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【ネタバレ】太陽の涙 #7

TBS 1972年1月18日

 

あらすじ

名前も住まいも聞かなかった正司(加藤剛)と寿美子(山本陽子)だが、寿美子は一目会って正司に引き付けられ、その日一日何も手につかなかった。一方、正司は病身の父や勉(小倉一郎)のことを考え気が重い。

2024.3.27 BS松竹東急録画。

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人生には

奇妙な出合いがあります

いや 奇妙な出合いこそ

人生なのかもしれません

何故なら

の人と会った事が

あなたの一生を決めるからです

 

及川正司:加藤剛…添乗員。33歳。字幕黄色。

*

前田寿美子:山本陽子鉄板焼屋「新作」の娘。25歳。字幕緑。

*

池本良子(よしこ):沢田雅美…病院の売店の売り子。

及川勉:小倉一郎…正司の義弟。20歳。

*

井上はつ:菅井きん…そば屋「信濃路」の女将。

ケン坊:鍋谷孝喜…「信濃路」店員。

*

仲居:小峰陽子

板前:大西千尋

ナレーター:矢島正明

*

前田新作:浜村純…寿美子の父。「新作」マスター。

 

オープニングの女声コーラスバージョン?の♪ラ~ラ~ラララ~が爽やかで好き。

 

この東京という大都会には1140万人ぐらいの人々が喜怒哀楽を生きています。そして、その人々が求めるもの、それは幸せです。でも、幸せはどこから来るのでしょう。

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1970年が1140万人で2020年が1404万人。

 

タクシーの後部座席に並んで座っている正司と寿美子。

 

この2人は1140万人の中で巡り合った1人の男性と1人の女性です。では、なぜこの2人は巡り合ったのでしょう。いえ、巡り合うということが人生の全てなのかもしれないのです。ただし、求める幸せが訪れるかどうかは別ですが。そのとき、2人は次第に息苦しくなっていました。つまり、2人の中で何かが起ころうとしていたのです。

 

タクシーの初乗り料金は130円。

 

寿美子「あの…」

正司「はっ?」

寿美子「やっぱりお見舞いですか? どなたかお悪くて」

正司「いえ、大したことはないんです。ほんのちょっと軽いケガで」

寿美子「そうですか。それならまあよかったですね」

 

正司「あなたもお見舞いですか?」

寿美子「ええ。そのつもりだったんですけど、もうどうでもいいんです」

正司「そうですか。それ、あの売店でお買いになったんですね」

寿美子「ええ。手ぶらで行きましたから。お見舞いのつもりだったんですけど」

正司「あげるのをやめたんですか?」

寿美子「いえ、いなかったんですよ。せっかく行ったのに」

正司「おやおや」

寿美子「とんだ無駄遣いですわ」

正司「1000円でしたね」

顔を見合わせて笑う。

 

寿美子「ホントはお見舞いに行く義理なんてないんですもの。いなくてよかったんですわ」

正司「そうですか。義理はつらいですからね」

寿美子「ああ、そうだ。おたくにはお子さんおありですか?」

正司「えっ? 僕にですか?」

寿美子「失礼ですけど、これお持ちになっていただけないかと思って」

正司「とんでもない。僕はまだ独りですよ」

寿美子「あら…」←嬉しそう

 

正司「てんでダメなんだな、僕なんて」

寿美子「いえ、とんでもない。どうぞこれ召し上がってください」

正司「僕がですか?」

寿美子「どうぞ失礼ですけど」

正司「困っちゃうな」

寿美子「あんな売店のですもの。おいしくはないでしょうけど」←あんな、って(^-^;

正司「いやいや、あの売店の物はおいしいんですよ。特にいなり寿司なんてね。それにあの娘さんでしょう。いいですよ、あの娘さんは。今度行ったらあなたもいなり寿司を食べるんですね」

寿美子「はあ」

 

正司「それはそうと赤坂のどの辺ですか?」

寿美子「一ツ木通りでいいんですけど」

正司「運転手さん、一ツ木通りね」

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正司の話し方が「3人家族」の雄一のときの竹脇無我さんみたいだな~。竹脇無我さんもこういう役似合いそう。

 

鉄板焼屋「新作」

新作も前掛けをあて厨房で手伝い。そこに寿美子がやって来た。「どこ行ってたんだよ? お昼の忙しいときにもいなかったし」

寿美子「すいません。ちょっとあっちこっち」

新作「信濃路のおばちゃんとこへかけたら、もうとっくに帰ったって言うし」

寿美子「それがね、お父さん…ちょっとお茶を1杯飲むわね」

新作「また何かあったの?」

寿美子「あったみたいだけど、それが変ね。私、ポーっとしてるのかしら?」

新作「へっ? ポーっとした?」

寿美子「そうらしいわ、どうも」

新作「おい、こら。あっちこっち出歩くのはいいけど、ポーとしちゃ困るよ」

 

注文が来て、品物が出来て、新作も再び手伝う。2話、4話、そして今回にも名前のある大西千尋さんって何の役?と思ってたけど、何人かいる板前の一人かも? なぜか女性だと思い込んでた。

 

お茶を飲んで、ため息をつく寿美子。

新作「どうしたんだよ? 一体。この忙しいさなかに吐息なんかして」

寿美子「私ね、病院へ行ったの」

なぜか焦る新作。「冗談じゃないよ。ちょっと来なさい、ちょっと」と厨房から控室?に連れ出す。

 

寿美子「何を慌ててるの? お父さんったら」

新作「バカ。慌てない親がありますか。お前、まさか…あれじゃないだろうね?」

寿美子「何よ? あれって」

新作「いや、あれっていうのはあれだよ。ポーっとしたり気になったり、その上、病院へ行かれて慌てない親がありますか」

寿美子「ハハッ。何言ってるの? そそっかしいにも程があるわ」

新作「そそっかしいのはお前のほうでしょ」

寿美子「私はただ病院へ行っただけよ」

新作「こら。大きな声で言うんじゃないよ。みんなに聞かれたらどうするんだよ」

寿美子「ヤなこと言うのね、お父さんったら」

新作「イヤなことだって言わなきゃ心配でしょうがないよ、ホントに」

 

寿美子「あの子に会いに行ったんですよ、私は」

勉だと知り、安堵する新作。

寿美子「早とちりまでおばちゃんそっくり」

新作「とちらせるんだよ、お前のほうが。ああ、びっくりした」

 

新作もはつも突き飛ばした寿美子のほうが悪いみたいに言うので気になって見に行った。いつまでもこんな所にいるとみんなが変に思っちゃうからと部屋を出ようとした新作だが「だけどだよ、寿美子。やっぱり気になるな。その子がいなかったのにどうしてポーっとしちゃったの?」

 

寿美子「それがこうなの。私、手ぶらで行ったでしょ? だから、病院の売店でお見舞いを買ったの」

新作「それはいいだろ。そのほうが」

寿美子「そのときよね…」うっとり顔。まあいいわとケーキを5つ、チョコレートとキャンディをちょうど1000円買った。

新作「1000円なら安いよ」

 

しかし、不良少年は勝手に出歩いていなかった。看護婦もプリプリ言っていた。

寿美子「それをいい縁談だなんて」

新作「それはもういいんだよ」と先を促す。

 

寿美子「それがこうなの。いなかったでしょ? その子が」

新作「じれったいね。お前の話し方は」←これがしばらく続きます。

 

お菓子は不良少年がいなかったので、そんな子に置いてきても無駄なので持って帰ることにした。新作に持っていなかったじゃないかとツッコまれる。

寿美子「そうなの。もっといいお菓子を2000~3000円買っていけばよかったんだけど…」またうっとり顔。

 

寿美子「その帰りよ」

新作「じれったいよ、お前の話は」

 

話には順序があると言いながら、「だから分からなくなっちゃったの」と話す寿美子。

新作「あきれたもんだ。分からないのはお父さんのほうですよ」

 

寿美子は言うに言えないこともある、ポーっとしちゃったと要領を得ない。

新作「ポーっとしちゃうよ、こっちだって」

ニッコリ笑う寿美子。かなりもどかしい会話。

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再登場した初ちゃんを思い出した。木下恵介名物なのかもしれない。

 

そば屋「信濃路」

ケン坊「あっ、いらっしゃい」

正司「奥さんいる?」

ケン坊「いますよ。女将さん! 及川さん」

はつ「おや、今日は早いんですね」

正司「ちょっと報告に行っただけだから」あしたとあさっては休み。

はつ「そうなの? あっ、それもそうね。大勢連れて外国旅行じゃ疲れるでしょう」

 

天ぷらそばを注文し、電話を借りる正司。

はつ「あっ、いいのよ。お金なんか入れなくったって」

正司「でも…まあね」

はつ「なんだか悪いみたい」

正司「僕の性分だもの」

はつ「損な性分」

 

家に電話をかけた正司は、信濃路にいることを話し、天ぷらそばをうちへ持ってきてもらいましょうか?と聞いた。「どうして? 食べればいいのに」

 

天ぷらそばを食べる正司の向かい側に掛けるはつ。「困った弟よね。昨日の夜、あんたが帰ってくることを知ってるんですもの。それなら今日必ずあんたが行きますよ。それをわざとのようにどっかへ遊びに出ちゃうなんて」

正司「僕もまさか外へ出ていくとは思わなかったから」

はつ「そうよ。それをちょいちょい出かけてしまうんだから」

正司「あした電話をしておきますよ」

はつ「あれ? もしかしたらまたあそこ行ったんじゃないかな?」

 

はつが以前行ったときに変な友達が来ていて、その辺に何か食べに行こうと誘っていた。正司もまた売店の女の子からその話を聞いた。

 

はつ「その売店の女の子よ。私がこの前行ったでしょ? そのとき、ちょうど売店の前を通りかかったら、その女の子が泣きそうな顔して飛び出してきたじゃないの。まったく何をしたのか、何を言ったんだか。あの勉ちゃんときたら、ホントに油断も隙もないんだから」

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正司「そんなことがあったの?」

はつ「それでもね、あれでなかなかいいとこがあるんですよ。それには私も感心しちゃったの。とにかくやっぱり兄弟ですよ。だから、悪くばっかりも言えないのよね」

正司「へえ、何があったんだろう?」

はつ「いいえ、あったりなかったりでね。いいこともあれば悪いとこもあるんですよ。でも、あれですよね。病院にいる間はいいけど、また出てきたら心配よね?」

正司「いや出てきてからならまだいいけど、まさか病院の中にいて変なことになると…」

はつ「そうそう。その売店の女の子だって何かあったか何を言ったか、どうも変だったのよ」

 

正司「そういえばね、奥さん…」

はつ「ねえ、正司さん」

正司「えっ? なんです?」

 

はつは、奥さんっていうのやめてちょうだいよと頼む。変、水くさい。そば屋の女将さんが何が奥さんだと言う。「おばちゃんでいいのよ」

正司「でもさ…」

はつ「でも、じゃないの。これからはおばちゃん」

正司「ハッ。困っちゃうな、こりゃ」

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黒田からおばちゃん呼びされるのを嫌がっていたお敏さんが…( ´艸`)

 

はつは正司が言いかけたことを改めて聞く。

正司「あっ、そうそう。あのね、奥さん…」

はつ「奥さんじゃないったら。おばちゃんですよ」

正司「とにかく今日、病院へ行った帰りだけどね。ちょっとステキな人に会っちゃってね」

はつ「まあ、そりゃいいじゃないの」

正司「いや。いいにも悪いにも、ただ会っただけだから」

 

はつ「でも、女の人でしょ? その人」←今はこの質問、アウト?

正司「そりゃそうですよ、もちろん」

はつ「きれいだった? その人が」

正司「そう、まあね」

はつ「何がまあねよ。それでどうしたの? その人と」

 

正司「これをもらっちゃったんですよ」

はつ「あら…まあ、もうもらっちゃったの?」←もう!?

正司「ただそれだけだけどね」

はつ「何がただよ」

正司「だってホントにそれだけだもの」

はつ「そうかしら? 初めて会って、もうそんな物もらっちゃうなんて」

 

正司「それがね…」

はつ「何もらっちゃったの?」

正司「ケーキとチョコレートとキャンデー。奥さんもあがってくださいよ」

はつ「いいの、いいの。それよりお父さんに持ってってあげたほうがいいわ」

正司「でもケーキが5つもあるんだから」包装紙を広げる。「そうだ、ケンちゃん、君も1つ食べてよ」

ケン坊「どうもすいません」

正司「お皿をね」

はつ「いいのに。そんなことしなくたって」

正司「もらい物だもの。それに気は心っていうでしょ?」

ケン坊「(皿を持ってきて)はい。わあ、おいしそうですね」

正司「そりゃね。くれた人がいいもの」←(≧∇≦)

はつ「まあ…」

正司「これは奥さんにだよ」

ケン坊「あっ、すいません、どうも」

 

100円のショートケーキ×5+チョコレート、キャンディーなのかな? いや、ケーキはもっと高いかな?

 

はつ「ねえ、正司さん。まあ、その人のことはあんまり聞かないけど」

正司「そりゃそうですよ。僕だってタクシーが拾えなくて、ついその人と同じ方向だったもんだから一緒に乗っただけですからね」

はつ「いいのよ、それは。そういうことだってなきゃ面白かないわよ。まだ若いんだし、男前だし」

正司「男前は余計だな」

はつ「いいえ。めったにない男前ですよ」←ホントホント

 

正司「ケンちゃん、すまないけど、お茶をね」

ケン坊「はい」

 

はつ「まあ、聞きなさいったら…」

正司「ええ、聞きますよ。なんです?」

はつ「これだけは言っておきたいの。余計なことだけどね、これだけはね」

正司「深刻な話ですか?」

はつ「そうよ、深刻よ」

 

お茶を注いでいるケン坊。「はやらないけどな、深刻な話は」

はつ「うるさいよ、お前は」

 

はつは正司を自分のアパートに連れて行く。お茶はもういいと言われ、こたつに入って話し始める。「実はね、こんなこと言わないでおこうかと思ったけど、でも、あとあとのこともあるし、やっぱり言っといたほうがいいかと思って」

正司「どうぞ。かまいませんよ」

 

高行とも話し合って、正司には内緒にしとこうかと思っていたが、実は正司にお嫁さんをお世話しようと思って、出過ぎたことをしてしまったと話すはつ。ダメな理由の一つは、正司が外国ばかり行っている。もっと若い人とか、もうとっくに奥さんのある人なら別だが正司も33歳。

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正司「あと3か月で4ですよ」

 

1938年4月生まれかな。昭和13年、寅年。「たんとんとん」の新さんと大して変わりないんだな。

 

はつ「だからね、その年で独り者(もん)で、それにとびきり上等のスマートでしょう。そんな人がしょっちゅう外国ばっかり行っていて、とても堅い人のわけがないって言うんですよ。そんなバカな言い方ってないと思うんですけどね」

正司「いや、そんなふうに思われてもしかたがないのかな」

 

はつ「だから、それが言いたかったんですよ。さっき、とってもきれいな人に会ったって言ったでしょ? ケーキやチョコレートまでもらっちゃって」

正司「関係ないんですよ、そんなこととは」

はつ「いいえ、あるの」

正司「ハッ…そうかな」

はつ「つまり、私が言いたいのはね、どんなにあなたが気に入った人に巡り合ってもよ、決して一番先にしょっちゅう外国へ行ってるなんて言っちゃダメなんですよ」

正司「なんだ、そんなお話ですか」

はつ「ところがそういうとこが大事なんですよ、女にとっては」

 

正司「でも、ウソは言えませんからね」

はつ「ウソを言わなくたっていいじゃないの。ただね、向こうの人が正司さんを好きになるまでは言わないほうがいいのよ。だって好きになってしまえば分かりますよ。あなたがそんないいかんげんな男じゃないってことが」

正司「大丈夫、大丈夫。そんな女性はめったに現れませんよ」

はつ「現れたじゃないのよ。現に今さっき、あんなケーキやチョコレートもらってきたんですもの」

正司「でも、あの人とは偶然だからな」

はつ「その偶然が恋になるんですよ。私なんてひどい偶然でしたよ」

ニッコリ笑顔を向ける正司。ステキ。

 

売店

奥の席でコーヒーを飲む勉。「ねえ、こういう商売してると儲かるの?」

良子「そりゃいくらかね。でも大したことないわ」

勉「だけどさ、一度聞いてみたいと思ってたんだけど平気かな? 君は」

良子「何が平気よ?」

 

勉「つまんないだろう? 君みたいな若い子が一日こんなとこにいてさ。よくおとなしく我慢できるよな。それに大したことないんじゃ、つまらないじゃないか」

良子「つまんなくたってしょうがないでしょ。そういうふうになっちゃったんだから」

勉「よしなよ。こんな店おっぽり出しちゃってさ、どんどん好きなとこに出てくんだよ。大体、病院の中なんて陰気臭いよ。若い女の子のいるとこじゃないよ」

良子「いるとこじゃなくたってしょうがないでしょ」

勉「いっぱいあるよ、面白い所が。青春は二度ないんだぜ。チャカスカやっちゃったほうが得だよ。かわいそうだよ、君が」

良子「大きなお世話。何さ、自分だってジャカスカ、ケンカするぐらいしか能がないくせに」

 

勉「フン、大体、君はね…」

良子「結構ですよ。不良のチンピラになんかとやかく言われることないわ」

勉「言ってくれんのは俺ぐらいしかないじゃないか」

良子「しょってんだから始末悪いわね。人に言いたかったらね、ちゃんと自分一人で歩いたらどうなの? 松葉杖にすがってるくせに。それもよ、まだその松葉杖ならいいわよ。あんたなんてね、お兄さんにすがってなかったら生きていけないんでしょ?」

勉「言うこと言うこと」

 

良子「当たり前よ。少しはお兄さんの身にもなってみるといいのよ」

勉「おや、そうなの?」

良子「何がそうなのよ?」

勉「そうか。なるほどな」

良子「何言ってんの? 分かったような顔して」

勉「やっぱりね。兄貴は見たところがいいからな、俺なんかと違って」

良子「なんのこと? それは」

 

勉「惚れてんだろ? 君は」

良子「バカなこと言わないでちょうだい」

勉「ほら。そういうムキになるところが怪しいよな」

良子「怪しいのはあんたのほうよ。顔だってまんざらではないし、何してんだかさっぱり分かんないし」

勉「おや、そう? 俺の顔はまんざらでもないの?」

良子「口が滑っただけよ」

勉「ありがとうね、口が滑ってさ。まんざらでもないだろ? こうやって包帯が取れると」

 

良子「あんたね、男はね、顔よりも気持ちよ。気持ちが腐ってたらどうしようもないの」

勉「そうそう。肝心なのはそこだよ」

良子「そう思ったら、もうちょっとなんとかしたらどうなの? ギブスはめてるくせに出歩いてばっかりいて。せっかくお兄さんが来たのに悪いと思わないのかしら?」

勉「思わないね、さっぱり」

 

良子「帰ってちょうだい。いつまでも粘っていられるとね、こっちは迷惑すんの」

勉「おい、ちょっと待ちなよ」角砂糖の箱をしまおうとした良子の手に触れる。

良子「汚らわしい」

勉「汚らわしいはないだろ」

良子「汚らわしいわよ、人間のクズなんて」

勉「そうか。クズか、俺は」

 

良子「ちっともまともになろうとしないだもの」

勉「なりたいんだよ、おれだって。誰かに愛してもらいたいんだよ。愛してくれる? 君なら」

良子「ああ、気持ち悪い。あんたってね、よく、そうヌケヌケ歯の浮くようなこと言えるわね」

勉「ああ、言えるね。求めてるんだからな」

良子「バカもいいとこ。開いた口が塞がんないわ」

勉「じゃあ、接吻しようか?」

良子「バカ! あんたって人は、なんてこと言うの?」

勉「そうかな」

 

良子「人に愛してもらいたかったらね、もっとこう真剣になったらどうなの?」

勉「真剣だよ、俺だって。そういう相手さえいりゃあね」

良子「いるわけないでしょ、あんたなんて」

勉「ダメかな? 君じゃ」

良子「情けない人。人を好きになるってことはね、もっと、こう切なくて苦しいもんよ」

 

新作のマンション

寿美子「私はもうなんにも食べたくないけど、お父さん、夜食食べるの?」

新作「さあな、どっちでもいいよ」

寿美子「一本つけましょうか?」

新作「お前もちょっと飲んだらどうだ?」

寿美子「そうね、一口ぐらいね。つけるわ」立ち上がって準備。

 

新作「どうも気になるよ。今日のお前は」いつもと違って変、年頃だからさっさとお嫁に行かなきゃいけないと言う。

寿美子「年頃はもうとっくに過ぎてますよ」

新作「だったらなおさらじゃないか」

寿美子「いないんですもの、行きたい人が」

 

新作はそうでもないだろと指摘。ポーっとしたり、ぼんやりしたり、板場のみんなだってちゃんと分かってる。「だからですよ」

寿美子「だからどうしたのよ?」

新作「お父さんがステキな男性と見合いさせてやろうと思ったら…」

寿美子「いいえ、結構。自分が結婚したい人は自分で探します」世の中には私がぴったり好きになれる人がいると目を輝かす。「ちょっと会っただけだってすぐ分かるんです。勘がいいのよ、私は。お父さんみたいに見当違いな人に惚れるもんですか」

新作「なるほどね」

寿美子「それをお父さんったら、たださっさと片づければいいと思って。とんでもない、真っ平よ。外国で何をしてるか分からない人なんか。それに弟は不良だし、お父さんは…だし。見当違いな結婚はお父さんとお母さんだけで結構なんですからね」

 

おー、「太陽の涙」初の無音かな? 半病人的な言っちゃいけないこととは?

 

新作「だけどだよ…」

寿美子「だけどは、お父さんの口癖」

新作「じゃあ、聞くけどさ、つまりお前の言う勘がひらめいたという人は、今日、病院から一緒にタクシーに乗った人だろ?」

寿美子「そうよ。例えばの話ですけどね」

 

新作は相手の身元を知りたがるが、寿美子は何も知らない。しかし、タクシーから降りるときに店の名前をちょっと言った。店に来てくれるかしら?と期待する寿美子。

 

新作「なんだよ、その顔は。さっき、勘がいいって大威張りしてたくせに」

寿美子「ポーっとしてたんですもの。勘違いだってするわよ」

新作「あっ、そうだ。お燗だ、お燗。つきすぎちゃうよ」

寿美子「あら」

熱がる寿美子に笑顔になる新作。

 

そのころ、正司はなぜか寝つかれないままに近くのスナックの椅子に一人、グラスを傾けていたのです。父と弟と思えば気の重い正司なのです。でも、そのとき悲しいような甘さで心に浮かんでいたのは今日、不思議なことから出会ったあの人のことでした。(つづく)

 

スナックトムのような落ち着いた店。

 

小川さんが出てこないと寂しいな~。