徒然好きなもの

ドラマの感想など

【ネタバレ】國語元年(3)

NHK  1985年6月22日

 

あらすじ

お国なまりを直すには、口形練習しかないと張り切る清之輔(川谷拓三)だったが、意外な問題が立ち上がった。公民(すまけい)が珍しくすいかを土産に帰ってきて、重左衛門(浜村純)の大好物とあって修一郎(大橋吾郎)が呼びに言った。「だんなさま、モモを召し上がれ」。名古屋では、うりもすいかも“モモ”と呼んでいた。いくら口形練習をしても、土地によって呼び名が違うもの、つまり“モモ”は“スイカ”にはならないのだ。

2025.5.16 BSプレミアム4K録画

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ドラマ人間模様アンコール

 

作:井上ひさし

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音楽:宇野誠一郎

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演奏:アンサンブルファンタジア

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タイトル画:山藤章二

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時代考証:小野一成

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南郷清之輔:川谷拓三…字幕水色

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大竹ふみ:石田えり…字幕黄色

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南郷重左衛門:浜村純

広澤修一郎:大橋吾郎

江本太吉:松熊信義

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高橋たね:賀原夏子

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築館弥平:名古屋章

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裏辻芝亭公民:すまけい

御田ちよ:島田歌穂

南郷重太郎:岡田二三

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若林虎三郎:佐藤慶

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南郷光:ちあきなおみ

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秋山加津:山岡久乃

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制作:岡田勝

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演出:菅野高至

 

毎回がっつり固定メンバーでやってるのがすごい。

 

ふみ・山形弁で<おどちゃとかがちゃ、会津出のぬすびと・若林虎三郎(とらじゃぶろう)さあが御門の脇の御長屋さ寝泊まりするようさなってがら5日(えづか)たった(=五日たった)こった。虎三郎さの会津訛りは、ろぐすたまに分がんね(=ろくろく分かんない)。オラの育った米沢(よねじゃわ)会津どは間こさ飯豊山(ええでさん)があるだけだじゅうに、こだえに訛りが違うとは、たまげた話だもや>

 

それにしても、東北訛りだけで4人いるのがレア! 普通は東北訛りで一括りにされちゃうからね。だけど、東北訛りといっても微妙に違って、私は、津軽、遠野、米沢、会津の中では遠野が一番近いけど、遠野ともやっぱり違うんだよな。

 

夜、手紙を書いていたふみが物音に気付く。

 

ふみ「ちよちゃ、起ぎでくほ」

ちよ・東京弁で「う…う~ん」

ふみ「ちよちゃ、起ぎでくほ」

ちよ「うう…」

ふみ「台所(だえどご)で音がしたんだげんどもす…」

ちよ「何だってんだよ? せっかくいい夢見てたのに」

ふみ「台所さ誰が、えるんだでば。ぬすびどでは、あんめえが?」

ちよ「ぬすっと? あ~、ぬすっとなら若林虎三郎という、れっきとしたのが、とうの昔に住み込んでんじゃないのさ」

 

たね・東京弁で「ほら、あの京都のネズミがよ、また酒をくすねに忍び込んだんじゃないのかい?」

ふみ「京都のネズミじゅうど…あの?」

たね「あのお公家。公民(きんたみ)先生」

ふみ「ほだな。それは、あっかもしんねな」

ちよ「あ~…」体を起こして、ふみと台所をのぞき見。

 

虎三郎がおひつを近くに置き、ごはんを食べていた。

ふみ「虎三郎さあだ」

虎三郎・会津弁で「うえ~!」ご飯を噴き出し、せき込む。

3人が慌てて起きてきて、ふみが虎三郎の背中をさすり、たねがお茶を出す。

虎三郎「あねっちゃだつ、起ごしてすまったようだな。悪(わり)ごどした。ごちそうさまでした。仕事(すごど)の前にまず腹ごしらえしておがねばな。ほんじゃ、あんばあ」頭を下げ、出ていこうとする。「あれ…えづの間にやら雨っぷりだな。悪いけんじょ、からがさ一つ借りでいぐがらな」

 

たね「ちょ…ちょちょちょ、ちょっと、ちょっと待った、虎三郎さんよ。お前さん、今、仕事とか何とかお言いだね?」

虎三郎「行ったげんちょ、それがなじょした?」

たね「だって、お前さん、この夜更けに何の仕事だよ? またどっかへ押し込もうってんだろ?」

虎三郎「しかたあんめえ。えづまでも遊んでるわげにもえがねえべ」

 

ちよがふみに何事か耳打ち。

 

たね「その番傘さして、あぐほ、かかれちゃ困るんだよ!(=悪事をされては困る)」

虎三郎「あぐほ? 何つったんだ? 今」

たね「ちょっとお貸しよ」番傘を広げる。「ほら。仕事先へこの傘をおっぽってかれたりしたら旦那様のお名に傷がつくよ!」

 

麹町善國寺谷

南郷

 

加津が起きてきた。東京弁で「虎三郎殿! 虎三郎殿。旦那様に、また、ご隠居様や奥様に何のご挨拶もなく出てお行きになるというのは、いかがなものでございましょうか」

虎三郎「(舌打ちして)よくまあ、立派なごと、かっちゃべる、あね様だつだごど」

 

清之輔の部屋

清之輔・長州弁で「しん酌なしにお尋ね申すでありますがのんた。あん様の、その会津訛り、東京で通じますかのう?」

虎三郎「あんまし通じねえようだな。まあ、こうやって今みてえにゆるこぐしゃべれば通じねえ事もねえのだべげんじょも、オラ、仕事の時は、ぐいらと(=突然に)押し込むし、相手も突然、押し込まれるもんだから、どうしても、そごで話は、こごらけるわな」

清之輔「コゴラケル?」

虎三郎「あ~…もしゃげる」

清之輔「モシャ…?」

虎三郎「も…もじゃけるわげだな。今だって、オレの話ど、こなだの話、こだふうに、ごだまぜになっちまったべ? それをこごらけるという」

清之輔「会津訛りでは押し入る度に話がもつれる」

虎三郎「んだ。もつれるの。東京さ出張って来てがら2度ばかし押し込んだんだげんじょも2度とも話は通じねがったもんな。3度目がここの家で、じぇねことったのは、ここの家が始まりだ」

清之輔「へえでも、あん様は20円持っちょられましたがのう。青森県の斗南(となみ)で苦労しとられる、かっての朋輩衆(ほうばいしゅう)に送ろうとなされた、あの20円、どこで手に入れなさったのかのう?」

虎三郎「おとっつぁまの形見の印籠、上野広小路の古道具屋さ売って、こしやえただ」鼻をすする。「あんどぎゃあ、思わず知らず、なだみ(=涙)、こぼっちゃ」

 

清之輔「日本人は一人残らず、お国訛りちゅう厄介千万なものを背負うて生きちょるのでありますよ。このお国訛りを早(はよ)う、あっけなくせんと(=早くなくさないと)いつまでも不便至極でありますのうた。いや、そればかりでのうて、第一、日本のお国が立ちいかんのでありますよ。そこで、この南郷清之輔が一方法を案じましてのう」

虎三郎「あ~『あいうえお、かきくけこ』っつう、あのくちびろ稽古(=唇稽古・口形練習)だな」

清之輔「口形(こうけい)練習。文部少輔(しょうゆう)・田中不二麿(ふじまろ)閣下に申し上げたところ、おおごと、お喜びになられてのう。『南郷君、そりゃまあ、ええところに気が付いたでよお。その方法を更に推し進めてちょうでえよ。途中で手え抜いたりしちゃ嫌だぞえも』と言うとられたのでありますよ。田中閣下は名古屋のご出身でなも」

虎三郎「ナモ?」

清之輔「いや、のんた。役所でも名古屋訛り丸出しでありますよ。どうじゃろうのう。あん様も口形練習をなされちゃ?」

虎三郎「そんだら面倒くせえ事、やっちゃくねえな、オラ」

清之輔「面倒くせえちゅうてものんた言葉ちゅうもんは人間が一生使い続けねばならんもので大切な道具でありましょうがのう。そりゃ、ちいた面倒しかろうが時には手間暇かけて、この言葉ちゅう道具をピ~カピカに磨き上げるのも大事(でえじ)なことでありますよ。何よりも、あん様、その会津訛りではのんた、仕事がうまくいきませんかい」

 

虎三郎「ほんでね。あじことは、いんねえ(=心配はいらない)みたえだな。オレは、いっそ、ええ事、考えたんだから」

清之輔「いい事?」

虎三郎「オレは、ちっちゃこい時から神童と呼ばれていたぐれえでな、時々、おもしぇ事、思いつぐんだ。ほら、文語体っつうの、あんべ?」

清之輔「文語体? おお、文章や記録などに使うやつでありますのう」

虎三郎「文語体なら日本国中、どこででも通じるべ? なあ?」

清之輔「そりゃ、書き言葉じゃかい、どこにでも通じる。じゃが、今、私らが問題にしちょるのは話し言葉の全国統一ちゅう事でのんた」

虎三郎「書ぎ言葉を話し言葉として使ったって悪い事あんめえ。文句あんのか?」

清之輔「いや、別にねえがのう。じゃが…」

虎三郎「ほんで、オリャ、その文語体の中の書簡体で仕事をしる事にしたんだ」

清之輔「書簡体ちゅうと手紙の文章の事でありますか?」

 

うなずいた虎三郎がいきなり刀を抜き、清之輔に突きつける。「『前略』。『前略』と、こう言って官員の家さ押し込むわげだな。まあ、あとは、そん時の気分すでえで今だったらば『時下(じか)、梅雨の候(こう)、陰うつ濛々(もうもう)として耐えかね候ところ、貴殿には日々、国家のために御尽力なされ候段、感謝の至りに御座候』と、おけはくの1つや2つ(=お追従の一つ二つ)も言うのす」

清之輔「それで『金を出せ』ちゅうのは、どの辺に?」

虎三郎「『さて、まことに申しにくき事に候えども、それがしにただいま金20円、拝借できまじくや。何とぞ事情御賢察下され、御承諾のほど、切願つかまつり候』」

清之輔「いかにものう」

虎三郎「ほんで、じぇねこ、とったらば『早々頓首』つって、さっさと逃げるわげだな。ほら、書簡体だったらば、ちゃんと話は通ずんべえ?」

清之輔「確かに巧みな魂胆じゃ」

虎三郎「ほ~らみろ、降参したべ」

うなずく清之輔に刀を鞘に納める虎三郎。

 

清之輔「あ…うん…じゃがの何のかんの言うても書き言葉が口から出る時は、そりゃもう話し言葉に変わっちょる。相手に文字でのうて、声で伝わるわけじゃ。そんならやっぱり声から訛りを取り除かねばならんのでありますよ」

虎三郎「そうしっと、今、書簡体でしゃべった時もオレは訛っていただべか?」

清之輔「だいぶん訛った手紙でありましたのう」

虎三郎「やっぱし…」

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結構長いシーンだったな。二人向き合って座っていると「チョッちゃん」を思い出す。立場が全然違うけど。

 

<おどちゃと、かがちゃ。今日は一のつぐ日で、お役所は休み。旦那様さあは一日じゅう、お屋敷(やすぎ)で書見(しょけん)なされでえだたよ>

 

男たちは本を広げて虫干し作業。

 

<おどちゃと、かがちゃ。ところで、ちょう、めんずらしいことが2つあったけず。梅雨のさなかだじゅうに空にカラリど晴れだのが1つ>

 

ちょう、は超じゃなく、今日ね。

 

公民・京都弁で「表通りの八百屋はんに、はやなりのスイカが出とりましたんや。よう冷えとりまっせ。おたねはん、包丁にまな板、貸してくれはらしまへんか?」両手にスイカを1つずつ提げている。

 

<公民さあが、おみゃげば買って帰(けえ)られるなじょて、まんず、たまげだごど! 何か悪い事でも起ごるんであんめえが>

 

清之輔「ち~っと根詰めて書見したもので目がよわってのうた。へえでも、つるいの水(=井戸水)で洗うたら、ちびっとじゃが、ようなりましたがの」

公民「これが出回るようになると、いよいよ梅雨明けどすな」

清之輔「お~、緑色が目にしみるようじゃ。お~、よう冷えちょる」

公民「今、切りますさかいにお上がりやす」

たね「男しゅが包丁持ったりしちゃいけねえよ。アタイがいるってのに、もう…おなごしゅに恥かかせねえでおくんなせえ」

 

加津「こちらへおいであそばし。今、ここ、片づけますから」

公民「すんまへんな。かえってお仕事の邪魔してしもうたようどすな」

加津「いえいえ、そろそろおやつにしようかと奥様とお話していたところでございました」

女たちは繕い物をしていたが片づけた。

 

光(みつ)・鹿児島弁で「みごっかスクワ。あいがとうもうしあげもうす(=見事な西瓜、ありがとうございます)」

公民「めっそうな。ほんのおしるしで。日ごろ、えらいお世話になってますさかい、そのお返しどすがな」

光「おかてこって、ございもんどな(=お固いことですね)。スクワは、うちん御上(おんじょ)さのがっついよかもんでございもんが」

公民「ヨカモン?」

清之輔「好物のことでのうた」

光「スクワを見いやっと御上さの、めんつんたまの色が変わいもすと」

公民「メンツン…タマ?」

光「めんつんたま」

公民「はあ、はあ、はあ…」

清之輔「スイカを見ると、ととさは敵にでも出会うたような思い詰めた、めんつんたまになるのでありますよ。いっぽどスイカが好きなんじゃろうのう」

公民「いや、そうどしたか。ほなら、ご隠居はんには、いっち、でっつい(=もっとも大きい)のを差し上げなあかんな。おたねはん。1切れだけ、いかく切ってや(=大きく切って!)」

 

台所

たね「へい。今日のいそてき、バカに威勢がいいね」

ふみ「イソテキ?」

たね「居候の事だよ!」

 

雷鳴

 

たね「あれ! ゴロゴロサマだ」

ふみ「ゴロゴロ? ああ、オガミナリサマの事だな」

加津「お天気がどうやら心もとなくなって参りましたね」

たね「雲行きが怪しいとは、この事だい」

 

雨が降り出した。

 

洗濯物を取り込むたねとぶつかってしまったふみ。「ああ~!」

 

たね「ひ~、どっこいしょっと」

 

切り分けたスイカを食べている公民。

清之輔「ご大儀、ご大儀。さあ、こっちへ上がって、スイカのごっそうに呼ばれたらどうじゃ? おい、広澤。御上さにも、そう言うてきてや」

広澤・名古屋弁で「へい」

 

あら? 先週までは字幕は”修一郎”だったような。どっちでもいいんだけど。

 

清之輔「重太郎と太吉の顔が見えんのう。2人ともどうしちゃったのかのう?」

弥平・遠野弁で「今しがたまで裏の原っぱで『チェスト! バカたん! チェスト! バカ!』…と、やっておられたようだべなもす」

広げた本を乗せていた戸板を落とす。

広澤「あっ! ああっ!」足の上に乗って痛がる。

弥平「呼んでくっぺか?」

清之輔「ああ…ええわいや。そのうち戻ってくるじゃろ。さあ、上がって、上がって」

弥平「へい」

 

広澤は重左衛門の部屋へ。「ご隠居様。ご隠居様、お休みかなも?」

重左衛門・鹿児島弁で「あ…あっ、ああ…あ~、ちょっと、つんねった(=ちょっと眠った)」

広澤「雨になりましたであも」

重左衛門「そのごっあっとな」

広澤「雨降り続きで往生しますでよ」

重左衛門「ああ、のさんなあ(=アア、困るな)」

広澤「え~、旦那様が『モモを召しあがれ』とおっしゃられておりゃすが」

重左衛門「ん? モモ?」

広澤「ひゃあ。モモですがなも」

重左衛門「モモは、ばっかいわ好かん。寝とったほがよか」

広澤「ひゃあ」

 

雷鳴

 

それぞれスイカを食べる奉公人たち。

 

広澤「ご隠居様に声をお掛けましたがなも『寝ていた方がよい』とおっしゃられてとりゃしたがなも」

清之輔「ほう、めったないことじゃのう。ほいたら、おんしが…」

 

雷鳴

 

光「きのちか、きのちか(=くわばら、くわばら)。重太郎は、どこづ行ったとじゃろかい?」

清之輔「太吉が一緒じゃ。心配いらんがの。それいなことより御上さがこれを食わんでもええと言ちょるのがのんた」

光「珍しか…」

重左衛門が起きてきた。「(鹿児島弁で)蒸し暑いのう」

 

また字幕ないのか!

 

重左衛門「いどころねしちょったや(=うたた寝していたら)汗いっぺえじゃ。あっ、オイのついだな、ひやがったが?(=わしの褌、乾いたかな?)」

加津「はい、ただいま」ちよに指示。

 

重左衛門「じゅもね!(=けしからん!!) スクワ食っちょっどか!」

清之輔「公民先生のおごりでありますがのう」

重左衛門「何ごと教えてくれん? スクワはオイのよかもんじゃ! ええい、腹がきわっ!」

清之輔「広澤に呼びに行かせたでありますがのう。ほえたら、御上さ『寝とった方がええ』とおっしゃったでありましょうが」

重左衛門「広澤は『モモ』ち言っちょったぞ」

清之輔「モモ!? 広澤、ホンマに『モモ』ちゅうたのかの?」

広澤「はあ…」

 

清之輔「なして『モモ』ちゅうた? これは、どこから見てもスイカじゃろうが」

広澤「はあ…それがなも名古屋ではウリもスイカもカキもアケビも、それからナシもスモモもみんなモモと呼ぶぞえも。ああ、やっぱり『スイカ』って言うべきやったきゃあも。ああ、オレは、やっぱりバカだがね。もろ。おおきに御無礼しました!」

 

前回、梨って言ってたよ。

 

重左衛門「あ~、ばったいならん名古屋訛りじゃ(=どうしようもない名古屋訛りだ)」

加津がまだ食べていないスイカを光に渡し、光から重左衛門へ。

重左衛門はスイカにかぶりつく。「うん。オレのついだな、なかが?」

 

加津「ちよさんにふみさん、まだ見つかりませぬか?」

ふみ「あの『ついだな』じゅうど、あの…何だべが?」

加津「『はだまき』の事でございますよ」

たね「そうだよ。『したおび』だよ」

公民「京では『したのもの』どすな」

清之輔「山口では『へこ』じゃ。会津では何ちゅうとるでありますかのう?」

虎三郎「『へこし』」

広澤「名古屋では『まわし』だぎゃあも」

弥平「遠野では『ふんどす』。ふんどす」

ちよ「ほれ、ごらん。やっぱりワッチの言ったとおりだったろ」

ふみ「んだったな」

加津「どうしました? ご隠居様のはだまきがどうか致しましたか?」

ふみ「はえ。なんぼ捜したって、ご隠居さあの、けつわりきんかくしが見えねえのす」

ギョッとする一同。

 

太吉・津軽弁で「や~、ハハハハハ…」重太郎とそれぞれほっかむりして帰ってきた。

重太郎・鹿児島弁で「チェスト!」

太吉「うわ~! 坊ちゃま、なすねん、そろほどつえいのがね(=何故にそんなに強いのか)。だあ~!」倒れるふり。

 

ふみ「こら~! 旦那さあの、けつわりきんかくしば、てっぺんぶくろさしちゃわがんねべ(=頭巾にしては駄目だ)! 返(けえ)してくほ!」

重左衛門「ハハハ、重太郎のやつは、ひどか…ばっちょ(=ひどい、いたずらっ子)じゃ」目を細めて、清之輔と笑っている。

 

加津やちよが重太郎を着替えさせている。

 

虎三郎が清之輔の前へ。「(公民に)ちょっと、どかへ」

公民「へ?」

虎三郎「(公民に)話があんだから、ちょっと、どかへ…清之輔さ、こなだあ、こういう事、言っていただたな。『口の形をはっきりさせて、ものを言うようにすれば、やがてお国訛りは無くなってしまう』そう言っていただたな?」

清之輔「そのとおりじゃ。ワシの発案になる口形練習が全国統一話し言葉を成立させるのでありますよ。来年から全国の小学で、この口形練習が正課として取り入れられることになるじゃろう。文部省から全国の小学へ、その旨を認めた通達が送られる手はずになっちょる」

虎三郎「そげな通達、出したりしたら、わがんねぞ」

清之輔「なしてじゃ?」

虎三郎「こなだの御説が破産したから、オレは、そう言ってんだ」

清之輔「ワシの口形練習法が、は…破産? おたんちん言うのは、やめせえや!」

虎三郎「お国訛りの中さは、なんぼ、くちびろ稽古をしただて直んねえものがあんぞ。名古屋ではスイカもモモも『モモ』って言うんでねえか。これがくちびろ稽古で直っか? それから男が、えっと下さ、はぐものを米沢の人は『けつわりきんかくし』ど言ってえる。そういう人たちが何千回、何万回、くちびろ稽古したたて『けつわりきんかくし』は、いつまでたったって、やっぱし『けつわりきんかくし』だべ。な? ここんとこの理屈が分がっか?」

公民「いや~、ホンマどすな。同じものでも、その土地、その土地によって呼び名の違うものが、ぎょうさん、おますな。例えば、今、ワテが『ジョジョ履いたトト食べとおすな』言うても誰も分かってくれはらしまへん。悲しゅうおすな。しゃあけど、これは、どうにもならん事どす。牛肉の事を『ジョジョ履いたトト』と呼ぶのは、京都のお人だけやさかいなあ」

虎三郎「うるせな。オレは今、大事なごど、しゃべってんだから」

公民「ほいかて、わての言うてる事、当たってるのとちゃいますか?」

 

虎三郎「まあまあ、つうどごだべな。で、清之輔さよ。オレは、くちびろ稽古しながら『どうも、おがしねえな、何だか変だぞい』と、ずっと首っ玉、傾けでえだたげんじょも、今、やっと分かったんだ。言葉っつうものは、どうも音ばっかしで成り立ってるわげでは、ねえみでえだ。土地土地によって同じものをさまざまに言うし、言葉の並べ方にしても…」

公民「文法どすな。へえ、文法規則どすな」

虎三郎「うん。文法規則も土地土地によって違う。な? だから、くちびろ稽古で、お国訛りは直んねえんではねえのがい?」

清之輔「じゃが、文部省は、ワシの提案を入れて南郷式口形練習法を全国の小学へ広めようとしておるのでのうた」

虎三郎「んだったら、そんなもの、やめちまえばよかんべ」

清之輔「ワシの立場ちゅうもんがのうなってしまうがのう…」

 

虎三郎「いや、どうも、ごちそうさまでした」そのまま外へ。

 

清之輔「弱ったもんじゃのう。どうすればええんじゃ…歯がいいのう。あがきがとれんがのう…(=どうにもならない…)」

 

重太郎「(鹿児島弁で)食べちゃった」

 

夜になっても雷鳴と雨。一晩中、考えていた清之輔だが、そのまま朝を迎えた。

光「さ、召し上がったもんせ」

清之輔「いらん」

光「いやしごろの、おまんさあが珍しかこ(=いやしん坊のあなたが珍しい…)」

清之輔「あとで食うが。光…」

光「はあ」

清之輔「役所を休むのは今日が初めてじゃ。休むちゅうのは、さめしい心持ちのもんじゃのう」

光「まれけんゆごあんど(=たまには良いですよ)」

清之輔「世の中から取り残されたようで…なんとのう心細いのう」光に手を伸ばすと、そっと手を重ねた。

 

廊下を走る重太郎。「バカたん!」

ふみ「きゃ~!」

 

また手を重ねる清之輔と光。

 

ふみ「きゃ~、参った~!」

重太郎「チェスト~!」

 

加津が封書を手にしている。「くれぐれも雨にぬらしたりしては、なりませぬよ」

 

文部少輔

田中不二麿閣下

    (病氣届在中)

 

弥平「はいはい」

加津「内懐の奥にしっかと納めていくのですよ」

弥平「はいはい」

加津「お役所のどなたにお渡しするのかお分かりでございましょうね?」

弥平「学務局の庶務課長さまで、はい」

加津「向こう様から何か聞かれた時は『旦那様は、ずる休み』などと正直に答えてはなりませぬ」

弥平「はいはい。スイガ食らって腹っぺえと申し上げもす」

加津「ただのスイカではなくて、腐りかけたスイカで下痢、それはもう見ていられぬようなお苦しみと申し上げて下さいましよ。お頼み申しましたよ」

弥平「はいはい」

 

門の前にいる公民。

♬奉公する身と 居候はんは 

つらい言葉を受け流す

「弥平はん。雨の中、御苦労はん。ワテもお供しまひょ。俥(くるま)出しいな。ワテがその俥に乗って、帰りに神田でジョジョ履いたトト買(こ)うてくるんどす。どうえ?」

弥平「やんた。オラ、やんてがまちゃ」

公民「清之輔はんにジョジョ履いたトト煮てさしあげようと思うとんのやけどな。炊きたてのおぬくで(=炊きたての御飯で)ジョジョ履いたトト、カミカミしとうみなはい。清之輔はん、たちまち元気ようならはります。おしたじは薄口がええな」

弥平「おめ様が、べごっこの肉、食いてえだげの事でねえべか」

公民「そりゃ、ワテかて、お相伴ぐらいしますがな」

弥平「おめ様、旦那さあの国学教授であたたな。うんだば、べごっこの肉がどうのこうの語ってる間に何が旦那さあに実のあっ事、教える方が先だべ。よがまっか、旦那さあがガタッと、がおったのは(=落胆したのは)何もかも、おめ様の責任でがんすよ!」

 

”がおった”は私の地元でも使うのですが、落胆、というより、疲れた、の意味で使ってた。不思議と東北各地で使われてて、意味は体調悪いだったり微妙に違う。

 

傘をさし、屋敷に戻ろうとする公民。

弥平「おいうえおの、くつびら稽古さ、始めだなは、おめ様でがんちゃ。オレのくつびらの中さ、指さ突っ込んで『あいうえおど言ってみろ』つったな、おめ様でがんちゃ。それがよくもまあ、会津の虎三郎さあの肩ば持でだもんでがっちゃ! やる事に事を欠いて、なんぼすたって、えらすぐねえごど!(=なんとも憎らしい!) えがなごったって、そんたなバガなはなすって、ねえもんだ!(=いかにこの世があろうとも、そんな馬鹿な話はない!) どごの世界(せげえ)に、そったな、えづまだそすて、そったなごどがあってえがべが! くさぐさの、からてっぺんは、きぐもきぎだぐねえ!(=沢山の口から出まかせは聞きたくない!) オラ、きっしゃっくめえでんのだ!(=カッカしてる!) あんまし、おどげんなてば! このカラぼんが吹きが!(=カラ吹き!)」

公民「カラぼんが吹き?」

弥平「うんだ! このあでずっぽ語り! ああ、清々とした。ハッ!」

公民「『あてずっぽう語り』? へい、おおきに」また歌い出す。

♬奉公する身と 居候はんは

つらい言葉を受け流す

ハ トンチキチンのコンチキチン

コンチキチンのトンチキチン ハ

 

夜、食事時

清之輔「公民先生の姿が見えんな。公民先生、どこかへ行きさいたのかいのう」

光「はあ…『いっと、すずいしを(=ちょっと硯石を)貸しゃったもんせ』ち言われもして。そいきい…」

清之輔「『硯(すずり)を貸せ』じゃと?」

光「はあ…」

加津「夕げの支度が出来ましたと声をおかけ申しましたんですけれども梨のつぶてなのでございます」

 

たね「食い意地の張ってる、あん人にしちゃ空前のこって。珍しいこともあるもんだ」

ちよ「本当。いつもお膳には一番槍をつけるくせにね」

 

清之輔「夕げのかわりに硯…?」

加津と光が目配せする。

光「おまんさあ、きゅ、だんぷをこもした(=貴方、今日、洋燈を買いました)」

加津「明るい明かりの下で旦那様にゆっくりお食事をして頂こうという奥様のお心根、お優しい事ではございませぬか」

 

たね「妻をめとらば薩摩のおなごだね。そこへいくってえとアタイたち下町組は、おきゃきゃのがらっぱちでいけねえや。気ぃつけな。売れ残るよ」

 

清之輔「ワシ、ちいと公民先生の様子を見てくるでのうた」

 

清之輔「公民先生」と部屋に入る。

 

屏風に大きく筆で文字が書かれていた。

 

清之輔「『世の中に 

絶えて言葉の なかりせば

人の心の

のどけからまし』」

 

屏風の前で公民の書に見入る清之輔。「世の中に全く言葉というものがなかったならば人の心は、あれやこれやと気をもむ事もなく、どんなにか穏やかであろうに。うん。立派に言い得ておるでありますよ。公民先生! 公民先生は、どちらにおいででありますかのう?」

玄関に立っている公民。

清之輔「いや、公民先生、ご外出でありますか?」

公民「いや…おおきに、お世話さんどした。屏風に一筆、書いておきましたさかいに、そやな、日本橋越後屋の番頭はんでも呼んで引き取らせておくれやっしゃ。100や200には、なりまっしゃろ。ほな、さいなら」

清之輔「待ってくれ、先生! 国学教授に出ていかれちゃワシが困るでありますよ! 」

公民「それでもワテ、結構、せわしない体どしてな。国学教授の口が3つ4つおまんのや」

清之輔「あん様に、あん様のご意見をお伺いしたいと思うておりましたところでのんた。じゃけ、ちいと待ってくれさんせ」

公民「ほう、ワテの考えが聞きたい言わはる。ワテはな、別に、あんたはんに、ごうがすけたわけや、おへんさかい(=腹を立てた、わけではない)、ワテの考えをって言わはるんどしたら、そら、なんぼでも申し上げますけどな。しゃあけどな、ワテ、ホンマにかないまへんわ」

 

みんなが清之介たちの会話を立ち聞きしている。

 

清之輔「ワシらに何かしくじりでもあっちょってでありましょうか?」

公民「さあ、それは、どないでっしゃろな。ただ、ワテは、あんたはんの国学教授のつもりで、おりやしたんやけんど、こちらはんの家の衆の中にはワテをイジマシイけないど(=イジマシイ居候)と思うとられるお人がぎょうさんいやはるようどす」

清之輔「イジマシイけないど?」

公民「意地汚い食客やて。ワテ、何でそないなアホくさい事、言われにゃあかんのやろ。アホかいな。へいへい、おおきに、おやかまっさんどした」

 

立ち聞きしていた人たちがそれぞれ去っていく。

 

清之輔「あん様はワシの国学教授じゃ。ワシは、ちびっとでも、あん様を居候じゃなどと思うた事ありゃせんがのう」

公民「そりゃ、あんたはんは、ものの道理の分かったお方どす。それはワテもよう分かっております。ほうかて、ものの道理の分からん、こんじょわるがゴテゴテいてるさかいに、もう、よう言わんわでござりまするわ」

 

それぞれなんとなく身に覚えのある奉公人たち。

 

清之輔が茶の間に入って来た。奉公人のスペースは一段下の板の間。

清之輔「皆に言うておくがのうた、ワシは、お上から全国統一話し言葉の制定ちゅう大切な仕事を仰せつかっちょるが、皆も、よう知っちょると思う。公民先生は、その仕事の参謀をお引き受け下さっておるのじゃかい、ワシにとっても、この南郷家にとっても大事なお客人。粗末に扱(あつこ)うては、罰が当たるがの」

 

あくびをする加津。

公民「お加津はん、ささや」

お銚子を公民のもとへ運ぶ。

公民「遅いやんか」手酌で飲み始める。

 

清之輔「ワシが苦労の口形練習は、なして破産したのでありましょうか」

公民「もうおきなはれ。せっかくのささが味のうなるやおへんが」

清之輔「ワシは、ひょっとこにも(=軽率にも)その土地にしかない言い方が、しこたまあるっちゅう事を忘れとったのでありますよ」

公民「ひつこいお人やな」

清之輔「そこでワシは今日一日、寝床の中で考えちょった。へえたら、ワシの得た結論は以下のごとくでありましたよ。すなわち全国統一話し言葉を早急に制定するには、どこでもええ。どこか適当な土地のお国訛りを選び、そのお国訛りに全国統一話し言葉の、どでえを求める事、これしか、なあのじゃなかろうか」

公民「いや~、偉いな。偉い! よう、そこに気が付きなはったな。ワテもホンマにそう思う」

清之輔「本当でありますか?」

公民「へえ。ワテはな、あんたはんが、ご自分の力でそこへ気が付かはるのを待ってたんどすえ。生徒はんが苦しみ抜きながら、ホンマの事へ、たどりつくのをしんきな思いしながら、じ~っと見てる。それがワテの教授法どす。へえ」

加津の冷めた目。

 

たね「つまり何にもしねえわけだわさ。楽ちんでいいやな」

ちよ「あたぼう。何にもしねえでいいんだったら、ワッチだって何かの教授になれそうだね」

ふみ「ちよちゃん、どげな教授がええべかな?」

たね「やあね。あくたれぐちの教授に決まってるよ」

ちよ「それは、おたねさんの、はまり役だよ」

加津「聞こえますよ。旦那様がせっかく、ご機嫌ようおなりあそばしたところでございますから、お静かに」

 

酔っ払ってきている清之介と公民。

清之輔「はて、そうなると問題はでありますな。え~、問題は…」

公民「問題なんかおまへんがな」

清之輔「全国統一話し言葉の、どでえとなる、お国訛りをどこのものにするか、ちゅうことでありますよ。どこか一つを選ぶ。これは難儀じゃ」

公民「別に難儀な事は、おへん」

清之輔「薩摩訛りにせんと御上さが、ごうたっぱらじゃろうし、名古屋訛りにせんと田中不二麿閣下がへそ曲げるじゃろうし…」

公民「ささのおいしい土地に決めなはったらえいが」

清之輔「ああっ、そねえな決め方もありますのんた」

公民「料理のおいしい土地の言葉でもええ」

清之輔「きれいなおなごしのしこたま、おる所の言葉なぞは、どねえなものでありましょうかのう」

公民「ええこと言わはる。この、すかんたこ! ハハハ…」

寝っ転がってしまう2人。

 

台所

たね「今の旦那様のお話だと全国統一話し言葉の、どでえになる、お国訛りは、どこのでも構わねえんでござんすかい?」

加津「そうおっしゃっておいででございましたね」

たね「それじゃ、江戸下町言葉が全国統一話し言葉になってもいいってわけだ」

ちよ「違(ちげ)えねえ。下町言葉は、ごうぎに景気がいいやね」

たね「万事が手っとり早くて、はっきりしてら。例えばの話が『泣いている』が『泣いてる』だろ。『書いておく』が『書いとく』。『今度』が『こんだ』。『この間』が『こないだ』。ねえ、ごうぎにあんた、節約だい」

ちよ「ひっかつぐ、ひったくる、ひっさらう、ひっちぎる、しっぱさむ、しっつく、しっぺがす、しんねじる。かあ~、威勢がよくて、ぐうたらべえのとこがねえよね」

たね「全国統一話し言葉は下町言葉がうってつけだよ。なあ。下町言葉を日本中が使ってみねえ。ええ? 日本のお国は節約のきいた威勢のいい、景気のいい国になる事、請け合いだい」

ちよ「ちがい…」

たね「なあ」

 

加津「ハハハハハハハ…同じ江戸言葉でも、お旗本衆の使った本江戸言葉の方が、はるかに格は上でございましょうね。ご瓦解以前、このお屋敷へもしばしば各藩の江戸御留守居役のお歴々がお越しあそばしたものでございましたよ。御留守居役がどんな御用があって、お越しになったかと申せば『口上集』という書物をこしらえるためでしてね。この『口上集』というのは、例えば仙台62万5,688石3斗5升8合ヒトつかみの伊達松平家のご家中がご参勤でお殿様のお供で江戸へおいでになる。その際、仙台訛り丸出しでは、ほかのご家中との意思の疎通もままならず、お役目は滞りがち。そればかりではない、笑い者にもなりかねない。そこで御留守居役や、そのご家来衆たちが山の手のお旗本衆の本江戸言葉をお習いあそばして『口上集』というものを編みなされたのでございます」

寝ていた清之輔が目を覚まし、体を起こす。

 

加津「『口上集』を開けば、例えば仙台のお国訛りの『そでがす』は山の手本江戸言葉では『さようでございますと言う』などと記されてありますので、どなたでも重宝なさいます。そして、この『口上集』を編むのは仙台藩だけではございません。すべてのお大名、お小名がこの『口上集』を編んでいらっしゃった、という事は山の手本江戸言葉が全国統一話し言葉のお役目を果たしていたのでございますね」

拍手するふみ。「お加津さ、オラが1年かがって、しゃべる分ば一息でグッグッとしゃべらえですまったでば!」

加津「それに何よりも日本は、お日様の昇るお国でございましょう。そのお日様を『おしさま』と訛る下町言葉は到底、日本全国統一話し言葉にふさわしいとは申されませぬよ」

たね「恐れいりまめ…」

ちよ「はじけまめ」

たね「こいつは、しっ込むより手はねえや」

空のお銚子を持って、外の洗い場へ行く女衆。

 

清之輔「江戸山の手言葉。いかにも…」感心したように何度もうなずく。

 

鶏の鳴き声。

 

井戸で顔を洗っていた清之輔が手を伸ばす。「広澤、手のごい。手のごいじゃちゅうとる」

広澤「まあ、聞いておくれあそばせ。お願いがあるでよ」

清之輔「手のごい、よこせちゅうのに」

広澤「全国統一話し言葉の、どでえあになる、お国訛りに名古屋言葉を使ってちょうでえあそばせ」

清之輔「手のごい。ひょうきんしちょらんで手のごい渡せ」

広澤「ひょうきんしとるわけじゃ、なあでも、真剣にお願いしとりますがや。オレなも名古屋の衆をいきゃいこと喜ばしてあげたいんでやわ。名古屋は、しょうとくにしなずいきず(=本当にパッとしない)の土地だでよ。ひょっとして名古屋言葉が日本の言葉にでもなったら、みんなウハウハ喜びよるで。ちょこっとお願いしてみたわいも」

清之輔「おんしはオレを強迫しようというんじゃの?」

広澤「オレは強迫なぞ、やっとうせんて。ただ…」

清之輔「ワシが『うん』と言わなんだら手のごいは渡さんちゅうんじゃのう?」

広澤「いや…そうでや」

清之輔「せいたら、もう手のごいは、いらん。ひとりでに乾いてしもうたわい」

 

厠前

清之輔「御上さ。御上さ…」上は着替えて、下はズボンをはかずにウロウロ。「はあ…はあ…はあ…はあ…」廊下にいたふみの隣に座り込むがもう一度、厠前へ。「御上さ…御上!」

重左衛門「あんな、清之輔。かごんま言葉を全国統一話し言葉ん土台に使(つこ)うてくいやれば、せっちんがい、いっきでっやっろう(=すぐ出てやろう)」

清之輔「御上さ、えいころはちべえに(=いいかげんに)して、つかさんせえ」

重左衛門がようやく出てきた。「じえしとん、頼んだぞ。そんかわい、書院、オイが、ざなかを(=わしの座敷を)清之輔い、明け渡すがいけんな」

すぐに厠に入る清之輔。

重左衛門「清之輔! オイが、ざなかは、よかざなかじゃっど。広か、きもつがよか、ざなかじゃっど。清之輔!」

ホッと一息つく清之輔。

厠の下窓が開き、太吉が顔をのぞかせた。「おはようごえす。ハハッ! 津軽言葉、よろすぐ」

清之輔「そげな所から何をしちょる! 早う閉めんか!」

太吉「あいす、あいす、分がれすた」厠に置かれていた紙を取る。

清之輔「太吉!」

太吉「津軽言葉、使ってけへ。旦那さのためだら火(す)さでも水(みんつ)さでも入(はえ)ら。んだで、オラの頼み聞いでけるが? 聞いでければ紙あげす」

スキを見て紙を奪おうとした清之輔だが、失敗。

太吉「フフフフッ…」

清之輔「はあ…のう、太吉。ワシには既に腹案がありますのじゃ。こげな所で無理は言わんもんじゃ」

太吉「紙がなければ本当にこまんべす(=お困りでしょう)」

清之輔「え~い、もう頼まん!」窓を閉めた。「光! 光は、おらんか? 光!」

光「はあ~」

 

清之輔「すまんが、紙を頼む」

光「かごんま言葉を使うてくいやったもんせ」また字幕なしか~「(鹿児島弁で)塵紙、すぐに持って来てあげましょう」

 

やっと出勤することになった清之輔。手を匂っているのは、手で…ってこと!?

 

光「行ったおさいじゃんせ」

清之輔「うん」

重太郎「かごんま言葉は、よか言葉じゃもんな!」

 

人力車に乗ろうとした清之輔。

弥平「あの~、なす…」

清之輔「遠野言葉の売り込みか?」

弥平「んだ」

清之輔「遠野言葉を採用してくれなければ俥は引かんちゅうんじゃな?」

弥平「そごまで、ありありど決めでえるわけでは、ながんすが、でぎる事なら…」

清之輔「できん」

弥平「うだが…」

清之輔「皆がそれぞれ自分の生まれ在所の訛りを大事にしちょるのは分かる。それが人情ちゅうもんでありましょう。じゃがな、弥平、ここがこらえどころじゃ。間もなく日本人全員のための話し言葉が出来上がるんじゃがい。それまで、ち~っと寂しかろうが辛抱しちょくれ」

弥平「へえ」

清之輔「うん」

 

人力車に乗り、出勤…という所に現れたのは虎三郎。刀を肩に担いでいる。「清之輔さ、会津(えああづ)言葉の事は何もかも、こなださ、まがしだ。会津言葉さ、意地くされしたら…」刀を半分抜く。「オラ、こなだのやろこと刺し違えで死ぬ!」

 

張り詰めた空気。重左衛門も刀を手にする!?

 

虎三郎「さあ、行がへえ! 弥平さ、行げったら行げ! ほら! 行ぐっし!」

 

人力車が走り出す。

 

<おどちゃと、かがちゃ、この続きは、また後便>

 

第三回(終)

 

山岡久乃さんのさすがのセリフ回し! 東北人なので鹿児島の言葉がとにかく難しく感じる。