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【ネタバレ】岸辺のアルバム 第15話(終)

1977/09/30 TBS

 

あらすじ

東京郊外の多摩川沿いに住む中流家庭。一見すると幸せそうに見える家族4人。しかし、実はそれぞれが問題を抱えていた。母・則子(八千草薫)は良妻賢母型の専業主婦。だが、見知らぬ男から電話がかかってくるようになる。はじめは知らん顔をするも、やがてその男と会うようになり…。父・謙作(杉浦直樹)は有名大学出の商社マン。しかし、実のところ会社は倒産寸前の状態だった…。娘・律子(中田喜子)は大学生。なかなかの秀才で大学も簡単に合格したはずだったが、ここ一年は家族に対して心を閉ざしている。やがて、アメリカ人男性と交際するようになるのだが…。息子・繁(国広富之)は大学受験を控えた高校生。決して勉強のできる方ではないが、心の優しい性格の青年だ。だが、両親や姉の異変に気付き、思い悩むことに…。

 

第15話

多摩川が増水し、付近一帯に避難命令が出された。久しぶりに一家4人が揃う。則子(八千草薫)たちは一時避難の際、田島家の記録であるアルバムを持ち出そうとする。

2022.10.12 日本映画専門チャンネル録画。

peachredrum.hateblo.jp

いつものオープニングではなく、先週の振り返りから。

 

玄関前

繁「お父さん倒れたって本当か?」

律子「本当だけど…」

繁「どうして俺に言わないんだ! いるとこお母さん知ってるのになぜ俺に知らせないんだ!」

 

謙作たちの部屋

謙作「男がデカいことを言って、うちを出てったんだ。こんなことで戻ってきちゃダメだ」

繁「見舞いに来たんじゃないか」

謙作「『お前には知らせるな』とお母さんに言った」

繁「どうして?」

謙作「お前は見舞いにかこつけて、ずるずる戻ってきちまうようなところがある」

繁「誰が戻るかよ。よくそんなことが言えるな」

 

律子「あの人は人間らしく生きてるわ。お父さんとは段違いにものすごく豊かに生きてんのよ。お父さんにあの人を批判する資格ないわ。お父さんなんか…」

則子「律子ちゃん」

律子「ただお酒飲んで働いてるだけじゃない!」

そばにあった杖を握りしめる謙作。

律子「暴力振るうの?」

律子のいないほうへ力なく杖を放り投げる謙作。

 

濁流の映像

 

階段

繁「登戸だって大騒ぎだから」

雅江「東京側がどんどん崩れてって大変でした」

繁や雅江が2階から荷物を運び出す。

則子「大丈夫だと思ってたんだけど…」

繁「雨、降ってるからね。毛布はともかく、これにくるんじまわないと」

 

狛江二中の教室に避難する謙作たち。ここでオープニング。

Will You Dance?

Will You Dance?

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最終回は毎回出てくる濁流のシーンなどがなく、晴れた穏やかな多摩川だけ。

 

しかし、オープニングが終わった直後、濁流のシーン。警官たちが田島家の前や川の辺りを慌ただしく動いている。

 

狛江二中

廊下では子供たちのはしゃぎ声がする。

 

教室

繁「あっ、お母さん買ってきた」

則子「あっそう、じゃあ後ほど」

女性「ええ、どうも」←近所の奥さんかな?

則子「ごめんください。かかったわね」

繁が紙袋から買ってきたものを取り落とす。

女性「大丈夫ですか?」←アドリブかな? 繁はガン無視して落としたものを拾いながらセリフを続ける。

繁「やっぱり売ってないんだよ。すごいね、こういうことがあると、たちまち、パンからジュースまで買い占めるヤツがいるんだからね」

 

壁にもたれかかって目をつぶって座る謙作。

則子「あら、お父さん、横になったら?」

繁「何よ、ずっとそうやってるの?」

雅江「横になったほうがいいわ。パン食べますか? 甘いパンしかないんだけど」

謙作「まだ降ってるか?」

繁「うん、ちょっとね」

雅江「ほとんどやんでます。こんなパンですけど…」

謙作「いや、結構」

 

則子「あら、ひどい汗だわ」

謙作「ああ、うとうとするとなあ」

 

繁「はい」缶ジュース?を手渡す。

雅江「サンキュー」

 

則子「これ」タオルを手渡す。

謙作「ああ…」

雅江「あっ、私、ぬらしてきてあげる。ねっ、ぬらしたほうが気持ちいいわ」

繁「悪いな」

雅江「何言ってるのよ」教室を出ていく。

 

繁「彼女がいて助かったよ。姉さんがいるよりずっといいよ」

則子「だけど、なんなの? あの子」

繁「『友達』って言ったじゃないか」

謙作「なぜ連れてきた?」

繁「なぜって東京側が大変らしいって彼女が言いに来たんだよ」

謙作「お前には前にも言ったはずだ。一度うちを出てからは軽々しく戻ってくるな!」

繁「うちが危ないんじゃないか」

則子「そうよ、来たの怒っちゃいけないわ」

謙作「なぜ1人で来ないんだ? なんだ、あの子は」

繁「なんだよ」

謙作「あんなのがお前の友達か」

繁「悪いかな」

則子「繁ちゃん、お母さんもちょっと驚いたのよ」

繁「いい子じゃないか」

謙作「何がいい子だ。礼儀知らずではすっぱで頭も悪そうだ」←酷い。

繁「うちのこと心配して来てくれたんだぞ!」

則子「大きいわ!」教室の他の家族に頭を下げる。

 

則子「あっ…。律子ちゃんよ」

謙作「ああ」

繁「姉さん、うちのほう行った?」

律子「警官がいて入れなかったわ」

則子「夕方、急に避難ってことになったのよ」

律子「雨、ほとんど降ってないじゃない」

繁「この辺の雨は関係ないんだよ。小河内のほうでいっぱい降ってダムがあふれそうでさ、どんどん放水してるから川がすごいんだよ」

 

雅江「あんまり水、冷たくないけど…」

則子「ありがとう」

雅江「子供たちが遊んでて、もう…。あら、新顔じゃない」

繁「姉だよ」

雅江「あっ、この人なの? 驚いたでしょう? 帰ってきて」

律子「誰? あなた」

繁「友達だよ」

雅江「フッ…よろしく」

律子「へえ」

繁「なんだよ、それ。『へえ』ってことはないだろう」

雅江「いいのよ、何も」

則子「よして、繁ちゃん。みんな気にしてるじゃないの」

繁「『よろしく』って言ってるじゃないか」

律子「いつまでこんな所にいるの?」

繁「いつまでいるか分かるわけないだろう」

律子「ダムのせいならダムが放水やめる時期は見当がつくわけでしょう?」

繁「また雨が降るかも分からないじゃないか」

 

愛想よくニコニコしてるのに雅江がそんなに悪印象を与えているのか分からん。繁と律子が会話してる時に、謙作は立ち上がり、教室を出ていこうとしていた。

 

則子「どこ行くの? お父さん。お手洗い?」

謙作「いいからほっといてくれ」

則子「お父さん」

 

廊下で走り回ってる男の子たちにぶつかりよろける謙作。

則子「どうしたの? お父さん」

謙作「なんでもない」

則子「帰ってもらうわ、あの子」

謙作「繁のヤツ、安っぽい口利いて大学へ行く気なんか全くなくしてるじゃないか」

則子「分からないわ、まだ」

謙作「律子も律子だ。帰ってくるなり文句しか言わない」

則子「こんな所へ来て普通じゃないのよ。ケンカして出ていったんだし、繁みたいにけろっとして優しいこと言えないタチだし」

謙作「バカに冷静だな。そういうふうに分かったような口利くから、あいつらがつけあがるんじゃないのか!」

 

宮部「部長!」

則子「宮部さん」

宮部「驚きました。通行止めなんて」

則子「こんな所まで…」

謙作「テレビかなんかで?」

宮部「いえ、全然知りませんでね」

謙作「そうですか」

宮部「堤防の向こうまで水が来てるそうですね」

謙作「ええ」

宮部「しかし、堤防はそう簡単には崩れんでしょう」

謙作「まあ、そう願ってますがねえ」

宮部「あっ…」タバコを差し出す。

謙作「あっ、こりゃどうも」

宮部もタバコをくわえ、謙作のタバコから火をつけた。

 

宮部「大丈夫ですか? お体」

謙作「ええ、だいぶ、よくなってるんで」

宮部「体育館かなんかに?」

謙作「いや、教室なんですが、通ってもらうのもどうも…」

則子「ホントに」

男性がやかんに水を入れて謙作たちの間をすり抜けていく。

 

宮部「いいえ、もうここですぐ失礼します。驚いたもんで、ちょっと…。ハハッ…、えっ?」

謙作「なんですか? いや、ただ見舞いに来てくださったというなら、あれですが…」

宮部「まあ、いいですよ。これ、奥さん、つまらないせんべいですけど」

則子「いつも申し訳ありません」

謙作「用事があるなら言ってください」

宮部「いやいや、大したことじゃないんです。やめときましょう、ハハハッ…」

 

教室

則子「大丈夫? お父さん」

謙作「大丈夫だ」

則子「気持ち悪いんじゃない?」

謙作「大丈夫だ」

雅江「顔色、悪いわ」

謙作「大丈夫だと言ってるんだ」

 

廊下

タバコを落として振り向く宮部から回想。

 

宮部「そうですか」

謙作「言ってくださいよ。何かあるみたいだ」

宮部「実は…明日の新聞にはデカくどうせ出るでしょうが…」

謙作「何がです?」

宮部「とうとう持ちこたえられないで…」

謙作「会社が?」

宮部「首脳陣全員、退陣です」

謙作「そうですか…」

宮部「銀行が入って当座の倒産はどうにか避けられそうですが、希望退職800名という募集があるはずです」

謙作「800名?」

宮部「まあ、事実上の倒産ですね。影響が大きいからなんとか食い止めてるというところで…」

謙作「そうですか」

 

謙作は宮部に対して敬語だったっけ? 会社にしばらく行ってないし、もう部下という感じでもないのかな。

 

教室

職員A「えー、マイクが故障いたしまして口頭でお伝えいたしますが、先ほど、市長が都知事自衛隊の派遣を要請いたしました。無論、これは受け入れられると思っておりますが、それに先だって警視庁機動隊、その他、応援部隊、報道陣などが続々当地に到着しておりますから、どうぞご安心ください」

男性A「堤防はどうなってますか?」

職員B「無事でございます。ご安心くださいますように」

男性B「あー、安心できないから自衛隊を要請したんじゃないのかね」

男性A「正確に伝えてくださいよ」

男性B「削られてんのかね?」

男性C「水で削られてるんじゃないんですか?」

時折、濁流の映像が挟み込まれる。

職員A「あのね…あの、こういうときには人心が不安定になるのが一番怖いんですよ」

男性A「だからウソを言うのかね!」

職員B「ウソじゃないですよ」

女性A「なんでもないんなら、どうして機動隊が来るんですか!」

市民たちは口々に抗議する。

 

職員A「用心のためじゃないですか。当たり前じゃないですか!」

男性「その言い方はなんだ!」

またしても抗議の声。

職員A「私に当たって堤防が補強できますか? 騒がないでくださいよ!」

 

子供がラジカセをいじり、音楽が鳴る。

子犬のワルツ

子犬のワルツ

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女性B「あっ、やめなさい!」

 

女性A「ウソを言うなと言ってるんです!」

職員A「ウソなんか言ってませんよ」

男性「堤防は大丈夫なんて子供だましみたいなこと言うんじゃないよ、あんた!」

田島家の面々はそのやり取りを見ている。

 

学校を出ていく謙作。

則子「お父さん、どこ行くの? お父さん」

どんどん歩いていく。

則子「お父さん、返事して。うちへ行こうっていうの? ダメよ、止められて行けっこないわ」

警官たちがたくさん動いている。

則子「どうしたの? どうしたの? お父さん」

謙作「『戻ってろ』と言ったじゃないか」

則子「お父さん…」

警官の外にたくさんのやじ馬が集まっていた。

 

謙作「お願いします」

近藤「なんですか?」

謙作「堤防はどうなりましたか?」

近藤「今のとこは無事だけど危ないね」

謙作「あの、私、この先の田島という者ですが、うちへ行きたいんですが」

近藤「ダメですよ、一切」

謙作「避難命令でなんにも持たずに出たんです。貴重品を取りに帰るぐらいの権利はあるでしょう」

近藤「危ないけんねえ」

謙作「『今のところは無事だ』と言ったじゃないですか! いや、その、今の間に貴重品を取りに行くぐらいの配慮は、そちらが取り計らうべきじゃありませんか? 相手は川なんです。うちは流されるかもしれませんよ。避難させて道を遮断して命さえ守ればいいというもんじゃないでしょう。何も出さずに流される者の身にもなってください」

近藤「私の一存じゃ決められんけんね」

謙作「聞いてきてください! 相談してください!」

近藤「そうは言っても持ち場を離れるわけにはいかんから」

 

金八の大森巡査といい、警視庁のお巡りさんは地方出身者が多いの!? 「本日も晴天なり」でも九州の言葉を話すお巡りさんがいた。

 

警察官「どうした? 近藤」

近藤「はっ! あの、こちらの方がですね…」

謙作「責任者の方ですか?」

警察官「なんですか?」

 

男性「冗談じゃねえってば! そんな…」という怒鳴り声も聞こえる。同じように家に入りたい住人だろうか?

 

田島家前

近藤「どこですか? ここですか?」

謙作「そうです」

則子「ありがとうございました」

近藤「いや、私はここで待ってますから。えー、5分ということですから今から5分です。もし5分以内でも危険が来たときには命令に従ってください」

なかなか鍵が開けられない謙作。

則子「開けましょうか?」

鍵を開けて家に入っていく謙作。

則子「じゃあ、すぐ戻りますので」

近藤「はい、もう30秒経過ですから」←細かい!

 

謙作は則子を家に入れると鍵をかけた。

則子「お父さん、鍵をかけたの?」

謙作「何が5分だ。5分で追い出されてたまるか」玄関、キッチン、洗面所、リビング、寝室と次々明かりをつける。

則子「どうしたの?」

リビングの窓ガラスが割れていることに気付いた謙作。「ここにいるんだ」

則子「バカなこと言わないで」

 

いつも窓辺にあったカナリアのかごがそのまま。

 

謙作「なぜバカなことだ! どんな思いでこのうちを買ったと思ってるんだ」

則子「ムチャ言わないでください」

謙作「他に何がある? このうちの他に何があるんだ」

則子「何がって…」

謙作「律子はあんな男と一緒になると言う。繁は出ていった。お前は何をした!」

則子「お父さん!」

 

割れた窓を新聞紙とガムテープで塞ごうとする謙作。「会社は倒産寸前だという。その上、このうちまでやられてたまるか! このうちだけだ、このうちだけが俺が働いてきた成果なんだ。このうちだけじゃないか!」

則子「堤防が危ないって言ってるのよ。このうちと死ぬ気?」

謙作「死んでもいいさ。学校に避難してたなんてどうかしてたよ。なぜ自分でこのうちを守ってやろうと思わなかった。守ってやるぞ。土手に立って守ってやる! 屋根にへばりついても守ってやる。流れたら一緒に流されてやる」

則子「バカなこと言わないで!」

謙作「繁も律子もどうせ思うように生きてくだろう。お前だって…」

則子「私だって、何?」

謙作「勝手に生きるはずだ」

則子「自分に罪はないの?」

謙作「罪だと?」

則子「私を非難したいのね。こんな家庭にした私を非難したいのね。あの子たちがああなったのは私のせいね。そのとおりだわ。少なくともあなたのせいじゃない。あなたはいなかったんだから。あなたのせいじゃない」

 

謙作「そんなことは…そんなことは言ってない」

則子「だからそんなに弱いのよ。たまに子供とぶつかると驚いてしまうんだわ。私はあんなことで子供たちを諦めないわ。あの子が小さいころから当てが外れることなんかいっぱいあったわ。今さらあなたのように大騒ぎしないわ。あの子たちが何をしたの? 殺人をした? 泥棒した? 放火をした? 人をだました? 何もしてないわ。あなた、いつも逃げていたから」

謙作「逃げてなんぞいない。俺は働いていたんだ」

則子「いつでも仕事していたわ」

謙作「それで食ってきたんじゃないか!」

 

ドアをたたく音

近藤「田島さん!」

 

則子「確かに食べてきたわ。あなたのおかげで食べてきたわ」

謙作「俺は一生懸命働いてきたんだ、何が悪いんだ!」

則子「じゃあ、なぜ会社は潰れるの?」

謙作「経営が悪かったのは不幸だ」

則子「身をすり減らして働いて人のせいでなんにもならないってわけ?」

謙作「それが事実だ」

則子「みんな人のせいなのね。子供も会社も悪いのはみんな人のせいなのね」

謙作「そんなこと言えるお前か? お前何した? お前ただうちにいて男つくっただけじゃないか!」

則子「あなたに罪はないの?」

謙作「聞いたふうなこと言うな!」

則子「あなたいつだって逃げていたわ。仕事に逃げて子供とも私とも本気で向き合おうとはしなかったわ」

 

ドアをたたく音

 

謙作「やかましいぞ!」

則子「アルバムが大事だって言ったわね。アルバムが大事でもホントの繁や律子や私は大事じゃないんだわ。あのキレイ事のアルバムとこのうちが大事なんだわ!」

 

ドアをたたく音

近藤「田島さん! 開けなさい! 開けなさい! 田島さん!」 

ドアをたたく音

 

則子「ぜいたくかもしれないけど…」

 

近藤「何をやってるんですか! 早く開けなさい! 田島さん!」

ドアをたたく音

 

則子「寂しかったのよ…」

 

ドアをたたく音

 

則子「寂しかったのよ…」

 

ガラスが割れる音

 

謙作「則子」

 

ガラスを割ったのは近藤だった。「何やってるんだ! あんたたちは!」

怒られるのもしゃーない。

 

九月一日

  九時四十五分

本堤防、五メートルに

     わたり決壊

 

土嚢を運ぶ機動隊。

 

近藤「学校へ戻ってなさいと言ったでしょう! 戻ってなさい!」

謙作「君にそんな口利く権利はない!」

近藤「あんた方は人の命令、無視したでしょう! ここにいるとまた何をするか分からんから学校へ戻ってなさいと言ってるんですよ!」

謙作「なんにもしないよ」

近藤「えっ?」

謙作「なるべくうちのそばにいたいだけだ」

近藤「おとなしくしててくださいよ」

 

雨に濡れた「田島謙作」の表札

 

水流は刻々と堤防の

下部をけずりとり

 住宅にせまった

 

積まれた土嚢。野次馬もいっぱい。住民?

 

自衛隊ジープで自宅に来た繁と律子。

 

拡声器・警察官「機動隊の了解を取りましたので、ただ今から流失の恐れのある家屋の方のみ貴重品を搬出するために僅かな時間ですが、各自宅に入っていただきます。搬出については警察官の指示に従っていただきます。時間は10分を予定していますが、状況により…」

 

繁「ごめんなさい、すいません。どこ行ったかと思ったよ」

律子「捜したのよ」

 

警察官「足元に気をつけて、急いでください」

警官について歩く田島家の人々。

繁「お母さん、土手がないよ!」

田島家から出て左手から見えていた土手がなくなっている。

則子「ホント」

律子「ホント」

警察官「前に行かないで、下がってください。みんな、下がって!」

 

拡声器「えー、電線は既に切断されております。懐中電灯を使用してください」

 

消防隊員「ここはダメだ! この一画は! もうとんでもないよ!」

警察官「えっ?」

消防隊員「危ないんだよ。もうそこ川なんだから! ここらのうちは、いつ持ってかれちまうか分からないんだ」

警察官「じゃあ、ここも?」

消防隊員「ああ。ここら4~5軒は危ないよ。この先で物置が1つ持ってかれちまってんだから」

男性「それはないんじゃないかね」

消防隊員「ないって?」

男性「何度も車出してくれっていうのをこの時間まで引き延ばしといて危険だからダメだってことはないんじゃないかね!」

消防隊員「そんなこと言うけど、もうそこ川なんだよ。土手がないんだよ! どんどん崩れちまってんだよ!」

男性「2分もあればいいんだよ。持ってくるものは分かってんだよ」

消防隊員「どうでもいいって言うなら勝手だ!」

警察官「ねえ、君、3分じゃどうかな?」

消防隊員「俺に聞くなよ! 俺はそんな責任取りたくないよ。勝手にするんだね!」

 

則子「1分でいいわ。急いで取りに行きます。どうしても欲しいものがあるんです」

繁「僕が行くよ、何?」

則子「アルバムよ」

繁「アルバムか」

則子「全部でなくてもいいわ。2冊でも3冊でもアルバムを取ってきたいんです。家族の記録なんです。かけがえがないんです!」

濁流の映像

 

田島家

繁が先頭になり家に入る。

繁「お父さんたちは外にいろよ。揺れてるよ! 揺れてるよ、お父さん!」

則子「2~3冊でいいのよ!」

律子「揺れてるわ。ぐらぐら揺れてるわ!」

謙作「繁! 早く下りてこい!」

則子「繁ちゃん! このうち、終わりよ。終わりよ!」

律子「早く! どんどんひどくなるわ!」

謙作「繁!」

則子「繁ちゃん!」

 

2階から降りてくる繁。「6冊ぐらいだよ」

謙作「いい、早く出たほうがいい」

則子「早く! えっ?」

繁「待って、お母さん!」

謙作「どうした?」

律子「どうしたの?」

繁「大丈夫だよ。まだそんなに早く行きゃしないよ」

謙作「何を言ってるんだ!」

繁「さよならを言おうじゃないか! さよなら! さよなら。さよなら…さよなら! さよなら、さよなら、さよなら!」家具の一つ一つに語り掛ける。食器が落ちてくる。「こんなに揺れやがって!」

たんすが倒れる。

則子「さよなら」

律子「さよなら」

謙作「ああ、さよならだ。繁! 出るんだ!」

玄関を出ていく謙作たち。

 

記者「だから次はこっちよ! この向こうのうち!」

記者「すいません、この辺に…」

記者「なんだよ、おい」

記者「何言ってんだよ」

ホイッスルが鳴る。

警察官「もうちょっと下がってよ、もうちょっと下がって!」

記者たちのもみ合う様子を見ている謙作たち。アルバムから落ちた1枚の写真を拾おうとした則子だったが、その1枚は風に舞い上がって飛んでいった。

 

記者「失礼ですが、田島さんですか?」

近藤「ちょっと! 今はやめときなよ。自分のうちが流されるんだ。私が付き添って臨終に立ち会っておるんだよ」

消防隊員「あー、来るぞ! このうち、やられるよー! 行っちゃうよー!」

とうとう家が流され始めた。記者たちはいっせいにライトを当て撮影を始める。流されるカナリアのカゴ…やめてくれ! ドラマ中も誰も気にかけた様子もなかったし、ただのインテリア扱いだったな…。でも、家の中に入った時から空だった気もするけど。それでも…昔のドラマの動物の扱い…! 流される家を見つめることしかできない謙作たち。

 

字幕では近藤、オープニングでは若い警官として桐原史雄とあった。なんか、見たことあるような?と思ったら、「おしん」の年を取った禎の夫・辰則だった。

 

避難先の教室

則子は女性と話し込み、繁は身振り手振りを加えて近所の人に被害の様子を説明、その隣に律子も座っていた。謙作も壁際にもたれかかって座り、男性と話していた。ここまで音楽だけで人の声は聞こえない。

 

謙作の前に向かい合った男性はタバコの箱を置く。

謙作「いやー、いやいや、これはどうもどうも。ハッ…何よりです、どうも」

 

実際に流された家の映像。悲しい。

 

九月二日正午までに、

流失した住宅十戸に

及び、尚危険は続いた

 

教室の一角でお握りを食べる田島家。トレイの上にも数個のお握りとたくあんが乗っている。すぐ近くに灰皿。食後の一服、吸う人はいいだろうけどねー。

 

濁流に流される家。

 

ヘリのローター音

 

都、区、近隣の人からも

さまざまな救援物資が

      到着した

 

トラックからそれぞれ救援物資を取り出す。謙作も荷物を持って学校の廊下を歩いていたら、男性にぶつかり紙袋を一つ落としてしまった。杖をついてもう一つ紙袋を持っていた謙作はそっとかがんで落とした紙袋を拾おうとする。周りの人たちは忙しそうに走り回って手伝おうとしない。袋から飛び出した菓子パンを拾ってくれたのは北川さんん!!

 

謙作の紙袋に菓子パンを入れ、荷物を持たせた。

謙作「ありがとう」

北川「いえ」

 

おー! そのまま校内へ入っていく謙作と外に出ていく北川と。北川さんも近所だし、田島という名前も知ってんだから、則子の夫であることは…顔は知らないのかな?? W不倫とかしてるのに、北川さんに対しては優しいのよねーとか思ってしまう(^-^;

 

当時の映像

川を見ている野次馬? 住人?

 

トラックから大量の石が下ろされる。ヘルメットをかぶった自衛隊員なのか警察官なのか石を運ぶ。

 

学校内では女性たちが掃除している。

 

市長、市会議員、

宗教団体、国会議員

などが次々と被災者を

      見舞った

 

やっぱり宗教の人ってすぐ来るんだ。このドラマだとお坊さんが被災者の話を聞いてる感じになってるけど。

 

当時の映像。杭を打つ人。このヘルメットの人たちは自衛隊員?

 

夜、土手に立っている則子。

後ろを歩く男が「もう終わりじゃないかよ」と言いながら通り過ぎる。

則子はポーチの中から、北川と別れる時にプレゼントされたネックレスを取り出すと川へ放り投げた。

繁「お母さん」

則子「あら」

繁「疲れちゃうよね、人が大勢来て」

則子「うん」

繁「まだ崩れてるんだね」

則子「うん」

 

繁「何捨てたの?」

則子「えっ?」

繁「なんか川へ放ったじゃないか」

則子「うん。要らない物だから捨てたの」

繁「何も…」

則子「えっ?」

繁「なんにもなくなっちゃったんだから、あんまり景気よく捨てるなよ」

 

当時の映像

自衛隊のヘリコプターが到着。

 

自衛隊の人は迷彩の服着てるんだから、白いヘルメットは機動隊?

 

堰堤爆破により

水の流れは変わり

濁流がようやく

勢いを失った時

倒壊流失した家屋は

十九棟に及んでいた

 

教室ではなく和室にいる田島夫婦。訪れたのは中田と絢子。

謙作「そりゃ、捜させちゃって悪かったなあ」

中田「いいえ」

絢子「この人、変な人に聞くから」

謙作「うん?」

中田「市役所の人じゃないか」

謙作「おい、もめるなよ、フフフフッ」

 

律子「お茶をどうぞ」

中田「ああ、どうも」

絢子「すいません」

中田「しかし、教室で寝るというのはキツかったでしょう」

謙作「いやあ、どうせゆうべはろくに眠れなかったからね」

絢子「ああ、じゃあ、お疲れだわ」

謙作「いや、ところが全然眠くないんだよ、ハハハハッ…」

 

中田「市のもんですか?」

謙作「ああ。福祉会館っていうんだ。畳でありがたいよ」

絢子「でも、他のうちの人と一緒で大変ですね」

謙作「そのほうがいいんだよ。わーわーしてたほうがショックが少ない、フフフッ…」

中田「ああ…」

 

中田、ドライな男だと思ったけど、さすがに昭和の男だった。

 

給湯室にいる律子。「あら」

堀「大変な目に遭ったね」

律子「ええ」

堀「ゆうべ、二中のほうへも行ったんだが」

律子「そうなの」

堀「僕が顔出すと、ご両親、余計な思いをさせるかと思って」

律子「ありがとう」

堀「要る物ないかい? すぐ欲しいもの用意させてもらうけど」

律子「そうね、ないものねだりだらけだけど電気釜が欲しいわ」

堀「分かった」

 

堀先生、白シャツにズボンかと思ったら、白シャツに脇に白線の入った黒っぽいジャージを履いていた。先生っぽいファッション。

 

和室

田島家のスペースに雅江が来ていた。

繁「枕?」

雅江「そっ、枕。こういう所の枕、なんとなく気持ち悪いでしょ? だから枕だけは新しいので寝てもらおうと思って」

繁「すげえ枕だなあ」

謙作「いや、ありがとう」

則子「どうもありがとう」

雅江「いいえ、気にしない気にしない。フフフッ」

 

夜、雑魚寝

涙も渇いて起きている女の子。

 

律子「繁」

繁「うん?」

律子「いつまでここにいるのよ」

繁「いつまで?」

律子「いいの? お店ほっといて」

繁「『なるべくそばにいてやれ』ってマスターが言ったんだ」

律子「帰りなさい、明日、こっちは大丈夫だから」

繁「追い出すようなこと言うなよ」

律子「あなたの仕事を思って言ってるんじゃないの」

繁「すぐしらけること言うんだから、もう」

 

則子「迷惑よ」

繁「姉さんだもん!」

律子「言い返すからでしょ」

則子「やめて」

 

謙作「眠れないなあ」

則子「あっ、いびきかいてたわ、お父さん」

謙作「ハッ、かいてるもんか」

則子「かいてました」

繁「お母さんもかいてた」

則子「ウソ」

繁は腕で口を押えて笑う。

則子「ホントに」

 

謙作「下流になあ…」

則子「ええ」

謙作「下流へ下りていくと残骸がたくさん岸に流れ着いているそうだ」

則子「そう」

謙作「上月(こうづき)さんの娘さんがピアノが泥に埋まってるのを見てきて泣いてた」

則子「そう…」

 

謙作「わが家の残骸なんか見たくもないかもしれないが」

繁「見たいよ」

則子「行ってみましょう、明日」

律子「うん」

 

謙作「何があるかなあ」

則子「ええ」

繁「台所のテーブル」

則子「ソファー、ミシン」

律子「本箱」

謙作「何にしてもひどい姿だろう」

則子「ええ」

 

翌日

土手に並ぶ4人。繁が何かを見つけて律子と走り出した。草原の中にあるピアノ。しばらく見つめていた謙作と則子だったが、謙作が杖で草を払いながら歩きだした。しまいには杖を担いで歩いている。

 

則子「フフッ…」

則子の脇には律子、繁もいて、則子が謙作を指さして3人とも笑う。

繁「お父さん!」

 

謙作「見ろ、ひどいもんだ」

繁「ホントだね。あれ、ベランダの柵だけどうちのじゃないね」

謙作「うん、うちのじゃない」

繁「お父さん」

謙作「うん?」

繁「お母さんたち笑ってるよ」

謙作「何を?」

繁「つえだよ。つえ担いでるじゃないか」

謙作「うん?」

 

則子「ショックで治ったのよ」

律子「気がつかないんだから」

謙作「ハハハハッ…ホントだなあ」

繁「今頃言ってるよ」

一同の笑い声

 

則子「あっ、お父さん」

謙作「うん?」

則子「あれ。あれ、うちのよ!」屋根を見つけて走り出す。

律子「うちのよ!」

則子、繁、律子、謙作の順で走る。

 

則子「うちのだわ!」

繁「ホントだ、うちのだね」

律子「うちのよ、うちのだわ!」

謙作「うちのだ」

 

屋根の上に乗る律子と繁。

律子「まるで蓋みたいじゃない? 屋根をどかすと2階があって私の部屋があって…」

繁「僕の部屋があるみたいだ」

 

則子も屋根に乗る。「よく壊れないで…よく…」

謙作「ああ、そうだなあ。そうだなあ…」

屋根の上に乗る4人。

 

繁「いいじゃないか。みんなで働けば、また、うちぐらい建つさ。さっぱりしていいじゃないか」

謙作「そうだ、さっぱりしていい。いい機会だ、出直せということだ。こんな所でなんだが、お父さん希望退職の募集に応じようと思う。別な生き方ができるはずだ。やってみようと思う」

則子「そう」

謙作「フッ、ちょっと遅いがなあ」

則子が首を振る。

 

繁「僕がおごるからさ、どっかでなんかうんとうまいもの食べようよ」

謙作「ああ、食べよう。豪遊しよう」

繁「豪遊は困るよ」

律子「私も出すわ」

則子「みんなで出して割り勘の豪遊しましょう」

謙作「ああ、ハハハハッ…」

いつまでも屋根の上に佇む4人。

 

中華料理店

やっぱりこの時代はイタリアンだフレンチだという感じじゃなく中華料理なのかな。

peachredrum.hateblo.jp

山田太一さんが中華料理好きとか?

 

謙作「律子」

律子「えっ?」

謙作「堀君ともう一度会ってみよう」

律子「ありがとう」

 

繁は知ってたのかな? びっくりするね。

 

謙作「繁」

繁「何?」

謙作「夕方には店へ帰るんだな」

繁「ああ、そうするよ」

謙作「自分が選んだ道だ。やるだけやってみろ」

繁「ああ、やるだけやってみるよ」

謙作「うん」

 

土手を歩く4人。

繁「でも、お父さん」

謙作「うん?」

繁「あんまり物分かりよくなるなよ」

謙作「なるもんか」

繁「お母さんにもなんか言えよ。2人に言ったんだからついでになんか言えよ」

謙作「ついでってことがあるか」

律子「言いにくいわよね、子供の前じゃ、フッ」

 

則子の隣に立つ謙作は子供たちのほうを向いて「言わなくても分かってるんだよ」

律子「あーら!」

繁「聞かせてくれる!」

一同の笑い声

 

これが三年前の

田島家の姿である

そして

 いま――

この四人が

どんな幸せの中にいるか

どんな不幸せを

 抱えて生きているかは

みなさんの御想像に

ゆだねた方が

  いいだろう

 

歩いている4人の人影が小さくなり、スタッフロールが流れる。(終)

 

余韻の残る終わりでいい! 年甲斐もなく少女漫画が好きでよく読むんだけど、ここ10年くらいか、両思いで終わりじゃなくて、それから○年後、2人は結婚して子供が2人…みたいな展開が結構多くて興覚めだったから、こういう終わりでよかった。

 

ドラマでは、これまではっきり年月日は出してなかったけど、水害が起こったのは1974年だから、ドラマの始まりは1973年の夏で、繁はその年に高3ということになる。

 

田島繁 1955(昭和30)年生まれ

 

マイホーム建てて9年って最初のほうに言ってたから、謙作がマイホームを建てたのは、1964年の東京オリンピックの年か~。

 

堀先生は1974年に37歳だから、1937(昭和12)年生まれで律子は繁の一つか二つ上だから16歳差くらい。

 

以前、この番組を見たから「岸辺のアルバム」に興味湧いた。また見たいな。覚えてるのはこの屋根のエピソードは実話ということと、その後、裁判などがあり、同じ場所に家を建てた家族と別のところに移った家族がいたことなど。

 

ドラマの裏話もいろいろしてたのに忘れちゃったよ~。ドラマの総集編として屋根のシーンも流したし、結構ネタバレはすごかったけど。

 

ホントに面白いドラマでした。今ではなかなか災害にからめたドラマというのはドキュメンタリータッチでない創作では作りにくいだろうな。