公式あらすじ※初見の方、ネタバレ注意
ツチノコの新聞記事を見て興味を持った町子(藤山直美)は次の小説を書くために、秘書の矢木沢純子(いしだあゆみ)を連れて、兵庫の丹波の山へツチノコの取材に出かける。そして役場の紹介で、ツチノコを見たという中川利男(阿南健治)の民家を訪ねる。町子らが中川にツチノコに遭遇した様子を伺っていると、東京から来たツチノコ研究家の田村駒蔵(石橋蓮司)が現れる。そして、町子の取材に協力するというのだが…。
新聞記事のアップ
白垣村山中
「幻のツチノコを目撃!?」
村は大騒ぎになっている。”幻のヘビ”を言われているツチノコが、目撃されたというのだ。
ツチノコは古事記にも登場する生き物で形が小槌に似て胴体がずんぐりして、ヘビのようなしっぽがあるという。
(ツチノコのイメージ)と書かれた手書きイラストつき。
読める範囲でこれくらい。
町子「エヘヘへ、えっ、うろこあんのん? これ」
仕事部屋で新聞の小さな切り抜き記事を見ている。
純子「先生」
町子「いや、かわいい! ハハハ…」
純子「ほかの3紙にも載ってました」新聞を持ってきた。
町子「あ、ほんま! ありがとう、ありがとう…」
純子「キノコ狩りに行った人が見たっていう話なんですけど」
町子「ああ、そう」
純子「一体、何なんですか? ツチノコって。蛇ですか?」
町子「いや、蛇やていう人もいるけどもね、あれ何か胴体ね、ずんぐりしてる胴体。胴体ずんぐりしてね、異常に短いんやて。異常に短いの。そんで何や知らんけどね、えっとね『チュ~』かな? ちゃうわ。『チュ~』ちゃう『チ~!』か言うて跳んで、そんでもしぶつかられたら、それ犬でも死んでしまう可能性があるっていうのよ」
純子「『チ~!』って言うんですか?」
町子「『チ~!』かな? 私、どうも研究したところによるとね『チュ~』じゃなしにね『チ~!』って跳ぶと思うの。跳びかかられた人のね、証言を聞くとね、あのね、竹藪、竹藪、サ~ッて竹藪があるでしょ? で、静かになったところにね、そのツチノコがね、フッと狙いを定めてね、一直線にね『チ~!』て跳ぶらしいねん。この一直線『チ~!』て、この一直線。これが跳ぶらしい。ほんでバ~ッと跳んでね、こうやってね、跳んだあとね、その相手ね、にらんでる相手、こうやってグッて狙うの。こうやって、こうやる…」
あきれている純子。にらみつけている町子の顔が面白い!
診察室
健次郎「口開けて。ああ…やっぱり風邪気味やな。学校の先生には電話してあるから慌てんと行きや」
鯛子「はい、これして学校行って」布マスクを渡す。
亜紀「嫌や、格好悪いもん。こんなんやぼったい」
健次郎「どこで覚えたんや? そんな言葉。はい…これして。はい、行っといで」亜紀にマスクをかける。メガネもしてるからしづらいのも分かるな~。
亜紀「行ってきます」
健次郎「はい」
鯛子「はい、行ってらっしゃい」
健次郎「『やぼったい』やて」
鯛子「そら、女の子ですもん」
健次郎「あんな小さいのに」
鯛子「女心がもう身長70センチの時には宿ってるんです」
健次郎「ほう」
茶の間
町子「そら、そうやね。女心に身長関係あらへんもんね」
純子「でも世の中、こんなに進んでもマスクだけは相変わらずやぼったいですね」
健次郎「医療器具におしゃれは要りません」
町子「ああ、そうやね」
それが2020年以降変わることになるとは…
健次郎「ごちそうさん」何かに気付く。
町子「ああ、それ?」
健次郎「何? これ」スクラップブック
町子「世界の不思議話」
健次郎「ふ~ん。『ネッシー』てイギリスの何たら湖にいてるていう恐竜か?」
スクラップブック
・文明の迷路 第32回 アトランティス大陸
・井戸端会議 アトランティス最大の謎
・伝説・アトランティス
・世界一有名になった湖・・ネス湖
ネッシーの知られざる脅威
などの記事が貼られている。
町子「私もこういう話、大好きやねん」
健次郎「こんなもんいてるわけないがな」
町子「えっ?」
健次郎「今どきこんな何千年前の恐竜がいてるはずないな」
町子「そんなことないで。見た人たくさんいてるんやて。見た人みんなね、ねえ、海面からね、ねえ…ねえ聞いて。顔をね、ヌ~ッとだしてね、波を切ってツ~ッと走ってくねんて。だから見た人、みんな同じこと言うのよ」
健次郎「『波を切って、ヌ~ッ』て?」
町子「違うって、違うって。顔を出すのよ。ヌ~ッと波から顔をヌ~ッと出して、それで波を切ってツ~ッと走るの。見た人みんな同じこと言うて言うてるやん」
健次郎「どっちゃでも一緒や、そんなもん。新聞に載っとったら、すぐほんまや思うやろ」
町子「ネッシーほんまにいてるんやもん」
健次郎「ほら、そうやって熱望するやろ? それが新聞に反映しとるんや」
町子「ツチノコもほんまにいてるもん」
健次郎「ツチノコ?」
町子「うん」
純子「『チュ~』と言いながら跳ぶんです」
健次郎「ネズミ?」
町子「違う『チュ~』と違う、純子さん。跳ぶ時に『チ~!』と言うのやて。いや、見た人、それ、もう、ほんまに同じことを言うんやって」
健次郎「蛇?」
町子「うん、蛇? 私ね、ものすごう気になるから、これはちゃんと取材に行ってきます」
純子「え?」
町子「取材に行ってきます」
健次郎「取材?」
町子「いや、それもね、ここに書いてあんのよ。あのね、兵庫県のね、丹波のね、山ん中のね、白垣、ここ白垣村いう所にね、いてるのよ。私、それ、気になるから絶対取材行ってこうと思てんの」
純子「何のために行かれるんですか?」
町子「えっ、今度の小説のためによ」
徳永医院前の路地
「亜紀ちゃん、バイバ~イ!」
亜紀「バイバ~イ!」
「また明日!」
「バイバ~イ!」
数人の子供たちと帰ってきた亜紀が男の子と一緒に歩いている。
高橋「徳永さん、明日、テストやな?」
亜紀「うん」
高橋「頑張ろうな」
亜紀「うん」
高橋「バイバイ!」
亜紀「バイバイ!」ニコニコしながら見送る。
この男の子、何か見たことあるなと思って、オープニングを見返すと森永悠希さんだった。最近のドラマをあまり見ない私でも「トクサツガガガ」のチャラ彦、「共演NG」「婚姻届に判を捺しただけですが」とか知ってるドラマがいくつかあった。顔が変わらないね~。
そして、数日後…
玄関
ノリノリの町子と気乗りしない純子。
町子「ちょっと純子さん、何、モタモタしてるんですか。はよ行きましょて、はよ」
純子「先生。私もどうしてもご一緒しなきゃいけませんでしょうか?」
町子「当たり前でしょう」
純子「もう、私、蛇苦手なんです」
町子「いや、初めて行って遭遇できるほど強運やないんですから。例えばそのツチノコがね『チ~!』って跳んできたらズバッと私が捕まえましょう」
純子「お~…」
町子「こうやって。ね?」
健次郎「おう、これからか?」
町子「はい、行ってきます」
健次郎「まあ、気ぃ付けて」
純子「あっ、大先生。町子先生いらっしゃらないとご不便でしょ? 私、残ります」
健次郎「あ、いやいや、それは全然大丈夫ですよ。どうぞ心おきのう行ってきてください」
町子「はい」
純子「あっ、あの、今日確か『春秋関西』の方がエッセーの原稿…」
町子「朝、速達で出しましたから。ね?」
健次郎「あっ、あのツチノコいうの捕まえたら生け捕りにしてきてな」
町子「また…そんなん言うても、ほんまは信じてへんくせに」
健次郎「フフッ」
町子「行きましょか? ね? さあ、そしたら行ってきま~す!」
純子「はい」
町子「『チ~!』」
純子「行ってきます」
山の風景
民家
大村「こちらが花岡町子先生です」
町子「初めまして、花岡でございます。どうぞよろしくお願いいたします」
中川「あっ、いやいやいや…」
町子「あの、そして…」
純子「秘書の矢木沢でございます」
中川「中川です。こんな田舎まで、よう…」
町子「いや~、新聞の記事でね、ツチノコを知りまして、私、興味持ちまして、どうしても、お話をね、聞かせてもらいたいなと思いまして、ちょっと役場の方にご相談させていただいて、お電話を…」
大村「電話があった時はびっくりしました。ほんまにお越しになるやなんて」
伸江「まあまあ遠いとこ、ほんまによう来てくださいましたなあ」
町子「お邪魔してます。けど、自然に囲まれたいいとこなんですね」
伸江「もう何にもあらしませんねん。とにかく畑と木ばっかり。あっ、これ、うちの茶畑で取れたお茶ですんや。どうぞ」
町子「え~!」
伸江「どうぞ」
町子「まあ、ありがとうございます。そしたら早速ですけども、ツチノコを見た時の感想とか、その驚きとか、その何て言うんですかね形とか、ちょっと教えていただけますか? ごめんなさい」
中川「あれはいつやったかいな」
伸江「3か月ぐらい前ですわ、お父さん」
中川「そやそや」
町子「3か月ぐらい前ですか?」
中川「畑行った帰りにな…」
伸江「嫌やわ。イノシシの仕掛け見に行った時ですがな」
中川「そやそや。イノシシや!」
伸江「農道歩いてる時でしたわ。日暮れで雨上がりで…」
大村「おばちゃん。おっちゃんに話、聞いてはんねん」
伸江「あっ、嫌やわ。あっ、すんません。もう、お父さんがチャッチャッとしゃべれんよってに、もう…」
中川「しゃべろうとしてんのに…ねえ」
伸江「口下手で…」
中川「口下手ちゃうわ。ハハハ」
日も暮れかかっている。
町子「この白垣村では昔から、本当にツチノコを見た人、ものすごう多いらしいて、それ本当ですか?」
中川「ええ。ワシが子供の頃はな、昔、死骸見つけたいうじいさんもおりましたな」
町子「じゃ、死骸ていうことは骨か何か残ってるんですか?」
中川「いや~、残念ながら、どのうちにも写真機なんぞない時代のことですさかいな。話だけ」
伸江「話だけですねん」
町子「はあ~」
中川「大正の頃の話みたいですけどな」
町子「あっ、大正の頃ですか」
駒蔵「ごめんください」
伸江「は~い! ちょっとすんません」
町子「へえ~」
大村「昔はね『ツチノコは見てもしゃべったらあかん』て言われてたんです」
町子「何でです?」
大村「たたりがあるとかで」
純子「たたり!?」
町子「へえ~」
大村「まあ、迷信ですけど」
伸江「お父さん、何か東京の田村さんいう方が来てはるけど」
中川「誰や?」
伸江「『役場でご紹介いただきました、ツチノコ研究家です』って」
大村「あっ、そや! おっちゃん、この間、言うてた」
中川「ああ…」
町子「ツチノコ研究家?」
大村「『話聞きたい』て。あれ、今日やったかな」
駒蔵「いや~、どうも失礼いたします。あの、中川利男さんですね。あ、小生ですね、え~、田村駒蔵と申します。いや~、早くお話を伺いたいと気がせいたせいか、新幹線乗って飛び乗って気が付いてみたら、お約束の1日前。で、まあ、せっかくだからと役場を訪ねてみたらば、小説家の先生がお越しになってると聞きましてね。これはちょうどいいかと。アハハハ…」
大村「あの、こちらは小説家の花岡町子先生です」
駒蔵「花岡町子先生? あの篤田川賞の?」
町子が頭を下げる。
駒蔵「あ、そうですか! いや~、小生、先生の大ファンでして! あ、そうですか。先生もツチノコに興味をお持ちで。いや~、これは恐れ入りました」
伸江「あの…」
駒蔵「あ~、いや、奥さん、あのね、これ、浅草の人形焼き。こしあんですから」
伸江「はあ」
大村「田村さん、今日は花岡先生が話を聞きに見えてますので…」
駒蔵「いえいえ、小生のことはおかまいなく。どうぞどうぞ」
大村「けど…」
町子「中川さんさえよかったら。あの、私は全然かまわないんですが…。ツチノコ研究家の話も聞かせてもらいたいですしね」
駒蔵「取材の協力でしたら、小生、お力になれます。何しろツチノコを研究して15年。資料もですね、はい、ええ、ええ、ええ…。資料もですよ…ここにございますよ。はい! ご覧ください」スクラップブックを広げる。
町子「これ全部ツチノコのこと!?」
駒蔵「はいはい」
スクラップブック
・ツチノコ探しで町おこし
捕獲すれば賞金1億円!
・あなたも探しますか「ツチノコ」
捕獲懸賞金1億円
「10億円で動物園へ…」の皮算用
・””ツチノコ”調査始まる!
全国から探検隊集る
・私が見た「ツチノコ」
幻の珍獣「ツチノコ」捕獲?
地域の家顔へ
・ツチノコは存在するのか
・ツチノコ(幻のヘビ)の実態
町子「あらまあ。これはものすごいやないの、ちょっと」
駒蔵「さあどうぞ、お話をお続けください。どうぞどうぞ。ねっ。ええ…ええ…。…で? え?」
たこ芳
一真「ツチノコなんてそんなインチキくさいもん。手に触れられんもん、そんなもん信用できへんがな」
貞男「何言うてんねんな。ごえんさんの仕事かてやで、あの世やら魂やら見えへんもん扱うてるやんか。お釈迦さんて、俺、会うたことなんかあれへんで。なあ」
一真「アホ! 仏の道と同じにすんな。ナンマイダ、ナンマイダ…」
俊平「けどな、あるかないか分からへんもんて、ロマンチックやて思えへんか? なあ、先生」
健次郎「うん? 分からへんもん?」
俊平「インカ文明なんて1,500年前の用水路。あんな山の中でまっすぐ正確にず~っと10キロも掘ってあんねんで。人間の力でできへんて。ひょっとしたらな、宇宙人が来て造ったんとちゃうかという説もうなずける」
健次郎「そんなアホな。何で宇宙人が出てこなあかんねんな。そんなもん地球人でもできるがな。人類バカにしたらあかんわ」
一真「そやけどやっぱり、そら、謎やなあ。あれ、えらい難しい工事やで」
健次郎「いや、やってやれんことないと思うで」
一真「うん?」
健次郎「労働力と時間は山ほどあるんやから。それよりも問題はな、何で一直線にまっすぐ造ったかや。僕は分かるけどな」
一同「え?」
一真「何でや?」
健次郎「女が造ったからです」
俊平「女?」
りん「!?」
健次郎「古代においてはな、支配者は女やったんや」
俊平「うん」
健次郎「もしそれが男やったら山の形にこう逆らわんように沿うてやな無理のないとこでウネウネウネってした形に造るやろ?」
俊平「うん」
健次郎「ところが女はいかんせん頑固や。ここからここまで水引くとなったらシャッて一直線に『はい、このまんま造りなさい』て…」
りん「いや、そんなアホな」
健次郎「これまあ僕の仮説やけどね。現代において、一見、男が支配してるみたいに見えるやろ? ところがその実は男はみんな心の奥底では女を怖がってる。何でか? 『昔々に女に支配されていた』というこの遠い記憶の名残があるからや。つまり支配者が女やったんや」
俊平・貞男「はあ、なるほど」
一真「いや、その説は正しいかもな」
りん「また、そんなアホな。もう、ええ加減よ、それ」
男たちだけの会話だけじゃなく、りんさんが否定してるからいい。
そして、町子たちは…
テーブルの上に地図を広げている。
町子「ですからですね、私なりに研究をして勉強を重ねました結果、出た答えはツチノコが現れるのここしかありません!」
駒蔵「いえ」
町子「ここです。この一角です」
駒蔵「いや、違います。こっちです」
町子「え~!?」
駒蔵「ツチノコはですね、萱の生い茂る萱場が大好きなんです」
町子「それ知ってます」
駒蔵「ですからこっちに出てくるのは間違いありません」
町子「え~、間違いないですか? こっちで」
駒蔵「はい。このエリアに行けばツチノコを必ず見られます。小生は確信しております」
町子「ほんまですか?」
駒蔵「ええ」
町子「私でも会えますか?」
駒蔵「はい、もちろん」
町子「絶対巡り会えますか?」
駒蔵「はい。萱の間からササッと出てきましてですね『チ~!』と跳びますから」
町子「やっぱり! 一緒でしょ? 一緒でしょ? 私もず~っと言ったんですよ。あのこうやってまっすぐシュ~ッと出てきまして『チ~!』って跳ぶんですよね?」
駒蔵「ああ、そうですそうです。そのとおりです」
町子「この声ですか?」
町子の好奇心のアンテナが音を立てて伸び始めました。
町子「『チ~!』ですよね。やっぱりそうですか?」
駒蔵「ああ…」
町子「いやうれしい!」
町子・駒蔵「チ~!」
ミニ予告
駒蔵「今日、出そうな気がするんです」
あ~、最初っから面白い! チ~!の言い方が面白いから面白い。
こういう本こそ再版してほしいなあ。ドラマも見てみたいし。