公式あらすじ※初見の方、ネタバレ注意
元子(原日出子)は童話を書き終え、原稿を恭子(小島りべか)に渡しにモンパリに向かう。すると奥の席で順平(斎藤建夫)が映画のシナリオを書いていた。自分も弟も頑張るしかないのだと元子は思う。そんな忙しい元子のもとにキン(菅井きん)がやってくる。嫁の銀太郎(日向明子)とケンカをして飛び出てきたのだ。残った銀太郎のほうも、訳を聞いていたトシ江(宮本信子)の前で夫の善吉(小松政夫)と夫婦喧嘩をはじめて…。
朝、大原家
大介「行ってまいりま~す!」
元子「行ってらっしゃい」
大介「今日は剣道の部会で遅くなるから」
元子「はいはい。気ぃ付けてね」
正道「行ってらっしゃい。行ってくるよ」
元子「行ってらっしゃいませ」
道子「行ってまいります」
元子「気ぃ付けてね」
道子「は~い」
大介は門から出てまっすぐ前へ正道は道子と手をつないで門を出て左手(画面奥)の細い路地を歩いていく。家に入った元子は食器類を水に浸し、原稿をチェック。
書き下ろしの童話が出来上がって、今日は、それを恭子のところへ持ち込む日です。
モンパリ
元子「こんにちは」
絹子「あら、いらっしゃい」
洋三「いらっしゃい」
絹子「随分鼻が利くじゃない」
元子「えっ?」
絹子「あら? 順平ちゃん嗅ぎつけて来たんじゃなかったの?」
元子「順平」
順平の着ているカーキ色の上着って何かよく見る…米軍の払い下げ品みたいな?
これは襟を立ててるけど、こんな感じの上着。
順平「あれ、どうしたの?」
元子「うん、ちょっとね。映画のシナリオ?」
順平「うん」
元子「こんなとこで書いてんの?」
順平「しかたないだろ」
元子「どうしてよ。うるさいの分かるけど、うちで書いたらどうなの? お父さん、その方が安心すると思うけど」
順平「駄目駄目。机に向かったって書けるもんじゃないし乗ってる時ばかりじゃないってのが、そもそも分かんないんだから」
元子「それはそうだけど」
でも、宗俊も職人だから気分の乗らねえときは仕事しねえっての分かりそうだけどな。
順平「たばこある?」
元子「持ってるわけないでしょう、そんなの」
順平「あっ、そうだったよな」
洋三「おい」たばこの箱をテーブル席まで投げてよこした。
しょっちゅう出ていた時期もあったから、洋三・絹子夫妻が久々に感じる。絹子は後ろ姿だけだったけど眼鏡かけて国井先生っぽくなった。
元子「ねえ、お小遣い、不自由してるんじゃないの?」
順平「大丈夫」
元子「だって、フリーの助監督さんって仕事がないとお金ももらえないんでしょ?」
順平「いよいよの時は借りに行くから」
元子「順平」
順平「今日はどっちとランデブー?」
元子「ブルース」
順平「姉さんもよく続くよな」
元子「大器晩成型なんだからコツコツやるよりしかたないでしょう」
順平「まあ、好きでやってるんだから泣き言、言わずに頑張るほかないね」
元子「それは自分のことでしょう」
順平「あと5年」
元子「えっ?」
順平「おやじもあと5年黙って目ぇつぶっててくれるとな…」
順平の年は当初の年齢より若返ったので、30までは…みたいなことだろうか。
このころの映画界はヌーベルバーグの新風で映画青年たちの熱も盛んな頃でした。
代表作とされるものを集めてみました。おしゃれ映画みたいな感じ?
順平は自らの原稿にぐしゃぐしゃと書き込み。モンパリに電話がかかってくる。
絹子「はい、もしもし。ああ、ちょっと待ってね。ガンコちゃん」
元子「はい」
絹子「ブルースから」
元子「あっ、どうもすいません。はい、代わりました。うん、書けたわ。持ってきてる」
アナウンサー室?
恭子のデスクの脇には、投書入れの大きな封筒と歌ってる2人の男性のポスター。誰?
恭子「ごめん、別の仕事が入ってきて行かれなくなっちゃったの。悪いけど、おば様に預けておいてくれないかしら。体が空き次第、取りに行って読んでおくから」
元子「じゃあ、読めたら電話ちょうだい」
恭子「うん、そうする。本当にごめんなさいね」
モンパリ
元子「いいわよ。こっちはともかくとしてそっちは宮仕えなんだから。じゃあ、ここへ預けていきますから、あとよろしくお願いします。それじゃあね、どうも」
絹子「頑張ってるじゃない」あ、正面向くと昔の眼鏡で国井先生じゃなかった。
元子「頑張るよりほかしょうがないのよ。ねえ、順平…」
順平は立ち上がり、洋三に手をあげ、店を出ていった。
洋三「はい」と手をあげて見送る。
道子、勝手口から帰宅。「ただいま」
元子「お帰り。ほら、道子」
テレビの前に座っていた元子はテレビを見たまま、道子にメモを差し出す。
道子「『戸棚にモンパリのケーキが入っています。手を洗ってから食べなさい。お兄ちゃんの分は残しておくこと』。わ~い!」
電話が鳴る。
道子「私が出る」
元子「うん」
道子「はい、大原です」
トシ江「道子? おばあちゃんよ。おキンばあちゃん、そっち行ってない?」
道子「ううん」
トシ江「じゃあ、お母さんは?」
道子「いるけど、今、お仕事」
元子「誰?」
道子「人形町のおばあちゃん。おキンばあちゃんが来てますかって」
元子「またなの?」
道子「うん」
元子「来たら電話しますからって」
道子「はい。来たら電話しますって」
キン「ごめんくださいまし」
元子「あっ」
道子「来た!」
元子「どうぞ! 上がってちょうだい!」
道子「それじゃあね」受話器を置く。
玄関
元子「あっ」
キン「お嬢!」
元子「なんて顔してんのよ。さあ、ほら上がってちょうだいな」
キン「申し訳ありませんよぉ。だけどね、ここよりほか行くあてがないもんで…」
元子「待ってたのよ。この間のお煮しめね、正道さん、とってもおいしかったらしくて、今度、おキンさんいつ来るんだって今朝も聞かれたんだから」
キン「あらまあ、本当でございますか!」
元子「ええ、本当ですよ。さあさあ、上がって上がって」
キン「ちょっと失礼いたします…」
桂木家茶の間
トシ江「大丈夫。まっすぐあっち行った様子だから」
善吉「どうもすいません。全くどこまで人(しと)に迷惑かけりゃ気が済むんだ、あのくそばばあは、もう」
トシ江「親ぁ放り出しといて、そんな罰当たりなこと言うもんじゃないわよ」
銀太郎「放り出したんじゃありませんってばさ。そんなに気に入らなければ、この私が出ていきますって言ったんですよ。だけど、お義母(かあ)さんったら、どうせ私じゃ女房の役は務まらないんだからって行っちゃったんだもの」
トシ江「あのね、けんかなんてものは昔っからね、やり合う人と止める人がいてさ、それで成り立ってんだよ。それをあんたたちときたら」
善吉「いやぁ、あっしだって、はなは仲裁役なんですよ。それがどっちも言うことを聞かねえもんだから、ついでっけえ声出すことになっちまって、もう」
銀太郎「だけど、子供が出来ないのは私のせいばかりじゃないでしょ」
トシ江「また、それが原因なの?」
善吉「いや…湯たんぽの話でね」
トシ江「湯たんぽ?」
銀太郎「口金が怪しくなっちまったもんだから、私のを使ってくださいっつったのが事の始まりなんですけどさ、そのあとはいつもとおんなじ、もう何が何だか分かんない方へ話が飛んじまって」
トシ江「まあね、チャンチャンやってられるうちは、おキンさんも若いって証拠だけどさ。立てるところは立てて、引(し)くところは引く。それ考えてやんないでどうすんの、若い人が」
銀太郎「だけど、そうすると今度は年寄り扱いしてるって、そう言うんですよ」
トシ江「分かりました。そいじゃ、まあ、明日私が迎えに行ってきましょう」
銀太郎「いえ、私が参りますから」
善吉「ほら、言われてるそばから。それがおめえの悪いくせだってんだよ!」
銀太郎「だってこれ以上、おかみさんに悪いじゃないのさ!」
善吉「おめえは…」
銀太郎「私だってね、毎日毎日、お義母さん…」
善吉「うるせえや、うるせえや」
銀太郎「あんたさせ、シャンシャンしてくれりゃ」
善吉「俺がシャンシャンしてどうすんだよ」
銀太郎「嫁の私が言えないことをあんたが言ってくれりゃいいじゃないのよ」
あきれ顔のトシ江。
作業場まで声が聞こえている。
宗俊「どいつもこいつも、全くもう…」
善吉と銀太郎が言い争う声をバックに宗俊は反物に色を付けている。いつも思うけど土台がすごく揺れてるから色を塗りにくそう。
大原家の台所
キン「♪『逃げた女房にゃ 未練はないが』」歌いながら洗い物をしている。
正道「おキンさん」
キン「へえ、アッハハハハ…」
正道「ゆっくりしてってくださいね」
キン「とんでもございません。それはもうゆっくりとごちそうさせていただきました。あの、お煮しめいかがでございました?」
正道「あ~、うまかったですよ。さすが、おキンさんの味付けですね」
キン「あらま、さいですか。まあ、ホホホホホ…」
正道「おい、元子」
扉を閉めて隣の部屋にいる元子。「は~い」
キン「いけませんですよ。あのね、奥様のお仕事のお邪魔をしてしまったもんですから私が頼んでやってもらってるんです」
正道「いや、しかしですね」
キン「いいんですよ。好きなようにさせてやってくださいましな。ねえ、道子ちゃん」
道子「ね」正道さんポンと道子の頭に手を乗せる。
茶の間
正道「何だ、まだ書き直しやってんのか?」
元子「えっ? いいえ。あれはね、今日、ブルースが忙しそうだったから置いてきたんです。これはテレビのモニターをまとめてるんです」
正道「おキンさんに台所やらせておいていいのか?」
元子「いいのよ。年を取るとね、自分も役に立っているんだってとこを見せたいんだし、それにこっちも尊重しなければいけない時があるんです」
正道「ふ~ん」
元子「それにね、明日、お母様方の集まりもあるし、これ、今日中に仕上げてしまわないと」
正道「しかしな、善さんが心配するだろうなあ」
元子「おキンさんなら明日にでも私が送っていきますから」
正道「うん。でも追い返すようにしないでくれよ」
元子「大丈夫ですよ」
正道「うん」
玄関に下駄やサンダルが並び、笑い声が聞こえる。
バケツでぞうきんを絞り、玄関の戸を拭いているキン。「全く近頃の奥さんたちときたら亭主が汗水流して働いてるってえのに何だかんだ理由をくっつけちゃ井戸端会議。お嬢が忙しいってのにね、全くお尻の重いこと」
茶の間
元子「じゃあ、今回の編集後記は400字2枚ぐらいでいいかしら」
久子「うん、あとは左肩にイラストが1つ」
元子「イラストね、はいはい」
宏江「それじゃ、そんなところでよかったかしら」
元子「そうですねえ。あっ、あとは今週…今月の声だけだけど」
富子「ねえ、お願い。ついでに大原さん書いてくださらないかしら」
他が昭和のお母さんスタイルだけど、富子一人だけ着物。まだ日常生活に着物の人もいたか。そういえば、このドラマが放送されてた辺りでも私の隣の家のおばあさんも日常的に着物だったよ。おキンさんスタイル。
元子「私が?」
久子「悪いわよ。今日の討議をまとめてもらう、その上に」
富子「だって私、子供の頃から作文は苦手だったし、手紙だってめったに書かないのよ。もう3日も4日もかかっちゃうんだから」
元子「じゃあ、さっきの給食の話でいいかしら。あれだったらまとめておきますけど」
富子「お願いします。あれこそ私の言いたかったことなの。あれをうまくお願いいたします」
宏江「ずるいのね、友野さんったら」
富子「そのかわり、私がお茶をいれるわよ」
久子「まあ…調子いいのね、いつも」
富子…松田真知子さん。「おしん」49話で客役、「あぐり」8話、「ハゲタカ」2話の参列者などなど。
久子…御道由紀子さん。「渡る世間は鬼ばかり」出演経験あり。
それにしても、「本日も晴天なり」は再放送が久しぶり、熱心な信者?がいないせいか、どの人を見に行っても出演歴に書かれてない。書かれてるのはよほど大きい役だった人だけ。「おしん」なんてほんの1シーンの出演でも細かく書かれてるのに。かなりの人が「おしん」とかぶってる。
元子「あの、一緒に呼んでもいいかしら」
久子「あっ、どうぞどうぞ」
元子「おキンさ~ん」
キン「へえ」
元子「そろそろお茶にしましょうか」
キン「はい」
キンは急いで裾をおろして、茶の間へ。
元子「ご苦労さん。おキンさんが来るとガラスは明るくなるし、うちじゅうピカピカになるみたいだわ」
キン「ハハハハ…そりゃあね、何たって年季の入れ方が違いますもんね。近頃じゃ電器電気ってうちの嫁なんざ掃除機振り回してね、あの畳の目に逆らって押しくらまんじゅうやってますけど、あれじゃね、私がほうきで掃いた方がかえってゴミも残りませんです。洗濯機だってそうですよ、まあ。何だってかんだって、いっしょくたにね、かき回せば済むと思ってるけど、まあこれからの女の人っていうのはね、つまみ洗いって言葉忘れちまうんじゃないんでしょうかねえ」
つまみ洗い、今でもあるからね。
キン「あっ、奥さん、お茶いれる時はね、急須を逆立ちにしちゃいけませんです。へえ、私がおいれいたします。へえへえ、へえへえ…。それにね、靴下。まあ、いっしょくたにね、放り込まないだけ、まだいいんですけどね、うちの嫁なんざ、あなた、洗面器に放り込みっぱなし。あれじゃあね、かえって汚れが染み込んでしまうもんなんでございますよね。口ばっかり達者っていうのも、へえ、困ったもんでございます。頂きます」
元子「ねえ、おキンさん、お茶の時間なんだから靴下の話は後にしない?」
キン「そうでしたね、まあ…私としたことが、まあ。ホッ、ホホホホホホホホ…」
近所の奥様方、タジタジ。
台所
元子「おキンさん」
キン「まあ、本当に申し訳ございませんでした。まあ、つい自分のうちのつもりでいい気になっちゃって」
元子「いいのよ、もちろん、自分のうちだと思ってくれても。だけどね、やっぱり年を取ったら、かわいいおばあちゃんだって思ってもらった方がいいじゃないの」
キン「そりゃまあ、分かっておりますけどさ」
元子「分かってるんだったら、私もそれ以上言う気はないんだけど。ねえ、善さんだって心配してるんじゃないかしら。私が電話してやるからちょいと声聞かせてやったらどう?」
キン「いえ、どうせ帰ろうかなあと思ってましたところで」
元子「そう。だったら、潮時ってこともあるし、私が送っていくわ」
キン「でもね…清々した何て言われると、また悔しくてね」
元子「そんなこと言うわけないでしょ」
キン「いいえ、あの2人はね、ただの一度だって私のこと心配してくれたことなんかないんですよ」
元子「バカなこと言わないで。他人の私だって、しばらく顔を見なければどうしてるかなって気になるのに。親子でしょう。子供が出てった親の心配しないなんてこと、どこの世の中にありますか」
キン「ええ…」
元子「この間、銀太郎さんだって言ってたわよ。人騒がせで申し訳ありませんが、弱って寝込んでいられるよりは頭下げて回れば済むことだから飛び出してってくれた方がよっぽどうれしいって」
キン「あの嫁がですか? 本当に?」
元子「ええ。うそだと思ったら呼んで聞いてみる?」
キン「めっそうもございませんよ」
元子「どうして?」
キン「だって今日は帰るつもりだし、またあれが来てしゃべり込んでね、お嬢の大事な時間を潰したら申し訳ございませんもの。私、拭いたらね、これを…帰らせていただきます」
元子「分かった」キンの隣に立って手伝う。
元子さん、まずは一つ上手にさばきました。
つづく
明日も
このつづきを
どうぞ……
こういう日常話、好きなんだけどな。人によっちゃ話が進まないってことになるんだね。話が進むとか進まないとかどういう意味なのか分からない。「阿修羅のごとく」でお母さんのかかとがカチカチでなんて姉妹で笑ってるのも話が進まないってことなのかなあ。
元子が文章書くのが好き、得意という描写が今まで一個もなかったのに、というタイプの人って、話が進まないと言って、元子の作文や手紙、編集後記を書いてた、巳代子に作文を代わりに書いてと頼まれるなど度々文章を書く描写を見逃してない??