1971年11月21日 TBS
あらすじ
来年30歳になる独り身のお幸(佐久間良子)は、貧乏なうえ病気の母・お文(夏川静枝)を抱えて針仕事で細々と暮らす毎日、薬代にも困るほどだった。そんな彼女に日本橋のたび屋の主人・巴屋嘉兵衛(山内明)の世話にならないかとの話がきた。彼女はその申し出を受けるしかなく、母と二人で妾宅に移り住む。嘉兵衛はお幸の不安を察し、指一本触れずに酒を飲んで帰るだけの半年が過ぎた。そんな嘉兵衛の人柄に段々と魅かれるお幸は、彼から金や物だけ与えられる関係が不満になり、かえって辛くなってしまう。年が明けたある日、嘉兵衛はお幸にあでやかな振り袖を贈った。そこでお幸は激しく泣き崩れてしまった。足袋店の妻が三十で着る振袖。しかし、嘉兵衛の本心は…。

2025.9.28 時代劇専門チャンネル録画。懐かしの『日曜劇場』時代劇。
お松と平吉が営んでいる、ぶっかけめし屋。ご飯もなくなり、平吉が外へ出て提灯の明かりを消した。「すっかり秋だなあ」と空を見上げていると、巴屋の旦那が来たので、平吉もお松も歓迎して迎え入れた。
今夜のお肴は、たこの煮つけ、おから、練り味噌。ご飯は裏の棺桶屋に借りる。山岡久乃さん、めちゃくちゃ早口だ~!
お松は巴屋の旦那の姿が見えないと、見限られたと思って、ひがんでしまうという。巴屋は、田舎者の貧乏性でこういう店が落ち着く、だから女も器量より実(じつ)のあるのがいい、芯がひとつ通った真面目で情の深い…と言いつつ、自分のような四十男には真面目で情の深い女が妾になんぞなってくれるわけもないと愚痴る。
め、妾…!
お松たちも巴屋の妾候補を探しているものの見つからない。
そこへ、店の前で転んだ拍子に障子に穴を開けながら、お幸(ゆき)が来店し、先月借りた醤油を返しに来て、今日は2反仕上げて、すぐ手間賃も払ってもらえた報告した。
お松は、お幸を見て、巴屋の妾に!と思い立ち、お幸に話した。日本橋の巴屋という足袋屋のれっきとしたお旦那で、お松の店に来るようになって1年近く。真面目でおとなしくていい人。店に来て半年近くなってから、初めて巴屋が「この店の、みと松って名のいわれは何ですか?」と聞いてきた。
みと松…2人とも水戸の出で女房の名前がお松だと平吉が答えると、「夫婦仲がいいものはいいもんだ」と寂しげに言っていたので、平吉が「ご家内がお寂しくて、この店においでになるんだったら、いっそ気立てのいい子をお囲いなすったら」と提案。お松は、妾なんぞ囲ったら店に来なくなってしまうと思っている。
思惑の失敗、お父っつぁんの急死やらで槙町の店を畳んで、おっ母さんと2人で、裏長屋に引っ越してきた年の暮れ、お幸は芸者に出ろと強く勧められたのをお松とおっ母さんで反対したのに、なんで?という思いになった。秋風が吹くと、貧乏が身にしみる。年が明けると、お幸は30歳。芸者にも出られやしない。
お松は巴屋の旦那がいい人だから、この話をしたという。貧乏なんて、やだねえとお松も泣き出し、この話がまとまったら世話料がもらえることになってると正直に話した。心の中で当てにしていたと言われ、お幸もハッとする。
原作:山本周五郎
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脚本:隆巴
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音楽:小川寛興
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お幸(ゆき):佐久間良子…字幕黄色
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巴屋喜兵衛:山内明…字幕水色
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お文(ふみ):夏川静枝
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平吉:加藤武
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お松:山岡久乃
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小僧:進士晴久
町娘:松江美琴
芸プロ
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プロデューサー:石井ふく子
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タイトル:篠原栄太
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演出:鈴木淳生
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制作著作:TBS
ボロボロの家に帰った、お幸が縫い物をしていると、隣の部屋から、母・お文のせきが聞こえる。隣の部屋…ではなく屏風で仕切られているだけ。
行灯の火が消え、お文は寝るように言うが、お幸は、もう少しやらないと、と、みと松のおばさんの所で油を借りに行くと言って出かけた。
お幸がみと松に出かけ、お松に「あたし、あの方のお世話になるわ」と言った。「昼間の話、お願いします。お世話になってみるわ」。三十ふり袖にはなりたくない。
三十ふり袖、四十島田(しじゅうしまだ)、30にもなって嫁に行かない女には身にしみる言葉。お幸は、ふり袖どころか油さえ買えない三十娘。いいかげんにお嬢さん気取りは捨てなくちゃね、と自分に言い聞かせるように言う。
三十振袖四十島田… 30歳になっても振り袖を着、40歳になっても髪を島田に結ったりする。年輩の女性が年齢不相応の若い服装、化粧などをすることのたとえ。
ホント、昔っから年取った女性への目が厳しいねえ。好きな格好させろや!
ただし、おっ母さんにだけは自然に分かるまで…と口止めした。
明日が十五夜という日、風呂へ行き、髪結いへ行き、おしゃれして帰ってきたお幸を寝ているお文が新しいびんづけの匂いで気付いた。
おっ母さん、何か見たことあるなと思ったら、夏川静枝さんは「夢千代日記」のおスミさんだね。
お松が戸口に立ち、借りた着物や紅をこっそり渡したあとは、わざと明るい声を出し、家に上がり、急な寄り合いの手伝いに呼んだとお文に話し、お幸を着付けた。
娘を泣く泣く妾に出してまで長生きしたくないと長屋を離れることを拒否するお文。お幸は「あたしは、あの方が好きだから行くの」と言う。年が明けたら30、自分のしたいことぐらいしちゃいけないの?
お文は何もしてやれないが、本当にしたいことをしておくれと泣く。
左隣が京橋の袋物屋のご隠居、右隣がなにがしっていうお能師の控え家という落ち着いた閑静な住まいを提供されたお幸。何から何までそろえ、お嫁入りの道具以上だと手伝いに来たお松が言う。結局、お文も一緒に暮らすんだね。本願寺の鐘がなり、お松は帰った。
夢でも見ているような気がするというお文に12年前、槙町の店が人手に渡り、裏長屋に母子で引っ越した時も同じことを言っていたとお幸が言う。
暗くなり、これからは昔のように行灯2つつけるというお幸。
隣の部屋に行ったお幸は母に隠れて涙を流し、古い道具がかわいそうだと針箱を愛おしそうになでた。
巴屋の旦那が来た。喜兵衛は、お土産に寿司を持ち、仏壇を運び、手を合わせ、お文にも丁寧にあいさつした。
お幸は母にも土産を持ってきたことにお礼を言い、酌をした。喜兵衛は、お幸の料理を褒め、お文をもっと日当たりのいい部屋に移すように言う。
喜兵衛役の山内明さんを見ると、つい「ス、ノタマワグ」と言いたくなるね。時代的には「二人の世界」の麗子の父くらいの時だけど。
新しい布団で寝ているか聞く喜兵衛。今月分のお金を渡し、ほかに入り用な物はないか聞き、あさっての夕方来ます、とそのまま帰っていった。
お幸は喜兵衛を案外いい人かもしれないと感じた。
次に訪れた喜兵衛は「今夜は私もゆっくりしていくからね」と言い、お幸はドキッ! ご飯を食べながら、これで着物でも買いなさいとお金を渡し、今年は今まで行かなかった菊人形や紅葉狩りに行ってみたいと笑う。
足袋屋の職人だった喜兵衛は足袋だけは江戸一番のものを履かせたいと寸法を取らせてほしい、あんたには自分で縫った足袋を履いてもらいたくなったと話す。
布の上に足を置くお幸。
喜兵衛「アア…かわいらしい足だねえ」筆で足の形を取る。女のうんちくなど深いはずもないが、足だけは目が肥えている。「江戸中に艶名(えんめい)を轟かせた姐さんから上ツ方(うえつかた)のやんごとなき、おみ足まで、こうやって眺めて」お幸の足に触れ、お幸はドキッ!「こうやって触って、ぴったりと合わせるつぼ所を測ってきた。こうしているときは神経が静かに張り詰めていてね、ふっと、その女の隠れた心まで見たような気がするときがある」。とりあえず4~5足ほど作るという。
お幸が酒を出そうとすると、ゆっくりといっても四つには帰らねばならんという喜兵衛に、お幸はホッとする。
四つ…午後10時。午後と言うか、9~11時あたりを指すらしい。
みと松
お幸に着物が2反、帯と長襦袢と笄(こうがい)を渡すお松。1日置きにお幸のもとを訪れ、必ず、みと松に寄って、飲んで帰るので、お松も平吉も長続きしないのではないかと心配している。
お幸には「店の者に示しがつかないから帰る」と言って、四つの鐘が鳴ると帰っている。
そのうち慣れるというお幸だが、お松は「思慮深いの引っ込み思案たって程があらぁな」とちょっとイライラしてる!? 殴りつけられたって、すっとすることだってあんだよ、女は…って、そんなこと絶対ないわ。
雪が3寸ほど降った日、喜兵衛が一緒に飲めたらいいなと言うので、お相手しますとお幸が言うと、無理はいけない、あんたの好きにしていいんですよと決して無理強いはしない。四つの鐘が鳴り、帰ろうとする喜兵衛にお文も風が強いようですよと足止めする。
しかし、お幸は「お家がおありなんだから、こっちの勝手ばかり言えない」と愛想のないことを言い、お文は、雪の中を喜兵衛の好きな寿司を買いに行ったなどと娘をフォロー。喜兵衛は「またあさって来ます」と帰っていった。
お文は喜兵衛から舶来の羽根の布団をもらったと報告した。「本当にお優しくて仏さまのような心持ちのお方だね」と褒めた。
しかし、お幸は、お文にまで親切なのが度が過ぎて、下心が丸見えだとイライラ。「何でもあんたの好きなようにするがいい」って口ではきれいなこと言いながら、物・金で人の心を縛ろうとする所がとっても嫌だと吐き捨てた。
あの方のしてくださることには心がこもっていると言うお文に、人がいいのは違いない。でも、あたしは囲われ者。あの人は本妻のほかに妾を囲って日陰者で哀れだと思うから物・金をくれる。本宅のおかみさんには何にも買ってやらないのかもしれない。物事を言いつけたり、小言を言ったり、時には殴ったりすることがあるかもしれない。でも、それは夫婦だからだと泣く。
だから、殴るのは違うよ~。
お幸は、もう何もくださらないように話してほしいと、お文にお願いすると、年が明け、松でも取れたら、ゆっくり話すという、お文。「お前がそんなにあの方を好きになっちまったんならね」
お文の指摘に驚くお幸。
職人がお幸に布団を届けた。「自分の口から言えないで、お布団よこすなんて悪い謎かけね」
お文が松さんに頼んでいたものだと言い、これから本所の叔母さんの所へ寄り、今夜は戻らないかもしれないと言う。今夜、喜兵衛が来る。「新しく旦那のお布団作らせましたから」と言って泊まって行ってもらうよう言う。こんなこと母親の口から言うべきじゃなかったかもしれないが、あの方は本当にいい方だという。もう五月(いつつき)目。旦那は心底から、お幸のこと好いててくださっている。お幸だって同じ。物・金でなく、あの方の心が欲しくなった。
お文「『妾』という言葉、『囲い者』という言葉、甲斐性のない親にとっては、はらわたをかきむしられる。だけどね、これだけは言える。お前は、いっときの慰み者だけでは決してない。そりゃ、あの方にご本宅があるっていうことは、どうしようもないことだけれど、お前があの方を好きなのなら、それがお前の幸せなら、それでいいって、おっ母さん、そう考えるようになったんだよ」
そういや、お文さん、栄養状態がよくなったのか元気になったな!
喜兵衛が訪ねてきた。お幸が「お帰りなさいませ」と迎えると、一瞬、戸惑う喜兵衛。お土産のかば焼きを渡すと、お幸は今夜、おっ母さんがいないという。
お幸が台所でかば焼きを皿に開けていると、目をつぶっておいでと、喜兵衛が部屋へ連れて行った。目を開けてご覧と言われて見ると、見事なふり袖が飾ってあった。あんたのふり袖姿が見たくて作らせたという喜兵衛だったが、「あたしにふり袖なんて…」と号泣するお幸。喜兵衛は驚き、帯は明日出来上がる、改めて話し合いをすると言って帰ってしまった。
お松からゆうべのように乱暴な飲みっぷりだったのは初めてのことだと聞かされたお幸。お松は平吉も連れ、帯も持ってきていた。
平吉から、お幸が嫌なら今までのことは水に流そう、嫌でなかったら改めて巴屋の嫁に来てほしいという喜兵衛からの伝言を話した。お松の話によると、喜兵衛は、おかみさんはおらず、持ったこともない。
ここからお松のマシンガントーク!「あの方、甲州小淵沢の出で11のときに、あの…京橋の五郎兵衛町の茗荷屋って足袋屋にご奉公に入って26年勤めて、やっと自分の店を38の年に持って、それから7年間、悪遊びもせず、独り身を過ごしてきたってことなんだよ」
縁談の世話はたくさんあったけど、みんな断った。自分の年が年だから、吹っ切れなかった。いいかげんな祝言はしたくなく、妾でも心が通じたら祝言しようじゃないか、妾に出る事情のある子なら、むしろ、私にはぴったりだと言っていた。ゆうべ、喜兵衛は私の気持ちはお幸には届かないらしいと酔いつぶれていた。
私が悪かったと謝るお幸。きれいなふり袖を見てたら、ただ泣けてきた。「ふり袖を着て踊った子供のころ、ふり袖も着られなかった娘のころ、そして、今、人に囲われて30で着る三十ふり袖。うれしかったの、悲しかったの。身にしみたのよ…」と泣き出す。
平吉がお幸の気持ちをそのまま伝えるというと、お幸は「お嫁になんか行きません」と言う。このままであの方を大切にしていきます。本妻にしてもらえると分かった途端に手のひらを返したように思われるのが死ぬほど嫌だと言うと、平吉は、お幸をビンタした。おいっ!
平吉「あっ、いや、旦那は女は決してぶたねえだろうがね、まあ、こういうときには、これがいちばん早道なんだよ。さあ、早く言って、ふり袖を着て見せておあげなせえ。実を言うとね、旦那、つい、その先で待ってなさんだ」
お幸がふり袖を着て、喜兵衛を呼ぶ。巴屋の提灯を持った喜兵衛が近づいてきた。
お幸「見てください…ふり袖」袖を広げ、くるりと一回転。走って喜兵衛の胸に飛び込んだ。(おわり)
おおー! いい話なんだけどさあ、旦那でもない平吉がお幸を殴るな! それと殴ったほうがいいなんてこたぁないよ!
