TBS 1970年8月20日
あらすじ
万吉(林隆三)は、大阪東町奉行の久須美佐渡守(島田正吾)にたのまれて、囚われの身である野々山平兵衛(二谷英明)を探すために、牢をひとつひとつ巡っていた。
2025.2.25 時代劇専門チャンネル録画
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原作:司馬遼太郎
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脚本:山田太一
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音楽:木下忠司
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万吉:林隆三…字幕黄色
小左門(こさもん):藤村志保…字幕水色
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いく:初音礼子
勘蔵:天王寺虎之助
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茶店の亭主:柳谷寛
加賀屋:若宮大佑
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同心二見:最上龍二郎
かごや:江波多寛児
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詰役:芹沢洋
番頭:山本武
尼:茜絵莉子
小僧:吉田次昭
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野々山:二谷英明
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桂広行
三輪猛雄
倉島襄
近江谷友三
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エースプロ
あらくれ
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プロデューサー:飯島敏宏
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技闘:大沢慎吾
イラスト:沼田彩
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演出:井上靖央
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制作:木下恵介プロダクション
TBS
牢に入れられては殴られる万吉。
小左門<お奉行さまの依頼で万吉が牢へ入ったのは、ひそかにひとりの男を捜すためでございました。江戸からの隠密、野々山平兵衛さま。奉行所役人の密輸事件を探って、逆に悪徳役人に捕らえられ、うやむやのまま命を奪われる瀬戸際におられました。隠密と自ら名乗ることは掟としてできず、どこの誰とも言えずにただ死を待つしかないお方。その野々山さまを捜し出すのが万吉の役目でございました>
牢名主の勘蔵が鼻歌を歌うと、万吉が咳払いをした。
<牢へ入って6日目。ちょうど5つ目の牢で万吉は、その方ではないかと思われるご浪人を見つけました。けれど、牢名主の許しがなければ口も利けぬ牢内。確かめることもできず、ただ穴の開くほど、そのお武家を見つめるばかり>
万吉は勘蔵にお話がありますと近づくが、詰役から気安く近づくなと突き飛ばされた。銭を多く納めていた万吉に牢名主は話す許可を出した。万吉は「あそこにいる大髻(おおたぶさ)とひと言ものを言わせておくんなはれ」と頼んだが、却下。何度か食い下がるが「牢名主さまいうたらな、しゃばの将軍さまやど」と胸ぐらをつかまれた。
万吉は、ただとは言わない、お頭の命を助けるとささやく。
勘蔵「われ、きちがいけ? 俺の命を助ける? 俺の命、助かったらな、うどんげの花どころか石に花が咲きよるわ。あほなこと抜かすな」とバカにする。
万吉「おら、よう聞け。わいはな、しゃばでは明石屋万吉といわれた、ちょっとは名の通った男や。噓は言わん」
勘蔵は堂島の相場を打ち壊した男だと知っていて、表情が変わる。万吉は放免とはいかないが死罪にはしないと約束した。ちょっと話しさせてもらうだけでいいとようやく許可をもらえた。
万吉「わいは万吉と申します。もしや江戸から来たお方と違いますか? うん、悪いようにはいたしまへん。どうかお名前を」
浪人「そのほう…人違いをしているように思われる。わしは名を言うほどの者ではない」
万吉「そやかて江戸言葉やおまへんか」
浪人「黙っていてもらいたい! この身、とても助からんと覚悟し、既にここを死に場所と心に決めておる。せっかくの心の落ち着き、乱さないでもらいたい」
万吉「だだ…旦那。助けさせておくんなはれ、ええ? 悪いようにはいたしまへん。どうぞお名前を」
浪人「名は言えぬ」
万吉「チッ…そうやな、それが掟やな。そやけど、この際だす。ひと言、言うとくなはれ」
浪人は黙り込んでしまった。
万吉は勘蔵に男の名前を聞きに行った。勘蔵も名前を知らず、牢のお役人も名前を言わなかったという。役人に何か頼まれてないか?と万吉が聞くと、驚く勘蔵。
二見という同心が牢の前を通りかかり、万吉を確認して、勘蔵を呼び出し、何やら耳打ちをした。勘蔵は詰役を呼び、他の囚人たちが万吉を押さえた。ゆうべは勘蔵が腹痛で延期になり、今夜やることになった。抵抗する万吉。浪人もさる同心の言いつけで口が塞がれることになった。水で濡らした紙があおむけになった顔に乗せられた。
しかし、抵抗した万吉は大声で「殺しや、殺しや!」とわめいた。「野々山さま、何してはります。立ち上がれ、立ち上がれ!」
野々山さま、強い! 「万吉とやら、礼を申すぞ」
屋形船に乗る佐渡守と万吉。皿に乗った羽二重餅を次々口に入れる万吉。佐渡守は6日間の牢暮らしをねぎらった。そこへ立派な侍姿の野々山が訪れた。丁寧に頭を下げる野々山に恐縮する万吉。照れくさく、船から出た万吉は川に落ちてしまった。
そのまま帰った万吉はいくに体を拭いてもらい、小左門は着物を着せた。
<けれど、事件はそれで落着というわけにはまいりませんでした。その翌年、藤の季節でございます>
中庭の藤棚の下で剣の稽古していた万吉にいくが手紙を持ってきた。顔を知らないお中間(ちゅうげん)がどこの誰とも言わず、「これを確かに万吉っつぁんにお渡しください」と慌てて帰っていった。いくは字は読めないが女性からの手紙であることは分かる。
今日、八つ
月江寺(げっこうじ)にして、藤を見たし
手紙にはそれだけしか書かれていなかった。藤を見に来いという誘い状だと思う万吉に、いくはどこの尻軽御前かい、男に付け文しさらしてと不快感を表す。
誰が行くかい、と言いつつ足を運んだ万吉。
八つ…午前2時および午後2時。おやつの八つか。
尼が近づき、「明石屋どのでござりまするか?」と話しかけてきた。尼僧についていくと、野々山がまた大坂へ来たので、1日も早くお目にかかって改めて礼を申したかったと現れた。照れる万吉。
野々山に茶を出され、飲む。野々山は公儀隠密のために大阪に来たのではない。久須美佐渡守が後任と交代することになった。後任は讃岐守吉明(さぬきのかみよしあき)すなわち野々山平兵衛だという。隠密として与力同心の悪事を探った野々山が今度は町奉行になった。礼も言いたいが、頼みもあると話を持ちかけた。
砂糖の抜け荷は加担した与力はまだ1人も処断されていない。捕まったのは同心とその手先。背後には与力がいることは明らかで、突き止めて処断したいが、まだ与力が誰と誰か分からない。唐物取締役の与力は6人。その中の何人かが分からないし、野々山ひとりではどうにもならない。
奉行所というのは伏魔殿のような所で、ほとんどが嫁取り婿取りで姻戚関係を結んでいる。与力の罪を与力を使っては探れない。気ばかり焦って東京から単身赴任してきた野々山には手も足も出ない。万吉に探ってほしいと頼み、引き受けた。野々山は人は一切使ってくれるなと条件を出した。
小左門に話しに行った万吉。「町奉行が頭下げて頼んできたんや。断るわけにいかんやろうが」
小左門「そうだね」
万吉「何ぞいい手ないやろか?」
小左門「そんな気の利いたもん、家の戸棚に入っちゃいないよ」
万吉「…んな冷たいこと言わんといてえな」
お奉行さまに頼まれたら断れないが、偉い人に頼まれて嬉しくもある。堂島の米相場壊したのとはわけの違う仕事だと小左門は指摘した。偉い人の言うことは当てにならない。お奉行さまと人情がで結ばれると、あとあと町人のためにならないことでも引き受けなくちゃならなくなるんじゃないかと危惧する。偉い人は何ていったって江戸の将軍さまが大事。いざとなれば町人のことなぞ考えに入れやしない。
万吉は小左門の言うことを素直に聞き入れ、ちょっとのぼせていたかもしれないと言うが、男は心意気がないと生きてる甲斐がない。「頼む」「よろしま」そういうつきあいが大事。「よろしおま」「やりまひょ」言うたから、やる。利用されたとしても後悔しない。相手の言葉信じたほうが勝ちで疑って長生きするよりまし。理屈は姐さんの言うとおりだが、ほんまもんのつきあいとはいいことも悪いこともいっしょくたにしてつきあうこと。悪いこととしても、そいつの頼むことだったら、やってこまそ思う顔がなかったら、ほんまもんのつきあいはできないと思っている。
これは例えで、お奉行さまとそこまでのつきあいしてるとのぼせてはいない。口先だけかもしれないが、今度のことは「やりまひょ」と言ってしまった。やらなしゃあない。
小左門「そやな。男やな、万吉っつぁんは」
あほやけど…と照れる万吉。
<結局、万吉が考え出したことは、自分を囮(おとり)にすることでございました。悪事をはたらく与力のこと、野々山さまと万吉のつながりを知らぬはずはない。そこで手紙を出して誘い出し、殺しにかかったら、その与力が犯人という際どい思いつきでございました>
手紙を書いていた万吉は、いくに使いを頼まれてくれと声をかけたが、小左門がいくはお鹿さんに油売ってるよと答えた。門番がいるところに手紙を投げ込んでくるので心配する万吉だったが、小左門は「おばんよりは逃げ足もあるよ」と万吉を笑わせた。小左門は昼間からそのつもりでいた。おばんを巻き込むことはない。
万吉は書いた手紙を見せた。
月江寺の藤が見事でござりまする。もし、ご清遊あそばすなら、明日、この万吉が毛氈敷(もうせんし)きを相務めます。
明後日でもよろしゅうございます。両日とも宵まで月江寺にてお待ち申し上げております。 明石屋万吉
いちばんあやしい田坂百助(たさかももすけ)から出す。そして、野々山さま宛ての手紙も書いていた。今度のいきさつともし万吉の死骸が帰ってきたら、死骸と一緒に証拠になる。
手紙をもらった者は嗅ぎつけられたと思い、十中八九斬りつけてくるだろうと予測。生きていたら誰か捕まえて証人を連れ帰る。小左門は男だったら万吉のような生き方がしたい、さぞいい気持ちだろうねという。小左門に褒められて嬉しい万吉。
藤棚の下で待つ万吉。甘酒屋から甘酒を運んでもらった。「つりはいらんで」とお盆の上に小銭を置く万吉に甘酒屋は喜ぶ。
数時間経ち、腰掛けの上には甘酒の湯飲み数個、団子の皿も重なっている。またなにやら運んできた甘酒屋は「親方も風流ですなあ。お若いのに偉いこっちゃ」と話しかけた。つりいらんでとまた小銭を置く。
団子を口に入れようとした万吉だったが、背後から葉ずれの音がし、緊張感が走る。「そこにおるのは誰や!」と声をかけると、お面をかぶった少年たちだった。
<1日目は何事もなく終わり、2日目もまた面白くもおかしくもない花の下で1日。夕方になってもそれらしき者は現れませんでした>
夕方になり、万吉が帰ろうとすると、甘酒屋がやってきて、「親方、明石屋の親方と違いますか?」と話しかけてきた。太融寺(たいゆうじ)まで帰るのなら、ろうそくは4~5本ないと足りまへんで、たくさんお金を使っていただいたので差し上げますと提灯を手渡した。
葉ずれの音に気付いた万吉は提灯はいらないだろう、このろうそく1本使い切るまで命があるかどうか分からんというと出入りでもあるのかと焦る甘酒屋。「亡者になって三途の川を渡るのにろうそくは要るまい」と万吉が言うので、ますます怯える甘酒屋に早く店に戻って店を閉めろと命じた。
万吉の前に、ちんぴらが現れた。万吉は煙草を一本吸わせろと煙管をふかす。周囲には数人のちんぴらや浪人が集まってきた。浪人と刀で対峙する万吉だったが、鐘撞台の上へ逃げ、刀を打ちつけた。斬ってはない…のかな?
逃げたちんぴらを捕まえ、誰に頼まれた?と聞く万吉だったが、ちんぴらは腹を殴られ気絶した。ちんぴらを背負って月江寺から出ると、駕籠屋が通りかかった。
駕籠屋「もしや、あんさん、明石屋の万吉親方やおまへんか?」
万吉「おう、そやけど」
駕籠屋は親方の顔知らなんだら大坂ではもぐりだっせと笑い、もう一人の駕籠屋にも万吉親方だという。気絶した男を運ぼうと頭を駕籠屋、足を万吉が持って立ち上がったとき、もう一人の駕籠屋が万吉の頭に石を振り下ろした。駕籠屋は笑う。
駕籠屋の1人は江波多寛児さん…江幡高志さんの旧芸名。
駕籠屋は駕籠を担いで、えっほえっほと唐薬問屋の加賀屋へ入っていった。加賀屋と番頭が怪訝な顔をして出てきて、なんで店へ連れて来たのかと不満そう。木津村の寮へ連れていけと言うが、駕籠屋は今からだと夜中になると話す。
ゴチャゴチャもめてるところ、駕籠の中で目を覚ました万吉は辺りをうかがう。
加賀屋は店の蔵に入れるように言い、駕籠屋は礼金を要求した。駕籠を蔵まで運び、そこで受け渡しをしようということになった。
加賀屋「あしたな、天満の与力さまに渡せ」
番頭「へい」
加賀屋「押し込みに入りましたって言え。あとはうやむやのうち、牢内で死ぬやろう。多少、色つけて駄賃渡せ」
番頭「へい」
しかし、駕籠屋が駕籠を担ぐと、万吉が駕籠の中で「火事や、火事や、火事やー!」と叫び出した。万吉は駕籠から転がり出ると、火事だと叫びながら縄をほどき、鍋をたたき、店の陶器を壊し始めた。
加賀屋は驚き、早く殺しちまえ!と命じた。
万吉「おら、加賀屋源兵衛! うぬが抜け荷の元締めかい!」
店の小僧たちも起きてきたが、万吉が陶器を割りまくっているので近づけない。
万吉「明石屋万吉はな、そない簡単に殺されへんで! 火事や火事や!」と叫び続ける。
わしが殺すと言いだした加賀屋は火事じゃないことを近所に言えと小僧たちに命じ、刀を持って近づこうとしたが、割れた陶器を踏んで痛がる。
外から見ていた駕籠屋たちは笑っている。
今度は万吉が加賀屋に近づき「こら、ものを言うな! もの言うと殺すぞ、おら!」とすごんだ。加賀屋を裸足で店内を歩かせ、店の者たちに「そこを1歩でも動くと、こいつの蔕首(へたくび)そぎ落とすで!」と脅した。
根本ということらしい。
万吉が加賀屋の首に刀を当て、加賀屋に歩くよう言う。
<事件はこれでようやく落着。唐物取締の与力のうち、3人が罪を問われ、改易。加賀屋源兵衛は追放のうえ、地所、財物を没収という刑でございました>
藤棚の下にいる万吉と野々山。
野々山「そちが命を懸けてくれた仕事、身共(みども)がこのように申してはいかんが、何やらむなしいのう」
万吉「へい」
野々山「2人がかりで1年の余も費やし、ようやくたったひとつの悪事をつぶしたにすぎん。しかも、これが江戸であれば加賀屋は死罪、3人の与力は切腹、5人の同心は打ち首というところだが…大坂は刑が緩い」
万吉「せやけど、お仕置きは野々山さまがお決めになったんでは?」
野々山「そうせざるをえなくてな」
万吉「…とおっしゃると?」
野々山「配下の与力衆、ことごとくが罪を軽くすることを主張した。江戸から単身赴任した奉行にはそれに立ち向かう力がないのだ」
万吉「そうだすか。せやけど、悔しゅうおまんな。結束して罪を軽くするやて? それやったら抜け荷と同じや。同じやり口や」
野々山「しかしな、それが公儀のお仕置きということかもしれん」
万吉「なんでだす?」
野々山「職権を利用して復讐を図れば、わしも一つ穴のむじな。手心が緩やかなのは、むしろ理にかなったことかとも思うのだ」
万吉「なるほどな。わいはとてもそんな心境にはなれまへんな」
野々山「そりゃ、わしとて同じだ。しかし、そう思うよう努めておるのだ」
万吉「へい」
野々山は万吉だから弱音を吐くのだ、友人と思うて吐くのだ、世話になったと言った。
<「お奉行さまの友人」をいう言葉を万吉がどのような気持ちで受け取ったかは知る由もありませんが、この年が文久3年。5年後に明治を控えて、ご時世の激しい波は、ようやく万吉の運命をも巻き込んでいくのでございます>
炎の中を走り回る万吉のイメージ映像。
ナレーター<幕末の風雲動乱。これが万吉に思わぬ仕事を与えた。播州一柳(ばんしゅうひとつやなぎ)藩の傭兵、平たく言えば侍になるわけである。そして集めた子分が200人。『俄』第7回をお楽しみに>
出演は
東野孝彦
初音礼子
ほか
ほうほう、木下恵介アワーでおなじみの人がいるね~。時代は明治へ。もうそろそろ明治時代あたりも時代劇としてジャンジャン放送してほしいけど、そういうこっちゃないんだろうな。

