NHK 1987年6月8日(月)
あらすじ
岩崎要(世良公則)から突然の告白を受けた蝶子(古村比呂)は、椿姫の公演中も岩崎のことが気になって仕方がない。岩崎も、自分から女性に想いを赤裸々に語ったのは初めてのことで、ふたりの間には、なんとも気まずい雰囲気が漂っていた。国松連平(春風亭小朝)の誘いでカフェに行くことになった蝶子は、そこで思いがけず岩崎と同席することに。まったく話そうとしないふたりの関係を、連平はしきりと怪しむのだが…
2025.5.26 NHKBS録画
脚本:金子成人
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音楽:坂田晃一
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語り:西田敏行
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演奏:新室内楽協会
テーマ演奏:東京フィルハーモニー交響楽団
指揮:円光寺雅彦
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考証:小野一成
タイトル画:安野光雅
方言指導:曽川留三子
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バイオリン指導:磯恒男
黒柳紀明
歌唱指導:浜中康子
指揮指導:岡本和之
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北山蝶子:古村比呂…字幕黄色
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岩崎要:世良公則
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国松連平:春風亭小朝
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河本:梅津栄
木村益江:山下智子
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浜田千代:岩下雪
原田:杉崎昭彦
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佐山いと:横田早苗
楽団員:山中一徳
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楽団員:コンセールパイン
鳳プロ
早川プロ
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野々村富子:佐藤オリエ
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野々村泰輔:前田吟
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制作:小林猛
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演出:榎戸崇泰
日比谷公会堂に下がる垂れ幕
椿姫東都歌劇團公演
<昭和5年7月です。チョッちゃんがコーラスガールとして出演している歌劇「椿姫」の公演が続いています>
ポスターが大写しになる(右書きですが読みやすいように左書きにしてます)。
東都歌劇團公演
六月二十六日カラ七月五日マデ
ヴェルディ作曲
LA TRAVIATA
椿姫
出演者
藤森 義美
山田 茂子
三川 友子
内海 洋一
小林 榮
中央交響樂團
指 揮
篠田 正男
演 出
内田 敬三
舞台装置
三田亮太郎
御観𭄏料
五圓
三圓
一圓
日比谷公會堂
<数日前の事でした>
カフェ泉
立ち上がった蝶子の左手をつかむ要。
蝶子「女の人とも随分派手だっていうし、私、そういう男の人、嫌なんです!」
要「いや、今、つきあってる女たちとは、すぐ切れるから!」
驚く蝶子。
要「これからは…君一人とつきあいたい」
ハッとする蝶子。
前回のシーンだけど、微妙に違うようにも思う。
<その夜、チョッちゃんは初めて、あからさまに恋の告白をされたのです>
このシーン、マスターの河本もいないし、もう一度、同じシーンを撮影したのかも。
舞台裏…楽屋口?とでもいうのかな、廊下。舞台衣装のドレスで千代たちと話していた蝶子は廊下の奥から要が歩いてきたことに気付く。
<チョッちゃんは要さんを意識していました。異性としてというより、先日の話し合いのこだわりを引きずっていたのです>
蝶子に声もかけずに通り過ぎていく要。
<それは、要さんも同じでした。チョッちゃんに交際を申し込んだ、あの夜、要さんは自分の心情を告白していました。女の人に、あんなに心情をさらしたのは初めてのことでした>
バイオリンの稽古をする要。
楽屋口
要「お疲れさまでした!」
「お疲れさま」
数人の仲間たちと話している要を、舞台が終わり、着替えた蝶子が見つけた。要と目が合い、下を向いてしまう。
<要さんもチョッちゃんに心情を見せてしまって、かえって意識してしまったようです>
蝶子「益江さん、まだ?」
⚟益江「はい、今すぐ!」
原田「おい、岩崎、帰り、どっか行くか?」
要「ああ」
楽団員「クロネコ辺り、どう?」
要「おう、いいね!」蝶子が、いとと益江を待っているところをチラ見。
「ごめんね、遅くなって。お待たせしました。髪の毛でてこずっちゃって」←このセリフ、益江かと思ったけど、楽屋から出てきた女の人だった。
要「これからね、あの、銀座行くんだけど一緒に行く人? どうする?」
女「はい!」手を上げる。
女「行きます、はい!」
原田「よ~し、行こ行こ!」
女「うれしい~! 久しぶりなんです!」
要「よし、じゃ、行こう」女性の肩をポンと触り、去っていった。
ツンと横を向く蝶子。
野々村家
豚の蚊取り線香入れのアップ。
ドラマのは素焼きで、もっと素朴な感じ。
泰輔が縁側に寝っ転がって歌っている。
♬宵やみ せまれば
悩みは涯(はて)なし
みだるる心に
大正末期~昭和初期の流行歌で、昭和36/1961年にフランク永井さんが歌ってリバイバルヒット。
テンポとかも全然違う曲だね~。何よりフランク永井さんの声が色っぽい。
昭和36年にヒットした曲を昭和44年の紅白でも歌ってたんだよね。何回流行るんだ。
⚟蝶子「ただいま!」
泰輔「お帰り! おい、チョッちゃん、帰ったぞ!」
⚟富子「聞こえた!」
蝶子「ただいま」まっすぐ縁側へ。
泰輔「お帰り。今、叔母さんね、スイカ、切ってっから」
蝶子「ふ~ん」風鈴に息を吹きかける。
茶の間
富子「お帰り」
蝶子「ただいま」茶の間に戻る。
泰輔「今まで井戸につけといたからね、よ~く冷えてるよ」
富子「チョッちゃんは食事したあとかい?」
蝶子「でも、入る」
富子「うん!」
泰輔「じゃ、食べろ」
富子「はいはい」
蝶子「いただきま~す」
泰輔「いただきま~す」
蝶子「おいしい!」
泰輔「うん、うまい」
富子「どうしたんだろうね? 頼介君」
泰輔「ああ」
蝶子「安乃ちゃんにも連絡ないみたい」
富子「どこ行っちゃったんだろうねえ」
せきこんで、首の後ろを叩く泰輔。「あ~」
富子「汚いねえ」
泰輔「気管に種入りやがった、クソ!」
元気のない蝶子。
富子「疲れた?」
蝶子「ううん」スイカを食べるのをやめ、ぼんやり。
泰輔「どうした?」
スイカを皿の上に置く蝶子。「男の人について質問があるの」
せきばらいする泰輔。
富子「男?」
うなずく蝶子。
泰輔「あの…男の、男かい?」
蝶子「そう」
富子「そ…そういう人、チョッちゃん、いるの? つきあってる…男」
蝶子「私? あ~、いない、いない、いない…益江さん。ほれ、友達の益江さんが私に相談するもんだから」
泰輔「な~んだ、なるほどね」
富子「益江ちゃんがどうしたのさ?」
蝶子「益江さんね、ある男の人に交際申し込まれたんだって」
富子「ふ~ん」
蝶子「で、その男の人、益江さんに『君は今までつきあってきた女とは違う』って言ったのよ。『新鮮だ』みたいなこと」
泰輔「それね、男がよく使う手」
蝶子「ホント!?」
うなずく泰輔。
富子「続けて」
蝶子「ところがね、その男の人、本人の…益江さんのいる目の前で、ほかの女の人をカフェに誘ったりするのよ」
富子「ふ~ん」
蝶子「ねえ、これは、どういうこと? どう考えたらいいの? あ、益江さん、私にそう言うのよ」
富子「うん」
泰輔「なるほどね」
富子「益江ちゃんさ、その~、申し込まれて返事した?」
蝶子「う~ん…してない」富子、泰輔の背中越しにカメラがあり、蝶子の顔に寄る。
富子「益江ちゃん、その人のこと、どう思ってんの?」
蝶子「う~ん…ハッキリしてない」さらにカメラが寄る。
富子「迷ってる?」
蝶子「う~ん…迷うまでいかない。戸惑ってるだけ」さらに寄る。
泰輔「う~ん、何だかいけすかない野郎だなあ」
富子「どうして?」
泰輔「だってさ、益江ちゃんの目の前で、ほかの女に声かけんだろ?」
富子「うん」
泰輔「女に交際を申し込んで色よい返事をもらえない時、男はね、急に強がんだよ。『お前なんかね、断られたって、俺は平気だ。ほかに女はいっぱいいる』って見せつけるんだよ。だけど、その男、何かしゃっきりしないね」
富子「かわいいじゃない?」
泰輔「何で…何でだよ?」
富子「益江ちゃんを試してんだよ。いや、試すっていうか、本人、目の前にして、てれて、つい、ほら、思ってもいないことしてしまうってこと、あるじゃないか。ほかの女の人、カフェに誘いながら、ホントは益江ちゃんに一緒に来てほしかった。そうは言えない男のてれ。フフン、その人、案外、初心(うぶ)なのかもしれないねえ」
首をかしげる蝶子。
泰輔「そうなの?」
蝶子「ん?」
泰輔「チョッちゃんさ、その男の人、知ってんの?」
蝶子「ううん、知らない、全然」
泰輔「話にも聞いたことない?」
蝶子「話は少し」
泰輔「うん」
蝶子「その人ね、女の人には随分モテるみたいなのよ」
富子「初心な人だもの、モテるわよ」
蝶子「女の人にだらしないっていう噂もあるのよ」
富子「岩崎要みたいに?」
首をかしげる蝶子。
泰輔「いやいや、要さんのは、そういうだらしないあれじゃなくてさ」
富子「じゃ、何なのさ?」
泰輔「女の人に冷たくできないんだ。だから、ずるずると変なことしょい込むんだよ」
富子「カッコつけてんだよ。八方美人なんだよ。いいかげんなんだよ」
泰輔「そうか?」
富子「そうだよ!」
蝶子が立ち上がる。
泰輔「あ?」
蝶子「着替えてくる」
要の名前が出た途端、評価が反転するのが面白い。それにしても、水分の多いスイカを食べながらのお芝居って大変そう。
楽屋口
連平「よう!」
蝶子「連平さん!」
益江「こんばんは!」
連平「見ましたよ、お二人」
蝶子「来てたの?」
連平「うん。ねえ、これからちょっとつきあわない?」
蝶子「はいはい! 私、おなかすいた!」
連平「そうでしょ?」
益江「私、今日は帰る」
蝶子「あ、そ~う?」
連平「残念だねえ」
益江「また」
連平「そう?」
益江が会釈して去っていった。
連平「お疲れさん!」
蝶子「どこ行こう?」
連平「どこ行こうかね?」
蝶子「食べたいものがあるんだ。何にする?」
連平「あ、来た来た」
蝶子「ん?」
要が連平に気付いて近づいてきた。
蝶子「一緒?」
連平「そうだよ」
要「お待たせ」
連平「よう!」
要「泉にでも行こうか?」
連平「チョッちゃん、腹減ってるみたいだからさ、食事のできるとこがいいな」
要「そうか」
蝶子「いえ、いいです。泉でいいです」
連平「けど…」
蝶子「それほど、おなかすいてるってわけじゃないから」
カフェ泉
店員「いらっしゃいませ」
この間と同じ席に連平が座った。連平の向かいに要、2人の間に蝶子が座る。
河本「いらっしゃい」
要「どうも」
連平「久しぶりだねえ」
河本「ホントですね」
連平「2人は知ってるよね?」
河本「ええ、よく…」
連平「一緒に来たりするの?」
河本「いや、あの、何て言うか…」
蝶子「みんなと一緒だったり、別々だったり」
河本「そうですね」
連平「要さん、何にする?」
要「ああ、じゃ、コーヒーとケーキを」
河本「はい」
連平「あたしも同じもの」
河本「はい」
連平「それから、チョッちゃんおなかすいてるみたいだから何か作ってあげて…」
河本「分かりました」
蝶子「すいません」
河本は顔の前で手を振って去っていった。
連平「だけどさ、オペラなんて何年ぶりだろ」
要「うん」
連平「同じデパートの音楽部にいた、あたしと要さんなのにねえ。片方はオーケストラのメンバー、あたしの方は活動の楽士。何がこんなに違ったんだろうねえ。才能かな」
要「さあな」
連平「努力だね? 努力、努力…」
蝶子「才能でなく?」
ちょっとピリついた空気になる。
蝶子「いや、なんも、そういう意味じゃなく…すいません」
連平「いいよ、もう。ウソだよ、怒ってないよ」
下を向いてはにかむ蝶子。
連平「で、どう? チョッちゃん。初めての公演の感想は?」
蝶子「夢中でやってるだけだから」
連平「夢中、結構だね。夢中になるぐらいのひたむきさがあったらね。あたしもひとかどのバイオリニストに…手遅れかなあ。要さん」
要「ん?」
連平「チョッちゃん、どうよ?」
要「うん、まあ、悪くはないな」
連平「それだけ?」
蝶子「私は、その他大勢だもの」
連平「もっとほかに言いようがあるでしょ?」
要「その他大勢でも、よくない時には、よくないと言うよ」
蝶子「はい」
河本「お待たせしました」ケーキとコーヒーを2人前運んできた。「食べるものもすぐにね」
蝶子「あ、すいません」
連平「で、公演中は、あれ? 2人で会ったりするの?」
要「いや…あんまりな」
蝶子「ほとんど」
連平「どうして?」
要「何が?」
連平「だって…」
蝶子「何?」
連平「いや…」
蝶子「私たちがどうして会ったりしなくちゃいけないの?」
連平「なにも、どうしてって…」
蝶子「私には私の友達いるんだし」
連平「あ、そう」
要「そうだ」
河本「お待たせ」
蝶子「すいません」
河本「はい、どうぞ」
蝶子「いただきます」サンドイッチを口に入れる。
蝶子と要の顔を代わる代わる見ていた連平。「それならそうって言ってくれればいいじゃない。あたしがいたら邪魔だったらね、そういうふうに言ってくれれば、こんな不粋なマネしないんだから」
要「何を言ってるんだ?」
連平「あたしがいない方がいいんでしょ?」
蝶子「いて!」立ち上がろうとした連平の肩をつかむ。
要「いろよ!」
連平「ホント?」
蝶子「ホントよ」
要「人を誘っておいて、先に帰るという法は、ないだろう」
連平「だってね…!」
蝶子「何?」
連平「変だもん」
要「何が?」
連平「2人」
顔を見合わせる蝶子と要。
連平「さっきから…2人、口きかないしさ。変なんだよ、どうかしたの?」
要「何も…」
蝶子「別に」
シンクロして
蝶子「疲れてんのよ」
要「疲れてんだよ」
連平「あ、そう!」立ち上がろうとする。
蝶子「どこ行くの?」また連平の肩をつかむ。
連平「厠!」
要「我慢しろ、我慢!」
連平「え!?」
蝶子「座って!」
連平「ちょっと、どうしたの? 2人とも」
要はケーキを食べ、蝶子はサンドイッチを食べる。
<歌劇「椿姫」の公演が今日で終わりました>
楽屋口
蝶子「皆さん、お疲れさまでした!」
「お疲れさまでした~!」
階段を降りてきた要。「北山君!」
蝶子「お疲れさまでした」
要「君…」
蝶子「はい」
要「来月は何かやるのか?」
蝶子「『蝶々夫人』を」
要「うん、そうか…俺もだ」階段を引き返していく。
蝶子のそばに来た益江。「何?」
蝶子「ううん」
<要さんとは、よくよく縁があるようだね、チョッちゃん>(つづく)
ドキドキしちゃうね☆
今日、カフェ泉で流れてた曲は、さすがに分からなかった。セリフをしゃべってるバックで流れるBGMは、さすがに難しいみたい。


