TBS 1969年6月24日
あらすじ
鶴 亀次郎は裸一貫からたたき上げ、一代で築いた建設会社の社長である。ワンマンで頑固一徹な亀次郎は子どもたちに"おやじ太鼓"とあだ名を付けられている。この"おやじ太鼓"、朝は5時に起き、夜は8時になるともう寝てしまうが、起きている間は鳴り通し。そんな亀次郎をさらりとかわす7人の子どもたちに比べて、損な役回りはお手伝いさんたち。ひと言多いばっかりに、毎日カミナリを落とされる。
2023.9.18 BS松竹東急録画。12話からカラー。DVDは第1部の39話まで収録。
鶴家
亀次郎:進藤英太郎…大亀建設株式会社を一代で立ち上げた。62歳。
妻・愛子:風見章子…良妻賢母。57歳。
*
長男・武男:園井啓介…亀次郎の会社で働いている。31歳。
妻・待子:春川ますみ…正子の紹介で結婚。
*
次男・洋二:西川宏…ピアノや歌が得意。空襲で足を悪くした。29歳。
長女・秋子:香山美子…出版社勤務。27歳。
三男・三郎:津坂匡章(現・秋野太作)…二浪して今は大学4年生。
次女・幸子:高梨木聖…大学4年生。
四男・敬四郎:あおい輝彦…浪人中。
三女・かおる:沢田雅美…高校2年生。
*
正子:小夜福子…亀次郎の兄嫁。高円寺の伯母さん。59歳。
*
お敏:菅井きん…お手伝いさん。愛子の4つ下。53歳。
鶴家の電話が鳴っていて、奥にマッサージ椅子が見える。電話に出る者はおらず、お敏は広間で掃除機をかけながら歌っていた。
♪君恋し 唇あせねど
涙はあふれて 今宵も暮れ行く
敬四郎が「COOK BOOK」を手に広間に入ってきて、お敏がかけていた掃除機を止めさせ、「ちょっと見なよ。ねっ、これ、おいしそうだろ」と本を見せる。ドイツ風ひき肉の煮込みを今晩これにしようよと提案。
敬四郎「たまには凝った料理も作ろうよ」
お敏「ああ、めんどくさい。そんな料理はよっぽど暇人が作るんですよ。私は見ただけでうんざりですよ」また掃除機をかけ始める。
敬四郎「僕が作ってやるったら。まあ、ちょっと休みなよ」
お敏「忙しいんですよ、私は」
敬四郎「まあまあ、そう言わないでさ。日は長いんだよ、今日は、ねっ? 一年中で一番昼間が長いんじゃないか」
1969年の夏至は6月21日(土)。
お敏「そんなこと関係ありませんよ。やっぱり時間が来りゃ旦那様は帰ってくるんですからね」
敬四郎「いや、だからさ、たまにはお父さんにもおいしいもん食べさせてあげようよ」
お敏「たまじゃありませんよ。毎日食べさせてますよ」
敬四郎「分からず屋」
凝った料理で何時間も台所を占領されてもそりゃ困る。毎日のことだからね~。
再び電話が鳴る。広間で掃除機がかかってる中でもソファで料理本を眺めている敬四郎。これなら簡単だと今度はフランス風カレーライスを勧める。
敬四郎「ちょっとシックなんだ。作り方を読んでみるよ」
お敏「変なの。カレーライスはインドが本場じゃないんですか?」
敬四郎「ところが大違い。インドにはカレーなんてないの。フランスのカリーが日本、入ってきてカレーになった。ねっ、それぐらい覚えときな。さてと…」
カレーの伝わり方には諸説あるらしいけど、敬四郎の言ってるのがそのひとつ? 大体がインド→イギリス→日本に伝わったとあるけどね。
お敏「なんだか知らないけど、あんな辛いもんは嫌いなんですよ。さあさあ、どいてください。邪魔だから」掃除機のホースを振り回す。
敬四郎「お前は原始人だよ。食べるもんの趣味さえないんだから。勝手にしな!」広間を出てからも「口に入るもんならなんでもいいんだから。全くあきれるよ」と文句を言う。毎日作ってもらってこの言い草はないよ。
茶の間へ行ったものの愛子はいない。隣かな?と「何事も研究、研究。料理も楽じゃないね」と裏玄関を出ていった。
また電話が鳴る。
別宅
敬四郎が「お母さん居るの?」と声をかけた。
待子「いらっしゃいますよ」
武男たちの部屋で愛子は待子が作ったクッキーを食べていた。
敬四郎「うん、こりゃ、おいしいや。フランスの味だね」
愛子「違うのよ。ドイツのクッキーですって」
敬四郎「へえ、ドイツ風か」
待子「そのつもりなんですけどね」
敬四郎は愛子にもドイツ風ひき肉煮込みを勧める。「ひき肉なら義姉さんだって食べられるんだもんね。そうそう、こりゃいいや。一緒に作りましょうか」
待子「そうね。ちょっと見せてちょうだい」
敬四郎「やっぱり多少はややっこしいけどね。でもまあ、うまいもん食べようと思ったらこれぐらいはね」
待子の好き嫌い
ひき肉◎
ビフテキ、カツ×
お刺身◎
煮魚、焼き魚×
自分でも分からないと言うし、愛子も好き嫌いは理屈じゃないと言う。
敬四郎「いいさ、いいさ。ねえ、お母さん。お母さんだって蓼食う虫も好き好きだもんね、ねっ。あのお父さん、よく30年も一緒にいられたもんですよ」
愛子「バカね。そんなことに感心する息子がありますか」
電話に出たお敏。
亀次郎「このバカ者! 一体誰といつまで電話をかけてるんだ」
お敏「は?」
亀次郎「何度かけてもお話し中だったじゃないか」
お敏「いいえ、そんな…」
亀次郎「いいえもヘチマもありませんよ。このうらなりのボケナス!」
お敏「はあ」
亀次郎「愛子はどうしてるんです? 愛子は」
お敏「はあ、その辺に見当たりませんけど、多分…」
亀次郎「多分じゃありませんよ。ちゃんと見当たる所におるように言いなさい」
お敏「はあ、すいません」
亀次郎「大体、ゆんべも変な夢を見たから電話をかけたんですよ」
お敏「えっ、夢でございますか?」
亀次郎「夢見が悪いって、よく言うだろ。あれですよ」
お敏「はあ、それで何か?」
亀次郎「何かはこっちが聞いてるんですよ。火事だの泥棒だの気をつけなさい!」ガチャンと勢いよく受話器を置く。
お敏「ああ、びっくりした。おやじ、雷、火事、泥棒か。真っ平、真っ平」
また電話が鳴る。
お敏「はい、もしもし!」
正子「もしもしじゃありません。何べんかけたって出ないじゃないの。一体、あんたのとこはお化け屋敷なの?」
お敏「すいません」
正子「こっちは少しでも早くと思ってかけてるのに、一体愛子さんはどこ行ってるの」
お敏「はあ、どっかにいらっしゃいますでしょう」
正子「洋二さんが熱を出したのよ。すぐ呼んできてちょうだい」
お敏「あらまあ、ちょっとお待ちください」受話器を切らずに脇に置き、奥様!と何度も呼びながら走る。茶の間→裏玄関へ。
武男たちの部屋
愛子、敬四郎、待子が大笑い。
お敏「奥様! 奥様! 笑い事じゃないんですよ! 洋二様が病気なんです」
愛子「まあ、なんですって?」
お敏「高円寺の奥様からお電話なんです。早くどうぞ」
愛子が慌てて出ていく。
敬四郎「病気って一体なんの病気なの?」
お敏「そりゃ聞きませんでしたけどね、とにかく夢見は悪いし、お化け屋敷ですからね」
敬四郎「何が?」
お敏「そうおっしゃったんですよ、高円寺の奥様が」
敬四郎「どうしたんだろう」
革靴を手に持っていたお敏。待子に聞かれると脱げちゃったからはだしで来たと言う。
愛子「ええ、ええ、それで熱は?」
敬四郎も愛子の電話を聞いている。
愛子「じゃあ、三郎がそばについてるんですね?」
正子「ええ、そうよ。私もこれから行くわ」
愛子「私もすぐ行きます。だからおばちゃん。ちょっと待っててちょうだい。私、初めてで知らないから」
正子「そうね。じゃあ、待ってるわ」
愛子「大急ぎで行きますから」受話器を置く。
敬四郎「どうしたの? 一体」
愛子「三郎が遊びに行ったら寝てたんですって」
洋二が三郎を呼んだんじゃなかったのね。
敬四郎「よっぽど悪いの?」
愛子「三郎の電話では大したことないって言ってたそうだけど」
敬四郎「僕も一緒に行きましょうか?」
愛子「いえ、いいわ。あんまりうちが無人(ぶにん)でもいけないし。三郎もいるし、おばちゃんも行ってくれるから」
昔の昭和の家ってとにかく誰かが家にいないといけなかったんだね? 橋田ドラマでも散々留守番のことが話題になるし、行き先を言わなければならない。
愛子は普段着の着物から出かける用の着物に着替えている? キャー、生着替え。待子も手伝い、お敏はタクシーを呼ぶ。
敬四郎「どうしたんだろう。困っちゃうな、病気になんかなると」
愛子「だからうちにいてくれたほうがよかったんですよ。敬四郎だって、やたらうちを出たいなんて言うけど、こういうことがあると一番慌てるのは親ですよ。びっくりして寿命が縮まりますよ」
敬四郎「お敏さんが大げさに飛び込んでくるからですよ。靴まで両手に持っちゃって」
愛子「こういうことに大げさも大げさでないもありませんよ。とにかく病気だから寝てるんだもの」
敬四郎「だって嫌なこと言うんですよ。夢見が悪かったとかなんとか」
愛子「何言ってんの。気になること言うんじゃありませんよ」
待子「いいえ、それはお義父様からお電話があったんですって。ゆうべ悪い夢を見たから気になって…」
愛子「冗談じゃありませんよ。お父さんもお父さんですよ」
タクシーの車内
正子「私も一遍行っただけですけどね。そりゃもうなんともかんとも言いようのないアパートよ。まあ、行けば分かりますけどね」
愛子「この前、一緒に中国料理を食べたときも私もあの子の部屋へ行ってみたいと思ったんですよ。だけど、あの子が来ないほうがいいって言うもんだから」
正子「そうよ」
愛子「お母さんが涙を浮かべるに決まってるからって言うのよ」
正子「そうよ。なにもあんな苦労をわざわざしなくたって、ちゃんと立派なお屋敷があるんですもの」
愛子「なんの不自由もないんですからね。食べたいものを食べて、したいことをして」
正子「ただひどい欠点があるのよね、たった1つ」
社長室
亀次郎「何? 奥さんが出かけた? どこへ出かけたんだ。さっきはその辺にいると言ったくせに」
お敏「はい! ちょっとお待ちください」と隣に立っている敬四郎に洋二のところへ出かけたと言ってくれと受話器を渡す。
敬四郎「もしもし、お父さんですか」
亀次郎「何を寝ぼけたこと言ってるんだ、今頃」
敬四郎「はい、実はですね…」と意を決して洋二兄さんのところへ出かけたと話す。
亀次郎「何? 洋二の所へ何しに行ったんですか」
敬四郎「病気なんですよ。寝てるっていうんです」
亀次郎「病気!?」
敬四郎「ええ、高円寺のおばちゃんと駆けつけたんです。慌てて飛び出していきましたよ」
亀次郎「病気ってどんな病気だ。ひどいのか軽いのか」
敬四郎「まあ、大したことないんでしょ。軽いんですよ、軽いんですよ」
亀次郎「軽々しく言うな! 軽いか軽くないか、どうしてお前に分かる。医者を呼びなさい、医者を」
敬四郎「はあ、医者はお母さんが行ってから呼ぶと思うんです」
亀次郎「それからでは手遅れですよ。すぐうちの医者に行ってもらいなさい」
敬四郎「はい! 伊藤先生ですね。すぐ行ってもらいます」
洋二の住んでいる場所を亀次郎に聞かれた敬四郎は、お敏に聞く。「さあ、確か杉並のあの…成宗(なりむね)だったかしら」
かつて存在した町名。1968年から1969年にかけて大宮・成田西・成田東・荻窪などに分割統合された。ちょうどドラマをやってる時期辺りに消滅した地名ということか。
今も成宗公園というのは残っていて、その場所は阿佐ヶ谷駅と荻窪駅の間くらい。高円寺からまあまあ遠いか。
亀次郎「お前は知ってんのか?」
お敏「確か杉並区成宗の2丁目でした。曙荘っていいましたかしら」
亀次郎「バカ者! 曙荘はおばちゃんのアパートですよ」
酔っ払ったイネと正子がタクシーでたどり着いた後ろのアパートが清和荘だったから、おばちゃんのアパートは清和荘だと思ってた。
お敏「あっ、そうでした、そうでした。2丁目は高円寺でした」
高円寺2丁目は高円寺駅の北口から6分の好立地なのね。愛子の手帳か何かを捜しなさいと亀次郎に言われ、慌てて茶の間へ行くお敏と敬四郎。何をドタバタしてんの?とかおるが帰ってきた。
社長室
受話器を持ったまま、「全くしょうがないやつらだ。誰一人、洋二の居所を知らないんだから」と怒っていると武男が「お父さん、ぼつぼつ帰りますか」と入ってきた。土曜日で半ドンかな?
今、電話中だと言い、武男に洋二のアパートを聞くが、武男も成宗くらいしか知らない。洋二が病気になったと聞き、武男は伊藤先生を呼ばなくちゃなどと言うが、「弟の居所も知らないで、それでも兄弟か」と亀次郎に責められる。
イメージだけど男兄弟はそんなに密に連絡を取り合わない気がする。言っても、31歳、29歳の兄弟だもんね。だから洋二のアパートに遊びに行った三郎が意外。家にいるときはそんなに…って感じだったし。
武男「それはひどいですよ。まさか病気になるなんて」
亀次郎「そのまさかを心配すんのが愛情ですよ」
敬四郎がから分からないと返事が来て、電話をガチャ切りする亀次郎。「バカ者! 愛子も愛子だ。自分だけ知ってて、まさかのときにはどうする気なんだ」
杉並区成宗あたりの風景。高いビルなどない住宅街。
ボロボロの梯子のような急階段を上る正子と愛子。
正子「ダメ、ダメ。その手すり当てにしたらグラグラよ」
階段を上って奥の部屋が洋二の部屋。ノックをするが返事がない。両手でないと開かない戸を正子が力を込めて開ける。
布団で寝ている洋二はおでこにタオルを乗せられていて、テーブルにもたれかかって三郎が寝ている。
愛子「よく寝てるのね」
正子「どう、あの2人の顔はまるで子供みたい。罪がなくて」
愛子「三郎まで寝てることないのに」
正子は三郎はゆうべアルバイトで徹夜したのだと教えた。アルバイトは麻雀。ちょっと起こすと言う正子に愛子は寝かしておけばいいと止める。正子はこの前で懲りてきたからと風呂敷のようなものを持ってきていて、その上に座るように愛子に言う。何だかんだ優しいおばちゃん。
愛子「じゃあ、花ござでも買ってやらなきゃダメですね」
井草のカーペット。
正子はそんなものを買ってやるよりもっといいアパートへ引っ越せばいいと言う。そりゃそうだ。
洋二が目を覚まし、「お母さん」と呼びかけた。
愛子「あら、起きたの。ん…心配させて」
洋二「とうとう来ちゃったの、こんなとこへ」
愛子「そりゃ来ますよ。バカね」
正子「洋二さん、あんた、お母さんに心配かけるわよ」
三郎も目を覚ます。
洋二「すいません」
愛子「熱が下がってよかったわ。びっくりしちゃったもの」と洋二の顔をなでる。
三郎「お母さん」
正子「おや、やっと起きたわね」
三郎「あ~あ、よく寝ちゃった」
愛子「なんですか、看病する人が」
三郎「だってさ、徹夜ですよ、アルバイトで」
正子「そんなアルバイトはしてほしくありませんよ」
愛子「ほんとにあんたはしょうがないんだから」などと小言を言われ始めると
洋二「お母さん、三郎がいろんなもの買ってきてくれたんですよ。その机の上にあるの」とフォローする。
三郎「ねっ、そうでしょ。だからゆうべは大変だったんですよ」と自分で言っちゃうところが三郎なんだよね。
正子はやっぱり養子にもらおうかしらと言うと、三郎は「真っ平、おあいにくさま」と笑顔で断り、正子と笑う。
正子「ほんとにこの人がいるとこんな期待ない部屋まで明るくなっちゃうんだから」
三郎「そうそう、そうですよ。人間にはそれぞれ取り柄があるんですよ。ねえ? お母さん」
愛子「なんだか知らないけど、それぞれの取り柄で生きていけるようになれば、それでいいんですよ」
三郎「なりますって」
洋二「お母さん」
愛子「なあに?」
洋二「お父さん、元気ですか?」
愛子「何言ってんの。自分が元気でなきゃダメじゃないの」
三郎「それにはまずお小遣いですね。食うや食わずじゃガッタリですよ」
正子「あんたが言うことないでしょ」
三郎は精進揚げでも塩鮭でもいい。正子によると三郎は何を食べさせても太らない。張り合いがないと言うが、いいなー! 秋野太作さん、その後も太ったイメージ全くないから本当に太らない体質なのかも。
愛子「それぞれ性格が違うように、いろんな体の出来があるんですよ」
三郎「頭もいいのや、悪いのやね」
正子「そうよ、ほんとに不思議よ」
三郎「僕の顔、つくづく見ることはないでしょ」
正子「見たくもなるわよ」
三郎「お母さん、これですからね。肩身が狭いのなんのって」
愛子「当たり前ですよ。お世話になってるんだもの」
三郎「そうかな」
正子「なかなか世話が焼けるのよ。こんな大きくなっても」
三郎「どうして?」
愛子「そうですよ。お父さんを怒らせたり、とにかく7人も育てるといろんな子が出来ちゃいますからね」
洋二「僕が一番いけないんだよね」
愛子「そりゃまあ、一番心配ですよ。お父さんだって頭痛の種よ」
銅鑼が鳴り、お敏、待子は外へ、敬四郎、かおるが表玄関に並ぶ。
敬四郎「かおると二人っきりか」
かおる「夏だもんね。スッキリしてていいわね」
敬四郎「風の通りはいいけどね」
かつての風景
夕陽の当たる中、亀次郎と武男が一緒に帰ってきて、家族が「おかえんなさい」と頭を下げる。
これ回想かな? そもそも亀次郎と武男が一緒に帰ってくることってあんまりないように思う。ずらっと並ぶ愛子たちは後ろ姿で、洋二、敬四郎、三郎、幸子は確かに本人だけどかおるの髪が今の髪型っぽく見えるし、ちらっと振り向いた秋子さん、別人じゃない?なんてね。わざわざこのシーンのためだけに撮った気がする。
亀次郎、武男が玄関に入ってきて、敬四郎とかおるが「おかえんなさい」と頭を下げる。亀次郎は咳払いをして中へ。
敬四郎「変わったな、お父さんも」
かおる「変に迫力がないわね」
敬四郎「前ならさ、上着を投げ出したり、ネクタイをすっ飛ばしたりしたろ。茶の間に行く前にズボンだって脱いじゃってさ」
かおる「多少は人間らしくなったのよ。哀れっぽいもんね」
敬四郎「バカ」とおでこを指でつく。
かおる「何がバカよ。兄貴ぶったって貫禄がないわよ」
台所
敬四郎「おいしく入れるといいね。あんまり熱くないお湯でさ」
お敏「苦きゃいいんですよ。うんと濃く出せば」
敬四郎「知らないんだな。お茶は苦ければいいってもんじゃないよ」
お敏「そんな細かい味は分かりませんよ。大体人の気持ちなんて分からないんだから」
さらに「言いたいことを言うのは私じゃありませんよ。言うだけ言われてきたのが私ですからね」と続け、機嫌が悪い。今日の電話についても怒っていた。
かおる「そうね。このうちにいると食べるのに困んないけど、ちょっといじけちゃうわね」
敬四郎「うそつけ。お前のどこがいじけてんだ」
かおる「あら、相当のもんよ」
お敏「いじけて年を取っちゃったのは私ですよ。さあ、ちょっとどいてください。カッ!」
かおる「ああいうのが更年期かしらね」
敬四郎「カッ! 更年期はとっくに過ぎてるよ」
こういういじり、昭和~。もうね、やめようね、こういうのは。
茶の間
武男はお敏がお茶を持ってきてくれたことに「ありがとう」と言い、「やっぱりお茶は濃く出さないとね」と言う。待子は武男に電話で亀次郎に叱られ、お敏が機嫌が悪いことを知らせる。武男は亀次郎が家に帰ってきてシュンとしていることを気にする。
待子「寂しいんでしょ、お義母様がいないから」
あなたでもそうかしら?と武男に聞き、そりゃそうさ、ほんとかしら、当たり前だよと結局ラブラブな2人。
寝巻きに着替えた亀次郎が茶の間に入ってきて、愛子が電話もしないことを怒っていた。便りがないのはいい便りだと武男が慰めるものの、あれは昔っから待つ身のつらさを知らない、一遍だって待たしたことはなかったとイライラ。自分ではそう思うだろうけど、相手側からも見ないと何ともね。
幸子が帰宅。駅前で会ったと愛子も一緒だった。武男とお敏がおかえりなさいと裏玄関で出迎えた。
武男「どうでした? 洋二は」
愛子「ホッとしたわ。大したことなくって」
武男「ああ、そりゃよかった」
亀次郎が愛子を呼ぶ。亀次郎にただいまを言いに来た幸子に愛子がアイスクリームを持ってくるように言い、武男は待子がお茶を入れてるけど冷たい水の方がいいよと幸子に言う。
亀次郎「人の気も知らないで何がアイスクリームだ」
愛子「何をそんなにプリプリしてるんですか。洋二にアイスクリームを買ってやったから、ついでにうちのも買ってきただけじゃありませんか」
亀次郎は手でも顔でも洗ってきなさいと愛子に言い、武男にはみんなを広間へ集めなさいと命じた。
愛子「(武男に)何を怒ってんの?」
⚟亀次郎「アイスクリームなんかあとでいいぞ!」
愛子「これだから洋二も三郎もうちを出てったんですよ」
武男「会社からうちへ帰ってくるまでカンカンなんですよ」
伊藤先生に行ってもらおうと思ったのに洋二の居所が分からなかったせいだった。
敬四郎の部屋
かおると敬四郎が歌っている。
♪鎖につながれても
かまいはしない
青い…
武男が広間へ来るように言う。何があるの?と聞く敬四郎にお母さんがアイスクリームを買ってきたという武男。分かってるね~。
コップに入った水を運ぶお敏。武男と敬四郎、かおるは階段を降りてきた。亀次郎はお敏も広間にいるように言う。
愛子「おやおや、みんな集まっちゃって。さあさあ、一体何が始まるんですか?」
なんだかミステリーもののクライマックスシーンみたい。
敬四郎「あっ、何が始まんの? みんな変な顔しちゃって」
武男「お前が一番変な顔だよ」
敬四郎「あれ? そうかな」
愛子「お父さんですよ。一番変な顔してるのは」
亀次郎「変な顔もしたくなりますよ」
愛子「どうしてですか?」
亀次郎「大体、お前はですよ…」
愛子「洋二のことがそんなに気になるんなら、どうして電話に出てやらなかったんですか。だから、父の日にも顔を出せなかったんですよ」
亀次郎「お前はわしの気持ちが分からないんですよ」
愛子「どういう気持ちですか?」
亀次郎「親の気持ちですよ」
愛子「変な親の気持ち」
亀次郎「変じゃありませんよ。親なればこそ、わしは我慢をしてるんですよ。あれの好きなようにさせてるんですよ」
愛子「だったらどうして…」
亀次郎「どうしてお前には分からないんだ。まさかわしが全学連の恋人を許すことができますか。洋二の恋愛を認めることは、わしが全学連を認めていることになるじゃないか。わしには立場というものがありますよ。大亀建設会社の社長という立場とかわいい息子が全学連の女子学生に惚れてしまった立場と会いたくても、めったに会えませんよ!」
静まり返る家族。急に大声で泣き出す待子。武男は驚き、待子のそばに寄る。「お父さんに会いたくなっちゃったのよ」と泣き続ける。
待子の父は既に亡くなっていると前に話していた。
何となく気がそがれた亀次郎はお敏にアイスクリームを持ってくるように言う。
待子は泣き続け、お敏は台所でアイスクリームを準備しながら「海ゆかば」を歌っていた。
♪海行かば 水漬(みづ)く屍(かばね)
山行かば 草むす屍
大君(おおきみ)の…
台所にいるお敏でつづく。
以下は歌詞が消されたわけじゃないよね。
大君(おおきみ)の 辺(へ)にこそ死なめ
かへり見はせじ
ただ、幸子は恋人ができたし、洋二とトシの出会いのきっかけは幸子だったものの、トシと会うときは洋二もいるし、個人的にトシとももう付き合いないんじゃないかと思う。どんな組織かよく分からないけど抜け出せてよかったよ。何となく。