公式あらすじ※初見の方、ネタバレ注意
正道(鹿賀丈史)はようやく松葉杖で歩けるようになる。入院中も人間工学を学んで退院後に生かそうとする正道の前向きさが元子(原日出子)にはうれしい。一方、吉宗に「ただいま」と順平(斎藤建夫)が返ってくる。宗俊(津川雅彦)もトシ江(宮本信子)も大喜びだが、福代(谷川みゆき)という嫁をつれて帰ってきたので大騒ぎに。元子も駆けつけて、即、家族会議になるが、順平は藍染の一職人として宗俊に弟子入りしたいという。
病院の廊下
松葉杖で歩いている正道と出くわす元子。
正道「おう、ハハ」
元子「歩けるのね」
正道「お目付け役、監視のもとだけどな」
看護婦「だって監視してないと練習時間以上、歩いてしまうんですからね。この患者さんは」
元子「どうもすいません」
看護婦「じゃ、そろそろベッドへ戻る時間だから、よろしくお願いしますよ」
元子「はい」
看護婦「ただし、あまり足を使わないこと。体重がかかり過ぎると骨に影響があるから、また痛いことになりますからね」
正道「あ~、はいはい、先生」
看護婦「ハハハ…じゃ」
元子「どうも」
看護婦が去って行く。
元子「大丈夫なんですか?」
正道「あ~、ぼちぼちなんだけどな要領が分かんないから、わきの下が痛くてかなわんよ」
元子「まあ…。じゃ、ぼちぼちと参りましょうか、お部屋の方へ」
正道「ああ。よいしょ…」
病室
ベッドに横になる正道。
元子「はいはい…」
山田「さあ、今日はどうでしたか」
正道「どうもまだ自分の足じゃないみたいでな」
元子「無理もないわよ。でもね、あんまり急ぐとお正月まで退院は無理だって言われてますからね」
正道「あれ、まるで大雪さんと示し合わせてるみたいだな」
元子「大雪さん?」
正道「うん、看護婦の倉石さん。彼女ね、倉石小雪っていうんだよ」
元子「まあ、あのお体で?」←おい!
正道「うん」
元子「あっ…」
笑い声
正道「それでみんながな…」
元子「悪い人(しと)ね」
正道「ハハ…」
昭和はこれが当たり前でも今はありえないからね。しかし、大雪さんと呼ばれるほど体の大きな人に見えないからまた困惑。顔丸い程度であんな言われ方されたくないわ。
正道「あっ、それで君の方はどうだ?」
元子「えっ? 相変わらずリライターへ逆戻り。他人になってせっせと書いてます」
正道「そっか…」
元子「でもね、新米の割には私のリライト、なかなかサスペンスが効いてて評判いいのよ」
元子がやってるのって、時々ネットニュースでも見かける読者体験手記を読みやすく書き直したものなんだろうね。確かに、一般の読者にしてはどの人も読みやすい。
正道「ん? 本当かな」←今日はすっごいニコニコだな~。
元子「フッ…あなたの方は?」
正道「うん、ちょっとまだ足首と膝が硬いんでね、当分リハビリは続きそうだ。ひ臓摘出の方はね、ほとんど合格だって」
元子「よかった」
山田「それで私も安心して退院できますよ」
元子「じゃあ、山田さんも?」
山田「はあ。けど、まだしばらくは大原さんとのおつきあいが続きそうです」
元子「は…?」
正道「完全に治るまでの間にね、ちょっと人間工学、勉強してみようかなと思ってね」
元子「人間工学?」
正道「うん。山田さん、家具屋さんでね、退院して一人で歩けるようになったら、時々、山田さんの仕事場の方へね、お邪魔させてもらうことにしたよ」
元子「そう。よろしくお願いいたします」
山田「いやいや、こちらこそ」
いつも何かを学ぼうとする正道の明るい目は元子にとって何よりもうれしいものでした。
正道「でも、病院の車椅子一つとっても、まあ、あれは一時的に使うもんだからしかたないんだけれどもね、身長とか手足の長さでどうもうまくないんだな。で、そういうことからね、自分の体に一番合った椅子や道具のことを、こないだから調べてたんだよ。それで、山田さん家具屋さんだから、お互いに寝ながら研究したり、意見交換したりっていうわけなんだ」
元子「そうだったんですか」
正道「ハハ…ねえ、山田さん」
山田「はい。ハハハハ…」
桂木家茶の間
宗俊「おう、上がったよ」
トシ江「ああ、ご苦労さん。ちょうどごはんの支度が出来たとこなのよ」
彦造「お疲れさまでした」
善吉「お疲れさんでござんした」
トシ江「ねえ、善さん」
善吉「へい」
トシ江「一緒に一杯やっていかない?」
善吉「ええ、ごっそさんでございやす。けどね、うちでもかかあが待っとりますんで…」
トシ江「そんじゃ、持ってってよ。酒のさかなにね、ちょいとあぶってもらったらいいわ。いいくさやが手に入ったのよ」
善吉「あ~」
宗俊「え、お前、こういう手合いにはな、そんなお前、上等なものは持っていかせるこたぁねえ」
彦造「ああ、そうとも。おっ母でもかみさんでも好きな方へ帰れ帰れ、もう」
トシ江「まあまあ、彦さんまでがそんな意地悪言うのかしらね。ねえ、善さん」
善吉「いやぁ、もう何言われようが、もう…」
⚟男「ただいま」
トシ江「は~い。ただいまって言ったわよね…?」
彦造「ええ。けど、大原の旦那はまだ入院中だしね」
善吉はすぐ店の方へ回る。
トシ江「祐介さんの声でもなさそうだし…」
宗俊「バカ! あの声は…」
善吉「順平ちゃん! 順平若旦那じゃねえですか!」
トシ江「順平…順平!?」
吉宗
頭を下げる順平。
宗俊「順平…」
彦造「若旦那…」
トシ江「よくもまあ…」
順平「何だい。はとが豆鉄砲食らったような面そろえてよ」
善吉「ケッ! やっぱり順平ちゃんだぜ、この野郎!」
順平「おう、まだかみさんには逃げられちゃいねえんだろ」
善吉「ハッ! やっぱり本物だ! ハハハハ…」
宗俊「けど、おめえ、一体(いってえ)…」
順平「帰(けえ)ってきたんだよ。ただいまと言ったのが聞こえなかったかい?」
トシ江「聞こえたわよ。聞こえましたともさ」
順平「そんじゃ改めて。順平、ただいま帰りました」
トシ江「順平…!」
宗俊「バカ野郎。せがれがてめえのうちにお前、帰ってきたのに、しち面倒くせえ手続きがあるもんか。さあ、上がれ上がれ。今な、彦さんとおめえ、くさやで一杯(いっぺえ)やろうとしてたとこなんだ。おめえも一杯やれ。さあ、上がれ上がれ」
善吉「さあ、さあ、ねえ…」
彦造「善の字、おめえは、おっ母が待ってんだろ」
善吉「そういう殺生なこと言うんじゃねえや」
宗俊「いいから、グダグダ言わずに上がれ上がれ、みんな」
順平「そんじゃ、福ちゃん」
福代「福代です。どうぞ、よろしうに」
トシ江「はい…」
宗俊「で、この娘さんは?」
順平「俺の嫁さんさ」
宗俊「何だと!?」
順平「こっちがおやじでこっちがおふくろだ。なっ? 言ってたとおりだろ」
福代「はい」
トシ江「ちょっと順平…」
福代…谷川みゆきさん。「おしん」や「ちゅらさん」にも出演歴あり。「おしん」ではアテネの女給の一人、八重子だって。なんとなく顔を見たことあるなと思った。
大原家ダイニング
ダイニングテーブルでリライト作業している元子。
電話で話している大介。「はい、分かりました。ちょっと待っててね。お母さん、順平叔父さんがお嫁さん連れて帰ってきましたって」
元子「そう、よろしくね。…大介、今、何て言った?」
道子「順平叔父さんが、お嫁さん連れて帰ってきたって」
元子「そんなバカな」
大介「とにかく出てよ。巳代子叔母さんだから、早く」
元子「分かった、ちょっと…。わっ!」電話前でコケる。
大介「もう…」
道子「あ~あ」
というわけで、とるものもとりあえず元子たちが駆けつけたのは言うまでもありません。
吉宗
元子「こんばんは」
大介「こんばんは」
道子「こんばんは」
桂木家茶の間
順平「あっ、姉さん、ただいま」
元子「お帰りなさい」
順平「義兄(にい)さんギプスとれたんだって?」
元子「うん、おかげさんでね」
順平「あっ、これ、福代」
元子「姉でございます」
福代「こんばんは。福代です」
順平「ほら、いつか姉さんに話はしたよね。藍玉職人の宗一じいさん。そのじいさんの妹の孫にあたるんだ」
妹の孫=姪孫(てっそん)または大甥(おおおい)、大姪(おおめい)
元子「そう。順平がいろいろとお世話さまでした」
福代「はい」
元子「それで、あの~」
トシ江「だからさ、あの…」
巳代子「大ちゃん、叔母さんち行かない? ねっ」
大介「どうして?」
巳代子「いいから、ほら、道子ちゃんも。ねっ」
元子「そうね」
宗俊「おい、あの~、ついでにこの人も連れてってくれ」
元子「お父さん」
宗俊「こっちはな、順平がどういうつもりで帰ってきたのか、まだちゃんと話を聞いちゃいねえんだ」
トシ江「けどさ…」
宗俊「うるせえ! この人のことは俺と順平の話がついてからのことだと、そう言ってるんだ」
順平「じゃあ、福ちゃん、話が済んだら呼ぶから」
福代「はい。よろしくお願いいたします」
巳代子「それじゃ、はいはい…」
台所で彦造や善吉が立って話を聞いていた。巳代子が大介、道子を連れて出る。
巳代子「どうぞ」と福代も促して外へ。
桂木家茶の間
元子「もう、むちゃくちゃなんだから、順平は」
トシ江「本当にもう人を驚かすことばっかりするんだもの」
順平「けどさ…」
元子「いいえ。ああいう人がいるならいるで、どうして先に手紙の一本も出してこなかったのよ。そうすりゃ私たちだって迎えようがあったのに、かわいそうじゃないの」
順平「大丈夫だよ。あいつは平気だよ」
宗俊「じゃ、まあそういうことにしてだ」
順平「おやじさん。俺は、おやじさんに弟子入りするつもりで帰ってきたんだ。1年足らずの旅だったけど紺屋を継ぐ決心がついたんだ。だから、よろしくお願いします」
元子「それ、本気なのね? 順平」
宗俊「ちょ…ちょいと待ちな。で、おめえ、映画の方はどうなったんだ? あれは取りやめか?」
順平「まあね。二足のわらじも履けないし」
宗俊「だったらどうして好きな方のわらじを履き通さねえんだ?」
トシ江「あんた」
宗俊「冗談じゃねえや! こっちが駄目ならこっちだ? 紺屋ってのはな、そう簡単に務まる仕事じゃねえんだ」
順平「分かってる」
宗俊「だったら、どうして尻尾を巻いて帰ってきたって素直に言わねえんだ」
元子「お父さん」
宗俊「こいつはな、映画の監督なんて務まる玉じゃねえんだ。今度の旅でそれがつくづく分かったんだろうよ」
元子「よかったじゃありませんか。物事、自分で納得するのが一番なんじゃないんですか」
宗俊「ところがあいにくこっちはな、とうの昔に後継ぎの話は諦めたんだ。それにおめえのような中途半端な男がな、9代目の吉宗が務まるもんかい!」
トシ江「何てこと言うんですよ、あんたって人は」
順平「いいんだよ、母さん」
元子「順平」
順平「俺は別に後継ぎにしてくれって、おやじに頼んでるわけじゃないんだから」
宗俊「当たり前(めえ)だ。男が一旦、志を立てたんなら親が何と言おうが自分の好きな道を貫き通しゃいいんだ」
順平「だったら、おれに吉宗の江戸染を教えてください。小僧でいいんだ。おやじが嫌だというなら先生は彦さんにだって習うし通いでも構わない」
トシ江「通いって、お前…」
順平「どこかアパートでも見つける。俺は一から染めを習いたいんだ」
宗俊「バカ野郎。通いの小僧にどうやって女房を食わしていけるんだ」
縦額障子のガラスから顔をのぞかせている彦造。
順平「あいつも通いで働かせる」
トシ江「何だって!?」
順平「吉宗の台所で働かすのさ。紺屋の女房になるには紺屋のおかみさんに使われるのが一番だろ」
元子「そりゃ、そうだわね」
トシ江「ちょいと待ってよ、何を言いだすのさ」
順平「金の卵、金の卵って世の中、中学出たての子供でも人手が足りなくて取り合いじゃないか。おキンばあやだってもうご隠居だろ。2人の娘はもう所帯を抱えてるしさ。福ちゃんなら間違いなし。俺が太鼓判を押すから雇ってごらんよ。ねえ、おっ母さん」
元子「私は賛成」
トシ江「バカなこと言うんじゃないよ」
宗俊「で、言うことはそれだけか」
順平「ああ」
宗俊「よ~し、分かった。それだけの口をたたいたんだ。本気でやるなら親と思うな。一からたたき直してやる」
順平「おやじさん」
宗俊「そのかわりな、おめえも、もうせがれだって思うんじゃねえぞ。え、アパートからでもどこからでも夫婦そろってきっちり通ってきてもらおうじゃねえか。ただしだ、俺の方も母さんの方もな、朝9時からの勤めだと思ったら大間違いだぞ」
トシ江、涙をぬぐう。
順平「だったらこれからもよろしくお願いします」
宗俊「今度はあの娘さんの番だ」
トシ江「はい」
元子「私が呼んでくるわ。ねえ、順平」
順平「ああ」
元子が出るより前に、彦造、善吉が入ってくる。
彦造「若旦那…!」
善吉「若旦那、よくまあ…!」
宗俊「バカ野郎、若旦那じゃねえ。新入りの小僧だ」
トシ江「それにしてもまあ、よくね…」
順平「大丈夫だよ。福ちゃんは気立てのいい嫁さんだから」
善吉「ケッ、一丁前のこと言ってらあ…」
まずは一件落着。
あとは待望の正道の退院でした。
大原家前の路地を松葉杖で歩いてくる正道と後に続く元子、善吉。正道さん、着物。
元子「あなた?」
正道「うん…3か月ぶりだからな」
善吉「へえ。本当にご辛抱なさいましたですねえ。あっ、さあさあ、さあ、行きましょう。さあ、どうぞ」
善吉が門を開けると福代が立っていた。「お帰りなさいませ」
善吉「あ~、びっくりしたな! いきなり立ち上がるんだもんな」
福代「どうもすみませんでした。おかみさんにお餅持っていくように言われましたけん」
元子「いいのよ。ほら、あなた、この人が福代さん。順平の」
正道「あ~! 大原です。いやぁ、みんなから聞いてましたけども、思ってたとおりの人だったな」
福代「福代です。退院おめでとうございます」
正道「はい、ありがとう」
元子「まあまあ、挨拶は、あとあと。さあさあ、ねっ、善さんも入ってちょうだいね」
善吉「さあ、はい、足元気を付けて…」
元子「はいはい」
玄関から家の中をしみじみ見渡し、元子に笑顔を向ける正道。
退院本当におめでとう。
正道から受け取った松葉杖の先を拭く元子。
つづく
明日も
このつづきを
どうぞ……
昨日までとは打って変わり、下町人情物語といった感じ。収まるところに収まったというところだけど、実際の近藤富枝さんの弟と息子は初期Appleに関わった理系の人らしい。
↑この文章の4ページ目の水島敏雄さんが近藤富枝さんの弟さんだそう。
こちらが息子さん。華麗なる一族だな~。
しっかし、大雪さんと笑った元子をバカにできないし、前も書いたけど、順平、結構しっかりと出番あるのなら、当時のイケメン俳優でも使ってほしかったな~。そうじゃなくてももうちょっと演技力のある人で見たかった。