TBS 1972年5月9日
あらすじ
はつ(菅井きん)は、寿美子(山本陽子)に意地悪をするつもりではなく、写真も見ずに縁談を断っていながら、正司の父が亡くなったからと話を進める気にはなれなかった。寿美子が不憫な新作(浜村純)は……。
2024.4.18 BS松竹東急録画。
英霊は知らない
ふるさとの空も海も
田畑も小川も
懐かしき日本の米も
悪い奴等が
汚してしまったことを
英霊は知らない
ふるさとの愛しき娘は
今は母となり
その胸に一児を抱けど
その乳房さえ
毒を含むことを
「おやじ太鼓」でも出てきたけど、日本の食べ物は危険だとやたら言ってたよ。
添加物や公害のことかな。
及川正司:加藤剛…添乗員。33歳。字幕黄色。
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前田寿美子:山本陽子…鉄板焼屋「新作」の娘。25歳。字幕緑。
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及川勉:小倉一郎…正司の義弟。20歳。
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売店の客:神山寛
売店の客:大久保敏男
ナレーター:矢島正明
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前田新作:浜村純…寿美子の父。「新作」マスター。
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小川:三島雅夫…1年半入院していた病院の主。
満開の桜から青葉へ
奥湯河原
旅館の窓を開ける浴衣姿のはつ。「ああ、いい気持ち。空気がおいしいこと」深呼吸。
新作が部屋に入ってくる。「あれ? おばちゃん一人?」
はつ「ええ。私がお風呂から上がってきたら寿美子さん、いないんですよ」
新作「そうか。散歩にでも行ったかな」
はつ「まあ、掛けません? お茶を入れますから」
新作「やあ、ここまで来ると静かでいいね」
はつ「新緑がきれいなこと。とても東京にいたんではこんな気持ちになれませんよ」
新作「5月だからなあ。一年中で一番いいときだ」
はつ「深呼吸をするといいですよ。こんなときでないと、いい空気が吸えませんからね」
新作「たまにはいいね。こうやって一泊旅行も」
はつ「たまじゃダメですよ。月に一度ぐらい出なきゃ。儲けるばっかりが能じゃないでしょ」
新作「分かってるよ、それは」
はつ「那須はどうなんでしょう? しつっこいほど宣伝するけど」
新作「そうか。おばちゃんまだ那須へ行ったことないのか」
はつ「ないとこばっかりですよ。この奥湯河原だって初めてですもの」
新作「じゃあ、行こうかな。また来月」
はつ「おやおや、本気ですか? 口先ばっかりじゃダメですよ」
新作「那須ぐらい軽いよ」
はつ「そうよ」
新作「簡単だよ」
はつ「そうそう。大したことないわよ。あんまりガツガツしてると人相が悪くなりますからね」
新作「どうりで」
はつ「何よ? 人の顔見て」
新作「いや、あんたも昔は若かったよ」
はつ「何言ってんですよ。そんなのんきなこと言ってて」
新作「しかし、あれだな。ホントに人の命なんて分からないよ。それも一番、間の悪いときに」
はつ「及川さんとは、よくよく縁がないのよね。寿美子さんだって、あれ以来、しょんぼり。今日だって、よっぽど無理して一緒に来たんですよ」
新作「そういや、もうぼつぼつ四十九日が過ぎるんじゃないのかな」
はつ「過ぎたんですよ、昨日で。だから私も来たんですよ」
なんと! 高行が亡くなって四十九日が過ぎていた。
前回、小川が病院を出たのも高行が倒れたのも1972年3月3日(金)の出来事だと思ってたんだけど、今が5月で四十九日が過ぎたということは、前回までの回は3月中旬くらいの話なのかな。3月3日だと四十九日は4月20日。
新作「そうか。それじゃ、もういいんじゃないのかなあ。ねえ、頼むよ、ひとつ。寿美子だってかわいそうだしさ」
はつ「早すぎるんですよ、まだ」
新作「どうして?」
はつ「どうしてって…第一、初めに断ったときの断り方がいけなかったんですよ」
新作「だって、それはもう謝ってるじゃないか」
はつ「私に謝ったってしょうがないでしょ」
新作「すぐそんな意地悪を言うんだから」
はつ「私が意地悪いで言うわけないでしょ。早すぎるんですよ、とにかく」
新作「じゃあ、いつならいいの?」
はつ「さあ、いつならいいんでしょうねえ。まあ、ゆっくり深呼吸をして考えることですね」
新作「冗談事、言ってるんじゃないよ、私は」
新作も焦りすぎ。いつならいいのじゃないよ。
寿美子が部屋に入ってきた。はつ、新作と違い浴衣は着てないのね。
寿美子「ああ、疲れた」
はつ「おかえりなさい」
新作「どこへ行ってきたんだ?」
寿美子「うん? ちょっと上のほうへね」
はつ「私も一緒に行けばよかったわ」
寿美子「ダメダメ、おばちゃんじゃ」ずっと上り坂ばかりだからとても歩けないと言う。
歩けますよというはつに新作まで強がり言ってもダメと加勢する。新作とはつの口ゲンカにあきれる寿美子。
新作「今だってそうなんだ。私がもういいだろうって言うのに、この人はまだ早いって言うんだ」
はつ「早いんですよ、まだ」
新作「それが分からないんだよ。どうして早いんだか」
寿美子「一体、なんの話?」
新作「お前のことだよ」
はつ「及川さんのことですよ」
寿美子「なんだ、そんなことか」
はつ「そんなことかって…」
新作「そんなことじゃありませんよ」
寿美子「いいのよ、もう」
新作「いいことなんかありますか」
はつ「そうですよ。そんなにあっさり諦めてしまうことはないんですからね」
新作「何を言ってるんだ、あんたは」
はつ「あら、私が何を言ったんですか?」
新作「諦めることはないって、今、言ったじゃないか」
はつ「ええ、言いましたよ」
新作「じゃあ、早すぎるっていうのは、どういうわけなの?」
はつ「分からない人。これですからね、話がとてもややこしくなるんですよ」
「はっきり言いますけどね」と新作のほうを向くはつ。人の気持ちが分からないとまた言い合いになる新作とはつに寿美子は「お風呂行ってこうかしら」と席をはずそうとしたが、新作が止める。
はつ「正司さんは、お父さんが大好きだったんですよ、親孝行だから」
新作「そりゃそうさ。親孝行だったら親父が大好きに決まってますよ」
はつ「じゃ、その正司さんになんて言って縁談を断ったんですか?」
寿美子「私がバカだったんです。ついうっかりしたこと言ってしまって」
はつ「そのうっかりが親孝行な人にはこたえますからね」
寿美子「あれでもこれでも私はイヤなの。あんなことが新聞に出てしまって、そのすぐあとで見合いだの結婚だの、さも私が惨めな女みたい。それもどこそこのパリッとした息子さんならともかく、お父さんは半病人で弟は不良。こんな話のどこがいいのか分からないわ。ねえ、そうじゃないの?」←6話での発言。うっかりというか本音だよね。7話だと半病人以上の言葉を言って無音になってるし。
新作「そんなことまでおばちゃんが洗いざらい言ってしまうからいけないんだ」
はつ「言いますよ、そりゃ。あのとき、私、まさかこんなことになろうとは思わなかったんですもの」
新作「うかつですよ、年寄りにしちゃ」
はつ「私をいくつだと思ってるんですか」
新作「いや、そりゃ、まあ、ちょっと言いすぎだけどさ」
寿美子「うかつに言ってしまった私が一番いけないんです」
はつ「そうなんですよ、ホントは。1年前に倒れたお父さんがいるんでは、またいつ倒れるか分からないからって断ったんですからね。それを今になって、そのお父さんが亡くなったからって、まるでホッとしたように、また縁談の話を持っていくわけにはいきませんよね。とても条件が良くなったみたいにね」←ホント、ホント。
新作「じゃあ、いつになったらいいの?」
はつ「さあ、どうでしょう、それは」
新作「そんな頼りないことってあるの? あんたは」
はつ「だって、それはあれでしょ?」
寿美子はお風呂へ行ってきますと出て行った。
はつ「ハァ…ホントにまあ、どうしてこんなことになってしまったのかしら」
新作「頼むよ、おばちゃん」
じろりとにらみつけるはつ。
新作「かわいそうで見ていられないんだよ」←二言目にはそれだけど、正司の気持ちも考えてよ。
はつ「そりゃ私だってそうですよ」
新作「だから頼むよ。一生懸命でやってよ、ねっ? おばちゃん」
はつ「深呼吸でもして頭を良くしなきゃね」立ち上がって窓に向かって深呼吸…が、新作にお茶を求める。虫が口に入ったと騒ぐ。「一生懸命なんですよ、私は」うがいをして、窓の外へ吐き出した。
良子の働く姿を感心して見ているサラリーマン風男性2人客。
男性1「だけど、いつ来てもあんたは、よく働くねえ」
良子「そうですか?」
男性1「感心するよ、来る度に」
男性2「若いのにねえ」
良子「1人でしょう? しょうがないんですよ」
男性1「この店の娘さんなの? それとも店員さんなの?」
良子「ええ、店員みたいなもんです」
男性1「そうか、じゃ、うちの店に来てもらいたいようなもんだな、ねえ?」
男性2「うん、今どき珍しいよね。こんなによく動く人」
良子「そうかしら。当たり前じゃないんですか?」
男性1「いやいや…」
突然謎な客が来るよね~。反社っぽい人とか。
勉が売店を訪れた。正司がもうすぐ来ると言い、コーヒーを注文。
良子「お兄さん、何しに来るの?」
勉「昨日が四十九日なんだってさ。なんか持ってくるんだって、君に」
良子「私なんていいのに」
勉「いいんだよ、もらっとけば。どうせ、葬式のお返しなんてのはさ、ろくな物(もん)じゃないんだから」
男性2「さあさあ、ぼつぼつ行きましょうかね」
男性1「そうね。ぼつぼつ麻酔が切れるころかな。おねえさん、これでおつりね」1000円札を渡す。
良子「ありがとうございます」
男性2「葬式だの四十九日だの、こりゃひょっとするとまずいかな」
男性1「また気にする。あんたはすぐ変なほうに気を回すんだから」
良子が720円のおつりを返した。コーヒー(80円)×2と稲荷ずし(60円)×2かなあ。
じゃあまたねと出て行こうとした男性1が振り返り「あっ、そうそう。いいお嫁さんの口があったら世話しようかな」と良子に言う。
良子「いえ、いいんです、そんな」
勉に視線を送った男性1は「ああ、そうか、そうか、なるほどね。じゃあ、ごゆっくりね」と出て行った。
良子「変な人」
勉「なんだい? あれは」
良子「知らないわよ。勝手にあんなこと言ってんだもん」
勉「いい顔したんじゃないの? 君が」
良子「何よ、いい顔って」
勉「いやにニコニコしちゃってさ」
良子「博多の二○加(にわか)煎餅じゃあるまいしね、そんな顔するわけないでしょ」
勉「なんだい? 博多の二○加煎餅ってのは」
良子「あんたみたいな顔してんの」
この映画にもあの特徴的な顔が出てきた。
勉「すぐプリプリすんだから」
良子「つまんないこと言うからよ」
勉「コーヒーを早くね」
良子は一体いつまで病院に通うつもりか勉を問い詰める。まだ治りきらないとごまかす勉だったが、良子は看護婦からもうとっくに治っていると聞いていた。看護婦は誰かのお見舞いに来てるのかと思っていたと言う。
勉「いいだろ。お見舞いに来たって」
良子「誰のお見舞いよ? もう小川さんいるわけじゃないしさ」
勉「君だよ、君のお見舞いにさ」
良子「冗談じゃないわよ」
勉「冗談じゃないよ、もちろん」
良子「無駄よ、そんなこと」そんな暇があったら、どっかへ働きに行ったらいいと言う。
勉「行くさ。それぐらいのこと考えてるよ、俺だって」
良子「考えてる人がブラブラ病院に来るかしら。それも毎日ですからね」
勉「いいだろう? 毎日来たって」
良子「いいもんですか。少しはお兄さんのことも考えたらどうなの?」
勉「すぐそれだ。君は兄貴に惚れてんじゃないの?」
良子「バカね。あんた、どうしてそういうこと言うの?」
勉「言いたくもなるよ。二言目には兄貴だからな」
良子「情けない人。どうしてお兄さんみたいになろうとは思わないのかしら」コーヒーと角砂糖の箱を勉の掛けるテーブルに運んできた。
勉「思わないね。兄貴と俺じゃ、てんで違うんだから」角砂糖を2個入れる。
良子「何が違うの」
勉「頭がね。兄貴は大学も出てるしさ、英語だってペラペラだろ? 高校も2年で退学になった俺とじゃ全然違うよ」
良子「遠慮することないわ」角砂糖を3つ!入れる。「でも、まあ、あれよね。うちの店へ来てコーヒー飲んでたほうが安くていいわよね。あっ、それにあれでしょ? 病院の中でうろついてると勉強になるんでしょ? 世の中のこういろんなことが」
勉「うん、そう。だからそう思って勉強してんじゃないか」
良子「ウソ言いなさい。あんたがそんなしおらしい顔で勉強するはずないじゃない」
勉「ウソじゃないったら。病院の中にいるとさ、いろんな人に出会うだろう? どっちかっていうと不幸な人にさ。例えば小川さんみたいな人にさ。だから身につまされるんだよ。僕なんてまだいいほうだなって、つくづく、そう思うんだ」
良子「ホントかしら?」
勉「当たり前だよ。イヤだな、まったく僕だって、そうバカじゃないよ」
良子「うん、まあ、いいわ。信用してあげる。俺が僕になったからね」
勉「そうさ。これからはもう絶対僕なんだから。絶対、俺なんて言わないよ」
良子「調子良すぎんのよ、あんたは」
勉「いや、絶対。約束してもいいんだよ」
風呂敷包みを持った正司が来店。
正司「しばらくだね」
良子「ええ、ひと月ぐらいかしら」
正司「そうね。勉と一緒に慰めに来てくれたからね」
良子「慰めだなんて、そんな…」
正司「いや、ありがとう。とても楽しかったよ」
お茶を入れると言う良子にちょっとまだ行く所があると遠慮する正司。勉にマッサージは済んだのか聞く。良子はもう済んで、今コーヒーを出したところだと説明。
正司は良子の肩をポンとたたき「よっちゃんはいい人だよ」と笑顔。
良子「えっ?」
勉「変だなあ。改まっていい人だなんて」
正司「うん? だってそうじゃないか」四十九日のお返しに品物よりも一緒にご飯を食べたほうがいいと思ってと今晩一緒にご飯食べようと誘う。正司はまだ回る所があるので、勉に良子と一緒に店に来なさいとメモを書いて渡す。
噴水の前で正司を待つ良子と勉。
1971年に竣工された東京日産自動車販売の本社ビルで、2000年に本社移転で売却され、今は六本木ヒルズノースタワー。
良子「ここでこうやってると外国の町にいるみたい」
勉「兄貴はいいよな。簡単に外国へ行けるんだから」
良子「あんただって行けるわ」
勉「えっ?」
良子「もっとも遊んでちゃダメだけど」
勉「おっと、ストップ。それまでね。それから先は言わないほうがいいの」
良子「でもよ…」
勉「もっと他の話をしようよ。あっ、小川さん、今頃、どうしてんだろうね。うまくやってるかな? 気になるよね、やっぱり」
良子「あんた、とうとう、お父さんに会わなかったわね。退院したときにすぐに行けばよかったのに」
勉「よそうよ、その話も。兄貴は何してんだろうな」
良子「小川さんも寂しい人だったけど、あなたのお父さんも寂しい人じゃなかったのかしら」
勉「よせったら、その話は」
勉は水のきらめきに泣きだしたいような父と自分の悲しさを思ったのです。そして、良子も幸せには薄かった自分と勉の生い立ちの不幸せを重ね合わせて、そこに寄り添うような一つの運命を感じ取ったのです。
レストラン
正司「だから思い切って引っ越そうと思ってさ。今までのアパートは安くて良かったんだけど、だけど一人になるといろんなこと思い出してね」
良子「そうでしょうね」
正司「勉はどうする? 2人で一緒に住めば経済的だけど、それだってお前が一人でいたきゃ、それだっていいんだ」
勉「いいよ、どっちだって」
良子「一緒に住んだほうがいいのに」
勉「だから、どっちだっていいよ」
良子「そんな言い方ってあるかしら」
正司「いいんだよ、よっちゃん。今、急に言いだしたことだから勉だってまごつくんだろう」
良子「でもね、あんた贅沢よ」
勉「分かってるよ、そんなことは」
良子「ちっとも分かってないじゃない」
勉「考えてるんだよ、今」
良子「考えることなんて、あんのかしら」
勉「あるんだよ、いろいろとね」
正司「まあ、とにかく、これからアパートを探すんだしさ、お前が一緒に来るって言えば、少しは広くなきゃいけないしな」
ボーイが料理を運んできた。
正司「このスープ、ちょっと変わった味がするからね」
良子「とてもおいしそう」
正司「チェコの家庭料理じゃないのかな、こういうのは」
当時、東京日産自動車販売の本社ビル14階にキャッスルプラハというチェコスロバキア料理の店があったそうで、そこの店かなと思います。
良子「じゃ、いただきます」
正司「うん」
勉「熱(あち)い…熱いな」
正司「どうだ、勉。おいしいだろう?」
勉「まだ味が分かんないよ」
良子「おいしいわ、とっても」
勉「そうかな?」
良子「あんた、舌までバカなの?」
勉「食べてるような気がしないよ。君がそばにいると」
良子「もっと素直になればいいのよ」
勉「なろうと思ったってさ…」
良子「黙って食べんの」
勉「うるさくしゃべったのは自分のほうじゃないか」
正司は2人の口ゲンカを未来の楽しい夢に絡ませて聞いていたのです。良子はもちろんかわいかったし、なんとも手に負えない勉さえ、今は自分に残された、ただ一つの、その行く末を見守る愛の手応えなのです。しかも、2人とも血のつながりはありません。愛とは他人に対してのみ、初めて純粋になれるのかもしれません。
良子「あっ…ねえ、あのこと、お兄さんに話そうかしら」
勉「あのことってなんだっけ?」
良子「あの人のことよ」
勉「小川さんのことか」
良子「違うわよ、鈍いわね」
勉「ああ、ああ、あの人ね」
正司「なんの話?」
良子は前田さんのお嬢さんをとっても怒らせちゃったと話した。良子は寿美子があんまり気の毒だから話したが、私一人が知らないで、みんなで笑っていたんでしょうと言われた。勉も、あんまりだってさ、秀行さんにそう言ってくれってと付け足す。まあ、正司が話してくれと言ってたんだけどね。
アナウンス「こだま116号東京行きが到着いたします」
エスカレーターを上ってきた寿美子、はつ、新作。はつは向こうのホームを見て驚く。「あの人ですよ、確かに」
赤帽の男性が荷物を置いて帽子を取り、手ぬぐいで頭を拭いていた。小川さん!
新幹線の車内
新作「しかし、驚いたな」
はつ「だから、何がなんだかさっぱり分からないんですよ」
寿美子「気の毒ね、あの人」
はつ「だから正司さんも同情したんですよ」
新作「それがウソの始まりか」
はつ「寿美子さんをだまそうなんて、そんなこと誰も思ってはいなかったんですよ」
新作「だますどころか、私は近頃こんな気持ちのいいウソを聞いたことがないよ」
正司のアパート
ご飯を食べている正司。
はつ「あの日、東京駅まで送りに行った勉さんの話だと、伊東の知り合いの所へ行ったんですってね」
正司「そう。そう言ってたけど」
はつ「その人が熱海駅にいるんですもの。それも赤帽さんをして。びっくりしましたよ、私は」
正司「気の毒にね」
はつ「そうそう、重そうなトランクを降ろしていましたからね」
正司「あの年じゃ大変だろう」
はつ「世間って広いようで狭いんですねえ。それもどうでしょう。寿美子さんもお父さんもちょうど居合わせたんですもの」
正司「何もかもちょうどその日にね」
はつ「そうそう、ホントにそう。ここのお父さんが亡くなった日ですものね。小川さんが病院を出たのも。本当のお父さんとウソのお父さんとちょうど同じ日になくなってしまって。あっ、私がつけてあげますよ」小さな電気釜?を手元に引き寄せる。
正司「わさび漬けが好きなもんだから」
はつ「おいしかったかしら?」
正司「ええ、ちょっと辛すぎるけど」
はつ「そうなのよ。このごろのわさび漬けは、ただ辛くすりゃいいと思って。はい、どうぞ」ご飯をよそって渡す。
正司「すいません」
はつ「こんな辛いわさび漬けってあるのかしら。何か変な物入れてるんじゃないかしら」
正司「魚まで危ないんですからね」
はつ「だから干物は買ってこなかったんですよ。一体、日本って国はどうなってるんでしょ」
どうなっているのか不思議な社会の仕組みです。空に海に危険がいっぱい。その中で余儀なく生きている日本の庶民階級です。当然の願いも希望も政治という権力の座には届きません。この物語は、そんな中で懸命に愛を模索する人々のドラマです。
赤帽の小川が複数のトランクを抱えてエスカレーターを降りてくる。(つづく)
東武浅草駅で東京で最後の赤帽と言われた小森次郎さんのインタビュー記事。
小川さんは本来は養老院に入るような年齢(60歳以上?)だけど、働いていた。それにしても、14話以降、数日くらいしか経過してないのにいきなり時が飛んだ。暖房も電気もつけないで一人アパートにいて倒れてしまった高行さんを思うと悲しくなる。寒いのもあまりよくなかったんじゃないかな。
はつさんが縁談を勧めたくない気持ちはよーく分かります。泰子がスペインに帰っていてよかった。それこそチャンスと思われる。
「おやじ太鼓」14話。三郎と敬四郎メイン回。渋谷から新宿まで石蹴りして歩く。
山田太一回は三郎、敬四郎、かおるがメインになってる感じ。「兄弟」の着想もここから得たのだろうか!?
「太陽の涙」はもうすぐ終わりなんだよね~。寂しい。