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【ネタバレ】🈟早春スケッチブック 第1回

フジテレビ 1983年1月7日

 

番組内容

山田太一が脚本を手掛け、複雑な事情を抱える一家を見つめた異色ホームドラマ。時代の空気を敏感に捉えつつ、世代を超え大切なものを描く山田が、新たな価値観を提示し代表作の1本とした。実の父を知らず小2まで女手ひとつで育ててくれた母の都(岩下志麻)、真面目な父とその連れ子の妹と暮らす高3の和彦(鶴見辰吾)は、模試の休憩中に声を掛けてきた若い女性に連れられた西洋屋敷で、風変わりな沢田(山﨑努)と出逢う。

 

あらすじ

横浜市郊外、相鉄線希望ヶ丘駅近くの住宅地、坂の上に望月省一(河原崎長一郎)の家がある。 信用金庫支店課長のささやかな生活である。妻の都(岩下志麻)と再婚して十年。 当時妻に死なれて省一が抱えていた娘良子(二階堂千寿)もいまは中学一年、都の連れ子だった和彦(鶴見辰吾)は高校三年になり、実の兄妹同様に暮らしている。

2025.3.13 日本映画専門チャンネル録画。2024年末から2025年1月末までBS-TBS昼の山田太一作品の再放送が終わり、寂しく思っていたところ、日本映画専門チャンネルでの再放送は嬉しすぎる! だけど1日6話ずつという形式なので、字幕もあることだし1日1話じっくり見たいと思います。80年代のフジドラマは、あんまり見たことない。

山崎努さんご本人がおっしゃるのなら期待してしまう! 字幕付きは今回初だそうで。

 

脚本:山田太一

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音楽:小室等

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プロデューサー:中村敏夫

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望月都:岩下志麻…字幕黄色

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望月省一:河原崎長一郎

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望月和彦:鶴見辰吾

望月良子:二階堂千寿

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大沢誠:すのうち滋之

三枝多恵子:荒井玉青

行子:林優枝

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吉沢ひとみ

玉木弓子

満田由利子

高木まり

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谷津勲

俵一

立樹健

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早川亜友子

安藤タカコ

伊藤麻子

古賀プロ

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新村明美樋口可南子

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沢田竜彦:山﨑努…字幕水色

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協力:相模鉄道

   いすゞ自動車

   代々木ゼミナール

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写真提供:倉田精二

     「フラッシュアップ」

          (白夜書房 刊)

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演出:富永卓二

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製作・著作:フジテレビ

 

役名表記なしか…歌なしのオープニング。電車の走ってる感じは「沿線地図」っぽい感じかな。写真集の表紙の全身入れ墨の男が唐突に出てくる。

 

校庭ではラグビーやサッカーをする生徒たち。体育館ではバレーボール、体操、体育館外では応援団の練習。

 

自転車に乗って帰ろうとしている和彦に大沢が声をかけた。「あした、お前『代々木』行くんだろう?」

和彦「何よ?」

大沢「俺も申し込んでんだよ。一緒に行かねえか?」

和彦「分かんねえよ、俺は」

大沢)「『分かんねえ』って…申し込んでんだろう? テスト!」

 

自転車で走り出す和彦。

 

神奈川県立 希望ヶ丘高等学校 の校門を抜けて走っていく。

 

他の昭和ドラマだとオールセットもあるから、こうして実際の学校と街中を自転車で走り抜ける様子が新鮮だな~。坂道を途中まで上り、押して歩き、階段を上りきると、女性の声が聞こえた。

 

⚟生徒「離れなよ、おら!」

良子(よしこ)「お兄ちゃん! お兄ちゃん、助けて!」スケバンたちに囲まれている。

 

和彦に近づく多恵子。「なんだよ、文句あんのかよ?」

和彦「文句って?」

多恵子「行けよ、行くんだよ」

良子「お兄ちゃん! お兄ちゃん!」

スケバンに体をもみくちゃにされてる良子。

生徒「立てよ、ちゃんとほら」

生徒「なにフラフラしてんだよ」

 

和彦「何よ? 一体」

行子「『何よ』とは、なんだよ! なんだよ?」と和彦の胸ぐらをつかむ。「聞いてんのかよ? ふざけんじゃねえよ」

 

壁に並んで立たされている和彦と良子。

生徒「お前(めえ)もだよ」良子の胸ぐらをつかむ。

行子「ふざけんなよ」

 

和彦「どうもすいませんでした」

多恵子「何がすまねえんだよ?」

和彦「こいつ(良子)が偉そうに…」

良子「ただ歩いてただけよ」

行子「笑ったろうが!」と良子の前髪をつかむ。

良子「痛いなぁ!」と振り切って逃げようとするが、すぐ捕まる。

 

生徒「なんだよ!」

行子「この野郎!」

良子「お兄ちゃん、やろう! 謝ることないよ、やっつけちゃおう」

良子と行子の間に入る和彦。「俺が謝ったじゃねえかよ」

行子「なんで本人が謝んねえんだ」

良子「何もしてないもん!」

 

良子の前に立つ和彦。「黙ってろ、バカ。謝らせるよ。金も渡したし、いいじゃねえかよ」

多恵子「2500円で!?」

和彦「それっかねえもん。家(うち)帰ったってねえし。月末でしょうがねえよ」

行子「なんだよ? その口は」和彦の胸ぐらをつかむ。

和彦「金、持ってんのは、ほかにいんだろう? 俺ん家(ち)なんか安月給で2人とも金なんかねえよ」

 

行子「…だったら、時計外していきな。2人とも腕時計外すんだよ」

和彦の前に立つ多恵子。「ちょっと黙んなよ。古時計取ったってしょうがねえよ。こういうのは追い詰めるとサツへタレ込んだりするからよ」

和彦「そんなことはしないよ」

多恵子「謝んな。兄妹(きょうだい)して地べたに手ぇついて謝んな」

和彦「いいよ」

良子「謝んないわ!」

行子「なに!?」

和彦「謝らせるよ。その代わり、こいつのことは忘れてくれよな」

多恵子「条件つけんのかよ?」

 

和彦「分かったよ。(良子に向かって)いいから俺の言うとおりにするんだ」

良子「やっちゃおうよ。2人ならやれるわよ」

和彦「いいから言うこと聞くんだ。座れ」

2人のやり取りを見ている多恵子。

良子「イヤ」

和彦「座るんだ」

良子「絶対、イヤ!」

和彦「チッ! 言うとおりにするんだよ」良子の頭をたたき、良子が泣き出す。

 

多恵子の和彦を見つめる目が…「それぞれの秋」の津田っぽくねーか!?

peachredrum.hateblo.jp

和彦「俺だけで勘弁しろよ」地べたに正座し「どうもすいませんでした」と頭を下げた。和彦の肩口を多恵子が蹴ると仲間たちが笑う。

 

良子は和彦を軽蔑したように見て、怒りながら歩いている。和彦は自転車を押しながら追いかける。「おい、後ろ乗れよ。おい!」

良子「さっさと行ってよ。お兄ちゃんなんて大っ嫌い!」

 

失礼だけど、良子の見た目が「それぞれの秋」の陽子みたいなスケバンにハマりそうなタイプではなく、黒髪ボブの普通の生徒っぽいので、あんなに気が強く歯向かう感じが見た目からは想像できない。

 

和彦「勝手にしろ!」自転車で走り出す。

良子「意気地なし!」

 

自転車で門をこじ開け玄関前に入った和彦は止めた自転車を蹴って倒した。

 

庭から都が顔を出した。「何してるの!? 壊れちゃうでしょう!」

 

ダイニング

顔を両手で覆っていた良子だったが、パッと顔を上げ、料理を盛りつけている都に聞いた。「どう思う? お母さんはどっちが正しいと思う?」

都「うーん…ひと口には言えないけど」

 

隣のリビングのソファに寝転んでいたいた和彦が顔を出す。「言えると思うね、俺は」

 

良子「お兄ちゃんは高校3年、向こうは中学、女よ」

和彦「5人だろう? カミソリ持ってるかもしれないんだぞ」

良子「ヘイコラしちゃって。地べたに手なんかついちゃって」

和彦「お前がずるいんだよ」

良子「どこがずるいのよ?」

 

和彦「俺がいたから突っ張ってられたんだろう? 俺が間へ入ると思って、いい調子でカッコつけやがって!」

良子「1人だって同じよ」

和彦「同じもんかよ! 『助けて』なんて言ってたくせに!」

 

都「もうやめて。うるさい」

良子「なによ! お兄ちゃんなんか…」

都「お母さん、50分だもん。もう行かなきゃなんないから。ケンカしないで2人で食べんのよ。食べた物(もん)自分たちで洗うのよ。えっと…あっ、そうだそうだ。それからね、夕方、保険の人が来るから、これ、払っといてね。ああ、忙しい忙しい。あっ、良子、4時過ぎたら洗濯物、取り込んどいて」エプロンを外し、慌ただしく出かける準備をしてリビングを出た。

 

良子「どっちが正しいと思うの? お母さんは」

都「そんなこと、今、言ってる暇ないでしょう?」玄関で上着を着る。

良子「分かってるわよ。お兄ちゃんが正しいのよ。そっちはホントの親子だもんね」

都「良子!」

和彦「バカ、何言うんだ?」

 

良子「分かってるわよ」ダイニングを出て階段を駆け上がる。

和彦「おい!」

都「良子!」

和彦「くだんねえこと言うな!」

都「いいわ。ケンカしないで。お母さん、今、時間ないから」

和彦「あんなこと言ったことなかったのに」

都「大げさにしないで。今夜言うから、ねっ?」玄関を出た。

 

「それぞれの秋」の新島家と違い、割と最初からオープンだね。世代の差?

 

希望ヶ丘商店街の花屋で働く都。「これ、いかがでしょうか?」ポインセチアの鉢を持ってきた。

客「いいんじゃないかな」

都「じゃ、すぐお包みいたします」

 

客「すいません、このシクラメン…」

都「ちょっとお待ちくださいませ」

 

家のガレージに車を止めた省一。

玄関から都が顔を出す。「ハァ…おかえりなさい」

省一「ああ」

 

省一たちの部屋

省一「そんなこと、こんな時間に言われてもまいるなぁ。年末っていうのはな、信用金庫いちばん忙しいんだ」スーツを脱ぎ、シャツとステテコ姿。「いちばん疲れてんだ、こっちは」

都「でも、私だけで言ったんじゃこじれるでしょう?」

省一「11時だぞ、もう」

都「分かってるわよ。だけど、お父さん、あした前橋でしょう」

 

省一「行きたかないよ、日曜には行きたかないけど。本田さん、店たたんで帰るっていうんだ。手伝わないわけにはいかないだろう」シャツにステテコのまま移動し、脱衣所で裸になる。

都「和彦も朝から日曜テストだっていうし、ちょっとでいいから今晩、何か言って」

省一はそのまま風呂場へ。

都「お汁粉作ったの。みんなで食べながら、ねっ?」

浴槽のお湯をかき混ぜる省一。

 

ダイニング

省一「もう随分、そういうこと言わなかったじゃないか。言うなよ、そんなこと」

都「考える時期なのかもしれないけど」

省一「考えるのはいいよ。事実だからしょうがないよ。確かに良子が2歳のとき、お父さんは、お母さんと再婚した。お母さんは小学校2年生の和彦と一緒に来た。それから、お前らは兄妹になった。血はつながってない。しかし、2歳からだもん。兄妹と同じだよ。お母さんだって良子をもちろん娘だと思ってる。俺だって和彦を本当の息子だと思ってる。怒ったし、殴ったし…普通の親子と変わんないよ。それでも和彦が中学2年のときにひがんだことを言いだした。そんとき、もめたろう? それで、もう本当の親だとか何だとか、そういうことを言うのは、よそうって言ったはずじゃないか。そりゃ、良子は3年生だったから、ずっと言わなかったし、分かってると思ってたよ。急に言うなよ…そんなことでもめんのは、かなわないよ。みんな、ちゃんとうまくいってるじゃないか。そうじゃないかよ?」

 

良子「じゃ、どっちが正しいと思う?」

省一「何が?」

良子「お母さんから聞いたでしょう?」

省一「バカ…そんなもん和彦が正しいに決まってるよ」

良子「言うと思った」

省一「『言うと思った』じゃないよ。そんなこと関係ないよ。謝りゃいいんだよ、そんなもの」

良子「悪くないのに?」

 

省一「そうだよ。向こうは因縁つけてんだ。そんなのまともに相手してどうするんだよ? バカ相手にしたらバカになっちまうんだよ。2人でやっつけてみろ。すぐ向こうは仕返しを考えるだろう。そうなったら泥沼だよ。金でも何でもやって土下座でも何でもして相手にしないのが利口ってもんだよ。大体、和彦は年が明けたら受験じゃないか。そんなときにケガでもしたらどうするんだよ? 謝った和彦が正しいに決まってるよ」お汁粉を食べながら…しゃべるね~。

 

都「うーん…こういうこと言うと、良子『気を遣ってる』って思うかもしれないけど…」

省一「そんなこと思ったらバカだよ」

都「お母さんもね、頭では和彦のほうが正しいと思うんだけど」

省一「それはそうだよ」

都「でも、私が良子だったら、やっぱりやっちゃうな」

和彦「だって、そんなことしたら…」

省一「そうだよ。やったら、あと引いて大変だよ。ヤツら何すっか分かんないんだから」

都「それでもやっちゃうと思うの。謝んなかったと思う」

 

省一「そんなのは子供だよ。和彦が正しいよ」

都「良子の気持ちのほうがお母さん、ずーっと分かるな。フフッ…良子と似てるのよ、私」

 

何となく白けた雰囲気。

 

省一「見ろ、お前…なんだかぎこちなくなっちゃったじゃないか」

都「あっ…ホントね」

 

省一「いいか。二度とそんなことは言うな。この件は、これで終わりだ。俺たちは立派にちゃんと親子4人家族だ、いいな? (良子に)いいな?」

うなずく良子。お汁粉をすする省一、和彦。

 

望月家の玄関にはクリスマスリースが飾られている。一軒家借りて撮影したのかな。家まで本物を使うのは珍しい。

 

予備校

席についている和彦に話しかける大沢。「じゃ、お前、私立受けないのかよ?」

和彦は慶応と早稲田を受けると言う。慶応は経済。

 

大沢「あそこ試験早(はえ)えだろう。国立と両天秤かけると入学金払い込んでパーにしなきゃなんないぞ」

和彦「もう行ったほうがいいよ」

大沢「大丈夫だよ。まだ12分あるよ」

和彦「俺、ちょっと見ときたいんだよ」本を見ている。

 

大沢「あ~…ガリ勉になったな、お前も」立ち上がり、和彦の肩を抱き、もったいぶりながら話す。「おととい、宮本が学校出たとこでお前のこと聞かれたんだってよ」

 

「あんた、3年生? 望月和彦って子、知ってる?」和彦がイライラしながら誰が?と聞くと、大沢は、すげえいい女だと言って、和彦の頭を小突いて席に戻った。

 

舌打ちする和彦。「その手に乗るかよ」

大沢「いや、ホントなんだって、望月…」とまた戻ってくる。

和彦「いいよ、行けよ。頭まとまんねえんだよ、行けよ」

大沢「女だよ」

 

「テスト開始10分前です。受験生は着席してください」というアナウンスが流れる。

 

ファースト・キッチン

大沢はハンバーガー2つとホットチョコレートで480円の会計をしていた。和彦はとっくに店を出ており、大沢がキョロキョロ。

 

ビルの階段で一人ハンバーガーを頬張り、本を読んでいる和彦を見つめる美人がいた。和彦は何となく気づいたものの無視して食べている。道路の向かい側にいた女性は近づき、和彦の前に立つ。

 

和彦「僕に…何か?」

明美「そうなの」

 

更に和彦に近づいた明美は「バイトする気ない?」と聞いた。1時間600円。

和彦「ダメです。僕、じきに大学の受験で今、暇ないんです」

 

今日だけだと言う明美だが、予備校で日曜試験を受けてると和彦が言う。あと1科目だけど、「バイトならダメです。ちょっと、そういうの余裕なくって」と断る。「バイトならそういうの紹介するとこあるんじゃないですか?」

明美「君がいいの」

和彦「『いい』って…」

 

明美「この辺、男の子いっぱいいるでしょう? 見て歩いてたの」

和彦「モデルか何かですか?」

明美「モデル?」

和彦「いや…ちょっと、その…」

明美「自信あんのね」

和彦「そうじゃないです。ただ、どんな…その…バイトかと思って」

 

「何だと思う?」と中身を言わない明美。「そうね、往復入れて4時間でいいわ。3時半・4時半・5時半・6時半…」

和彦「でも、悪いけど、ちょっと試験前に見ときたいとこあるんで」すいませんと頭を下げてその場を去った。

 

試験が終わり、電車に乗った和彦の前に明美が現れた。「私、わりとねちっこいのよ」和彦に次の駅で降りるように言うが、断る。

 

しばらく無言だった明美が突然「何すんのよ?」と和彦に言う。

和彦「えっ?」

 

明美「何すんのよ!? あんた、ちょっといらっしゃい!」和彦の腕を引っ張る。

和彦「あの…僕は…」

明美「言い訳しないでよ」

 

周りの乗客が注目する。

 

明美「人のお尻、触っといて何言ってるのよ?」

和彦「いいかげんなこと言うなよ!」

明美「ジタバタしないでよ。いいから、降りなさいったら!」

ちょうど駅に到着し、開いたドアから降り、明美はそのまま和彦を引っ張って歩く。

 

和彦「俺は何にもしてないよ」

明美「どなるわよ。もっとどなるわよ」

和彦「冗談じゃないよ」

明美「ついてらっしゃい…じゃないと警察に言うわよ。そうすりゃ、女のほうが強いのよ。あんた否定したってね、私が『絶対やられた』って言えば大学どころじゃないんだから。うん?」

 

うーん、「それぞれの秋」でも電車での痴漢行為を描いていたし、こっちは痴漢冤罪か…このシチュエーションがお気に入り!? せっかくいいドラマでも、ここで一定数、女性視聴者が離れちゃう。男性が思うより、嫌悪感を持つ女性は多い。しかも、こうやって冤罪を堂々とやってのけるシーンはね…

 

明美とタクシーに乗っている和彦。明美は運転手に指示を出し、目的地で降りた。

和彦「何のバイトですか?」

明美「いつまでもジタバタしないでよ」

和彦「そんな…」

明美「私、いつだって騒ぐわよ」

和彦「汚かないですか」

明美「いいから来るの」

 

地下駐車場で明美が赤い車の運転席に乗った。

和彦「じゃ、もうジタバタしないよ」助手席に乗る。「どんなバイトか教えてくれないかな?」

無言でエンジンをかける明美

和彦「そのぐらい聞く権利あるんじゃないかな」

明美「ドア閉めて」

和彦「…」

明美「閉めて」

 

和彦がドアを閉めると、明美はサングラスをかけて、車を走らせた。

 

和彦「どこへ行くんですか?」

明美「…」

和彦「説明してくれたっていいんじゃないですか?」

 

渋滞にはまる。

和彦「もしかして、2~3日前、横浜に来なかったですか? 相鉄線の希望ヶ丘です」

明美「どうして?」

和彦「『学校の前で僕のことを聞いた人がいた』って友達から聞いたもんだから。その人『きれいな…人だった』って」

 

車が走り出す。

明美「知らないわ、そんなこと」

和彦「でも、おかしかないですか? あんなに学生がいる中で僕を選んで断っても、こんなふうにムリに連れてくっていうのは変じゃないですか?」

明美「気に入ったからよ」

和彦「どんなバイトか知らないけど、そんな…僕に特別な所はないし、平凡だし、特に僕じゃなきゃいけないバイトなんて」

 

明美「自信がないわけ?」

和彦「自信って?」

明美「自信のないヤツ、嫌いよ」

和彦「だって、どんなバイトか言わなきゃ自信のありようがないじゃないですか!」

 

車は大きな道路から住宅街へ入る。

明美「どんなバイトだと思う?」

和彦「分かるわけないです。どこまで行くんですか?」

明美「怖い?」

和彦「でもちょっと失礼なんじゃないですか?」

 

どんどん人家が少なくなり、細い道路の真ん中にいた杖をついた男とぶつかりそうになる。そこからさらに奥へ進み、車が止まった。

明美「着いたわ。帰りは都合のいい駅まで送ってあげる。出るときはドア、ロックして」

 

車を降りて、古い洋館に向かって歩く。門を開け振り返る明美。「どうしたの?」

和彦「いえ…」

明美「怖くないんでしょう?」

 

和彦は辺りを見渡しながら洋館へ向かう。

 

明美「早く来て。もう料金のうちよ」

 

森の中の古い洋館。やっぱりロケっていい!

 

玄関に明美のハイヒールが脱ぎ捨てられている。「上がって」

和子は辺りを見回しながら中へ。中はセットかな?

 

和彦は様子をうかがうようにゆっくり歩く。

 

入った部屋のソファセットには布がかけられている。

明美「じゃ、そこ入って。この床、拭いてちょうだい。窓、開けてね。ホントは、ちょっとはたきではたくといいんだけど…まあ、いいわ」

和彦「ぬれたんでいいんですか?」

明美「えっ?」

和彦「から拭きじゃなくて?」

明美「あら、そういうもん? ああ…そうかもしれないね。私、ここの者(もん)じゃないから、よく知らないのよ。それじゃ…うん…窓の所とかさ、そういうとこ、ちょっと拭いといて。とにかくなんかくさいでしょう? 窓開けて、風通して。私、ちょっと奥に行ってくるから」和彦の前を通って奥へ行きかけ、振り返る。

 

和彦「はぁ?」

明美「やってて」

 

和彦はトートバックを置き、雑巾も置いて、窓を開け始めた。

 

しかし、明美が慌てて戻ってきた。「悪いけど、電車で帰って。掃除はどうでもいいわ。1時間ぐらいここにいてみて」お札を手にする。

和彦「1時間?」

明美「奥の男が来るかもしれないし、来ないかもしれない。1時間たったら帰っていいわ。交通費とも5000円でいい?」

和彦「そんなにいいです」

明美「いいの。感じ悪いかもしれないけど、いい人なの」

和彦「あの…ちょっとどういうことなんだか…」

明美は和彦の上着のポケットにお札をねじ込み、「いいのよ」と部屋を出た。

 

和彦「どういうお宅なんですか?」

明美「知らなくていいの」車で帰っていった。

 

私なら初めて来た場所に置いていかれても帰れない~

 

和彦はリビングに立ち尽くしていたが、明美が汲んだバケツに雑巾を浸して絞ろうとしていた。

 

そこに階段を降りてきた男がフラフラ歩きながら近づく。男に頭を下げる和彦。「バイトさせてもらってます」と言って男に背を向け、窓を拭き始めた。パジャマの上にバスローブを羽織り、にらみつける男。眼光が鋭い!

 

竜彦「よくバイトやるのかい?」

背を向けたままの和彦。「いえ、今、高3で受験なもんでそういう暇ないんです」

竜彦「じゃ、なぜやってる?」

和彦「やりたかないけど、さっきの女の人に無理やり連れてこられたんです」

竜彦「女は行っちまったろう?」

和彦「ええ」

竜彦「…だったら勝手にやってるんじゃねえか」

和彦「お金、置いてったんです。だからちょっと帰るわけにもいかなくて」

 

竜彦「金は、そこらに放って帰ることもできる。違うか?」

和彦「ええ…」

 

竜彦「大体が無理やりなら、なにも義理を立てることはねえ。金いただきでさっさと帰りゃいいじゃねえか」

和彦「そう言やぁ、そうだけど…」

竜彦「何だ?」

和彦「はぁ?」

竜彦「『そう言や、そうだけど』何だ?」

和彦「『1時間ぐらいここにいてくれ』って、あの人が」

竜彦「言ったって『イヤだ』って言うこともできる」

和彦「ええ」

 

竜彦「要するにお前は自分の意思でここにいるんだ。そうじゃないのか?」

和彦「そうです」

竜彦「…だったら、しょうがなくているような、あの女のせいのような愚痴っぽい口を利くな」フラフラした足取りでソファに座り、酒をラッパ飲み。

 

和彦「ここのご主人ですか?」

竜彦「…」

和彦「帰ります。交通費と時間とられた分1000円もらって、4000円返します」と竜彦の据わるソファの前のテーブルに置いた。

 

テーブルに両脚を乗せる竜彦。「留守番だ」

和彦「はぁ?」

竜彦「俺は留守番だ。金は持ってきゃいい」

和彦「いえ、それだけのことをしていないんだから」

竜彦「かまうもんかい」

和彦「でも、そんなの気分悪いし」

竜彦「気分?」

和彦「ええ。何にもしていないんだから5000円は多いです」

竜彦「何だ? そりゃ」

和彦「はぁ?」

竜彦「それでいいカッコしたつもりか?」

和彦「『いいカッコ』って…」

 

竜彦「そういうのはムカつくぜ! やるって言ってんだから取っときゃいいだろう!」お札を投げつける。

和彦「要りません」

竜彦「おう。5000円ぐらいのことで胸張るんじゃねえ!」立ち上がって肩で小突く。

 

和彦「僕のお小遣いは、ひと月1万円です。5000円は大金です。理由もなしにもらえません」

竜彦「ふ~ん…そういう子供かよ。お前は」

和彦「子供かもしれない…」

竜彦「善人め! 気のちっちゃい善良でがんじがらめの正直者め!」

 

和彦「芝居のセリフか何かですか?」

竜彦「ハハハッ…それで切り返したつもりか?」

和彦「別に…議論する気はないですよ」頭を下げて帰ろうとした。

竜彦「なぜ、頭、下げた? なぜこんな不愉快な男に頭を下げる?」

 

和彦「理由なんてありませんね」

竜彦「理由もなしにお前はシャクに障った相手にも頭を下げるのか?」

 

玄関に向かっていた和彦が戻って言い返す。「『お前』だなんて言われたくありませんね」

竜彦「フフッ…それがお前のプライドか。安っぽくて、くだらんプライドだ」

和彦「そうは思いませんね。知らない男に『お前』だなんてナメたこと言われたかないよ!」

竜彦「それだけ誇り高いならウジウジ雑巾がけなんかするな。1000円もらって、あとは返すなんて、みみっちいこと言うな」

和彦「みみっちいとは思わないね。たとえ100円だろうとワケの分かんない金は恵まれたかないし」

竜彦「わざわざ連れてこられて人のいいこった」

和彦「そうかもしれないけど、僕はそういう気持ちを大事にしてるんだよ」

 

竜彦「何をだと?」

和彦「何を?」

竜彦「何を大事にしてるだと?」

和彦「気持ちですよ。理屈はともかくもらいたくない物は、もらいたくないっていう」

 

竜彦「フッ…」

和彦「さようなら」

竜彦「ちょっと待て」

 

帰ろうとした和彦が振り返る。「何ですか?」

竜彦「気持ちなんてものはな、大事にするもんじゃねえんだよ。取りとめねえもんだろうが…そんなもの大事にして生きてたら、どこ行っちまうか分からねえ。そうじゃないかよ? 若いの。自分の気持ちに正直だなんてのは、いちばん楽な生き様(よう)よ。自慢たらしく言うことじゃねえ」

和彦「そうかな…」

 

竜彦「試しにあんた、ウソで固めて生きてみな。気が弱けりゃ強いフリ、バカは頭のいいフリ、鈍感は敏感のフリ。嘘八百で生きてみな。こいつは大変だぞ。正直に生きるなんてより、よっぽど精神の鍛練を要する。四六時中、緊張してなきゃボロが出る。とても気のいい善人にゃ…務めらねえ」急に鼻を押さえる。

和彦「どうか…大丈夫ですか?」

 

でっかいくしゃみをする竜彦。「ハア…この家は下手な所へ腰を下ろすとほこりが立つ。それでくしゃみ…」くしゃみを繰り返す。「ハァ…始まった。始まりやがった」くしゃみが止まらず、苦しそう。「アレルギーなんだ、ハハハッ…」酒瓶を持って立ち上がり、歩き出す。「もう帰んな。気が向いたら、また来るといいや。5000円ぐらい、いつでも払うぞ」再び階段を上ろうとする。

 

和彦「ちょっと待ってよ」

かまわず階段を上っていく竜彦。

和彦「何ですか? おたくは。あの女の人は何ですか? 僕をなぜここまで連れてきたんですか?」

 

竜彦「雑巾がけのバイトだろうが」

和彦「違うね。何か別の理由があるんだ。それぐらい感じるよ」

竜彦「知らんね。もう帰んな。バイトのおにいちゃん」またくしゃみ。「アア…まいった」くしゃみをしながら階段を上っていった。

 

夕方、電車に乗り、すっかり暗くなった帰り道。

 

午後11時13分。都はダイニングテーブルに布を敷き、切っていた。

 

和彦は音がしないようにドアを開け、階段を降りた。

都「和彦?」

和彦「うん」

都「お風呂入って。良子も入らなかったし、誰も入ってないのよ」

和彦「もうじきお父さん帰ってくるんじゃない?」

都「いいわよ。どうせ、あなた早いんだから」

和彦「いいよ」

 

わりと昭和は風呂キャンセルが当たり前。

 

都「どうしたの?」

和彦「うん?」

都「入って閉めて。寒い」

 

ダイニングへ入るドアの前に立っていた和彦が入って来た。

都「テスト、よくなかったの?」

和彦「そんなことないって言ったじゃない」

都「でも、なんだか変だもん。おなかでもすいた? うん?」

 

和彦「お母さん」

都「うん?」

和彦「嫌がるから聞かなかったけど」

都「なに?」

 

和彦「…」

都「なに?」

和彦「ヒップいくつ?」

都「何言ってんの~ハハッ…頭ボーッとしちゃったんじゃないの? ジョギングでもしてらっしゃい」

 

和彦「お母さん」

都「うん?」

和彦「いつごろまでタバコ吸ってた?」

都「ハァ…お父さんと一緒になるころかな」

和彦「お酒も?」

都「お酒は今でも飲むじゃない?」

和彦「でも、ちょっとでしょう? 昔はすごかったんでしょう?」

都「イヤ~ね、フフッ…おばあちゃん、よくそう言ったけどね」

和彦「『手に負えなかったのがよく、まあ』って」

都「フフッ…安っぽいスケバンだったみたいだけど、そんなんじゃないのよ。多少、自由にしてただけ。絵描きになろうか何になろうかなぁなんて、フフッ…」

スケバンどころではない! なんてね。

 

和彦「僕のお父さんは…飲んだ? 酒、飲んだ?」

都「何の話? ほかにお父さんいないわ」

和彦「だけど、本当はいるわけじゃない?」

都「もう死んだし、ずっと前だし。いないと思わなきゃいけないって、そういうふうに言ったはずだわ。そんな人は、いないの!」

 

和彦「お母さん、すぐそうやってカッとなるから、いつも聞けなくなっちゃうけど」

都「あなたは、お母さんがひとりで産んだの。結婚もしてなかったし、勝手に産みたくて産んだの。父親は関係ないの。私だって、どんな人か忘れてるわ。ひどい言い方のようだけど、ホントに忘れてるの。あなたのお父さんは、今のお父さんしかいないのよ。知りたいと思う気持ちも分からなくないけど。とっくに死んだ人だし…お母さん…忘れたの」布を切り続ける。「あっ…ちゃんとした人よ。あなたが恥ずかしがるような人じゃないわ。それだけ…それだけで忘れて。死んでるんだし。忘れて」

和彦「分かったよ。お風呂、いいよ」

 

部屋を出ようとした和彦に「どうして急にそんなこと?」と聞く都。

和彦「急じゃないさ。ずっと聞きにくかっただけだよ」部屋を出て行った。

 

車で帰ってくる省一。

 

ボーっと椅子に座る都。

 

ベッドにあおむけになっている和彦。

 

ソファに座ってじっとしている竜彦。(つづく)

 

おっ、数分後にすぐやるのに予告つき。

 

洋館の庭でたき火をしている。

和彦「名前、聞いてもいいですか?」

竜彦「詮索は、よそうじゃねえか。気が向いたら、また来るといい」

和彦「はい」

 

茶店

和彦「誰ですか? あの人。どういう人なんですか?」

明美「あなたのお父さんよ」←予告で言っちゃうの!?

 

ご期待ください

 

このドラマは

フィクションであり

登場する人物・団体等の

名称はすべて架空の

ものです

 

また長くなってしまった…字幕があれば「それぞれの秋」も「沿線地図」もこうなっていただろうけど。岩下志麻さんがこういう普通?のパート主婦やってるのが珍しく感じる。経歴は普通ではなさそうだけど。「沿線地図」では岸恵子さんが妻で、いつも美人妻がいる河原崎長一郎さんは実際の奥さんも伊藤榮子さんだもんな。岩下志麻さんとは”いとこ”なのか~。

peachredrum.hateblo.jp

鶴見辰吾さんは金八の頃から成長したけど、2年後の「スクール・ウォーズ」ではもっと大人っぽくなってたな。

 

もう12話分録画はあるので、毎日コツコツ消化していきます。