公式あらすじ※初見の方、ネタバレ注意
元子(原日出子)と正道(鹿賀丈史)の子・大介(橘慎之介)もあちこち動き回るようになり、藍ガメに落ちて真っ青に染まり、宗俊(津川雅彦)やトシ江(宮本信子)は大忙し。ラジオの「君の名は」が大ヒットし、放送のある木曜日の夜には銭湯の女湯ががら空きになったり、テレビの本放送も始まるなど、時代は大きく進んでいた。そんな中、のぼる(有安多佳子)が電話で、一緒に民放のアナウンサーにカムバックしないかと言いだす。
4日ぶりの「本日は晴天なり」。続けてやってもいいだろうと今でも思う。オープニングで赤塚真人さんの役名表記が”藤井”から”祐介”になっていた。偶然だけど、祐介と大介の方が親子っぽい名前。
昭和28年 秋
昭和28年。ご覧ください。これが元子たちの大介君。かわいい盛りには違いないのですが、目の離せないいたずら盛りと言えるでしょう。
大介が生まれたのは昭和25年4月15日。裏庭をキックボード的なもので遊ぶ大介は3歳半くらいというわりに大きい気もする。
善吉「おいたは、しちゃいけねえよ」
彦造「坊やは、おいたなんかしてねえよ」
善吉「だからさ、おいたはしちゃいけねえよって言ったんで別になにもおいたをしてるって言ったわけじゃねえんだから」
彦造「ヘッ、人(しと)の子供に口出す暇(しま)があったら早(はえ)えところ、てめえでガキ作りゃいいんだよ」
善吉「そらねえよ。いくら子供が欲しいったってよ、こればっかりは天からの授かりもんでよ」
彦造「へへ。だったらさっさとかかあに芸者なんかやめさせるこったな」
善吉「彦さんよ、俺ぁやつにやらせたくてやらしてるわけじゃねえんだよ。やつが好きだって言うから…」
彦造「ヘヘヘヘ、体裁のいいこと言いやがって」
善吉「何だと?」
彦造「おふくろと女房、たった2人の女の操縦もできねえで、ヘッ、ちったあ男の甲斐性を見せたらどうなんだい。この意気地なしが」
善吉「ヘッ、やいてやがら」
彦造「何だと! おっとっとっとっと! あぶねえよ、大介坊や!」
大介がキックボードで突っ込む。
元子「大ちゃ~ん! 大ちゃ~ん、何してるの。おいたしたら駄目ですよ」
彦造「おう、いたずらなんかしてませんよ」
善吉「なぁ」
彦造「なあ、大介坊や。はい、ガラガラ、ガラガラガラ…」
笑い声
大原家
元子「すいませ~ん! 今すぐ行きますから!」
彦造「大丈夫ですよぉ。子供はクルクル、クルクル駆け回るのが商売なんだから」
元子「は~い!」
正道「仕事の邪魔になんないようによく言っておきなさいよ」
元子「邪魔ぐらいならいいんですけどね、この間なんか縁日で買ってきた亀を藍がめの中へ入れちゃったんですもの」
正道「えっ、亀を?」
元子「ええ。『これが本物の藍がめだ』なんて、彦さん、下手なシャレで笑ってたけれど藍は紺屋の命ですものね。お父さんに知れたらどうしようかと思ったわ」
正道「全く驚いた小僧だな」
元子「兄も順平も小さい時は相当いたずらがひどかったみたいだけど紺屋にとって大介のはそれ以上みたい。はい、ハンカチ」
正道「あっ、ありがとう」
元子「かばん」
正道「はい」
元子「お帰りは?」
正道「うん、そんなに遅くなんないつもりだよ」
元子「お忙しいとは思うんですけど、藤井さん、なるべく早く帰してやってくださいね」
正道「そっか。巳代ちゃん、もうそろそろだな」
元子「だから、私の二の舞はさせたくないんです」
正道「いろいろ気ぃ遣ってあげなさいね」
元子「はい。行ってらっしゃい」
正道「はい、行ってきます」
おなかの大きな巳代子を連れて藤井が歩いてくる。巳代子は実写版サザエさんみたいな感じに見える。
吉宗
藤井「おはようございます」←字幕テロップは”藤井”のままなのね。
巳代子「おはよう」
トシ江「ああ、おはよう。今日は何なの?」
巳代子「うん。お祭りの時にお煮しめなんかよそう、これくらいの大皿、あれ貸してほしいの」
トシ江「ああ、そりゃいいんだけど、まあ、あんたも好きねえ、おなか、そんなに大きくて」
巳代子「だって、子供が生まれてきてしまったら、そうはいろいろできないでしょう」
藤井「それにですね、好きなこと一生懸命やるのは胎教にいいそうですよ」
トシ江「胎教ねえ。私らの時は、そんなこと考えもしなかったわよ」
藤井「それにしてはきょうだいみんな、そろって出来がいいというのは、お義父(とう)さんとお義母(かあ)さんのもとがよっぽどよかったんですね」
トシ江「まあ、何言ってんですよ」
藤井「ハハハハ…」
巳代子「そのかわり、夜のおかずは当てにしてていいわよ。うんとおいしいもの作ってきますから」
トシ江「あぁあぁ。せいぜい当てにして待ってるわよ」
巳代子「はい」
正道「おはようございます」
藤井「おはようございます」
正道「お待ち遠さん」
藤井「広告の見本持たれました?」
正道「ああ、持ったよ」
藤井「そんじゃ、参りましょうか」
正道「どう? 調子は」
巳代子「もうおなかがすいてたまらないの」
藤井「そりゃしかたがないよ。母親は赤ん坊と2人分の栄養が必要なんだからね」
正道「あ~、そうか、そういうことか…」
巳代子「嫌だわ、お義兄(にい)さんったら、今頃、そんなことに感心して」
正道「ハハ…いや、僕がこうだからね、うちの会社には藤井君みたいに気の付く人がますますもって必要なんだよ」
藤井「ほらね」
巳代子「ハハハハ…はいはい。それじゃ、行ってらっしゃいませ」
藤井「それじゃ、行ってくるからね」
大介「お父さ~ん! テテテン」作業場に入って来た。
宗俊「おい!」
善吉「こら! ほらほら。そこら辺、走り回ってるんじゃねえよ、坊や」
大介「ピョン、ピョン、ピョン」藍がめの周りをジャンプする。「わあ~!」藍がめの中に落ちる。
宗俊「やったぁ!」
善吉「ほら! だから言わねえこっちゃねえんだから!」
彦造「湯だ、湯だ! 釜に湯が…」
元子「あ~…ごめんなさい!」
正道「本当にすみません!」
宗俊「早く脱がさねえとな、お前、おちんちんまで真っ黒になっちまう…」
善吉「ほら、お嬢、早く早く!」
正道「おい、大介!」
宗俊「真っ青になるのは俺一人でたくさんだ」大介を運ぶ。
裏庭
宗俊「よし…脱がして!」
善吉「全部きれいに脱がさないと駄目だ…」
元子「すいません。あれほど藍がめには近寄るなって言っといたんだけど」
正道「大介! 悪うございましたって、おじいちゃんに謝んなさい」
頭をペコっと下げる大介。後ろ姿だけど全裸にさせられてる。今はアウトだね。
宗俊「ハハハ、や~、いい子だいい子だ。なあ。お前、紺屋の息子ってのはな、一度や二度は、お前、かめに落ちちまうもんだ。おめえは紺屋の孫だからな。しかたねえんだ、よし」
トシ江「ねえちょっと風邪ひくから」
宗俊「おう…おらよっとっとっと。おう、いいから頭からぶっかけるからな。よし、おらぁ~」バケツの水をかぶった大介は両手をピーンと伸ばす。冷たかった?
トシ江「大介、もう、何でしょうね…」
元子「もう…めっ!」
紺屋の神様は愛染明王さんですが、さしずめこの大介は愛染小僧と言うべきでしょうか。
夜、大原家
布団で寝ている大介。元子はちゃぶ台で何か書いていたが、大介の布団をかけ直す。「あらら」
扉が開く。
巳代子「こんばんは」
元子「あっ」
巳代子「あれ、もう大ちゃん寝ちゃったの?」
元子「うん。夕方、はやばやと宗俊旦那にお風呂に連れてってもらってね。さっきごちそうさま。すごくおいしかったわ」
巳代子「アハハ、どうしたしまして。昨日、ラジオで聴いたんだけど、早速、作ってみたかったの」
元子「あんたもよくやるわねえ」
巳代子「だって、祐介さんがおいしい、おいしいって、そりゃ喜んで食べてくれるんですもの」
元子「まあ、ますますごちそうさまでした」
巳代子「アハハハハハ…。ねえ、今日、早くお湯屋に行かないと」
元子「あっ、そうよ、今日は木曜だったわね。じゃ、支度するからちょっと待ってて」
巳代子「うん」
はて、木曜日だと、どうしてお風呂へ早く行かなければならないんでしょうか。
宗俊が鼻歌を歌いながら帰ってきた。加齢を表すためか白髪の短髪ヅラになったのね。
吉宗
宗俊「おう、帰(けえ)ったよ」
トシ江「は~い」
桂木家茶の間
宗俊「え、そうか、元子は湯か。え。もう、あいつは物好きだからな、一番先に聞きたがるのに残念だな」
トシ江「いいじゃありませんか。そのかわり私がね、代わりに聞いておきますから」
宗俊「あ~、そりゃ駄目だ。あればっかりはな、おめえ、ちゃんと見たもんじゃなきゃ話せねえんだから、いい。もう一度な、俺が後でちゃんと聞かしてやるから」
善吉「で、どんなあんばいだったんですい?」
宗俊「おう、ちゃんとな、顔が写って声も聞こえた」
善吉「へえ~」
彦造「けど、どうしても私にゃ分かんねえんですよね。そりゃラジオはね、飛んでくる声をこのアンテナがとっ捕まえて、スイッチひねりゃ聞こえてくるってのは分かりますよ。けど、人間の顔や姿がどうして飛んでくるのか、そこんとこがどうしても分かんないね」
宗俊「だからおめえ、顔や姿がな、電波を通じて飛んでくるんだ」
善吉「いえね、さっきから彦さんと話してたんですけどもね、声ってのは、まあ、目で見えやせんからね、電波に乗って飛んでくるってのは、こりゃ不思議じゃありませんがね、どうも顔っていうことになるとねえ」
トシ江「やっぱりこういう空中を鼻や眉毛、バラバラになって飛んでくるのかしら?」
宗俊「そんな詳しいこと俺が知るかい。とにかくつまりだな、放送局でよ、役者の顔をカメラが写すだろ。な。それでおめえ、その役者の顔がカメラを通ってだな、電線を伝わって…」
トシ江「ねえ、それなんですよ。電線っていうのは、こう、こんなに細いもんなんでしょう。この細い中にどうして人間の顔や姿、こん中へ入っちまうんだかね?」
デンセンマンの前で電線、電線…リアルタイムで見たことないけどね。
宗俊「とにかくそういう仕組みになってんだから、しかたねえじゃねえか! つまりだな、おめえ、そういう一本の糸みてえに顔や眉毛や口がこう入(へえ)っていくわけだな。それがおめえテレビジョンの箱の中にだな、それがおめえ、顔や眉毛を元のとおりに戻す機械が入ってるわけだ。だからおめえ、画面にそれがちゃんと出てくるとこういうわけだ」
彦造「けど、内幸町からここへ来るまでの間に送られてくる行列がこう狂っちまうってなことは、ねえんでしょうかね」
宗俊「何だい、その行列ってのは」
善吉「いや、ですからね、まあ、このテレビジョンの箱の中でその耳や目があべこべに組み立てられるっていうようなことは、ねえんでしょうね」
宗俊「知るかい! 俺がそんなこと。とにかくな、ラジオと同じようにスイッチをひねりゃ歌舞伎だってお前、落語だってよ、え、そのまま姿ごと、そっくり見られんだ」
トシ江「それじゃあ、活動写真みたいじゃありませんか」
宗俊「そうだよ。な。だからおめえ、ところが活動写真ってのはな、映画館へ行かなきゃ見られねえ。ところがテレビジョンってのは、うちにいながらスイッチをひねりゃいつだって見られるんだ」
彦造「そのかわりこっちの様子が放送局に知られるってことはねえんでしょうね」
宗俊「何だと?」
善吉「いやですからつまり、電気ってのはこの逆流ってことがあるでしょう」
宗俊「ぶん殴るぞ、てめえ! 人の話をちゃかしやがって、この野郎! よし、てめえだけにはな、テレビジョン買っても絶対見せてやらねえからな、おめえ」
トシ江「何言ってんですか、もう。暮れを控(しか)えて、そんなお金遊んでるわけないでしょう。一体何様だと思ってんのかしら」
宗俊「バカ野郎! お前、金なんてものは物を買うためにあるんじゃねえか。人間はそのために働くんだ。なあ」
トシ江「まあねえ、そりゃそうですけどね」
宗俊「おい、そんなこと言ってんならお茶だ、お茶だ」
トシ江「はいはい」
宗俊「あ~、酒だ。酒にしとく」
トシ江「はいはい」
善吉「あっ、そんじゃ、あっしはこれで」
宗俊「バカ野郎! まだ話は残ってんだ。聞け聞け。座れ座れ座れ。食え食え、食え食え」
善吉「へえ」
宗俊「お前たちはな…」
そうです。この年の2月からNHKが8月から日本テレビがテレビの本放送を始めたのでした。
2023年2月1日で放送開始70年。じゃ、今日の話は70年前の話か。
元子・巳代子「ただいま」
宗俊「おうおうおう、おめえたちもちょうどいい。こっちへ来て聞きな」
元子「私ならうちへ帰ってから聞くわ」
宗俊「何だと?」
巳代子「ほら、間に合うように帰ってきたのに、早くスイッチ、スイッチ」
トシ江「あ~、今日は木曜日だったね」
善吉「あっ、そう…」
ラジオから「君の名は」が流れる。
トシ江や巳代子は目をつぶってラジオに聞き入る。
ラジオ「忘却とは忘れ去ることなり。忘れ得ずして忘却を誓(ちこ)う心の悲しさよ」
27年4月から始まった菊田一夫 作「君の名は」。この年、映画にもなって人気は一層高まり、木曜夜8時半ともなると銭湯の女湯は、がら空きになるほど婦人層の心をしっかりと捉えました。
ラジオ「真知子は青森から青函連絡船に乗ると春樹の待つ北海道へ向かった」
元子はラジオを聴きながら、書き起こし? 感想を書いている?
戸が開く音
正道「ただいま」
元子「あっ、お帰りなさい。お帰りなさい」
正道「はい」
元子「すぐ食事の支度しますからね」
正道「ああ、済ませてきた」
元子「あら、藤井さんも?」
正道「うん、一緒だったからね」
元子「じゃあ、巳代子ががっかりするわ」
正道「えっ?」
元子「あの子、今日ね、とってもおいしい中華料理作ったんですよ。春巻きっていうんですって。まるで本職みたいに上手に出来たんですから」
正道「あっ、そう。じゃあ、それだけ頂こうかな」
元子「はい。それじゃ、お湯はそれからになさいます?」
正道「そうだね」
元子「はい」
正道「あれ? まだ藍がついてるじゃないか」大介の寝顔を見る。
元子「そりゃ何たって本染めですもの」
正道「本染め? あ~、ハハ。そうかそうか。おっ、やってるな」
元子「やってるっていってもね、大介が寝てからじゃないとグチャグチャにされてしまうし、やっぱり放送劇は難しいわ」
正道「いや、そりゃ最初からね、『君の名は』みたいに書こうって思ったって、そりゃ無理だよ」
元子「ええ」
正道「でも好きで書いてれば、そのうち採用されるかもしれないしな」
元子「放送劇は無理としても、まあ取次店へのチラシと雑誌の編集後記ぐらいはおかげさまでなんとか」
正道「奥方様の内助の功。亭主はただただ感謝しております」
元子「うわぁ、何だか山内一豊の妻になった気分」
正道「うまい」←春巻き
元子「まあ」
笑い声
大介「う~ん」寝返りを打って布団がはだける。
元子「あらあら、もう」
トシ江「こんばんは」
戸が開く音
トシ江「あっ、お帰りなさい。ねえ元子、のぼるさんから電話だよ」
元子「はい! じゃあすいません、ちょっと」
のぼる「あっ、もしもし? 私。こんな時間にごめんなさいね。うん、母もジョーも元気よ。もちろん花子も。ねえ、そんなことよりね、カムバックする気ない?」
元子「カムバック?」
のぼる「私と一緒に東洋ラジオを受けてみない? 民放のアナウンサー」
元子「民放の…!?」
のぼる「そう、それで明日お邪魔したいんだけど、いいかしら」
元子「え…ええ、それは構わないけど」
のぼる「じゃあ、詳しいことは、その時に話すけど、私もね、このまま中途半端で終わりたくないのよ。ガンコだって何かしたいって思う気持ちおんなじだと思うのよ」
元子「ええ、それはチャンスさえあればね」
のぼる「だからね…だからこれは多分、私たちにとってアナウンサーにカムバックするラストチャンスだと思うの。だからあなたもよく考えといて」
元子「分かった。とにかく明日待ってるわ。うん」
アナウンサーなら昔取ったきねづかです。こんな耳寄りな話、ああ、どうするか元子さん。
つづく
明日も
このつづきを
どうぞ……
せっかくの楽しみなラジオドラマの時間に夫が帰ってくるわ、夕食の支度、電話…元子より電話をつながされたトシ江の方が気の毒だな~。
今年は31日までやることが確定としてあと2週分12話。年明けが2日からやるのか9日からやるのか、はたまた4日くらいからスタートしてどこかで2話分やるのか。