TBS 1972年3月21日
あらすじ
寿美子(山本陽子)には幸せになってもらいたいと願う新作(浜村純)。しかし寿美子が心を寄せる相手がどこの誰とも分からず、心配している。新作の相談を受けたはつ(菅井きん)は、小川のもとを訪ねてみる。
2024.4.9 BS松竹東急録画。
鳥やけだものには
泣き顔と笑顔が
ありません
悲しそうな顔と
うれしそうな顔が
あるだけです
でも人間は
泣きたい時にも笑い
笑いたい時にも
泣き顔が出来ます
その人の本当の顔
わたしの本当の顔
どうもわかりません
神様の本当の顔
それもわかりません
でもどこかに誰かの
本当の愛があるようです
及川正司:加藤剛…添乗員。33歳。字幕黄色。
*
前田寿美子:山本陽子…鉄板焼屋「新作」の娘。25歳。字幕緑。
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及川勉:小倉一郎…正司の義弟。20歳。
*
前田昭三郎:山本豊三…新作の三男。
*
前田賢一郎:小笠原良知…新作の長男。
前田竜二郎:早川純一…新作の次男。
*
ケン坊:鍋谷孝喜…「信濃路」の店員。
菊ちゃん:間島純…「新作」の仲居。
看護師:坂田多恵子
*
仲居:小峰陽子
伊沢理恵
ナレーター:矢島正明
*
宮沢泰子:馬渕晴子…正司の元婚約者。
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前田新作:浜村純…寿美子の父。「新作」マスター。
アパートの階段を上がるはつ。「足元に気をつけてくださいよ」
はつの部屋の前の手すりに手をかけ「あれが緑だって言うんだからあきれるよ」とつぶやく新作。
部屋の中からはつに「前田さん」と呼ばれて部屋の中へ。「あんな階段でも息が切れるんですか?」
新作「息なんか切れないよ。冗談じゃないよ」
はつ「だって、一息ついてたじゃありませんか」
新作「このうちへ来るのもいいけど、すぐそれなんだから」
はつ「なんですか? それって」
新作「あんたも私もそんなに年は違わないんだからね。それをこの真昼間に足元に気をつけろなんて」部屋のカーテンを開ける。
はつさんの年齢設定はいくつくらいか分からないけど、浜村純さんと菅井きんさんは20くらい実年齢は違うはず。
浜村純:1906年2月生まれ
菅井きん:1926年2月生まれ
新作は1911年の亥年生まれの60歳。当時46歳(!)の菅井きんさんが演じたはつは50代後半くらいの役設定かな?
はつ「だってつまずく人があるんですよ。昨日だって、うちの出前のケンちゃんがつまずいて滑ったんですよ、2~3段」
新作「そんなそそっかしくないよ、私は」
はつ「そういう強情を張るとこが年なんですよ」
新作「口うるさくなるのも年だからね。あんたこそ気をつけたほうがいいよ」
はつ「自分のほうから用があって来たくせにすぐそれなんだから」
新作「だからさ、あんたと私の仲だろう?」
はつ「だったらいちいち人の親切に文句を言うんじゃありませんよ」
新作「つまりそれがいいんだな。言いたいことが言えて」
はつ「フン、ホントに勝手なんだから」
新作「いや、実はね…」
はつ「また寿美子さんのことでしょ?」
新作「そうそう。察しがいいよ、あんたは」
はつ「いいも悪いも他に用なんてあるわけないでしょう」
新作「いや、それがね、今度という今度は参ったよ、私も」
はつ「この前もそんなこと言ってたじゃないの」
新作「うん、それがね、また寿美子が昨日病院にお見舞いに行ってね。とにかく夢中なんだから。それにこうなんだよね。その病人の息子というのがね、ベニスへイタリア料理の勉強に行っていてね」
はつ「あら、そういう人なんですか」
新作「それも寿美子の言うことがいいんだ。もう一軒イタリア料理の店を出したら大当たりするって言うんだから」
はつ「じゃあ、ちょっと伺いますけどね、私が及川さんの話をしたときは、なんて言ったんですか? 寿美子さんは」
新作「そうそうそれなんだよ」
はつ「しょっちゅう外国へなんか行ってる人は不潔だからイヤだって言ったじゃありませんか」
不潔とまでは言ってないが、気持ち悪いとは言ってた(-_-;)
新作「だから私もそれを言うんだよ」
はつ「それにちょっと伺いますけどね」
新作「いいよ。そんなおっかない顔して私を見なくても」
はつ「及川さんのお父さんは1年前に倒れたことがあるから、そんな危ないお父さんはイヤだって言ったんですよ」
「弟は不良だし、お父さんは…だし」
新作「そうそう、そうなんだよ」
はつ「それがまあ、どうでしょう。今度の人のお父さんは1年半も病院に入院してるっていうのに」
新作「そうそう」
はつ「それじゃ話の筋が通らないじゃありませんか」
新作「そうなんだよ、そうなんだよ」
はつ「ちょっと伺いますけどね」
新作「ちょっと待ってくれよ。その…ちょっと…そう、いちいち目に角を立てて伺わなくてもいいからさ」
はつ「いいえ。こうなりゃ私だって口だって目だって角が立ってきますよ」
新作「まあまあ、そう怒らないでさ」
はつ「怒りたくもなりますよ」
新作「おい、そりゃあそうと、あのおいしいおそば遅いんじゃないの?」
はつ「いいですよ。わざとおいしいなんてお世辞言ってくれなくたって」
新作「滑ったんじゃないかな、階段で」
はつ「おそばどこじゃありませんよ」
新作「だけどさ…」
はつ「いいえ。滑っても転んでもこんな筋の通らない話は聞いたことがありませんよ」
新作「いや、だからさ…」
はつ「ねえ、こんな相談に来られたってね、真っ平ですからね」
新作「だから、私は言ったんだよ、とにかくあの写真をもういっぺん見なさいってね。それからですよ、話は」
はつ「あの写真って私が持ってった、あの写真ですか?」
新作「そうよ、決まってるじゃないの。貸してよ、もう一度」
はつ「イヤですよ。真っ平ですよ」
新作「どうして?」
はつ「当たり前じゃありませんか。じゃ、ちょっと伺いますけどね」
新作「いいよ、いちいち、そう改まった顔をしないで」
はつ「いいえ。こればっかりは改まった顔して聞きたいんですよ」
ノック音がしてケン坊がおそばを持ってきた。はつは話の邪魔だから外へ出て待ってるように言う。「うちのおそばはね、伸びたっておいしいんですよ」。外で待つついでに及川さんのアパートの屋根が青いか緑か見ているよう指示。
ケン坊「険悪だなあ」戸を閉めて外へ。
新作「あきれたよ、あんたには」
はつ「フン、それはこっちのほうで言うことですよ。緑を青だって言い張るんだから」
新作「まあ、屋根の色はどっちだっていいけどさ」
はつ「いいえ。一事が万事、お宅のほうはそうなんですよ。白は白、黒は黒でなきゃ私は気持ちが悪いんですからね」
新作「ん…さっきの話だけど、その聞きたいことってなんだろ?」
はつ「写真ですよ、あの。あの写真をもう一度、あなたに貸してですよ、それでもう一度ケチをつけられたらどうするつもりなんですか?」
新作「いや、ケチをつけようと思って借りようとしてるんじゃないんだよ」
はつ「お断りですよ、私は。どこの馬の骨だか分からないそんな男と正司さんと比べられてたまるもんですか。寿美子さんにそう言っといてくださいよ、よく」
新作「フゥ~、とうとう馬の骨か」
はつ「骨ならまだいいほうですよ。このごろは骨のない男が多いんですからね」
ケン坊「女将さん、ざるのほうはまだいいけど、かけのほうはダメになりますよ」
はつ「じゃあ、食べますよ」
ケン坊「かけそばの伸びたのだけは食べられませんからね」
新作「じゃあ、これは私がもらうよ」
ケン坊「あっ、旦那がですか?」
新作「いや、娘がふつつかだとこういうことになるんだよ。ねっ? おはつさん」
はつ「まあ、そんないじましいこと言わなくたっていいんですよ」かけそばのどんぶりを受け取る。
ケン坊「そういえば、あれですね。及川さんのアパートの屋根はよくよく見ると青ですね」
新作「ほら、やっぱりそうだろ?」
はつ「バカだね、お前は」割り箸でたたく。「そういう寝ぼけたこと言うから階段から滑るんですよ」
新作「だってよくよく見たんだろ?」
ケン坊「ええ、見ましたよ」
はつ「だったらもう一度よく見て早く帰んなさいよ」
楽しい人。憂鬱な人。このたくさんの人々はそれぞれの人生に何を求めているのでしょうか。いや、何も求めていない人だっているのかもしれません。でも、明日という日は必ず来るのですから、やっぱり1人ぐらい愛したいとか愛されたいとか思ったほうがいいのではないでしょうか。そして、この泰子も愛されたいと思い、愛したいと思う一人です。しかし、人生にはそう何度もチャンスはないのです。あのときの春、散った花と今年の春に咲く花とは違うのですから。
プラザホテルのラウンジで待ち合わせた正司と泰子。正司が先に席についていた。
泰子「すいません、遅くなって」
正司「いや、僕も今来たところだから」
泰子「六本木では失礼しました。声をかけないほうがいいと思って」
店員「なんになさいますか?」
泰子「レモンソーダ頂こうかしら?」
店員「レモンスカッシュですか?」
泰子「ええ、そう」
店員「ではご一緒にお持ちいたしますから」
正司「昨日、義弟(おとうと)さんと会ったのもこの店のこのテーブルですよ」
泰子「すいません。清さんから聞いてびっくりしたんです。あの子、別に悪気はないんですけど、随分失礼なこと言ったようですね」
正司「いや、言うのはいいけどさ。あまりに突拍子もないことを言うから」
泰子「そうなんです。ちょっと変わってるんです、あの子」
正司「そう。変わってるよね」
泰子「でも、一生懸命なの、私のことになると」
正司「それも意外なこと言うから」
泰子「聞きました。清さんから」
正司「まあ、いちずな気持ちから、ああ言うんだろうけど、でもそれは一方的に都合のいい話だからね」
泰子「ええ、もちろんそうです」
正司「僕があの子になんて言ったか聞いたでしょう?」
泰子「ええ、聞きました。もっと相手の身にもならなきゃいけないって叱られたって」
注文の品が届く。店員さん、長い髪をそのままにしてるんだね。モノクロのミニワンピースが制服。
正司「彼は彼なりに真面目でそう言ってるらしいから、そう悪い感じはしなかったけどね」
泰子「そうなんです。あの子の考えることはとても純粋なんです。だから私も怒るわけにはいかないし…」
正司「だけど、君にはいい感じがしなかったな。率直に言えば。だって、彼は君のご主人の弟だからね。その弟にどうして君は僕のことをしゃべっちゃったの? なにもわざわざ言わなくったっていいのに」
泰子「清さんはお兄さんが大っ嫌いなんです。昔っからああいう人だったんですって。私と結婚する前から」
正司「そんなこと僕とは何も関係ないじゃないの」←そうだ、そうだ!
泰子「清さんが聞いたんです、私…義姉(ねえ)さんは恋愛したことはないのかって。だから、私…」
正司「つまらないことを言ったもんだな」
泰子「だって、ウソは言えなかったんです」
正司「じゃあ、本当のことだと思ってるの? 君は」
泰子「ホントのことじゃないんでしょうか?」
正司「ないと思うね、僕は」
泰子「あら、どうしてでしょう?」
正司「ウソだったんだよ、何もかも」
泰子「何もかもってなんのことですか?」
正司「君が恋愛だと言う何もかもね」
わざとらしいくらい真っ赤なコートの女性が二人の席の前を通る。
正司「でなかったら、こういうことにはならないものね」
今度は二人の後ろを緑に黄色の水玉ワンピースの女性が通る。
2人はふと自分の中のむなしさにホコリをかぶった造花を見たような気がしたのです。愛とは燃えたときだけのウソなのでしょうか。
泰子「何か食べなくてもいいんですか? お昼休みでしょ?」
正司「もうあまり時間がないけど…」
泰子「行きましょうか、どっかへ」
いそいそとハンドバッグを手にする泰子に対し、ゆっくりコーヒーを飲む正司。「分からない人だな、君は。僕だってあれからいろんなことがあったんだからね。今だって、あの人との結婚を考えてるんだし」
泰子「そうだったんですか」
正司「君だけが変わって、僕が変わらないってはずはないだろ?」
泰子「ええ、そりゃ、もちろんそうですけど」
正司「じゃあ、義弟さんにもそう言っといてよね」
泰子「ええ」
正司「じゃあ、食べ損なっちゃうから」先に席を立つ。
思わず心にもないことを言ってしまってイヤな気分があとに残りました。でも、ふと気がつくと、それは愛したいと思い、愛されたいと思う正司の正直な言葉だったのです。あの人との結婚。でも、この雑踏の中にもみ消されそうな、あまりにも頼りない夢だったのです。
あの人なんて言われたら、泰子が思い浮かぶのは一緒にいた良子だよね? しかし、何度会って正司が冷たい対応をしても変わらないね~。
鉄板焼き屋「新作」の厨房
寿美子「それでどうだったの? 写真借りてきたんですか?」
新作「とんでもない。ボロクソだよ」
寿美子のことをまるっきり筋が通ってないと言われたと寿美子に報告。
寿美子「だから行かなきゃいいのに」
次々注文が入る。
新作「おばちゃん、病院へ行ったよ」
寿美子「えっ? 何しに行ったの? おばちゃんが」
新作「やっぱり心配だからじゃないか?」
寿美子「まあ、余計なことするのねえ」
新作「余計なことじゃありませんよ。誰だって心配しますよ」
仲居が寿美子にお話があるという客を通したと言ってきた。「3人様です。お兄様のようですよ」
寿美子「えっ?」
新作「あいつら何しに来やがったんだ?」
仲居「心配だから来たとかおっしゃってましたけど」
この仲居さんが12話にも名前のあった伊沢理恵さんだろうか?
新作「何が心配だ、あいつらまで」
座敷席
昭三郎「さて、今日は何を食べようかな?」
竜二郎「一番高い物はなんだ? この店で」
昭三郎「いや、大抵の物は時価時価って書いてあるから分からないよ」
竜二郎「それそれ。高い物はみんな時価なんだ」
昭三郎「じゃあ、一とおり食べてみるかな」
賢一郎「こら。あんまりいやしいこと言うな。親父の店へ来て」
竜二郎「親父のヤツ、ガッチリ、ツケ回してくるからな、驚くよ」←当たり前
昭三郎「いや、払わなきゃ同じだけさ。だけど、お母さんもなかなかやるよね」
賢一郎「払ってもらいたいのは、お母さんのほうだからな。いわば親父は養われてきたのさ、お母さんに」←と、母に言われてきたんだろうね、ずっと。
竜二郎「ツケのたまってんのは親父のほうか」
昭三郎と竜二郎が笑う。
昭三郎「そりゃそうとお茶ぐらい持ってくりゃいいのにな」
竜二郎「しつけが悪いよ、このうちは」手をたたく。
昭三郎も同じように手をたたく。
賢一郎「下手だなあ。こういうふうにたたかなきゃダメだ」手をたたくと、ふすまが開いた。
新作「こら!」
昭三郎「はい」
新作「何が『はい』だ、お前たちは。このバカ者! 一体なんの用があって来たんだ?」
賢一郎「お父さん、まあまあ、座ってくださいよ」
3人が3人とも黒縁眼鏡じゃなく、長男は銀縁だ。
新作「バカ! この総領の甚六」
武男も亀次郎に言われたね~。
新作「立て、立て。お前たちと座って話ができるか。こら!」
昭三郎「あっ…はい!」立ち上がる。
新作「竜二郎」
竜二郎「はい」立ち上がる。
賢一郎「お父さん」悠々タバコを吸ったまま。
新作「お前も立ちなさい」
賢一郎「僕たちはお母さんの代理で来たんですよ」
新作「何がお母さんだ。あのババアが。なんの代理だ?」
賢一郎「寿美子のことが心配だから来たんですよ」
新作「大きなお世話だ。お前たちのその面(つら)が心配した顔か?」
昭三郎「だけど、お父さん…」
新作「何がだけどだ」
竜二郎「寿美子のヤツ、変な男に惚れたそうですね」
新作「変な男?」
竜二郎「ポーっとしてるそうじゃありませんか」
昭三郎「寿美子も悩んでましたからね、この前会ったとき」
新作「だからお前たちでどうしようっていうんだ?」
賢一郎「前田家には前田家の格式がありますからね」
新作「なんだ? 格式?」
賢一郎「お母さんとお父さんはそこが違うんですよ。お母さんは寿美子をこういう店には置いておけないって言うんですよ」
新作「バカ者! それが今どきの若い者の言う言葉か。大きなお世話だ。寿美子のことはもっと人間らしい人間が心配してるんだ。帰りなさい! さっさと帰りなさい!」
格式というわりにツケで食べようとしてんだから、ね~(-_-;)
勉「やあ、こんにちは」紙袋持参で髪が少しスッキリした?
良子「あら、いやに張り切ってるわね」
勉「そうかな?」
良子「いい声よ。もういっぺん言ってちょうだい」
勉「何が?」
良子「やあ、こんにちはって」
勉「くさるな、君は。僕がこんにちはって言ったんだからさ、君だって素直になんとか言ったらどうなの?」
良子「だから言ったじゃない? いやに張り切ってるって」
勉「まあ、いいや。それでも」
良子「当たり前よ」
勉は良子のお昼にとハンバーグのサンドイッチを持ってきた。
良子「わあ、うれしい。よかったわ、まだ食べなくて」
勉「だろうと思ったんだ」
良子「じゃ、早速頂くわね。コーヒーでしょ?」
勉「そう。そういうふうに気が利かなくちゃ」
良子「フフフッ。自分が飲みたいからよ」
勉「そうか」
良子「ハンバーグのサンドイッチならコーヒーがいいわね」
勉「2人分あるんだ。一緒に食べようか」
良子「そうね。あんたって割合いいとこあるのね」
勉「ばっかりってわけにはいかないけどな」
良子「やあ、こんにちはなんて張り切って来てくれるとこなんてうれしいわ」
勉「じゃあ、角砂糖は5つかな」
良子「そのかわりね、もういっぺん言ってごらんなさいよ。気持ち良かったわよ」
勉「いいよ、一度、言やあ」
良子「いや、くさってたのよ。変なお客さんにさ、ケースのガラスが汚れてるなんてケチつけられてね。病院の売店だからね、もっと清潔にしたほうがいいわねだって」
勉「そりゃ、くさるなあ」
良子「ええ、大ぐさりよ」
勉「そんなこと言うのは、おおかた、意地悪そうなババアだろう」
良子「ぴったり。勘がいいのね」
勉「そうさ」おしぼりで手を拭きながら「やあ、こんにちは」
良子「気が抜けてるわね」
勉「そうか? やあ、こんにちは」
はつ「何言ってんの? 勉さんは」売店に顔を見せる。
良子「あら、いらっしゃい」
はつ「あっ、こんにちは」
勉「やっぱり勘が当たった」
はつ「大口開けて、やあ、こんにちは。何してたの? 2人で」
勉「噂をすれば影だな」
良子「掛けませんか? そこへ」
はつ「どうせろくなことは言ってなかったんでしょ?」
勉「まあね」
良子「いや、そうでもないんですよ」
はつ「でも、あれね。よく通ってくるじゃないの、感心に」
勉「そりゃ通うさ」
良子「治りたい一心よね」角砂糖の箱をテーブルに置く。
勉「一心ってのはちょっと大げさだけどな」
看護師「及川さん。何してんのよ? マッサージの先生、帰っちゃうわよ。早く早く」
勉「だって午後からじゃなかった?」
看護師「今日は午前中。早く行ってらっしゃい」
勉「ホント? おばちゃん、このコーヒー飲んでて」
看護師「私に行き合ったから運がいいのよ」
勉「うん、ありがとう」看護師について売店から出て行く。
はつ「ああいうとこがまだ子供よね」
良子「そのサンドイッチ買ってきてくれたんですよ」少しあがりませんか?とはつに提案。はつもお昼がまだだと言う良子にここであがんなさいよと言う。
はつ「おやおや。何が入ってるのかしら?」
良子「ハンバーグですって」
はつ「まあ、まあ。気の利いた物買ってくるじゃないの」
良子「奮発したのかしらね。もっと安いサンドイッチだってよかったのに」
はつ「あの人にはね、安いも高いもないのよ。遠慮なく食べましょうよ、ねっ?」
良子「いただきます」
ハンバーガーではなく、ホントにハンバーグのサンドイッチなんだね。遠目で見るとカツサンド的な。スナックトムのハンバーガー弁当とは違うね。
おいしいと言い合うはつと良子。
はつ「あっ、そうそう。しゃべっててついうっかりしちゃってたわ。あなたにちょっと聞きたいことがあって、お寄りしたのよ」
良子「あら、なんでしょう?」
はつは人に頼まれたとして、小川のことを聞いてきた。良子が知ってると聞き安堵する。「頼まれたはいいけど、まるっきし知らない人でしょ? 一体なんて言って会いに行ったらいいのか困っちゃってたのよ。あなたが知ってたなら簡単よね」とお会いしたいから、良子から話をしてくれないかという。どういう話なのか聞く良子。
はつ「それがおかしな話なんですよ。あっ、そうだ。あなたも行ったことがあるんですよ。ほら、この前、正司さんにごちそうになった新作ってお店。そのお店のね、お嬢さんがね、その小川さんという人の息子さんにイチコロなんですよ。ところがどこのどういう人だか、お父さんにはさっぱり分からないでしょ? だから心配なんですよ。とにかく1年半も入院しているお父さんで、それに大部屋でしょ。いいわけがないですよ。そんな息子さん好きになったって。それにあれなんですよ、その息子さんっていうのがね、もう2年か3年、ベニスへイタリー料理の勉強に行ってるんですって。その小川さんっていう人、そんなこと言ってませんでした? このお店へ来て」
良子「あっ、ええ、言ってました」
はつがしゃべってる間、映し出されるのは焦ったり、目が泳いだりしながらサンドイッチとコーヒーを食す良子の表情。
はつ「あっ、そうなの? じゃ、よっぽどあなたと親しいのね。じゃ、あれでしょ? その息子さん、ここへ寄ったことがあるんじゃないんですか? お見舞いに来たりしたときに」
良子「ええ」
はつ「あら! じゃあ、あなたも会ったことがあるの?」
良子「一度だか二度だったか…」
はつ「ねえねえ、どんな人なの? いい男? そりゃ寿美子さんが一目惚れするんだから、そんなつまらない男じゃないと思うけど」
売店に戻って来た勉。「よっちゃん、帰っちゃったんだよ、マッサージの先生」
はつ「ねえ、どんな顔してんの? 背は高いの? 低いの?」
勉も話に加わろうとするが、はつは黙ってそこへ掛けててちょうだいと冷たい。
はつ「じゃ、あれよ。正司さんとその男とどっちがいい男? でもあんないい男にはかないっこないでしょ?」
勉「笑わしちゃいけないよ。あんな兄貴がね、いい男なら、ここにいらっしゃる勉さんは一体どういうことになっちゃうんだよ」
はつ「どうにもならないから困ってるんですよ、みんな」
勉「ご挨拶だね。コーヒーだってサンドイッチだっておいしかったんだろ」
はつ「だからごちそうしたかったら黙っててちょうだいよ」
はつに小川さんをここに呼んできてほしいと言われた良子。勉も小川とは仲良しだと言うと、はつはこの病院の有名人だと感心する。いるかしら?とごまかそうとした良子にあの人ならどこにも行くとこがないと言ってしまう勉。見てくると席を立った良子は勉に”バカ”と口パクして出て行った。はつは残りのサンドイッチを食べる。
階段を上る良子。
良子は、はたと困ったのです。小川さんとおばちゃんを会わせてしまったらどういうことになるのかと…良子はそこに立ち止まったまま小川さんのウソの悲しさを見つめるのでした。(つづく)
いよいよはつにもバレてしまうのか!? 小川さんの出ない回は寂しい。
それにしたって、馬渕晴子さんを見ると「記念樹」が見たくなるなあ。
木下恵介アワーではないけど、木下恵介劇場も再放送お願いします。
7話はカメオとおばちゃんがケーキ屋で会った回。親父に断固会わないカメオ。
8話はこれから見ます。
そうそう、「おやじ太鼓」はお金持ちっぽく出かけるシーンが多かったね。