徒然好きなもの

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【ネタバレ】太陽の涙 #24

TBS 1972年5月16日

 

あらすじ

寿美子(山本陽子)は、自分のために病院にいられなくなった小川を訪ねて、熱海の駅に降り立った。そこには同じく小川を訪ねて来ていた正司(加藤剛)もいて、ふたりは思いがけず巡り合う。

2024.4.19 BS松竹東急録画。

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人間は、ひとりでは

淋しいのです

それなのに

傲慢です

人間は、愛さずには

いられないのです

それなのに

邪です

 

今日のポエムは少し短め。

 

及川正司:加藤剛…添乗員。33歳。字幕黄色。

*

前田寿美子:山本陽子鉄板焼屋「新作」の娘。25歳。字幕緑。

*

池本良子(よしこ):沢田雅美…病院の売店の売り子。20歳。

及川勉:小倉一郎…正司の義弟。20歳。

*

板前:浅若芳太郎

松原直

ナレーター:矢島正明

*

井上はつ:菅井きん…そば屋「信濃路」の女将。

*

前田新作:浜村純…寿美子の父。「新作」マスター。

 

売店

微妙に上下の色が揃ってないスーツ姿で勉が来店。「とにかくコーヒーね。アイスコーヒーは出来ないの?」と店に入ってくる。

良子「そんなしゃれた物(もん)ないわよ」

勉「しゃれてる? アイスコーヒーが? へえ~」

良子「面倒くさいのよ。熱いコーヒー冷たくすんの」

勉「じゃあ、まあいいや。我慢するよ」

 

良子「昨日、約束したばっかりでしょう?」

勉「えっ?」

良子「ここへ来るよりも就職口探すって」

勉「探してたんだよ、探してたらさ、ちょっとおなかがすいちゃってね。おばちゃんのとこ行って、そば食べてきたんだ」

良子「タダなもんだから、わざわざ行ったんでしょ?」

勉「イヤなこと言うよ、君は」

良子「そうよ、言うわよ」勉に番重を押しつける。

↑こういうので木のやつ。側面にモモヤマベーカリーと書かれている。

 

勉「まあ、聞きなよ」

良子「だって、がっかりよ。私だってさ、早くあんたがいい仕事を見つければいいと思ってんのに」

勉「だから、頼みに行ったんじゃないか。おばちゃんの所に」

良子「ああ、そうか」

勉「早とちりだから、かなわないよ」

 

良子「それでどうしたの?」

勉「そしたらさ、小川さんだよ。小川さんが熱海の駅にいたんだって」

良子「あら。熱海の駅でばったり行き合ったの?」

勉「それもあれなんだよ。赤帽さんをしてるんだよ、小川さん」

良子「えっ? 赤帽さんしてんの?」

勉「そうなんだって。新幹線のホームにいたんだってさ」

 

良子「じゃあ、おばちゃんや前田さんとも話、したの?」

勉「いやいや、ホームが違うんだ。上りと下りと」

良子「あっ、そうなの」

勉「ねっ、意外だろう? すごく重そうなトランクを提げてたんだってさ」

良子「伊東の知り合いんとこ行くって言ってたんでしょ?」

勉「そう。僕にはね」

 

良子「どういうことかしら。あの年で赤帽さんになるなんて」

勉「だから無理して来たんだよ。よっちゃんに早く知らしたほうがいいと思ってさ」

良子「アイスコーヒーね。作ってあげるわ」

勉「ヒャッホー!」席につく。

良子「何? その声」

勉「いや、ありがとう。やっぱりね」

良子「何がやっぱりなの?」

勉「いい人ですよ、君は」

 

良子「あのね、言っときますけどね…」

勉「分かってるの、分かってるの」

良子「すぐあがりついちゃうんだから」

 

寿美子が売店にやって来て「良子さん」と声をかけた。「こんにちは。いつ来てもお二人一緒ね」と笑顔を向ける。

良子「あっ、いいえ。そういうわけじゃないんですけど。ねっ、そうね?」

勉「いいだろう? そんなこと遠慮することないよ」

 

寿美子「もちろんそう。気に障ったらごめんなさい」

勉「とにかくやぶから棒に言われたからな。あっ、そうそう。兄貴にも言っときましたからね」

寿美子「そうですか。すいませんでした」

 

良子「あっ、とにかくお掛けになりませんか?」

寿美子「ええ、ありがとう」中へ入り、勉の前に立つ。「ちょうどよかったんです。あなたがいてくださって」

寿美子に対してツンケンしている勉。寿美子は勉と同じテーブルにつく。

 

良子は寿美子にもアイスコーヒーを勧める。

勉「大急ぎでね、簡単でいいから」

良子「そうはいかないわよ。だから言ったでしょ? 面倒くさいんだって」

寿美子「あたくし、なんでもいいんですけど」

良子「いえ、ついでですから」

 

勉「変な具合」

良子「何が変なの?」

勉はコーヒーを急かし、寿美子をチラ見。

 

寿美子「あたくし、小川さんのことでお伺いしに来たんです。小川さんは、まさか私のことで病院を出たんじゃないでしょうね?」

勉「さあ、どうかな。ねえ? よっちゃん」

 

良子「何言ってんの? そうじゃないわよ。そうじゃないんです。あなたとは関係ないんです」

寿美子「じゃあ、どうして熱海で赤帽さんをしてるんでしょう?」

良子「さあ…今も2人でそのこと話し合っていたんですけど」

勉「でも、あれだよ。やっぱりこの人にも多少関係があるんだよ」

寿美子「やっぱり、私があんなことを言ってしまったからですか? 私一人が知らなくって、皆さんで私をだましていたって」

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勉「それもあるよね、多少は」

良子「いいえ、違うんです。小川さんは、とてもあなたに申し訳ないって、そればっかり言ってたんです」

 

良子は小川さんの息子さんのウソが病室の人たちみんなに分かってしまったから、いられなくなったのだと寿美子に話した。

寿美子「そのことは信濃路のおばちゃんからも聞きました。でも私がここまで来て病室へは行かないで帰ってしまったことも小川さん気にしてたでしょうね」

良子「ええ、そのことを一番…」

勉「そりゃあね」

良子「いちばん気にしていたんです。あんなに良くしていただいたのに申し訳ないって」

寿美子「そうだったんですか」

 

後ろの壁のメニュー表

 

あんみつ 70円

 

せきはん ¥70

のり巻き 一皿 ¥80

稲荷ずし 一皿 ¥60

 

くず餅 一皿 70円

ところてん 50円

 

おにぎり 1個 ¥30

オレンヂジュース ¥60

 

紅茶 ¥70

 

季節が変わって涼しげなメニューも増えたみたい。

 

「新作」厨房

板前「しかし、それにしても寿美子さん、まあ見事に惚れたもんですね」

新作「いや、それが不思議なんだよ。私にはそんな惚れっぽいところはないしさ。まして、あの子のおふくろは氷みたいに冷たいヤツだしさ。こりゃ、ひょっとすると私のほうの親父の血かな」

板前「へえ、そうなんですか」

 

厨房でタバコを吸う2人。

 

新作「おふくろが苦労したんだ、それで」

板前「つまり、美人系統ですか」

新作「そうそう。私のほうはね」

板前「ハハッ、だから旦那、望まれたんですよ、養子さんに」

新作「そうそう。つまりそれが運の尽きなんだよ。ええ? 冗談じゃないよ、あんな鬼ババアに」

 

新作の目の前の電話が鳴る。「えっ? えっ? なんだって? 熱海へ?」

 

熱海に限りません。寿美子の気持ちは行き場所がなかったのです。一時は腹を立ててみたものの、結局、その腹立ちは自分にはね返ってくるのです。自分をだまそうとした人は誰もいなかったし、むしろ自分のほうからウソの中へのめり込んでいったとしか言いようがありません。そして今、寿美子が求めるもの。それは優しい人の心でした。優しい心を求めるとき、既にその人も優しい心になっています。あの気の毒な小川さんがいる熱海の駅。しかし、その熱海の駅で寿美子は思いがけない人に巡り合うことになるのです。

 

新幹線に乗っている寿美子の顔。どの角度も美しい。熱海駅に到着した寿美子は辺りを見渡す。

 

階段を下り、さらに下りエスカレーターに乗った寿美子は上りエスカレーターに乗る正司を発見。正司と目が合い、会釈した。

 

エスカーレーターの途中で会う。

寿美子「しばらくです」

正司「また変な所で会いましたね」

すれ違っていく2人。

寿美子「もう、お帰りなんですか?」

正司「小川さんを捜しに来たんですよ」

寿美子「あたくしもそうなんです。あたくしも小川さんにお会いしたいと思って」下りエスカレーターを降り、すぐ上りエスカレーターに乗り込む。

 

エスカレーターの上では正司が待っている。「そうか。だからお会いしたんですか」

寿美子「お会いしたかったんです、とても」

エスカレーターを降りる寿美子の手を取る正司。キャッ。トレンディドラマ。

 

正司「いろいろすいませんでした」

寿美子「いいえ、私こそ」正司に背を向けて涙を拭く。

 

正司「小川さん、いないんです」

寿美子「えっ? いないんですか?」

正司「とにかくちょっとこっちへ来て話しましょう」

 

ちょっと場所をかえる。

正司「今、もう一人の若い赤帽さんと話をしてきたんです。小川さん、昨日の夕方、ねんざしたんですって」

寿美子「あら…」

正司「で、今日はお休みなんです」

寿美子「じゃあ、おうちで寝てるんですか?」

正司「いや、うちといってもさっき会ってきた若い赤帽さんのうちに世話になってるんですよ」

寿美子「どこなんですか? そのお宅は」

正司「下曽我です。国府津(こうづ)から御殿場線に乗り換えるんですよ」

寿美子「まあ、そんな遠いとこから通ってたんですか」

結構距離があるんだね。

 

正司「大変ですよね、あの年で。朝の8時から夜の8時までですって」

寿美子「まあ、12時間なの?」

 

正司「これからすぐ行ってあげるといいんだけど、おあいにくなんです。夕方、お得意様と会う約束があって」

寿美子「じゃあ、今、お帰りになるとこだったんですね」

正司「ええ、そうなんです。あなたはどうしますか?」

寿美子「さあ、私は…」はにかむ。

 

正司「あさっての日曜日に訪ねてみようかと思うんです、僕は」

寿美子「そうします。あたくしも」←小川に会いに来たのにぃ~!?

 

今回は金曜日なんだろうけど、放送日近辺の5月12日か19日あたりかな。

 

東京行きの新幹線が走る。

 

普通車の中はあいにく2人が並んで掛ける席はなかったのです。でも、そのことがかえって2人の気持ちを落ち着かせました。正司は、愛に傷ついた過去を思い、どうしても控えめになります。一方、寿美子は手を伸ばせば届きそうな今日の幸せを永劫の未来に懸けて祈りたい気持ちなのです。

 

寿美子は通路側の席で数列前の隣の通路側に座る正司を見つめる。

 

タクシーに乗っている寿美子。

 

人を好きになるということは、どうしてこうもやっかいな気持ちなのでしょう。列車の中でも別に楽しく話し合ったわけでもありません。でも、そのときは、その人がすぐそばにいるというだけで心は安らぎ、まるで胸の中を爽やかな風がほんのりと香り良く通りすぎていくようでした。それが今は、ただ東京駅で正司があまりにもあっさりと別れていったというだけのことで、もう寿美子は気がめいるほど孤独な心境なのです。頼みの綱は明後日、日曜日の約束だけです。

 

新作のマンション

無人の部屋に着信音が響く。

 

寿美子が帰宅し、「新作」に電話をかけた。電話に出た仲居は「お父さんも今おかけしたばっかりなんです」と答えた。

 

信濃路に電話。新作から寿美子が熱海で正司と会ったことを聞かされたはつはすぐ行きますと電話を切った。店には勉と良子。

 

勉「誰からかかってきたの?」

はつ「寿美子さんのお父さん。それよりもあれよ、びっくりしちゃうわよ。ちょうど偶然、熱海の駅でばったりですって」

勉「誰と誰が」

はつ「決まってるでしょ。ちょっと私、すぐ行ってこなきゃ。(厨房へ向かい)私、ちょっと出かけますからね。あっ、そうだ。ケンちゃん、ここのお勘定もらわなくていいからね。(良子に)じゃ、ごゆっくりね。よかったら、もう1杯おあがんなさいね」

良子「あの…誰がばったりなの?」

はつ「正司さんと寿美子さんですよ。熱海駅で」

 

勉「じゃ、あれからすぐ行ったんだな」

はつ「そうなのよ。そしたら、正司さんも行ったんですよね、きっと。まあ、なんてことでしょ。じゃ、ちょっと行ってきますからね。勉さん、あんたもぼやぼやしないではっきりしなきゃダメよ。じゃ、良子さん、またね」店を出て行った。

 

勉「なんのこと? あれは。人のことぼさぼさだのはっきりだの」

良子「そういうとこあるわよ」お兄さんはばったり熱海の駅で行き合った、そしたらどういうことになるか分かってるでしょうがと言う。

 

ピンときていない勉。

良子「はっきりしなさいよ。ぼさぼさしてないで」前田さんはお兄さんに会いたくて会いたくてしかたがなかったのだ、そしたらどうなるか分かってるでしょと再度言う。

 

大体あれよ、と言いかけてやめたものの勉にやめなくていいと言われた良子は「あなたがはっきりしないから、私だってはっきりしないのよ」と言うが、勉は何の事か分からない。

 

良子「なんのためにとっくに治ってるのに病院に来るの?」

勉「ああ、そうか」

良子「ぼやぼやしないで早く食べなさいよ。おそば伸びちゃうわよ」

勉「うん」そばをすすった勉はニコニコしながら舌を鳴らす。

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機嫌のいいときのくせ? 良子も同じように舌を鳴らした。

 

新作のマンション

寿美子「おばちゃん遅いわね。もう来てもいいころだけど」家の中ではミニスカート。

新作「あの人も年だよ。すぐ行きます、なんて言って地下鉄で来たって40分じゃないか」

寿美子「もう1時間になるわ」

新作「まごまごしてるんだよ、年を取ると」

狸穴マンションの最寄り駅は神谷町駅で、はつさんは正司のアパートの近所だと思うから、豪徳寺駅から来るのかな? まあまあ距離あるよね。

 

寿美子「そんなこと言って自分はどうなの?」

新作「問題じゃないよ、お父さんは」持っていたおちょこからこぼしてしまう。

寿美子「ほら! またこぼす」

新作「どういうんだろう、今日は」

寿美子「もうよしたほうがいいんですよ。手が震えてるじゃないの」

新作「まだ2本目だよ」

寿美子「それでもう酔うんだから」

新作「酔ってなんかいますか」

 

寿美子「及川さんのお父さんは血圧ですからね。お父さんも一度測ってもらったほうがいいんじゃないの?」

新作「お父さんは低いんですよ。及川さんは高かったんだ」

寿美子「高くても低くても気をつけなきゃダメよ」

新作「まだまだ。お父さんが倒れてたまるもんか」

寿美子「心配よ。気をつけてくれないと」

新作「大丈夫。お酌しなさい」

寿美子「長生きしてもらわないと困っちゃうわ」

 

お酒を注いでもらいながらニヤリと笑う新作。

寿美子「何よ、思い出し笑いなんかして」

新作「やれやれ。いい娘になったよ」

寿美子「当たり前よ。そんなこと」

新作「お前だけだったな。どういうものか母親よりも私のほうに甘えたのは」

寿美子「そうだったかしら?」

新作「そうさ」今だって甘えてると言い、「及川正司君とうまくやりなさい」と酒を飲む。

 

新作「あさっての日曜日か」

寿美子「せっかく下曽我まで行くんだからお天気がいいといいんだけど」

新作「うん、だけどどうしてもっと話し合わなかったんだ?」

寿美子「だって席が離れてたんですもん」

新作「だったら、東京へ来てからだっていいじゃない」

寿美子「無理よ。及川さん、急いでたんですもの」

新作「だからって、すぐ別れることはないだろ?」

寿美子「そう思ったの、私も」

 

新作「思ったらついていくんだよ。会社の前までだって、お客様と話し合う所までだっていいじゃないか」

寿美子「そんなずうずうしいことができますか。まだ二度目ですからね、会ったのは」

新作「何をしおらしいこと言ってるんだ」

寿美子「あら、当たり前じゃないの」

新作「泣いたり、わめいたり、それもたった一度で」

寿美子「いいの。もうそんなこと言わなくても」

 

電話が鳴る。

寿美子「もしもし、前田ですけど」

正司「あっ、あなたですか?」

寿美子「あら…」←トーンが上がる。

正司「今日はどうも失礼しました」

寿美子「いいえ。とんでもない、こちらこそ。あら、そうですか。えっ? おばちゃんがですか?」

 

新作「寿美子、誰と話してるんだ?」

 

寿美子「まあ、そうなんですか。どうも少し遅すぎると思ってたんです。いいえ、そんなこと…いえ、いいんです」

 

ちょいちょい口を挟む新作。

 

寿美子「はあ」

正司「では、おやすみなさい」

寿美子「はい、おやすみなさい」

正司が電話を切っても、うっとり電話の前にいる寿美子。

 

新作が呼んでいる。

 

寿美子「何よ、寿美子、寿美子って。せっかくの電話をおちおち聞いちゃいらんないじゃないの」

新作「いや、だから、誰からだって聞いたでしょうが」

寿美子「及川さんよ。あっちとこっちと両方しゃべれますか」

新作「そうか、及川さんか」←嬉しそう。

寿美子「分かりそうなもんよ。私のうれしそうな声を聞けば」

新作「いや、だからなおさら気になったんですよ」

 

寿美子「ポーっとして何をしゃべったんだか分かりゃしない。私、変なこと言わなかったかしら」

新作「ほら、また始まった。お前のポーは初めて会ったときからですよ」

寿美子「だって、私まさか、あの方からかかってくるとは思わなかったんですもん」

新作「もう、あの方とくるんだから」

 

機嫌良く新作のお酒の用意をする寿美子。

 

新作「おいおい、それよりも今の電話はなんて言ってたんだ?」

 

はつがアパートの階段で滑り、5~6段落ちて腰を打ったとか手をついたとかでそこにちょうど正司が来た。電話をかけるのも忘れていて、正司が骨医者へおんぶしていった。

 

新作は、はつがいつもあの階段で「滑るから気をつけてくださいよ」と余計なことを言っていたと言い、寿美子から大したことはないと聞くと、どだい骨だって太いんだからと心配していない。

 

はつのアパート

はつ「それにしてもあいにくだったんですねえ」

正司「そうなんですよ。わざわざ行ったんですからね」

はつ「小川さんって、なんて運のない人かしら。ちょうどまた階段で滑ってねんざするなんて」

正司「奥さんも小川さんのまねをしたんじゃないんですか?」

はつ「まさか。フフフフッ」右腕を三角巾で吊っている。

 

正司「小川さんを見つけたのは奥さんだから、よくよく縁が深いのかな」

はつ「縁が深いのは、あなたと寿美子さんですよ。ちょうど同じ時間にそれも熱海駅で。そんな偶然ってめったにあるもんですか。結局そうなるようにちゃんと結びの神様が考えていたんですよ」正司がお茶を出す。「ありがとう」

 

正司「でもね、奥さん。僕は今日、帰りの新幹線の中でも思ったんですけど、やっぱり僕と寿美子さんではダメですよ」

はつ「あきれた人…まだそんなこと言ってんですか? あなたは」

正司「どう考えたって無理なんですよ」

はつ「無理なもんですか。無理な話なら私だって初めから勧めませんよ。いいですか、正司さん。寿美子さんはね、あなたに会いたくて泣いたんですよ。気が変になったんですよ。お父さんだってどうしていいか分からなくて、しょっちゅうここへ来たんですよ」

 

正司「ええ、それはよく分かってるんです」

はつ「分かってりゃそれでいいじゃありませんか」

正司「奥さんはそう簡単に言うけど…」

はつ「簡単ですよ。こんな話は。好きか嫌いかどっちかですよ。それはどうなの? 寿美子さんはあなたが大好きなんですからね。あなたのほうは大っ嫌いなんですか?」

正司「いいえ、そんな…」

 

はつ「じゃ、大好きなんでしょ?」

正司「ええ、まあ」

はつ「ええ、まあってことがありますか。好きなんですよ、好きに決まってますよ。おばちゃんにはちゃんと分かるんだから」

 

正司「でも、僕にはお金なんてないし」

はつ「なくて当たり前ですよ。誰があなたをお金持ちだなんて思うもんですか。お父さんと弟さんとアパートだって2つも借りてなきゃならないじゃありませんか」

正司「いいえ、あれでも勉は自分のアパート代ぐらい払ってたんですよ」

はつ「じゃ、お小遣いはあげてたんじゃありませんか」

正司「いえ…そりゃまあ多少はどうしても」

はつ「多少なもんですか。ちゃんと私は知ってるんですよ。お父さんから何もかも聞いていましたからね。お父さんはしょっちゅう言ってたんですよ。あなたに苦労をみんなしょわせてしまってかわいそうだってね」

 

正司「金のことばっかりじゃないんですよ」

はつ「どうしてこうややっこしく考えるのかしら。結婚なんて好き合った同士が一緒になれば、それでいいじゃありませんか。このごろなんてもっとひどいそうですよ。好きも嫌いもないんですって。そのとき、その場で気さえ合えば、もうホテルだってアパートだってすんなりですって」

正司「僕は古風なんですね。これです」内ポケットからスターサファイアを見せる。

はつ「おや、指輪じゃありませんか」

 

正司「この間、泰子さんの義理の弟と日比谷公園で会ったんです。そのときから内ポケットに入れといたんです」

はつ「何かわけがあるんですか? その指輪に」

正司「ええ」

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正司は、その日、その青年が言った言葉がいまだに胸に残っているのです。「愛するって、どういうことですか? 僕はまだ本当の恋愛をしたことがないんです。好きだなと思う人はいるんですけど。でも、その人をホントに愛しているのかどうか自分でも不安なんです」と言った言葉を。(つづく)

 

はつはなんと返すんだろうな??

 

寿美子の性格がな~と思うんだけど、2人そろったとき、やっぱりお似合い。

 

「おやじ太鼓」15話…アベックがいっぱい出てくる回。

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さ~て、来週は…

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