TBS 1972年3月7日
あらすじ
日曜日、正司（加藤剛）が再び小川（三島雅夫）を見舞いにやって来た。店が休みの良子（沢田雅美）もまた花束を持って小川に会いに来た。今まで正司が病院にいたと聞いた寿美子（山本陽子）も、病院に駆けつけるが……。
2024.4.5 BS松竹東急録画。
やさしい心が
めぐりあったとき
心と心が歌います
幸せはその時そこに
ほんのりとあります
流れ去るその日その時
幸せは影のように
光のように
及川正司：加藤剛…添乗員。33歳。字幕黄色。
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前田寿美子：山本陽子…鉄板焼屋「新作」の娘。25歳。字幕緑。
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及川高行：長浜藤夫…正司の父。
友江：檜よしえ…看護師。
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林：高木信夫…小川と同室の患者。
看護師：坂田多恵子
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田中：渡辺紀行…小川と同室の患者。
鈴木：豊田広貴…小川と同室の患者。
ナレーター：矢島正明
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前田新作：浜村純…寿美子の父。「新作」マスター。
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小川：三島雅夫…1年半入院している病院の主。
アパート
高行が自室の窓を拭いていると、はつが部屋に来た。「おや、窓を開け放して寒かないんですか？」
高行「今、ガラスを拭いてたもんですからね」
はつ「お父さん、よくまめに動きますね」
高行「いやいや、こんな狭い部屋ですからね」
はつ「あの…お赤飯を持ってきたんですよ。この間はのり巻き寿司を頂きましたからね」
高行「そりゃあどうもごちそうさま」
はつ「お昼にでもあがってください。今朝、ふかしたんですよ」
高行「大好きですからね。私も正司も」
せき込むはつに風邪でも引いたんですか？と聞く高行。はつはゆうべからちょっと喉が痛いと言い、高行は朝のうちは冷えますからとストーブをつけた。
はつは、正司がどこへ行ったのか聞くと、病院へ行ったのだと高行が答えた。勉がお世話になった人のお見舞いだという。
はつ「大変ですね。正司さんもせっかくの日曜日に」
高行「何もかも1人ですからね」
はつ「ホントに感心。よくやりますよ」
高行「私ができないもんですからね」
はつ「そりゃ、お父さんは気をつけてもらわなきゃ困りますよ。それでもこのごろはいいですね。すっかりお元気になって」
高行「まあ、この分ならもう少しは生きられると思うんですけど」
はつ「そりゃそうですよ。長生きしていただかなきゃ、正司さんががっかりですよ」
高行「倒れたときはそうでもなかったんだけど、またこのごろ欲が出ましてね。孫の顔が見たいと思ったり、抱いてみたいと思ったり」
はつ「そうですとも。ハァ…それに引き換えて、うちなんてどうでしょう。うちの孫なんて母親が私をバカにするもんだから、孫まで私をバカにするんですよ。今日だってあれなんです。今日だって自分たちだけで伊豆のなんとかって温泉へ1泊泊まりのドライブに行ったんですけどね」
そういや、日産一社提供の木下恵介アワーだけど、今回は全然車が出てくる機会がないね。
高行「そりゃいいですね。お天気もいいし」
はつ「こっちはちっとも良くありませんよ」
良子がカーネーションの花束を持って病院の廊下を歩いている。
看護師「今日はお休みじゃなかったの？」
良子「日曜日でも忙しいの。きれいなカーネーションでしょ？」
看護師「お見舞いなの？」
良子「ええ、ちょっと。じゃ」
この看護師さんは坂田多恵子さんかな。
病室
小川はニット帽？をかぶり老眼鏡をかけ、爪切り。「で、なんですか？ 今日は」
良子「フフッ、お見舞いよ。お花持ってきてあげたの」
小川「えっ？ これを私に？」
良子「そう。たまにはね」
小川「へえ～」
良子「だっていつもね、売れ残りのおまんじゅうじゃ失礼でしょ？」
小川「いや、ありがとう、ありがとう。うん」
良子「あと2日で3月ですもんね。いい気持ち」
あら？ 前回のカレンダーは29になってたのにな。今回は1972年2月27日(日)の話。
小川「いや、それにしても今日はお休みでしょ？」
良子「ええ。だからなお気持ちがいいの」
小川「じゃ、わざわざ来てくれたの？」
良子「そう。でもね、ホントはもっといい人がお見舞いに来てくれるのよ。もうじき来るわ」
小川「えっ、ここへ？ 私んとこへ？」
良子「もちろん。あっ、その花、花瓶に挿してきてあげるわ」
お、後ろのカレンダーが27になってる。
小川「いや、だけどさ、一体誰が来てくれるの？」
良子「さあ、誰かな？」
小川「そうか、あの人か」大きな果物かごを持ってきてくれた寿美子だと勘違い。
良子「いいえ、違うわ」
小川「じゃあ、もしかしたら…」
ノックし、正司が病室に入ってきた。「おはよう。すいません、ご無沙汰しちゃって」
帽子を取り、立ち上がる小川。同性もポーっとさせちゃう正司！
正司「よっちゃんから様子は聞いてたんだけど、元気だそうでいいですね」
小川「いや、まあまあ、ここへ掛けて」自分のベッドに掛けさせ、小川自身は隣の空きベッドに掛ける。
良子「おじさん、安心したでしょ？」
正司「安心したのは僕のほうだよ」
小川「ありがとね、よっちゃん」
良子「あっ、そうだわ。病室にいちゃ、お茶も出ないから、うちの店いらっしゃいよ。ねっ？」
正司「そうだ。そのほうがいい。お父さん、行きましょう」
小川「あっ、いや、いいの？ お休みだけど」
良子「お休みだから、なおいいの。ゆっくりお話しできるでしょ？ じゃ、先行って開けときますね」花束を持ったまま、病室の外へ。
小川「ああ」
正司「そうだ。皆さんにご挨拶しなきゃ。皆さんおはようございます。どうも親父がいつもお世話になりまして」
林「いいえ。別にお世話なんかしませんよ。ねっ、小川さん」
小川「いや、それはね、私は厄介者だから、この病院の」
正司「何を言うんですか、そんな…」
小川「いや、もう肩身が狭くってね」
林「こんな立派な息子さんがいたら大威張りじゃないの」
正司「いや、立派かどうか知らないけど…お願いします。(鈴木や田中にも)お願いします」頭を下げる「あっ、そうだ。これクッキーですけど、皆さんで召し上がってくださいませんか？ どうぞ召し上がってくださいね」
田中「はあ」
正司「お父さん、行きましょう」
小川「及川さん」下を向いてしまう。
正司「どうしたんですか？」
小川「すみません。ホントにすみません」頭を下げる。
正司「何を言ってるんですか？ 僕はあなたを元気づけようと思って、やって来たんですよ。イヤだな、そんな顔されると」
良子「そうよ。お天気はいいし、とってもいい日じゃないの」
小川「ありがとうございます」
正司「困っちゃうな。小川さんにそんなふうに言われると」
小川「いえ、いえ、そうじゃないんです。あなたにも立派なお父さんがいらっしゃるのに…すみません。こんな宿なしみたいな親父をお父さんと呼んでくださって」顔を覆って泣きだす。
小川さんが現実との境がなくなり秀行と呼び続けたりするタイプじゃなくてよかった。
- provided courtesy of iTunes
しかし、この歌iTunesだと「歌を忘れたカナリヤ」だと出てこないんだよな。
小川さんはウソを言うにしても、なぜベニスと言ってしまったのでしょう。それには忘れられない思い出があるからなのです。秀行という今は人の子供になってしまった一人息子が、まだ危なっかしく歩いていたころ、小川さんの最愛の奥さんは秀行の子守歌にあの「歌をわすれたカナリヤ」を自分も好きでそればかり歌っていたからなのです。
小川「ですからね、ベニスからあなたが出してくださった絵葉書に一度、お父さんとゴンドラに乗ってみたいって書いてくださったでしょう？ 私、あのときにね、秀行が本当にそう言ってくれたような気がしたんです。歌を忘れたカナリヤもベニスでゴンドラに乗せたら歌を歌いだすという歌詞でしょ？ 私、あのときね、諦めて忘れていた歌を思い出したような気がしたんです」
歌詞を見たけど、4番がベニス要素かなあ？？
正司「そうだったんですか。あなたも戦争のおかげでひどい目に遭ったんですね」
小川「ひどい目に遭っただけなら、あとで取り返しがつきますよ。なまじっか生きて帰ったばっかりにね、私なんて生殺しですよ」←重い言葉。
良子「そういう人を感謝の気持ちのない人間の下の下だなんて言うんですもんねえ」
正司「自分こそ感謝の気持ちがないんだよ。年取った人は日本の中で苦労して、みんな生きてきたんだもの。まして、あのひどい戦争の中をね」
小川「私なんてね、この病院にいたって、まるでタチの悪い詐欺師なんかと思われているんですからね。ああ、そりゃそうかもしれません。でも、ここを出たらそのまんま養老院行きですよ。ああ、養老院だってありがたいですよ。でも、話に聞くと随分、寂しい所だっていうじゃありませんか」
正司「そうでしょうね。日本の養老院は」
小川「私は行きたくないですよ。今までだって随分、寂しかったのに、もっと寂しくなるなんてイヤですよ」
お敏さんは愛子に養老院に入れてくれと言ってるけど、有料はまた違うのかな？
「養老院」というとこの話だな。このドラマの5年後。
小川の話を聞いていた良子が泣きだす。
正司「どうしたの？ よっちゃん」
良子「いえ、なんでもないの」
売店の戸をたたく音がする。
看護師「ちょっといるんですか？」買いたい物があるという看護師に、良子は涙を拭きながら立ち上がり、戸を開けた。
看護師「すいません。あら…小川さん、いたんですか？ ここに。さっき電話があったのよ、前田さんっていう人。女の人よ。よろしくって」
小川「そうですか」
看護師「日曜なのに珍しいのね」
良子「ええ、何あげますか？」
看護師は田舎から妹と友達が来たと言い、ジュースを3本買った。180円払い、電気がついてるとまた誰か来るわよと出て行った。この看護師さんは1話以来の檜よしえさん。1話では”友江”と字幕に出てたんだけどね。
小川「あの人から電話があったって、なんだったんでしょう？」
良子「多分あれじゃないかしら？ 息子さんのこと。秀行さんのこと」
正司「えっ？ 秀行さんって…僕のことかい？」
良子「ええ、そうよ。だから私が言ったでしょ？ そのかわりとてもいいことがあるって」
正司「僕になんの関係があるんだろう？」
新作のマンション
ニコニコ掃除をする寿美子をあきれたように見ている新作。「なにも今日に限って、そんなにかいがいしく働くこともないだろ」
寿美子「あら失礼ね。私がかいがいしく働くのは今日ばっかりじゃないでしょ？」
新作「いや、今日はよしなさいって言ってるんだよ。こんないい天気だし、日曜日じゃないか」
寿美子「そうはいかないんですよ。日曜日だからきれいにお掃除できるんでしょ？」
新作「いいよ、もう、それっくらいで。気まぐれですよ、お前は」
寿美子「どうして私が気まぐれなの？ お父さんの部屋を掃除してるのよ」
新作「だからもういいんですよ」
寿美子「もうよしますよ。せっかくきれいにしてあげようと思ったのに」
新作「お茶でも飲みなさい。入れてやるから」
寿美子「私が入れますよ」くるんと一回転してダイニングへ。「お父さん、掛けてらっしゃったら？」
新作は玉露で入れるかなと準備しようとするが、寿美子が代わる。「このごろ、お父さん、少し愚痴っぽくなったんじゃないの？」
新作「愚痴じゃありませんよ、心配だからですよ」
寿美子「いくつだと思ってるのかしら？ 私を」
新作「年頃ですよ。もうぼつぼつ慌てるんですよ」
寿美子「だったら任しといてくれたらいいでしょ？ それをいちいち心配するんですもの
新作「そりゃしますよ、親だもの」
寿美子「何が心配なの？ 私は自分が一番気に入った人を捜してるのに」
新作は捜してる人が問題だと病院に電話をかけたことを責める。相手によりけり。「その人はもう1年半も病院へ入ってる年寄りなんだろ？」
寿美子「ええ、そうですよ」
新作「そうですよって、お前…お前がポーっとした人はその1年半の病人の息子さんだろ」
寿美子「ええ、そうよ。だから私、とてもお気の毒だと思ってるの」
新作「ちょっとちょっと待ちなさい、寿美子。お前はですよ、井上のおばちゃんが持ってきた話をなんて言って断ったんですか？ 確かお前は…のお父さん、なんて言ったくせに」←…は無音。「それを今度の人は1年半ですよ」
寿美子「だけどよ、お父さん…」
新作「だけどは、お父さんの口癖ですよ」
寿美子「だけど、その人とこの人とは違うんですもの」
新作「違いませんよ。もっと悪いですよ。それになんですか。お前は井上のおばちゃんの話のときにしょっちゅう外国へなんか行ってる人はイヤだと言ったじゃないですか。それがどうだろう。今度の人はベニスなんだから」
寿美子「でもね、お父さん。その人はベニスに行って遊んでるんじゃないのよ。ちゃんとイタリア料理を勉強してるのよ」
新作「それだって、合間合間には何をしてるか分かりゃしませんよ」
寿美子「いいえ。そんなことないわ。私にはちゃんと分かるの。あの人は絶対そんな人じゃないわ」
新作「どうして絶対なんて言えるんですか？」
寿美子「だから、もう一度会いたいと思ってるのよ。それをお父さんったら病院に電話かけただけでとやかく言うんですもの」
玉露が出過ぎたと焦る新作。
寿美子はもういっぺん電話をかけると立ち上がり、ダイヤルを回す。
CMは秋子の薄焼いわし
病室
ベッドの上で腕組みしてる小川。
看護師「また前田さんっていう人からお電話でしたよ」
小川「またですか」
看護師「ここへ電話をくださいって」
小川「はいはい、それはどうもすみません」
看護師「小川さん、このごろ急に忙しくなったみたいね」
小川「そうなんですよ。今日は息子も来てくれるし、それからね、この電話もあれなんですよ。息子とひょっとしたらね…ほら、この間、あの…こんな大きな果物かご持ってきてくれたでしょ」
看護師「ああ、その人なの？ とてもきれいなお嬢さんなんですってね」
小川「そうなんですよ。きれいできれいで、とてもね。早くかけてこなくちゃ」
看護師「小川さん、10円持ったんですか？」
小川「そうでした、そうでした。いや、10円ぐらいあるでしょ、はい」
看護師「何言ってるの？ 息子さんが来たんですもの、お小遣いもらわなきゃダメじゃないの」
小川「いや、それがね、ついうっかりしちまってね。584-5…ちょっとこれ、あの…7ですか？ 9ですか？」
看護師「9ですよ。5932」
小川「9ですか。これで」
看護師「文句言ってないで早くかけてらっしゃいよ」
小川「いやいや、文句だなんて、そんな」
看護師「ほらほら」
小川「584-59…」ウキウキと看護師と病室を出て行く。
林「あの人がついうっかりしたんだってさ。あんなガツガツしていて、そんなバカなことがあんのかねえ」
隣のベッドの若い男に話しかける。
廊下を小走りする小川。
小川さんは幸せな気分でした。いや、本当に幸せだったのです。今かけようとしている電話は小川さんがこの病院に入って初めてかける電話です。誰もいなかったのです。掛ける人もかかってくる人も。
ナースステーションの黒電話の前の箱に小銭を入れるタイプ。
着信音が鳴り、寿美子が電話に出た。青緑っぽい電話。
小川「あの…わたくし、小川ですけど」
寿美子「あら、お父さんですか？ あたくし寿美子です。度々お電話をして申し訳ありません」
小川「いえいえ、こちらこそありがたくって申し訳なくって」
寿美子「いいえ。こちらこそ失礼いたしました。いいえ、あんな物…今度お伺いするときはもっと気の利いた物、お持ちいたしますわ。いいえ、いいんです。そんなこと気になさらないでください。私だって病院へお伺いするのは楽しみなんですもの。いいえ、そんなふうにおっしゃられると困るんです。あれなんですよ、あたくし、あの売店のおいなりさんがとても好きなんです。そうなんです、とってもおいしくって。ええ、そうなんですよ」
小川「それはそうとあれなんですよ。今日、息子さんが来ましてね」←息子さんって
寿美子「えっ？ なんですって？」
小川「んっ…いや、あれなんですよ、私の息子がね。いい息子ですよ。来てくれたんですよ」
寿美子「えっ…秀行さんがおみえになったんですか？」
小川「ああ、あの…ニコニコ笑って来てくれましてね」
寿美子「まあ、それであれなんですか？ まだそちらにいらっしゃるんですか？」
小川「いえいえ、もうとっくに帰ってしまいましたけどね」
寿美子「あら、もう、お帰りになってしまったんですか」
小川「ああ、私も息子ももうちょっと一緒にいたかったんですがね。ええ…でもベニスと違って東京にいてくれれば、また会えますからね、ええ。ええ、本当に今日はいい日曜日だったんですよ。ええ、ええ、もしもし？ もしもし？」
寿美子「あの…それであれなんですか？ またあしたあたりおみえになるんですか？」
小川「さあ…ああ、それは…」
寿美子「じゃあ、あさってあたりはいらっしゃるんじゃないでしょうか？」
小川「さあ、それがですね…」
寿美子「とにかくあれなんでしょ？ そのうちまたおみえになるんでしょ？」
小川「そう、それはもう…ええ。とにかくあれはね、優しくって、いい息子で」
寿美子「そうですよ、そう。ホントにいい息子さんですわ。あんな親孝行であんないい息子さんなんて、そうめったにいるもんじゃありませんわ」
小川「そうそう、肝心なことを忘れていましたよ。あれがね、秀行が言っていましたよ。あなたによろしくって」
寿美子「まあ…あたくしによろしくっておっしゃったんですか？」
小川「ええ、そりゃ言いますとも。あなたなら」
寿美子「あの…お父様。あたくしすぐそちらに伺います。とにかくお目にかかって。どうもありがとうございました。失礼いたしました。どうぞお元気で。ごめんくださいまし」小川が受話器を置いた音を確認し、受話器を置く。
知らない人とよくもまあこんなにしゃべれるな。
受話器を置いた後も電話の前でぼんやりする寿美子。「ハァ…お父さん、私、どうしましょう」
新作「どうもこうもありませんよ。お父さんだのお父様だのいつからお前にはお父さんが2人も出来たんですか？」
寿美子「とにかく私、行ってきます」
新作「待ちなさい、寿美子」
寿美子「だって、お父さん。あの人、私によろしくって言ってくださったんですよ、お父さん」なぜか新作に駆け寄り抱きつく。「私、うれしいわ。ポーっとするわ。だけど、お父さんが悪いのよ。もっと早く電話をかければちょうどあの方がいたのに。それをああだのこうだの意地の悪いこと言うもんだから」
新作「何を言ってるです？ お前は」
寿美子「とにかくいってきます」
新作に止められるが、寿美子はちゃんとした娘だと言い、新作に昼寝を勧める。「あれもこれもないの。私はもうあの人しかいないの」
新作「こら、バカなこと言いなさい。少しポッとしてるくらいならいいけど、お前はカッカして頭にきてますよ」
寿美子「そりゃ、少しは…」
新作「もっと冷静にならなきゃダメですよ」
寿美子「どうしてこんなにあの人に惹かれたか分からないの」
新作「そりゃ人間には時と場合によってはどうしていいか分からないときだってあるさ」
寿美子「だからしかたがないでしょ？」お父さんが好きだから、お母さんに怒られてもこのうちへ来たと言う。
新作「だから心配なんだよ、お父さんは。お父さんだって意地がありますよ。意地にだって、お父さんは、うんとお前をいい人にもらってもらいたいんだ。でなきゃ、あのババアがなんと言うか分からないだろ？」
寿美子「私…今まで好きになった人なんてなかったわ。あの人が初めてよ。たった一度しか会ったことはないけど」
新作「それじゃ本当の恋愛とは言えないじゃないか」
寿美子「いいえ。これからホントの恋愛が始まるような気がするの。お願い。ねっ？ お父さん」
新作「ハァ…とにかくお父さんには、お前のように燃えたことはなかったよ。もし燃えたとしても愛するためじゃなくって憎むために燃えたんだからな」
寿美子「私はお父さんのような結婚はしないわ」
新作「そりゃそうさ。お前だけは幸せになってもらわなきゃ」
寿美子「ええ」
きっちり和服に着替えて狸穴マンションを出てきた寿美子が歩き出す。
寿美子は胸を弾ませて急ぎながら、ふと一つの顔を思い浮かべたのです。それは兄のために松葉杖をついて、ここで待っていたあの弟の顔です。そしてなぜか、すまないような気がしたのです。まさか、今、自分が足を急がせている人とその弟の兄が同じ一人の人とは夢にも知りません。恋はただ夢中にさせるのです。(つづく)
寿美子は小川が秀行の父でなければ、あんなに熱心に見舞いにも来なさそうな人というキャラ設定に見えちゃうのはヒロインとしてはちょっとかわいそうね。
「おやじ太鼓」5話。カメオが鶴家にやって来た。おばちゃんのきゅうり巻き。
秋子の年下彼氏の神尾だけど、実年齢は香山美子さんと竹脇無我さんは同い年で弟の三郎役の秋野太作さんがこの2人より1つ上というのに驚く。童顔だね。
来週もどちらの作品も楽しみだな～。
