NHK 1987年6月10日(水)
あらすじ
バイオリニスト・岩崎要(世良公則)の、自分の仕事に対し厳しくあるその姿勢を見て、蝶子(古村比呂)はいつしか岩崎という人間に惹かれはじめていた。だが、岩崎から突然、告白を受けたことは、下宿先の叔父・野々村泰輔(前田吟)の妻・富子(佐藤オリエ)や、故郷の幼なじみ・田所邦子(宮崎萬純)にもまだ内緒だ。ある日、練習終わりに珍しく楽団員たちと銀座にくりだした蝶子は、岩崎からこっそり公園に呼び出される。
2025.5.28 NHKBS録画
脚本:金子成人
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音楽:坂田晃一
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語り:西田敏行
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北山蝶子:古村比呂…字幕黄色
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岩崎要:世良公則
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国松連平:春風亭小朝
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田所邦子:宮崎萬純
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河本:梅津栄
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木村益江:山下智子
梅花亭夢助:金原亭小駒
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浜田千代:岩下雪
原田:杉崎昭彦
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佐山いと:横田早苗
鳳プロ
早川プロ
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野々村富子:佐藤オリエ
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野々村泰輔:前田吟
練習場
廊下で練習する楽団員たち。
坂上「よっ!」
要「よっ! 坂上君」
<この前、練習の時、口論し合った2人ですが、それ以降は、かえって親近感を持ったようです>
親し気に話す2人。
練習場に入った要。
蝶子「こんにちは!」
要「はい! どうも…」蝶子と知らずに愛想よく返事して、蝶子と分かると、気まずそう!? せきばらいして去っていく。
蝶子は発声練習を始めた。
<チョッちゃんもどうも変なんですよね>
野々村家
蝶子「ただいま!」
富子「お帰り。邦子ちゃん、来てるよ」
今日も派手めのワンピースにイヤリング姿の邦子が待っていた。
蝶子「ただいま」
邦子「チョッちゃん」
蝶子「ん?」
邦子「この前、神谷先生の部屋に行ったんでしょ?」
蝶子「うん」
富子「へえ、いつ行ったの?」
蝶子「この前」
富子「ふ~ん」
邦子「昨日、神谷先生に会ったら言ってらしたけど、何かチョッちゃんが訳の分かんないこと1人でベラベラしゃべるだけ、しゃべって帰っていったって」
蝶子「ベラベラ?」
邦子「様子が変だっていうから、私、見に来たのよ」
蝶子「私、変でないよ」
邦子「だけど、高女の時の写真事件のことだけしゃべって帰っていったっていうじゃない」
蝶子「うん」
邦子「神谷先生、訳分かんないって、首ひねってらしたのよ。大丈夫? チョッちゃん」
蝶子「やだ、何言ってんの、大丈夫よ」
富子「ねえ、写真事件て何?」
邦子「チョッちゃんの写真がもとで大騒ぎになったことがあるんです」
泰輔「写真って?」
蝶子「私、持ってくる」自室へ。
邦子「高女の4年の卒業間近の時だったんです。高女の思い出と友情のしるしにお互いに自分の写真を交換しようってことになって、友達5~6人と一人一人、写真撮ってもらったんです」
富子「へえ、シャレたことやるんだねえ」
蝶子が戻ってきた。「これ!」アルバムを見せる。
富子「ん?」
泰輔「はあ~、なかなかいい写真だねえ」
蝶子「うん!」
泰輔「なるほどねえ」
富子「事件て?」
邦子「チョッちゃんのこの写真が町の男子中学生や農学校の生徒の間に出回ったんです」
泰輔「チョッちゃん配ったの?」
蝶子「私は配らない」
邦子「犯人は写真屋のおじさんだったの。おじさんはね、この写真をショーウインドーに飾ったんです。それを見てた男子中学生たちや農学校の生徒たちは、おじさんにねだったの。おじさんは自分が撮った写真が気に入られたもんだから喜んで焼き増ししたっていうのが真相」
泰輔「な~んだ、それだけのことか…」
蝶子「先があるの」
邦子「真相を知った校長先生は高女の生徒の写真が人前にさらされるのは、けしからんと言って写真屋のおじさんに外すよう申し入れたんです。だけど、おじさんは頑として拒んだ。ね?」
蝶子「そう」
泰輔「ふ~ん」
邦子「チョッちゃんのお父さんが頼んでも嫌だって言ったのよね」
蝶子「うん」
富子「それでもめた?」
邦子「うん」
泰輔「う~ん」
蝶子「おじさん、私に言ったんだ。『この写真は自分の最高傑作』だって。いや、なんも自慢してるんでないんだよ」
泰輔「分かってる、うん」
蝶子「おじさん、しみじみしゃべったもね。写真の仕事始めて二十数年、そのうちで最高のもん出来たって。自信あるって。人前に出しても恥ずかしくないって。『校長先生が何と言おうと外さない。誰が何と言おうと外すもんでない』って、しゃべったもねえ。神谷先生には、そのこと話しに行っただけ」
邦子「何のために?」
蝶子「ん?」
富子「どうして、この話を?」
蝶子「だから、自分の仕事に誇りを持ち、ものを作るのに厳しくあるのは、いいなと思ったから」
邦子「どうして神谷先生に?」
泰輔「うん、そうだな」
蝶子「別に神谷先生じゃなくてもよかったのよ。この写真事件のことを知ってる人と話、したかっただけ」
富子「どうして?」
泰輔「うん」
蝶子「思い出したから」
邦子「わざわざ話しに行くほどかな?」
泰輔「そうだな、うん」
蝶子「話、したかったんだもん」
富子「どうして?」
蝶子「だから…つまり…そういうことってあるじゃない!」
泰輔「よく分からないな」
蝶子「別に分からなくてもいいのよ!」スイカにかぶりつく。
富子「食べよう、食べよう」
泰輔「食べて、食べて。ね!」
<ま、誰にも分かりますまいね。チョッちゃんの中では、その、岩見沢の写真屋・斉藤源吉さんが自分の作品に執着した姿と先日、自分のミスにも厳しい姿勢を示した岩崎要さんの姿が重なっていたのでした>
神谷先生も心配になっちゃったんだね。
⚟夢助「ただいま!」
富子「はい!」
⚟連平「勝手に上がらせてもらいますよ!」
富子「連平だ」
泰輔「あの声は酔ってるよ」
夢助の肩を借りて入って来た連平。「あ! ただいま帰りました。ハハハ、邦ちゃん!」
邦子「こんばんは」
連平「邦ちゃん、いててて…」畳に転がる。
泰輔「こら、酔っぱらい!」
富子「一緒だったの?」
夢助「もうね、愚痴をグチグチ聞かされてました」
泰輔「また、トーキーの話か?」
夢助「いや、そんなこっちゃないんですよ」
連平「女に振られやした~!」
泰輔「振られたって」
富子「あら、また?」
連平「また?」
富子「またまただっけ?」
泰輔「ハハハハ」
夢助「いっただっきや~す!」ちゃぶ台の上のスイカに手を伸ばす。
連平「ちょっと夢助、起こして」
泰輔「何だい?」泰輔と夢助が連平の体を起こす。
連平「若いお二人さんに伺いますがね、連平さんは、そんなに魅力ありませんか?」
顔を見合わせる邦子と蝶子。
連平「正直に言って!」
邦子「魅力っていうのは、ちょっと分かんないけど…」
蝶子「ああ…いい人よね」
邦子「そうそう」
連平「みんな、そう言うの。数多い女友達は、みんな、そう言うの」
邦子「多いの?」
泰輔「数だけはね」
連平「うるさいよ、おじさん。でね、口説きにかかるとね、笑うの。『冗談でしょ』って。どうして?」
富子「あんたは友達向きなんだよ」
泰輔「第一、しゃべり過ぎんだよ。男はね、しゃべり過ぎると軽く見られるの。女にね、頼りなく見られるの。そりゃあ、連平君。君の周りには女の人、たくさんいるよ。君は人はいいし、女は安心する。楽しいしさ」
富子「うん、そうね。けど、女には、それだけの男じゃねえ」
泰輔「そうそう」
連平「じゃ、どうしたらいいんですか!?」
泰輔「さあね…」
蝶子「連平さんは、ちょっと自分の仕事に対して甘いとこ、あんじゃないかな」
驚く連平、泰輔、富子。
蝶子「厳しい態度で臨んでいないんじゃないかな。男の人が自分の仕事に対して厳しく挑む姿を見たら女の人は見直すと思うのよ」
連平「きついな、チョッちゃんは…」
蝶子「だけど、そんなもんよ」
2人の奥でうなずく夢助。
連平「あのね、活動がトーキーになろうかっていうさなかにね、楽士として厳しい態度なんて無理! 毎日、諦めとね、不安と、やるせなさの中で仕事してんだぞ!」
蝶子「だから、そういう状況に打ち勝つぐらいの精神力を持ってこそ男の魅力は出てくるんじゃないかな」
蝶子の周りの人たちは蝶子の変化に何となく気付く!?
練習場
坂上「おい、これから、みんなでカフェ行くけど来ないか? 嫌?」
蝶子「行きます」
驚く要。
蝶子「行くよね?」
益江「…うん」
原田「北山君がさ、俺たちの誘い断んなかったの初めてなんじゃない?」
坂上「あ、そう」
カフェ泉
店で流れているのは「モン・パリ」かな?
いと「カジノフォーリーって?」
坂上「レビューだよ、レビュー。あの浅草の水族館で見たの」
原田「エノケンだろ?」
坂上「そうそう、そうそう…」
千代「レビューって、どんなものですか?」
坂上「あのね、女たちがね、腕もあらわに、もう太もももあらわにズンタカ、ズンタカ、ズンタカ、ズンタカ踊ってるわけだ」
益江「私、今度、それ見に行きたい!」
坂上「連れてってやるよ」
千代・いと「私も!」
坂上「行こ、行こ! みんなであちこち見物してさ」
原田「そりゃいい。いつがいいかな?」
坂上 要 千代 益江
原田 〇 〇 蝶子
いと
〇がテーブルとして、テーブル2脚に男女分かれて座っている。
さりげなく立ち上がる要。
坂上「何?」
要「ちょっと用事だ」
原田「あれ、北山君、静かだね」
蝶子「すいません」要を気にしつつ、ソーダ水を飲む。
坂上「君たちさ、野球っていうの見たことある?」
千代「いいえ」
坂上「ない?」
益江「ある?」
蝶子「ない」
坂上「ないだろうなあ」
席に戻った要。「何の話だ?」
原田「あ、早慶戦?」
坂上「あ、そうけ?」
原田が笑う。
河本「蝶子さん、ちょっと」
マスターに呼ばれて席を立った蝶子。「何ですか?」
河本「岩崎さんからの伝言。ここを出たあと8丁目のビアホールの前で待ってるからって」
手慣れてるな~。
夜の公園…多分、この前と同じところ。
要「何かこそこそ呼び出して悪かったね」
蝶子「いえ」
要「この前も悪かった。練習の時、トランペットの坂上ともめた時だ」
蝶子「はい」
要「声を荒げて悪かった」
うなずく蝶子。
要「あれはね、なにも女が口を出すなということではないんだ」
蝶子「はい」
要「うん…どういうかな…坂上が言うのも分かってたんだ。みんな疲れてたしね。俺は間違ったことを言ったとは思っとらん。ただね…僕はどうも音楽のこととなると、ゆとりがなくなるんだな。分かってるんだ。分かっていながら、もう、歯止めがきかなくなるんだ。だんだんイライラしてくる。自分に腹が立ってくるんだ。この前、君をどなったのは僕の八つ当たりだった。すまない」
蝶子「いえ…」
沈黙…
要「あの…それから…」
蝶子「はい」
要「ずっと前、君に言ってた、例の…君とつきあいたいという件だ。あ、返事を聞きたい」
蝶子「はっ?」
要「どうだ?」
蝶子「はあ」
要「嫌かね?」
蝶子「いいえ、あの」
要「ん? 何?」
蝶子「何が…」
要「え、何の?」
蝶子「北海道の岩見沢に斉藤源吉という写真屋さんがいます! 私の同級生だった峰ちゃんのお父さんです。この人は写真のことが好きで好きで自分がいいなと思ったものは誰が何と言おうと説を曲げません。自分の仕事に誇りを持ってるからで、私は、この人をとてもいいなと思ってます!…以上です!」
要「はい!」
蝶子「失礼します!」去っていった。
ため息をつく要。
♬~(レコード「チゴイネルワイゼン」)
部屋でソファに寝っ転がってレコードを聴いている要。口に鉛筆!?
連平「ごめん、遅くなっちゃって」
要「連平!」
連平「ん?」
要「ちょっと来い。座って!」ソファの前のテーブルに座らせる。
連平「何よ?」
要「俺はな…北山蝶子と結婚することにした!」
連平「え?」
要「うん、ついてはな…お前にその…」せきばらいする。「いろいろと力を貸してもらいたい」
蝶子の部屋
蝶子「わ~っ、ちょっ、向こう行って! うわ~、うわ~、あ~っ!」
<そのころ、チョッちゃんは…ゴキブリを追いかけていました>
ほ、本物…
悲鳴を上げながらもハエ叩きで叩く蝶子だった。(つづく)
昭和ってさあ、こういうことがあるんだよ。本物のゴ…とかネズミとかさ…
「岸壁の母」では”アブラムシ”と呼ばれていた。70年代までは説明なしで”アブラムシ”でもある程度通じたんだろうな。戦前のゴ…の言い方。「岸壁の母」だって本物が出てきたし、しかも、子供が手に乗せてた(!)。
朝ドラや昼ドラで本物を写す恐ろしい時代があったんだよ…
2日連続出演の笹野高史さん。そういや、「はね駒」にも1話だけ警官として出てた。「はね駒」も「チョッちゃん」同様、あの人がこんなちょい役で!?みたいなのが多かった印象。
全く関係ないけど、チバテレビであさってから「記念樹」の再放送が始まるらしい。うらやましすぎ! 「喜びも悲しみも幾年月」「二人の星」と順番に木下恵介劇場を放送していたから、やるだろうとは思っていたけど…いいなあ。

