TBS 1974年4月17日
あらすじ
再検査の結果、一郎(春田和秀)の血液型はやはりB型であった。夫婦揃って再検査を受けたところ、一郎は大吉(松山省二)夫婦の子ではないことが証明され、病院で取り違えられた可能性が高まる。
2024.4.26 BS松竹東急録画。
福山大吉:松山省二…太陽カッター社長。字幕黄色。
福山紀子:音無美紀子…大吉の妻。字幕緑。
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和泉和子:林美智子…元の妻。
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滝沢春生(はるみ):高沢順子…和子の姪。
西城:佐々木功…保健所の血液型担当職員。
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福山隆:喜久川清…大吉の弟。浪人生。
鍋谷孝喜…太陽カッターの従業員。
田尻丈人…太陽カッターの従業員。
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福山一郎:春田和秀…大吉、紀子の息子。小学1年生。
和泉晃:吉田友紀…元、和子の息子。小学1年生。
ナレーター:矢島正明
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福山ゆき:小夜福子…大吉の母。
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和泉元(げん):杉浦直樹…中学校教師。
わが子を愛しいと思う親心のほとんどは自分と血がつながっていると思うからではないでしょうか。ところが、一郎は大吉の血を受け継いではいなかったのです。その事実をゆきはまだ知りませんでした。
洗濯物を取り込むゆき。「どうしてるかしらね。Bでなきゃいいんだけどね。お天気ばっかり良くたってしょうがないわね、ホントに。まあ、よく乾いちゃって。ハァ…それにしても、もうぼつぼつ帰ってこなきゃ…隆、今、何時だい?」
隆「うるさいなあ。気が散って勉強になりゃしないよ」
3時だと答えた隆に気が散るほど勉強してんのかね?と言うゆき。隆の部屋から物干し場に行ける感じなのかな。ゆきはさっき田口さんから電話があったが、夢中で勉強してるからと断ったと話した。「だって気が散るじゃない」
隆「くさるよ、まったく」←木下恵介アワーの若者がよく言う言葉。
隆は目覚まし時計を止め、ゆきと一緒に1階に下りた。
ゆき「3時のお茶なんて働き者の職人が言うことだよ」
隆「だから、大学を出ようと思って勉強してるんじゃない。何かないの? 食べる物(もん)」
ゆき「冷蔵庫の上にバナナがのってるよ」
一郎のためにバナナだけはある。
一郎が一人で箱を抱えて帰宅。大吉たちはもう一度保健所に行くとバスに乗るときに別れた。そうそう、昭和は子供が割と一人で長距離を歩いたり、バスに乗ったりしていた。
一郎「これ買ってもらっちゃった。電池で動くんだぞ」
ゆき「わあ、ステキな自動車じゃないか」
一郎「行ってくるよ、公園へ」
いいものがあると止めたゆきだったが、「いらないよ、バナナなんて」と出て行った。
ゆき「あんなこと言ってる」
隆「ほらね、一郎も言うときは言うんだよ」
ゆき「私が食べるから持ってらっしゃい」
電話が鳴り、ゆきが出た。大吉からの電話で一郎が帰ったか聞いた。大吉と紀子の血液型が間違っているかもしれないので、一郎をバスに乗せてから引き返した。二人の耳たぶには小さなテープが貼られている。一郎はやっぱりB型だったと報告。「今、検査してもらった結果待ってるんだけど、これで俺たちのほうが間違ってたら、とんだお笑いだよ」
ゆき「そう願いたいね、ホントに」
なるべく早く帰ると電話を切った大吉。
隆にバナナを渡されたゆきは「バナナどころじゃないよ、ホントに」と言いつつ、バナナを受け取り、皮をむいて、小さく折って食べてた。
この日、親子3人の血液型が改めて検査されたわけです。その結果、3人の血液型はそれぞれ正しかったのです。それはあくまでも一郎が大吉の子ではないことを意味していました。
茶の間で夕食をとる福山家の面々
隆「ほらほら、一郎こぼしたぞ」
紀子「一郎。よそ見しないで食べなさいよ」
一郎「あっ、お父さんもこぼした」
大吉「うん? おう、1粒だけだよ」
隆「親子でこぼしてりゃ世話ないや」
顔を見合わせる大吉と紀子。
食べ終わった一郎はテレビをつけた。
大吉「こら、一郎。そんなそばで見ると目、悪くするぞ」
一郎「だって、お母さんが邪魔なんだも~ん」
紀子「じゃあ、お母さんどくわ。もう済んだから。ごちそうさまでした」台所に食器を運ぶ。
テレビから流れるのは郷ひろみさんの歌声。
郷ひろみ「花とみつばち」1974年3月21日発売。「おやじ山脈」出演の縁もあってか、「思い橋」でも郷ひろみさんの歌が流れてた。
2階へ行った紀子を気遣い、大吉にも2階へ行くように言うゆき。ご飯をお茶で流し込んで食べる大吉。お茶もみそ汁も湯気が立ってるな~。
隆「なんだか変なことになったね」
ゆき「なるに事欠いてね。お前もとんでもない本を読んでくれたもんだよ」
隆「そういうことになんのかな」
物干し場
「あしたからの恋」の物干し場に似てる。
大吉「どうしてそんなとこにいるんだ?」
紀子「居場所がない感じよ。このうちの中で私の」
大吉「バカだなあ。このうちは立派に俺とお前のうちじゃないか。苦労したよな、これまでになるには。お前と結婚したときだって、もっとひどかったよな。オンボロのうちで二間しかなくってさ。おふくろなんて…お前が一緒に住んでくれるって言っただろ? ほら、渋谷のハチ公の銅像の前で会っただろ? あの晩だよ。俺はうちへ帰ってきて、すぐそのことをおふくろに話したんだ。そしたら、おふくろったらさ…どういうふうに言ってもホントにしないんだよな。今どきそんなお嫁さんはいないって。それで、おふくろ、頑固なとこがあるだろ? なまじっか一緒に住んで気まずくなるよりは私のほうがアパートのほうへ行ってもいいんだなんて言いだしてさ。そのくせ…いつかも話しただろ? その翌日だったかな。俺がうれしくって1人で夜中に酒飲んでると、おふくろ起きてきてさ。私にも1杯ついでおくれよって言ってな。そうだな、おちょこで3~4杯飲んだかな。そしたら、おふくろったらな…ホントにありがとう。その紀子さんっていう人によろしく言っておくれって、おふくろはとってもうれしく思っているよって言ってねって、おふくろは涙流していたんだぞ。今だって感謝してるんだよ、お前には」
おお~、すごい長台詞!
紀子「私だって、お義母(かあ)さんのおかげで教養もないのに、とにかく今日まで幸せできたんだもん」
大吉「今日までなんて言うな。これからだってもっともっと幸せになるんだ。それをなんでお前、このうちに居場所がないだなんて言うんだ。バカだな。さあ、行こう。なっ? 母さんだって気にするよ」
紀子「ちょっと待って。一郎があなたの子でないとすると、じゃあ一体なんのために私はこのうちにいられるの?」
大吉「当たり前じゃないか。お前は俺の女房だもの。このことだけは間違いじゃないだろ?」
泣きながら大吉に抱きつく紀子。
「太陽の涙」でフットワーク軽く来客も多いはつさんを見ていると、必ずしも同居がいいとは限らない。むしろそっちが理想的。50年前でも同居に同意する嫁は少数派だったのかな。都会はすぐ近くにアパートを借りられるというのもいいな。
台所で片づけをしているゆきに一郎が「お父さんとお母さんどうかしたの?」と話しかけてきた。ゆきは「どうもしやしないよ」と答えた。
一郎「保健所へ行ったり、耳から血を採ったり、僕だって耳がチクッとしたよ」
ゆき「うん、そりゃね。たまに検査をしてもらわないと悪い病気にかかったら大変だろ?」
一郎「そうか。それだけか」
ゆき「それだけって? 何よ?」
一郎「赤ちゃんが生まれるといいね」
ゆき「ハハハッ。赤ちゃんが生まれると思ってたの」
一郎「だって、1人じゃつまんないもん」
ゆき「だけど、1人だったらなんだって買ってもらえるじゃないか」
一郎「だって、電気屋のひろちゃんのうちなんて子供が3人もいるんだよ」
ゆき「だけど、3人だったら、こんないい自動車買ってもらえないじゃないか」
一郎「違うよ。戦車だって消防自動車だってあるよ」
ゆき「だけど、そんないいんじゃないよ。さあ、これ持ってって見せてあげなさい。きっと欲しがるよ」
一郎「うん、見せてくるよ」
これまでの木下恵介アワーの子役はキャストクレジットにも名前は出なかったし、セリフのあるような役もほとんどなかったように思う。昭和の子役は棒読みっぽい子も多いけど、時々こうしてうまい子役がいる感じ。
茶の間
隆は寝っ転がって新聞を読んでいたが、ゆきが来て起き上がる。「ねえ、母さん。こりゃあれじゃないかな。どうもそうじゃないかと思うんだけど」
ゆき「あれって何よ?」
隆「取り違えだよ、産院の。ほら、いつかも新聞に出てたじゃない。きっとそうだよ。あの産院ならやりかねないよ。だけど、そうなったら事だな。一郎がどっかのヤクザの子供だったりしてさ。あいつ、入学式の前の日にどっかの子供の鼻に噛みついたろう? あれなんだ、きっと。ああいう凶暴な血が流れてるのかもしれないな。こりゃとんだお門違いってとこだな」
ゆき「隆! バカなこと言うのもいいかげんにしなさい! あんまり頭のいいほうじゃないことは知ってたけど、これほどバカだとは思わなかったよ。言うに事欠いて、今、そのためにみんながどんな気持ちでいるか分かってるの? そりゃ私だって、とっくの昔にもしかしたらそういうこともあるのかと思いましたよ。だけどね、思っていても口には出して言いたくないことですよ。一郎はうちの子供ですからね。どんなことがあったって、私の孫だからね。他に孫なんていやしないよ」
朝、従業員たちに1時間ぐらいたったら行くと伝えた大吉は、ゆきに現場行く前にもう一度保健所に行って相談してくると言った。「一郎が俺の子じゃないとすると俺たち夫婦の子でもないとしか考えられないんだよ。バカバカしい想像かもしれないけどさ。産院で取り違えられたってことだって考えられるかもしれないしね」
ゆき「ねえ、大ちゃん、いいのかい? そんなこと調べちゃって。もしもだよ…もし一郎が取り違えられた子だったらどうすんだい? ねえ、行かないほうがいいんじゃないのかい?」
大吉「でも、このままうやむやにはできないよ。とにかく行ってくる」
だけど、調べないと、紀子は確かに出産したのだから、紀子が誰の子を産んだ!?ってことになっちゃう。
あくまでも親子のつながりを求める大吉は紀子を説得して、再び親子3人の血を採りました。その血液は大学の法医学研究室に送られ、より厳密に検査されました。その検査には1週間が必要でした。その間、若い夫婦は耐え続けたのです。わが子の無邪気な微笑におびえながら。そして、とうとうその1週間目もあしたに迫りました。
大吉は突然、紀子に熱海行きを提案する。
紀子「どうしたのよ? やぶから棒に」
大吉「いいよ、行こうよ。パーっとな」
大吉は、ゆきに一郎を捜すように言い、熱海へ行き、あした帰ってくると言った。笑顔で「はいよ」と同意するゆき。
大吉「このままじっとあしたになるのを待っていたくないんだ。それに3人で出かけんのもたまにはいいじゃないか」
笑顔でうなずく紀子。
大吉「なっ? 早く支度しろよ」
新幹線が走る。熱海駅、小川さんいるかなあ。演じた三島雅夫さんはもういないけどね(涙)。
車内では3人並んでみかんを食べていた。
教室
元「みんな、静かに。この前の時間には社会のさまざまな集団というものについて勉強したね。そこで今日は、その集団の中で最も小さな集団である家族というものについて考えてみたいと思う」
和泉家
和子は学校に電話をかけていたが、元は授業中だった。
春生「でも、いいの? そんなこと。叔父さん、迷惑な顔しない?」
和子「大丈夫。あんただって今夜、下宿へ帰んのイヤでしょ?」
春生「うん。でも、しょうがないから我慢すればいいことだし」
和子「ダメ。そんなこと我慢しちゃ。あんたまでいやらしい子になっちゃうじゃないの。姉さんからも頼まれてるし、ここにいなさい、しばらく。そのかわり食費はもらうけど」
春生「ええ、どうぞ。どうせお母さんが払うんだから」
和子「そうよ。あんたのお母さんはいいわ。お金には困らないし、なんの心配もないし。このごろますます太ってんじゃないの?」
春生「そうなの。もうとってもじゃないけど、まともには見られないわね、あれ」
和子「悪い子ね、そんなこと言って」
春生「でももうあそこまでいくと醜悪よ。叔母さんみたいにスマートならいいんだけど」
和子「おやおや、今夜は何かごちそうしなきゃいけないかしら」
春生「もう一緒に歩くのもイヤなの。ブヨーンなんて太っちゃって」
あんまりそういうこと言わないでよ~。
和子「でもいいのよ、幸せなんだから。あなたもいい人見つけなさい。将来の有望株を」
春生「私ね、叔父さんみたいなタイプがいいの」
和子「ダメダメ、ああいう人は。男はやっぱり立身出世型がいいのよ、結局。それにね…」
電話が鳴り、和子が出た。晃のことを心配する元に春生のことだと言う和子。大学へ入って下宿した春生だったが、隣の部屋にとんでもない女子学生がいた。下宿に内緒で、しょっちゅう男の学生が来て泊まって行くこともある。下宿を代わるしかないが、急に行く所もないので、しばらくうちへ置いてあげたいと和子が言う。
元はどこへ寝かせるつもりだと慌てる。2階の元の書斎に寝かせるつもりでいる和子。食費を出してもらい、晃の勉強を見てくれるということで半ば強引に元の承諾を得て電話を切った。
「たんとんとん」の新次郎なら若い春生をそばに置くのは危険だぞ!
元「家族って難しいもんだ。本のようなわけにはいかないよ」
晃が帰宅。「あばれはっちゃく」は、あまり見たことないように思ったけど、顔を見るとなんとなく分かるな。
和子「ダメよ、黙って入ってきちゃ」
春生「晃ちゃん、いいわね。小学校上がったんでしょ?」
晃「うん!」
和子「うん、じゃないでしょ。いらっしゃいって言わなきゃ」
晃「いらっしゃい」
春生「これ食べない? おいしいわよ」
和子「あっ、手を洗ってらっしゃい。いちいち言われなくても自分で洗いに行かなきゃダメよ。それにしても早かったじゃないの。遊びに行ったと思ったら、すぐ帰ってきちゃって」
晃「たっちゃん、お昼寝の時間ですって」
和子「まあ…小学校2年にもなって、まだそんなことさせてんのかしら。お隣ね、もう塾へ通わしたり、とっても教育ママなの。近所でも評判。よっぽど自分の子を秀才だと思ってんのね。ホントに秀才かしら?」
春生「そんなことまだ分かんないじゃない」
和子「うん。親の欲目よねえ」
晃「いただきます」
和子「あら…あんたここに何付けてんの? チョコレートでしょう?」
晃「たっちゃんのお母さんがくれたんだもの」
和子「あんたもバカね。チョコレートとキャンディーは、あれほど食べちゃいけないって言ってるでしょ、お母さんが。虫歯になるからうちでは絶対食べさせないの。ちょっとお隣行ってくるわ。人のうちの子供だと思って、大きなお世話よ。日本人の悪い癖だわ」玄関を出て行く。
春生「じゃあ、晃ちゃん、おいしい物食べられないわね」
晃「うん。チューインガムもいけないんだよ」
春生「そう。まあ、しょうがないわね。先生のうちの子じゃ」
木下恵介アワーだと食べ物に何が入ってるか分からないという話が何度も出てくるから、こういう思想の人がいてもおかしくない。極端な時代で全然虫歯がないか、虫歯が十数本あるような子供かに分かれてた気がする。
熱海
大吉「どうだ、一郎。お前の好きな物がいっぱいあるだろ?」
一郎「うん」
紀子「いいわね。こんなにごちそうがあって」
久しぶりの親子3人だけの団らんでした。しかし、その胸の底にふと不安な影がよぎる父親と母親だったのです。
遊園地に行く3人。
この日、この若い2人の親は一つの重大な問題に突き当たっていました。わが子とは一体なんなのだろうか。愛するわが子とは一体、何故に愛するのかと。確かに自分の命よりも愛しているこの子供の親です。だが、今、突然、その子供との血のつながりを否定されて他人であったと言われたとき…では、今までの愛情の全てはどこへ行ってしまうのだろう。しかも、その答えは、このあと2人が東京に帰り、あの保健所へ行ってみれば分かることです。笑いながら手を振りながら2人の気持ちは次第にせっぱ詰まっていくようでした。
飛んでいく風船。
モノクロの画面。保健所の廊下で待つ大吉と紀子。西城が出てくる。
大吉「どうでした?」
西城「検査の結果ですね、まあこういうことは非常に言いづらいんですが、どうやらお二人のお子さんではなさそうでうね。これがその検査結果なんですが…」
大吉「先生、ひどいよ。ひどすぎるよ! くっ…ち…ちきしょう」廊下に頭を打ちつけながら悔し泣きをする。
福山夫婦は自分たちの築いた夢が目の前から消えていくのを感じました。2人にとって、このときから人生の全てが変わったのです。
家へ帰った大吉と紀子。一郎が2人の前に出てきてカラーに戻る。名札の「1の2 B 福山一郎」が大写しになる。一郎はキャラクターもののヘルメットをかぶり、風呂敷のマントをして、おもちゃの銃を大吉たちに向けながら奇声を発する。一郎になんのリアクションもせず、茶の間にぐったり座り込む大吉と紀子。(つづく)
2家族が対面したとき、和子が一番怖い気がする。福山夫婦が若夫婦と言う感じで、泉夫婦はちょっと上の世代だね。
「おやじ太鼓」亀次郎や家族が家にいる日曜日の話がどうしても多くなる。そうなると、やっぱり自営業の「あしたからの恋」などは自由度が高くなるんだな~。
来週は…またまた山田太一脚本回です。もう第一部は半分過ぎた。早い。
テレビ誌によると、早くも「わが子は他人」の次は「幸福相談」に決まっているそうで。なんで放送順に「たんとんとん」→「太陽の涙」→「幸福相談」でやってくれなかったかな。でもまあ、「幸福相談」は見たかったからうれしい。あとは残りの白黒作品をやってくれるかどうか!? 「おやじ山脈」「炎の旅路」は諦めモード。