1970年9月13日 TBS
あらすじ
日本橋の呉服店・越前屋の次男に生まれた定次郎(勝新太郎)は、放蕩のあげくに勘当される。その後は、小さな魚屋を営みながら町人長屋で恋女房のおはん(浅丘ルリ子)と仲むつまじく暮らしていた。だが、母・おみち(杉村春子)の気持ちを思いやった異母兄の佐太郎(内藤武敏)が、ある日定次郎を迎えに来た。店に戻ることはおはんと別れることを意味する。定次郎は母・おみちの頼みもあり、身を切られる思いで家に帰る。家には祝宴が用意され、親類達が集まっていた。初めはおとなしく盃を受けていたものの、おはんのことが頭から離れず…。
2025.9.21 時代劇専門チャンネル録画。懐かしの『日曜劇場』時代劇。写真は白黒だけどカラー放送です。
定次郎が桶を担いで帰ってきた。「帰ったよ」と声をかけるが、家には誰もいない。おみやという茶白猫を抱いた女が「おはんさんいないんですか?」と話しかけてきたが、「湯にでも行ったんでしょう」と答える定次郎。おみやは「お風呂(ぶぶ)には私と一緒にさっき行ったのよ」とまだ絡む。「おはんさん、色っぽくなったわねえ」
おはんが帰ってきた。「ダメじゃない、浮気してちゃ」とおはんに言うおみや。
定次郎は、おはんのためにうるめを取っていた。お前も魚欲しいのかい?と猫に話しかけながら、まだ定次郎の周りをうろつくおみや。定次郎は無視して井戸で桶を洗う。
湯上がりの定次郎は「まだ釣忍、捨てねえのか?」と、おはんに聞く。
おはんは芽が出そうだし、定次郎と所帯を持ったときに買ったので捨てられない。仲睦まじく見える夫婦だが、おはんは不安そう!?
釣忍は名前からいっても、寒い冬をじっと忍んで、またきっと芽を出すはずだと思うから、捨てちゃかわいそう、と、おはんが言う。
定次郎が何かあったのか聞くと、今日、定次郎の兄が来たという。定次郎は兄貴なんかいやしないと答えた。
そこへ為吉が手作りの将棋盤を持ってきて、将棋をしようという話になったので、おはんはそれ以上追及できなかった。
原作:山本周五郎
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脚本:隆巴
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プロデューサー:石井ふく子
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音楽:小川隆司
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演出:山本和夫
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定次郎:勝新太郎…字幕黄色
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おはん:浅丘ルリ子…字幕水色
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為吉:藤岡琢也
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佐太郎:内藤武敏
白銀町の大伯父:加藤嘉
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おみや:荒木道子
槙町の伯父:浜田寅彦
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長浜藤夫
高島敏郎
近松敏夫
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浮田左武郎
石島房太郎
松江美琴
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おみち:杉村春子
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制作:TBS
夢中になって為吉と将棋を打つ定次郎だったが、為吉は鐘の音に反応。「恨みの鐘の泰安寺(たいあんじ)、今日は、これまで、ちょんだよ」と駒をしまい、仕事があると言って、将棋盤を持って帰った。
藤岡琢也さん、眼鏡なし、チョンマゲだと一瞬誰か分からなかった。声で判別。
おはんは、さっきの話の続きを始める。日本橋の通り三丁目、越前屋って呉服屋さんの旦那で佐太郎という男が定次郎の兄だといい、長いこと、方々、訪ねていた。定次郎は、定次郎なんて名前は履いて捨てるほどいる。おれは赤羽橋の魚屋のせがれで、勘当されて、今は出入りしてねえ、と何度もおはんに言っていた。
人違いだという定次郎におはんはホッとした。「ああ、良かった…私ね、どうしようかと思ったのよ。だって、あんたがその定次郎さんなら、大店(おおだな)の若旦那になるわけだもん。釣り合いやしない。私みたいな、しがない…」
佐太郎は日本橋の店を弟に譲って跡取りになってもらいたいと思っていて、4~5日したら、また来ると言っていたけど、人違いならガッカリするわねと布団を敷きながら、おはんが言う。
しかし、定次郎は何事か考え込んでる様子。
最近、布団を敷くと、隣の家がシーンとするとおはんが言う。聞いてるらしい…って冒頭に出てた、おみやか?
夏祭りで外から祭りばやしが聞こえる夜。定次郎が帰ってきて、明日、引っ越しすると言う。しかし、おはんは「また、兄さんが菓子折を持って見えましたよ」と機嫌が悪い。
今度は、すっかり話を聞いた。定次郎が間違いなく越前屋の次男で兄の佐太郎とは3つ違い、佐太郎のおっ母さんは早くに亡くなり、後添えに来た継(まま)おっ母さんが定次郎を産んだ。腹違いの兄弟でも仲が良かったが、定次郎が18~19の頃からぐれだし、家を空けたり、お酒を飲んで暴れたり、店のことを見向きもしないばかりか、隙があれば、お金を持ち出すという始末で、とうとう親族合議のうえ、勘当になってしまった。
おはんは門前町の芸者だったから、変な欲でも出しゃしないかと思って、生まれを隠していたんだろうと責めた。
定次郎は2年以上夫婦をやっていて分からなかったのか?と怒る。「俺は前掛けに角帯で客にへらへら世辞なんぞ言える性分じゃねえや。てんびん棒担いで魚屋って商売が性に合ってるんだ」
おはんは勘当が解かれても家に帰る気がないのか確かめると、定次郎は「当たり前だい! 念には及ばねえや」とまた引っ越しの話をする。
しかし、佐太郎は、あさってにまた来る。おはんは兄さんに会って話し、分かってもらう方がいいんじゃないかと言うが、定次郎は口じゃかなわねえと会うことを嫌がる。義理に縛られるのが嫌だと明日の引っ越しを強行しようとする。
おみやが雨が降ってきたと洗濯物を持って訪ねてきた。おはんが庭の物干しから洗濯物を取り込んでいると、雷鳴が鳴り、風呂屋に行こうと玄関に立っていた定次郎におみやがわざとらしく抱きついき、ムッとする、おはん。
数日後、定次郎が仕事から帰ると佐太郎がいた。佐太郎が本家を定次郎に譲り、新しい店を出すと言い出したときから、わざと道楽を始めた定次郎。
佐太郎は白銀町(しろがねちょう)の大伯父に相談した。佐太郎は商売が好きで腕に自信があると自分でも思っていたため、惣領だからと親譲りの店を継ぐより、自分で新しい店を仕上げてみたい。大伯父も乗り気で親戚一同に諮ってくれ、定次郎の母にも話を通した。そんな時、定次郎は道楽を始め、家を出た途端、ぴたっと止(や)まった。
定次郎は道楽とは飽きりゃ止(や)むもんって相場は決まってると反論。佐太郎は真面目になれば勘当なんぞも自然と解ける。もう家へ帰ってもいいころだと諭す。定次郎は今の商売が性に合ってる、呉服屋なんて、俺は大嫌いだ、真っ平だと吐き捨てた。
佐太郎「代々続いた越前屋ののれん、親戚衆への義理、その中にたったひとり残された、おっ母さんのつらい立場など、どうなってもかまわない。自分さえよきゃ、誰が泣こうと嘆こうと、それでいいんだな?」
定次郎「ちょっと待ってくれ、兄貴。ほかのことは知らねえ。だがな、俺が戻ったら、一生、つらい立場になんのは、お…おふくろなんだぜ。おふくろは、しがねえ芸者から越前屋の後妻に入った。それ以来、30年、気兼ねのし通しだい。殊に兄貴ののれん分けが決まってから口さがねえ親戚の野郎どもに何て言われたと思う? 惣領を追い出して、てめえの産んだ子を跡取りにする。なるほど下衆の素性は争えねえ。そう言われてたんだぜ。俺が飛び出したのは、そのためよ。俺から見りゃ越前屋なんて、くそ食らえだ」
佐太郎「なるほど。しかし、お前が放蕩の果てに勘当を受けても、おっ母さんの肩身は一向、広くはならないよ。うちの親戚衆の口うるささは知ってのとおりだ。お前の放蕩は母親の血筋がそうさせたのだと言われて、おっ母さん、陰で泣いていなすったよ。その上、お前がこうして所帯を持ったというのだから、口さがない連中のことは聞かずとも分かるだろう。このままじゃ、おっ母さんは針のむしろだよ」懐から母の手紙を取り出した。「どうせ陰口を言われるもんなら、かわいい息子と一緒に暮らしたい。親なら誰しも、そう思うのが当たり前だ」
歸って下さい
頼みます
母より
達筆すぎるけど、多分、こうだよね? 歸=帰
佐太郎に何て書いてあったと聞かれ、手紙を丸めて捨てた定次郎。おはんが読み、帰ってあげてと頼んだ。定次郎は俺が家に帰るということは夫婦別れになるのだという。親戚が何でも決めるため、母がおはんを嫁にする力はなく、母も父が死んでからは使用人と同じように働いている。
定次郎「お前は生涯、越前屋に入れねえ。また、おれも入れたくねえ。おふくろの二の舞は、させたくねえ」
おはんは2年もかわいがってもらったと別れを受け入れた。ぷいっと奥へ行く定次郎。
佐太郎を見送りに出たおはんは、佐太郎から親戚の皆さんを呼んであるから、あしたの夕方、間違いなく頼みますよ、定次郎のためだと念を押された。
おはんはお祝いだと言って、鰻を買いに走った。
夕食時、おはんは為吉に話すと将棋盤をやると言われたと明るく話し、定次郎に酒を勧めた。しかし、定次郎は寄席にでも行こうと誘う。おはんは今夜はゆっくり話そうと自分でも飲み始めた。あのころのあんたったら…と思い出話をする。
最初から何か訳があると思っていたというおはん。「だって、勘当されるほどの道楽者が女の体、知らないなんて」
おはんは12からひとりでやってきたんだから、門前町に戻れば、ひとりで暮らしていけると言う。それから先、どうなる?と定次郎は怒り、おはんを気遣う。
為吉が将棋盤を届けに来たが、おはんと定次郎はキスして無視。
まだ祭りは続く。定次郎がふらりと越前屋の前に現れた。女中は定次郎を知らなかったが、番頭や奉公人たちは若旦那!と騒ぐ。
定次郎は母・おみちと再会。
おみちは定次郎のために着物を縫っていて、佐太郎も早く着替えるように言う。
定次郎「俺はまだ勘当は解けちゃいねえんだし、それに…これは、おはんがそろえてくれたんだよ」
佐太郎は皆さんの手前もあるし、せっかくおっ母さんが…と言うが、おみちは、いいんだよと着物をしまった。
定次郎は親戚たちが集まる席へ。
佐太郎が先に挨拶。「ご親類の皆さま方に越前屋の惣領といたしまして、ひと言、ご挨拶申し上げます。長らく勘当を受けておりました、弟・定次郎、皆さま方のご寛大なるお計らいにより、本日、ただいま、この席にまかり越しました。これも皆、白銀町の大伯父さん、槙町の伯父さんをはじめ、ご親類の皆さま方のおかげと定次郎に成り代わりまして厚く御礼申し上げます。先日も申し上げましたように定次郎は勘当のあとは見違えるほど真面目になり小商いながら稼業にいそしんでおります。これも皆皆さま方の情けのむちのおかげ、ありがたいことでございます。必ずやこの精進が実を結びまして、私がこの越前屋を譲りましたあとも店の主(あるじ)としての重責を必ず立派に果たしてくれるものと存じます。何もかもご親戚方の後ろ盾のおかげでございます」
ん~、佐太郎さん、すげぇ!
佐太郎は白銀町の大伯父さんからめでたい盃を…と言うが、定次郎がそれは違うと止めた。勘当は大体、親がするものだといい、お祝いの座に席もない、おみちを引っ張り出し、勘当を許すか許さないかは、おっ母さんが決めてくんなくちゃいけねんだと親類の前に連れてきた。
おみちの膳を佐太郎が女中に運ばせ、おみちが酒を注ぎ、定次郎が飲む。次は佐太郎。次に白銀町の大伯父の前へ。
大伯父「勘当が解けたうえは皆さんの顔をつぶさないように辛抱第一にやってください。お前さんのためを思やぁこそ勘当したのだ。お前さんを思やぁこそ、また、それを解いた。その辺の私たちの気持ちをよく分かってもらいたい。まあ、とにかくこれで越前屋の店も大磐石。誠にめでたい。苦労のしがいがあったというもんだ。なあ? 佐太郎」
佐太郎「はっ…」
次は槙町の伯父さん。「定さん、お前さんほどの果報者はないよ。これだけの身代とこうして皆さんが待っててくださるんだ。ええ? そりゃ、たまにはてんびん担ぐのも面白かろうし、下衆な女もまた気が変わっていいもんだがね。ハハハハッ…まあまあ、若いうちの道楽は薬ともいいますからね。私もそう堅いことばかりは言いやしない。まあ、しっかりやってくださいよ。ハハハハッ…ハァ…こんなめでたい晩はない」
おみちのお膳の隣に言った定次郎は、おみちと座布団の譲り合い。
今夜は無礼講だという伯父に定次郎は酒で勘当されたので勘弁してくださいと表情は硬い。
伯父「それとも勤め役が門前町辺りのきれいどこでなきゃ気に入らんかな? ハハハハッ…」
ピリッとする空気。佐太郎にうながされて、伯父の盃を受ける定次郎。
次に話しかけてきた親戚が長浜藤夫さんだな? 「しかし、定次郎さん、結構ですねえ。そのうち内緒で、あんたの粋な武勇伝を聞かせてくださいよ。あやかりたいもんだ。ねえ?」
どんどん親戚が定次郎の元へ集まり、「これじゃもてるのが当たり前だ。定さんが越前屋へ帰ってきたら粋筋の客が増えるんじゃありませんか?」と笑い合う。
昨夜のことを思い出す定次郎。おはんは、つらくて泣くんじゃない、2年もかわいがってもらって、それがうれしくて泣けちゃうのだと定次郎に寄りかかって泣く。
定次郎は盃ではなく、大きな茶碗についでくれと頼み、佐太郎やおみちが止めた。
出かける前、おはんがまだ2~3度しか手を通してない着物を着せて、送り出した。私は大丈夫、行ってちょうだいと目を閉じた。
定次郎は完全に酔っぱらい、着物をはだけて、大伯父たちの前へ。「おふくろの祝いだよ。俺の祝いじゃねえよ」
定次郎「このね、めでてえ席で俺は言いてえんだよ、ええ? 皆さんにも言いてえんだ、ハハハハッ…なっ? 後添えになって30年余り。芸者上がりのとさげすまされた、おふくろは…ええ? それをお前、てめえの産んだ子が越前屋の大事なのれんを継ぎゃ、そらぁ肩身広くなる、そうだろう? ええ? また兄貴は、なさぬ仲の弟に店を譲って、てめえは、のれん分けて一本立ちになる。こら、きれいなやり方だね。さすが、若旦那。うん、立派なもんだ。うん! こらぁ、男上がるぜ。俺はどうなる? おう、俺…俺、どうなるんだよ? 芸者の血筋で放蕩三昧。勘当されたあげくの果てに長男をぼ~んとおっぽり出しちまって、なっ? 越前屋の跡取りに座り込む。世間じゃ、そう言うぜ、ああ。世間ってのは、そういうもんだ。そらな、一生、言われるよ、ああ。ヘッ! 世間ってのは、そういうもん…兄貴は男、上がる、うん、おふくろは肩身を広くする、いいじゃねえか。だがな、『義理を知らねえ奴だ』。一生、言われる俺は、どうなる? ええ? 一生、恥知らずだって言われる俺のことをただのひとりでも考えてくれた奴は、いるのかい?」
大伯父「定!」
定次郎「なんだ、うるせえ、黙ってろ! 酒持ってこい!」
ついに佐太郎が怒り「こいつ! 人の気も知らねえで!」と往復ビンタ。
おみちも「定次郎! 出ていっておくれ!」と叫び、改めて勘当いたしますと親戚の前で宣言した。「お前のような者は、この越前屋に置くことはできないんだから!」
「あばよ!」とお膳を蹴って去っていった。
越前屋を出たところで、おはんが立っていた。釣忍に芽が出たのでどうしても見てもらいたかった。黙ってお店の前においてこうかと思った。そんなおはんを抱きしめる定次郎。「帰ろう、なっ? 家へ帰ろう」
今度こそ縁が切れた。今度こそは誰に気兼ねなく2人っきりで暮らせると抱きしめた。
釣忍を見た定次郎は「これはおっ母さんに置いてこう」と、おはんに吊ってくるように言う。酔っ払って寝転がる定次郎に肩を貸し、おはんは定次郎と家に向かって歩き出した。(終)
ねちねちと気持ち悪い親戚たちだし、縁切って正解! 定次郎が母を引き取って…ってわけにはいかないんだろうな。世間体的に?
