したいからって30分も前に来てるよ」
蝶子「へえ~」
管理人「時間潰すんなら、お茶ぐらいいれたげるよ。よいしょ」バケツを提げて去った。
三川雄三さんは「踊る大捜査線」では和久さんが面倒見ていたホームレスの1人とか70年代~2000年代に入っても、いろんなドラマで見たお方。踊るファミリー率高い!?
蝶子「ありがとう」と管理人さんに言い、練習場を覗く。
<要さんは昨日、ミスしたところを練習していたのです>
何度も繰り返す練習を見つめる蝶子。
神谷のアパート
神谷は首から手拭いをかけ、ノースリーブ姿。「どうした?」
蝶子「別にこれということはなく」
神谷「ま、入れや」部屋中に転がっている紙風船を団扇で払って片づける。
蝶子「何ですか?」
神谷「内職だ。おみくじ作るより賃金いいんだわ」
苦笑いの蝶子。
神谷「どうかしたのかい?」
蝶子「先生、覚えてますか?」
神谷「何?」
蝶子「岩見沢の斉藤写真館のこと」
神谷「おう、斉藤峰子の家だべや」
蝶子「峰ちゃんのお父さん」
神谷「源吉さんかい?」
蝶子「はい!」
神谷「忘れるもんでないわ! 写真事件のもう一方の主役だったもな。それがどうした?」
蝶子「峰ちゃんのお父さんは私の写真を通りに面したショーウインドーに飾りました」
神谷「うん。校長が怒って、ショーウインドーから外せって、しゃべった」
蝶子「だけど、おじさんは拒んだんです」
神谷「もめたもなあ。北山君の方は滝川からご両親呼び出されて」
蝶子「だけど、おじさんは『外さない』って」
神谷「うん!」
蝶子「『自分にとって最高の作品だ』と言って拒み通したんです。仕事というのは、そういうもんですよね? 自分の仕事が好きで誇りを持っていたら厳しくあるべきなんですよね?」
神谷「北山」
蝶子「いや~、よく分かりました!」
神谷「うん?」
蝶子「じゃ、失礼します!」
神谷「おい」
蝶子「先生も内職頑張ってください!」障子を閉める。
家路を急ぐ蝶子。
<一体、何なんでしょうか?>(つづく)
森口瑤子さんは今日までかな? 笹野高史さんといい、のちにブレイクした俳優の若い頃を見られるのが古いドラマのいいところ! これからも意外なキャストが見られるだろうか?
神谷に一方的にしゃべって出ていくのが面白かった。紙風船の内職やってる神谷先生も面白い!


