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【連続テレビ小説】本日も晴天なり(116)

公式あらすじ※初見の方、ネタバレ注意 

正道(鹿賀丈史)が入院して一カ月。仕事に復帰する日に備えベッドで長時間読書する正道に、元子(原日出子)はあせらないで欲しいと言うが、正道はいらだつ。元子は雑誌の仕事に慣れてきたが、締め切り前は編集室で追い込みになった。トシ江(宮本信子)が家を訪ねてみると、大介(中村雅紀)と道子(川瀬香織)のふたりで夕食のカレーを作ろうとしていた。家でやる仕事のはずが話が違うと、トシ江は怒りつつも帰るに帰れず…。

病院の廊下

平井「大原さん」

元子「まあ、今日が退院だったんですか」

平井「はい、おかげさまで」

平井の妻「まあ、いろいろお世話になりまして」

元子「いいえ、お世話になったのはこちらの方ですわ。本当におめでとうございます」

平井「ありがとう。奥さんも頑張ってくださいよ」

元子「どうもありがとう。どうぞお大事に」

平井の妻「まあ、ありがとうございます。奥さんもお大事に」

 

息子「今度の日曜日、動物園行こ!」

平井「おう、動物園か、よし」

娘「映画の方がずっと面白いわ」

平井「あ~、じゃあ、両方行っちゃおう。母ちゃんにおいしい弁当作ってもらってな…」

息子「わ~い!」

 

平井の妻…島田零子さん。70年代末から80年代初頭の大河ドラマにいくつか出演。

 

看護婦「大原さん。奥さんから旦那様に言ってもらえないかしら」

元子「はい、何でしょうか」

看護婦「本なの。先生からは、ほどほどにと言われてるんだけど、のぞくたんびに夢中になって読んでるのね」

元子「はい」

看護婦「黄疸はとれたけれど、夢中になって熱が出たら苦しいのは本人なんだから」

元子「申し訳ありません。よく言っておきますから」

看護婦「それじゃ」

元子「はい」

 

病室

仰向けの状態で頭だけ横を向けて本を読む正道。

元子「あなた」

正道「あ…おう、君か」

元子「こんな姿勢で読んでたら疲れるでしょう」

正道「うん…しかし、ほかにやることもないしな」

元子「うそ」

正道「ん?」

元子「治療っていう立派な大目的があるじゃありませんか」

正道「うん」

 

元子「山田さんは?」

正道「今、平井さんが退院してね…」

元子「ええ、そこで会ったわ。思ったより早かったのね。奥さん、とってもうれしそうだった」

正道「気持ちは分かるけども、ああ手放しではしゃがれると何かこっちがイライラしてきてな。それで山田さんも廊下の散歩、出たんじゃないかな」

元子「そうだったんですか…。あっ、これ、ご注文の梅干しとつくだ煮持ってきましたよ。柿も頂いたんですけど召し上がります?」

正道「いや」

元子「じゃ、ここ置いときますね」

正道「うん」

 

元子「昨日は来られなくてごめんなさいね」

正道「それで今日はいいのか?」

元子「うん、今日はお休み。だからゆっくりとあなたの顔、見に来たの。あとは道子が帰るまでにうちに戻ってればいいだけですから」

正道「だいぶ遅くなるような仕事続いてるようだけども、あんまり無理するなよ」

元子「少し分かってきたからもう大丈夫。初めはね、もう無我夢中だったんだけど、締め切り間際がひとつきのうちで一番忙しいのね。もっとも正規の社員の人は、そのあとも次の企画や長期取材なんかがあって、あんまりゆっくりできないみたいだけど。私みたいのは今が一番、ホッとできる頃みたいよ」

 

正道「そうは言ってても、もう一人前の雑誌記者みたいに聞こえるなあ」

元子「本当!? まだウロウロ叱られてばっかりいるのに。でもね、初めにさせていただいた実話記事の書き直し、あの仕事はずっと続けさせていただきたいって思ってるの。物語を書く上にもものすごく勉強になるし、いろいろな奥さんの体験をね、私も一緒になってやってるような、そんな気がして」

正道「まあ、元気そうだからいいけども、ゆっくりできる時間あったら、なるべく子供たちの方へ回してやってくれな。僕はもう大丈夫だからね」

元子「ええ。でも子供たち本当によく協力してくれて」

 

正道「しかしなあ、道子だってまだ小さいんだし、そりゃ口には出さないだろうけれども君が時間に追われて髪振り乱してれば言いたいことも遠慮してさみしい思いをしてるに違いないんだから。なあ」

元子「すいません…」

正道「別に僕に謝ることはないよ。みんなにそんな思いさせてる僕の方こそ謝んなきゃいけない張本人なんだから」

元子「あなた…」

正道「はあ…もうベッドに縛りつけられてひとつき以上だよ」

元子「そうよ。だからギプスが外せるまで、もうひとつき。半分来ちゃったじゃありませんか」

 

正道「今度来る時な、大学ノートと万年筆のインクのスペア持ってきてくれないか」

元子「ええ…焦らないって約束さえしてくれれば」

正道「別に焦ってなんかいないよ」

元子「だったらいいんですけど」

正道「読書はね、担当の先生からちゃんと許可が出てるんだし」

元子「でも過ぎると熱が出るかもしれないからっておっしゃってたわ」

正道「限度くらい自分で分かってるよ」

元子「はい…」

正道「子供たちまでしわ寄せを受けてるっていうのにね、僕だけがじっと目つぶっていられると思うのかい? 僕はね、この時間に何か身につけたいんだよ。そしてよくなったら、すぐにそれを生かして仕事したいんだ。そういう気持ちでやってんだから、あんまり指図めいた口出ししてほしくないな」

元子「ごめんなさい。そんなつもりじゃなかったんですけど、気を付けます」

正道「もういいよ」

元子「はい」

 

最高にイラついてる正道さん。でも元子が余計なこと言って悪いみたいな雰囲気になるの理不尽。

 

正道「何だか疲れたみたいだ。少し寝る」

元子「だったら、すっきりと目が覚めたところでこれ読んでくださいね。ラブレターです」

寝たふりを決め込む正道を見て、元子は退室。

 

正道は枕元に置かれた紙を広げる。

 

原稿用紙に書かれた道子の作文

 お父さんのけが

       三年二組 大原道子

 私のお父さんは、会社で大きなけがをしました。それで、今、ギプスをつけて入院しています。とても重そうでまだ歩くことも起き上がることもできません。だから、私がおみまいに行くと体を少し横にして私の顔を見てくれます。よくおひげがのびていることがあります。それで、さようならをする時にそのおひげで私の顔をゴリゴリしたりします。その時は、とても痛いけど私がキャッキャと言うと、お父さんは面白がって余計にします。だから早くよくなってくださいとお母さんとお兄ちゃんの3人でお祈りしています。

 

洗濯室

巳代子「お姉ちゃん」

元子「巳代子…」

巳代子「今日は午後からだからお義兄(にい)さんの顔見ようと思って少し早く出てきたの。そしたら、お姉ちゃん多分ここだからっていうから」

元子「いいわよ、これだけなんだから」

巳代子「何言ってるのよ。私のボケッとした顔見ているより、お義兄さんだって、お姉ちゃんの顔、少しでも余計に見ていたいでしょ」

元子「バカ言って」

 

巳代子「でも、もっとふさぎ込んでいるんじゃないかなと思ったけど明るい顔してたんでホッとした。さすがお義兄さんね」

元子「本当?」

巳代子「うん、ニコニコして何か書いてたわ。手紙みたい」

元子「手紙…?」

巳代子「うん。これが祐介さんなら辛抱がきかないところがあるから、今頃、泣くかわめくか大変だわ」

元子「かわいいじゃないの」

巳代子「冗談でしょ」

元子「だってさ」

巳代子「いいから早く行きなさいよ。あと、私がやっとくから」

元子「うん」

 

正道さん、元子にイライラをぶつけたし、道子の作文を読んだから機嫌が直ったんだよね。そのタイミングで巳代子が顔見せただけ。

 

その晩、子供たちが父親からのラブレターに大喜びしたのは、もちろんです。

 

大原家

子供たちはダイニング、元子は茶の間で校正。

道子「ねえねえねえ、お父さんね、先生と別に私の作文に四重丸くれるって」

元子「そう、よかったね」

大介「お母さんには、なかったの?」

元子「うん」

大介「だからすねてるんだ」

元子「え? ん…静かにしててよ。今ね、とっても神経使う仕事してるんだから」

 

大介「だって、校正でしょう」

元子「うん、参っちゃうのよね。お母さんの時代と今とじゃ送り仮名の使い方が全然あやふやなんだから」

大介「見てやろうか?」

元子「何事も勉強。そのつもりでね、この仕事引き受けてきたんだもん。せっかくのご厚意ですけどご遠慮いたします」

大介「じゃあ、肩たたいてあげる」

元子「うん、お願いするわ。ね」

大介「チェッ、言うんじゃなかった」

道子「じゃあ私、お茶いれてきてあげる」

元子「うん、フフ…。ありがとう」

 

女性時代編集部

編集員「もしもし…今頃何言ってんだよ」

 

そして再び、締め切り前の魔の数日間がやって来ます。

 

慌ただしい編集部。元子も編集部で作業している。

 

大原家台所

大介はにんじんを切り、道子も流しにいる。

 

トシ江「こんばんは」

道子「おばあちゃん」

トシ江「おやまあ。あんたたちでやってんの?」

道子「うん」

大介「うん。お母さん、遅くなるかも分からないから」

トシ江「ちょうどよかった。頂きもんなんだけどね、お肉のつくだ煮、まあ、お弁当のおかずにちょうどいいと思って持ってきたんだよ。さあさあ、あとおばあちゃんがやるから。ねえ…かわいそうに、もう。おなかがすいただろうに」

 

道子「ううん、おやつ置いてってくれたから」

トシ江「それにしたって子供たちだけでさ」

大介「しかたないよ。仕事だし、新米なんだから」

トシ江「無理しちゃいけないって言ったのに…。さあさあさあ、さあさあ…今日は何を作るつもりだったの?」

大介・道子「カレーライス」

トシ江「分かった」

 

女性時代編集部

編集員「あっ、編集長」

 

冬木「…明日の3時によろしくお願いします!」

 

元子は原稿に向かう。

 

大原家

時計は午後10時5分。

 

茶の間でアイロンがけをするトシ江。

道子「おばあちゃん、おやすみ」

トシ江「ああ、おやすみ。あ~。けど、遅いじゃないか、お母さん」

大介「だからもういいよ。おばあちゃんはこれで帰ってください」

トシ江「そうはいかないわよ。だってもう10時だもの」

大介「この前もそうだったし、もう帰ると思うから」

 

トシ江「そいじゃ、それまで待ってるわよ。繕い物もあるしね」

大介「それじゃ、道子は先に寝な」

道子「うん。おやすみなさい」

トシ江「はいはい、おやすみ。おや、あんたは?」

大介「もう少し勉強します。10時になったら寝てていいって言われたけど」

トシ江「当たり前でしょ。うちでできる仕事だって言ったのに、こんな遅いんじゃ話も何もありゃしない」

大介「いつもじゃないよ」

 

トシ江「ともかくね、おばあちゃん子供2人を置いてこのまま帰るわけにはいかないの」

大介「僕はもう子供じゃないよ」

トシ江「大介…」

 

女性時代編集部

時計は午後11時15分。

 

それにしてもこの晩は特別でした。

 

編集部には福井と元子だけ。

福井「駄目よ、駄目駄目。ここが違うって言ってるのに」

元子「すいません。行ったり来たり、あっちこっちやると訳が分かんなくなってきて」

福井「じゃあ、この部分、私が筆を入れましょうか」

元子「いえ、それは」

福井「あなたの言葉は客観的すぎるという意味、分かんないのかなあ」

元子「はあ…」

福井「いい? これはあなたが書いてんじゃないのよ。他人になって書く。それがリライターの宿命であり、コツなのよ」

元子「他人になって書く…?」

福井「そうよ。この奥さんの身になって書かなければ書けるわけないでしょう。この人だって泣きの涙で生きてきてるのよ。あなただって怒りなさいよ、泣きなさいよ」

 

元子「わかりました。もう一度初めから読み返してみます」

福井「初めからでなくてもいいけどさ」

元子「いいえ、初めからやります」

福井「そう?」

元子「はい」

福井「じゃ、頑張って」

元子「はい」

福井「私が厳しく言うのはね、今回が悪ければ、もうあなたは要らないっていうことなの。でもね、私には、たたけば何かいいものが出る人だと思うから」

元子「はい。頑張ります」

 

大原家

門を出て路地を見ているトシ江。

大介「何してるの? おばあちゃん」

トシ江「ああ…まだ寝なかったの」

大介「だって遅すぎるもん」

トシ江「ああ…」

 

女性時代編集部

福井「一服しない?」

元子「いえ、終わりました。読んでください」

福井「頑張ったわね。じゃあ、インスタントだけど飲んで」

元子「はい。あ~…」首を回す。「あっ、失礼しました。あっ…!」

 

時計は午前0時32分。

 

福井「えっ?」

元子「い…いえ、何でもありません」

振り向いて時計を見た福井。「あっ! ごめんなさい。夢中になってて、こんな時間になってると思わなかった。さあ、早くお帰りなさい」

元子「でも…」

福井「大丈夫、あとは私が見ておくから。絶対にいいものになってるに違いないんだから」財布からお札を取り出す。

元子「はい」

福井「さあ、車でお帰りなさい。それでね、領収書とっといて」

元子「いえ、これぐらいのお金なら」

 

福井「ううん、バカね。仕事で遅くなったのよ。ほら、押し問答してる時間ないんだから早く」

元子「それじゃ、どうもすいません」

福井「いいから、いいから」

元子「すいません、どうも」

福井「あっ、バッグバッグ」

元子「申し訳ありません…。どうもお疲れさまでした」

福井「気を付けてね」

元子「はい」

 

ダイニング

繕い物をしているトシ江と本を読んでいる大介。

 

⚟走る足音

 

玄関

元子「ただいま」

大介「何してたんだよ、こんな時間まで!」

トシ江のあきれ顔に戸惑う元子。

 

つづく

 

明日も

 このつづきを

  どうぞ……

 

何をどうしても元子が気に入らない人は気に入らないだろう。たとえ、時間どおりに帰れる仕事をしたとしても、モンパリで働いたって、あれこれ文句をつけるだろう。あの時代だと、邦世さんみたいに仕立物とか「岸辺のアルバム」の則子がやってたミシンで袖付けとかが内職らしい内職だろうか。元子は内職がやりたいわけじゃないのよね。

 

ツイッターだといい子過ぎるという評価の大介だけど、今日の終わりみたいに強い言葉で元子やトシ江、波津あるいは道子を怒鳴りつけるところが年上の男相手だったら絶対やらないだろうなと思えて本当に苦手。長男らしい責任感なのかもしれないけどね(-_-;)  モデルになった近藤富枝さんのお子さんは実際は姉弟だったから、そっちの方で見たかったよ。