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ドラマの感想など

【ネタバレ】木下恵介アワー「おやじ太鼓」 #45

TBS  1969年5月27日

 

あらすじ

 

鶴 亀次郎は裸一貫からたたき上げ、一代で築いた建設会社の社長である。ワンマンで頑固一徹な亀次郎は子どもたちに"おやじ太鼓"とあだ名を付けられている。この"おやじ太鼓"、朝は5時に起き、夜は8時になるともう寝てしまうが、起きている間は鳴り通し。そんな亀次郎をさらりとかわす7人の子どもたちに比べて、損な役回りはお手伝いさんたち。ひと言多いばっかりに、毎日カミナリを落とされる。

2023.9.12 BS松竹東急録画。12話からカラー。DVDは第1部の39話まで収録。

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鶴家

亀次郎:進藤英太郎…大亀建設株式会社を一代で立ち上げた。62歳。

妻・愛子:風見章子…5月で57歳。

*

長男・武男:園井啓介…亀次郎の会社で働いている。31歳。

妻・待子:春川ますみ…正子の紹介で結婚。

*

次男・洋二:西川宏…ピアノや歌が得意。空襲で足を悪くした。29歳。

長女・秋子:香山美子…出版社勤務。27歳。

三男・三郎:津坂匡章(現・秋野太作)…二浪して今は大学4年生。

次女・幸子:高梨木聖…大学4年生。

四男・敬四郎:あおい輝彦…浪人中。

三女・かおる:沢田雅美…高校2年生。

*

正子:小夜福子…亀次郎の兄嫁。高円寺の伯母さん。59歳。

*

お敏:菅井きん…お手伝いさん。愛子の4つ下。6月で53歳。

 

オープニングは40話と41話が違うのは分かったけど、もっとバリエーションがあるのかな? 今回は今回で女声コーラスが目立つような気がする。

 

田園調布駅

高円寺のおばちゃんと三郎が歩いている。昭和44年のバスや車も行き交う普段の風景が見られるのがいいなあ。

 

三郎「ねえ、おばちゃん。やっぱり僕はまずいよ」

正子「何言ってんの。まずいのは初めから分かってるのよ。ペコペコ頭を下げるしかないのよ」

三郎「だってさ…」

正子「ちょっと待ってよ。おばちゃんだって雷のおっかないことは知ってるじゃないの」

正子「だから早いとこ謝っちゃったほうがいいんですよ」

三郎「謝る前に殴られちゃうんだったら」

正子「当たり前ですよ。殴られるようなことしたんだから」

三郎「分かってもらえないんだな。あんなことぐらい誰だってしてるよ」

正子「だから今の大学生は手がつけられないんですよ。女の子の下宿へ泊まったりして」

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三郎「だから言ってるじゃないの」

正子「言い訳は利かないんですよ。謝るしかないんです」

三郎「冷たいんだな、おばちゃんまで」

正子「当たり前ですよ。もう1週間にもなるんですからね。これ以上、あんたを預かっていたら私まで怒鳴られちゃいますよ」

三郎「だけど、出ていけって怒鳴ったのはおやじさんのほうだからね」

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前回、亀次郎に「貴様もとっととこのうちを出ていけ!」と言われて、そのまま家を出ていたらしい三郎。1週間たったのなら今は5月の終わり。

 

正子「そこが親子なんですよ。いくら口では怒鳴ったって、そういつまでも怒ってるもんですか。今のうちに頭を下げちゃえば許してくれますよ」

三郎「それまでがおっかないんだったら」

正子「とにかくお父さんが帰ってこないうちのほうがいいのよ。おかえりなさいってあんたが玄関へ飛び出してってごらんなさい。それっきりよ。簡単に済んじゃうことよ」

 

三郎は正子におなかが減ったと言い、うなぎ丼(どんぶり)を食べようと誘う。帰って早々うなぎ丼を食べたいと言えないし、店で食べたらツケだからと言うと、正子もその提案に乗る。

 

ここまでずっと田園調布駅前から駅舎を背にして西方向へずっと歩きながらのお芝居。大豪邸のわきを通り、和服のご婦人やアベックが歩いていたり、ほうき片手にかっぽう着姿の女性が道ばたで正子たちを見ていたり…エキストラなのか、本当の住人なのか。

 

鶴家の呼び鈴が鳴る。前みたいなブザーじゃなくなった? お敏が裏玄関へ。

⚟「こんちは!」

お敏「なんだ、あんたか」

魚屋「このごろ裏門が開けっ放しだから入りいいね」

お敏「めんどくさくていちいち走っていられないのよ」

 

魚屋は大きな皿に乗った刺身と別宅の武男夫婦のイカとタコを届けた。こっちはビニール袋に入ってる。

 

お敏「あら、またお隣イカとタコなの?」

魚屋「よっぽどお好きなんですね」

お敏「昨日もイカだったじゃないの」

魚屋「そうですよ。イカの刺身とちりめんじゃこでしたよ」

お敏「あっさりしてるわね。よく体がもつわねえ」

魚屋「じゃあ、毎度どうも」

 

お敏「あっ、そりゃそうとおやじさん起きれた?」

魚屋「うん、今朝からね。だけどまだ市場へ行けないけどもね」

お敏「少し飲みすぎるのよ」

魚屋「言っても聞かないんだよ。血圧が高いくせに」

お敏「長生きしてもらわなきゃダメよ。あんたもまだ若いんだもの。お嫁さんだってまだ決まってないんでしょ?」

魚屋「そうなんだよね」

お敏「お母さん、気が気じゃないでしょ」

魚屋「まあ、息子が親孝行だからいいけどもね」

お敏「そうよね。長男なんだからしっかりしてよ」

魚屋「そうさ。この働くこと働くこと。じゃあまたお願いしますね」

お敏「ありがとね」お敏は両手が塞がっているので足で戸を閉めた。

 

魚屋:水野皓作

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見たことある顔だなと思ったら、今でもたくさんのドラマに出ている方だった。当時ハタチくらい。

 

台所へ行こうとしたお敏に茶の間にいた愛子が誰と話してたの?と声をかけた。今日の愛子さんは水玉のブラウスで洋装。お敏に手紙を出すよう頼む。封筒をなめて封緘。愛子は「魚一の息子さんに頼めばよかったわね」と言う。配達の人にポスト投函を頼むのはあるあるだったのかな?

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魚一(うおいち)という店名自体は10話でも出ていて、敬四郎の合格発表で「鯛になるか鰯になるか分からない」とお敏と電話で話していた。

 

お敏「いえ、表に立ってれば誰か通りますよ」

愛子「誰かって誰にでも頼んじゃ嫌ですよ」

お敏「いいえ、今頃の時間は肉屋だって八百屋だって走り回ってますよ」

愛子「そんならいいけど」

 

お敏はお隣は今日もイカとタコで昨日もイカとちりめんじゃこだと告げ口。

愛子「いいのよ、隣のことは気にしなくたって」

お敏「でもまあ私だったらとてももちませんわ。そんなあっさりしたもんじゃ。第一、武男様がどうなんでしょ。今まではあっさりしたものより油っこいものがお好きだったんですよ。私はいつだってそれで苦労してきたんですもの。旦那様はもうお年だから油っこいものはいけないし、待子様も太るといけないからあっさりだし」

愛子「いいのよ。あんたが武男さんたちのことまで気にしなくたって。栄養は適当にとってるんですよ」

お敏「いいえ、違うんですよ。肉屋がびっくりしてるんですよ。お隣はひき肉とソーセージばっかりなんですって」

愛子「いいじゃないの、経済的で」

お敏「だって、奥様…」

愛子「いいんですよ。あんたがいちいち隣のことを心配しなくたって」

 

夕飯の支度で手伝うことがあったら手伝うと言う愛子に今夜はあっさりですから結構ですと言うお敏。愛子は切手をなめて封筒に貼っている。こういう光景も懐かしいね。今見るとちょっと気持ち悪く見えてしまうようになってしまったけど。

 

愛子は封書を何通かお敏に頼み、待子がまだ掃除をしているか聞いた。お敏もまだテラスのお掃除が中途半端だと答えた。

 

お敏「誰かに出っくわすでしょ」

裏玄関を出ていったお敏に「あきれた人。出っくわすだなんて」と愛子。

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出くわすと同じ意味なのは分かるけど、出っくわすという言い方を初めて聞いた。でも、パソコンでもすぐ「出っくわす」と変換できたので普通の言葉なんだよね。今まで出っくわしたことがなかっただけで。

 

敬四郎は2階からバケツを提げて「やれやれ、情けないねえ。大学へ行き損なうと」と降りてきた。ツイッターではドラえもんと話題になっていた青と白のラグランTシャツを着ている。

↑こういうTシャツの長袖。こういう服って普通、後ろも前も同じ配色なのに、敬四郎が来てるのは後ろ全面青だからよりドラえもん感があるのだと思う。

 

愛子「今までお掃除してたの?」

敬四郎「せめて掃除ぐらいはね」

愛子「助かるわよ。こんな広いうちなんだから」

敬四郎「2階全部ですからね。かおるの部屋までやっちゃったんですからね」

愛子「いいお兄さんよ。台所で水でも飲んでらっしゃい」

敬四郎「水を飲むんですか?」

愛子「だって、あんた旅行から帰ったら日本の水が一番うまいって言ってたじゃないの」

敬四郎「ハッ、そりゃまあ…」

愛子「ありがたみが分かったでしょ。たくさん飲むといいのよ」

敬四郎「ありがたみか。父母の恩だね」

 

広間の窓を拭いている待子。

愛子「待子さん、ご苦労さま。ざっとでいいんですよ」

待子「もうおしまいです」

愛子「ガラス拭きは大変ですよ。あなたお隣だけでいいんですよ。それだけでも大助かりなんだから」

 

「道」の亜紀さんみたいに小姑たちの部屋も掃除するのかな?

 

待子「動いてたほうがいいんです。することがないのが一番つらいから」

愛子「武男さんのことだけでいいんですよ」

 

ぼつぼつお夕飯の支度でしょと愛子が言うと、待子は簡単なんですと答えた。今日のメニューはイカの照り焼きとタコ酢。

 

待子「武男さんがあっさりしたものがお好きですね」

愛子「あら、そうだったかしら」

待子「あんまりあっさりでもいけないと思って今日は野菜コロッケを作るんです。ちょっとひき肉を入れて」

愛子「大したごちそうね。武男さんは幸せだわ」

待子「うんと作ってお持ちしましょうか。皆さんもお好きなんでしょ?」

愛子「ええ、コロッケは大好きよ」

待子「じゃ、張り切っちゃおうかな、フフフフッ」

 

急にそんな大量に作れるものなの? 待子が拭いてる窓は隣が前に亀次郎と愛子で植物の世話をしていた部屋で奥が和室。

 

おなかが減っちゃいましたよとサクランボを食べながら広間に入ってきた敬四郎。

愛子「食べてるじゃないの、サクランボを」

敬四郎「こんなんじゃ、おなか膨れませんよ」

愛子「我慢するのよ、お夕飯まで」

敬四郎「しがいがないね、お敏さんの手料理じゃ」

愛子「何言ってんの。それで大きくなったくせに」

敬四郎「だから頭が悪いのかな」

愛子「自分で言ってりゃ世話ありませんよ」

 

待子「面白い敬四郎さん」

愛子「面白すぎますよ」

敬四郎「そうかな」

待子が笑いだす。

愛子「今夜はコロッケですよ。待子さんが作ってくださるの」

敬四郎「へえ、新婚の味か」

待子「ホヤホヤですよ」

敬四郎「そりゃいいや」

 

また待子さんと言って、愛子にお義姉(ねえ)さんでしょと注意される敬四郎。お義姉さんと一緒に旅行して好き嫌いがとっても多いことに驚いたと言う。

愛子「いいじゃないの、好き嫌いぐらいあったって」

敬四郎「だってさ…」

待子「あたくしも困っちゃうんです」

愛子「いいんですよ。人間ですもの。好きなものと嫌いなものぐらいありますよ」

 

敬四郎は僕たちはそうじゃなかった、嫌いなものほど無理に食べさせられたと愛子に言う。それが今になればよかったんでしょうと愛子は言う。

 

敬四郎「だけどあれですね。なんでもガツガツ食べれるって、あんまり品がいいもんじゃないですね」

愛子「ガツガツ食べるからですよ」

敬四郎「そうかな」

待子がまた笑いだし、敬四郎はサクランボに似てる、きょうだいのなかで一番愛子に似てると言う。

 

敬四郎「ほらね、だからお願い! お願い」

愛子「何をですか?」

敬四郎「お小遣い、お小遣い」

愛子「もうないの?」

敬四郎「月末ですよ。あるわけないでしょ」

愛子「ダメですよ、あんただけ外国へ行ってきたんだから」

 

通訳だと敬四郎は言うが、愛子は亀次郎からあれじゃ入れないのも無理ないと言われたと聞き、敬四郎は落ち込む。待子は窓拭きを終えて、隣へ。

 

敬四郎「いっそ僕も洋二兄さんや三郎兄さんみたいにうち、おん出ちゃおうかな」

愛子「バカなこと言うんじゃありませんよ。おん出てどこへ行くんですか」

敬四郎「さあ?」

愛子「サクランボみたいな顔してとぼけてちゃダメですよ。大学へ行かないんならあれになろうとかこれになろうとか、もっとしっかり自分のこと考えてちょうだい」

敬四郎「はい」

愛子「毎日バケツなんか提げてるのを見るの、お母さんだってつらいのよ」

敬四郎「すいません」

愛子「別に謝らなくたっていいわよ」と敬四郎からサクランボをもらうが、いやに赤いので安いほうのかしら?と口に入れる。

 

敬四郎「いえ、贅沢は言いません」

愛子「バカね。言ったっていいのよ。言う言葉さえ気をつければ」

敬四郎「そうなんだな、僕は」

愛子「お父さんがどんな気持ちでいるか、強がった顔をしてるけど、相当こたえちゃってんのよ」

 

「そりゃまあ2年も落っこっちゃうし」と自分のことだと思う敬四郎に、2人もいっぺんにいなくなっちゃったことだと言う愛子。

 

待子が武男から電話があったと広間へ入ってきた。青山の現場から車だけ返してよこした亀次郎がもう帰ってきたか尋ねる内容で、亀次郎は、そこら辺まで歩いていくからいいと言っていたと言う。

 

今度はお敏が三郎さんがいらっしゃると駆け込んできた。お敏が手紙を頼もうと四つ辻に突っ立っていたらうなぎ屋の若い衆に出っくわし、高円寺の奥様とうなぎ屋にいると聞いた。愛子は慌てて広間を飛び出す。

 

田園調布付近をスーツを着て歩いている亀次郎。1週間とは言ってたけど、この日は平日みたいだね。自転車に乗ったうなぎ屋から「旦那、おかえんなさい!」と声をかけられ、すれ違った。「ああ、ただいま」と返事をした亀次郎だったが、うなぎ屋が手紙を落としたので声をかけた。うなぎ佐助の岡持ちを持ったうなぎ屋(樫明男)が振り向く。

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うなぎ屋さんといえばこの人。

 

うなぎ屋はお敏から頼まれたお宅の手紙だと馬鹿正直に言い、亀次郎は「お敏のバカ者。このまんま道に落ちてたら、どうする気なんだ」と怒る。落としていない手紙も返してもらい、「お敏のバカ者。二度とこういうことはさせませんよ」と言う。

 

うなぎ屋はお宅の息子さんと高円寺の奥さんが店に入ってきて、次はお敏さんから手紙を頼まれたから、ついうっかり変なことを考えちゃったと言う。息子と言われ、どの息子か聞く亀次郎に三郎だと答えたうなぎ屋は今度は旦那とぱったり会い、悪いことはできませんよねと答える。

 

また駅前を歩いている正子と三郎。うなぎ屋は駅の向こう側なのか? 田園調布駅の東口のすぐそばにうなぎ屋さんが今でもある。そこがモデルだったりして。

 

うなぎはいつ食べてもおいしいわねと言う正子。

三郎「そうでもないんですよ、僕は」

正子「気にしなさんなって。案外スラッといっちゃうわよ。洋二さんとあんたと2人だもの。お父さんだって寂しがってるに決まってんだから」

三郎「寂しいなんていううちじゃないんだからな。朝から晩まで鳴りどおしで」

正子「活気があるのよ。パッと栄えるうちはそういうもんよ。私なんて田園調布の駅に降りただけで胃の調子がよくなっちゃうんですからね。すぐ何か食べたくなっちゃうのよ。ほらほら、うなぎ屋さんが走ってきたじゃないの」

 

うなぎ屋が自転車で「奥さん、奥さん」と近づいてきて、変な所で変なことになっちゃったと言ってきた。

 

インターホンの呼び出し音が鳴る。これはいつものブザーだな。どなた様ですか?と呼びかけたお敏だったが、愛子に「お父さんに決まってますよ」と言われ、あわてて銅鑼を鳴らす。他に誰もいないのだから叩かなくていいと愛子は言う。お敏、愛子、敬四郎は表玄関へ向かうが、誰もいなかった。

 

しかし、亀次郎は裏玄関から入ってきた。さっそくお敏に「この手紙はどうしたんですか?」と詰問する。「ずるいことするな! ちゃんと自分で出してきなさい」と怒り、愛子を広間に呼び出した。

 

愛子「お敏さん、えらい人に出っくわしたじゃないの」

お敏「そうなんですよ。あのうなぎ屋のバカが。あとでうなぎ持ってきたらどやしつけてやりますよ」

愛子は敬四郎に手紙を出すように頼む。

 

広間

愛子「うなぎ屋の若い衆にぱったり行き合ったんですか?」

亀次郎「三郎のやつ、おばちゃんとうなぎなんか食べているんだ」

愛子「そんなことまでわざわざしゃべったんですか」

亀次郎「わざわざじゃありませんよ。手紙を頼まれたり、その手紙を落っことしたり、大体、お前がいけませんよ」

愛子「ポストが遠いんですよ、田園調布は」

亀次郎「遠いったって駅前ですよ。それもどうだ。駅前まで来ていながら、のんきにうなぎなんか食べてて」

愛子「おなかが減ってたんですよ、きっと」

亀次郎「おなかが減っているのはお互いさまですよ」

 

愛子にどこ行っていたんですか?と聞かれると「うるさい、いちいち」と逆切れし、それよりお茶を持ってきなさいとイライラ。今にうなぎが来ると愛子に言われても「うなぎなんかいりませんよ。胸クソが悪い」と意地を張る。

 

亀次郎「意地っ張りで生きてきたんです、わしは」

愛子「分かってますよ。そんなおっかない顔しなくたって。意地と度胸でしょ?」

亀次郎「そうさ」

愛子「まるでヤクザ映画ですよ」

亀次郎「こら、待ちなさい!」

愛子「言っときますけどね、意地と度胸じゃ息子は帰ってきませんからね」

 

愛子が台所へ行くと正子が来ていた。「どう? 機嫌は」

愛子「最悪ですよ」

正子「だから顔も出せないのよ。うなぎ屋の若い衆もそう言ってたし、今、門の前で敬四郎さんにも会ったのよ」

お敏「おっかなくて、お茶も持っていけないんです」

 

三郎は途中で帰ってしまった。

正子「いくら引き止めたってダメなのよ。うなぎ屋の若い衆にも怒鳴ったんですね」

お敏「マヌケですよ。手紙落っことすなんて」

 

愛子はどうしてまっすぐうちへ来てくれなかったのと正子に言う。正子は帰る早々うなぎ丼と言えないと言うが、自分のうちなんだからいいんですよと愛子が言うものの、1週間ぶりに謝って帰ってくるのにそうはいかない。

 

いつになったらお茶を持ってくるんだと亀次郎が大声を出す。愛子は茶の間に戻そうとするが、「落ち着いていられるか! 腹は立つし、腹は減るし」と勢いよく台所の引き戸を開けると正子がいた。

 

亀次郎「なんですか、あんたは」

正子「はい、すいません」

亀次郎「謝りに来たのか、うなぎを食べに来たのかどっちですか?」

愛子「お父さん」

亀次郎「うるさい、お前は!」

正子「つい、うっかり…」

亀次郎「ついうっかりで謝りに来られてたまるか!」と茶の間へ。

 

すいません、おばちゃんと謝る愛子。とてもダメよね、あれじゃと正子が言うと、お敏が大きくうなずく。

 

愛子がお茶を持って茶の間へ。「おばちゃんにあんなふうに言うもんじゃありませんよ。親切で三郎を世話してくれてたんじゃありませんか」

亀次郎「分かってますよ、そんなことは」

愛子「分かってたら、もっと言い方がありますよ」

亀次郎「なんだ、このぬるいお茶は」

愛子「我慢するんですよ、たまには」

亀次郎「たまじゃありませんよ。いつだって我慢してますよ」

愛子「うそおっしゃい。我慢してんのは周りの者ですよ」

亀次郎「うそおっしゃい」

愛子「うそじゃありませんよ」

 

お敏からうなぎが来たと報告があった。うなぎなんかいらないと言う亀次郎だったが、おなかが減ってるんでしょと愛子に指摘され、「武士は食わねど高楊枝ですよ」と意地を張る。

愛子「まあ、ヤクザが今度は武士になったんですか」

亀次郎「お前はですよ、大体、すぐそういうふうにわしを…」

愛子「だって瘦せ我慢することはありませんよ」

亀次郎「痩せ我慢じゃありませんよ」

 

お敏にはお夕飯のときにすると愛子は言い、お敏が下がろうとすると正子が今日は帰ると言いに来た。愛子が慌てて引き止めるが、怒鳴られただけだと正子は言い、「すき好んで三郎さんの世話をしたんじゃありませんからね。三郎さんが追い出されてきたからお世話をしたんですよ」と亀次郎に謝りに来たのか、うなぎを食べたくって来たのかと言われたことを気にして怒っていた。

 

亀次郎はとっとと帰りなさい、うなぎならうちに来て食べりゃいいんだと怒鳴る。「今更遠慮するあんたですか。水くさいにも程がありますよ。三郎は一体どこにいるんですか?」

 

三郎は帰ったと愛子に聞き、「うなぎを食べて帰っちゃいましたよ。こんなに怒鳴られるんですからね。そのほうがよかったんですよ」と正子は言い、「水くさいのは子供のほうより親のほうですからね」と帰っていった。正子も結構はっきり言い返すようになった。

 

裏玄関にいた愛子とお敏のもとに待子がコロッケの準備ができたと言いに来た。

 

広縁にいる亀次郎。愛子は茶の間でレース編みを始めた。

亀次郎「まだごはんじゃないのか?」

愛子「今、愛子さんがコロッケの揚げたてを持ってきてくれますよ」

亀次郎「コロッケか。そりゃいい。あんな腹の立つうなぎなんか、もう金輪際食わんぞ。いや、待子はいい嫁だ」

愛子「娘が1人増えたら、息子は2人減りましたよ」

 

おお、亀次郎は嫁と言ってるのに、愛子は娘と言ってる!

 

お茶を飲む亀次郎。(つづく)

 

ちょっと切ない回が続く。第2部になって全員が揃った回ってないよね? 今日は三郎と敬四郎だけ。愛子さんは他に子供もたくさんいるせいか嫁姑問題はなさそう。