NHK 1987年5月15日(金)
あらすじ
蝶子(古村比呂)の親友・邦子が好きな人の元へ行く、と書置きを残して家出をした。邦子の母・久子(寺田路恵)は娘の行き先に心当たりはないかと、蝶子に尋ねるが、邦子の想いを知る蝶子はうまく答えることができない。一方、田所呉服屋の娘が家を飛び出したという噂はあっという間に街に広がる。それを聞いた父・俊道(佐藤慶)は、蝶子も家出するのでは、と心配になり、もう一度蝶子と話し合うのだが…
2025.5.2 NHKBS録画
脚本:金子成人
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音楽:坂田晃一
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語り:西田敏行
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北山蝶子:古村比呂…字幕黄色
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北山みさ:由紀さおり
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彦坂頼介:杉本哲太
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石沢嘉一:レオナルド熊
田所久子:寺田路恵
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山本たみ:立原ちえみ
高畑品子:大滝久美
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北山俊介:伊藤環
彦坂公次:中垣克麻
早川プロ
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北山俊道:佐藤慶
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野々村泰輔:川谷拓三
<チョッちゃんが滝川に来た神谷先生と会った、その翌日です>
北山家
久子「邦子が家出したんだわ」
蝶子「家出って!?」みさと顔を見合わせる。
久子「書き置き残していなくなってるんだわ」
書き置きを読むみさ。「『勝手をしてすみません。好きな人の所へ行きます。心配しないでください』」
ハッとする蝶子。
久子「チョッちゃん、知ってるかい?」
蝶子「いいえ」
久子「好きな人って誰だか知らないかい?」
首を横に振る蝶子。
みさ「邦ちゃんとは一番の親友だったでない?」
久子「心当たりもないんかい?」
蝶子「ないんだわ」
玄関に座り込んでしまう久子。
みさ「あ…奥さん」
久子「どこ行ったんだ…そんな相手いたことも何も…」
みさ「お母さんの方に心当たりは?」
久子「あ、そういえば…この前から、あの子、時々、岩見沢に行ってた」
みさ「蝶ちゃん…」
久子「チョッちゃんば口実にして変だとは思ってたんだ」
部屋に戻った蝶子。「家出か…」
邦子がカメラに向かってビンタ!
蝶子は文机の引き出しから神谷先生からもらったメモを見る。
札幌市南三十条西五丁目
四番地
神谷 容
<どうするの? チョッちゃん。邦子のお母さんに教えなくていいのかな?>
メモを持って、部屋を出ようとした蝶子だったが…「ああ、分からない!」と座り込んでしまう。
<チョッちゃんは邦子の母親と邦子の情熱のはざまで困り果ててしまいました>
北山医院待合室
<邦子の家出の話は、あっという間に広がりました>
石沢「田所呉服屋の娘、チョッちゃんの親友かい?」
品子「いやいや、昨日、お母さん、ここに来て『どこ行ったか知らないか』って言うんだわ」
石沢「それで?」
品子「蝶子さんは知らないって」
男「あら~」
石沢「それで?」
品子「邦子ちゃん、書き置き残していなくなったんだわ」
石沢「何て書いてあった?」
品子「『好きな人の所へ行きます』って」
石沢「あいやいやいやいや…そうかい!」
聞き耳を立てる頼介。
蝶子「やっぱりおじさんの声かい」
石沢「ああ、チョッちゃん」
蝶子「頼介君も。したら」
石沢「おお、ちょっ、ちょっ、ちょっ、チョッちゃん、ちょっと」座らせる。「田所呉服屋の娘、チョッちゃんと仲良しだって?」
蝶子「うん」
石沢「相手、ホントに知らんのかい?」
うなずく蝶子。
品子「『好きな人の所へ行きます』か…うらやましい」
男「ハハハハ! 品子さんには、そういう相手いないんかい?」
石沢「いないから、うらやましいんだべ」
品子「ああ、やるせない恋ばしてみたいもんだわ」
石沢「いや、それは無理…」
品子「ん? 私には、できないってかい?」
石沢「なんも、なんも、なんも!」
⚟俊道「後は誰だ?」
品子「あ、公次君、呼びに来たんだわ」
公次「はい!」
品子「早く、早く」
蝶子「え?」
石沢「いや、いいんだ」
聞き耳を立てる頼介。
蝶子「何さ?」
石沢「いやいや、いやいやいや」
茶の間
たみ「いやいや、八百屋のおじさんも米屋のおじさんも邦子さんの話ばっかりだもね!」
みさ「そう」
俊道「診察に来る人来る人、そうだ」
たみ「近頃まれに見る快挙だもね!」
俊道「ああいうことば快挙っていうんかい?」
たみ「してって、誰だかが女も行動する時が来たって感心してたもねえ!」
俊介「お菓子屋のおばさん?」
たみ「そうそう! フフフフッ」
みさ「へえ…」
俊道「何ば感心してるんだ。最近の若い女は恐ろしいだけだわ。何、考えてるか…蝶子は?」
みさ「あ、部屋にいるっしょ」
俊介「昨日からブツブツしゃべりながら考え事してるんだわ」
俊道がみさを見る。
みさ「え?」
俊道「蝶子とは、もういっぺん話した方がいいべな」
俊道の部屋
俊道「この前、お前はワシが反対しても勝手に東京に行くとしゃべったべや」
蝶子「はい」
俊道「家出してでも行くとしゃべった」
蝶子「はい」
俊道「したっけ、そういうことは許されるもんではない。そういうことをしでかしたら田所呉服の娘とおんなじだ。家の恥だ」
蝶子「邦ちゃんとは違うしょ!」
俊道「同じだ」
蝶子「邦ちゃんは黙って出てったけど、私は堂々と出ていくつもりしてるもん」
俊道「親が許してんきゃ家出とおんなじだわ」
蝶子「それが嫌なら許したらいいっしょ!」
俊道「お前は…お前は親を脅すんかい! お前は生まれた土地を離れるということがどういうことか分かってないわ。海を渡り、内地に行くということが、どんだけゆるくないことか分かってない。甘く考えてるわ」
蝶子「そうだべか?」
俊道「いや~、ワシが開業医として北海道に渡るという時は、もう決死の覚悟だったもね。明治38年だわ。『滝川で医者ば探してる。お前、行け』。おやじ様にそう言われた時は目の前が真っ暗になったもんだわ。仙台か故郷の山形で開業するべと決めてもいたんだ。したら、北の方へ行けって言うんでないか。想像もつかん土地へ1人で行く心細さは半端でないさ。親兄弟とは今生の別れのつもりで山形ば出たもんだ。青森へ着き、それから船で4時間。函館から、また延々と汽車。外国行ってるような気ぃしたもんな。もう二度と故郷には帰れんと思った。そういう思いばして山形ば出たんだ」
蝶子「したら…滝川に来たこと後悔してるんかい?」
俊道「なんもだ。そういうことをしゃべってるんでない。そういう思いまでして東京に行く性根があるかと問いかけているんだわ」
蝶子「したから何べんもあるってしゃべったしょ。滝川も東京も同じ日本だもん。津軽海峡の船も線路と考えたら東京まで一本の線路でつながってんだよ。大層に思うことないんでない? 違うかい?」
俊道「お前はどうだった?」
みさ「え?」
俊道「滝川のワシの所へ嫁に行くと決まった時は」
みさ「ああ…迷いました」
俊道「そうだべ」
蝶子「それは結婚をかい? 滝川行きをかい?」
俊道「何しゃべるんだ、お前は!」
蝶子「どっちさ?」
みさ「滝川行きの方だ」
俊道「そら迷うべ」
蝶子「なして決めたんさ?」
俊道「その先は、いい。思い迷ったということが分かればいい」
蝶子「なして決心したんさ?」
みさ「お父さんのお父さんにコソッと相談したんさ」
俊道「おやじ様にかい?」
みさ「はい。したら『北海道は、いいとこだ』って。『北海道は考古学の宝庫かもしれん』て。『石器時代の黒曜石の矢じりなんか落ちてるかもしれん』て。『みささん、そういうもんば拾ったら山形にも送ってもらいたいもんだ』って、じいちゃん、しゃべったんだ。『へえ、矢じりなんか拾うの、こりゃ面白いべな』と思って…で、まあ、こっち来る気になったんだ」
蝶子「したら、楽な気持ちで来たんだ」
みさ「うん」
俊道「したけど! したけど、女一人で東京へなど…」
蝶子「東京には道郎兄さんや泰輔叔父さんがいるっしょ」
俊道「したっけ!」
みさ「蝶ちゃん…」蝶子と目を合わせ、うなずく。
蝶子「したら…」頭を下げ、部屋を出ていく。
みさ「あのころとは、もう時代が…」
俊道「名前のせいだわ。『蝶子』という名前のせいだわ。蝶々の『蝶』。花ば見たら、すぐ飛ぶもな。ここにいたかと思ったら、もう次の花だもな。こんなちっちゃい時から、そういう子供だったもなあ」
みさ「お父さんが付けたんでないんですか」
俊道「お前さえ蝶子ば教会へ連れていかなきゃ…教会で賛美歌歌ったりしてたせいで音楽に…」
みさ「音楽いけないかい?」
俊道「音楽にさえ気が向かんかったら、こういうことには…」
みさ「お父さん、蝶ちゃんの目指す音楽っちゅうもんば確かめに行ってみないかい? 喫茶店にレコードば聴きに」
じろりと見る俊道。
<その翌日です>
みさと蝶子は旅館へ。
蝶子「叔父さん!」
泰輔「あ! ハハハハ、ハハハハ」
みさ「なして、旅館に?」
泰輔「う~ん…」
蝶子「なして、うちに来ないんさ?」
泰輔「うん、いや、ほら…あんまりこう度々行くと義兄(にい)さんにもいろいろ気ぃ遣わせるしさ。いや、それに明日、朝早い汽車だし、駅に近い方が何かとね。ハハハ…それだけ」
俊道に「そういう無神経な精神の持ち主には今後このうちには出入りをしてもらいたくないわ」って、言われたもねえ…とは言わない泰輔。
北山医院待合室
石沢「いや~、そうかい。チョッちゃん、そうまで言うんかい?」
うなずく俊道。
石沢「いや~、先生、潮時だ。子供だ、子供だと思っとったら、知らん間に大きくなっとったんだわ。『餌くれ、餌くれ』ってピーピー鳴いとったヒヨッコがいつの間にか大人の翼、持っとったんだな。そしたら、自分の力で飛びたくなるべや。うん。巣立ちだ! 巣立ち。先生。喜んでいいことでないかい。鳥かごん中でいつまでも飼っとこうと考えてたら、こら、うまくないわ。羽、バタバタさしたら、かごから出してやんなくちゃ。後はもう見守るしか親のすることはないもんねえ」
石沢さん、いいこと言うねえ。
旅館
蝶子「私はもう決めたんだ。父さんがあの調子だと何も始まるもんでないわ。いつまでも堂々巡りだわ」
泰輔「で?」
蝶子「説得なんかしないでも私は行く」
昆布をかじっている泰輔。「姉さん?」
みさ「うん…しかたないっしょ」
うなずく蝶子。
泰輔「よ~く分かった。あ、東京へ来てからのことは何も心配しないでいい。叔父さん夫婦がきっちり面倒見る」
蝶子「したら、叔父さんちに下宿してもいいんかい?」
泰輔「当たり前だ」
蝶子「よろしくお願いします!」
泰輔「うん」
みさ「ああ、したら、出発はいつ?」
蝶子「音楽学校のこともあるし、一日には出発したいわ」
昭和3/1928年4月1日は日曜日。
みさ「一日…明日あさって…しあさって!」
泰輔「荷物は早めに出しといた方がいいよ」
うなずく蝶子。
自室で荷物をまとめる蝶子。
<チョッちゃんの心は、もう東京に向かう線路をひた走っているようです>(つづく)
く…邦ちゃんはどうなったかなぁ!? 北海道篇も明日で終わりかな?
