TBS 1973年6月19日
あらすじ
幸子(望月真理子)を自殺にまで追い込んだ、かつての男・正紀(山本聡)が「二上」を訪れた。幸子を捨てた正紀だったが、妻子を捨てて一緒になりたいと言い出す。幸子はその態度に腹を立てる。
2024.2.26 BS松竹東急録画。
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北晴彦:藤岡弘…トラベルチェーン開発課の社員。
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中西良男:仲雅美…鶴吉の息子。
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大須賀伸(しん):荒谷公之…織庄の一人息子。
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山下幸子:望月真理子…自殺未遂後、「二上」で働きだす。
静子:相生千恵子…仲居。
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高沢正紀(まさき):山本聡…幸子の元恋人。愛称・セーキ。
竹子:大橋澄子…仲居。
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東京からの観光客:大杉侃二朗
秩父晴子
戸川美子
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大須賀:野々村潔…織庄の社長。
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西武バスが3台が連なり思い橋を渡る。バスの型は違うけど、色が懐かしい。
厨房では折詰、竹の皮に包んだおにぎり?等準備をしている。橋田ドラマの厨房だってもう少し従業員いるけどな。料理人1人だもんね。
鶴吉「ミツバのお飾りいいな? いっぺんに放り込むんじゃねえぞ。2~3回に分けて香りの消えねえうちに召し上がっていただくんだ」
静子「はい」
鶴吉「良男! お茶いいのか、お茶」
良男「OK!」
鶴吉「まったくお茶一つ満足に沸かせねえんだから」
良男「ちゃんとやってるじゃないか。興奮すんなよ、親父」
鶴吉「何言ってやがんでえ、バカ野郎。誰が興奮してんだい」
彩子「ちょっとお着きになったわよ。みんな、いいわね?」
鶴吉「ダメじゃないか、彩さん。あんたが一番先に出迎えなきゃ」
彩子「ああ、そうだ」
良男「あ~あ~あ~。みんな興奮しちまってざまあねえや」
鶴吉「バカ野郎、グズグズしてたら間に合わねえんだよ! アタタッ」パニック!
バスが到着し、桂や伸、北が案内する。年配の男女150人。庭に赤い敷物を敷いて何人かずつ座る。
女性1「あら、竹の皮で包んであるわ」
女性2「ホント! 懐かしいわね」
女性3「こっちがおかずね。なかなか豪華よ」
女性1「ホントね。それにしても東京とは空気が違うわね」
女性2「こんなに緑があるんだもの。第一、空が違うわよ」
女性3「ホント」
和服の女性1が戸川美子さん、洋服の女性2が谷よしのさん、洋服、おばちゃんパーマの女性3が秩父晴子さん。いずれも松竹映画ではおなじみの方々。木下恵介アワーにも何作か出ている。
彩子「ようこそいらっしゃいました。行き届きませんが、なんなりとお申しつけくださいまし。あっ、こちら、おみおつけまだですね。さっちゃん、こちらまだよ」
⚟幸子「はい」
女性3「まあ、この上、おみそ汁も付くんですか?」
彩子「うちの板前さんの自慢のおみおつけなんです。どうぞ味わってやってくださいまし」
幸子「お待たせしました」
女性1「あら、いい香り」
彩子「さっちゃん、お代わりしていただいてね」
幸子「はい」
彩子「じゃどうぞごゆっくり」
女性2「ありがとう」
彩子が去っていく。
女性2「空も違うけど、人間も違うわね」
女性たち「ホント」
良男「葉山(はやま)茶のおいしいのはいかがですか? はい、お茶~、お茶!」←字幕は”葉山”になってるけど、埼玉といえば、”狭山(さやま)茶”じゃないのかな??
女性「お茶下さい」
良男「は~い!」
女性2「お茶のお金、取るの?」
良男「いやいや、タダですよ」
女性たちの笑い声
多美や静子がいるお土産売り場も大盛況。
桂は、外で年配男性の肩を揉む。
男性「ん~、ようこたえる」
多美「北さん知らない?」
桂「ああ、あそこよ。北さん!」
スーツ姿の男性2人となにかメモを取りながら話していた北にお土産が足りないと話す多美は「北さんがお買い上げの分を少し回していただけません?」と聞く。笑顔で了承する北。北に笑顔を向ける桂。
北「この子、お孫さんのお嫁さんにいかがですか?」
男性「う~ん、わしもそう思ってるとこだよ」
桂は力を込めて肩を揉み、男性は痛がる。桂にしたら余計なお世話だ。
この男性客が大杉侃二朗(かんじろう)さんで、「たんとんとん」では文子が働きだしたクリーニング屋の店主。
こんなおじいさんだったっけかな。
北「あと20分ほどで次の織物工場へ参ります」あと20分で出発です、と庭の客たちに言いながら歩く。
幸子が働く姿を浴衣姿で見ている正紀。それにしても幸子、すごいミニ! 当時の流行なんだろうけど、和服でいいだろ、そこは。
織庄
反物のセールスをする桂と伸。大須賀と北も顔を見合わせてにっこり。
「仮面ライダー」での緑川博士は物語のきっかけで1話だけの登場だったみたいなので、こうして本郷猛と絡む場面はなさそうだね。
日産ローレルで西武バス3台を先導する北は運転しながら笑顔。
仏壇に手を合わせる彩子。「ごめんなさい。今日は忙しくしてたもんだから。ご覧になったでしょ? 久しぶりのおにぎわい。ただ、これが北さんの計画だけにちょっと心配なんだけれど、でも、とにかく儲けさせてもらったんだから感謝しなきゃいけませんね」
帳場
鶴吉は昼寝しながら「良男! あと50人前だぞ!」とどなっていて、多美も頬杖しながら、うたたねしていた。
厨房では良男も眠っていたが、彩子が起こして幸子の行方を聞くが、不明。
彩子「昨日っから忙しくて、さっちゃんにいこいの間のお客さんのこと聞く暇がなかったんだけど…」
良男「あいつが彼女を自殺に追い込んだ張本人なんですよ」
彩子はいこいの間へ、良男は裏山へ幸子を捜しに行った。
幸子が河原に座っていると正紀が「幸子!」と叫びながら近づいてきた。正紀は旅館の下駄ばき。足場の悪いところを下駄で走るって怖いなあと思ったけど、「3人家族」の雄一も下駄で健と競争してた。
下駄を履きなれた最後の世代じゃないかと勝手な決めつけ。
サンダル履き、ミニスカートの幸子も正紀の顔を見て逃げるが、立ち止まる。
正紀「幸子、怒ってんだろうな。俺が悪かったよ。弱かったんだ。バカだったよ。別れてみて、やっとお前じゃなきゃダメだってことが分かったんだ。幸子、すまなかった。もう一度やり直そう」
幸子「近寄らないで」
正紀「やっぱり怒ってんだな。いや、無理ないよ。橋から飛び降りたんだって? 幸子がそんなに僕のことを思っててくれるとは知らなかった。俺はなんてバカなんだ。なっ? 機嫌直してくれよ。もう一度やり直すつもりでやって来たんだ」
幸子「奥様はどうなさるの?」
正紀「別れるさ。もともと好きでも嫌いでもなかったんだ。ホントだよ、幸子」
幸子「やめて。あなたって人はそうやって、あっちこっちで罪を作っていくのね。私はもう昔の私じゃないんです。あの橋の上で生まれ変わったんです。昔の山下幸子は死んだものと思ってください」
正紀「幸子」
幸子「帰ってください」
正紀「何言ってんだよ。俺たちはあんなに仲良かったじゃないか」
幸子「それを破ったのはあなたのほうよ。お願い。お帰りになって。私はもうあなたの本心を見てしまったんです」
正紀「俺の本心? 俺の本心は今、ここにいる俺さ。ただあんときは押し切られただけなんだ。幸子にそんなふうに言われると俺、死にたくなっちゃうじゃないか。ホントにこっから飛び込んで死にたくなってきたな。いいのかい? 死んじゃっても」
⚟良男「かまうことねえ。死ね死ね」
岩場から良男登場。バックで流れる演歌調の曲は「唐獅子牡丹」だって。インストバージョンだけど。旧ツイッターはすごい!
1966年1月13日公開された高倉健主演「唐獅子牡丹」の劇中歌。
良男「君の最期はこの俺が見届けてやるよ。ほら、飛び込むんだろう? 遠慮はいらねえんだよ」
正紀「君は誰だ?」
良男「俺はさっちゃんの同輩だよ」
正紀「立ち聞きしてるなんて不謹慎じゃないか」
良男「どっちが不謹慎かさっちゃんに聞いてみろ! 何が本心だ。何が死にたくなっただ。身の毛がよだつよ」
正紀「なんだと?」
幸子が逃げ出す。
良男「さあ、死にたいんだろ? ほら、飛び込めよ。見届けてやるから」
正紀「君なんかに分からん」
良男「それが分かるんだよ。俺は生まれ変わったさっちゃんの…恋人だからな。フン、この腰抜けのミルクセーキが!」
幸子が厨房に戻ってきて、良男登場からずっと流れていた「唐獅子牡丹」がピタッと止まる。
彩子「さっちゃん。どこへ行ってたの?」
彩子に抱きついて泣き出す幸子。
彩子「いこいの間のお客さん、そうなんだってね」
激流の川
良男「オラ、どっからでもかかってこい」
正紀「よせよ。僕は暴力を否定する」
良男「何!? おじけづいたのか?」
正紀「や…やめたまえ」
良男「常に正義が勝つ。テヤーッ!」正紀に向かった良男だったが、正紀にかわされ、川の中へ。「ちきしょう! 待て~! 待て~! 中西少将! 不覚!」
一目散に逃げ出す正紀。「◎◎少将! 不覚!」も何か元ネタあるんだろうね。
多美が土産物をチェックしていると北が帰宅。多美と会話も交わすも、少々気まずい? 彩子も北を出迎え、多美に北のためにお茶を一服たてるように言う。
帳場へ連れて行った彩子は北にお礼を言い、すごい実力をお持ちなのねと褒める。おいしいお菓子があるんですよと席を外した彩子を不思議そうに見つめる北。今までと態度が違いすぎて驚いた?
正紀はあわてて二上に戻り、良男はびしょぬれで厨房に戻り、彩子は驚く。
正紀は内線電話で夕方のレッドアローで帰りたいので会計お願いしますと連絡。彩子が応対した。
帳場
多美が北にお茶を運んできた。北はもう一度だけ会ってくれませんか?とお願い。「あなたは誤解してるんだ。明日1時にこの間の所で」と言うが、多美は返事をせず、その場を去った。
いこいの間
急いで荷造りしている正紀を彩子が訪ねた。「ありがとうございました。団体と重なって行き届きませんで申し訳ございませんでした」
正紀「おいくらですか?」
彩子「結構です」
荷造りしている手が止まり、彩子の顔を見る正紀。
彩子「そのかわりと言っちゃなんですけれども、山下幸子の前には二度と現れないでいただきたいんです。あの子、やっと立ち直ろうとしているんです。どうか波風を立てないでやっていただきたいんです。お願いします」
正紀「こんな田舎、来いと言われても二度と来やしませんよ」
彩子「それはどうもありがとうございます」
ロビーの下りてきた正紀と彩子。彩子は良男に車の用意を頼む。正紀の前に現れた良男を見て「出た!」とおののく。
良男「お客さん、お荷物を」
正紀「あの…タ…タクシー呼んでいただけませんか?」
良男「マイクロバスはお嫌いですか? お客さん」
⚟北「じゃあ、僕の車で送りましょうか?」
「お願いします」と笑顔で振り向いた正紀だったが、北を見て「け…結構です」と言い、さらに北と良男に挟まれて、歩いていきますからと出ていった。
北は前半はスーツだったけど、ここからはピンクのポロシャツ。「あしたからの恋」の修一や「たんとんとん」の健一がピンクのTシャツを着てたな~。70年代ピンクがはやってたのかな。
良男「ハハッ。ざまあみろってんだ」
彩子「気の毒に。レッドアローに乗り遅れるわ」
モデルになった「ホテル美やま」は西武秩父駅から4kmだから、歩くと1時間はかかるかな~。
北「自業自得ですよ」
彩子「北さん、ご存じだったの?」
北「えっ? い…いや、何も」
彩子「あっ、そう」
階段下で彩子と北の会話を聞いていた幸子。彩子たちは帳場へ行き、良男が幸子を見つけ、声をかけたが、幸子は何も言わずに去っていった。
帳場
多美がお茶碗を片づけたとき、「30番」と書かれた紙を落としていった。秘密の暗号?と思う北。彩子に「ああ、今の男、やっぱり送ってやりましょうか。武士の情けだ」と言い、ついでに桂を拾ってくるという口実で外へ。
「恒持」という停留所に立っていた正紀を見つけた北は車に乗せた。「すいません」と言いつつ、助手席に乗る正紀。
北「もう秩父へ来ることもないだろう。よく見ておくんだな」
正紀「秩父は怖いとこですね」
北「秩父にはね、閻魔様の手形がいくつもあるんだよ。思い知ったら、二度と人を欺くようなことはしないことだな」
正紀「はあ」
正紀に説教しつつ、30番が気になる北。
喫茶店
桂に「30番」の紙を見せる北。
喫茶店で流れている曲はチェリッシュの「だからわたしは北国へ」らしい。ホント、旧ツイッターすごい。
チェリッシュ「だからわたしは北国へ」1972年1月25日発売
桂「これを姉ちゃんが北さんに渡したってわけ?」
北「うん、まあね」
桂は北に「姉ちゃんのことはホントに北さんのお仕事とは関係ないのね?」と聞く。「当たり前じゃないか」と即答の北。会社のほうはどうしちゃったの?という問いには今、そのことはどうしても言えない、頼むから勘弁してくれと煮えきらない答え。
伸も店に来て、親父が北の実力敬服してたと話す。「30番」という紙を見かけた伸は笑顔になり、桂に「あしただね」と言うが、桂は分かってない。
伸の大豪邸に送り届けた北。助手席の桂に「30番」とささやき、別れた。そこから、30番の札所で待ってるっていう暗号だと気付いた桂。30番は法雲寺といって静かでいいとこなのと言う桂。「でも、時間が分かんないわね」
北「いや、時間は分かってる。明日の午後1時なんだ」
桂が帰宅。多美に笑いかける桂。あとから入って来た北は「30番」とつぶやき、今日お酒つけといてくださいと多美に言う。
「30番?」と分かってない多美。
良男「30番の客、何履いて帰ったのかな? 札なくしちゃったのかな?」と首をひねる。
すべて北の勘違い!
秩父札所30番の法雲寺に到着した北。あとから伸も北。階段を上った北は境内にたたずむ着物姿の女性を目にし、最初はニコニコ…から真顔になった。(つづく)
多美がそんな分かりにくい暗号めいたことをするかと思ったけど、やっぱり違った。ミルクセーキから正紀とか30番から札所とか謎めいた展開にするのが好きな脚本家なのだろうか。今までの木下恵介アワーには、あまりなかった展開だな。