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【ネタバレ】早春スケッチブック 第11回

フジテレビ 1983年3月18日

 

あらすじ

実の娘の良子(二階堂千寿)までが竜彦(山崎努)に惹かれ、病気に同情して父・省一(河原崎長一郎)に反発したことは、省一を驚かせ怒らせた。 真面目に働いて家庭を守ってきた父よりも、なぜ身勝手な竜彦がいいのだと、省一は都(岩下志麻)を責めた。 都は和彦(鶴見辰吾)とともに、無理に省一と良子をさそい、家族四人で横浜中華街に出かけ、ショッピングなどを楽しもうとしたが、やはり気分は白けたままだった。

2025.3.14 日本映画専門チャンネル録画

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良子<<向こうは、お父さんのこと褒めてるのよ。それなのにお父さんは『あいつ』だなんて悪口言って、随分違うじゃない。向こうのほうがステキだなんて悔しいじゃない?>>

省一<<そんな、お前…>>

良子<<しっかりしてよ、お父さん>>

省一<<何言ってんだ?>>

良子<<しっかりしてよ>>

 

省一<<俺のどこが悪い?>>

都<<悪くないわ>>

 

省一<<いつだって家族のことを考えて、マジメに正直に誰に恥じることもなく働いてきた>>

都<<そうよ>>

省一<<それで、あっちがステキだなんて、そんなこと言われてたまるか>>

 

脚本:山田太一

*

音楽:小室等

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プロデューサー:中村敏夫

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望月都:岩下志麻…字幕黄色

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望月省一:河原崎長一郎

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望月和彦:鶴見辰吾

望月良子(よしこ):二階堂千寿

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三枝多恵子:荒井玉青

古賀プロ

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新村明美樋口可南子

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沢田竜彦:山﨑努…字幕水色

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協力:相模鉄道

   いすゞ自動車

   八千代信用金庫

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写真提供:倉田精二

     「フラッシュアップ」

          (白夜書房 刊)

*

演出:河村雄太郎

*

製作・著作:フジテレビ

 

今日はまた出てくる人が少ないねー!

 

望月

リビングのソファで新聞を読む省一。オシャレな格好に着替えた都は「良子たちは支度はいいのかな?」と階段下から呼びかける。

 

良子の部屋にいる和彦。「いいよ、すぐ行く!」

良子はベッドにうつぶせになっている。

和彦「いいから立てよ。よっ…」ベッドにしがみついた良子を引っぺがす。

 

都「お父さん、せめてズボン替えてください」

新聞を広げ、めんどくさそうな省一。「ムリに行くことはないよ」

都「行きたいの。家族で横浜、歩きたいの。ほら、ズボン替えてったら。それじゃ、しょうがないでしょう?」ズボンを省一の膝に置き、新聞を取り上げた。

省一「良子も嫌がってんだよ」

都「嫌がってないわ。すぐ下りてくるわ」

 

良子の部屋

和彦「これ以上、お父さんに不満そうな顔するな」

良子は和彦に背中を向けている。

和彦「こっち向け! お父さん、どんな気がしてると思うんだ? 自分の娘に『自分より、あの男のほうが魅力がある』なんて言われて、謝んなくていいから機嫌よくしろよ。来るんだ」

良子「お兄ちゃんは気にならないの? 死にそうなあの人、放っといて、一家で楽しくしてりゃいいの?」

和彦「お父さんは、するだけのことはしたよ」

 

横浜の街を楽しそうに歩く都と和彦。後ろを歩く省一と良子の表情は暗い。

 

伊勢佐木モール レインボーゲート

 

道端の植え込みの端っこに座っている省一。

和彦「まだ当分決まらないよ。一緒に来ると、絶対こうなんだから」

 

都が良子の服を選んでいた。「良子」

良子「なに?」

都「良子があの人のこと気にしてくれてるのは、うれしいけど、もういいの。お父さん、できることはしてくれたわ。これ以上はいいの。今、お母さんが大事なのは良子やお父さんとの生活だもの。ムリしたくないの。機嫌直して、少し笑って。4人で歩くなんて久しぶりじゃない? 良子がふくれてちゃ、お母さん、つまんない。いいわね?」

 

都と和彦に挟まれて、少し笑顔を見せるようになった良子。手には紙袋を持っている。後ろを歩く省一。岩下志麻さんってスラッとしてスタイルいいな!

 

望月家

都「お父さん見て! どう? 良子」今日買った服を良子に着せている。

畳んだ布団に寄りかかって寝転がっている省一。「うん」

都「これ、セーターが5400円。スカートが2900円。ブラウスが2400円。このスカートなんて2900円に見えないでしょう?」

省一「分かんないね、俺には」体を起こす。

都「掘り出しもんよ」

省一「まあ、せいぜい安い物さがしてくれ。甲斐性ないからな」部屋を出る。

都「何言ってるの」

 

省一「魅力とやらもないからな」階段を上る。

 

都「ハァ…お父さんも大人じゃないんだから」

 

和彦は自室で模型の飛行機を見ていて、良子の部屋のドアが開くのに気づく。

 

真っ暗な良子の部屋に入った省一。やだぁ~!

 

リビング

都「お父さん、魅力あるじゃない? お母さんは、あるなぁ。私たちを捨てて勝手なことなんて絶対しないと思うし、お母さん、そういうの魅力だなぁ。そりゃ、そういう人は強い個性とか、そういうものは、ないと思うし、ダンスが下手だったり、カッコ悪い所もあるけど、でも、一生懸命、家族のために働いてくれてるし、良子をとても大切に思ってるし、『ステキじゃない』なんて言っちゃかわいそうじゃないかな?」

良子「そう思うけど…」

都「…だったら『ごめん』って言ってきなさい。『ホントはステキだ』って」

良子「だけど…」

都「うん?」

 

良子「お母さんは、それでいいの?」

都「『いい』って?」

良子「お父さんが機嫌直せば、あの人のことはどうだっていいの?」

都「良子も大きくなったね」

 

良子「長くないなら、なるべく会ったほうがいいに決まってるじゃない。私は…そりゃ、お母さんたちがあっちばっかり行ってたらイヤだけど、しょうがないじゃない」

都「ありがとう。良子がそんなこと言うなんて驚いた」

 

良子の部屋を出た省一は和彦の部屋をノックした。

和彦「良子、また何か言ったの? 気にすることないよ。ステキとか何とかタレントじゃあるまいし、関係ないよ」

省一「行ってこいよ」

和彦「どこへ?」

省一「あの家(うち)さ」

和彦「いいよ。行きたくないよ」

省一「そんなこと言うなよ」

和彦「大体、お母さんと行ったとき、ケンカして帰ってきたんだよ。もういいよ。ホントにいいんだよ」

省一は階段を降りていった。

 

リビング

都「いいの。もう、ちゃんと会ったんだし。あの人もこれ以上は期待してないわ。私には、この家が大事。この家とみんなが大事。いいの、もう」

省一「…だったら好きにしろよ。とにかく俺は止めない」部屋を出ようとしたが立ち止まる。「良子」

良子「うん?」

省一「ほかにお父さん何ができる?」部屋を出て行った。

 

都「お父さん、良子の言うこと考えてくれたのよ、ちゃんと。返事しなきゃ悪いわ。そうじゃない?」

良子は立ち上がり、リビングのテーブルの上のお盆に乗った省一の湯飲みを持って、省一たちの部屋へ行き、「ごめんね」と言って、湯飲みを置いて出て行った。

 

階段を降りてきた和彦と都が顔を見合わせる。

 

良子は制服で洋館へ。玄関を入り、スリッパをはき、応接間に姿がないので2階へ。「こんにちは。いませんか?」

⚟竜彦「うん?」

良子「こんにちは」

⚟竜彦「ああ」

良子「鍵が開いてたから、いると思って」

⚟竜彦「入って」

良子「はい」ドアを開けると、ベッドに寝ている竜彦がいた。顔色が悪くやつれている。

 

良子「こんにちは…」

竜彦「ああ」

良子「どうかしました?」

竜彦「いや。おいで」

うなずいてドアを閉め、竜彦の枕元に歩く良子。

竜彦「よく来てくれたね」

良子「どこか痛いの?」

 

竜彦「大丈夫だ。夜、起きててね、昼間、眠くなった。もう十分寝たから元気だ」

良子「そう」

竜彦「フフ…」

良子「ちょっと窓開けていい?」

竜彦「ああ、どうして?」

良子「クサイわ、この部屋」

竜彦「ハハハ…」

 

窓を開けた良子。「洗濯物とかお風呂とかどうなの?」

竜彦「3~4日ね」

良子「3~4日だけ?」

竜彦「ああ、おじさん、こう見えても割合きれい好きなんだ」

良子「フッ…そうかな」

竜彦「洗濯屋へは、よく持ってくんだ。ここんとこ、ちょっとサボった」

 

良子「起きられない?」

竜彦「起きる」

良子「いいの。起きなくていいの」

竜彦「いや」

良子「誰かいないの? 面倒みる人いないの?」

竜彦「いないんだ」

良子「新村さんっていう人は、どうなの?」

竜彦「ぱったり来ない」

 

良子「連絡してみるわ」

竜彦「いや、いいんだ、いいんだ」

良子「どうして?」

竜彦「『来るな』って言っちまった」

良子「ケンカ?」

竜彦「いいや、フッ…誰だって、こんなとこ来たくないじゃないか」体を起こす。

 

良子「そうかな?」

竜彦「先回りして言ってやったのさ」

良子「でも、私だって、そうそう来られないし」

竜彦「もちろんだ」毛布をかぶる。

良子「お兄ちゃんやお母さんも来れるかどうか分からないわ」

竜彦「ああ」

 

良子「でも、それ、お父さんのせいじゃないのよ。お父さんは、とっても男らしく『ここへは、いつでも行け』って言ったの。でも、お兄ちゃんもお母さんも『いい』って言うの。でも、来たくないから言ってるんじゃないのよ。お父さんに甘えちゃいけないと思ってるのよ。2人ともムリしてるの。だから、私が来たんだけど、できること、タカが知れてるし、ここにひとりでいるのいけないんじゃない?」

 

竜彦「コーヒーでも入れよう」

良子「なんとかすべきよ。このままじゃ気になってしょうがないわ」

ベッドから降りた竜彦。「買い物だけでも頼める人いるといいんだがね」ドアを開けて階段を降りる。

良子「いるわ。探すわ」

 

和彦の部屋

和彦「ベッドから?」

良子「そうよ。ベッドから起きれないの。行くべきよ。お兄ちゃん、行くべきよ」

和彦「メシなんかどうしてんだ?」

良子「今晩は作ってきたわ。カレーライスだけど」

和彦「起きれない病人にカレーかよ!」

良子「だから、あしたの午後、行ってよ。お兄ちゃんが頼んだことにして人が行ってるから」

和彦「俺が頼んだ?」

良子「いいから行ってよ」

和彦「何のことだ? 人って」

良子「だから、私がいろいろ考えて頼んだの」部屋を出て行った。

和彦「おい」

 

自室に入った良子に「おい! 何を頼んだ?」と聞く和彦。「誰に頼んだ?」

良子「行ってみりゃ分かる」ニコニコしてベッドにあおむけになる。

 

和彦が洋館へ向かう。外壁を掃除していたのは多恵子。

和彦「君か」

ニッと笑う多恵子。「あんたの頼みじゃ、しょうがねえよ。安心しな。毎日、来てやるから」

和彦「でも、君、こんな時間、学校じゃないの?」

 

⚟竜彦「いいじゃないか。どうせ勉強はしないんだ。短い間、ここで働くのも悪くない」窓掃除をしている。

 

和彦「起きてていいんですか?」

竜彦「ああ、このとおりだ」和彦の近くまで歩いてきたが、段差につまずく。「おっ…フフフ…(多恵子に)おい、しごいてやるぜ、ねえちゃん」棒で尻?をたたく。

棒を取り返す多恵子。「関係ねえよ。俺は、こいつの頼みを聞いてるんだよ」棒を放り投げる。

和彦「いや…僕は、そんなこと…」

竜彦「結構、結構。何でもいいから、しっかり働いてくれよ。久しぶりのツッパリは気持ちがいいや。ヘヘヘ…」

和彦が多恵子が投げた棒を竜彦に渡す。竜彦は水の入ったバケツを乗せていた台にぶつかり、水をこぼし、転んだ。「ヘッ…バケツ忘れてた。ハハハッ…アア…ハハハッ…」

 

帰り道

和彦「くどいようだけど、あんなに遠い所、毎日行くなんてよくないよ」

多恵子「いいよ」

和彦「問題になるよ」

多恵子「ならねえよ。とっくに学校は投げてるよ」

和彦「でも…」

多恵子「頼んでおいて、ゴタゴタ言うなよ」

和彦「だから、それは妹が…」

多恵子「頼んだには違いねえだろう」

和彦「そうだけど…」

多恵子「気にすんじゃねえよ」

 

和彦と多恵子の歩く道の前から学校帰りのセーラー服姿の女の子2人が歩いてくる。

 

望月家

脱衣所に逃げ込む良子。

和彦「よく面白半分でできんなぁ」

良子「面白半分じゃないわよ。暇があって熱心にやってくれるの、あいつがいちばんじゃない?」←”あいつ”って!

和彦「あんなのに借り作ったら、どうなるんだよ?」

良子「借りぐらい、なによ。親のことでしょう? お礼を言うべきよ、私に」セーターを脱ぎ始める。

和彦「冗談じゃねえよ」

 

良子「ヤダ。出てってよ、いやらしいなぁ」

和彦「いやらしいって?」

良子「人がお風呂入るところ見ないでよ」

和彦「ペチャパイが一人前なこと言うなよ」←言ったな!!!

 

⚟都「そんなこと言わないの」

 

良子「こっち見ないでよ」戸を閉める。でも、ここすりガラスなんだよな(-_-;)

 

ダイニング

都「体のことは言っちゃダメ。もう冗談でも傷つくんだから」

和彦「考え過ぎだよ」

都「そんなことないわよ。この間『下半身デブ』って言ったでしょう? ずっと気にしてたわよ」

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下半身デブって言ったの和彦なんだ! ひでぇ!!

 

和彦「あいつだって、俺の唇ボテボテって…」

都「男はいいでしょう?」

和彦「そんな勝手な話があるかな?」

都「そうね。このごろは男も顔だからねえ」

唇を触る和彦。

都「その点では、お母さんのおかげで随分、得してんじゃないかな?」とニコリ。

 

お風呂が熱いと騒ぐ良子。

⚟都「あっ…ごめん、うっかりしてた」

⚟良子「…だったらフタ開けといてくれればいいのに」

⚟都「ごめ~ん」

 

和彦「お母さん」

都「うん?」

和彦「こんなこと、もういいって言われるかもしれないけど」

都「なぁに?」

和彦「それだって冷たいとは思わないけど、あの人、相当悪いよ。廊下を歩くのに壁に手をやってるよ。明るい顔、作ってるけど。入院まであんまり時間ないんじゃないかな?」立ち上がる。「僕は時々行ってみるよ。『困ったら電話くれ』って言っちゃったよ」

 

洋館

1階の窓辺で毛布にくるまって寝ている竜彦。

 

明美「こんばんは。どうしてる? フフッ…まだ意地張ってる?」

 

タバコに火をつける竜彦。明美が応接間のドアを開けて入って来た。

 

竜彦「よう」

明美「フッ…しぶといじゃない。お元気?」

竜彦「ああ、お元気だ」

明美「かわいげがないねえ」

竜彦「フフフツ…」

 

明美「フッ…バカにしたような顔しないでよ」←酔っ払ってる?

竜彦「珍しいね。めったに乱れないのに」

明美「フッ…『乱れる』と来たか。おきれいなお言葉でございますこと。これはね、乱れてんじゃないの。荒れてんの。荒れてなくて、こんなとこに来ますか」ソファに座る。

 

竜彦「沖縄だったね?」

明美「沖縄?」

竜彦「…だろう?」

明美「あっ…あんなの3日よ。フフッ…帰ってくりゃ、ここに来ると思ったわけ? 大した自信ね。もうどうでもいいはずじゃなかったの? 違うの? 私のこと待ってた?」

タバコを吸う竜彦。

明美「私の買ってくる食料、待ってたか? フフフッ…」

 

竜彦「どうしたい?」

明美「『どうした』? 『どうした』って…あんたの知ったこっちゃないわよ。志摩半島行ってたの。遊び。誘う人あってね。悪い?」

竜彦「悪くない」

明美「愛想がないね」

竜彦「フフッ…」

 

明美「人バカにして…言うこと聞かないで…私だって考えるよ。すっごくいいお天気でさ、あんたのことなんか思い出しもしなかったわ。こんなとこいないでよ。どっか行っちゃってよ。目障りだったらありゃしないわ。来るんじゃなかった。来るの…もう、よそうかと思ったわ。病気治そうとしないなんて、ひどい侮辱だよ。『お前に未練なんか、もうない』って言われてるようなもんじゃないか」竜彦の膝にすがりついて泣く。「私も人がいいね。それでも、いい顔しちゃってさ。なによ? あんた。あんた、なによ? 人の気、引かないでよ!」

 

竜彦「帰りな」

竜彦にすがりついたままの明美

竜彦「帰るんだ」

明美「な…なによ? なによ! イヤ…はな…はな…」竜彦に引きずられる。

竜彦「二度と来るんじゃねえ」

明美「離してよ! イヤだ! 離しなさい、もう!」

竜彦「男くわえて遊び歩きやがって、気まぐれに来て、勝手なことをほざくな!」明美を背負って玄関まで行き「二度と来るんじゃねえ!」と追い出した。

 

明美「なによ? ムリしちゃって!」

明美の荷物を外に放り出し、玄関の鍵を閉める竜彦。

明美「開けなさいよ。何のマネよ?」ドアをたたく。

竜彦は階段に座り込む。

 

朝、多恵子が台所でエプロンをあてて作業している。

竜彦「慣れてるねえ。家でよくやってるのかな? 今の中学3年でそれだけできる子は少ないだろう?」

多恵子「機嫌取るんじゃねえよ。野菜刻めたってしょうがねえよ」

 

竜彦「フフッ…別に機嫌取ってるわけじゃない。あんたは、ご不満だろうが、俺の若いころを思い出すんだ。ほとんど口を利かなかった。利きたくないわけじゃない。先生とでも誰とでも気楽に軽口をたたけるヤツが羨ましいと思った。しかし、自分には到底そういうことができない。こわばっちまう。人とうまくつきあうのが難しい。相手は、どうせ俺のことなんかどうとも思ってないだろう。すぐそんなふうに思っちまう。両親亡くして、あっちこっちでジャマにされてたんだ。中学のころは小田原の在の遠い親戚のパーマネント屋にやっかいになってた。学校から帰ると、よく洗濯をした。店の白衣とか前掛けとか。まだクリーニングになんか出さなかったんだ。たらいでね、洗うんだ。それから夕飯の支度だ。これもガスなんてのはなくてね、薪でメシを炊いた。おかずは見習いの女の子が暇みて作りに来る。忙しいときは、それも俺が作った。ヘヘッ…今、考えりゃ、ひでえおかずだ。ハハハッ…コールドパーマというのがはやりだしたころでね。それに使う液を一升瓶持って、よく小田原へ買いに行った。くさいんだ。道で気に食わねえのとケンカして、それぶつけたら瓶が割れて、5~6人いた向こうも逃げ出したが、くさくて、こっちも逃げ出した。だから勉強もできなかった。ちょうどあんたと同じごろ、先生がね、廊下で『おい、沢田!』って呼んだんだ。『お前、卒業したらどうするんだ? ちっとも相談に来ないじゃねえか』って。今、考えりゃおかしいが、そんとき、俺はとっても意外だった。先生が俺のことを気にかけてる。それがすごく意外だった。担任の先生だ。それくらいの心配は当たり前だ。しかし、そんなふうには思えなかった。いつも俺なんかいないみたいにしてたからね。『はい!』なんてね、うれしくて舞い上がった。『高校なんてとんでもないと言われてるが、できたらどっかへ住み込んで定時制に通いたい』。夢中でしゃべった。ところが教師は俺のことなんか特別心配して聞いたわけじゃない。『そうか、じゃ、決めたら連絡に来い』とかね。明るくさっぱりと事務的に話を打ち切りやがった。『そうか、仕事として聞いたわけか』。水を差されたような気持ちでね、また自分の中へ閉じこもっちまう。やっかいな子供で自分でも持て余してた。なんとかほどよくピリピリしねえで、みんなとつきあえねえものかと思ってた。しかし、一方で誰とでも明るくつきあう連中を鈍感だとも思ってた。他人の気持ちに鈍感で物事を何ひとつ深く考えず、相手が本当に自分に好意を持っているかどうかなんてことが気にならなきゃ、それは明るくもできるだろう。しかし、俺は、そうはいかない。『あんな安っぽいヤツらとは違うんだ』。そういう気持ちがあった。『本当の好意、本当の愛情じゃなきゃイヤなんだ』…なんて思ってた。そんなヤツは嫌われちまう。しかし、一向に性格、変わらないでねえ。とうとうこの年まですねっぱなしだ。そのわりには、よくしゃべるね、ええ? ハハハッ…」

 

ギョウザ作ってんのかな? うまくしゃべれない人は一人でしゃべると意外としゃべるんだよ。会話のキャッチボールが苦手…私のことです(-_-;)

 

洗濯物を取り込む多恵子。竜彦は階段近くの電球を換えていた。

 

都が洋館へ。洗濯物を抱えて家に入ろうとした多恵子を目が合う。

 

都「ちょっとワケが分からないけど…」

多恵子が玄関に入り、戸を閉める。

都「あなた、三枝…三枝さんね? どうして? どうして、あなた、ここに?」玄関に入って来た。

 

竜彦「どうかした?」

都「ハァ…いえ…ごめんなさい、いきなり」

竜彦「いらっしゃい」

都「こんにちは。今の子、ちょっと知ってるような気がして」

竜彦「ああ、知ってるかもしれないね」

 

都「じゃ、うちのほうの子?」

竜彦「…だったら、いけない?」

都「でも、どうして? どうしてここに?」

竜彦「そんなに騒ぐことかな?」

都「だって、あの子、中学生よ。まだ学校あるし、なぜここにいるの?」

竜彦「働いてくれてる」

 

都「そんな…中学生を? 学校へやらないで? そうなの?」

多恵子「学校にしゃべったら、ひでえからな」

都「だって、捜してるんじゃないの? こんな遠くで…びっくりしたわ。どうして? 一体」

多恵子「さよなら」

竜彦「また来いよ」

多恵子は何も言わずに出て行った。

 

都「あなた、時々、ワケ分からないけど、何なの? 中学生を…」

竜彦「『連れ込んで何をしたか』か?」

都「ううん。そんなことは思わないけど、あの子、どういう子か知ってるの?」

竜彦「あんたは知ってるの?」

都「そりゃ、家の近くじゃ、もう札付きのグループの、それもいちばん手に負えない子で」

竜彦「やめてくれ」

都「良子にケガをさせて、もう一時は…」

竜彦「やめねえか! PTAのおばんみたいな口利くなよ!」応接間に入っていく。

 

都「PTAのおばんには違いないわ」

竜彦「いらやしかったぜ」

都「そんな…そんなこと言われたって」

ため息をつく竜彦。「俺は、あんたが自分を殺して生きてると思ってた。横浜で風切って歩いてた都さんが信用金庫の亭主に満足してるわけはねえと思ってた」

都「いきなり何の話?」

竜彦「いろんな気持ちを抑え込んで、なんとか平凡な亭主とつきあってると思ってた」舌打ちをする。「とんだ誤解のようだ。抑えなきゃならない情熱なんて、とっくに跡形もない。中学生だからどうだとか頭の固い、くだらん口を利いて。昔のあんたは、もっと人を見る目が柔らかだったぜ。あんたの言うとおりだ。人間は変わるね」

 

応接間に入ってきて扉を閉める都。「いきなりひどいこと言うのね。そりゃ変わるわ。あなたの気に入るようにしてたら生きていられないわ。あなただって、こんな所でまるで追い詰められてるみたいじゃない。変わるわ、そりゃ。でも、開き直ってるんじゃないのよ。寂しいとも思ってるの。随分ジタバタしたし、今もしてるわ」

竜彦「来てくれ。こっちへ来てくれ。すまなかった」

 

都「あなたが今の私の暮らしをバカにしたようなことを言うから、対抗上、幸せだとかちゃんとやってるとか強調しちゃうけど、平凡な生活だって、そんなに単純じゃないわ。ひとりでむなしくてたまらないときもあるわ。主人がつまらない人に思えて、叫びだしたいときもあるわ。どっか行っちゃいたいとか…フフッ…でもわりと周りの奥さんより我慢強いみたい。連れ子同士ってこともあるけど、しっかりしてないと子供なんて、すぐ変になるから…フフッ…愚痴は言わないことにしてるの。それとひとつには、あなたなんかとかなり好き放題なことやったでしょう? その思い出っていうのかな、そういうものに支えられてるところもあるわ…フフッ…もっとも大したことないのよね。フッ…好き放題っていったって、心の底から夢中になってムチャやったなんて、油壺でモーターボート盗んだときだけかな、フフフッ…ましてや、この年になると、今の暮らし捨てたって大したことないって、諦めちゃうところあるわ。つまらないおばんだって、いろいろ揺れてるのよ」

 

モーターボート盗んだって、サラッと言ってっけど、やっぱ都さんすげぇっす!

 

竜彦「台所、行こうか」

都「台所?」

竜彦「ああ、ウイスキーがある」

都「昼間からイヤだわ」

竜彦「昼間が何だい」

都「酔うと困るわ。5時には帰っていたいし」

竜彦「寂しいこと言うなよ。1日ぐらい昔に返るのもいいじゃないか」

都「ムチャ言わないで」

竜彦「ムリにムチャを言ってるのさ。ムリにでも言わなきゃ、こびりついた殻は取れやしない。まず、主婦であることを忘れる。子供のいることを忘れる。亭主を忘れる」壁伝いに歩き、応接間を出て行く。

 

台所に移動した竜彦。「そして耳を澄ます。自分が何をしたいか本当には何を求めているか。やはり子供の成長か? 家庭円満か? 亭主の優しさか? 金か? 健康か? それとも若さか? ひとりになることか?」

都は台所を出た。

竜彦「恋か? 若い男の肌か? 外国旅行か? 今とは全く違う人生。別の男との別の人生か…何してる?」ドアを開ける。「どうした?」

都「変わらないわね」

竜彦「おいで」

都「昔もよくそんなことやってた」

竜彦「昔は、つきあってくれた」

台所に戻った都。「もうダメ」

 

竜彦「そんなこと言うなよ。昔のあんたと…もう1回だけバカ騒ぎがしたい」食器棚からグラスを取り出す。「都さんがただスーパーの特売を気にかけ、子供の成績や亭主のボーナスで一喜一憂してるだけじゃ、あのころのツッパリは何だったんだ?」

都「だから、言ったでしょう?」

竜彦「『人は変わる』か? そう言っちまえば、おしまいだが、昔のあんたは自分をなんとかしようとしていた。自分を鍛えようとしていた。『どうせ人生こんなもの』なんて訳知りになることを嫌ってた」

都「だって、今の生活で何ができる? どう変えようがある? 毎日をなんとかちゃんとやっていくだけだって、結構大変なのよ」

竜彦「そんな決まり文句は聞きたくないね。変えようは…」酒を注ごうとしてコップからずれて注いでいた。

 

都「あっ…」

竜彦「ああ…やっちまった、ハハッ…悪いね。布巾」

都「はい」テーブルを拭く。

竜彦「飲もうよ。一度ぐらい飲んだくれたっていいじゃないか」テーブルを拭く都の手を握る。

 

望月家

飛行機の操縦でわちゃわちゃしている映画?を見ている和彦と良子。飛行機は爆発した。

 

良子「お兄ちゃん、もう10時だよ」

和彦「分かってるよ」

良子「どうする? お父さん、帰ってくるよ」

和彦「いいじゃないか。秘密でも何でもないんだ」テレビを消す。

良子「でも、今日行ったこと、お父さん、多分知らないよ」

和彦「言えばいいさ」

良子「遅すぎるじゃない」

 

和彦「しょうがないだろう? かけたって出ないんだから」階段へ移動。

良子「もう1回かけてみてよ。何かあったのかもしれないし」

和彦「自分でかけろよ」階段を上る。

良子「2階、行かないでよ。やぁよ、私がお父さんに言うの」

和彦「もともとお前が『行け』って言ったんだろう?」

良子「『お見舞いに行くぐらい自由に』って言ったのよ。『こんな長く行ってて』なんて言わないわ。こんなこと初めてよ。絶対『夕飯どうしろ』って連絡あるじゃない。何かあったのよ」

 

リビングに戻った和彦がダイヤルを回した。

良子「出ない?」

和彦「ああ」

良子「あの人、倒れて、病院行ったのかもしれないね。病院知ってる?」

受話器を置いた和彦。「病院からだって電話できるじゃないか」

良子「どうするの?」

和彦「病院知ってる人かけてみる」

良子「かけるって電話でしょう?」

和彦「番号だよ」階段を上りかける。

良子「新村さんっていう人?」

和彦「ああ、いるといいんだけどな」

 

今度は明美に電話するが出ない。

 

ドアチャイムが鳴る。

良子「どっち? お母さん?」

⚟省一「お父さんだ」

良子がドアを開け、良子・和彦が「おかえりなさい」と出迎えた。

 

省一「何だ? どうした? 2人で」

良子「うん…」

省一「どうした?」

和彦「何でもないかもしれないんだよ。もう、その辺、歩いてるかもしれないんだけど」

省一「『歩いて』って…お母さんか?」

 

車を走らせる省一。

 

良子<<私も一緒に行く>>

和彦<<僕も行くよ>>

省一<<何言ってんだ? 2人は家にいるんだ。行き違いになるかもしれないじゃないか>>(つづく)

 

次回

 早春

 スケッチブック

 最終回 ご期待下さい

 

ぎゃー! 予告なし。多恵子がここまで絡むキャラとは思わなかったけど、いちばん、竜彦と合いそう。