徒然好きなもの

ドラマの感想など

【ネタバレ】國語元年(1)🈟

NHK  1985年6月8日

 

あらすじ

時は、江戸から東京に変わったばかりの明治7年。東京麹町の南郷家へ奉公に、山形から上京してきたふみ(石田えり)は門をくぐったとたん、びっくりして立ち止まってしまった。この屋敷では、八つのお国ことばが飛び交い、まるでちんぷんかんぷんなのだ。と、そこへ主人の南郷清之輔(川谷拓三)が、全国統一の話しことばの制定をお上から命じられ、意気揚々と役所から帰ってきた。早速、南郷家をあげての祝いのうたげが始まり…。

2025.5.2 BSプレミアム4K録画。2024年1月にも再放送があったのですが、その頃はプレミアム4Kを見ることができず、見られませんでした。待望の再放送!

 

ドラマ人間模様アンコール

 

作:井上ひさし

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音楽:宇野誠一郎

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演奏:アンサンブルファンタジア

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タイトル画:山藤章二

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時代考証:小野一成

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南郷清之輔:川谷拓三…字幕水色

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大竹ふみ:石田えり…字幕黄色

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南郷重左衛門:浜村純

広澤修一郎:大橋吾郎

江本太吉:松熊信義

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高橋たね:賀原夏子

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築館弥平:名古屋章

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裏辻芝亭公民:すまけい

御田ちよ:島田歌穂

南郷重太郎:岡田二三

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南郷光:ちあきなおみ

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秋山加津:山岡久乃

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制作:岡田勝

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演出:村上佑二

 

時代考証の小野一成さんは「チョッちゃん」と同じだね。そういや、このドラマ方言指導の名前は出てないのね。

 

現代のニュース映像風な場面から始まる。アナウンサーは平光淳之助さん。

 

テレビ画面のテロップ

●明治7年に

 全国共通

  ”話し言葉

 -標準語の試み

 

アナウンサー「次に山形県米沢市の古い寺から発見された手紙が今、国語学界で話題になっています。この寺は米沢市内にある信光寺(しんこうじ)で、この春、改修工事に備えて本堂の天井裏に上がった住職の大竹安雄さんが古着や古本の中に紛れ込んでいた20通の手紙を見つけました。調べてみますと、手紙はすべて安雄さんの4代前の住職・大竹一雄さんあてに書かれたもので差出人は明治7年、東京で女中見習いをしていた一雄さんの長女・ふみさんと分かりました」

 

お寺の外観、住職などが手紙を広げて読んでいる。

 

アナウンサー「ふみさんの手紙で注目されるのは住み込んだ先の主人が南郷清之輔(なんごうせいのすけ)という山口県出身の文部省高級官吏で、この南郷清之輔が日本語の共通言語…当時の言い方では『全国統一話し言葉』の制定を命じられたという点です」

 

南郷家の集合写真から清之輔がアップになる。

 

アナウンサー「言文一致という国語改革運動の始まる十数年も前に言(げん)つまり、話し言葉の全国的な統一が試みられたという新事実の発見に国語学界は沸き返っています。大竹ふみという当時16歳の少女が書いた20通の手紙は、ここしばらくの間、さまざまな論議を呼びそうです」

 

ふみの写真から動いているふみにオーバーラップ。

 

ふみ・山形弁で<おどちゃとかがちゃ。あんまし、おやすきがでっげえがら、オラは、どでしたや(=驚いた)>

 

南郷家

 

<門は、そのまんま人こが住めるようだす。門柱のなまえふんだ(=門柱の表札)は、まんなえだほどもあるす。えしだたみはツンルツル、ピッカピカして、まるっきり、えだの間ば、あいでるみでで、ほに、ほに、うづくしいもんだたけもなあ>

 

ふみ「はいっと~!(=ごめんください)」

 

加津・東京弁で「お前様は? 石畳をお降りなさい。石畳を歩いてよろしいのは旦那様とお客様だけなのですよ」

ふみ「ええおでんきで、あんべええ事なす。オラ、米沢(よねじゃわ)から、たったえま、つえだ信光寺(すんこうず)のおばこで、ふみじゅう者だす」

加津「何人(なにひと)何て言いましたって?」

ふみ「はで、何だべ?」

加津「お名前は?」

ふみ「米沢の信光寺のおばこで、大竹(おおだけ)ふみじゅう者で…」

加津「大竹ふみさん?」

ふみ「んだ。ほゆもんだず」

 

加津「こちらのご隠居様が奥州(おうしゅう)征伐の際、本陣宿舎になされたという、あの米沢の信光寺の…?」

ふみ「んだず!」

加津「それで、お前様が女中見習を志願なされたという、ふみさんですのね」

ふみ「んだ。ほんだず」

加津「知らせて下されば途中まで迎えを出しましたのに。私は、この南郷家で女中頭を務めております秋山加津です」

 

ふみ「やんだこと! オラみでな者さ向がって、ほげに、ねづく、まがったりすて…(=ていねいにおじぎして)」

加津「また訳の分からない言葉が一つ増えることになりました」

ふみ「んなえ?」

加津「ともあれ、こちらへおいであそばし」

 

<お屋敷(やすぎ)で、オラが、えっとしょでに会ったな(=最初に出会ったのは)秋山加津さっつう、へなごだず(=女性です)>

 

加津に案内され、門から裏口まで歩く途中、人力車の整備をしている男がいた。

 

<ほん次、えだのが、ずんりぎさ引ぎの弥平さ>

 

弥平・遠野弁で「あや~! まんず、なじょにも、めこげえあねこだなす(=可愛い娘だな)」

 

字幕は”めこげえ”だけど、名古屋章さんも言うように”めごけえ”だと思う。”めんこい”の変形みたいな。弥平は、ふみに笑顔を見せる。

 

<せんに南部の遠野じゅうどこで、どどんまば引いでえだた(=馬を引いていた)のだず>

 

加津「ふみさん、よろしいですか。使用人の出入りは、すべて裏口からするのですよ。間違っても玄関を使ってはなりませぬよ」

 

太吉・津軽弁で「コンチクショ!」薪割りをしている。「あれ? だまかす雨(=天気雨)だでば。ほれ、お日様、カンカと上がてらね。コンチクショ!」

 

<3番目にえだのが、あんにゃさの(=下男の)太吉さだ。津軽から出はってきたんだず>

 

加津「さあ、お入りなさい」

ふみ「んないし」

 

台所

加津「おたねさん。この子が今日からこちらに置く、ふみさんですがね、至極達者そうで、ようございますよ。おたねさんにもビシビシ仕込んで頂きますよ」

たね・東京弁で「へえ、田舎育ちにしちゃ肌がきれいでござんすねえ。じきに白粉(おしろい)がよく乗るようになるわさ。ねえ。そんで近所の若(わけ)い衆(しゅ)が騒々しいこってござんしょうね。あいさ、お勝手はアタイの受け取りだ。ちっとばかし厳しく仕込むが承知かえ!」

 

加津「毒々しく言いなさるけれど、おたねさんは悪い人じゃございません。そう、びくつくことは、ありますまいよ。井戸端で足をすすいでおいでなさい。お顔も洗わっしゃい。さっぱりとなったところでご隠居様と奥様とにお目見えをお願いしましょう」

ふみ「んなえ?」

加津「お目見え」

ふみ「おミャミャマちゅうと…?」

加津「上(うわ)つ方に引き合わせて遣わします」

 

たね「何を言っても張り合いがねえねえ。それよりほら、汗やホコリ、流しておいでな。井戸は、そこだよ。分かるかい?」

ふみ「エド…?」

たね「江戸? 江戸ってのは、お前さん、ご瓦解(がかい)前の事。今は東京(とうけい)さ。アタイの言ってんのはね、井戸だよ」

ふみ「エドだなす?」

たね「井戸」

ふみ「エド!」

たね「頭痛の種がまた増えたわさ」

 

<まんま炊きばばちゃの、おたねさんは浅草じゅうどこの生まれだず。安政のおおじゆれで、ごでとおんばこば、ぺろっと亡くしたんだず(=安政の大地震で亭主と子供を全部なくした)。えだみえったこんだなあ(=お気の毒な……)>

 

井戸で足を洗って、拭いているふみ。顔を洗っていると、子供が見ていて通り過ぎた。すくった水にアマガエルがいて「びっき(=蛙)!」と驚いた。「何だべ? まんず気色悪いごだ! こいつは、びっきだべなあ…」

 

重太郎(じゅうたろう)・鹿児島弁で「バカたん! びっきじゃなかと。そいは、あまびじゃがね(=それは雨蛙だ)」

ふみ「何だじ? おめさは」

重太郎「バカたん!」

ふみ「待ってろ。こねやろこ!」追いかけようとしたが裸足だったので井戸に戻った。

 

ちよ・東京弁で「今のガキは、ここの坊ちゃまで重太郎っていうんだよ」

ふみ「ズウタロウ…ボッチャ?」

ちよ「あいさ。猫なで声の親めらが悪く甘やかして何でもかでも言いなりしでえの離し飼(げえ)って代物だから人を人とも思わねえ。そのくせ、いびいび、ほえる割には、びびりっ子。わがまま育ちのびびりっ子を扱うんだから、ワッチら女中しは惨めよ」

ふみ「ワッチら…ジョジュウシ?」

 

中庭

重左衛門(じゅうざえもん)「ああ! ああ! ああ! ああ! チェスト!」枝を丸めたものを叩いている。

加津「ご隠居様。今日からこちらに置く女中のふみでございます。お声をかけて下さいまし」

重左衛門「太かチチをしちょっとじゃな(=大きな胸をしている)。腰つきも、がっつい、よか(=腰つきもいい)」

 

ん~、いきなりセクハラ発言!

 

加津「ありがとうございます」

ふみ「あんの~…」

加津「ご隠居様が褒めて下さいましたよ」

 

重左衛門が縁側に座る。

 

ふみ「褒めだ? オラの事ば?」

加津「ええ」

重左衛門がふみをチラ見。

ふみ「何だか、えぐは分がんねけんど、おしょうすなあ!(=ありがとうございます)」

 

奥様の部屋

加津「ごめんくださいまし。羽前(うぜん)の国、米沢から新しい女中が着きましてございます。その者へ奥様のお顔を拝ませて頂きたいのでございますが」

光(みつ)・鹿児島弁で「新しか、あねどんな?(=新しい女中さん?)」

加津「さあ、ごあいさつ申し上げて」

ふみ「お初にお目さかかるっす。大竹ふみじゅう、ぶきっちょもんでごぜえもす。立ち居振る舞い事ば教えておごやるどがで、オラは、うれしくてなんねえっし」

光「あらよう、こん人が…」

加津「はい」

光「めめんよか、おごじょ(=器量よしの娘)じゃなあ」

加津「はい?」

光「めめん、よか、おごじょ…」身振り手振りで表す。

加津「ありがとうございました。さあ、中へお入りなさい」

ふみが部屋の中へ入る。

加津「奥様へ、お目見えの手土産を持参しておるそうでございます。どうか納めて遣わして下さいまし」

ふみ「米沢(よねじゃわ)名物の、はなの、ぐづべろべぬ(=紅花の口紅)だっし。どが納めておごやえ」光に差し出す。

光「グヅベロベ…?」

 

⚟重左衛門「こら~! がっつい、のどが渇いてのさんが茶をいれてくれ」

 

加津「茶をいれ…あっ、かしこまりました。ご隠居様」重左衛門のところへ。

 

光「何じゃろかい?」包みを開く。「けじゃっとなあ」

ふみ「貝この中ば開けでみでくほ」

貝を開いてみる光。中は赤い粉。「んだもう。こいは、べんはなじゃなあ」

 

<おがださあ、ごえんきょさあの一人めらしこ(=一人娘)だず。つうごとは、こごの旦那さあ、南郷家さ、婿さ、へったわけだす。ほんで、旦那さあ、ご隠居さあの後押しで、うんと偉い官員さあ(=官員様)さなられだのだず話もあっぺ>

 

光「よかもんをもろもうした。ふみどん、座敷の奥ん方から、かがんでを(=座敷の奥から鏡台を)持ってきくやんせ」

何を言われているか分からないふみ。

光「しんしゃきせんち(=遠慮しないで)。さあ、早(は)よしやはんか」

ふみ「分がんね…」

光「早よしゃんせ、かがんで」

ふみ「カガンデ?」

光「そいごわんが、かがんで」

 

ふみ「すっかたねえ」立ち上がってしゃがむ。「こげなもんで、どうだべが?」

光「何をしちょっとな?」

ふみ「んだがら、かがんでえっとこだっす」

光「のさんな(=困ったねえ)。また言葉違いじゃがな…まこて、ほっとしもしたなあ(=本当にうんざり)」

ふみ「ホッとした? んだば、これで、やっぱし、えがったんだべなあ!」

 

重左衛門「はら。あや、何をしちょっとかい?」

加津「はい?」

重左衛門「何のはらぐれじゃろかい?(=何の冗談か)」

加津「『ハラグレ』とおっしゃいますと?」

重左衛門「見てみやい」

縁側からかがんでいるふみを指す。

 

重太郎「ふとかもんでん、ひっちょるんとかな(=ウンコしてるのかなァ)、バカたん」

 

夕方

一休みしているたね。

 

加津「こちらお屋敷では、いくつものお国訛りが通用しておりましてね。例えば、ご隠居様と奥様、それから重太郎坊ちゃまのお三人は薩摩言葉。旦那様は長州言葉。奉公人では車夫の弥平さんが南部・遠野弁。下男の太吉さんは津軽弁。そして私が江戸・山の手言葉。」

たね「アタイとおちよはね、お江戸の下町さ。何つったってね、下町言葉が一等、歯切れがいいんだよ」

加津「お国訛りの自慢比べは、いつか後でやっていただくことにして、とにかくこちらのお屋敷は日の本のお国のようなもの。さまざまなお国訛りが渦を巻いておりますからね。分からない言葉が出てまいりましたら、それを何度も聞き返したりして粗相のないよう御用を勤めねばなりませぬよ。分かりましたかえ?」

ふみ「半分こ」

加津「半分も! それなら上出来」

ふみ「…の半分こ…の、ほのまだ半分こ…の、ほのまだ半分こぐれえは分がったような気がすっけんども」

 

たね「ハハハハ…世話が焼けるねえ。お加津様、そのあね、この調子じゃ、ちょっくらちょっとものになりそうもねえねえ」

ふみ「かにすておごやえ!」

加津「ええ、ええ。半年もしたら、どうにかなりましょうよ」

太吉「泣きべっちょ、はだげでまえねあせあ(=泣きごと言っては駄目だ。何にもならない)。泣きべっちょ、はだげで何ねなるば? 言葉こは慣れるすか、すかだねあ」

たね「そういう太吉どんにしてからが、ご門前で行き倒れになったのをここへ引き取られて、それからもう1年もたとうってえのに、これだものねえ。まあ、半年やそこらじゃ、おぼつかねえねえ。ちょいと太吉どん、お前さん、津軽で何してたんだよ。ええ? まだ何にも思い出せないのかい?」

太吉「弘前のお城さ、5月の青え空、かぶさて…」

 

たね「あ~あ、『日本一の桜だなあ』って、こう言うんだろう。もう、それはもう、何百ぺんも聞いたよ、その文句は。それよりね、何か新しく思い出さないかいって聞いてんだよ」

太吉「ねえ!」

たね「これだもの」

加津「焦ってはなりませぬよ、おたねさん」

たね「けど、どうにも気の毒たらしくてねえ」

修一郎・名古屋弁で「もしもし! 旦那様がきゃあってみあるぜも。あのなも、九段坂の近辺でなも弥平どんが引きゃす車を追え抜いてきたで、確かだにゃ。みゃあはい、おいきてみあえるであも(=間もなくおいでになる)」

 

たね「ちょいと修一郎さん。あの青森の県庁へ出す書状、書いておくれかえ?」

修一郎「書状?」

たね「ほら、忘れん坊だ。もう…」空の弁当箱を受け取る。

加津「太吉さんの家族をそちらでも調べて頂きたいと一筆したためた郵便で送る手はずではございませんか」

たね「そうだよ。その書状だよ」

修一郎「ああ!」

たね「忙しいのは百も承知、二百も合点、三百も知ってらあな! けど、4~5日うちには、きっとだよ」

修一郎「へいす」

加津「今度、約束を破るようなら、もう聞きませぬから。その時は、おたねさん、弁当の盛りを少なめになさいな」

たね「ええ、もう、おまんまの代わりに石ころでも詰めまさあ」

修一郎「石? ごろたは、いかんがね! ごろたは、よう食えんがや」走り去ろうとして、ふみに気付いて会釈する。

 

<お屋敷(やすぎ)の書生(そせえ)さは広沢修一郎さじゅって尾張名古屋の、す族の、にばんこだず(=次男だと)。英学と漢学の塾さ、えって、がみってえんのず(=勉強している)>

 

なーんか見たことある顔だな~と思ったら、「おしん」の圭ちゃんだった。

 

門の前に修一郎と奉公人が並ぶ。

 

弥平「旦那さあ帰(けえ)ってござらしたや~!」

 

頭を下げる使用人たち。

 

弥平「旦那さあ、降じでけだんせ。お屋敷さ着きやんしたから」

 

人力車からシルクハットにスーツ姿の清之輔が降りた。

 

重太郎「おっちゃん!(=父上!)」

重左衛門「待っちょったど」

光「お戻いなさいもんせ」

 

清之輔・長州弁で「今、戻ったがのう」門を入り、ふみの顔を見る。

 

加津「新入り女中のふみどんでございます。本日、羽前、米沢から到着いたしました」

清之輔「お~、からきねやかいのう?(=新しい女中?) そりゃ遠方から、たいぎな事で…ほうか」

 

玄関で待っている家族のもとへ歩く清之輔。

重太郎「あんめらはバカたんじゃ(=あの女は馬鹿だ)。あまびんこつ『びっき』と言うちょった。なっちょらん。すっのとうらん(=筋が通らない)」

清之輔「いぎゃあ、いちげえに、あんつくとは言われんのう(=馬鹿者とは言えない)。日本は広くありますけえ、お国言葉もしこたまありますがのう」

重太郎「『びっき』は好かん。『あまび』がよか!」

重左衛門「じゃっとよ。あまびは、いっでん、あまびじゃ。なあ、清之輔。ここは南郷家でごわんど。南郷家は薩摩の出でごわんど。ほしと、こんえんそらん下は(=この屋根の下では)、すんからすんまで、ねっから南郷家んもんでごわんど。ごんも、ほこいも(=ごみもほこりも)南郷家のもんでごわんど。ほしと、くっから出る言葉も薩摩んかごんま言葉がよかで。ほんのこっちゃっ…」

光「ほんのこっちゃっとなあ」

 

重左衛門「とこいが、今、清之輔は何ちゅうた? 長州言葉で『今、戻ったがのう』ちゅうた。ないごて、かごんま言葉で『いまじゃったあ』と言わんとじゃ。もしや、ごろいと(=とうとう)南郷家、潰れてしもうたとか」

清之輔「泣く事はありませんがのう。分かっちょる。分かりましたがのう。『いまじゃったあ』ち、言いむんそ」

光「ああ…そいが、よしごわんど」

重左衛門「あいがとう。どうも」

清之輔は振り向いて、もう一度、重左衛門たちのほうへ挨拶。「いまじゃったあ!」

光「お戻いなさいもんせ」

重左衛門「清之輔、よかど。よか!」

光「おやっとさあ、どおさいじゃしちゃろ(=お疲れでしょう)」

 

<四等官の官員さじゅ者は、この日の本の国さ何人も、えねほんどの、とんな偉(えれ)えお方さでねべか。そげな大した偉え官員さでも、はあ、家さ帰られっど形なしだべず>

 

使用人部屋

手紙を書いているふみ。

ちよは口紅をつけている。「こんな、こうじきな物(=高価なもの)をさ、ワッチまでがもらっちまっていいのかい?」

ふみ「何だべ? 何が言うたべが?」

ちよ「うれしいよ」

ふみ「うん」

 

ちよ「お返しにいつかおはぎをはりこんじゃお。おはぎ。ほっぺたが落っこちるからね。知らないよ」

ふみ「オハゲ?」

ちよ「お彼岸によく食べるやつさ」

ふみ「半殺すの、あんころもちの事だべが?」

ちよ「半殺しか…違いない。うまい事、言うもんだねえ」手紙を書くふみを見ている。「ふみちゃん…字、書けていいねえ。字…いろは。いいよねえ。字の書ける人(しと)は」

ふみ「『字(ず)』が。オラエのおどちゃ、お寺の和尚(おしょ)さで寺子屋ば、やってんのす。そいつば見てて、ひとりでに、おべだのす。『門前の小僧』でなくて、門うずのおばこ(=門内の娘)。習わねえ字こは、ひとりでに書くじゅわけだなや」

笑い声

 

ちよ「何言ってんだか、よく知らないけどさ、今度さ、この、おちよどんのために一筆、振るってくれないかい?」

ふみ「えっ?」

ちよ「隣のお屋敷の書生さんに付け文したいのさ」

ふみ「チケブミ?」

ちよ「うん」

ふみ「オラ、やんだあ!」

笑い声

 

たね「いいかげんに人をバカにしない…」近くで寝ていたが起き上がる。「ちょいと、おふみどん。明かりがもったいないよ。明かりはメッ!」

ふみ「わいなあ」

たね「何だよ、ちよどん、その口は…人でも食ったのかい? まあ、これから眠ろうっていうのに紅つけて、もう…」

ちよ「夢の中であいびきしようと思ってさ」

たね「腹筋(はらすじ)がよじれるよ」

ちよ「夢ぐらい好き勝手に見さしてよ」

たね「アタイも、おちよどんの夢ん中に出てやろうか。え? まあ、ふしだらしたら、とっちめてやらあ」横になる。

ちよも横になる。「はあ…『世の中に寝るより楽は、なかりけり』か…」あくびして「『浮世のバカは起きて働く』…」

 

<そんげなわけで、でええづにじは、おづがおづが、まぐになったず(=どうにかこうにか終わった)。言葉だけだべ。オラのくったぐは…(=心配は)。ほだらば、おどちゃも、かがちゃも無理したらわがんねど。んだらば、まんず>

 

でええづにじは第一日かー! 方言を文字に書くのって難しい! 布団の下に手紙をしまって、ろうそくを消したふみ。

 

加津が光たちの前で生け花をしていた。

光「あらよう、みよかこ(=あら、きれい)。よかこ、よかこ(=いいわねぇ)」

 

門の前で人力車を手入れしている弥平。

ふみ「ちれ~! よかこつ」

弥平「ツンルツルのピンガピカ…よかこつ」

笑う2人。

 

包丁を研ぐ太吉。「しかってら、しかってら。よかこつ」

 

I am a boyと筆で書いている修一郎。「エー・エム・ア・ボヤー…よか、よか。よか発音であなえあも」

 

台所

たね「なるけつ、よく切れるねえ。よかこつ!」大根漬けを切って使用人たちに出す。

太吉「よか、でえこぢけ」

弥平「よか、でえこづけ」

ふみ「よか、だえごんづけ」

ちよ「よか、でえごづけ」

加津「よか、おおねづけ」

修一郎「よか、だいこんづけ」

 

重太郎「おっちゃん、今、戻いやったど。あっ、でこんつけ!」弥平から大根漬けをもらう。「うんまか!」

 

加津「坊ちゃん、今、何て申されました? 『お父上が戻られた』と申されたんではありませんでした?」

修一郎「うん、そんな事、言いやしたがなも。けど、またいつもの、すかたらんわるおちゃくいでやわ(=いたずらですよ)」

弥平「坊ちゃん、嘘、語ったら分がんねえべよ」

重太郎「バカ者めが、ほんのこっちゃ!(=馬鹿者! 本当だ) おっちゃん、今、戻いやったど」部屋の奥へ。

たね「ちょいと今のは嘘っぱちで言える顔じゃないよ」

弥平「こりゃ、おおごとだあ!」

 

門の前に清之輔が立っていた。

弥平「迎(むけ)えさ、上がらねえで大変(てえへん)な事をしてしまった。オラ、なじょしたらいかんべえ…」

清之輔「今日はワシのぐつで(=私の都合で)はあ、戻ったでの」

弥平「ほに、ほに、申し訳ねえござんす」

清之輔「そうそう、頭を下げられるとワシがたえぎになるで。なやみは、いらんがのうた」

弥平「はい、はい~」

 

家族や他の使用人たちも門の前に集まる。

 

せきばらいする清之輔。「お~い! 今、戻ったがのう」門から玄関まで歩く。「加津やん」

加津「はあ」

清之輔「え~、酒屋に酒、ぎょうさん、しこたま、言いつけてえや。それからのうた、魚屋には、おつくり言いつけてえや」

加津「あの~、恐れ入りますが、もう一度、おっしゃっていただけませぬか?」

清之輔「酒やら魚やら要るちゅうとる。頼んだでや」

加津「お客様が大勢、お越しになるのでございますね?」

清之輔「いやいや、そうじゃない。身内と奉公人とで祝い事をしたやと思うちょる。まあ、ひとつ頼むで」

加津「はあ」

 

光「お戻いなさいもんせ」

清之輔「ワシがお国のなあ長州の言葉で迎えてくれさんよ。鹿児島のお国訛りで迎えられるっちゅうとのうた、ワシはたちまち役所へ逆戻りしとうなる」

光「ごめんなったもんせ。はあ、あんた、えらかったのう(=お疲れでしょう)」

清之輔「ええあんばい。ええひょうしじゃ。もう一回、頼もうかのう」

光「はあ、えらかったのう、あんた!」

満足そうにうなずく清之輔。

 

重左衛門「そんて、清之輔。今日は、がっつい早いお戻いやったが役所で何があったとじゃ?」

清之輔「役所で、でありますか?」

重左衛門「うん」

清之輔「役所では、大層、ええ事があっちょってでありますよ」

重左衛門「じゃっどん、上役に、がられたん(=叱られた)と違うか? 何ちゅうの…おはんの様子、がっつい変わっちょるぞ」

清之輔「ハハハハ…上役とは、ぴったり馬が合(お)うちょってでありますがのうた」

重左衛門「下役と仲が悪うなったとじゃなかか?」

清之輔「下役とも、ぴったり馬が合うちょってであります。キモをやくことは、ありませんがのうた(=心配することはない)」玄関に上がる。

 

清之輔たちの部屋

清之輔「光」

光「はい」

清之輔「お前、今日、あまり、ものを言わんな。どねえにしたっちゅうのかね?」

光「アタイにはオマンさあ、ふるさとん言葉をちっとしか知りもさん。ほしっとお、やっぱい、くっが重苦しゅうなって…」

清之輔「分かる」

光「くっが下手すっぽいなっせ(=下手くそになる)」

 

清之輔「分かっちょる」

光「こらえやったもんせ(=お許しください)」

清之輔「2人だけの時は、どこの言葉でもええがのう」

光「はい」

清之輔「ただ、できる事なら長州言葉で話してもらえたら、きびわるがのう(=ありがたい)。ちびっとずつでええが」

光「はい。ちんぼ、ちんぼ…(=徐々に)」

清之輔「うん。ちびっとずつにのう」

光「はい。ちん、ちん…(=ゆるゆると)」

 

重左衛門「清之輔、話があっど」

清之輔「それは、それは」

重左衛門「オイが座敷にきっきゃんせ。仏壇の前で大事な話がある」

光「おんじょさ(=おじいさん)今でなっとも、よしごわんどな。おでっさあは、だれをさいじゃんで(=亭主殿は、お疲れで)」

重左衛門「くっばしいれんな! めら、黙っとるがよかど!」

 

清之輔「だいぶ、いきずんでおいでじゃったが、あげな渋面(しぶづら)はアカチョコベーじゃ(=アカンベーだ)。へじゃ、行ってくるぞよ」

光「おやっとさあでございもす」

清之輔「うん」

光「こらえやったもんせ」

清之輔「うん」

 

重左衛門の部屋

重左衛門「南郷家でごわんす。南郷家は薩摩出でごわす。そうするとここでは、かごんま言葉が強うなかとやっかいなこつがとよせもす。ここでは、かごんま言葉が一番でごわんす。そいどんから南郷家に今、婿どんが、ああ、どでいしであっこつ忘れてしもうて勝手して、そこら辺の言葉、マネして、もう、どじゃいも、こじゃいもなか。よるもくろんぼ(=酔狂者)、わろうてごわんす。どうか、ずんばい、がやったもんせ(=叱ってください)」仏壇の位牌に語りかけている。

清之輔が鈴を鳴らして終わらせる。

重左衛門「な…何をするだ!」

今度は清之輔が仏壇に語りかける。「南郷家の御前様に(=ご先祖様に)申し上げますでありますがのうた。あんた様方は、まことに、さまじい(=立派な)跡取りを得たでありますよ」紙を供えて手を合わせる。「本日、私はのうた文部少輔、田中不二麿(ふじまろ)閣下のもとへ呼び出されたのでありましたよ」

 

學務局四等出仕

   南郷清之輔

全國統一話言葉制定取調ヲ命ス

 明治七年六月三日

 文部×事務取×

 文部少輔

  田中不二麿

 

一部、よく字が見えなかった。

 

清之輔「『学務局四等出仕、南郷清之輔。全国統一話し言葉制定取り調べを命ず。明治7年6月3日、文部少輔、田中不二麿』。全国統一話し言葉の制定取り調べでありますよ。南郷家の御前様。広い、この日の本の国の話し言葉を私が制定する事になりましたでのうた。これは織田信長公や太閤・秀吉の天下統一とも肩を並べるほどの大事業でありますがのうた。この大事業を私は1か月かそこらで見事にやり遂げてみせますでのう。へたら、この清之輔を褒めて下さらにゃいけんどよ。南郷家の御前様。こげな大事業をやっちょろうとしとる者が南郷家にこれまで一人でもおったでありますか?」

ただただびっくりの重左衛門。

重左衛門の方へ向き直る清之輔。「へ~たら、おとと、その、でしな話っちゅうのを伺いましょうか」

重左衛門「ああ…おまあ、がっつい、あぜ~やつじゃ(=たいした奴だ)。なんでん、かんでん、祝わにゃならん。光…酒じゃ! ちょじゃ! あっ、しおけじゃ! ゆえんざじゃ!(=酒・盃・肴・祝宴)」廊下を走っていく。

 

部屋に残った清之輔は顔の汗を拭き、仏壇に手を合わせる。

 

夜、広間に集められた家族と奉公人たち。

清之輔「まず、兵隊に全国統一話し言葉がいるのじゃ。例えばの話がのうた、薩摩出の、てえちょうさんが、そこにおる太吉のような津軽出の兵隊に号令ば、かけておるところを考えてみちょくれ。てえちょうさんが薩摩訛りで『とっつぎ』と号令した。太吉。今の号令、何の事か分かったかの?」

太吉「わたぐす、分がんねがたもね」

清之輔「『とつげき』っちゅう意味じゃった。『前へ進め。敵をやっつけろ』ちゅう意味じゃった」

太吉「あえす、あえす、分がりすた」

 

清之輔「今度は弥平が隊長じゃとして…」

弥平「申し訳ねえござんす。オラは、てえちょになれるような器では、ねえのす」

清之輔「例えばの話をしちょるんじゃ。何か号令ば、かけてみちょくれ」

弥平「はんかくせえ…」

清之輔「ゴタゴタごねとらんで早急に号令ば、かけてみてくれ」

弥平「ほんだらば…(大声で)食え方、ふぁんづめ!」箸を取る。

 

加津「箸をお置きあそばし。旦那様のお話は、まだ終わっていないのでございますよ」

ふみ「あの~、えまな、オラの北の方の出だもんで見当つえたんだげんとも『食ってもええ』じゅう号令だったべな」

弥平「んだ」

加津「クッテモエエ?」

ふみ「んだごんだ」

加津「『食べてもいい』という事ですか?」

ふみ「んだ!」

加津「厚かましい号令ですこと」

 

清之輔「弥平の号令は奥羽(おうう)の出身者には分かったが、東京から南の者には、でんでん分からん。ここじゃ、ここじゃ。全国統一話し言葉がのうては、どねえもならんちゅうのは実にここでありますよ。あっ、東京から南の者もごちそうへ箸つけてもえかろう」

一同「いただきます!」

 

みんな食事をはじめ、加津は清之輔にお酒を運んできた。

 

清之輔「そげえなわけじゃから全国統一話し言葉がのうては兵隊は突撃一つ、できんちゅう事になる。全国統一話し言葉こそ、お国の、どでえいしじゃ。けっちゃく、この南郷清之輔が、お国のどでえを築くっちゅう事になる。ワシに課せられた責任は、よっぽど重い。じゃが、ワシは、この大任をうつくしゅう果たしてみせようと思うちょる」

 

突然けたたましい声で笑いだすふみ。

加津「ふみさん! 旦那様は、お国のためにどんなことがあろうと60余州の話し言葉を統一したいとおっしゃっておいでなのですよ。この大役を見事に果たして頂くためなら塩断ちでも茶断ちでも何でもしようと奮い立つのが奉公人の務めというものでしょう」

ふみ「あの~、さすみは初物だもんだから…オラだのとこでは初物ば食(く)どき東の方さ向がって、おっきしな声で笑う事さなってんのだ」

加津「何で、そんな事を?」

ふみ「初物ば食どき、東さ向がって笑うじゅど3年、寿命が延びんだず」再び両手を挙げて笑い出す。

 

弥平が民謡を歌い、皆それぞれ酒を飲んだりしている。修一郎が清之輔にお酌しながら「英語がええがなも」と提案した。

清之輔「英語…?」

修一郎「英語を全国統一話し言葉になさったら、どうであも?」

清之輔「そりゃ、いかんぞよ、広沢。それは暴論じゃ。広沢、酔うちょるな」

修一郎「ちぃとは酔っとるけど、正体は、なくしてらんぜも。ワシは太吉さんの津軽訛りや弥平さんの遠野訛りよりも英語の方が意外に易しいと思うとるであも」

清之輔「ワシの腹案じゃ津軽訛りは入っちょらん。しんぴゃあする事はないわや」

修一郎「えっ、そうきゃも? おおきに」

 

重左衛門「清之輔、お前の腹を聞かせてくれんか。どげん腹案があっとじゃ?」

清之輔「広沢の方がちびっと早くありましたのうた。おい、広沢! 明日にでも、その辺の古書店ぐるっと一回りしてきてくれんかの。お国訛りについて書かれた書物が欲しいんじゃ」

修一郎「へはっ」

清之輔「腹案は持っちょるが、少しは言葉の勉強もせねばのう」

修一郎「まあ」酒を勧める。

清之輔「うん」

 

修一郎の徳利を奪う重左衛門。修一郎は自分の席に戻った。

 

清之輔「私の胸の内にある全国統一話し言葉を一軒の家(うち)に例えて申しますと、どでえは長州訛りっちゅう事になるでありましょうなあ」

重左衛門「どでえは長州訛りだと?」

清之輔「この清之輔がいっちょう知っちょるのが、お国訛りのこの長州弁でありますのでのうた。これをば、どでえにやってやろうと思っちょるのでありますよ」

重左衛門「そいで…?」

清之輔「柱は京言葉っちゅう事になりますがのう。天子様のお国の京都訛りを加えんと、やっぱ物事の加減ひょうしが悪いと思うんでありますよ」

重左衛門「えのそら(=屋根)は、どげん言葉じゃ?」

清之輔「これは、当然、天子様が今、お住まいになっちょおられます、この東京の言葉っちゅう事になるでありましょうなあ」

重左衛門「薩摩ん言葉は、どげんなっとか?」

清之輔「薩摩訛りは難しすぎて…」

 

重左衛門「えこひいきじゃ! お前、がっつい長州言葉をがっつい、ひいきしとるじゃ! 薩摩ん言葉を邪魔にしとっじゃ!」

清之輔「えこひいきなどしておりませぬぞな。長州訛りをどでえにと思うたのも私が長州出身じゃけじゃのうて新政府の要人の多くが長州出身ちゅうところから、当然、そげえ思いついたわけでありますがのうた。要人は国家の経営で、おこといい(=忙しい)。全国統一話し言葉を学ばるるあいまは、ねえ。その辺も勘案して、長州言葉を…」

重左衛門「薩摩にも要人は、どっさい、おっぞ。長州よりも、どっさい、おっとぞ」

清之輔「お言葉ではありますがのうた、新政府は長州人で、もっちょっとでありますよ」

重左衛門「黙れ! お前は薩摩をあなじょっどる。離縁じゃ!」

清之輔「離縁!? それを言うたら何もかもこれぎりでありますがの」

 

光「2人とも、ないごて、仲ようできんとじゃろうか…」

 

加津「弥平さん。ご隠居様のご機嫌を直すには、あれしかありませんよ」

弥平「あれ…」

たね「そうだよ、お前さん。このまま、ほったらかしといたら離縁話、まとまっちまうよ。あれやんな」

加津「さあ、早く」

たね「よし。アタイがね、助っ人になってやる」

 

♬ヨイヨイ ヨイヤサット

 

たねが歌い出し、ほかの奉公人たちもお膳を片付けながら歌う。

 

♬ヨイヨイ ヨイヤサット

花コァ霧島(ちりしま) 煙草(たんばこ)ハァ国分(こぐぶ)

燃えで上ったなァ オハラハー 桜島(さくらずま)

ヨイヨイ ヨイヤサット

 

奉公人たちが踊り出す。

 

♬見えだ見えだごんだ 松原の向(む)ごさョ

丸さ十(づー)の字の オハラハー

帆が見えだべナ

 

手で拍子をとる重左衛門と腕組みしている清之輔。

 

♬ヨイヨイ ヨイヤサット

鹿児島おはら節

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重左衛門「弥平! おめえ、あぜ訛っちょっど」

弥平「申し訳ねえござんす」

重左衛門「ああ、よか。歌、こげん歌わんか」

弥平「はあ」

 

♬ヨイヨイ ヨイヤサット

ヨイヨイ ヨイヤサット

 

今度は重左衛門が歌う。

 

♬見えちょ 見えちょっど 松原越しに

丸に十(じゅ)ん字の オハラハー

帆が見えちょっとぞ

ヨイヨイ ヨイヤサット

可愛(むぞう)がられて 寝た夜(よい)もござる

 

踊りの輪の中に見知らぬ男が交じっている。

 

♬泣いて明かした

オハラハー 夜(よ)もおすえ

 

男「(京都弁で)ハハハ…いや~、歌は気持ちが、えろうあこなって、ええもんでおすな。ハハハハ…」

重太郎「お前は、だいや?」

男「ハハハハハ…いや、あんたさんの節回し、ご機嫌さんでおしたな。玄人さんも真っ青」踊りをやめ、清之輔の前に座る。「いや、あんたさんが南郷清之輔はんどすな」

清之輔、うなずく。

男「ごきげんよう!」

清之輔「はあ」

 

男「あんたさん、えらい仕事をお引き受けにならはりましたな。歴史に名が残りますわ。古来から言語を改める事は大事業どして、これまで成功したんは2つしかおへん。一つは秦の始皇帝の漢字改革。もう一つはフランス革命によるフランス語改革。そやし、あんたさんが史上3番目の成功者いう事にならはるわけや。お気張りやっしゃ」

清之輔「何者でありますか?」

男「裏辻芝亭(うらつじしばてい)いいます」

清之輔「姓が裏辻で名が芝亭でありますな?」

男「ううん。『裏辻芝亭』と一息に言うて、それが姓ですねん。名は公民(きんたみ)どす」

清之輔「だいぶん変わっちょるでありますな」

裏辻芝亭「ハハハハハ…ほんに。公家の名には判じ物が多いさけ、おとましいことでおす」

清之輔「公家…」

せきばらいして座り直す裏辻芝亭。「裏辻芝亭家は代々、国学者を輩出しておりますけど、この公民も国学を修めましたさかいに、あんたさんの国学教授のお役目ぐらいは務まりますやろ。新政府のお偉いさんの中に昔の遊び友達がぎょうさんおましてな。そのうちの一人から、あんたさんに言語改革の大命の下った事を聞きましたんどっせ。ほいでにここへ。アバさん、ささや。この辺にゃささがめめくそほどしかおへんのや」

たね「ササ…?」

裏辻芝亭「う~ん…ハハハハハハ…フフフフ」

清之輔「酒じゃ! おつくりじゃ! へ~から書院にお泊まりの支度じゃ。頼んだでや!」

 

奉公人たちは、それぞれ持ち場に戻る。

 

<おどちゃとかがちゃ、こんげな訳でお屋敷(やすぎ)さまた、もう一づ、お国訛りが増えだのだ。んだげんとも、まんず、よく飲むお公家さんもあったもんだじょおん。んだらば、まんず>

 

第一回(終)

 

いくら字幕があっても聞きなれない言葉を書くのって大変だ~。それぞれの訛りを興味深く聞いていたが、その地方出身の人に演じてほしかったとも思う。東北訛りは濁点つけるとそれらしく聞こえることは聞こえるけど、なんか違う。佐藤慶さん、今週は出てなかった。