フジテレビ 1983年2月11日
あらすじ
都(岩下志麻)は西洋屋敷の前で地区民生委員の男に呼びとめられ、身寄りのない竜彦(山崎努)の身に急を要する大事があり、最も親しい人に話したいという。 都はあえてそれ以上を聞かずに帰り、明美(樋口可南子)に電話でそれを告げる。 民生委員の話を聞き、竜彦のもとに馳けつけた明美は、すぐに入院、手術をすすめる。
2025.3.13 日本映画専門チャンネル録画
洋館の前で民生委員の伊沢から声をかけられた都。
脚本:山田太一
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音楽:小室等
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プロデューサー:中村敏夫
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望月都:岩下志麻…字幕黄色
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望月省一:河原崎長一郎
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望月和彦:鶴見辰吾
望月良子(よしこ):二階堂千寿
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三枝多恵子:荒井玉青
森亮輔
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松田真知子
沢田いづみ
山口美代志
古賀プロ
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伊沢:久米明
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沢田竜彦:山﨑努…字幕水色
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協力:相模鉄道
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写真提供:倉田精二
「フラッシュアップ」
(白夜書房 刊)
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演出:富永卓二
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製作・著作:フジテレビ
喫茶店の2階のコタツの部屋に通された伊沢と都。
マスター「放っときますから、ごゆっくり」
伊沢「ご苦労さん」
伊沢は都にお茶を出しながら、今のがひどいワルで、不良少女と一緒になったが、マジメに3年この店をやっていると話す。
こういう店って金八に出てきた「スナックZ」みたいな感じかな。
民生委員は憎まれたり、うるさがられたりするが、今みたいに「おとうさん」と言ってくれる者もいる。
伊沢「あそこは、あの人1人なんでしょう?」
都「はぁ…」
伊沢「いや、時々、女の人が出はいりしてるとは聞いてたんだけど」
都「あっ…その人、私じゃないんです。私は今日初めて行ったんです」
伊沢「ああ…いや、まあ…それでもいいと思ってね」
伊沢は、あんまり親しくないんだったら、あなたにじかにこういうこと話していいかどうか分からないんだけど、と言い淀みながら、病院から連絡があったと話し始めた。この地区の身寄りのない人の場合、本人以外に知らせなきゃいけないことがあると、民生委員に連絡がある。身寄りがいないのか都に確認する伊沢。
都「ええ、親戚とかそういうことでしたら、まあ、ないも同然だと思います」
伊沢「あの年で珍しいよねえ」→山崎努さんが当時46歳だから、竜彦もそのくらい?
都「ええ。両親を10歳のときだったかに台風で亡くしているんです」
伊沢「台風で?」
都「ええ。土砂崩れでお姉さんもそのとき…」
伊沢「10歳でねえ」
都「ええ。施設を転々として、戦争が終わって間もないころでしたから、つらいこともいろいろあったようで」
伊沢「そう」
都「ほとんど昔のことは話さないんです。だから、詳しいことは知らないんですけど」
伊沢「へえ、そういう人なんですか」
都「本人に言えないことがあるんでしょうか?」
伊沢「ええ…いや、おたくさんがあんまり親しくないんだったら誰かそういうこと話していい人、知りませんか?」
都「ええ…」
「それぞれの秋」だと従軍経験のある父だったけど、終戦時10歳いかないくらいの年齢かな?
伊沢「いやぁ、あの人、私が行くとひどいんだよねえ。いや、一度なんかね、スチールでできた、こんな靴べらをね、ピューッと投げてよこすんだ」
都「まあ…」
伊沢「もうくるったようになっちまうんで、もう…二度行って懲りちまって」
都はそれとなく病気のことを聞くが、「いいんですか? 話して」と言われて、否定。「いいんなら、私も重荷が下りるんだけど」。都はもっと親しい人を捜して、その人から伊沢に連絡するように伝えると話した。
伊沢「そうね、あんまり親しくないんなら、そのほうがいいよね。余計なことを聞いちまうと負担になるもんねえ」
都「ええ、ホントに…」
伊沢「まあ、病院から本人に知らせたくないって言やぁ大体、察しはつくだろうけど…」
望月家
ぼんやりしていた都が良子に気づく。「『ただいま』って言ったの」
都「あっ…おかえり」
夜、都は明美に電話をかけた。明美の部屋には誰か男性がいる。多分、須永慶さん。
都は民生委員の人に頼まれたと話し、今、沢田さんといちばん親しくしている人に話したいことがある、今のあの人のことは、ほとんど知らない、いちばん親しくしている人があなたでなければ教えてほしいと言うと、私だと思うと明美が答えた。内容は民生委員の人に聞いてほしいと明美に任せることにした。
昼、誰もいない部屋で掃除機をかけながら、竜彦を思い出す都。
竜彦<<都、そんなこと言うなよ。助けてくれ>>
洋館
明美は料理をしながら、酒を飲もうとする竜彦を止めた。「お酒ばっかり飲んじゃダメよ。絶対に一緒に何か食べなきゃいけないって言ってるでしょう。はい、パンも食べなきゃダメ、スープも飲んで。私も少しパン食べよう。どう? おいしい?」
竜彦「うん」
明美「インスタントだけど、これ結構おいしいのよ。缶詰のスープっていうのは、どういうわけかおいしくないけど、粉末のはイケるのよ、わりと」
スープを飲む竜彦を見つめる明美。「今日は、ばかに素直じゃない?」
竜彦「フッ…ばかにってほどでもないだろう?」
明美「ううん、さっきから全然逆らわないわ。『台所にいらっしゃい』って言えば来るし、『ストーブ見てて』って言えば見てるし、『お酒ダメ』って言えば渡すし、どうした?」
竜彦「たまには女の言いなりもいいもんだ」
明美「よく言うよ、フフッ…」
パンを食べている明美の顔を見ている竜彦。「俺なんか、あんた…希望ないぞ」
明美「なによ? それ」
竜彦「先行き、いいことないってことよ」
明美「だから?」
竜彦「来るな、あんまり」
明美「『あんまり』だって。そういうこと言うならね、『絶対に来るな』って言ってよ。『あんまり来るな』じゃ迷うでしょう?」
竜彦「あいつと結婚しちまえ」
明美が誰から聞いたの?と聞くと、カマかけたんだよとほほ笑む。「お前さんに言い寄る男がいないわけがない」
明美「やける?」
竜彦「しかし、俺なんかにかかずらってたら、ロクなことない」
明美「似合わないこと言うじゃない」
竜彦「ああ、あんたが優しいんで、これでもついホロっとしたんだ」
明美は民生委員の伊沢から病院に行って検査したことを聞いたと話した。
竜彦「余計なこと言いやがって」
明美「何言ってんの? 病院じゃ1日も早く来いって言ってるわ。三宅先生って人に怒られたわ。帰りなの、今、病院の帰りよ。あした中にベッド空けてくれるって言ってるわ。あさっての朝、入院よ」
竜彦「冗談じゃねえ」
明美「放っとけば失明するのよ」
竜彦「そんなことは分かってる」
明美「それをただ待ってるの? それで一体、何の得があるのよ?」
竜彦「病名を聞いたかい?」
明美「聞いたわ。単純な視神経委縮で早く手術すれば、すぐによくなるって」
竜彦「ウソをつくな」
明美「何がウソよ? なに思い込んでるのよ?」
竜彦「いいか? 俺は病院3つ回ったんだ」
明美「誰が何言ったか知らないけど」
竜彦「悪性の腫瘍ってやつだ。それが視神経を侵してる」
明美「そうだとしたら、そんなこと本人に言うはずがないじゃない」
竜彦「本人には言わんさ」
明美「じゃ、誰に言ったの?」
竜彦「兄貴さ、兄貴が呼ばれて、翌日、行った」
明美「兄さんがいるの?」
竜彦「いるさ」
明美「そんなことひと言も聞いたことないわ。どこにいるのよ?」
竜彦「ここにいるさ。ここに看護婦から電話があった。『沢田竜彦さんのお兄さん』にな」
明美「ダマしたわけ?」
竜彦「メガネをかけて生活に疲れた俺の兄貴が弟の本当の病状を聞きに行った」
明美「どこの病院よ? 三宅先生、そんなこと言ってなかったわ」
竜彦「あそこじゃ、まだ兄貴は生まれてなかった」
明美「ウソよ。病院がそんな手に乗るはずないわ」
竜彦「そりゃ、買いかぶりってもんだ。現に恋人とか何とか言うだけで、お前さんに何でもしゃべったろうが」
明美「でも…ほかに誰もいないってこと、あの民生委員の人が保証したし、単純な病状聞くのに資格なんて要らないわよ」
竜彦「苦しいウソ、つかなくていいんだ」
明美「ウ…ウソじゃないわよ」
竜彦「面倒な視神経の腫瘍だ。手術をすれば、腫瘍は取れても…99パーセント失明しちまう」
明美「しないかもしれないわ。腫瘍も取れ、目も大丈夫で、全てがうまくいく可能性だってあるわ」
竜彦「転移もなくな」
明美「そうよ。転移の心配するなんてバカげてるわ。なに迷うことがあるのよ? 大体、放っとけば3か月やそこらで見えなくなるのよ」
竜彦「あさって手術をすれば、あさって見えなくなる」
明美「でも、命は助かるわ。放っとけば、命も危ないのよ」
竜彦「命がありゃいいってもんじゃねえ」
明美「死んだら元も子もないでしょう!?」
竜彦「3か月は見てられるんだ。3か月は世の中を見てられる」
明美「そのあとどうなるの?」
竜彦「死んじまうのさ」
明美「バカなこと言わないでよ!」
竜彦「何がバカだ。長生きするだけが能じゃねえ。誰もが1日でも長く生きてえとヒーヒー願ってると思ったら、大間違いだ。見るだけ見て、もう生きてるのは、これでたくさんという人間だって、この世にはいるのよ」
明美「それでいいの? それでホントにいいはずがないわ。いいはずがないわよ。手術してよ! 死ぬの放っとくなんてバカげてるわよ。手術してよ!」涙を流す。「どうしよう」
竜彦「どうしよう?」
明美「全部隠しとかなきゃいけなかったのに」
竜彦「いいさ。こっちは、とっくに知ってたんだ」
明美「手術してよ…してよ!」泣き出す。
ウィッグをつけた明美がビルの屋上で南国風衣裳で撮影。
控室で着替えながら和彦と話す。「お父さんの所へ今日、絶対に行ってもらいたいの。事情は、こんな所で言えることじゃないんだけど、とにかく私じゃ手に負えないのよ。あの人はバカなの。もう…まるで子供なのよ」
スカートを脱いでるところで目をそらす和彦。
明美「ちゃんと聞いて!」
和彦「聞いてます」
明美「あなたしかいないの。あなたしかあの人が言うこと聞きそうな人いないのよ。あした、どっかの試験ある?」
和彦「いいえ」
明美「良かった」
和彦「でも、あさって早稲田の試験が」
明美「大丈夫。今日とあしたをくれればいいの」
和彦「今日とあしたって…」
明美「さんざん勉強したんでしょう? 2日間、勉強しなくたって大丈夫よ」
和彦「でも…」
明美「人の命が懸かってるの。あなたのお父さんの命が懸かってるのよ」
洋館
カメラが床に落ちていて、レンズが割れているのを和彦が拾う。
竜彦「それは、とんだ迷惑だな」
和彦「いえ」
竜彦「あんたもそう思うかい?」
和彦「そうって?」
竜彦「手術をしないのはバカげてるって」
和彦「ええ」
竜彦「なぜ?」
和彦「だって、放っとけば病気は、どんどん悪くなるし、そりゃ見える間に見たいっていう気持ちも分かるけど手術したって絶対に失明するってもんじゃないし、3か月もたったら病気は取り返しがつかなくなるかもしれないし、入院してください、してください!」
竜彦「どうだい?」
和彦「えっ?」
竜彦「ここにいるとあれがまたうるさい。あしたにかけてどっか行かないか?」
和彦「そんな…」
竜彦「イヤかい?」
和彦「あの人は本気で心配してます。何も感じないんですか? 逃げるなんてひどかないですか?」
竜彦「ひどいね」
和彦「…だったら」
竜彦「『言うこと聞いて入院しろ』か?」
和彦「そうです。それのどこがいけないんです?」
竜彦「俺は病気を受け入れることにしたんだよ」
和彦「受け入れる?」
竜彦「そうだ。あくまで病気に抵抗して、手術をして、どうでも生きようとするのもひとつのやり方だ。しかし、神さまか何かが死んじまう病気をくれたんならジタバタせずにおぼし召しのようにしようじゃないかと」
和彦「助かるかもしれないのに?」
竜彦「死ぬことを受け入れようとする人間がいてもいいじゃないか」
和彦「僕は生きている以上、なんとか生きようとするほうが自然だし、当たり前だと思いますけど」
竜彦「そんなにみんな、生きようとしてるかねえ」
和彦「してると思うな」
竜彦「そうかねえ。そんなにみんな生き生き生きようとしてるかねえ」
和彦「生き生きとか、そんなこと言えば違うかもしれないけど、普通は病気になれば治そうと思うし死ぬのはイヤだと思いますよ」
竜彦「でも、みんな死ぬんだ」
和彦「そりゃ、そうだけど」
竜彦「みんながみんな『イヤだイヤだ』と言いながら死ぬのは情けねえじゃねえか。とうとう来たか。よし来た。死んでやろう」
和彦「そんな…」
竜彦「病院の冷たい廊下やスリッパの音や白いベッドや、そういうものとは縁なしで黙って死んじまおうとする人間がいたって不思議はない」
和彦「でも、そんなこと平気でできるもんかな?」
竜彦「平気じゃない。だから、あんたとどっかへ気晴らしに行こうと言った」
和彦「そんな…」
竜彦「海でもいい、山でもいい。どっか行ってみようじゃねえか」
和彦「イヤです。そんなのなんかふざけてます」
竜彦「ふざけちゃいない」
和彦「生きようとしないなんて、よくないです」
竜彦「決まり文句を言うなよ」
和彦「怖いんですか? 手術が怖いんですか?」
竜彦「フフッ…なぜ、そう俺を生かしたい?」
和彦「なぜって…」
竜彦「俺に生きてもらいたいかい?」
和彦「そりゃ、僕のもともとの父親なんだし」
竜彦「2~3度、会ったきりだ。愛情だなんて言うなよ」
和彦「あの人はどうですか? あの人は本気で心から心配してます」
竜彦「いっときのことよ」
和彦「そうかな?」
竜彦「俺なんざ、いなきゃいないほうがいいんだ」
和彦「すねてるんですか?」
竜彦「フン! うがったこと言うじゃねえか」
和彦「あの人は愛してると思いますね」
竜彦「あれは若い。これからどうにでもなる」
和彦「どうにでもって…」
竜彦「幸か不幸か、ほかにしがらみはない。そういう人間ぐらいジタバタするのは、やめようじゃねえかと思ったわけよ」
和彦「ウソだな。そんなことでどうして死んでいいなんて思えるのか僕には分かりませんね」
階段を上る竜彦。「行くかい?」
和彦「えっ?」
竜彦「どっかへつきあうかい?」
和彦「つきあいません。入院してくれるんならつきあいます」
竜彦「そんなヒューマニズムあふれるような声出すな、ハハッ…」
階段の踊り場まで進む和彦。「どこかってどこですか? どこへ行くんですか?」
竜彦「教えてやらねえよ。帰りな、坊や」自室に入ってしまった。
和彦「あなたは大の大人です。そうそう世話は焼ききれませんよ。知らないよ、僕は。知りませんよ! 僕は」
望月家ダイニング
良子は都にヨッコのお兄さんのビラ配りを手伝った話をしている。改札から十何人降りてきて2人か3人しか受け取らない。良子とヨッコと美代ちゃん、飯山に…などと言っていると、黙っていた和彦が突然、都に「お母さん」と呼びかけた。
ちょっと来て、とダイニングから出た。「ちょっと大事な話があるんだよ」と玄関から外へ。
都「何なの? 寒いじゃない」
都は家に入り、和彦を呼ぶ。良子も玄関までてきた。
良子「受験のこと? 願書、出したんでしょう?」
和彦「何でもないよ」
良子「いいじゃない。教えてくれたって。2階行くことないわよ。私の前でしゃべればいいじゃないの!」
⚟都「良子は、ちょっと黙ってて。あとで言うから」
和彦の部屋
都「いい? 全部忘れるの。今、そんなことにかかずらっててどうするの? あんな人のこと、あなたが心配することないの」
和彦「でも、放っとけば…」
都「放っとけばいいの。いいじゃない。死にたいって言うなら死ねば。あの人は、いつもそうなのよ。大げさなのよ。人騒がせなことを言って周りをヤキモキさせたいの。ちっとも変わってないわ」
和彦「僕は…」
都「病気になったら黙って入院すればいいじゃない。周りになるべく迷惑をかけまいとするのが、まともな人間のやり方でしょう? でも、あの人は、いちいち騒ぐのよ。自分の病気がさも大変なことのように。大変だと思ってんのは本人だけ。周りには、ひと事だっていうところが、あの人には分からないのよ。見えっ張りなのよ。みんなと同じに入院したりしちゃ男が廃ると思ってるんじゃない? 『黙って死を受け入れる?』フッ…言いそうなことだわ。やってみりゃいいのよ。誰も感心なんかしやしないわ。いちばんいいのはね、放っとくこと。あの人がどんなに気取っても知らん顔知ればいいの。そうすれば張り合いがなくなって裏口から病院へ入るわ。お母さんね、自分のしてることにうっとりしてるような人間って大っ嫌い!」
和彦「死ぬかもしれなくて平気?」
都「人が死ぬのを平気なわけないでしょう? でも、あの人だから特別どうってことないわ。何をしろっていうの? 何ができるっていうのよ? 今のお母さんに何ができる…」
ノックし、省一が入って来た。「どうした?」
何でもないと口をそろえる都と和彦。
省一「何でもないことないだろう?」
都は何でもないと和彦の布団を整え、和彦は小遣いの臨時を頼んだと話した。
隠すなよと追及する省一。階段下では良子も聞いていた。
都「ごめんなさい、この子、早稲田…」
和彦「お母さん、よせよ」
都「自信がないって言いだしたの」
省一「今更、何言ってんだ? そんな気の弱いことでどうすんだ? そんなことじゃ社会へ出ても何にもやれやしないぞ!」
洋館の電話が鳴り、明美が出た。都は電話ボックスから電話をかけていた。明美は慌てた様子で竜彦がいなくなっていて、和彦に電話しようと思っていたと話した。都は和彦を呼び出したのはどういうつもりか聞き、あんな人のことに子供を巻き込まないでくださいと言った。
明美「でも…あの人の気持ち動かせるの、お子さんぐらいしかいないんじゃないかと思って」
都「とっくに縁は切れてるの」
明美「それは分かってますけど」
都「これでも今の生活を大事にしてるの。余計な波風は心から迷惑なんです。放っといてください」ガチャ切り
都は前に省一の電話の切り方が嫌いと言ってたけど、同じことするよね~。
望月家階段
省一「おい、和彦、ちょっと学校でも行ってこい。1日部屋にいるから妙なこと考えるんだ」
都「大丈夫。ゆうべ、よく言ったから」
省一「自主登校なんていやぁ、学校行くヤツいないだろう? 先生、退屈してるよ。しゃべってこい、和彦」
⚟都「いってらっしゃい」
⚟省一「ハァ…車で行きたいね、こう寒いと」
ダイニングで朝食を食べてる良子とベッドで寝転んでいる和彦。
都は「駅まで送ろうか?」と提案。この時間は駅前が混むという省一に支店まで送るとキーを取りに家の中に戻った。
やっぱり渋滞にはまった都の車。駅まで走ると言って車から降りた省一は、渡辺でも誰でもいいから電話して「朝礼遅れるかもしれない」と言っとけよと走り出した。「まったく女房なんて自分の気持ちで急に勝手なこと…」とでっかい独り言を言う。
都は竜彦との会話を思い出していた。
竜彦<<掃除して、洗濯して、メシ作って、退屈な亭主と暮らして幸せなわけがないじゃないか>>
都<<幸せだわ!>>
竜彦<<だったら、自分をごまかしてるんだ。思い込もうとしてるんだ>>
望月家玄関
学校へ行く良子が和彦にこれから学校へ行くと声をかけ、「3時にね、駅前の『友花里(ゆうかり)』へ来てよね。ちょっと用あっから」と出て行った。
部屋のドアを開ける和彦。「何だ? それ」
良子「いいから、いいから。3時ならちょっと息抜いたっていいでしょう?」ドアを閉め出て行った。
和彦「バッカ野郎。あした試験なんだぞ。息抜いてる暇なんかあるか」部屋に戻る。
次の場面では「友花里」に入っている和彦。席に着き、コーヒーを注文。直後に入って来た多恵子に「やあ」と声をかけると、和彦の向かいに座り、ウエートレスに「ホット」とひと言。
和彦「妹、何も言わなかったんだ。でも、なんかあんたみたいな気がしたよ。何か用かな?」
多恵子「お前の妹がよ」
和彦「うん」
多恵子「お前は友達も恋人もいなくて試験ばっかでよ」
和彦「フッ…」
多恵子「落ち込むと1人で落ち込んで誰もいねえからってよ」
和彦「フッ…」
多恵子「ホントに誰もいねえのかよ?」
和彦「大学入るまでしょうがないよ。時間ないしな」
多恵子「女も本当にいねえのかよ?」
和彦「いないよ」
多恵子「だらしねえじゃねえか」
和彦「ハハハッ…」
多恵子「妹がよ」
和彦「うん」
多恵子「女が励ましゃ、ちっとは張り切るかもしれねえから励ましてくれってよ」
和彦「頼んだわけ?」
多恵子「ああ」
和彦「バッカ野郎」
多恵子「そんなことはねえよ。妹は悪くねえよ」
和彦「でも、わざわざあんたに…」
多恵子「わざわざじゃねえよ。わざわざじゃねえんだ」
和彦「どういうこと?」
黙って水を飲む多恵子。
和彦「しょっちゅう会ってるわけ? そうなの?」
多恵子「そうじゃねえよ。ただ『何か助けることあったら言え』って言ってて、時々、会うと、そう言ってたから。あの子、昨日、会って、それじゃ試しにここでちょっと声かけてやってくれって、女に慣れてねえから励ますと効くかもしれねえって」
和彦「そんなこと、あいつ…」
多恵子「元気出せよ。応援してっからよ」
和彦「ああ」
多恵子「めげねえでちゃんとやってこいよ」
和彦「ああ、ありがとう」
多恵子「ヘッ…二枚目面すんじゃねえよ。これでコーヒー代払いな」お札をポンと置いて店を出て行った。この時代だと500円札?
和彦「いいんだよ、ちょっと…」
多恵子、かわいいなあ。でも高3と中3でも大人と子供って感じだな。
試験を受けている和彦。
望月家
都が掃除をしていると、ドアチャイムが鳴った。インターホンに出ても名乗らず、玄関へ出たが、竜彦が立っていたので一度閉めて、開けた。「ここへ来るなんてなんてこと? 一体なに考えてんの? 帰ってちょうだい!」
すぐに引き返して、門扉を閉めた竜彦。
都が顔を出す。「何の用?」
竜彦「会いたくてね」
近所の目をしながら外に出た都。「どこにいたの?」
竜彦「うん…」
都「新村さん、捜してたわ」
竜彦「分かってる」
都「なにバカなことしてるの? 手術が必要なら手術したらいいじゃないの」
竜彦「1人だろう?」
都「だから、なに?」
竜彦「上がっちゃいけないか?」
都「何言うの?」
竜彦「疲れちまった」
都「非常識なこと言わないで」
竜彦「こんなところでイチャイチャしゃべって…」
都「イチャイチャしゃべってないわ」
竜彦「人目につくよ」
都「病気なら粋がってないで入院なさい。それだけ、さよなら」
竜彦「水を1杯くれないか?」
無視して家へ入ったかに見えた都だが、再びドアが開く。「玄関で1杯だけよ」
都はコップに水道水を汲んだ。
竜彦が玄関に座り、都から水を受け取る。「近所、うるさいの?」
都「近所?」
竜彦「『玄関で水1杯だけ』って周りに弁解してたじゃない」
都「生活するっていうのは、そういうことなの。皮肉られたって平気」
竜彦「敵意にあふれてるね」
都「もらうわ、コップ」
竜彦「まだ残ってる」
都「ここへ来るなんて信じられないわ。どんなに迷惑か分かんないの?」
竜彦「まるでバイ菌だね」
都「そうよ。はっきり言って、そうよ。あなたは和彦が生まれたとき、もういなかったのよ。いっぺんだって和彦抱いたことなかったのよ。今更、父親面する資格なんかないし、会いに来る権利なんて、これっぽっちもないのよ」
竜彦「資格や権利で来たんじゃない」
都「…だったら、そういうこと考えてよ。合わす顔がないっていうのが常識でしょう?」
竜彦「おとといから出歩いててね。じわじわ誰よりあんたに会いたくなった」
都「勝手なこと言わないでよ」
竜彦「あの子じゃなくて、あんたにだ」
都「迷惑だわ」
竜彦「うん」
都「入院して治さなきゃダメじゃない。いい年して子供みたい」
竜彦「治さないことにしたんだ」
都「そんなこと言うと、みんなが驚くとでも思ってるの? くだらないと思うだけよ。なに見当違いな見え張ってんのかしら」
竜彦「見えで命まで捨てるもんか」
都「あなたなら分からないわ」
竜彦「相変わらず気が強いね」
都「バカバカしいわね。早く帰ってもらいたいからよ!」
竜彦「そういう手厳しい声を聞きたくなったんだ。昔も手厳しかったぜ」
都「相手によるの」
竜彦「へえ、今の旦那には優しいのかい?」
都「あなたの知ったことじゃないわ。もらうわ、コップ」
竜彦「イヤだ」
都「だったら、コップ持って帰りなさい。あげるから帰りなさい」
竜彦「…」
都「帰って!」
ようやく重い腰を上げた竜彦。「写真が撮れなくなってね。どうしてもシャッターが押せない」
都「こないだ随分押してたじゃない」
竜彦「ああ、あのときは力がよみがえったような気がした。しかし、錯覚だった。つまらん写真だった。俺にはもう写真を撮る力がないんだ」
都「どういうこと?」
竜彦「例えば、この玄関を撮るとする。昔は、たちまち、ほかの誰にも撮れない角度・光線・狙いを思いついたもんだ。今はダメだ。どう撮ろうとありきたりになっちまう。俺じゃなくちゃ撮れないというような、そういうものを作り上げる力がない。ジタバタして奇をてらい、細工を凝らせば凝らすほど、浅はかで見苦しいものになっちまう。目が悪くなってきた。視野がね、だんだん狭くなってきた。狭くなって見えなくなっちまうという。神様の何かが『お前は、もう年貢の納め時だ』と言ってるわけだ。カメラマンの目を悪くするなんて、わりと露骨に引導を渡すじゃないか。逆らわないことにしたのさ。仰せのとおり燃え尽きて消えちまうことにしたのさ」
都「目は治せば治るかもしれないし、スランプは一時的なものかもしれないわ。それを勝手に見切りをつけて自分を哀れんで、私にも同情しろって言うの? かわいそうな自分にうっとりしてないで、さっさと病院行きなさい。できることやってから見切りつけなさい」
竜彦「…」
都「帰って。二度と来ないで」
竜彦「ガードが堅いこった。俺をやっつけたつもりだろうが。あんたの寸法で俺を見てるだけのことだ」
都「どうでもいいわ」
竜彦「死なずに済まそうと、やれることは何でもやって、あげくに負けて死んでいくなんてのはイヤなんだ。生きるか死ぬかを選べるうちにちゃんと選んでジタバタしねえで死んでやるんだ。そういう心意気は、お前には分かるめえ!」玄関を開けると、良子が立っていた。「お母さん、110番する?」
都「いいの。そんなことしなくていいの」
竜彦「そうだよ、ねえちゃん。何かあると110番ってのも悪い癖だ。自分でやっつけるってところがなくちゃいけねえ」
都「この子、脅かさないでちょうだい」良子を背中に隠す。
良子「なに? この人、お母さん」
都「押し売り…ただの押し売り」
竜彦「そうじゃないよ、ねえちゃん」
都「何言うの!」
竜彦「和彦の本当のお父さんだ」
都「バカなこと言わないで!」
竜彦「この人の昔の男だ」都を指さす。
都「ウソよ、全部ウソ! 出まかせ!」
竜彦「なにも隠すことはない。それぐらいで壊れちまう、やわな家じゃないんだろう?」悪役っぽい高笑いでコップの水を飲み干し、塀の上に置いて行ってしまった。
夜、和彦が洋館を訪ねたが、ドアは閉じられていた。
望月家
和彦の部屋
和彦「なに? 誰が来た?」
良子「だから…お兄ちゃんの本当のお父さん…」
和彦「家へ来た!? ここへか?」
良子「お母さん、お兄ちゃんにもお母さんから話すって言ってたけど、どうせ話すなら私が話したって同じでしょう?」
和彦「それでどうした?」
夫婦の寝室
都「何でもないの。不意に来て勝手なこと言うから『二度と来るな』って追い返したの。それだけ。もう終わったこと。ただ、隠しておきたくないから言うだけ。気にしないでください。ビタミンEまだでしょう?」正座していたが、立ち上がる。
省一「何だっていうんだ? 『勝手なこと』って」
都「うん…」
座り直した都。「『会いたくなったから来た』って」
省一「ええっ?」
都「『冗談じゃない』って追い出してやったわ。だからもうホントに心配ないの」
省一「そんなこと言ったって、もう来ないって保証はないだろう?」
都「そりゃそうだけど、絶対、私、相手にしないし」
省一「そんな、お前…そいつのことは、とっくにちゃんとなってるって言ったじゃないか」
都「だから、向こうがムチャクチャなのよ。18年もたっていきなり来たんだもの」
省一「責任持てよな。今更、お前…そんなのが出てくるとは思ってもいないじゃないか」
都「ええ」
省一「何かあったら、俺、頭へ来ちゃうぞ。そんな、お前…そんなのないよ、お前」
都「大丈夫よ、信用して。私を」
省一「まいったなぁ。ホントに責任持てよな、お前。ハァ…まいったなぁ、ハァ…」
掃除機をかける都。(つづく)
次回予告
竜彦「2~3回でいい。奥さんを貸してくれないか?」
省一「もういっぺん言ってみろ!」
竜彦「セックスじゃないんだ」
省一「セックスなんて…」
竜彦「話だ。話をするだけだ」
省一「断る」
夫婦の寝室
省一「お前…裏切んなよな」
都「お父さん」
省一「俺を裏切んなよな」
電話をかけている竜彦。「俺は久しぶりに心が高ぶってる。あんたに会いたいと高ぶってる。切らないでくれ」
電話の相手は都。
ご期待下さい
省一のちょっと小者っぽい描写もあったり、目が離せませんね。1日1話と思ったけど、2話は見てしまう。まとめ放送の弊害だな~。さらに書き残したいところを残してたら、ものすごい時間がかかる。でももう折り返し。


