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【ネタバレ】太陽の涙 #22

TBS 1972年5月2日

 

あらすじ

寿美子(山本陽子)はついに真実を知った。秀行なる人物はもとからおらず、寿美子が夢中になった相手は、写真も見ずにお見合いを断った正司(加藤剛)だったのだ。寿美子は新作(浜村純)に当たり散らす。

2024.4.17 BS松竹東急録画。

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去年の花が

今年も咲いた

 

昨日来た小鳥が

今日も窓辺に唱(うた)った

 

今朝の約束が

今夜の夢に眠った

 

 

でも明日のことは

花も小鳥も約束も

散るのか

遠く去るのか

消えて空しいのか

さっぱり解(わか)らない

でも、それでいいのです

あなたの

心さえ乾かなければ

 

及川正司:加藤剛…添乗員。33歳。字幕黄色。

*

前田寿美子:山本陽子鉄板焼屋「新作」の娘。25歳。字幕緑。

*

池本良子(よしこ):沢田雅美…病院の売店の売り子。20歳。

及川勉:小倉一郎…正司の義弟。20歳。

*

ケン坊:鍋谷孝喜…「信濃路」店員。

ナレーター:矢島正明

*

井上はつ:菅井きん…そば屋「信濃路」の女将。

*

前田新作:浜村純…寿美子の父。「新作」マスター。

*

小川:三島雅夫…1年半入院している病院の主。

 

これまでにない最少人数かも。

 

夜、はつのアパートを訪ねた正司。このスーツとネクタイは、前回、清と会ったとき、会社にいたときと同じものだと思う。だから、1972年3月2日(木)かな。正司さん、すごいニコニコしてる~。

 

正司「下でケンちゃんに会いましたよ」

はつ「天ぷらを持ってきてもらったんですよ」

正司「精進揚げですってね」

はつ「まあ、そんなことまで言ったんですか?」

正司「ああ、こりゃ、ごちそうだな」こたつの上の料理を見る。

 

なぜケン坊がここ数回、出演してないのにキャストクレジットされてるのか。セリフ等あったのに、カットされてるのかな?

 

はつ「すいません。お疲れのとこ、わざわざ来ていただいて」

正司「いいえ、そんなこと」

はつ「お酒もありますからね。あがってってくださいよ」

正司「じゃ、遠慮なく頂こうかな」

 

はつ「私も飲みますからね、今日は。さあ、どうぞ」

正司「すいません」

はつ「上着も脱いでくださいよ」

正司「ええ、すいません」上着を脱ぐ。ガタイがいいな。

はつ「しゃれた色合いですね、この上着は」

正司「そうですか?」

はつ「とてもいいわ。正司さんにぴったり。舶来でしょう?」

正司「無理しちゃったんですよ」

 

はつ「そりゃ春ですもの。今のうちですよ、おしゃれは。ホントにいい色」

正司「大したおしゃれもできませんけどね」

はつ「そりゃ正司さんも大変よねえ」

 

正司「さあ、頂きましょうか」

はつ「あっ、そうそう。しゃべってばかりいちゃダメだわ。おなかがすいてるんでしょ?」

正司「ええ、もうペコペコ」

はつ「すぐですからね。何かあがっててくださいよ。お酒もちゃんとお銚子を用意しといたんですから」立ち上がり、台所で準備。

正司「じゃ、遠慮なく頂きます」

はつ「どうぞ、どうぞ。そのうま煮は、とてもおいしいと思うんですけどね」

正司「僕もね、里芋や蓮(はす)の煮たのが大好きなんですよ」

はつ「やっぱり日本の味ですものね」

 

うま煮を口にした正司。「とてもおいしいですよ」

はつ「そう、そりゃよかったわ。あら、天つゆをつぐ物がなかったわね」すぐ席を立つ。

 

正司「今日は何か特別なお話があるんですか?」

はつ「そうなの。また例の話なんですけどね、前田さんですよ。今日もお父さんが来たんですよ。困ってしまうんですって。お父さんはもう言いたくてしかたがないんですよ。あなたと小川さんの息子さんが一人の人だってこと」

正司「困ったな、それは」

はつ「私も初めは、それ見なさいと思ってたんですけどね。でも、もう今となっては笑い事じゃないんですよ。寿美子さんは本気にしてるんですからね。お父さんだって、もう黙っちゃいられないんですよ。寿美子さんだけがかわいくてしょうがないんですからね」

 

正司「つまりあれなんですか? お父さんは僕と寿美子さんを会わせたいと思ってるんですか?」

はつ「そりゃそうですよ。お父さんのほうは初めから気に入ってるんですからね。あなたが親孝行なとこが」

正司「だけど、そんなこと当たり前なんだけどな。僕のしてることなんて」

はつ「その当たり前がないんですよ。今の世の中は。どこの親だって年寄りだって見てごらんなさい。みんなそのことで心細くなっちゃってるんだから」

 

精進揚げというものの、正司が食べているのは海老天に見える。

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正司「おばちゃん、お酒、ついたんじゃない?」

はつ「あっ、そうだ。つきすぎちゃったわ」慌てて台所へ。

 

しかし、今日の正司さんはニコニコしてて良い。

 

正司の気持ちは複雑でした。自分も2人の人間なら、その寿美子という女性も2人の人間です。頭から自分を拒否した1人とどうしても自分に会いたいという1人と。

 

はつ「ねえ、正司さん。もうホントのこと言ってあげたほうがいいんじゃないかしら。だって十分に分かったんですもの。寿美子さんがとってもあなたを好きだってこと」

正司「でもね、奥さん」

はつ「また、そういうことを言う」

正司「あっ、そうか」

はつ「正司さんって、そういう人なのよね。気持ちでは、とっくにおばちゃんのくせに、それをつい行儀良く奥さんなんて言ってしまうのよね」

 

正司「でも、思うんですよね、僕は。初めに僕のことを断ったほうの寿美子さんが冷静で、あとのほうの寿美子さんは間違ってるんですよ」

はつ「あら、どうしてかしら?」

正司「小川秀行という実際にはいない人間の影に惚れたんですからね」

はつ「そうよ、惚れたのよ。大変な熱よ」

 

正司「でも、写真も見ないで断られたほうの僕は、ちゃんとここにいて、しかも断られるだけの事情はありますからね」

はつ「ないわよ、そんなもの」

正司「いや、あるんですよ。第一、金はないし。あんなお粗末なアパート暮らしじゃありませんか。とてもとてもダメな話なんですよ」

はつ「私はそんなことは百も承知でいい縁談だと思ったんですからね」

正司「すいません。ありがとうございました」

 

はつ「じゃ、はっきり聞きますよね。つまりあなたは寿美子さんと結婚したくないっていうんですね? はっきり断ってほしいっていうんですね?」

正司「まあ、そうでしょうね。おばちゃん、つぎますよ」

はつ「今日は飲みますよ。こうなりゃ私のほうがヤケよ」

 

正司のほうも最初は断られていたというのもあるし、ウソの自分で会ってしまったという負い目があって消極的なんだろうか。まあ別に小川秀行としてウソの経歴をペラペラ話したわけでもないのにね。真面目かっ!

 

新作のマンション

新作「やあ、早かったね」

はつ「大急ぎで来たんですよ」

新作「悪いよね、いつもあんたには」

はつ「ホントにそう。今日なんて二日酔いでもっと寝ていたかったんですよ」

 

新作「飲んだの? あんたが」

はつ「飲みたくもなるんですよ」

新作「じゃあ、苦いお茶がいいんだな」

はつ「水でいいの。冷たい水で」

 

新作「いや、お茶の支度がしてあるんだよ」

はつ「寿美子さんはもうお店へ行ったんですか?」

新作「それが店ならいいんだけど、病院へね」

はつ「また行ったんですか」

新作「あんたが来るから待ってなさいって言ったんだけどね」

はつ「そうよ。病院へ行ったってしょうがないんですもの」

新作「困っちゃうんだよ、だから。本当のことを言ってやりたいし、そうかといって、あんたの返事を聞かないうちにうっかりしたことも言えないしね」

はつ「気が変になりそうですよ、この話は」

新作「どうだったの? それで」

 

はつ「それがねえ…やっぱり」

新作「やっぱり、なんなの?」

はつ「うまくいきませんよ」新作の入れてくれたお茶を飲む。

 

新作の「どうして?」という問いに、はつは、一度断ったと言い、もう1杯、お茶を求める。新作は、そんなにいつまでもこだわることなのかなと言うが、こめかみを押さえて生あくびをしたはつが「男なら意地だって断りますよ。そうそうニコニコして甘い顔ができますか」とウンザリ顔。

 

新作「だけどさ、それは思い違いなんだからね。寿美子の」

はつ「寿美子さんのわがままですよ。勝手すぎるんですよ。そういうとこが正司さんに気に入らないんですよ。性質が違うって言うんですよ。そう言われてみりゃ、私もそんな気がしますけどね」

新作「あんた、それじゃ、話が違うじゃないの」前にこんないい縁談はないと言ったはつを責める。

 

はつ「そりゃ言いましたよ。初めはそう思ったんですもの」

新作「そう思ったら、そう思ったで、それを押し通してくれなきゃしょうがないじゃないか」

 

はつさん、二日酔いということで翌日、1972年3月3日(金)かな。3月3日は小川秀行さんの31歳の誕生日か~。新作もなかなか勝手だ。

 

売店

寿美子「また来てしまったんですけど、小川さん、お元気ですか? ああ…そうね、私、ついうっかりしちゃって、秀行さん、ベニスへ行ってしまったんですもんね。お元気なわけありませんよね」←よく来るなあ。

 

良子はお茶を出し、申し訳なさそうに「今日は小川さんにお会いにならないほうがいいんじゃないかと思うんです」と言った。気落ちしているせいだと思う寿美子。秀行がいつベニスに発ったか聞く。

 

意を決して、良子が話し始める。

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18話で正司が言った「いつまでもだましてちゃ悪いじゃないか。僕さえいなけりゃいいんだ。僕がいなくなってからならさ、よっちゃんがみんなウソだって言ってあげればいいんだ。それも早ければ早いほど」という言葉を守ったんだね。

 

18話と言っても、2日くらい前の話です。

 

良子「いいえ、違うんです、何もかも。まるっきり違うんです、何もかも」

寿美子「何が違うんですか? かまわないから、おっしゃってくださいよ。ねえ、何が違うの?」

良子「今日、あなたが小川さんに会えば、小川さんもっとつらくなっちゃうんです」

寿美子「あら、どうして? どうして私に会うとつらくなるの?」

 

良子「小川さんには息子さんなんていないんです」

寿美子「えっ? いないって、それ、どういうこと?」

良子「あなたいつかここで及川勉さんにお会いになりましたでしょ?」

寿美子「ええ」

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良子「あの勉さんのお兄さんが、あなたがベニスに行ったと思っている秀行さんなんです」

寿美子「えっ? なんのこと? それは」

良子「だってそうなんです。あなたが会いたいと思ってらっしゃる秀行さんなんていないんです」

寿美子「いないって、それ、どういうこと? 私、ここでお会いしたじゃありませんか。ここでいなり寿司を食べてらっしゃるときに」

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良子「ええ、そう。そのあとでまたタクシーでご一緒になったんでしょ?」

寿美子「ええ、そうですよ」

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良子「その人が勉さんのお兄さんなんです。及川正司さん。どうしてこんなことになってしまったんでしょう」

寿美子「だって、及川正司さんって私が縁談を断った方じゃありませんか」

良子「ええ、そうです」

 

後ろの壁に「アイスクリーム 50円」が増えてる。

 

寿美子「その方が小川さんの息子さんだってウソを言っていたんですか?」

良子「いいえ、ウソなんか言うつもりなかったんです」

寿美子「だって、そうじゃありませんか。あなただって、小川さんだって」

良子「違うんです、それは」

寿美子「どういうふうに違うんでしょう? 私だけが知らなくって…」

 

良子「だから困ってたんです、みんなが」

寿美子「井上のおばちゃんも知ってたんですか?」

良子「ええ」

寿美子「まあ、おばちゃんまで知ってたんですか」

 

良子「ホントに悪気なんてなかったんです」

寿美子「でも、おかしかったでしょうね。私一人が知らないで、皆さんで笑ってたんじゃないんですか?」

良子「いいえ、笑うなんて、そんな…」

 

勉「よっちゃん」寿美子の姿を見つける。「あれ?」

急いで荷物を抱えて席を立つ寿美子。「お邪魔しました」

 

寿美子は売店前に立っている勉の前を通り過ぎざま、「あなたもおかしかったでしょうね」とうつむいたまま目も合わせず言う。

勉「なんのこと? よっちゃん」

寿美子「なんのことだか分からなかったのは私のほうですよ。ひどいですよ、あんまり」潤んだ目で勉を見上げる。「お兄さんにそう言っといてください。秀行さんに」

 

やっぱり山本陽子さん、美しいわ~。

 

勉は寿美子の後ろ姿を見つめる。寿美子が掛けていた席に置かれたお茶には茶柱が立っていた。今、こんな描写ないよね~。

 

勉「小川さんの息子のこと話しちゃったの?」

良子「ええ」

勉「とうとう話しちゃったのか。でもしょうがないよな。自分のほうで勝手に勘違いしてたんだから」

良子「黙っていられなかったの」

勉「泣いてたよね。涙を浮かべちゃってさ。ああ、いい気味だ。大体ね、俺のことを突き飛ばしたりするから、こういうことになるんだよ。でもさ、どういうふうに話したの? よく思い切って話したね」

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良子「あの人、お兄さんのこと、とっても好きなんですもん」

勉「そうそう。すっごくイカれちゃったんだよな。変な話。あんな兄貴のどこがいいのかな」

良子「とても違うわね。あんたとは」

勉「グッとイカすだろ? 俺のほうが」

良子「イカれてんの」

勉「どうして? そうでもないだろ?」

良子「もっと真面目に自分のこと考えてみたらどうなの?」

勉「考えてるんだよ、俺だって」

 

良子「すぐ俺になっちゃうんだから」

勉「いいじゃないの。俺だって僕だって」

良子「そういうとこが大違いなのよ、お兄さんとあんたと」

勉「そうムキになるなって」

良子「なるわよ、私は」

勉「すぐそれなんだから」

 

良子「あんたね、ムキになって人を好きになったことある?」

「さあ、あったかな?」と、とぼける勉。良子「情けない人」と断じ、「お兄さんだってね、今の人だって、小川さんだってそうよ。みんな、一生懸命で人を好きになるのよ」と熱弁。

 

勉「うん、だからさ、失恋したり、がっかりしたり、小川さんだって結局そうだものね」

良子「それでもいいじゃない」

勉「そうね、まあね。でもさ、そういう君はどうなの? 好きになったことあんの? ムキになって」

良子「ないわよ」

勉「ほら、そうだろ?」

 

良子「だから、考えてんのよ、今」

勉「考えてんのか、君は…」

良子「一生懸命で考えてるのよ」

勉「そうか、ごめんよね」

良子「誰のこと考えてると思うの?」

勉「まさか…あれだろ?」

良子「あれって何よ?」

勉「僕だって、一生懸命考えてみるよ」

良子「そうよ」

 

勉「ねえ、よっちゃん」

良子「何? そんな情けない顔して」

勉「コーヒーが飲みたくなっちゃったんだよ」

良子「そんならそうと早く言えばいいのに」立ち上がる。

 

小川「良子さん」

良子「あら」

小川「ああ、ちょうどよかった。勉さんもいたんですね」スーツ姿。

良子「どうしたの? そんな改まった格好しちゃって」

 

小川「ええ、あの…ちょっとお別れのご挨拶にね」

良子「お別れって?」

勉「どっか行っちゃうの? おじさん」

小川「ええ、まあね。それにね、この病院も随分、長くなりましたしね」

勉「やっぱりそうか」

 

良子「ねえ…とにかくちょっと掛けて」

 

いつもあんまり見えない壁にも

 

オレンヂジュース

あんみつ 70円 なんてのがあったんだ。

 

小川「でもね、良子さんね、もうこのまま行ってしまいますよ」

良子「どうして?」

小川「うん…ここへ来るとね、ホッとしましたからね。その椅子へ掛けてしまうとね、また動けなくなってしまいますからね」

良子「じゃ、すぐ行っちゃうの?」目がウルウル。

大きくうなずく小川。「ありがとうございました。いつもいつもごちそうにばかりなって」

泣きだす良子。「いいのよ、そんなこと」

 

くず餅 1皿 70円

 

女性客が、おいなりさんを注文。良子が接客。

 

勉「ねえ、お茶ぐらい飲んでったら?」

小川「ああ…ありがとう、ありがとう。でもね、行くと決まったら早いほうがね」

勉「あんなひどいこと言われたんだもんね」

小川「昨日は助かりましたよ。本当にありがとう」

勉は笑って首を横に振り、うつむく。

 

小川「あの…良子さん」

良子「ねえ、ホントにすぐ行っちゃうの?」

小川「うん、あのね、あの…先生方にももうご挨拶済ましたし」

勉「あっ、荷物はどうしたの?」

小川「まだ病室にあるんですけどね、ほんの少しですよ。私の荷物なんて」

勉「じゃあ、僕、一緒に行ってあげるよ」

小川「そうですか? じゃあ、良子さん…」

 

良子「ねえ、一体、どこ行くの?」

小川「ああ、そのことですがね、あの…」

良子「心当たりあるの?」

小川「え…ええ、まあね、ええ、あることはあるんですがね」

勉「なんだ、そんなに心細いの?」

 

良子「ねえ、ちょっと。ねえ、座ってよ。とにかく気になるじゃない」小川の腕を引っ張るが小川は首を横に振る。

勉「ねっ、座って。僕がさ、今、お茶入れてあげるから」

良子「あっ、そうだ。おいなりさんも食べてらっしゃいよ」無理やり掛けさせる。

 

勉「じゃあ、俺も食べようかな」

良子「俺なんかにはあげないわよ」

勉「あっ、しまった。僕だよ、僕」

良子「じゃあ、お兄さんの代わりにあげるわ」

 

2人のやり取りを見ていた小川は目を潤ませ、手で顔を覆う。良子は小川の前にいなり寿司を出す。

 

小川「あっ…ハッ、いや…このおいなりさんの味は一生忘れないでしょうよ。これから先、どこへ行って、どんなふうに落ち着くか知れないけど、思い出すでしょうよ。行く先々でおいなりさんを見ると」

勉がお茶を出す。

小川「あっ、すいません」

勉「さあ、食べましょう」

小川「あっ、勉さん。お兄さんにくれぐれもよろしく」

勉「あっ、そうか。兄貴にも知らしたほうがいいかな」

 

小川「あっ、いやいや。いや、いいんですよ、いいんですよ」

勉「だってさ、当分会えなくなるんでしょ?」

小川「そりゃ、まあね。いや、当分どころか、これっきり会えないかもしれないけど」

良子「じゃあ、会ってらっしゃいよ」

勉「そうだよ、ねっ? 僕ちょっと電話してくるからさ」

小川「いやいや、もうこれで十分です」

勉「そんなこと遠慮しなくてもいいのに」

小川「いや、あのね、もうお別れはしましたからね。やっぱりここでこのおいなりさんを食べて」

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良子「でも、そのときのお別れはウソですもの」

小川「いいえ。私にはね、今のお別れよりもね、ずっとつらかったんですよ。私の秀行は、とうとうベニスへ行ってしまいましたからね。もういくら呼んだってね、いなくなってしまったんです。私の息子は」

勉「兄貴も冷たいことを言っちゃったよな。ねえ? よっちゃん」

小川「いいえ。いいんですよ、それで」懐から白い封筒の中にしまわれた絵葉書を取り出す。

 

勉「それだね、問題の絵葉書は」

小川「ええ、私のね、宝物です」

勉「ちょっと見して」

 

良子「勉さん。読んであげたら?」

勉「えっ? これを僕が読むの?」

良子「そう、読めるでしょ?」

勉「読めるかな? 兄貴の字はうまいからね」

 

小川「あの…自分で読むよりもね、ホントに息子がベニスにいるような気がするんですよ」

勉「なるほどね」

小川「私ね、目をつぶってますからね」

 

勉「だけど、最初のほうがてれくさいなあ」

良子「いいのよ。黙って読めば」

勉「読むよ、読むけどさ」

小川「すみませんね」目をつぶってスタンバイ。

 

勉「じゃあ」

かなりや

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いつものこの曲が流れだす。

 

勉「お父さん、お元気ですか? 長らくご無沙汰してしまって申し訳ありません。でも、いつもお父さんのことは気にかかっていました。早く病気が良くなって、一度このベニスに来ていただきたいと思います。ベニスはいつも世界中の観光客でお祭りのようです。一度、お父さんとゴンドラに乗りたいですね。では、また。 秀行」

5話では良子が読み上げていた。

 

新作のマンション

寿美子「ベニスも料理の勉強も大ウソなんですもん。いくらなんだってひどすぎます。お父さんだって井上のおばちゃんだってちゃんと知ってたくせに」

新作「わけがあるんですよ、それには」

寿美子「わけなんてどうだっていいの。そんなバカバカしいこと。私一人を夢中にさせといて」

新作「そうじゃないんだったら」

寿美子「だったらどうして私に言ってくれなかったんですか?」

新作「言いたくてムズムズしてたんですよ」

寿美子「井上のおばちゃんなんて面白がって笑ってたに決まってるんです」

新作「笑いやしないよ。そりゃまあ、初めのうちは多少おかしかったかもしれないけどさ」←うんうん、確かにちょっと面白がってた。

寿美子「それ、ご覧なさい。やっぱり笑ってたんじゃありませんか」

新作「だって、そりゃまあしょうがないだろ?」

寿美子「ええ、そうよ。しょうがないでしょうね。私が初めっからバカだったんですからね」

 

新作「まあ、お茶でも飲もうよ。おいしい新茶を入れてあげるよ」

寿美子「お父さん」

新作「落ち着かなきゃダメですよ」

寿美子「落ち着いてなんていられるわけないじゃないの。お茶だの新茶だの、よくもそんなのんきなことが言ってられたもんだわ。娘が泣く泣く帰ってきてどうしていいか分からないっていうときに」

新作「分かっているんですよ、ちゃんと」

寿美子「何が分かってるの? どういうふうにちゃんと分かってるの?」

 

新作「だって、あれだろ? お前は小川さんの息子さんが好きなんだろ?」

寿美子「好きだけど、そんな人いなかったじゃありませんか」

新作「いるさ。ちゃんといるじゃないか」

寿美子「ダメよ、いたって」

 

新作「どうしてダメなんだ?」

寿美子「今更そんな虫のいいことが言えますか」

新作「言えるさ。大威張りで言えるよ」

寿美子「どうして大威張りで言えるんですか? 一度私のほうから断っちゃったのに」

新作「まあ、任しておきなさいよ。お父さんと井上のおばちゃんでうまく話をするよ。とにかくお父さんは初めっから、その正司さんという人は気に入ってたんだからな」

 

寿美子「じゃあ、そんな落ち着いた顔してなくったっていいじゃないの」おばちゃんのところへ電話するよう新作に言うが、落ち着いてればいいと言われ、自ら受話器を取る。

 

しかし、そのころ…一体どうしたというのでしょうか。井上のおばちゃんは顔色を変えて走っていたのです。そして、正司もその暗い顔に悲痛な愛情を見つめ、心急(せ)くままにタクシーを走らせていたのです。父が倒れたのです。(つづく)

 

寿美子は笑いものになったことばかり気にしてるんだもんなあ。やっぱり小川さん関連のところは泣ける。だけど、小川さんより良子が正司も小川さんも、はたまた寿美子も巻き込んでしまったという感じする。悪気がなかったという言葉、あんまり好きじゃないな。

 

「おやじ太鼓」13話。山田太一脚本回の愛子さんは怒りすぎ。

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14、15話と山田太一脚本が続きます。

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