NHK 1987年5月26日(火)
あらすじ
もうすぐ夏休み。滝川に帰る予定の蝶子(古村比呂)は、帰省が楽しみでならない。同じ滝川出身で幼なじみの邦子(宮崎萬純)は、実家に心配するなと伝えてほしいと蝶子に言づてを頼む。一方、泰輔(川谷拓三)の妻・富子(佐藤オリエ)は、蝶子が帰省したら父・俊道に再上京を止められてしまうのではないかと心配しはじめる。夏休みになると、蝶子は上野から列車にのって滝川に向かった。実に三日の旅である。
2025.5.13 NHKBS録画
脚本:金子成人
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音楽:坂田晃一
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語り:西田敏行
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北山蝶子:古村比呂…字幕黄色
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神谷容(いるる):役所広司
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田所邦子:宮崎萬純
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北山道郎:石田登星
木村益江:山下智子
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佐々木光代:山下容里枝
岩下信子:灘陽子
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鳳プロ
劇団いろは
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野々村富子:佐藤オリエ
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野々村泰輔:川谷拓三
キャストが少ない割にオープニングは長いバージョン!?
<梅雨も終わり、東京は、すっかり夏です。夏休みも近いせいか、チョッちゃんの顔も輝いています>
東和音樂学校の校門前で待つ蝶子。これは手作りのワンピースかな。
益江「北山さ~ん!」
光代「ごめんなさい。お待たせ!」
蝶子「遅い!」
2人「ごめん、ごめん!」
蝶子「何してたの?」
益江「ちょっとね。行こ!」歩き出す。
野々村家
玄関に女性ものの靴や草履が並ぶ中、道郎がズカズカ上がる。「叔母さん!」
富子は団扇を持ったまま、うたた寝している。
道郎「叔母さん? 叔母さん」太ももを触って揺り起こす。こらこら!
富子「えっ! わっ! あぁ、びっくりした」
道郎「叔母さん!」
富子「あ~、な…何?」
道郎「向かいの生け花教室の先生とは親しいよね?」
富子「ああ。古くからのおつきあいだよ」
納得するようにうなずく道郎。近いよっ!
富子「どうしたの?」
道郎「まぁ、いいか」
富子「何?」
道郎「蝶子は?」
富子「帰ってる」
うなずき、歩き出す道郎。
富子は大あくび。「けど…」と言いかけるが、もう階段を上っている音がし、再び、横になった。「あ~あ、う~ん」
道郎が蝶子の部屋のふすまを何も言わずに開けた。
蝶子「こういうこともあんだから声ぐらいかけないと」
道郎「どうも」
驚いている益江・光代。「お邪魔してます」
道郎「いやぁ、どうも」
蝶子「何さ?」
道郎「ん? いや、後でいい」
益江「あの、遠慮なく。(光代に)ね!」
光代「うん!」
道郎「いやぁ…じゃ」ふすまを閉め、階段を降りて行った。
光代「兄さん?」
蝶子「そう」
光代「とうとう会えた!」
益江「男っぽいわよ!」
蝶子「そうかぁ?」
益江「りりしいわよ。チョッちゃんは身内だから客観的に見られないのよ」
蝶子「そうか?」
益江「そうよ」
光代「お友達になりたいな」
益江「あ、今度さ、お兄さん誘ってピクニックに行かない?」
光代「いいねえ!」
益江「夏休みにさ!」
光代「私、東京いな~い」
蝶子「私も」
益江「チョッちゃんは、いなくてもいいけど、お兄さんは?」
蝶子「ずっといるはずだわ」
益江は、ふ~んとうなずき、せんべいをかじる。
光代「自分一人、誘ったりしたら絶交だからね」
益江「分かった、分かった」
蝶子も光代もせんべいを口にする。
益江「2人さ、いつ帰るの?」
光代「22日」
蝶子「私は、その翌日」
益江「甲府はすぐだけど、チョッちゃんは、どのくらいかかるの?」
蝶子「滝川までは3日だわ」
益江「う~ん、遠いねぇ」
昭和3年7月22日は日曜日。蝶子は23日(月)に出発して、25日(水)に着くのかな?
蝶子「あ、ねえねえ…私たちの音楽の成果は上がったと思う?」
益江「上がったわよ!」
光代「ピアノも弾けるようになったし」
益江「声もだいぶ出るようになった」
蝶子「いやいや、したってさぁ、成果上がってないと親に合わせる顔ないもねぇ」
バリバリせんべいをかじりながらうなずき合う。
玄関
光代「じゃ、お兄さんによろしくね」
益江「私も」
蝶子「うん」
益江「じゃね」
光代「さよなら」
ボーっと縁側に座る道郎。蝶子は蓄音機の前に座り、音楽に聴き入っているところに、せきばらいして部屋に入ってきた。
蝶子「さっきの友達がね…」
道郎「話がある」
蝶子「音楽、止めるかい?」
道郎「音は出しとけ」
蝶子「何さ?」テレビサイズの関係かすごく距離が近い。
道郎「お前…男に待ち伏せされて声かけられた経験あったな」
蝶子「うん、4月」
道郎「どうだった?」
蝶子「何が?」
道郎「気持ちだ」
蝶子「怖かったさぁ」
道郎「…うれしいってことは、なかったんかい?」
蝶子「うれしいってことは…ない」
うんうん、そうだよね~!
蝶子「何なのさ」
道郎「したら、どういうふうに近づき、声かけられたら、女は、うれしい?」
蝶子「そういうこと考えたことない」
道郎「考えれ」
蝶子「え?」
道郎「今すぐ考えれ!」
蝶子「したっけ…」
道郎「時間ないんだわ」
蝶子「あ! 兄ちゃん、誰か好きな人いるんと違うんかい? そういうこと、ちゃんと知っておかないと答えられないもね」
道郎「何!?」
蝶子「したっけ、いいかげんな答え、しゃべるわけにいかないっしょ」
道郎「実は、いる」
蝶子「誰さ?」
道郎「名前は分からん」
蝶子「通りすがりの人かい?」
道郎「通りすがりってことはないべや!…この前に生け花教室があるべ?」
蝶子「うん」
道郎「そこに通ってる女生徒だ」
蝶子「へぇ~。相手は兄ちゃんのこと気付いてるんかい?」
道郎「さぁ…」
蝶子「それも分かってないんかい?」
道郎「この前で時々は会うんだ。したけど黙って擦れ違うだけで…」
蝶子「何さ! いいふりこくんでない」
道郎「したら、どうすりゃいいんだよ!」顔近い!
蝶子「最初から友達になろうったってダメだ。まずは、きっかけというもん作らねば。やって!」
<自分の時は、いざ知らず、他人のことになると何とも頼もしいチョッちゃんではあります>
生花指南 吉野いつ
金魚売りが野々村家と吉野家の間の路地を通り過ぎていく。道郎は吉野家の前に立って待っていた。下駄履いてるせいもあるけど、脚長く、長身の道郎兄さん。蝶子は玄関から覗いている。
富子「何してんのさ?」
蝶子「面白いもん見れるよ」
富子「何? ん?」
生花教室から生徒たちが出てきた。「ありがとうございました」
通りの向こうから歩いてきた道郎。女性4人のうち、最後に出てきた信子に声をかける。
道郎「あの!」
信子「はい?」
道郎「あの~」
信子「何でしょうか?」
しかし、ほかの女性たちも「何ですか?」と一斉に近づく。「何でしょうか?」
道郎「いえ、何でもないんです」歩き出す。
富子「(蝶子に)何やってんだい?」
道郎が二人の間を割って玄関に入った。「おお、おお…」
蝶子「話、したんかい?」
道郎「ダメだぁ~」と茶の間で頭を抱える。
蝶子「あ~あ、もう」
富子「どうした?」
蝶子「いやいやいや、(富子に)買い物行って」道郎の尻を叩く。
信子役の灘陽子さんを調べたら、森口瑤子さんの旧芸名だそうで。へ~! 脚本家の坂元裕二さんが夫ってのも初めて知った! へ~!
夜、茶の間
泰輔「夏休みか」
蝶子「うん」
泰輔「早いもんだわ。帰るの楽しみだろ、チョッちゃん」
蝶子「うん! フフフッ」
泰輔「帰るうちがあるということはいいよ」
台所でため息をつく富子。
蝶子「叔父さんだって、あるしょや」
泰輔「いやぁ」
蝶子「このうち」
泰輔「あ、いや、叔父さんが言ったのは、ふるさとのことさ」
蝶子「仙台?」
泰輔「うん。帰るに帰れない、ふるさとだ」
道郎「僕も、まぁ、同じようなもんだわ」
蝶子「なして?」
道郎「父さんを欺いてる身だ」
泰輔「うん、なるほど」
茶の間に来てもため息をつく富子。
泰輔「何だよ?」
富子「ううん、別に」
道郎「お代わり!」
富子「うん」
道郎「よし、決めた。蝶子、お前、滝川へ帰ったら父さんにしゃべってくれ」
蝶子「何を?」
道郎「俺は既に医学の道を捨てたってことだ」
蝶子「いいのかい?」
道郎「いい」富子が盛った山盛りご飯を受け取る。
蝶子「『何してる?』って聞かれたら?」
道郎「『小説家目指してる』って、しゃべれ」
蝶子「いいのかい?」
道郎「いい!」
蝶子「父さん、怒るべな」
道郎「怒ったって、いい。いつまでも黙ったままじゃ後ろめたくて、どうもいかん」
泰輔「うん、そうだ」
道郎「はい!」
泰輔「その方が潔くていい。男のけじめとは、そういうもんだ」
蝶子「したけど…」
泰輔「うん?」
蝶子「兄ちゃんは、こっちにいるからどうってことないけど、私は父さんのそばだ。とばっちり受けるのは私の方だわ!」
道郎「親から仕送り受けてる身だ。それぐらい我慢しろ!」
蝶子「もう!」
偉そうだなあ、蝶子に言わせるくせに。
泰輔「やけにおとなしいな」
富子「チョッちゃんが北海道に帰ったら寂しいだろうなと思って」
蝶子「たったの1か月だ。ね!」
泰輔「う~ん」
邦子たちの暮らす部屋
神谷「きれいな花だねぇ。う~ん」
蝶子「結構早く出来たのよ。立ってみな、ほれ」
邦子「えっ!」
蝶子「どうだい?」白襟にチェックのワンピースを邦子にあてる。
邦子「私にかい?」
蝶子「うん!」
神谷「ちょっきりだね」
邦子「いやぁ、いやいや、寸法よく覚えてたでない!」
蝶子「忘れると思うかい?」
邦子「ありがとう!」
神谷「北山君にこういう才能があったとは知らなかったもねぇ」
蝶子「能ある鷹は爪ば隠しますもねぇ!」
神谷の豪快な笑い声。
邦子「チョッちゃん、麦湯でいいかい?」
蝶子「うん!」
「ありがとう」でも”麦湯”って呼んでて、なんだろ~って思ってた。
今で言う煮湯出しした麦茶をそのまま冷まして飲むのが”麦湯”かな。戦後、冷蔵庫が普及してから”麦茶”と呼ばれ始めたんだから、「ありがとう」当時(昭和47年)だと、今時、そんな古い言い回ししないよ~ってな感じだったのかも。
邦子は神谷にワンピースを渡す。
神谷「どれどれ。ほう~、器用だね。うまいねぇ、ええ?」
蝶子「実は明日、滝川へ帰るんだ」
神谷「あ、夏休みか?」
蝶子「はい」
神谷「北海道は涼しいべなぁ!」
蝶子「はい」
邦子「はい」コップを蝶子の前に置く。
蝶子「邦ちゃん」
邦子「うん?」
蝶子「家の方に何か伝えることないかい? 東京に来てること知らせてあるんかい?」
邦子「ううん」
蝶子「先生と一緒ってことは?」
邦子「ううん」
蝶子「何にもしゃべらなくていいんかい?」
神谷「いや…家の人は知ってるわ。手紙、君には黙って出したんだ」
蝶子「そうかい」
神谷「とにかく一緒に住んだ事情は書いといた」
邦子「いつ?」
神谷「東京に来て、すぐだ。まあ、知らせるだけは知らせておかないと。そう思って」
邦子「住所は書いたんかい?」
神谷「ああ」
邦子「家の者が私ば連れ戻しに来るとは考えなかったんかい?」
蝉の声が響く。
邦子は麦湯を一気飲み。「そういう気あんなら、とうに来てるもね」
神谷「田所君。どうだい、明日、北山君と一緒に帰ってみたら」
蝶子「うん!」
邦子「お金ないっしょ」
神谷「ないのか」
蝶子「お金なら何とでもなる! 叔父さんに借りるとか」
邦子「いいんだ、チョッちゃん。勤めもある。急には休めないっしょ。チョッちゃん、家には元気だって言っといてや」
蝶子「うん」
再びワンピースを見る邦子。「めんこいんだ、この襟!」
神谷「ちょっきりだね」←2回目だぞ!
でも、ようやく先生らしいことしてて、ちょっと安心した。だよねえ、今まで知らせないなんて法はないもんねえ。
自室で荷造りをする蝶子。
⚟泰輔「チョッちゃん、いいかい?」
蝶子「はい」
泰輔と富子が入って来た。
蝶子「うん?」
泰輔「チョッちゃん、あれだよね?」
蝶子「ん?」
泰輔「また帰ってくるよね?」
蝶子「ん?」
泰輔「東京に」
蝶子「当たり前だ」
泰輔「(富子に)ほら」
蝶子「なして?」
泰輔「いや、富子が心配するもんだから」
富子「心配っていうかさぁ…」
蝶子「なして、叔母さん?」
富子「う~ん」
泰輔「言えよ」
富子「聞くところによると、チョッちゃんのおやじさんっていうのは相当な頑固者だっていうから」
泰輔「俺は何も相当とは…」
富子「『意地っ張りで融通も何にも利かない』って」
泰輔「まあ…」
富子「チョッちゃんの東京行きにも反対してたっていうし…」
蝶子「うん、そうだ」
富子「そしたら、帰省したのを幸いに、チョッちゃん、引き止めにかかるんじゃないかね? 縄で、こう、縛りつけて、うちから出さないんじゃないかね?」
蝶子「あ、ああ…」首をひねる。
泰輔「まさか、座敷牢があるってわけじゃないんだから」
富子「帰ってくるよね!?」
蝶子「あ…うん!」
泰輔「いやぁ、こいつがえらく心配するもんだから」
富子「あんたもそうじゃないか」
泰輔「いやぁ~、僕は…」
蝶子「また来るさ! 私には音楽があるもの!」
泰輔「うん、そうそう! (富子に)音楽だよ~!」
蝶子「うん!」
泰輔「うん」
<そして、翌日の夕方、チョッちゃんは泰輔さんと道郎さんに送られて上野駅に向かうことになりました>
蝶子「行ってきます」
泰輔、道郎の後ろを歩く蝶子の後ろ姿を見て目を潤ませる富子。振り向いて手を振る蝶子に手を振り返す。
<上野発午後8時、チョッちゃんは北へ向かう汽車に初めて乗りました。ふるさと、滝川に着くのは3日後の朝なのです>(つづく)
神谷的には邦子の家の者が迎えに来ても構わない、むしろ来てほしくて手紙書いたんじゃないのかな~。いまだに「田所君」呼びで冷めた感じ。
明日からまた北海道編か~。東京もいいけど、北海道もいいもね~。
