公式あらすじ※初見の方、ネタバレ注意
元子(原日出子)は産み月を控え大きなお腹で働く。すると仕事場から善吉(小松政夫)が草加(冷泉公裕)をしごく声…。厳しすぎないかと心配するが、正道(鹿賀丈史)は、仕事はああして体で覚えるもの、と言う。しかし草加は、善吉には耐えられない、正道の出版の仕事を手伝わせてほしいと懇願してくる。正道は親身に理解してやり、宗俊(津川雅彦)も珍しくあっさりと許す。しかし正道の相棒の藤井(赤塚真人)の目は厳しく…。
万物実る秋となりました。そして、産み月を控えた元子のおなかもこのとおり。
裏庭で大きなおなかで洗濯物を干す元子。
キン「おはようございます」
元子「おはよう」
キン「もう、いつ産まれたって不思議じゃないんですからね、洗濯ぐらい私がしますから」
元子「大丈夫よ」
キン「あっ、ねえ、ちょっと…。あら、少しむくんでんじゃないですか」
元子「そう?」
キン「うん」
元子「調子は悪くないのよ」
キン「大事にしてくださいよ、初産なんですからね」
元子「もちろん大事にしています」
善吉「ほら、何やってんだ、モタモタと!」
草加「あっ」
善吉「何回言ったら分かるんだ…」
キン「またやってるよ。じれたってね、相手は素人なんだからって言ってんのに」
善吉「そうはいかねえんだよ」
草加「しかしですね、自分は善さんの言われるとおりに…」
善吉「言われたとおりにやって何でこうやってのりが残ってんだよ。いいかげんな仕事するんじゃねえよ!」
草加「失礼ながら自分はいいかげんにやっておりません」
善吉「何だこの野郎、口答えすんのか?」
キン「およしよ。まあ、でっかい声出して朝っぱらからみっともない」
善吉「みっともなくていけねえのはな、仕事の仕上がりだ。おっ母は黙っててもらおうか」
洗濯物を干し終えた元子は家の中へ。
善吉「やれよ、黙ってねえで」
玄関に入って来た元子が持っていたバケツを受け取り、元子の手を取る正道。「ほらほら、転ぶなよ」
元子「よいしょ…。どうもありがとう」
正道「はい」
元子「はい」
正道「善さん、調子が出てきたんで張り切ってんだな」
元子「うん、それは分かるんだけれど体がしゃんとするまでは草加さんが慣れないままに頑張ってきたんですもの。ああ頭ごなしだと聞いてる方がハラハラするわ」
正道「いや、それはね、出版社だって同じだよ。仕事となれば血相変えてけんか腰になるってのはいくらだっているよ」
元子「まあ、正道さんまでが?」
正道「いや、僕はね、なぜかいつも仲裁役に回されるんだけどね」
元子「でしょう。うちじゃあお父さんも彦さんにしても、そういう役に回る方じゃないし」
正道「大丈夫だよ。ああやってね、仕事ってのは体で覚えていくもんなんだから」
元子「それはそうでしょうけど」
正道「ちょっとね、これ見てくんないかな」
元子「はい?」
正道「取次店に出すんだけどね、どうも僕の文章は、まだ軍隊調の硬さが残ってるようでね」
元子「はいはい」
正道が立ち上がってラジオの電源を入れる。元子は文章を読むのに夢中。
ラジオ「…今日午前7時10分を期してゼネストに入ることを決定。以上のような声明を発表しました。ただいまちょうど7時10分であります」
ラジオが切れる。
元子「あら、真空管が切れたのかしら」
正道「いや、ゼネストに入りますとか何とか言ってた…」
元子「ゼネスト?」
正道「うん…。あれ?」
10月5日の朝からラジオは第1放送、第2放送とも全国一斉に沈黙してしまいました。戦争中も空襲や電波の事情で中断することはあっても丸一日、放送が止まったことはなかったラジオでしたが、新聞労組支援の同調スト突入でした。
吉宗前の路地を歩く松代。今日は和服。
吉宗
松代「ごめんくださいまし」
トシ江「はい。まあ、いらっしゃいまし。お元気でいらっしゃいますか」
松代「その節は…。はい、おかげさまで。あの、元子さん、その後、順調でいらっしゃいますか」
トシ江「ええ、おなかが重くなるばっかりでもう重いのには飽きてしまったなんて、そんなバカばっかり申しておりますんです」
松代「面白いこと…。あの今日は、のぼるの使いで伺ったんでございますけれど」
トシ江「まあそうですか。じゃあ、どうぞお上がりくださいましな」
松代「ちょっと失礼いたします」
トシ江「ええ、どうぞどうぞ。さあ、どうぞ」座布団を出す。
松代「恐れ入ります」
トシ江「何ですか、NHKの方も大変のようですねえ」
松代「はあ、よく分かりませんですけど恭子さんのお手伝いやら応援やらで毎日バタバタとしております」
トシ江「でものぼるさんは、いつもお元気だから」
松代「あ~、ハハハ、何ですか。あの、ジョーさんがほかのものと一緒にアメリカから毛糸送ってもらったんですって。で、のぼるに編んでプレゼントなさいって言ったんですけど、あの子はこういうこと全然駄目なもんですから結局私が編んでしまいましたの」
トシ江「まあ…」
松代「どうでしょうか」鮮やかなピンクの毛糸のおくるみ?
トシ江「奥さんがですか?」
松代「ああ…。あんまりよく出来上がらなかったんですけども、でも赤ちゃんはやっぱり毛糸のものがよろしいですしねえ」
トシ江「まあ、こんな外国の上等な毛糸で…」
松代「でもまあ、勝手にピンクなど送らせて、もし男の子さんだったらどうするんでしょう、あの子」
トシ江「いや、でもあの、昔っから一姫二太郎といいますし、まあ本当にお心にかけていただきまして、まあ、ありがとう存じました、もう。巳代子!」
巳代子「はい!」
トシ江「のぼるさんのお母さんがお見えになったから元子に声かけてきてちょうだいな」
巳代子「は~い!」
草加「おかみさん」
トシ江「うん?」
草加「あっ、どうも…。あの、巳代子さんお勉強のようですから、自分が」
トシ江「そう、悪いわね」
草加「へえ」
善吉「おっ母、おっ母! 表に元子お嬢のお客だよぉ!」
作業場
草加「善吉さん、自分が行きましたのに」
善吉「耳があるからどなりゃ聞こえるんだよ」
草加「いや、だって自分はお客様だから…」
善吉「たとえお客だって手ぇ休めんじゃねえ。染めにムラ出たらどうするんだ、このバカ!」近くにあった柄杓を投げる。今なら完全にパワハラ。
2階から降りてきた巳代子。「危ないじゃないの、善さん!」
善吉「いや、旦那の留守はね、この俺が預かってるんですからね。仕事場には余計な口出ししねえでもらいたいですね」
草加「すいませんね、巳代子さん、いいんですよ」
善吉「言ってるそばから、よそに愛きょう振りまくんじゃねえや!」
巳代子「お願いだから、もう少し親切にしてやってよ」
善吉「親切にしてたらね、仕事は教えられないんですよ」
巳代子「本当に強情なんだから」
善吉「ふん!」
人前で大声で叱りつけるのは、叱りつけられた人じゃなく、関係ない人にもダメージ与えるからやめてほしいよ。
大原家
元子「ねえ、すてきでしょう。もうかわいくってしかたがないの」
正道「本当にきれいな色だなあ。こんなかわいい色あるなんて忘れてたね」←大原さんって、こういうことが言えるなんてやっぱりすてき。
笑顔でうなずく元子。「でも困ったわ」
正道「ん? 何が?」
元子「お父さんは何が何でも男の子を産めっていうし、男の子にピンクじゃ似合わないものね」
正道「うん…だったら両方いっぺんに産まれるといいね」
元子「両方いっぺんに?」
正道「双子」
元子「まあ」
元子「はい」
正道「あっ、いい、僕が行く。はい」
草加「夜分申し訳ありません」
正道「はい、何か?」
草加「ええ、ちょっと…」
正道「それじゃ、どうぞ、お上がんなさい。さあ、どうぞどうぞ」
正道が草加の座るところに座布団を置いたけど、それを脇によける草加。古い朝ドラを見てると度々見られる所作だけど、今は全然見ないね~。
草加「実はちょっと相談に乗っていただきたいことがあるんですが」
正道「いいですよ、僕で役に立つことなら話してみてください」
草加「はい…」
元子「善さんのことじゃないんですか」
草加「はい、そうなんです。あの人から見りゃ自分のやり方がまどろっこしいの、よく分かります。けど自分だってなにもあの人をイライラさせようと、そう思ってやってるわけじゃないんです。慣れない仕事ですからきついのは我慢できますが、ああ頭ごなしに目の敵にされては到底我慢できないこともあるんです」
正道「しかし、善さんも悪気があって言ってるわけじゃあ」
草加「はい、よく分かります。置いてもらった上、仕事まで仕込んでくれる旦那のご恩を考えたらこんな泣き言は言いたくないんですが、自分と善さんのいさかいが、こちらの若奥様やおかみさんの心配の種になってることは分かりますし、まして若奥様は普通の体じゃないんですから、自分としてもご心配かけて本当に申し訳ないと思ってます」
元子「そんな心配ならいらないんですよ。昔はもっと若い衆や職人がいて、みんな若いからけんかなんて年中だったし、私もちょっとやそっとのことじゃ驚かないように育ってますから」
草加「はい、しかし…」
正道「辞めたいって考えてるわけじゃないんでしょ?」
草加「はい…いいえ」
正道「しかし、ここを辞めてこの先、行く当てはあるんですか?」
草加「大原さんの仕事を手伝わさせてもらうわけにはいかないでしょうか」
正道「えっ?」
草加「もちろん最初から本を作れるとは思ってません。けど、今、藤井のやってるようなあんな使い走りなら自分にもできます。骨身を惜しまずに働きますから、どうかよろしくお願いいたします」
正道「う~ん」
草加「善さんを見返してやりたいんです」
正道「いや、僕の仕事といってもね、僕一人でやってるわけじゃないし、それに相棒もいることだからね」
草加「分かります。よく分かります。ですから、給料いくらから欲しいとそんなこと言いません。仕事もどんどん覚えます。必ず大原さんのお役に立てると思いますから」
元子「あなた…」
正道「それじゃあ、一度相談してみましょうか」
草加「よろしくお願いいたします!」
正道「それに、もしここの仕事を辞めるんだったら、それなりにおやじさんにきちんと話を通さなきゃいけないしね」
草加「はい。よろしく…」正道や元子に頭を下げる。
桂木家茶の間
宗俊「まあな、『好きこそ物の上手なれ』っつってな、まあ、あんまり向いてねえと思う人間に途中から紺屋やらせるってのも、まあ、かわいそうな話だ。な」
草加「本当に申し訳ございません」
宗俊「いや、まあ妙な縁でさ、このうちへ入(へえ)ってきたおめえさんだ。なんとか身の立つようにしてやりてえと思ってたんだが、まあ、正道っつぁんが引き受けてくれるってんなら、それはそれに越したことはねえやな」
正道「はあ。幸い友人もですね、給料の方さえ、うるさく言わなければ暮れに向かって、もう一種類、実用雑誌を出す予定があると言ってくれたもんですから」
宗俊「おうおう、そうかい。そうなりゃさ、ひとつ正大の供養のためにも、ひとつ、よろしく頼んます」
…と珍しく宗俊が頭を下げて草加の身柄は正道たちの出版社へトレードされることになりました。
大原家
善吉「あの野郎、大原さんに泣き言、言うなんざ男らしくねえ野郎だな」
キン「とは思うけどさ、お前だって口が悪いから、そりゃあ、おかみさんだって随分と心配してなさったんだよ」
善吉「物言う前に体動かせってんだよ、俺は」
巳代子「それにしても善さんのは厳しすぎるのよ」
藤井「いえ、たとえそうでも一つのことができなければ、ほかの仕事も無理です」
巳代子「そうかしら」
藤井「そうです」
元子「そんなこと言わないで面倒見てやってよ。大原もその気になってるんだから」
藤井「そりゃまあ、こうなればしかたがないですけどねえ」
善吉「おう、構わねえからよ、今度はあんたがバンバンしごいてやってくれよ」
キン「冗談じゃないよ、本当にもう」
巳代子「大丈夫よ。藤井さんはそんなことする人(しと)じゃないもの。ねえ」
藤井「えっ…ええ、まあ…」
キン「けど、河内山の大将もちいっと当てが外れたでしょうねえ」
元子「何が?」
キン「草加さんですよ。私ぁ、旦那がみっちり仕込んでね、巳代子お嬢のお婿にって、にらんでたんですけどねえ」
巳代子「え~!」
藤井、むせる。
善吉「おいおい、汚えな、お前さんも」
藤井「ちょっと喉に」
巳代子「苦しいのよねえ、こういう時は」藤井の背中をさする。
藤井「どうもすいません」
巳代子「大丈夫ですか」
善吉「あっ。しかしそれが本当だったら俺は余計なことをしちまったのかなぁ」
巳代子「嫌よ、善さんったら!」
元子「そうよ。周りで騒ぎ立てんのは私の時でたくさん」
キン「そうですね。まあおかみさんもそう言ってらっしゃいましたけどさ」
善吉「けどさ、お嬢もいい旦那さんつかんだね」
元子「嫌だわ、つかんだだなんて」
藤井「いえいえ、何せ今は娘8人に婿1人の時代ですから」
巳代子「それにしては藤井さん、なかなかつかまらないみたい」
元子「巳代子、失礼よ」
藤井「そんな…。これでも僕は理想が高い方ですから」
善吉「高いって面かい、この面が」
キン「何だい。そんなこと言えた義理かい、お前だって、まあ」
善吉「文句があるなら親に言ってもらいやしょう」
キン「親? 親ってこの私じゃないかよ」
善吉「ハハハハ…。けどさ、ねえ、あの草加って野郎だけはやめといた方がいいぜ、巳代子お嬢。ねえ、俺が駄目って言うもんはな、必ず駄目なんだから」
藤井「そのとおりです!」
善吉「人の尻馬に乗っかんじゃねえよ、この…」
藤井「だけど、そのとおりです」
善吉「とにかくあんな野郎がいなくたってさ、この吉宗が昔どおりになるまで、この善吉が頑張って頑張って頑張り抜きますからね。お嬢たちも大船に乗った気でいてくださいよ」
元子「お願いします」
善吉「へえ」
いずれにしても一癖ありそうな草加を巡り、善吉、藤井の人脈地図、どのように発展していくのでしょうか。
つづく
ツイッターでは、善吉、藤井、草加が巳代子を巡って三つ巴!なんて見たけど、善吉は、今日の回を見た感じだと「マー姉ちゃん」でいう天海さん(前田吟さん)ポジションで桂木家のきょうだいの兄貴分という感じがするな。というか、藤井、草加より年上だと思うし。キンさんもここのお嬢とどうにかなって欲しいなんて思ってなさそうだし。
しかし、草加。なんか私も完全草加タイプだと思った。善吉みたいな態度はちょっとひどいけど、それにしたってちょっと口答えしたり、藤井と呼び捨てにして見下したり…仕事できない人の典型っぽい感じ。
そういや、「岸辺のアルバム」の時に八千草薫の相手が竹脇無我なのに、原千佐子の相手が穂積ペペかよってツイート見つけて笑っちゃったけど、元子の相手は実直な正道なのに、巳代子の相手役になりそうなのがうさんくさい2人というのはちとかわいそう。今なら、多少うさん臭いポジションでもイケメンいれそうだしね。