1951年 日本
あらすじ
原節子・上原謙共演。巨匠・成瀬巳喜男監督が、林芙美子の未完となった小説を映画化。けん怠期を迎えた夫婦の日常を、きめ細やかな演出で描く名作。岡本初乃輔と三千代は結婚5年目、大阪のささやかな家で暮らしていたが、今では毎日の生活に疲れ、新婚の時の情熱は失われていた。そんなある日、初之輔の姪(めい)の里子が、家出したと東京からやって来る。里子の奔放な振る舞いに、夫婦の暮らしに波紋が広がってゆくが…。
2025.3.19 NHKBS録画
東寶株式會社
昭和廿六年度
藝術祭参加作品
製作:藤本眞澄
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原作:林芙美子
朝日新聞連載出版
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監修:川端康成
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脚本:井手俊郎
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音楽:早坂文雄
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岡本初之輔:上原謙…字幕水色
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岡本里子:島崎雪子…字幕緑
村田光子:杉葉子
富安せい子:風見章子
村田まつ:杉村春子
堂谷小芳:花井蘭子
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竹中一夫:二本柳寛
谷口芳太郎:大泉滉
初之輔の同僚:清水一郎
丸山治平:田中春男
岡本隆一郎:山村聡
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山北けい子:中北千枝子
鍋井律子:谷間小百合
鈴木勝子:立花満枝
金沢りう:音羽久米子
近所の主婦:出雲八重子
隆一郎の妻:長岡輝子
谷口しげ:浦辺粂子
竹中すみ:滝花久子
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監督:成瀬巳喜男
無限な宇宙の廣さのなかに
人間の哀れな営々とした
いとなみが
私はたまらなく好きなのだ
<大阪市の南の外れ、地図の上では市内ということになっているけれど、まるで郊外のような寂しい小さな電車の停留所。すぐそばの天神様の森に曲がりくねった路地の奥に朝の光が流れて>
子供や夫を送り出す朝の風景。三千代はユリを呼んでいた。周囲の反対を押し切って結婚したのは5年前。3年前からは夫の仕事で大坂に住んでいる。倦怠期なのか三千代は日々の生活にうんざりしている。
夫の初之輔は食事の時も新聞を離さない株屋。「外米は少し匂うかしら?」と米を出す三千代。ユリは子猫ちゃんか~。
近所の奥さんと世間話していると、東京の初之輔の姪・里子が訪ねてきた。里子は家出してきたと言う。初之輔さんに会いたいわ~とウキウキしている。2階へ上がった里子が窓から顔を出すと近所の芳太郎が見て会釈する。大泉滉さんね。
里子は縁談が気に入らずに家出した。「なるほど、美人になった」と言う初之輔。なんか、キモい。初之輔も三千代も東京を懐かしがる。時々映り込むユリちゃんかわいい。
三千代は里子がいつまでいるか気にする。米が足りない。初之輔は大阪観光をして帰してやろうと思っている。里子は初之輔の兄の子。
里子は二十歳。オシャレして初之輔に口紅が濃いかしら?なんて話しかけている。初之輔は、”初之輔さん”ではなく”おじさん”と呼ぶように指導。三千代は大阪観光を断り、2人で行くよう勧めた。バスに乗って大阪一周。大阪遊覧バス。東京でいうはとバスみたいな? バスガイドが案内している。里子は大阪で仕事を探そうかなと初之輔に言う。
大坂城案内をしているガイドの声真似をして、あの人、いくらぐらいもらってるのかしら?という里子。私の好きな人はとっても貧乏な人だと言う。なーんで、おじと姪で手ぇつないで移動するんだ!
芳太郎の母・しげが三千代の三味線を持ってきた。芳太郎は原製薬に履歴書を出したが、3人採るのに280人も応募があり、大学出てないと難しいねと話す。
お昼は何にしようと話す初之輔。里子は「鰻まむし」という看板が目に入り、その店へ。”まむし”とは書かれてるけど要は、うなぎ屋さんらしい。里子はストリッパーになりたいと言い、初之輔を驚かせる。
三千代は会費100円の同窓会に呼ばれた。来るのは5人。着ていく着物がないと三千代が里子にこぼすと、洋服でいらっしゃいよとアドバイス。富安せい子が嫁いだお茶屋で行われた同窓会に集まった女性たちは三千代以外は和服。勝子は三千代の顔を見ただけで、仕事が忙しいので帰っていった。
独身の小芳はタバコを吸い始め、お茶屋の嫁である、せい子はビールを運んできた。「おやじ太鼓」の愛子さん~~~! こんな若い頃を初めて見たかも。幸せそうだと同級生から言われて複雑な三千代。
同窓会を解散した三千代は里子に夕飯を頼み、小芳と喫茶店へ。偶然、帝塚山のいとこで銀行員の一夫と再会し、軽く挨拶して小芳と店を出た。一夫は一緒にいた妹に「(三千代が)少しやせたんじゃないかな?」と話した。
初之輔が帰ると、里子は2階でうたた寝していた。起こしてと言う里子の両手を引っ張り、抱き合う2人。きもっ! その上、里子は鼻血を出し、初之介が介抱した。
三千代が帰ると、近所で靴が盗まれたという話が出ていた。明日は、お父ちゃんに下駄で出勤してもらわなくっちゃ。お気の毒に…なんて話していると初之輔も靴を盗まれていた。鍵もかけておらず、2人で2階にいたと聞いてムッとする三千代。
里子は頼まれていた夕食づくりもせず、初之輔は三千代の顔を見て「あ~、腹減った」。三千代は女中のように働いて、もううんざり、と東京へ働きに行きたいと言う。
しげと夫婦ゲンカについて話す。しげは「おなごの一生で威張れるのは娘の時だけ」と笑う。
里子は近所に住む二号さん・りうと仲よくなっていた。三千代は、あまり付き合いがなくいい顔をしない。
初之輔は同僚とキャバレーへ。舞台では女性たちがドレスを着て踊っている。2軒目のバーでハイボールを飲み、酔っ払って、りうに送られて帰宅。三千代にすげえところ行ってきたんだと自慢する。1000人の女給、1000人のダンサーがいる。雑然として多種多様。社会はね、立派なものですよと言いながら寝てしまった。
ユリちゃんが寝ている初之輔に近づいてる。かわい~。ポケットからチラ見えするお金を見て、びっくりの三千代。朝になって尋ねると、靴を買ったり、いろいろ入用だろう、それと里子の小遣いに…というので、三千代はムッ。
里子が起きてきて、初之輔から新聞を受け取って見ていた。
女事務員募集
高女年令25迄 委細面談
求ム女子事務員
高級優遇、履歴書持参
駅のホームで会った芳太郎は「あかん、あかん。電車賃の無駄や」と言う。月給4000円がせいぜい。難波へ行こうと誘った。大坂城で里子は東京では6000円もらってて、半分は家に入れてると初之輔に話していたな。
夜になっても帰らない里子。三千代は、りうの店にでも行ってるのではないかと初之輔に話すと、初之輔は外に出ていった。タクシーで帰ってきた里子は、いろんなところで遊んできたとタクシーを降りて初之輔と腕を組んで歩き出した。三千代さんは怖い、いつまでもこうして歩いていたいわと初之輔にしなだれかかる里子。おえっ!
三千代は一夫の家・竹中家に行き、一夫の母・すみに東京に行くことにしたのでお金を貸してほしいと頼んだ。一夫の妹は兄さんと東京へ帰ればいいと言う。
芳太郎は里子を訪ね、花束を持ってきた。芳太郎は僕の気持ちを聞いてもらいたいと口説くが、三千代が帰ってきたので帰った。三千代は里子に何しに大坂へ来たのかと説教すると、里子は帰ればいいんでしょとすねる。
里子の野郎、ユリちゃんの首根っこつかんでブラブラして…許せん!
初之輔が帰ると、里子は東京で結婚しちゃおうかしら? 私、初之輔さんみたいな人が好きと話す。三千代は里子を送りがてら一緒に東京に行くこと、東京へ行って少し考えてみたい、疲れちゃったと初之輔に話す。
三千代と里子が列車に乗っているが、初之輔は見送りに来ない。里子はレディーに対してエチケットゼロだと怒る。
走り出した列車の中で三千代に声をかけた一夫。挨拶だけして去って行ったので、里子には遠い親戚だと説明した。三千代は、谷口さんに頼んできたけど大丈夫かしら?とユリちゃんを気にしていた。
里子は、わざわざ一夫を三千代のところまで連れてきて、一緒に品川で降りましょうと誘った。そして、遠い親戚なんて言っていとこじゃない!と三千代にツッコミ。
三千代は妹夫婦と暮らす母・まつを訪ねた。疲れていた三千代は朝からずーっと眠りこけていた。母が杉村春子さん。妹が杉葉子さん。妹の夫が小林桂樹さん。おお~!
「金の卵」っていう映画、この映画のキャストとかぶってるね~。
子供を連れたけい子と再会した三千代。けい子は夫が帰ってこず、1人で子供を育てている。ラジオの「尋ね人」を聴いていたが、そのラジオも売り払ったと話す。
しげが猫だけじゃなく、初之輔の洗濯もしてるのね~。小芳が三千代から手紙が来たと家を訪ねると、初之輔は散らかった部屋を慌てて片づけた。りうが洗濯物がありましたらいたしますよと言いに来たが、客がいると知り帰った。小芳は早速、報告いたしますわと怒っていると、子猫が出てきてびっくり。私は猫が大嫌いですのと初之輔に抱きつく。
三千代は一夫に仕事を紹介してくれるよう頼んでいた。一夫と料亭で食事をしていた三千代は一夫の好意を知る。屋根にいた猫を呼ぶ三千代。
家に帰った三千代は初之輔に手紙を書いていた。男一人にするとろくなことがない。最近は女が多いからねとまつに言われた。
りうが初之輔を口説いていたが、初之輔は断った。
おお! 進藤英太郎さん! 大阪弁! 初之輔が一夫の父・雄蔵と会っていた。「おやじ太鼓」の頃と顔は同じだけど、ヒゲなし、眼鏡なし、白髪混じりっぽい頭に見えるな。新しい職場を紹介してもらいに行ったのかな。やっぱり進藤英太郎さんって堂々とした体躯で社長が似合うよね。
まつはもし、初之輔の母親だったら、あんな女と早く離縁してしまいなさいと言ってたかもしれないよと三千代に言う。妹夫婦は商店を一緒にやってることもあり、仲が良い。一緒に帳簿付けしていると、里子が訪ねてきた。里子は大阪の芳太郎から手紙が送られてきて、お父さんから不良だと叱られたから泊めてほしいと言う。
妹の夫・信三は感情をべたつかせて人に迷惑をかける人間は大嫌いだと言い、まつが布団を敷きましょうというと、自分の布団くらい敷きなさいと里子に対し、手厳しい。いや、これが普通よ。初之輔がおかしかったんだよ!
里子は信三は生意気だと言い、この家には二度と泊まらないと三千代に愚痴る。昨日は一夫と一緒だった、一夫さんを好きになった、少し付き合ったら結婚しちゃおうかしら、私が結婚したほうが初之輔さんは幸せなんじゃないのと言うので、三千代は笑い飛ばした。ここ、妻の余裕を感じた。
三千代は里子を連れて、里子の実家へ。里子の母とは血のつながりがない? だから甘やかしてるのかな? 里子の父・隆一郎から説教されても、里子は大あくび。里子ってどっちとも血がつながってない!?…となると、初之輔とも血のつながりないよね。山村聰さん若いな~。隆一郎の妻からもう大坂へ帰ったほうがいいと言われる三千代。
妹夫婦の店・村田洋品雑貨店へ戻ると、見慣れた男物の靴があり、三千代は引き返した。町を歩くと、下駄ばきの初之輔に会った。2人でおみこしを見ながら、初之輔が出張で東京へ来たことを知る。
軽飲食みよし
2人で昼からビールを飲む。三千代は初之輔のシャツが汚れていることに気付いた。猫は谷口さんに預けたと話す初之輔。ていうかさ、洗濯も食事も猫も世話してもらい、仕事行くだけでいいなんてね! 芳太郎は就職が決まり、初之輔は明日で出張が終わるので一緒に帰ろうと言う。
三千代は東京に来て2500円も使っちゃったと笑う。
初之輔は雄蔵の紹介で東亜商事で働けそうだが、三千代に相談すると話していたと言うと、三千代は一人で決めていいのにと笑う。
三千代の顔を見た初之輔は「腹減っちゃったな」と言い、ごめんごめんと謝った。
初之輔と一緒に大阪に向かう列車に乗る三千代は初之輔に出すはずだった手紙を破って窓から捨てた。初之輔は隣の席で眠っている。
<私のそばに夫がいる。目をつぶっている平凡なその横顔。生活の川に泳ぎ疲れて漂って、しかもなお戦って、泳ぎ続けている一人の男。その男のそばに寄り添って、その男と一緒に幸福を求めながら生きていくことが、そのことが私の本当の幸福なのかもしれない。幸福とは女の幸福とは、そんなものではないのだろうか>
日常の風景。(終)
原作は連載予定の3分の2ほどの分量で作者の林芙美子さんが亡くなって絶筆となった。作家として、やっと売れたのに早くに亡くなってしまったんだな。だから、作者の思う結末ではなかったかもね。三千代は東京で働いたほうがよかったかも!?
未だによく悪役令嬢ものの漫画を読むことがあるんだけど、三千代は真面目な性格の美女、里子は奔放な美少女で、美少女ヒロインの策略で悪役令嬢に仕立て上げられる美女みたいな構図に見えた。日本人は昔からこういう設定が好き!? 里子が一夫と結婚したらガッチリ親戚になるからやめたほうがいいよ~。義父が進藤英太郎さんだぞ!
「おやじ太鼓」の夫婦共演!といっても同じシーンはない。それにしてもなんで、進藤英太郎さんはノンクレジットだったんだあ~?
姪っ子にデレてる初之輔がキモかった~。しかし、この時代、男性でさえ不景気そうだし、女性一人で生きるというのは今よりずっと厳しかっただろうからこその結末なんだろうな。昭和20年代の生活がうかがい知れて面白かった。

