NHK 1987年8月10日(月)
あらすじ
ようやく加津子(椎野愛)のギブスも外れ、蝶子(古村比呂)とみさ(由紀さおり)は嬉しい。まだ一人で歩くのには時間がかかりそうだが、退院の日も決まった。いよいよ退院の日、手伝いに来た連平(春風亭小朝)は、看護師のたま(もたいまさこ)と何かあるようだ。加津子が家に帰って来て、待ち受けていた泰輔(前田吟)、音吉(片岡鶴太郎)たちも招いて祝いの宴会。要(世良公則)は10年絶っていた酒を口にして…。
2025.8.18 NHKBS録画
脚本:金子成人
*
*
音楽:坂田晃一
*
語り:西田敏行
*
演奏:新室内楽協会
テーマ演奏:東京フィルハーモニー交響楽団
指揮:円光寺雅彦
*
考証:小野一成
医事指導:白石幸治郎
タイトル画:安野光雅
*
バイオリン指導:磯恒男
黒柳紀明
方言指導:曽川留三子
*
岩崎蝶子:古村比呂…字幕黄色
*
岩崎要:世良公則
*
北山みさ:由紀さおり
*
国松連平:春風亭小朝
*
中山音吉:片岡鶴太郎
*
黒木医師:大門正明
*
増田たま:もたいまさこ
岩崎加津子:椎野愛
*
中山はる:曽川留三子
梅花亭夢助:金原亭小駒
*
彦坂安乃:貝ますみ
横山里子:吉田やすこ
*
岩崎雅紀(まさのり):河野純平
早川プロ
劇団いろは
*
野々村富子:佐藤オリエ
*
野々村泰輔:前田吟
*
制作:小林猛
*
演出:榎戸崇泰
<今日、とうとう加津子ちゃんはギプスから解放されることになったんです>
右太もものギプスを黒木医師がはさみを入れて切った。「よし!と」
加津子は蝶子の顔を見上げてニッコリ。
たま「これから後は、お母さん、加津子ちゃんの脚を時々マッサージしてあげてくださいね」
蝶子「はい」
病院の廊下を加津子を背負って歩く蝶子と一緒に歩くみさ。
廊下の向こうから里子が声を掛けた。「加津(かっ)ちゃん! よかったね」
加津子「うん!」
蝶子「ありがとうございました」みさも一緒に頭を下げる。
里子「おめでとうございます」
加津子「ねえ、加津子、歩く練習したい」
蝶子「まだ無理なの」
加津子「歩きたい!」
みさ「ちょっと試しにいいんでない? ね」加津子を床におろす。「そっとだよ」
蝶子「そっとだよ」
みさ「ゆっくりだよ」
床に裸足で足をつけた加津子。右足を1歩踏み出し、左足を出そうとしたがよろけた。
みさ「あ!」
蝶子「あ!」
<歩くのは、まだ無理のようだね>
病室
加津子の左脚マッサージするみさ。「どうだい?」
加津子「ウフフ、いい気持ち」
みさ「ああ。早く歩けるようになるといいね」
加津子「ホントに歩けるようになる?」
みさ「なるさ」
加津子「けど、さっきは歩けなかったよ」
ドアが開き、蝶子が入って来た。「あ! あら。私もやるから」
みさ「ね、蝶ちゃん」
蝶子「ん?」
みさ「またちゃんと歩けるようになるしょ?」
蝶子「当たり前よ!」
みさ「したけど、ほれ、さっき転びそうになったもんだから」
蝶子「母さん。医者の妻のくせにそういうのも説明できないの? いい? 1か月以上も寝てたということは脚を使ってないっていうことでしょ? となると、筋肉も弱るし、第一、脚が歩き方を忘れるの」
みさ「ああ…」
蝶子「だから、最初は歩けないの」
みさ「ああ、そりゃあね、忘れてたら、うまくないもね」
蝶子「筋肉にも活力を与えるためにマッサージをし、歩く訓練もしなければならないの」
みさ「いやいや、そうだねえ。したけど、ホッとした」
蝶子「母さんには来てくれて、ホントに感謝してるのよ」
みさ「役に立った?」
蝶子「うん」
みさ「よかった」
加津子もニコニコ。
みさ「ウフフフ、貧乏クジ引いたの、お父さんだ。私だけ東京に出てきて、加津子ちゃんのそばにいて。ねえ! お父さん、恨んでるしょ? 今回、来てみて、蝶ちゃんのこと、母さん尊敬したもね」蝶子が左脚、みさは右脚をマッサージすべく、場所移動。
蝶子「尊敬かい?」
みさ「そう。いや、ひとつき付きっきりで看護したんだもの」
蝶子「母親だもの」
みさ「いや、したけど…私だったら、とってもダメだわ」
蝶子「そんなことないしょ」
みさ「いや~、なんもできないわ」
蝶子「なして?」
みさ「現にできなかったもの。蝶ちゃんが子供の頃、風邪ひいて寝込んだ時、私、なんもできなかったもね」
蝶子「いや、私、寝込んだことあった?」
みさ「3つか4つの頃だ」
蝶子「覚えてない」
みさ「アハハハ。したけど、加津子ちゃんはねえ、今回のこと、一生忘れるもんでないしょ。母さんにこんなに一生懸命看病してもらったことねえ。いや~、忘れるもんでない。蝶ちゃんがうらやましい」
蝶子「なして?」
みさ「いや、したって。私は蝶ちゃんに忘れられないようなこと、なんか残したんだろうかって。母の思い出っちゅうんかい? そういうもん、私は蝶ちゃんになんも残してないんでないかなって」
蝶子「看病なんかしなくても、私の中にちゃ~んと残してる」
みさ「ん?」
蝶子「母さんのことは、あふれるぐらいあるもね。数え上げたらキリないぐらいある。捨てたいぐらいあるもね!」
みさ「アハハ! いや…したら、うれしい」
うなずく蝶子。
ちょっと泣けるやりとり。
加津子「ねえ」
蝶子「ん?」
加津子「加津子、歩く練習したい」
蝶子「よし、やろうか!」
加津子「うん」
蝶子「ね!」加津子を抱き上げる。
みさ「大丈夫かい? そっとだよ」
蝶子「ベッドの周り歩いてみようね」
みさ「気を付けて」
蝶子「そっちの手、ベッドに置いて。ゆっくりね。急ぐことないんだからね。ゆっくり」
少しずつ歩き始める加津子。
みさ「そうだ、上手だ」
蝶子「ゆっくり…」
ドアが開き、要と坂上が入って来た。
要「や! あ、何だ! もう歩いてるのか!」
蝶子「今日、初めて!」
要「ああ、そうか」加津子の手を取る。「よし」
坂上「そ~れ!」
加津子が少しずつ歩く。
要「そうだ、そうだ」
坂上「そ~れ!」
加津子「疲れた」
要「あ、そうか。そうだな。よし! 急ぐことないもんね」加津子をベッドに座らせる。「よ~し、大丈夫か」
坂上「加津ちゃん、近々、退院だってねえ」
加津子「そうなの!」
要「ああ、そうなんだ!」
坂上「よかった、よかった!」
蝶子「坂上さんにも心配かけました」
坂上「なんの、なんの。お母さんも大変でしたねえ」
みさ「なんも、私なんか…」
要「よし! これで次の演奏会には晴れやかに突入できるな」
坂上「うん、そうだな」
蝶子「演奏会?」
要「ああ、決まったんだ、来月」
蝶子「そう!」
要「いい演奏ができそうだ」
坂上「…ったく、昨日まで、お前、ショボくれてたのに、ホントに演奏会となると、お前、子供だな」
蝶子「いや、鬼にもなるんだからねえ」
笑い声
<今日は加津子ちゃんの退院の日なんです>
病室から大きな風呂敷に包んだ布団を運ぶ連平と夢助。夢助のかぶる白い帽子は加津子ちゃんの?
夢助「よいしょ」
連平「よし」
夢助「エッホ、エッホ…」
連平「よいしょ」
廊下でたまとすれ違う。
連平「おた~まちゃん!」
ムッとした顔のまま振り向くたま。
連平「そんなとんがんないでよ!」
たま「別にとんがってません」
連平「あたしね、あんたに謝ろうと思ってんだよ」
たま「何を?」
連平「いつだったかさ、あんたをつい傷つけるようなこと言っちまって。知らなかったんだもん、独りもんだって」
2人の様子を見ていた夢助。「これ、あたしが持っていく」
連平「重たいよ」
夢助が一人で布団を運ぶ。
連平「ヘヘッ」
たま「何ですか?」
連平「え? いや、何ってさ、う~ん…つまり、あれよ、今日かぎり、あんたと悪口の言い合いすることもないかなと思うと、ちょっとね、こう、さみしくてさ。じゃ…」
歩き出したたまがふと振り返る。
ノーネクタイスーツの連平は東京の洗練された人っぽく見えた、今日は。
岩崎家の前で待っている泰輔。
音吉「まだですか?」
泰輔「うん。昼前には着くって言ってたんだけどな」
音吉「まだ昼前ですよ」
泰輔「だけど、もう昼だよ」
音吉「1分前だって昼前は昼前だ」
泰輔「音吉さん、あんた、何かい。俺に含むとこあんのか、何か」
音吉「お~っ、来た!」
泰輔「おう! みんなは? あ~、2人とも悪いね!」
音吉「いや~、ご苦労さま!」
安乃が先に荷物を持って岩崎家へ。次に夢助が一人で布団を抱え、連平が扇子であおぎながら先導する。「もう一息、もう一息!」
はる「お帰り! お帰り!」
富子「お帰り、お帰り! 帰ってきた」
はるが雅紀の手を引き、富子が俊継を抱っこしている。
要が加津子を背負って帰宅。
はる「おめでとう!」
加津子「着いた! 着いた、着いた!」
要「さあ、皆さん、お静かに! よいしょ」加津子を玄関前の路地で降ろす。
泰輔「おうおう、何だ? 大丈夫か?」
加津子が松葉杖を使って歩き出す。
泰輔「わあ~、歩いた、歩いた、歩いた!」
音吉「おう、偉い、偉い、偉い!」
泰輔「大丈夫か?」
音吉「大丈夫、大丈夫」
泰輔「加津ちゃん、大丈夫か?」
音吉「よし、頑張れ~、よし、そこだ」
玄関前で要がしゃがんで待っていた。「着いた、着いた!」
ニッコリ笑う加津子。
要「よし! はい、おいで!」加津子を抱き上げる。蝶子が加津子の松葉杖を持つ。
「よかった、よかった」←音吉?
岩崎家茶の間
泰輔「加津ちゃん、退院、おめでとう!」
一同「おめでとう!」拍手
蝶子「ありがとうございます」
みさ「皆様、この度は、いろいろお世話になりまして、ありがとうございます。中山さん、連平さん、夢助さん、安乃ちゃん、富子さん、ホントにありがとう」
笑顔で首を横に振る安乃、富子。
泰輔「ということで食べますか!」
音吉「はい!」
一同「いただきま~す!」
蝶子 加津子 要
みさ 俊継 雅紀 音吉
台所側 泰輔 はる
富子 連平
安乃 夢助
みさが俊継を抱っこし、蝶子が雅紀を抱っこしている。今日は神谷先生と邦子は欠席。個々に道郎さんもいたらなあ。
音吉「そうか、これで病院通いはなくなるわけだ。ねえ!」
要「ああ、そうそう、そうそう」
はる「演奏会前の要さんの顔なんて夜叉みたいだったよね」
要「ああ、そうかな?」
富子「終わってしまえば懐かしいもんだからね」
泰輔が要の脇に移動。「今日はめでたい日だ。一杯、どう?」
要「いや、でも、僕は…」
富子「要さん、10年もお酒絶ってんだから」
音吉「あ、そう!」
連平「ねえ、お前、仕事は?」
夢助「ああ、1時半から」
連平「やけにのんびりしてんね」
夢助「遅れたってかまやしませんよ」
富子「ダメだよ、仕事、ちゃんとしないと。早くお行き」
夢助「へい」
富子「だから仕事しくじってばっかりなんだよ!」
連平「そうそう、もっと言ってやってくださいよ」
夢助「お~、こわっ!」
富子「いちいちシャレ飛ばすんじゃないの」
夢助「じゃ」
蝶子「夢助さん、どうもありがとう」
夢助「いやいや、なんも」←アドリブ!?
要「気を付けてね!」
夢助「行ってきま~す!」
みさ「富子さん、今、夢助さんにシャレって、しゃべったかい?」
富子「『お~、こわっ』?」
みさ「はあ」
泰輔「夢ちゃんさ、『こわい』ってのを、このおこわにさ、引っ掛けたんだよ」
連平「いや、お赤飯のことを『おこわ』って言ったりするんですよ。それで」
みさ「?」
蝶子「ハハッ、そういうことか! ハハハハ、分かった」
要「何だい、親子してこれだもの」お猪口を口に。
音吉「困っちゃうよね」
蝶子「飲んだ」
富子「あら!」
連平「あ…!」
音吉「ま、いいか! 飲んじゃおう!」酒を足す。
連平「そう! おめでたい日」
蝶子「ああ…」
風鈴の音が鳴り、要が座布団を枕に寝ている。
蝶子「3人とも寝たわ」
富子「こっちもさ」要を指す。
泰輔「10年ぶりの酒が効いたんだな」
富子「よっぽどうれしかったんだね」
蝶子が近づき、要の肩をさする。「要さん」
要「うん…」
蝶子「要さん」
要「ん?…ああ」目が覚める。
泰輔「ハハハハハ!」
蝶子「2時間近く寝てたんじゃない?」
要「そうか」座布団を抱えながら「蝶子」
蝶子「はい?」
要「うん…いや、今回はあれだね。ホントにあれだ。よくやったね」
笑顔でうなずく蝶子。
優しい旦那様~な感動の場面なのかもしれないけど、今の感覚だと何で夫からこんな上から言われんのよと思っちゃった。ひねくれもの?
蝶子「安乃ちゃんも大変だったね」
安乃「いいえ」
要「途中から休みもなくて」
安乃「そんなことは何でもありませんから」
泰輔「いやいや、みんなよくやったよ」
富子「ホント」
みさ「これで私も安心して帰れる。近々、帰るから」
富子「もう?」
みさ「はい。いつまでもいるっちゅうわけにいかないっしょ。いやいや、東京に来て大したよかった。頼介さんにも安乃ちゃんにも会えたしねえ、神谷先生に邦子ちゃんに…要さんのお母様にも会えたもねえ」
要「ああ…」頭を下げる。
みさ「いやいや、お父さんに土産話、大したいっぱい出来た。アハハ、ねえ!」
<みささんの満足そうな様子を見て、チョッちゃんもまた満足していました>(つづく)
けど、みささんと邦子の再会シーンは画面上では、なかったね。
「チョッちゃん」って月曜日がハードな日もあって、こんな穏やかなのって逆に珍しいかも!?
