公式あらすじ※初見の方、ネタバレ注意
元子(原日出子)が巳代子(小柳英理子)の宿題の作文を代筆してやっていると、正道(鹿賀丈史)が帰宅する。正道からはゲラ刷りの校正を頼まれ、巳代子に女流小説家になれたかも、とからかわれ少しうれしい。正大の遺品を届けてくれた草加(冷泉公裕)は、そのまま吉宗に居つき、職人見習いになって、染め物で宗俊(津川雅彦)の手伝いをすることに。そこに、キン(菅井きん)の息子の善吉(小松政夫)が帰ってくる。
大原家
ラジオ「…またはNHK尋ね人の時間までお知らせください。次は池内千鶴子さんについてお尋ねいたします。日本橋人形町2丁目65の大原元子さんが捜していらっしゃいます。池内千鶴子さんは大正14年生まれ22歳。戦前、本郷区千駄木町にお住まいでした。3月10日の空襲で罹災し、長野県北佐久郡北御牧村に疎開なさいましたが、今年3月ごろから音信不通となり、旧姓桂木元子さんが心配していらっしゃいます。池内千鶴子さんは疎開当時、負傷した父・昌作さんとお母さんの3人暮らしで北佐久郡は、お母さんの田舎だとおっしゃっていたそうです。ご存じの方はNHK尋ね人の時間までお知らせください」
7月1日から始まった尋ね人の時間で消息の分かった人は一時、50パーセントにも達し、戦禍で離れ離れになった人が身寄りや知人を捜すのに何よりも頼りにしていたものです。
今の時代では考えられない個人情報の出し方だし、当時とて、それを悪用した人もいただろうけど、それしか方法ないもんね。それにしてもNHKのアナウンサーの再現度が高いな。
↑本物の尋ね人を聞いたら、NHKじゃなく日本放送協会と言ってた。
正道「ただいま」
元子「お帰りなさい。早かったんですね」
正道「うん、もう一度出かけなきゃいけないんだけどね…。何やってたの?」
元子「作文。巳代子の生活学院の宿題なんだけど作文苦手だからって代作してやったら、もう、店手伝うから書いて書いてってうるさいから、つい」
正道「そうか…」
元子「何か?」
正道「うん、ゲラ刷りのね、校正やってもらおうかと思って持ってきたんだけどな」
元子「やりますやります。もちろんやります」
正道「あっ、そう? こないだね、大助かりだったから、また家内にやらせますなんつって持ってきちゃった、ハハ…」
元子「大丈夫、国語は得意だし。校正ってのは、いわばあら探しみたいなもんでしょう。私、そういうの気持ち悪くて絶対見逃さないから。大丈夫、任してくださいな」
正道「よし、じゃあ頼もうかな」
元子「あの、すぐお出かけですか? それともお夕食してからでいいの?」
正道「うん、藤井君待たせてるからね、すぐ行く」
元子「あら、またあの人(しと)と一緒なんですか」
正道「ん?」
元子「いえ…それじゃあ、シャツ替えてってください。汗かいたでしょう。ね」
正道「うん、じゃあ、そうするか」
元子「はい」
たんすからシャツを出す。
元子「はい」
正道「はい」
藤井「ねえ、奥さん」
元子「ああ、どうもご苦労さまです」
藤井「あの男、とうとう居ついちまったんですか?」
元子「あの男って?」
藤井「ほら、お兄さんの迷子札を持ってきたという」
元子「ああ、別に居ついたってわけじゃないけど」
藤井「けど、仕事場でお父さんの手伝いしてますよ」
正道「ああ、彦さんがね、昔、打った腰をまた痛めてね」
藤井「しょうがないなぁ。この前もそんなこと言うから僕がいい薬を持ってきてやったのに信用しないで全然使ってくれないんだから」
元子「兄のお葬式をしたりして気落ちしたんでしょう」
藤井「それをいいことにちゃっかり居ついて何かあの男、感じ悪いですね」
元子「そんなことないでしょう」
正道「復員してきたんだけどね、仕事がないだろうって、お義父(とう)さんが引き止めてんだよ」
藤井「はあ~、全くここの人たちはそろって人がいいんだから」
正道「さあ、はいどうぞ」元子が注いだコップに入った水を渡す。
藤井「あっ、どうもすいません」
正道「まあ、それはそれ、やっぱり親なんだろうな。正大君の遺品を届けてくれた人だからって他人のような気がしないんだろうね」
藤井「あ~」水を飲み干してコップをテーブルの上に置く。「だからって、もし大原さんがいなかったら、やつは調子のいいうそを付き通すところだったんでしょう?」
元子「うそっていったって、それは私たちを慰めるためについた、いわば悪意のないうそなんですから」
藤井「うそに悪意も善意もありませんよ、奥さん」
藤井「いや、別にそういうわけじゃありませんけど」
元子「だったらいいじゃないですか。父も草加さんには力になってやりたいらしいし、彦さんがよくなるまではああいう実直そうな人がいてくれた方が助かるし」
藤井「けど、人は見かけによらないっていいますからね」
元子「そうね。藤井さんもよくそう言われることがあるでしょう?」
藤井「えっ?」
元子「えっ?」
正道「さあ、それじゃ頼んだよ」
元子「はい。あの、お帰りまでにはしっかりとやっときますから」
正道「あっ、あんまり無理するんじゃないぞ」
元子「はい」
藤井「本当ですよ。大事な体なんですから」
元子「はい、もう正道さんに十分に気を付けてもらってますから」
正道「さあ、行きましょう」
藤井「はいはい。それじゃ奥さん、行ってまいります」
元子「行ってらっしゃい」
藤井「くれぐれも気を付けてくださいね」
正道「藤井さん」
藤井「はい! 行ってきます」
元子「行ってらっしゃいませ」
裏庭
宗俊「おいおいおい、気を付けろよ」
布を張って、草加に教えている。
正道「行ってきます」
宗俊「おう、行ってらっしゃい」
藤井「行ってきます」
宗俊「ああ、昔はおめえ、伸子(しんし)1本折ったら飯抜きだったんだぞ」
草加「はあ」
宗俊「伸子と伸子の間は指3本だぞ。そっち側とな、こっち側のお前、織り目ちゃんとキチッと合わせねえと後でお前、生地がゆがんじまうからな」
草加「はい」
宗俊「伸子と伸子の間は指3本。な。こんなこと、おめえ、昨日今日のおめえにはな、本当はやらせられねえんだが、彦さんが腰痛めて動きがとれねえしよ、これじゃ秋の神田祭までに品物が間に合わねえ。しょうがねえやな。一生懸命頑張れよ」
草加「はい。なんとか自分なりに一生懸命頑張らせていただきます」
宗俊「ああ、やってくれ」
正大の遺品を届けに来たこの男、宗俊に請われて葬式に列席し、東京に知り合いも職もないことから、そのまま吉宗の下働きで住みついておりました。
巳代子が裏庭を通って大原家へ。「できたぁ?」
元子「ただいまお仕事中」
巳代子「お仕事中って?」
元子「見りゃ分かるでしょう。今ね、正道さんの校正の仕事をやってんの」
巳代子「どうしてぇ? 明日は登校日なのよ。持っていかなきゃならないのに」
元子「だったら自分でやりなさいよ。見てやるから」
巳代子「自分じゃうまく書けないから頼んでんのに」
元子「そんなこと言ってたら、いつまでたったって文章力が身につかないわよ」
巳代子「だって、私は別に文章書く人になろうと思ってないもん」
元子「私もですよ」
巳代子「けど、文才あるものねえ、お姉ちゃん。ひょっとしたら女流小説家になれるかも分かんないわね」
元子「調子いいこと言ってると今に女藤井って言われるわよ」
巳代子「ふ…藤井さんっていえば、あれから来ないの?」
元子「来たわよ」
巳代子「いつ!?」
元子「へえ~。我が家であの人に好意を持って迎えるのは正道さんだけかと思ってた」
巳代子「そうよ、私を忘れては困ります」
元子「巳代子、あんたまさか」
巳代子「えっ? フハハハハ…やだぁ。私が好意を持ってるのは藤井さんが持ってきてくれるものよ。氷小豆にしろって小豆にサッカリンを添えてくるところなんて憎いじゃない」
元子「なんて嫌な子なんだろう」
巳代子「どうして? 食べるものに積極的な興味を持つ人は生命力の旺盛な人間である。そう生活学院で習ったわ」
元子「そりゃまあね。生命力は旺盛には違いないでしょうけど」
巳代子「で、今度は何持ってきてくれた?」
元子「フフフ、何にも」
巳代子「何だぁ、がっかり」
元子「本当に巳代子ったら」
巳代子「は~あ。ねえ、尋ね人の時間どうだった?」
元子、台所に移動。「うん、今日やってくれてた」
巳代子「分かるといいけどな」
元子「そうねえ」
巳代子「でも千鶴子さんにとっては分からない方が幸せなのかなあ」
元子「そうは言ってもあの人が、ずっとあんちゃんを待っててくれるのはうれしいけど、いつまでもあの人の一生、縛るわけにはいかないもんね」
巳代子「うん…」
元子「まあ、空襲で恋人や旦那様を亡くした人はいくらだっているんだし、そういう人たちがこの先ずっと独身でいなければならないってことはないんだし、早いとこいい人見つけてかわいい赤ちゃん産んで幸せになってくれた方があんちゃんだってきっと喜ぶと思うのよ」
巳代子「そりゃそうかもしれないけど…」
元子「早く作文やっちゃいなさいよ」
巳代子「もう! 近頃のお姉ちゃんって現実的すぎるわよ」
元子「当たり前でしょう。結婚して子供を産もうって女がいつまでも夢ばっかみてるわけにいかないじゃないの」
確かにそれはそのとおりです。
台所に移動してから、鍋の味見をしたり、ネギを切ったり、セリフをしゃべったり…自然にこなせてるのがすごい。
夜、吉宗前
宗俊「おう。どうだ、紺屋の仕事ってぇのは」
草加「はっ、面白いと思えるにはまだ間がありますが自分なりに一生懸命頑張ってみます」
宗俊「ああ。まあ、何事も辛抱第一(でえいち)だ。仕事を覚えるまではな、まあ初めのうちは何でも苦しいもんだい。一生懸命やってりゃ、そのうちいいことあらぁな」
草加「いろいろとお世話になります」
宗俊「おう」
銭湯に向かう宗俊、草加、順平。
大原家
トシ江「まあ、そういうわけでね、おとうさん、しばらく草加さんをうちに置いとこうかって、こう言いだしてんだよ」
正道「それで草加さんは何っつってんですか」
トシ江「まあ素人なんだけど東京で何か手に職をつけたいって、こう言いだしてるんだけど」
元子「でも、本当のところ、お父さんの方が面倒見たがってんじゃないの?」
トシ江「まあね。正大が帰ってこないってなれば誰かうちの仕事をしっかりと飲み込んでくれる人が欲しいんだと思うのよ。まあ、順平だって一人前になるまでは彦さんが頑張ってくれると思うんだけど、あの子が一本立ちになったあとね…」
正道「自分が力になれれば一番よかったんですけどね」
トシ江「何言ってんですか。人にはね、向き不向きというものがあるんですよ」
元子「そうよ。それに正道さんがこうやってお母さんたちの相談に乗ってくれることでお父さんだって安心してると思うもの」
正道「いや、世話になってるのは自分の方だけども、お義父さんがそう考えて草加さんもそう思ってるんだったら、それが一番いいんじゃないですか」
トシ江「あ~、よかった。実のところね、私もあの人の身の振り方を考えてやりたかったの。あ~、よかった。そいじゃ、まあ、お邪魔さま」
元子「いいじゃないの、まだゆっくりしてってよ」
トシ江「うん…。ねえ元子、お前、暑いから寝冷えしないように気ぃ付けてね」
元子「はい」
トシ江「8か月ともなるとね、何かのはずみで産気づくかもしれないから、ほら、こないだも言ったとおり、ちゃんと風呂敷に包んで誰でも分かるような場所に置いとかないと駄目だよ」
元子「はい」
草加を置くとなれば一から仕込もうというのが昔かたぎの宗俊のやり方です。
早朝
作業場を草加が竹ぼうきを手に取り掃除を始める。
キン「あっ、まあ、いいんですよ。掃除ならね、私が後でするから、さあさあ、およこしなさいよ、ねえ…」
宗俊「おい、余計な口出しするんじゃねえや」
キン「だってさ」
宗俊「年はいってるがな、小僧に来たつもりでやれって言ってあるんだ。おい、表の掃除、なっちゃねえぞ。表、やり直しだ。行ってこい」
草加「はい!」
トシ江「少しせっかちすぎるんじゃないですか」
宗俊「何でだい」
トシ江「目ぇかけた人にやかましく言うのは昔っからの癖だけど、ほどほどにしないと素人なんだから」
宗俊「素人だからこそちゃんと仕込んでやらにゃなんねえじゃねえか。てやんでぇ」裏庭に出て行き、入れ違いにキンが入ってくる。
キン「(小声で)ねえ、おかみさん」
トシ江「うん?」
キン「旦那、ひょっとしてみっちり仕込んで草加さんを巳代子お嬢様にって考えてんじゃないでしょうかねえ」
トシ江「さあ、それはまだ私には言っちゃいないけど…」
キン「だったらだったで、ねえ、お店のためですから、私も気を入れてしっかり仕込みますわ」
トシ江「おキンさん、早手回しは、もう元子の時だけでたくさんですよ」
巳代子「おはよう!」
キン「お…おはようございます」
トシ江「あっ、おはよう」
元子「おはよう」
巳代子「お姉ちゃん。ゆうべは校正の仕事、随分遅くまでやってたみたいだけど、大丈夫?」
元子「ええ、このとおり、大丈夫ですよ」
キン「やっぱり紺屋のお嬢は紺屋がいいんですよね」
トシ江「おキンさん」
巳代子「えっ?」
吉宗前
草加「よしとくれよ。人の店の中のぞき込むのは」
善吉「え? だから、お前さんは一体誰なんだって聞いてるんだよ」
草加「だからこっちもお前さんは誰だと聞いてるんだよ」
善吉「見慣れねえ顔だから、こっちが先に聞いたんだぜ」
草加「聞かれた方が答えたらどうなんだ」
善吉「私かい? 私はここの職人だよ」
草加「職人だと?」
善吉「ああ」
草加「復員帰りならな、世間にゴロゴロしてるんだ。職探しなら、ほか行ったらどうだ。はい、帰んな帰んな。ほら、もう邪魔なんだ…」
善吉「この野郎! 何てこと言うんだい!」
草加「何だい!」
善吉「俺は昔っからこのうちにいるんだ!」
順平「善さんだ!」
善吉「順平ちゃん!」
順平「善さんだ、善さんだ!」
善吉「順平ちゃ~ん!」
順平「善さんが帰ってきたよ!」
善吉「ハハハハ…」
店の前に来たキン。
善吉「おっ母」
キン「善吉~!」
善吉「おっ母~! おっ母…おっ母…」
キン、善吉に抱きついて泣いてる。
宗俊「善吉!」
善吉「へい」
宗俊「善吉…」
トシ江「善さん…」
善吉「へい」
トシ江「お帰りなさい…お帰りなさい…」
地面にうずくまって泣いてるキンを慰めるトシ江。
善吉「善吉、ただいま帰りました」(`・ω・´)ゞ
宗俊「万歳!」
元子「お帰り、善さん」
善吉「へい。ただいま」
キンのせがれ、善吉が復員してきました。あの終戦の日から1年目、8月の暑い朝でした。
つづく
来週も
このつづきを
どうぞ……
「マー姉ちゃん」では怪しい闇屋として数回登場した小松政夫さん。ナビ番組でも一瞬、姿が見えたので、津川さんと同年代だし金太郎ねえさんの恋人・勇の字役だと思ってました。ていうか年代的には牧伸二さんや犬塚弘さんより幼なじみ役が適任なのにね。
菅井きん 1926年2月生まれ←大正15年生まれで元子の一学年上。
小松政夫 1942年1月生まれ
津川雅彦 1940年1月生まれ
で、勇の字は今後出てくるのかねえ? 善吉みたいに戦後1年で帰ってこれたのはまだ早い方だよね。まだまだ可能性はある…けど、宗俊と幼なじみじゃ結構な年だよね。
↑この映画だと終戦5年後にシベリアから帰ってきたら、妻は自分の弟と再婚してた。男は実家に帰ることもできず、待ち合わせた宿で父から僅かばかりのお金をもらって、それから各地の飯場で働いている…胸を締め付けられる展開だけど、それが分かるのは途中からで、渥美清さん演じる男が偶然知り合った屋台のおかみや屋台の客である若い男にしつこくからむので最初はうざかったなー。
再放送が始まる前のナビ番組は録画を残して時々見返しています。15分だけど、ほとんど既に放送したところばかりで、最後の2、3分くらいがまだ未見。あの人この先も出るんだとか、この人いつ頃から出てくるんだろうとか…。金八ファミリーはまだ出そうで、何役なのかが楽しみ。
そういえば、「本日は晴天なり」では古畑任三郎の犯人役をやった人が木の実ナナさん、鹿賀丈史さん、津川雅彦さん、田中美佐子さんと4人いるとツイッターで見かけて、そういうくくりも面白いと思いました。
「澪つくし」なら津川さん、沢口靖子さん、明石家さんまさん、「純ちゃんの応援歌」は山口智子さん、唐沢寿明さん、笑福亭鶴瓶さん…田中美佐子さんや唐沢寿明さんは朝ドラ当時のポジションからしたらすごい出世! 「はね駒」はメジャーになった人が多いけど小林稔侍さんだけなのは意外。