NHK 1985年7月6日
あらすじ
清之輔(川谷拓三)が作りあげた「全国統一話しことば」は、日常生活になくてはならないことばを集めて888語。京ことば、東京山の手ことば、鹿児島ことば、山口ことばを各々200語ずつ選んだ力作であった。が、それを見た岳父・重左衛門(浜村純)は激怒した。鹿児島ことばが、「だます。負ける。落ちる。盗む。」などいやな場面で使われるものばかり。次に清之輔は、自分が考えた、全く新しい「文明開化語」を実験して…。
2025.5.30 BSプレミアム4K録画
ドラマ人間模様アンコール
作:井上ひさし
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音楽:宇野誠一郎
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演奏:アンサンブルファンタジア
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タイトル画:山藤章二
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時代考証:小野一成
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南郷清之輔:川谷拓三…字幕水色
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大竹ふみ:石田えり…字幕黄色
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南郷重左衛門:浜村純
広澤修一郎:大橋吾郎
江本太吉:松熊信義
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高橋たね:賀原夏子
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築館弥平:名古屋章
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裏辻芝亭公民:すまけい
御田ちよ:島田歌穂
南郷重太郎:岡田二三
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若林虎三郎:佐藤慶
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南郷光:ちあきなおみ
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秋山加津:山岡久乃
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制作:岡田勝
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演出:村上佑二
全國統一話シ言葉文法
ふみ・山形弁で<おどちゃと、かがちゃ。えよえよ明日(みょうにち)は旦那さあのバツ休みの解げる日だ。ほだもんで今日中に仕事ば片づげっぺじゅうので、ここんどころ旦那さあは夜更かしのしずきもんだ。旦那さあは、くたびっちぇ、ビグダラ、ビグダラしてえる(=疲れてフラフラしている)。まごどに大した旦那さあだべな。見事なアッパレだ>
全國統一話シ言葉語林集成
髭は生え、頭に鉢巻、部屋中に紙を吊り下げて書き物をしている清之輔は眠気覚ましに自らの太ももを刺す!
清之輔・長州弁で「ううっ!」
朝、鶏の声。虎三郎は庭で鶏の卵を拾い、裏口へ。
虎三郎・会津弁で「書簡袋を封すんだけんじょも、まんまつぶ、くなんしょ」
ふみ「はいっと」
虎三郎「卵、落ちてた」卵を渡す。
ちよ・東京弁で「虎さん、瓜に呼ばれないかい」
たね・東京弁で「みんなで、おあし出し合ってね、おやつと垂れこんでるとこだよ」
太吉・津軽弁で「食べながら話さないか。まあ、ゆっくりして」←また字幕なし!
弥平・遠野弁で「こいつなんか、うめえんでねえか?」
修一郎・名古屋弁で「まあ、ここに座ってちょ」
虎三郎「おめえたちもガラリと金持ちになったもんだな」
ちよ「アッチなんて、旦那様に下町言葉50個は売ったからね」
たね「アタイが売ったんだってね、40は軽く超したさ」
舌打ちして、瓜を土間にたたきつける虎三郎。「ぬしゃたちは自分の生まれ在所を売り渡そうとしてる悪党めらだ。自分の国を国の衆さ、ひと言の断りもねぐ、新政府さ売り渡そうとしてる悪党めらだ。そんな野郎めらのおごりで(=そんな悪党どものおごりで)瓜なんか食えっか!」←食べ物を粗末にするな。
たね「何だよ、いきなりどなりだしてさ」
虎三郎「いい年こいて、何言ってんだ、おめえは! よし! 今日は言ってやんぞ。おう、おたねばっば、おめえは『佃煮』っつう言葉を10銭で売ったな。ん? だげんじょも、それは誰さ断って売ったんだ? 誰の許しを得て売ったんだ? 『佃煮』っつう言葉を使ってる東京下町の衆、全員の許しをもらって売ったのか」
たね「そんな事できるわけねえじゃねえかい。元お武家ってのは理屈っぽくていけねえや」
虎三郎「言葉っつうものはな、人が生ぎでえぐ上になくてはなんねえ宝物だべえ。理屈こねで学問しるにも言葉がなくては分がんね。人ど相談ぶつ時も言葉だ。商いしる時も言葉だ。それから人を恋する時も、それから人を励ます時、人から励まされっ時、いつだって言葉がいんだ。人は言葉がねくては生ぎては、いがんに。それほど大事な言葉を自分一人の考(かんげ)えで売っ飛ばしていいと思ってんのか! おめえたちは! んなバカな事、あるもんでねえ!」
弥平「道理(どんり)でなあ。オラ、公民(きんたみ)しぇんしぇから10銭もらうたんびに胃がもだれだもんだったけが(=胃がもたれたが)道理でなあ。そのしぇでがんすな。めむぎゃねえ!(=面目ない) もうすべきぎょうあねえ!」
虎三郎「今ごろ気が付いたって遅かんべえ。このウスラトンカチ! おめえたちは、それほど大事な言葉を売るぐれえだ。そのうち、親兄弟だって売るに違いあんべえ」
加津・東京弁で「虎三郎殿。あなたの申される条々、いちいちごもっともでございます。けれど、皆さんとしても旦那様のお仕事をいささかでもお助けしようと思ってなさった事。まあ、それぐらいで許しておあげなさいまし。さあさあ、おたねさん、そろそろ夕げの支度にかかりましょうか」
たね「ああ…あいさ。おちよちゃん、青物屋で枝豆だ。おふみちゃんは豆腐屋だよ」みんなバタバタと台所から出ていく。
重太郎・鹿児島弁で「おっちゃん!」
加津「あ…」
フラフラの清之輔が茶の間に来た。太ももには血が付いている。「でけた…! でけたでありますよ!」
夜、こぎれいになった清之輔が酒を注いでもらっている。「皆にも豪儀に世話になりましたのう。ごねんのいりました」
重左衛門・鹿児島弁で「めでてえ! ふてえ事しやった」
重太郎「おっちゃん、びんたんよか(=父上、頭がいい)」
光(みつ)・鹿児島弁で「はあ、偉かったのう(=お疲れでしょう)、あんた」
公民・京都弁で「よう、おきばりやしたな~」
加津「旦那様のお仕事ぶりには、つくづく頭が下がりました」
たね「これからは奥様にこれまでのいれあわせ(=埋め合わせ)をしてあげておくんなせえまし」
ちよ「そのお仕事でどうかもう一つ、おかまをおこして下せえ(=身代をおこして下さい)」
修一郎「ほんとによ、せわしずくめだったでよお、往生しやしたなも」
ふみ「くたばらねえで済んで、ええあんばえだたな」
太吉「旦那さあの苦労さ、花こ咲ぎした!」
弥平「明日から旦那さあ乗せて、お役所さ人力車引げるな。えがった」
虎三郎「ひでえ目に遭ったな」
清之輔「確かにえらい目に遭い申したでありますよ。2~3日もあれば、易(やす)くできるじゃろうと甘く見ちょった。ほれ、おたねさんの口癖の」
たね「え…『朝飯前のお茶漬けサラサラ』かい?」
清之輔「そう。そのサラサラでできるじゃろうと思っちょった。ところがお国訛りちゅうものは、その土地に生まれ育った人間と、まことにねしこく結び付いとる(=しっかり結びついてる)もんなんじゃのう。言うたら、お国訛りと人間とは、つれあいのようなものでありますよ。これをやみくもにいき別れさせると血の雨が降る」
公民「へえへえ。ひとつ間違(まちご)うたら維新戦争の二の舞どすな。維新戦争は言うたら玉(ぎょく)、天子様の取り合いやった。ところが今度は言葉の取り合いで戦が起こりかねん」
清之輔「同感じゃ。そこでワシもいっぺえごと(=たくさん)気を遣っちょった。いんま御上(おんじょ)さが見ておられるんは『全国統一話し言葉語林集成』というてのんた、ふだんの暮らしにどねえしても必要じゃと思わるる言葉を888語、集めたもんじゃが、これを編むにあたっての苦労とゆうたら、のんた…」
公民「888語…?」
清之輔「『八』は末広がりのめでたい数。その八を3度重ねたのでありますよ」
公民「それは、ええ心がけどしたな~」
清之輔「じゃけえ、げんめつうまくいく(=きっとうまくいく)と思っちょるんじゃが…さて、この888語の内訳は京言葉、東京山の手言葉、鹿児島言葉、へてから山口言葉を、それぞれきちんきちんと200語ずつ…」
公民「えらい、はくいお仕事(=立派な仕事)をしやはりましたな。それやったら不平不満のひずなは出えしまへんやろ(=文句は出ない)。血の雨も降らしまへん」
清之輔「ホンマに数を合わせるのには苦心いたしましたがのう」
重左衛門「清之輔、お前は、こゆを明日、役所せ預くっとな?」
清之輔「はあ、朝一番に田中不二麿閣下にお目にかけようと思っちょるでのうた」
重左衛門「そいじゃと、これが全国にばらまかれっちゅうわけか?」
清之輔「はあ、文部省内の文書局で印刷製本され、秋口には全国の小学へ配布されるでありましょうな~」
重左衛門「じゅもね!(=けしからん!) こいは、えこひのごろったじゃ!(=エコヒイキのかたまりだ) 明日の朝づいまでに書き直せ! ええいっ、このだっきょづら!(=あつかましい!)」
清之輔「だっきょづら?」
重左衛門「薩摩隼人をなむんなよ!(=なめるなよ!)」
清之輔「待ってくれまえ! どこがえこひっ…えこひいきでありますか? その字引には、ちょうど200語の鹿児島言葉が入っちょる。京言葉も東京山の手言葉も、へてから山口言葉も同じく200語。まことに公平ではありませんかのう!」
重左衛門「確かに数は合っちょる。じゃっどん、中身は、ばったいならん、じびっじゃ!(=どうしようもない辞書だ)」
清之輔「この清之輔が心血を注いで仕上げた字引をばったいならんちゅうのは、いかに舅でも許しちゃおられん。重左衛門殿、その字引のどこがどげえにばったいならんのでありますか。どこがそもそもどうしようもねえのでありますか! さあさあ、どうぞ教えてつかされい!」
重左衛門「ここんとこを見てみやい! よう見てみやい!」字引をたたきつける。
清之輔「この字引を粗末に扱う事は許されん!」
重左衛門「そんなもの字引じゃなか。そいは、この…(鹿児島弁で)紙くずと同然だ」
お膳を叩きつける清之輔。「へえたら、御上は、くっされ御上じゃ!(=腐れ爺々だ!)」
間に入る光。「情けんなか(=なんと情けない)。見苦しか…こどんのよな! なんとんしえん!(=大人げのない、つまらない) (鹿児島弁で)喧嘩は役に立たない!」
重左衛門「やじゅろしか!(=うるさい!)」
清之輔「光は引っ込んじょれ!」
加津「出過ぎた振る舞いである事は重々、承知の上で議論の調停役を務めさせて頂きます。この世がいかに殿方のものとは申せ、理由もなく奥様を泣かせてよろしいものでございましょうか」
重左衛門「理由は、あっど!」
清之輔「おう! ワシは侮れとったんだ! ここで引き下がるわけにはいかん!」
加津「これが争い事の火種でございましたね。『生まれる』『飲む』『食べる』『学ぶ』『遊ぶ』『育つ』『読む』『書く』『見る』『聞く』『話す』『考える』『歩く』『走る』『作る』『磨く』『出世する』『もらう』『与える』『好む』『恋する』」
公民「どれもこれも立派な言葉どすな。どれ一つ見ても人が日に何度とのう使う大切な言葉でおます」
重左衛門「そいじゃ、ここんところは、どげんじゃ?」字引を広げる。
加津「鹿児島言葉がずらりと並んでるようでございますね」
重左衛門「そいじゃ」
加津「それなら、よろしいではございませぬか」
重左衛門「バカたん! どげん言葉が並んちょっか、そいが問題じゃ。『だまかす』!」
加津「『だます』という意味でございますね」
重左衛門「そいじゃ! 『まくっ』」
加津「『負ける』」
重左衛門「『しつこの』」
加津「『しくじる』」
重左衛門「『おつい』」
加津「『落ちる』」
重左衛門「『かたびっ』」
加津「『傾く』」
重左衛門「『おっと』」
加津「『盗む』」
重左衛門「『ちぢゅん』」
加津「『縮む』」
重左衛門「『くゆい』」
加津「『崩れる』」
重左衛門「『くっさるい』」
加津「『腐る』」
重左衛門「『けしん』」
加津「『死ぬ』」
重左衛門「『なっ』」
加津「『泣く』。あっ、少し様子が飲み込めてまいりました」
重左衛門「『きつん』」
加津「『便秘する』。つまり、鹿児島言葉から選ばれたのは、嫌な場面、つらい場面、暗い場面で使うような言葉ばかりで…」
重左衛門「『けなぶっ』」
加津「『バカにする』」
清之輔「それいな事は、ねえがのう!」
重左衛門「『ばるっ』」
加津「『ばれる』」
清之輔「偶然じゃがのう!」
重左衛門「『ちょろまかす』」
加津「『ごまかす』」
清之輔「たまたま、そげえなっただけじゃ!」
お、ちょろまかすは知ってる。
重左衛門「『くろたくっ』」
加津「『𠮟り飛ばす』」
清之輔「御上!」
重左衛門「ないごて、かごんま言葉が…(鹿児島弁で)こんなに馬鹿にされるのか!」
清之輔「誤解じゃ! ほかのところには鹿児島言葉の立派なもんが、いっぺえごと入っちょる!(=沢山はいっている)」
重左衛門「もう何も言うな、清之輔。じえんじゃ(=離縁だ)。これも運命でごわすろ。おいどんたちは明日、かごんませ、たつ。光、重太郎。いとまげをせ(=お別れをせよ)」字引を破き、どよめきが起こる。
清之輔「この、くっされ御上!」
重左衛門「チェスト!」木刀で清之輔の頭をたたいた。
倒れる清之輔。
一同「旦那様!」
清之輔を見て、光までふらつく。
加津「旦那様!」
布団で寝ていた重左衛門が目を開けた。
加津が蚊帳越しに説教する。「ご隠居様のお腹立ちは、もっともながら旦那様がご丹精の字引を破り、それに加えて脳天への木刀の一撃、2つともご隠居様の落ち度でございました。折を見て、旦那様へ『悪かった』と、ひと言、お声をおかけあそばし。ご隠居様? お休みでございますか?」
隣に寝ていた重太郎が体を起こす。「加津。御上さのめんつんたま、あいちょっと(=御上の目はあいているぞ)」
加津「おやおや、たぬき寝入り…お休みなさいまし」部屋を出ていく。
清之輔は頭を包帯グルグル巻きにされ、氷嚢をあてられて、寝ていた。
光「こらえやったもんせ(=堪忍してやって下さい)」そっと涙を拭く。
字引を伸ばしているちよたち。
ちよ「おたねさん、こんなして、のりで貼っ付けたもの、お役所へ出したりしたら、旦那様、また叱られちまうんじゃないのかねえ」
ふみ「いがにも、ぶせえくだもな~」
たね「けど、このままじゃ破けたまんまじゃ、もっと叱られちまうよ」
虎三郎「やめろ、やめろ。やめろってば。やれば、やっただけ無駄みてえなもんだぞ」
弥平「何どもす?(=なんですか?)」
虎三郎「おめえだつ、さっきの口争い見ていなかったのか。ああ? おじんつぁまど清之輔さの間さ、血の雨、降ったべ~。文部省がそんだもの日本中さ配ってみろ。今度は日本中さ、血の雨、降んぞ」
公民「ホンマどっせ」
修一郎「それじゃなも。『便秘する』とかいうような、とろくせえあ言葉や、へっぽこ言葉を鹿児島言葉以外(いぎゃー)の、ほかのお国訛りからとったら、どうであも?」
虎三郎「同じ事だべ」
公民「ホンマ。しょうもない言葉をとられた土地の衆がさっきの御上はんのように、おつむからアチチカンカンの湯気立てて怒らはりまっせ」
修一郎「ああ、本当だなも」
弥平「んでえば、旦那さあ、なじょにしたら、よかんべが」
虎三郎「ぶん投げておけばええ。言葉えぞぐるがら悶着が起ぎんだ。言葉は、えずぐっては分がんねえ(=言葉をいじっては駄目だ)。成り行きさ任せんのが一番だ」
公民「はあ…いっそ、もう、新しいお国訛りをこしらえたら、どないでっしゃろな~。新しい御代(みよ)の新しい言葉。それをこしらえる方がいっち話が早いのやおまへんか」
加津「新しい言葉…」
セミの鳴き声
ふみやちよが井戸の近くで鍋を磨いている。
清之輔は団扇で仰ぎながら寝ている。
重左衛門「暑うごあんどな(=暑いですなァ)」と言いながら廊下を歩いて、清之輔の部屋の前を通り過ぎた。「ぐわや、いけなふうな?(=具合はいかがかな) 大事にしやんせ(=大事にしなさいよ)。こらえやったもんせ(=許してくれよ)」廊下を何度も往復する。
清之輔「こっちこそ詫びを言いますでのんた。4~5日うちには、なんとかして役所へ出ようと思っちょるでありますよ」
重左衛門は団扇の柄で風鈴を鳴らし、嬉しそうに廊下を歩いていった。
奉公人一同が清之輔の部屋の前に来た。
加津「旦那様、皆さんが旦那様にお願いの筋があるそうでございますが、よろしゅうございましょうか」
たね「あの…あんばいしき悪いようでしたら(=あんばい悪いようなら)、また今度って事に」
清之輔「ワシは構わんが何や?」
たね「へえ。あの実は…こないだうち、ちょうだいした、おあし、お返(けえ)ししてえと思いまして…」それぞれ懐から小さな包みを出す。
清之輔「ワシが役所を休んでおるかい、暮らし向きの事を案じてくれちょるのだな。肝は焼かんでもええ」
手拭いの上に10銭硬貨がたくさん置かれている。
たね「いやいや、そうじゃねえんで。どうか堪忍しておくんなせえまし」
ちよ「拝みます」
ふみ「かにしておごやえ」
修一郎「堪忍してちょうでえか」
太吉「かにすてけへんが」
弥平「かにすてけまへんがべが」
清之輔「『かにかにかに』と今日はカニの大安売りじゃのう。みんな、どうしちゃったのかのう」
加津「あの、先日来、旦那様に1個10銭でお売りいたしました、それぞれの生まれ在所の言葉を買い戻したいとの事でございます」
清之輔「何じゃと?」体を起こす。
加津「『生まれ在所の衆に無断で国の訛りを売ったりしては罰が当たる』というのが皆さんの考えだそうでございます」
清之輔「ワシの字引は、どうなるんじゃ。ちびっと手直しして、いんま一度、清書して、役所へ持っていこうと思っちょったのに」
加津「差し出がましい事を申し上げるようでございますが、お許し下さいまし、旦那様。旦那様がお作りあそばした全国統一話し言葉では誰かがきっと不平不満を持ちましょう。例えばこちらのご隠居様のように」
清之輔「それは分かっちょる! じゃがのう、ワシは、ぜんなくどうでも(=ぜひとも)全国統一話し言葉をこしらえあげねばならんのでありますよ。それがワシの仕事じゃ。役所へ手ぶらでは出かけられん」
加津「それならば誰からも不平不満の出ない全国統一話し言葉をお作りあそばし」
清之輔「うん?」
加津「全く新しい全国統一話し言葉をお作りあそばし」
清之輔「全く新しいじゃと?」
加津「はい。それならどこからも文句の声は出ますまい」
清之輔「簡単に言うてくれさんすなよ…」
加津「いいえ。思いのほか、たやすい事ではございませんでしょうか。おたねさんという生き字引もおりますもの」
清之輔「おたねさんが?」
加津「はい」
清之輔「おたねさんが何を知っちょるちゅうんじゃ?」
ヒグラシの声
茶の間
たね「まあ、そんなわけしでえだから、どんなに分かりにくい訛りでしゃべるおなごでも吉原の廓内(くるわうち)に住んで、さと言葉を覚えたら、もうシメコノウサギさ」
清之輔「いかにも。さと言葉がお国訛りを立派に隠してしまうわけじゃの?」
たね「へえ」
清之輔「それじゃあ、その…吉原のさと言葉を覚えるのに何年ぐらいかかるんじゃろうか?」
たね「何年? 冗談言いっこなしにして下せえまし、旦那様。女の花の盛りは短(みじけ)えんだ。何年もかかっちゃあ、年増花魁ばっかりできちまう。そうさね…10日もあれば大抵、飲み込んじまうね」
清之輔「たったの10日でのうた…」
たね「へえ」
重左衛門「(鹿児島弁で)そういえば吉原へ、しばらく行かんな」
公民「ほなら、今夜あたり、どないどす?」
虎三郎「ついでに清之輔さんも交ぜてやればガラリと気分がよくなんべえ」
下品な笑い声だね~。
加津「旦那様! なにゆえ、花魁衆は、そのように素早く、さと言葉を覚えることができるのでございましょうね」
清之輔「う~ん、なしてじゃろうのう」
たね「知れた御事さ。さと言葉はバカ易しい。『ざんす』『だんす』『なんす』と何でもかんでも、この『んす』で用が足りたもんね」
清之輔「んす?」
たね「そうざんす。何でもかんでも『んす』で用が足りるざんす。『お分かりなんすえ?』と、まあ、こんなあんべえ式でね。あっ、この『お分かりなんすえ』の、この『え』は、これ、ものを聞く時に付ける符丁でしてね」
清之輔「いっぺえごと面白い!(=たいへん面白い) それで、おたねどん、個々の言葉は、どうなっちょる?」
たね「個々?」
清之輔「おたねどんの働いちょった店に字引のようなものは、あっちょったか? 吉原の花魁言葉に字引は、あっちょったか?」
たね「字引は、なかったね。個々の言葉ってえと、京言葉あり、それから江戸下町あり本江戸山の手言葉ありでいろいろ…そう! 1つだけ決まりがありやした!」
清之輔「それを教えてくれさえ!」
たね「『なるべく誰もが知ってそうな言葉を選び出して、それを癖のないように言う事』」
清之輔「癖のない言い方?」
たね「ええ。『ものの言いよう、声の出し方は本江戸山の手言葉をマネな』と。こういったわけで」
清之輔「『誰もが知っていそうな言葉』。『癖のない言い方』。そして『んす』。いかにも…!」窓を飛び越えて、部屋を飛び出して行った。
重左衛門「ほう、元気が、よかごつ見ゆるな」
公民「またぞろ仕事どすかいな。ねちこいお人やな」
虎三郎「いや、なかなか立派な心がけだ。ああでなくては、なんねえ」
加津「おたねさん…」
おたねは立ち上がって仕事に戻る。
重太郎「御上さ…」
弥平が重太郎をおんぶして裏口に入って来た。「奥様ど、お坊ちゃまが平河天神から、お帰(けえ)りだべだらや!」
重太郎「こゆは甘かアメじゃ。御上さ、なむれ」
重左衛門「ん…甘か!」
加津「弥平さん、旦那様がまたもやお仕事をお始めあそばしましたよ」
弥平「そら~、えがったな!」
加津「旦那様のお仕事が完成するまでお役所をお休みあそばします」
弥平「んだ。手ぶらでお役所さ行っては分がんねっちゃ」
加津「となれば、お役所へ、もう一度、病気届を出さなければなりますまい。お願いいたしますよ、弥平さん」
弥平「よがまっちゃ」
井戸水で足を冷やす光。
加津「奥様、お暑い中をご苦労さまでございました」
光「加津どん…やどんしゅは、いけなふう?(=主人はどんな具合ですか) いんまさっ、きつかようで、あっぜえ、うどめきなさっちょったが(=先刻は苦しそうに大変うめいておられたが)」
加津「お案じなさいますな。旦那様は、もう、ふ机に向かっておいででございますよ」
光「(鹿児島弁で)まあ! よかった」
雷鳴
文机に向かう清之輔。
ふみたちは雨漏りのする個所に桶を置く。
帰って来た弥平が加津を手招き。
加津「お役所の様子がおかしい?」
加津に封筒を渡す弥平。「どんじょひげの役人が出はってきて、こんなものば、けさった(=役人が出てきて、こんな物をくれた)。どんじょひげのお役人は、こんたなごどを言ってたでがんす。『ちょうどええどこさ来た。今日、郵便出そうと思ってえだどこだ』ってす」
加津「気になるお話しでございますね。中のもの拝見させて頂きましょう」
弥平「勝手に見だりすて、ええんだべか?」
加津「よくは、ありませぬ」といいつつ、中身を見る。「『学務局四等出仕、南郷清之輔殿。全国統一話し言葉、制定取り調べ掛(かかり)を免ず。無期休職を命ず。俸給5割を給す。明治7年7月28日 文部少輔(しょうゆう)田中不二麿』」
弥平「こりゃ、たまげ…! たまげた事になったでば。これはすたり、あなまりでねえの!」
加津「この事は私ども2人の秘密にしておこうではありませぬか」
弥平「そんたな、がむっちゃらな…!(=そんなメチャクチャな)」
加津「旦那様は寝食を忘れて全国統一話し言葉をお作りなされておいででございます。その旦那様にこのようなものをお見せしたら、どうなってしまうとおぼしめす?」
弥平「気がおがすぐなる…?」
うなずく加津。「その旦那様が『これは』という全国統一話し言葉をお作りあそばせば、この辞令は、ほご同然の代物になることは目に見えております」
弥平「はい。んだべが…」
加津「その時まで、この辞令の事は一切、口外は、なりませぬ」
弥平「分がりすた」
弥平は傘を差して去り、加津は辞令を握りつぶした。
雷鳴
清之輔は刀を手にする。
全國統一話シ言葉
文明開化語規則九か條
文部省學務局四等出仕
南郷清之輔
一、作用(シワザ)ノ詞ハ一切ソノ活用(ハタラキ)…
切リノ形ノミヲ用ヒル…
二、文末ハ言ヒ切リノ形ニ…
ちよ「旦那様。あっ、あの…お言いつけどおり、長屋から虎三郎さん呼んできましたけど酒でも出しますかね?」
清之輔「酒などいるぬ」刀を持ったまま。
ちよ「それじゃ、お茶でも出しますか?」
清之輔「茶もいるぬ。部屋へ下がって早く寝るせ」
ちよ「あい…旦那様も夜更かしは禁物だよ。口がよく回らないみてえだけど、それは毎晩、夜更かしをしなさるからだ。疲れがたまっていなさるんだよ」
虎三郎が部屋の前に来た。
ちよ「そいじゃ、お休みなせえまし」
清之輔の前に座った虎三郎の目の前に刀を横に持って突きだす清之輔。「虎三郎さん、この刀は南郷家に伝わる刀であるす。伊豆守正房(いずのかみまさふさ)ちゅう名高い刀鍛冶が打った薩摩新刀であるす。見るせ、どうぞ。この正房は200円はするす。だが、ワシはこれを虎三郎さんに10円で譲るす。買うか?」
虎三郎「お道化(どげ)んな(=冗談じゃない)、清之輔さ。正房の薩摩新刀がわんずか10円だなんて、おかしねえぞ。こなだあ頭がどうにかなってしまったんでねえの? それに、その口のききようも気に入らねえな。『見るせ、どうぞ』って何だ? どこのお国訛りだ、それ?」
清之輔「買うか、どうぞ」
刀を受け取って見る虎三郎。「美(うずく)すう刀だ…! 美すうと同時に頑丈でもある。いい刀だごと…」
清之輔「買うせ、どうぞ。私は売るす」
虎三郎「10円でいいっつうのは、ほんとだべか?」
清之輔「本当す」
虎三郎「いいべ。もらうべ」
拍手する清之輔。「文明開化語は、なかなか役に立つす」
虎三郎「文明開化語?」
清之輔「はい。この南郷清之輔が、つい今し方、完成した全く新しい全国統一話し言葉であるす」虎三郎にまとめた紙を渡す。「規則は、わずかの9か条であるす。」
虎三郎「『しわざのことばは一切、そのはたらきを廃し、言い切りの形のみを用いる事』」
清之輔「例えば…そう例えば『話す』ちゅうしわざのことばがあるす。これを東京の下町や山の手では『話さない、話しまする、話す、話す時、話せば、話せ』とはたらかすす。このはたらかす時にお国訛りちゅうものが忍び込むようであるす。そこで私の文明開化語では、しわざのことばのはたらきを禁じるす。しわざのことばは全部、言い切りの形で使うす」
虎三郎「『文末は言い切りの形に『す』を付す事』。あっ『これはオレにも分かるす』と、こういうふうにいくわけだな」
清之輔「はいす。そうす」
虎三郎「『言いづける時は文末に『せ』を付す事』」
清之輔「行くせ。来るせ。早く次を読むせ」
虎三郎「『可能を表さんとする時は文末に『事ができる』を付す事』。うん、これも分かるす。分かる事ができるす。『否定せんとする時は文末に『ぬ』を付す事』」
清之輔「『その刀、10円なら売るす。しかし、5円なら売るぬ』と、こう使うす」
虎三郎「『ものを聞く時は文末に『か』を付す事』。うん、これも分かる事ができるす。『丁寧に意を表さんとする時は文末に『どうぞ』を付す事』」
清之輔「はいす、どうぞ。そうす、どうぞ」
虎三郎「『語彙は誰もが知っていそうな言葉を用いるよう努むる事。ものの言い方、声の出しようは本江戸山の手言葉を手本とする事』」
清之輔「私の文明開化語の規則は以上の9か条であるす。これなら小学の児童でも簡単に覚える事ができるす。確かにまだまだ至らないところはあるす。しかし、その基本においては間違うぬと思うす、どうぞ」
虎三郎「いや~、こなだの熱心さには、ほんとに頭が下がる。全く、おっかねえぐれえの熱心さだもんな~。そんだけんじょも清之輔さ、こなだのこの新しい言葉は実際の暮らしの中で役に立つべか? 実際の生活さ役立ってこそ言葉って言えんだべげんじょも、果たして、この文明開化語は…」
清之輔「だから、あなたに刀を売りつけたんであるす。文明開化語で売りつけたんであるす。そして、あなたは刀を買うと言うす。分かるか、どうぞ。文明開化語でも物の売買をする事ができるす」
虎三郎「そうすっと刀を売るっつったのは、あれは文明開化語の実験だったのか」
清之輔「はいす」
虎三郎「どうりで、あんまれ安すぎると思った」
清之輔「許すせ、どうぞ」
虎三郎「えつもだど、ごせっぱらやぐどごだげんじょも(=腹を立てるところだが)こなだの熱心さに敬意を表して、オレは、ごせやがねえごどにした(=怒らないことにした)。したげんじょも清之輔さ、こなだあ、えまっと実験した方がよかんべ(=もっと実験すべきだ)」
清之輔「そうすか?」
虎三郎「そうす。文明開化語で人どケンカできっか、人を説得できっか、それから、おなごを口説く事ができっかと、そういう事をいろいろと試してみた方がよかんべえ」
清之輔「同感す」
虎三郎「文明開化語で、ぬすっとできっかな?」
清之輔「はあ?」
虎三郎「いや、こっちの事で。そんじゃ、あんばあ」
清之輔「あなたのご助言に感謝するす、どうぞ」
虎三郎「気遣い、いるぬ。いるぬ」部屋を出ていった。
清之輔「文明開化語でケンカをする事ができるか。説得し、口説く事ができるか」
重左衛門「清之輔。(鹿児島弁で)困ったことが起きた。南郷家の守り刀がおっとられた(=守り刀が盗まれた)。(鹿児島弁で)もう駄目だ! とうとう南郷家は潰れてしまった」
清之輔「騒ぐぬ。刀ならここにあるす」
重左衛門「おおっ! そいどんから、ないごて(=しかし、どうして)、こん刀ここに…」
清之輔「『刀、刀』と騒ぐぬ。大体、南郷家の当主は、この私す。守り刀が当主の座敷にあるのは当然す。文句があるか、どうぞ」
重左衛門「清之輔!」
清之輔「それに、この文明開化の世の中で『刀、刀』と騒ぐ、あなたの気持ちが分かるぬ。刀は古道具屋に売るせ」
重左衛門「こ…こしゃくな…! そこに直れ! ぶった斬るど~!」
清之輔「あなたの腕で、この清之輔を斬る事ができるか、どうぞ」
重左衛門「こん、けなぶいもんめが!(=馬鹿にする気か!)」
清之輔「斬るせ、どうぞ」
公民「まあまあ、まあまあ…さっきから、どうも騒がしい思ってたんどすけど、案の定や! 舅と婿の口争いは、もう、かないまへんな! お光さんがかわいそうやおまへんか」
重左衛門「そいどんから、このわろは…(=しかし、こ奴が!)」
公民「御上はんのお気持ち、このワテがよう分かってますさかいに」
清之輔「公民先生のねらいは何すか? ただ、酒を飲むたいだけの居候すか? あるいは、お光に惚れる色事師すか」
重左衛門「清之輔! こん人は、お前の国学教授じゃなかったつか!」
清之輔「『酒を飲むせ』っちゅうが、その酒はワシの俸給で買うす。そう気やすく『酒を飲むせ』と言うぬ」
公民「御上はん! これは、いかい侮辱どす! その刀、ワテに貸しとくんなはれ! ワテな、この人と刺し違えて死にますさかいに! 京の公家を甘(あも)う見たら、あきまへんで!」
重左衛門「まあまあ、まあまあ…」
清之輔は部屋を飛び出して行き、奉公人部屋へ。「おふみ、こっちへ来るせ」
ふみ「は~ん、旦那さあ、ぽんぽこ減ったんだねは」
ちよやたねも目を覚ます。
清之輔「ふみがこの屋敷へ来てどれぐらいになるか?」
ふみ「もうちょびっとで2か月だこんだ」
清之輔「長い、2か月す」
ふみ「オラには、あっという間だったべなす」
清之輔「眠るぬ夜が続き、それで長く感じるす」
ふみ「旦那さあ、今夜は、へんちぐりんなぐえに訛ってるな」
清之輔「なぜ、眠るぬ夜が続くか」
ふみ「なしてだべ?」
清之輔「ある娘の顔が目の前に浮かぶす。そうするともう眠るぬ。ふみ、助けてくれるせ」
ふみ「ある娘? 分がった! ちよちゃんの事だな。間こさ入って仲ば取り持てじゅうだな。やんだなし! おがださあさ、悪いから」
清之輔「ふみは一軒家に住むす」
加津が立ち聞きして驚く。
清之輔「ふみは、その一軒家の女あるじになるす」
重左衛門、公民、たね、ちよも聞き耳を立てる。
ふみ「旦那さあ、オラば口説いてんのか?」
清之輔「そうす! 分かるすか?」
ふみ「分がるどころではねえ! オラ、あぎれだ!」
光「どげんしたとな」
加津「奥様、茶の間にお入りになってはなりませぬ」
光「ないごてな?」
光を止める加津。
光「お加津どん…」
加津「実は旦那様が、ふみどんを口説きになりまして…いえ、ふみどんは見事に断ったのでございますが」
光「あらよ~…」立ちくらみを起こす。
清之輔「許すせ、ふみ。今のは文明開化語の実験す。今、ワシが話す新しい言葉で、おなごを口説く事ができるか、その実験す。おなごも口説くぬ言葉では物の役に立つぬからであるす。御上さんに公民先生、許すせ、どうぞ。お二人にケンカを売る、それも実験す。これまたケンカも売るぬ言葉では実用にならぬからであるす。みんな、私が話す言葉、分かるすか? 分かるせ、どうぞ。明日、この文明開化語を持ち、田中不二麿閣下にお目にかかるす。みんな、この言葉が田中閣下に分かると思うすか? 誰でもいいっす。分かると思うと言うせ!」
大きくうなずくふみたち。笑っている清之輔。
<ゆんべな、旦那さあの実験には、たまげだ。ウソど分がった今でも、むながらドキドキしてえっこっだ(=胸がドキドキしている)。オラもたまげだけんども、おがださあは、まっと、たまげて寝込んでしまっただよ。今朝方、旦那さあは日本晴れの顔こして「昼間には戻るす」と言って、お役所さ出かけられた。その昼間さ、ちけえころ、ゆんべなから、ゆぐかたすれずさなってた虎三郎(とらじゃぶろう)さから手紙こ、とでえた>
修一郎「今よ、門のみあでよ、旦那様のおきゃありを待っとったら、8つか9つぐれあな子供がこんなものを持ってきたでよ。その子が言うにはよ、四谷のポリス屯所のみやで遊んどったら屯所の窓から、これが落ちてきたそうであわ。駄賃を1銭やっといたでよ、後できゃあしてちょうよ」
”麹町善國寺在
南郷家皆々様”
と書かれた折り畳まれた紙。端に小さく”虎”と書かれている。
加津が手紙を広げる。「『南郷清之輔考案になる文明開化語にて押し込み強盗できるか否か試さんと思い立ち、昨夜、四谷の某氏邸宅に押し入り候ところ、やはり文明開化語にては、ふだんの迫力を欠き、思わず怯(ひる)むところを急を聞き駆けつけし、ポリス数名により、お縄をちょうだいつかまつり候段、まことに面目なき次第に御座候。屯所の壁を眺めつつ、つらつら思うに万人(ばんにん)の使用する言葉を個人の力で改革せんとするは、もともと不可能事で御座候』」
虎三郎「万人のものは万人の力を集めて改革するが最上の策に御座候。そのためには一人一人が己(おの)が言葉の質をわずかでも高めていくほか、手段は一切これあるまじと思いおり候。己が言葉の質をわずかでも高めたる日本人が…」傷だらけで牢?に入っている。
加津「『千人より万人集えば、やがてそこに理想の全国統一話し言葉が自然に誕生するは理の当然に御座候。以上、ポリスの目を盗みつつ、したたむ。虎三郎』」
太吉が重太郎を抱えて裏口に走ってきた。
重太郎「おっちゃん、戻いやったど」
太吉「今、善国寺谷ば登りちるどごでさね!」
いつものように出迎える家族と奉公人たち。
清之輔「御一新の前、我が国の言葉は、こうであるすたす。300の殿様が国境(くにざかい)を設けるすた。そのためにお国訛りができるすた。これは当時としては、しかたがないすた。しかし、皆さん、御一新以来、我が国の国境は、すべて取り払われるすた。我が国は一つの国になるすたす。そこで言葉も一つにならねばならないす!」人力車を降り、歩きながら話し、そのまま家の中へ。
異変を察知するみんな。
加津「弥平殿、お役所で何があったのでございますか? 旦那様のあの文明開化語が田中閣下のお気に召さなかったのでございますか?」
弥平「たっぷりと1時間は、ごしゃがれでえだたようでがまちゃ(=怒られていたようです)。それから、学務局っつうどこがやめになったどがで…」
加津「学務局が廃止!?」
弥平「はい。旦那さあの机も、ねぐなった…!」
加津「お机がない!?」
家の中に入ってもしゃべり続ける清之輔。「一つの国に一つの言葉、それが、この南郷の理想す。閣下、この南郷が考案するすた文明開化語は奥羽の人々にも東海道、中山道、山陰山陽、四国、九州の人々にも、たやすく覚える事ができる、まさに打ち出の小槌!」
その後
南郷清之輔
二十年後の明治二十七年
東京本郷の瘋狂院で死亡
南郷光
明治十三年 鹿児島で病没
南郷重太郎
明治二十七年 日清戦争に
出征 旅順口にて戦死
秋山加津
南郷家に従って鹿児島に
おもむき裁縫塾を開く
明治二十年死亡
高橋たね
吉原に戻り飯炊きをつづける
没年不詳
御田ちよ
吉原でオイランとなる
明治十五年 客と心中
広澤修一郎
明治十四年 東京で代書業開業
翌年吉原でさるオイランと心中
築館弥平
東京瘋狂院雑役夫として
明治二十八年まで在院
以後の消息不明
江本太吉
明治十六年 両国で大喰い
競争に出場し急死
裏辻芝亭公民
明治三十五年 某元老邸の
書生部屋で病死
南郷重左衛門
明治十年 西南戦争に参加
田原坂にて戦死
若林虎三郎
福島自由党設立に参加
福島事件で行方不明
大竹ふみ
山形市内の造酒屋に嫁ぐ
昭和十四年 老衰で死去
最終回(終)
ん~、なんとも悲しいというか…ん~…でも、これ見て、「チョッちゃん」見ると俊道と泰輔の関係性がより面白く感じる…はずだったのに! 川谷拓三さんの「チョッちゃん」降板のケガの原因がバラエティ番組らしいけど、昭和のバラエティはムチャするからなあ(-_-;)
このドラマ、どうしてもネイティブな人にやってほしかったという思いが消えず…佐藤慶さんだけ福島出身で、あともうちょっと東北人いねがったのが!
「おしん」見てた時、別に方言をうまいとか下手とか思わず見てたんだけど、松造が登場した時に「絶対この人、本物の東北人だ!」と思ったら、方言指導もされた大久保正信さんでやっぱりネイティブの人は説得力がすごい。だからこだわってほしかった。
ドラマとしては面白かった。しかし、何とも後味が…
