TBS 1972年3月28日
あらすじ
正司(加藤剛)が孤独な小川(三島雅夫)にお父さんと呼びかけたのは、小川を慰めるためのウソだった。しかし、みんなで寿美子(山本陽子)をだましていたことになると、良子(沢田雅美)は勉(小倉一郎)と一緒に正司に相談に行く。
2024.4.10 BS松竹東急録画。
裸の木々の枝に
日ごと緑は濃く
枯草も日ごと緑に
今日よりは明日(あした)
美しき野山よ
寒い冬の日
病葉(わくらば)は土に散敷(ちりし)き
木々の根を労り庇う
枯草もまた
土にひれ伏し
春くれば美しき野山
夏くれば緑いやます
されど知らず
枯れ朽ちし
愛のいのちを
今日は言葉が難しかった。
こんな言葉をサラッと使えるようになりたいよ。
及川正司:加藤剛…添乗員。33歳。字幕黄色。
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前田寿美子:山本陽子…鉄板焼屋「新作」の娘。25歳。字幕緑。
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及川勉:小倉一郎…正司の義弟。20歳。
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林:高木信夫…小川と同室の入院患者。
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宗田政美
田中:渡辺紀行…小川と同室の入院患者。
鈴木:豊田広貴…小川と同室の入院患者。
ナレーター:矢島正明
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前田新作:浜村純…寿美子の父。「新作」マスター。
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小川:三島雅夫…1年半入院している病院の主。
小川の病室を訪ねた良子。堀のベッドは空きベッドのままで矢場のベッドには誰かいる。小川はカーテンを引いている。
良子「あら? 小川さん寝てんのかしら?」
林「寝てなんかいませんよ。リンゴでも食べてんじゃないのかな。コリコリ音がしてるから」
良子がカーテン越しに声をかける。
小川「んっ…おや、いらっしゃい」カーテンを開ける。
良子「リンゴを食べてんのね」
小川は「あなたもどうです?」と果物かごを持った。遠慮する良子にリンゴはなくなったけど、このポンカンとてもおいしいんですよと勧める。一旦遠慮した良子だったが受け取った。
小川「たくさん頂きましたからね、前田さんに。昨日もね、これ頂きましてね」箱に入ったお菓子?
良子「おいしかったわ、とっても」
小川はこちらも勧めるが、小川さんが楽しみに食べたらいいと遠慮する。
勉が店番をしていた。
女性「500円でおつりちょうだい」
勉はノートなど200円、100円とケーキ1個を60円×4と計算し、あと40円頂きますと言う。
女性「この前買ったときは50円だったのに…」
勉「すぐ上がっちゃうんですよ、なんでも。この店が上げたんじゃないですよ。元が上げてきちゃうんですよ」
女性「ホントにやんなっちゃうわね」
勉「すみません。どうもありがとうございました。またお願いしますね」
この女性客、ノンクレジットだったけど木下恵介アワーには何度となく出演している谷よしのさんじゃないかなあ?
これらの作品はちゃんとクレジットされてたのにねえ。別人かな?
掛けて待っていたはつが「なかなか調子がいいけど危なっかしいわね」と声をかけ、「値上がりしたの? ホントに」と聞いた。
勉「いいんだよ。損するより儲かったほうが」←はぁ~~~!?
はつ「まあ…じゃ10円高く売っちゃったんでしょ」
勉「ヘヘッ、軽い軽い、10円ぐらい」
はつ「あきれた人」
勉「大体ね、この店は安すぎるんだよ。よっちゃんがかわいそうだよ」
はつ「お客さんのほうだってかわいそうですよ」←同感
勉「いいの、いいの、お互いさま。日本国民はみんなかわいそうなんだから」
今回最大のモヤモヤポイント。帳簿が合わなかったら、良子が責められるじゃないの。なんの関係もないお客さんも巻き込むし。勉が逆なことされたら激怒しそう。
はつにコーヒーか紅茶どう?と勧める勉だったが、はつは良子が遅いことを気にする。勉は安静時間じゃないかとごまかす。良子が病室に行ったとき、小川以外はベッドに寝ていたのは安静時間というやつだったのかな?
はつはお茶が飲みたいと言うが、勉は紅茶を押し売りする。「知らないんだな、いい年して」
はつ「何よ? いい年って」
勉「あのね、世の中にはさ、義理と人情っつうのがあるじゃないの」
はつ「そりゃありますよ。大ありよ」
勉「だったらさ、紅茶の1杯ぐらいは…」
はつ「あっ…分かりました、分かりましたよ。じゃ、頂きますよ、紅茶を」
勉「ヘヘッ。そうそう、それでこそおばちゃん」
はつ「じゃ、そこの60円のケーキも頂きますからね」
勉「よ~し、その意気、その意気」
張り切る勉に笑うはつ。
勉「やっぱりね、義理と人情っつうのはさ、ないよりもあったほうがいいからね、うん」
はつ「勝手なときに勝手なこと思い出すんだから」
勉「ついね、おばちゃんの顔見てるとさ。ヘヘッ」皿にケーキを2個置く。
はつ「いいのよ、1つで」
勉「えっ? 1つならたった60円じゃないか」
はつ「食べられないわよ、2つも」
勉「義理で1つでしょ、人情で1つでしょ。あとはお土産。5つ包むからね。そのほうが家内安全。みんなニコニコ。平和共存でいきましょうね」
はつ「どこで損するか分かりゃしない」
勉「損も身のため人のためってね。そのかわり10円まけといてあげるから」
はつ「当たり前よ。勝手に値上げしてて」
勉「それは政府に言うこと。こっちはムードでやってんだから」
自分で買い占めるんならともかく、政府のせいにしてヤダねえ~。
良子が店に戻って来て、はつに今日は熱が出て寝てるからダメだと言った。お昼ご飯も食べなかったと聞き、心配顔のはつ。勉は、はつにケーキを出す。
良子「いや、時々そういうときがあるの」
勉「時々じゃないだろ? そこがあの人のつらいところでさ」
はつ「何がつらいとこなんですか?」
良子「いいえ、あの…やっぱり1年半も入院してますとね」
勉は、これは100円だからねと紅茶を出すと、80円だと言う良子。
勉「いいんだよ、この人は」
はつ「いいもんですか。すぐ値上げしちゃって」
勉「だからさ、義理と人情だろ? 義理が10円、人情は10円。ねっ?」
良子「いいんですよ。どうぞあがってください」
勉「いいんだよ。もらう物はもらっとけば」
良子「そうはいかないわよ」
一売店の店員が勝手に値段を上げたりしたら大問題だよ。
勉「いくんだよ。だって、この人なんかね、うどん粉が六分でさ、そばだなんつってんだから」
はつ「違いますよ。うちは五分五分ですよ。変なこと言わないでちょうだいよ」
勉「じゃあ、同じようなもんじゃないか」
はつ「そこがつらいとこなんですよ、商売の」
だから信濃路のそばはあんなに白いんだろうか??
小川「よっちゃん。あっ、こんちは。(勉を見て)あんたにもね、このポンカンあげようと思ってね。おいしいんですよ」と手渡す。
勉「あっ、そりゃどうも」
小川「おや、まだ食べなかったんですか?」
良子「ええ、お客様だったから」
小川「ああ…」はつを見て頭を下げる。「じゃあ、あんたの店番も大変だったんですね、ええ?」
勉「いや、僕のことはいいんだけどさ、どうして起きてきちゃったの?」
小川「えっ? いや…」
良子「いや、熱があったんでしょ? 寝てなきゃいけなかったんでしょ」
小川「いや…」
勉「さあさあさあ、寝てなきゃ寝てなきゃ。先生にまた怒られちゃうから、さあ、早くね」小川の背中を押して売店から連れ出す。
良子「すいません、あの…ポンカンわざわざ」
はつ「小川さんって今の人ですか?」
良子「ええ、困るんですよ。あれだから」
はつ「あれでも熱があって寝てたんですか?」
良子「いえ、さっきはそうだったんですよ」
はつ「変な病人。ちっともそんなふうには見えませんでしたけどね」
良子「ええ、そこがつらいとこなんです。小川さんの」
はつ「何がつらいんですか? 勉さんもさっきそんなこと言ってたけど」
良子「ええ」
勉が戻って来た。「あれじゃいつまでたったって退院できないね。熱があるっていうのにさ、わざわざポンカン1つ持ってきてくれるんだから」
良子「そういう人よね」
勉「うん」
良子「あっ、そうそう。あっ…よかったら召し上がりませんか?」はつが掛けているテーブルの上にポンカンを置く。
勉「ああ、食べよう。とってもおいしいんだって」
お茶を入れる良子。
はつ「ポンカンですか…」
勉「見たことある? 食べたことある? これもタダ。おばちゃん、今日は恵まれてるね」
新作のマンションのテーブルの上に置かれたポンカン
はつ「だから、私はポカンってしちゃったんですよ。熱を出して寝てるっていうでしょ。それもお昼ご飯も食べないで」
新作「そうしたら、その当人がこのポンカンを持ってやって来たの?」
はつ「大抵ポカンってしちゃいますよ。言ってるうちに来たんですからね。それがどうでしょう。顔だって頭だってツヤツヤしちゃって。あれがいくらなんだって今さっきまで熱を出してた人ですか」
新作「頭までツヤツヤなの?」
はつ「ええ、もう血色のいいこと。ポンカンだって顔負けですよ」
頭は関係ないだろー!
新作「せっかくだから食べたらいいのに」
はつ「ええ、頂きますけどね」
お茶を入れると言う新作に遠慮するはつ。
「まあ、座ってなよ」と新作が立ち上がったところで着信音が鳴った。ソファに正座していたはつは「お茶は私が入れます」と立ち上がった。
電話は寿美子から。忙しいのに早く帰って来てくれなきゃ困る。半端な時間で旗日でもないが、洋裁学校と料理学校と食べ歩きの会の奥さん方が一緒になった。
食べ歩きの会とかこの時代にあったんだね~。セレブママ。
ゴチャゴチャに出しとけばいいと言う新作。「こっちのほうはね、話はもっとややこしいんですよ」
寿美子「また井上のおばちゃんでしょ?」
新作「おばちゃんでも心配してくれなきゃ、お前の話なんてゴチャゴチャですよ」
はつ「ゴチャゴチャもいいとこ。開いた口が塞がらないんですからね」お茶を運んできて、またソファに正座。
新作「とにかく大事なのは店よりお前のことですからね。何? ポンカンみたいなこと言いなさんな。切りますよ」受話器を置く。「ホントに…」
はつ「どうして寿美子さんは、ああ分からない娘さんになったんでしょう?」
新作「分からないわけはないんだけどね」←関係ないけど、脚長いな~。
はつ「いいえ。私にはさっぱり分かりませんよ」立っている新作にお茶を勧め、ポンカンも半分渡す。
新作「ああ、いや、ポンカンもいいけどね。そのツヤツヤした人は一体何をしていたお父さんなんだろう」
はつ「あれじゃないんですか? どうも私はあれだと思うんですよ。あれでしょ? あれでちゃんとした人のわけはないですよ。あれですものね、とにかく」
新作「いや、あれより何より1年半だからな、そのツヤツヤの病人が」
はつ「そう。そうなんですよ、あれってのは。あれじゃどこが悪いのか分からないですよ。だから、私も気になったもんだから帰りに内科の事務室へ寄って聞いてみたんですけどね」
新作「うん。それでどうしたの?」
はつ「それが分からないんですよ、さっぱり」
新作「変な病人だなあ」
はつ「変ですよ、とても」
新作「変な男を好きになったもんだ。寿美子も」
はつ「そうなんですよ。ホントにあれじゃないんですか?」
はつの連発する”あれ”の意味が分からないな~。初回で良子が小川が生活保護を受けてると話してたけど、抗議を受けてぼかした感じにしたとか?
それとも、病気じゃないのに病院に居座り続けていることを言ってるのか。新作の中ではすっかりツヤツヤの人になってるのが面白い。
閉店準備をしている良子の元を訪れた小川。「よっちゃん」
良子「ああ、いらっしゃい」
小川「いいですか? まだ掛けても」
良子「ええ、どうぞ。お店だけ閉めちゃいますね」
今日は30分早いけど、行く所があると早じまい。
良子「出がらしだけど我慢してちょうだいね」お茶を入れる。
小川「ハァ…すまないね、あんたには」
良子「どういたしまして。小川さんは特別よ」
小川「いや、ありがとうありがとう。私もね、ここだけだからね、ホッとできるのは。ハハッ」
良子がお茶を出すと「ごちそうさま」と頭を下げる小川。
良子「やだな。大げさにごちそうさまだって」
小川「いやいや、ありがたいですよ。お茶1杯だって、うん」
良子になんか食べると聞かれて、いらないと言った小川だったが、良子は売れ残りのものを渡そうとする。
小川「それよりかね、よっちゃん」
良子「えっ? 何?」
小川「ハハッ、どうもね、今日の人のことが気になるんですよ。あの…ここにいた奥さん。どういう人なんですか? あの人は」
良子「ああ、そうね…なんて言ったらいいかしら」
小川「どうも変だったでしょう? 勉さんは慌てて私を連れ出すし」
良子「そう。ちょっとね」
小川「奥さんだって変な顔して私を見てたでしょう?」
良子「あなたに会いに来たの、ホントは」
小川「えっ…私に会いに来たんですか?」
良子「あの人…前田さんね。あのきれいなお嬢さん。あの人のお父さんに頼まれて来たの」
小川「そ…それはまたどういうわけですか?」
良子「いや、あのお嬢さん、あなたの息子さんを好きなの。だから調べるつもりで来たんです。お父さんに頼まれて」
小川「だって、私の息子といったって…」
良子「だから困っちゃったの。私も小川さんを呼びに行ったんだけど、でも、会ってしまったら困るでしょう? だからなんにも言わなかったの。あの奥さんには熱を出して寝てるって言っといたんだけど、そしたらそのすぐあとで小川さん、ここへ来てしまうんですもの」
小川「だからあの勉さんが…」
良子「そうなの。私だってとっても困ってしまって。今からね、勉さんとこ行くの。どうしたらいいか相談しとかないと、あとが困るでしょ?」
このあたりから「歌を忘れたカナリヤ」のインストが流れる。
小川「そう。そりゃ困りますよね」
良子「あの奥さんね、勉さんと正司さんのこと、よーく知ってるの。それにね、もっと困ることは、あのお嬢さんと正司さんをお見合いさせようと思ったことがあるんですって」
小川「ああ…そ…そういう人だったんですか」
良子「困っちゃったわ。もし、ホントのことが分かったら、みんながウソつきになっちゃうの。みんながあのお嬢さんだましてるみたいに…」
小川「そうですか」
良子「悪気はないのよね、誰も」
小川「私のウソですよね、何もかも」
良子「そのウソだって悪気はないんですもの」
小川「でも大変なウソですよね」下を向いてうつむく。
良子「いいのよ。選挙前の代議士のウソとは違うんですもの。真人間のウソでしょ? いいのよ、それで。心配しなくたっていいのよ。私だってね、そのウソ守ってあげる。ねっ? 元気出しなさいったら」
ウソを広げたのは良子だしなあ…とも思っちゃう。早いとこ寿美子に話せば、寿美子だって話を合わせてくれただろうに、というのは性善説だろうか。
あいにくの雨は夕方から降りだしたのです。傘だけは持って出ましたが、初めて訪ねてゆく勉のアパートは地図を描いてもらってはいても、この雨の中を捜すのかと思うと、ちょっと心細く不安でした。
シートが真っ赤のバスに乗る良子。
しかし、そのころ勉はバス停に向かって急いでいたのです。簡単な地図を描いたのですが、やはり気になってアパートの部屋で待っているわけにはいきませんでした。まだ治りきらない足が歩道の水たまりを避けていくとき、そこにささやかな愛があるようです。そして、雨の中にたたずんでいるとき、勉はふと自分自身の心をのぞいたのです。母に置き去りにされたときの幼い日の哀れさ。あくまでも優しく、この地上にたった独りぼっちの自分をいたわってくれた他人の父と兄と。その2人に怒りと悲しみをぶつけることでやっと生きてきたような自分を。
バスが停車し、降りてきた良子に「やあ」と声をかけた勉。傘をさして、夜道を歩き、勉のアパートへ。
2人で話し合って、2人の結論は、結局2人で話し合っていたのではどうにもならないということになったのです。そして、2人は今まで2人が売店で会っていたときよりも真剣な顔をしていたし、そのことは2人の気持ちが初めて一つになったという楽しさでもあったのです。それに、今、2人が考えていることは自分の幸せのためではありません。ある一人の気の毒な人のために一生懸命になっているのです。それは欲も得もない思いやりです。
良子と勉はバスに乗って移動。勉が座り、良子は立っている。
小川は窓の外を見ていた。目の前に浮かぶのは笑顔の正司、寿美子、良子、勉、ポカン顔のはつ。
マンションに帰ってきた寿美子。着信音が鳴り電話に出ると、新作だった。「なんですか、寿美子。ちょっと計理士と話をしているうちにいなくなってしまって。この時間が一番忙しいんですよ」
寿美子「すいません。お願いします」
寿美子の声が小さく聞き取れない新作。寿美子はがっかりして大きな声が出ないと言う。
新作「なにもがっかりすることはないでしょ? そういう親父さんだっていうことが分かっただけでもいいじゃないか」←結局どういうお父さんか分からん!
寿美子「ええ、いいでしょうね、お父さんは」
店へ来なさいという新作だったが、通話は切れてしまった。
SNACK Elle
笑顔で店内に入ってきた正司。「やあ、こんばんは。電話なんかかけなくったって、うちへ来ればいいのに」向かい合って座る良子と勉の席でコートを脱いで勉の隣に座る。「お父さんだって会いたいじゃないか」
勉「その前に話があったんだ」
店員が注文を取りに来て、正司はコーヒー、勉は紅茶を注文した。
正司「なんの話かな? 2人そろって」
勉「俺たちの話じゃないよ」
良子「当たり前よ。私たちの話があるわけないでしょ」
勉「だってさ、そう思うかもしれないじゃないか」
正司「ちょっとそう思ったよ。電話のとき、2人一緒だって言うから」
勉「ほらね」
あきれ顔の良子。
正司「だって、初めてだもんね。よっちゃんがこんなほうまで来てくれたの」
良子「お兄さんのことで来たんです」
正司「へえ、なんだろう?」
勉「それと、小川さんのことだよ」
正司「じゃあ、小川さんと僕のことか」
良子「それと前田さんと井上さんのことです」
正司「随分ややっこしいんだね。前田さんって誰だっけ?」
勉「新作の娘だよ、生意気な」
正司「新作の娘?」
勉「赤坂の鉄板焼きのさ、狸穴のマンションに住んでるんだ」
良子「この間連れてってくれたでしょ? 私と井上の奥さんを」
正司「うん。そりゃ行ったけど、だからってどうして、その娘さんと井上の奥さんと関係があるの?」
勉「大ありなんだよ。井上のおばちゃんはね、その生意気な女の親父さんに頼まれたんだ。今日、病院へ小川さんに会いに来たんだ」
正司「何を頼まれたんだろう?」
勉「だから、小川さんと兄ちゃんのことをだよ」
正司「なんのために?」
勉「なんのためにって…(良子に向かって)ねえ?」
良子が話し出そうとすると、店員が来て中断。
正司「なんのためだか、よっちゃん、分かるの? だって井上の奥さんだったら、僕のことよく知ってるのに」
勉「知らないよ。小川さんの息子になってることは」
正司「ああ、そのことか」
良子「それにあれなんです。前田さんのお嬢さんは好きなんです。お兄さんを」
正司「好き? 僕を?」
良子「ええ、とても」
正司「一体どういうことだろう? さっぱり僕には分からないな」
勉「分からないのは、こっちのほうだよ。とにかく一度はひどいことを言って断ったんだからね。兄ちゃんとの縁談を」
正司「縁談?」
勉「兄ちゃんがヨーロッパに行って留守のときだよ」
正司「じゃあ、あの話か。井上の奥さんから、ちょっと聞いたことがあるけど。どうも僕にはよく分からないな」
勉「複雑なんだよ、とても」
正司「よっちゃん、どうしてその娘さんが僕を好きだっていうの?」
良子「いや、あの人よ。いつかうちの店で会った人。そのときお兄さんがちょっときれいな人だなって言ってたじゃないの」
正司「だってあれっきり会ってないもの」
良子「いいえ。あれっきり帰りにタクシーで一緒だったでしょ?」
正司「偶然だよ、あれは」
良子「タクシーの中でうちのケーキもらったでしょ?」
正司「そう。もらうことはもらったけど」
勉「小川さんだっていっぱいもらったんだよ、あれ以来」
正司「どうして?」
勉「どうしてって当たり前じゃないか。鈍いよね、この兄貴、勘が」
ちょっと苦笑して良子を見る正司。かっこいー!
良子「小川さんの息子さんだと思ってるからだわ。好きだからせっせと通うの。もう一度会いたいと思って」
正司「だけど、それは大ウソだからね」
アパートの階段を上がり、正司は、はつの部屋を訪ねた。
そのとき、雨はやんで洗われたような空には、もう美しい月が出ていたのです。(つづく)
旧ツイッターで小川さんも良子や勉だけじゃなく、あんなに果物やお菓子をもらってるなら同室の人に分ければいいのにという感想を見て、そうだよね~って思った。矢場以外はそこまで執着した意地悪な感じはないし、もらい物で食べきれる量とも思えないし、それくらいしたっていいよね。小川さんは同室の人をあんなに意地悪な人たちはいないと言ってたけど、ほかの患者から見たら小川さんも意地悪に見えちゃう。
キャストクレジットの宗田政美さん。11話にも名前があって、そのときは、売店で話してた男性客の一人だと思っていたけど、違うみたい。今日、セリフがあったのは、売店の女性客とスナックの店員くらいだと思うけど、あの売店のお客さんは違うと思うな。
「おやじ太鼓」8話。お父さんのおかげで生きてる、今の仕事は性に合わないと言っている武男だったけど、後の展開を思えば、洋二は貧乏しても家を出たんだよね。
9話はこれから見ます。