あらすじ
要(世良公則)の周りでも、召集されて戦地へ行くものが絶えず、清郎(笹野高史)と将来について語り合う。蝶子(古村比呂)が台所仕事をしていると、雅紀(相原千興)の練習中、要の怒鳴り声が聞こえてくる。蝶子がどうしてそんなに厳しくするのかと問い詰めると、要は、自分に教えられるものはヴァイオリンしかない、と答える。召集されるまでに残された時間で、自分が残せる物を継がせたいと語る要に、何も言えない蝶子だった。
2025.8.28 NHKBS録画
脚本:金子成人
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音楽:坂田晃一
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語り:西田敏行
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岩崎蝶子:古村比呂…字幕黄色
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中山音吉:片岡鶴太郎
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大川邦子:宮崎萬純
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中山はる:曽川留三子
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岩崎加津子:藤重麻奈美
岩崎雅紀(まさのり):相原千興
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神谷安乃:貝ますみ
岩崎俊継:服部賢悟
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岩崎要:世良公則
<この日、要さんは出征していく楽団員を見送りに行ったのでした>
一緒に路地を歩いてきた要と坂上。
要が玄関の戸を開ける。「ただいま」
台所でお茶の葉を急須に入れている蝶子。
⚟︎坂上「松川の奥さん、かわいそうだったな」
⚟︎要「うん」
⚟︎坂上「先月、結婚したばっかりだもんなあ」
縁側
要「奥さん泣かなかったねえ」
坂上「みんなの前じゃ泣けないだろう。仲間内だけならいいけど、出征するのは喜ぶべきことだと思ってる連中もいるしさ。そこで泣いたら非国民呼ばわりだ。今頃、一人になってきっと泣いてるよ」
蝶子「お茶、どうぞ!」
要「うん、ああ。ありがとう」立ち上がって茶の間へ。「松川の奥さん、いくつだ?」
坂上「確か22」
要「う~ん。松川が死んだら、どうなるんだろうな」
坂上「うん?」
要「まさか再婚というわけにもいかんだろ」
坂上「うん、英霊の妻としちゃなかなかな」
蝶子「なにも戦死するもんだと決めなくても…」
坂上「いや、そうだけど…」
要「いやいや。戦地へ行くとなれば、その覚悟は、しといた方がいいよ。最悪のことを考えといた方がな」
坂上「はあ~、妻子ある男を戦地へ連れてっちゃいけないよ!」
要「はあ~、松川で4人目か?」
坂上「うん!」
要「…団員が減ってくな」
坂上「うん」
要「…いい演奏、ますますできにくい」
要「うん。実に重厚だったなあ」
坂上「フフフッ」
要「うん?」
坂上「戦場であいつ、太鼓たたきながら、敵地へ突っ込んでくんじゃねえだろうな?」
笑い声
要「そうかもな」
坂上「笑い事じゃ、ないか。俺たちにもいつ召集来るか…」
雅紀の練習を厳しい表情をしながら聴いている要。
♬~(バイオリン)
台所
梅干を作っている蝶子と加津子。
俊継「終わった、終わった!」
蝶子「マーちゃんは?」
俊継「まだやってる」
蝶子「そう」
⚟︎要「また忘れてるじゃないか!」
⚟︎物が倒れる音
⚟︎要「何度言ったら分かるんだ!」
蝶子が様子を見に行くと、要に背を向けて雅紀が立っていた。
要「さあ、もう一度!」
蝶子「…要さん」
要「(蝶子に)練習中だよ」
蝶子「話があります」
要「後にしなさい。雅紀、弾いて!」
蝶子「話、あるんです! 今…」
ため息をつく要。「雅紀、行きなさい」
雅紀「ありがとうございました」
要「うん」
雅紀が部屋を出ていくと、要がため息をつきながら倒れた椅子を起こして座る。「何だね」
蝶子「どういうつもりなの? どうしてあんなに厳しくしなきゃいけないの?」
要「おい、バイオリンをやってるんだよ。厳しくて当たり前なんだ。簡単に楽にやれると思う方がどうかしてるんだ」
蝶子「だったら、子供たちにバイオリンはやめさせます! 何でもいい、ほかの好きなことやらせるわ」
要「あいつが『バイオリンをやる』と言ったんだ」
蝶子「あなたがそう言わせたんでしょ!? バイオリンが全てじゃないんだから。バイオリンだけが人生じゃないんだから!」
要「俺にはね、バイオリンしか教えるものがないんだよ」
蝶子「ああいうの教えって言うの!? 私にしたらいじめてるとしか見えないのよ」
椅子から立ち上がり、蝶子に背を向けるように窓の外を見る要。
蝶子「要さん見てると、あれよ。演奏会も減って、仕事も減って、そんないらだちや不満を雅紀にぶつけてるとしか思えないの! 子供つかまえて、自分の不満、紛らわしてるだけじゃない! 卑怯よ」
要「卑怯かもしれんねえ」
蝶子「卑怯よ」
要「けどね…」
蝶子「何?」
ふりかえって蝶子の顔を見る要。「俺には、ほら、時間がないんだ」
蝶子「時間?」
要「うん。俺にもいつ召集来るか分からんだろう? 召集令状来たら逃げ隠れできんだろう。このうち出ていかなきゃならんだろう。戦場に行かなきゃならんだろう。そしたら死ぬということもあるだろう。うん。大いにあるんだよ。なあ、蝶子。戦死した時のことをね、考えたんだ。俺が死んだ時、父親として子供たちの中に何が残るんだろうかって…考えたんだ。死んだ者のことは時がたてば、すぐに忘れてしまう。それじゃ、さみしいだろう。何か忘れようにも忘れられないものを残していきたいとそう思ったわけだ。俺に残せるものといったら、やっぱりバイオリンしかないもんな。形のあるものはね…いつかは壊れる。壊れないものといえば技術だ。音楽家としての精神だよ。いい音を弾ける腕。いい音を聴き分けられる耳だ。いい音に感動できる心なんだよ。それなら…いつまでも子供たちの中に残るし、生き続けるだろう。そしたら…雅紀や俊継が自分たちの子供にそれを伝えてくれるかもしれん。孫が受け継いで、またその子供が俺の教えた何かを伝えてくれたら、受け継いでくれたら、それがね…この岩崎要という男が、みんなに残せる唯一のものじゃないか」目を潤ませて蝶子を見る。「けどね、俺はまだ雅紀に教え切れてないんだよ。まだまだ残してるんだ。なのに時間はない。短い時間でたたき込むしかないんだよ。俺のね、勝手な思い込みのためだけど、何と言われてもそうしなきゃいられないんだよ。なのに時間がないんだ」また椅子に座る。
蝶子「召集、来るの?」
要「来ないとは言えんだろ?」
蝶子「死ぬの?」
要「必ず生きて帰れるとは約束できんなあ…」
蝶子「嫌よ!」
また立ち上がる要。「俺がいなくなっても…雅紀がバイオリンを弾けば、それは俺だ。俺の音じゃないか。だから君は…僕のバイオリンを聴くことができるんだよ。蝶子」
涙を拭く蝶子。
ドアが開き、雅紀がバイオリンを持って入って来た。
要「何だ?」
雅紀「僕、バイオリン、ちゃんとやるから」
驚く要と蝶子。
雅紀「怒られても平気。練習して僕がもっと上手になればいいんだ」
要も涙が流れそう。蝶子も必死にこらえる。
この演技を”棒”とかいう人を旧ツイッターで見かけたけどさー、私は変な抑揚ついてるタイプよりは棒読みの方がよほど好みだな。
自宅前を掃き掃除しているはる。
岩崎家から雅紀のバイオリンが聴こえる。
音吉「マーちゃんかい?」
はる「みたいだね」
音吉「ああ」
蝶子が奥から路地を歩いてきた。
はる「お帰り!」
蝶子「あ、ただいま!」
音吉「あ、奥さん、ちょっと」
蝶子「何か?」
音吉「マーちゃん、俺のこと嫌ってるかな?」
蝶子「どうして?」
音吉「ん? なあ」
はる「最近、ほら、マーちゃんがうちに寄りつかないって言うんですよ」
蝶子「そんなことは」
音吉「いや、今日もね『遊んでくかい?』って言ったら『バイオリンの稽古があるから』って。『お父さんいないからいいじゃないか』っつったんだけど『またね』って」
蝶子「あんまり気にしないでください」
音吉「しちゃうなあ!」
蝶子「雅紀、最近ちょっと、やる気出してるんですよ」
音吉「そう?」
蝶子「はい」
はる「そうみたいね」
⚟︎♬~(雅紀のバイオリン)
沈んだ表情の邦子が歩いてきた。
茶の間
お茶を出す蝶子。
邦子「大川、今日、入営したのよ」
蝶子「…今日? 見送り行かなくてごめん」
首を横に振る邦子。
⚟︎電車の走行音
邦子「独りになっちゃった。大川、生きて帰ると思う?」
蝶子「大丈夫よ!」
邦子「チョッちゃん。時々、私と会ってね」
蝶子「もちろん。私だけじゃなく千駄木の叔父さんとこ行けばいいじゃない。それに千駄木には神谷先生と安乃ちゃんが引っ越ししたはずよ」
邦子「そう」泣き出す。
蝶子「邦ちゃん!」
邦子「ごめん」
蝶子「…いいのよ」
邦子「今日から…1人分の買い物して1人分のごはん作って1人で食べるのかと思ったら…」
再び泣き出した邦子に寄り添う蝶子。「邦ちゃん。今夜は、うちに泊まりなさい。ね!」
うなずく邦子。
玄関の戸が開く音がした。
⚟︎安乃「安乃です」
蝶子「どうぞ!」
ブラウスにモンペ姿の安乃が頭を下げた。
蝶子「どうしたの?」
安乃「…」
蝶子「どうしたの?」
安乃「兄が戦地に行くことになりました」
<戦争は非情にもチョッちゃんの周りから次々と親しい人を奪っていくんですね>(つづく)
頼介も戦地へ…「本日も晴天なり」の正道さんは職業軍人だったから?戦地には行かず、ずっと国内にいたよね、確か。
チョッちゃん周りは、いい年した人が多いから召集も遅いのかな? 「ゲゲゲの女房」にハマった頃、水木しげるさんの戦記漫画もいくつか読んだけど、水木さん自身は20代前半で出征したせいもあって、30過ぎの兵士をすごい年寄りみたいに描いてたから、30過ぎて戦場に行くって体力的にもキツかろうなあ。
時間がないとは言っても、技術をたたき込むより、音楽を楽しむ心を教えてほしい…
ミッキーのお父さんのようにね! フィクションだよ!
