TBS 1978年1月5日
あらすじ
昭和十五年、京都電話局の交換手・塩崎美智(松原智恵子)は母に見送られ、元気に職員旅行へ出かけた。美智は必死でかくしていたが、刑務所に入っていた父・利周(垂水悟郎)が家へ帰ったばかりだった。美しい美智は縁談があるたび、父の秘密に心が凍りついた。
2024.8.20 BS松竹東急録画。
原作:田宮虎彦(角川文庫)
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塩崎美智:松原智恵子…字幕黄色
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石山:速水亮
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塩崎利周(としかね):垂水悟郎
塩崎喜代枝:利根はる恵
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井村さき:津島道子
陽子:種谷アツ子
小川:阿木五郎
ナレーター:渡辺富美子
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小野木:伊藤孝雄
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音楽:土田啓四郎
主題歌:島倉千代子
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脚本:中井多津夫
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監督:八木美津雄
美智が家の前の路地へ帰ってきた。さきが声をかけたが、直後顔色が変わる。さきの店には小野木がいた。「今、お母さんに会ってきたとこです。あした、お父さんが帰ってくることになりましたよ」
伊藤孝雄さん、別に他の作品では感じないのに、この作品だと笑顔なのに気持ち悪い感じが出る演技力がすごいな!
美智の向かいの家は
高波易断所
京都總家五代目
高波秋守
驚いて小野木の顔を見る美智。
小野木「お父さんのために職を世話してほしいって、お母さんに頼まれましてね。あしたから方々を当たってみようと思ってます」
美智「よろしゅうお願いいたします」
小野木「あっ、いや。ほかならぬ美智さんのお父さんのことやから、できるだけ、いい職を探してあげよう、まあ、そう思うとるんですが…」
美智「ほな、うち、失礼しますさかい」
玄関の戸を開けた美智についてくる小野木。「美智さん。勤め先のほう、別に困ったことありませんか?」
美智「はい。楽しゅう働かしてもろうてます」
小野木「はあ。ほんならいいんですが。あ…困ったことがあったら、なんでも相談に来てください」
美智「はい」
小野木「この前、あんたんとこの課長さんがやって来られたんやけど、みっちゃんの縁談のことで相談したいって…ですから、こう言うときました。みっちゃんには決まった人がいるから何も心配せんでほしいって。会社には、みっちゃんのお父さんのことを隠してますからね。そういう話から、お父さんのことが知れると困ると思ったんです。あっ、まあ、気に障ったら堪忍してください。悪意があったんやないんですから」
美智「ほな、うち」
みっちゃんとか呼ぶな!
玄関入って土間があって右側が塩崎家のスペース、左側が、さきさんの店、2階が石山の部屋って感じ?
美智帰宅。
喜代枝「お父ちゃんな、あした帰ってきはるえ。小野木はんが何回も掛け合(お)うてくれはって、やっと分かったんや。よかったなあ、前に分かって。前のおばちゃんにはな、お父ちゃん、北海道から帰ってくるいうことにしてあるさかい、そのつもりでな。美智、どないしたん?」
美智「お父ちゃんのやね」部屋には服や荷物が出してある。
喜代枝「ああ…7年ぶりで帰ってくるんやさかい。ちゃんとそろえといてあげな。そや、あした、あんたも一緒にお父ちゃんを迎えに行こう」
美智「うち、仕事休めへんもん」
喜代枝「そやな。ほな、やったら、お母ちゃん一人で行ってくるわ」
美智「お母ちゃん。お父ちゃんが帰ってきて、そないうれしい?」
喜代枝「当たり前やないの。あんた、うれしいことないの?」
美智「うち、なんや、お母ちゃんがかわいそうなって」
喜代枝「かわいそう?」
美智「そやないの。お母ちゃん、お父ちゃんと一緒になって、自分の人生台なしにされたようなもんやないの。刑務所に入ったり出たり…」
美智がワンピースを脱ぎだして着替えのシーン…こんなのいる? 喜代枝も手伝う。お色気番組でもないのに急に着替えのシーンがあるのが昭和って感じ。
美智「今度帰ってきたらまたどない苦労させられるや分からへんのに」
喜代枝「美智。夫婦いうもんはな、そんな水くさいもんやあらへんえ。苦しいときも楽しいときもいつも一緒や」
美智「そんなこと言うて…お母ちゃん、お父ちゃんと一緒になって、いっぺんでも楽しいことあった?」
喜代枝「そら、ないことはないえ。うれしいことも楽しいこともあったさかい、こうして何年もお父ちゃんの帰ってくるのを待ってられたんやないの」
美智「そやさかい、余計かわいそうでかなわんわ。お父ちゃんが帰ってくるたんびにいつも泣かされて。お母ちゃんがお父ちゃんに殴られるたんびに、うち、心ん中で思うたもんや。お父ちゃんなんて早(はよ)う死んだほうがええって」
セピア色の回想シーン
スローモーションでお父ちゃんに殴られるお母ちゃん。
寝ていた美智は汗をかき、うなされていた。
喜代枝「美智、どないしたん? 美智」
目を覚ました美智。
喜代枝「なんぞ悪い夢でも見たん?」
うなずく美智。
喜代枝「いや、汗かいて。拭かないかんな」起き上がって、台所へ。
美智「お母ちゃん」
喜代枝「うん?」
美智「お父ちゃん、これからどないするつもりやろか? またどっか行ってしまうんやないの?」
喜代枝「そんなことあらへん。お父ちゃんかて7年も刑務所で辛抱してきはったんやさかい、今度こそ、きっと真人間になってくれる」絞った手拭いで道の顔を拭く。
美智「そんならええけどな」喜代枝から手拭いを受け取り、首筋などを拭く。
喜代枝「区役所の小野木はんかて、お父ちゃんのためにええ職を見つけてくれる、そない言うてくれはるし。美智、お父ちゃんも帰ってくるんやし、これからは、あんたを早う、ええとこにお嫁にやらないかん。お母ちゃんな、そない思うてんのや」
美智「ほんまにお母ちゃんも物分かり悪いなあ。うちは一生お嫁になんか行きとうない言うてんのに。ほんま言うとなあ、ぎょうさんお金ためて、どこぞ静かな所行って、小さい呉服屋さんの店開いて、一生、お母ちゃんと二人っきりで暮らしていきたい。そうするのが夢やったんやけどな」
喜代枝「アホらし。子供みたいなこと言うて。さあ、あした早いんやろ? 早う寝えや」手拭いを受け取って台所へ。
美智「お母ちゃんかて、そない言うてたやないの。美智と二人っきりで暮らしてゆきたいって」
喜代枝「美智。なんにも心配することないのんえ。苦あれば楽あり。これからはきっとええことが続くえ。さあ」布団に寝かせる。
お母ちゃん、優しい人ではあるんやけどねえ…似非関西弁を使ってみた。
美智の働く会社
朝、小川課長に呼び出される美智。
陽子「みっちゃん、課長はんの話って縁談のことよ、きっと。うち、もう知ってるもん」
美智はうなずいて、仕切りの向こうの課長の席へ。「なんでしょうか?」
小川「君は、わしにウソをついたな?」
美智「は?」
小川「この前、区役所の小野木はんに君の縁談のことでちょっと会(お)うたんや。君には、ちゃんと決まった許婚(いいなずけ)がおるそうやないか。この間、君は決まった人はおらんて、そない言うとったやないか。それならそうと、はっきり言うてくれたらよかったんや。なにも隠すことはあらへんで。おかげで余計な手間がかかっただけのこっちゃ。長岡はんに断り言うのに往生したで」
美智「申し訳ありまへんでした」
ランチヨンというレストランに陽子と入った美智。
陽子「それでな、女学校から一緒やさかい、みっちゃんに彼がおるかどうか、よう知ってるやろって。課長はん、しつこく尋ねはるのやわ。何する?」
美智「ミルク」
陽子「ほな、ミルク2つ」
店員「はい」
美智「そいで陽子ちゃん、どない言うたん?」
陽子「塩崎はんは、どこぞ欠陥があるんやないかて思われるくらい、真面目一方で浮いた噂一つあらへん人やさかい、ええ人紹介してあげてほしいて」
苦笑を浮かべる美智。
陽子「なあ、課長はん、どんな人紹介してくれたの?」
首を横に振る美智。
陽子「相変わらず秘密主義やね。そこがみっちゃんの神秘的な魅力かもしれへんけど」
美智「そんな…」
陽子「うちは秘密主義やないさかい、みっちゃんにだけは話してあげるけど、来月、会社から四国旅行に出かけることになってるやろ? あれが済んだら、うち、会社辞めることにしよう思うてんの」
美智「ほんま?」
陽子「うん」
美智「なんで?」
陽子「結婚」
笑顔になる美智。「そうか。陽子ちゃんが辞めてしもうたら寂しゅうなるけど、おめでとう」
陽子「おめでとうって、みっちゃん。いつまでもひと事みたいに言うてたらあかへんえ。これからだんだん戦争が激しなって、若い男の人は、みんな戦地に行ってしまはるんやて。せやさかい、早いとこ嫁に行かんと、お婿さんが一人もおらんようになるって」
さきの店先を通り過ぎる美智。「ただいま」
さき「あっ、みっちゃん。ヘヘッ。今日は遅かったやないの」
美智「ええ」
さき「みっちゃんのお父さん、さっき、北海道から帰ってきはったで。やっぱりみっちゃんのお父さんや、男前どすなあ。お母ちゃんが長い間、浮気もせんと待っとる気持ち、よう分かるえ」
美智「じゃ」
玄関を開けると奥に男物の革靴が見えた。
<美智は、うれしさとは逆に不安と恐怖がこみ上げてくる自分が悲しかった>
帰って来た美智はガラス戸から中を覗いた。
喜代枝「美智…何してたん?」
奥では父・利周が背を向けて横になっている。
喜代枝「遅かったやないの」
美智「ちょっと用があったさかい」
喜代枝「美智、お父ちゃん、帰ってきはったで。あんた、美智が帰ってきましたえ」
背を向けたまま反応しない利周。
喜代枝「お父ちゃんな、疲れてはんのやわ。あんた、おなかもすかはったやろ? いっぺん起きて、なっ。それとも、もうちょっと寝てはりますか?」
ようやく起きて美智の顔を見る利周。うつむく美智。気まずい空気が流れる。
喜代枝「美智、お父ちゃんが帰ってきはったんやで。早う挨拶しよし」
美智は手をついて頭を下げる。「おかえりなさい」
喜代枝「あんた、なんぞ言うてやってえな。長い間、あんたが帰ってくるのを待ってたんですけえ。ちゃんと女学校も出たし、それもええ成績やったんどす。あっ…美智、さあ、早う、お父ちゃんに顔見てもろうて、なっ。なあ、あんた。あんなちいちゃかった子がきれいな娘になりましたやろ。なあ?」
利周「嫁のもらい手は、まだ見つからんのか?」
喜代枝「へえ。美智は、こんな器量よしですけえ、嫁に欲しい言う人はなんぼでも」
利周「そんなら早う嫁にやったらいい。年頃の娘がいつまでも親のそばにへばりついとるのは見苦しゅうてかなわん。ハァ…じゃ、銭湯でも行くか」
喜代枝「へえ。美智、お父ちゃんをお風呂連れたったげて」
利周「ええよ。われなんか一度も面会に来なかったやないか。送ってもらわんでいい」
喜代枝「それは、あんた。うちが長い間、この子に隠してたさかい。なあ、美智」
泣き出す美智。
利周「俺は女がメソメソ…見るのは大嫌いなんや」家を出ていく。
喜代枝「あんた…あっ、ちょっと下駄」
利周の少し後をついて歩く喜代枝。さきが様子を窺うように見ている。
喜代枝「そこを出たら煙突が見えますけえ。ほな、行っといでやす」路地の奥まで行って戻ってくる。
さき「喜代枝はん、今日のあんた、見違えるようにきれいやわ」
喜代枝「イヤやわ」嬉しそうな顔で玄関に入る。
美智は泣きながら着替えていた。
喜代枝「美智。お父ちゃんが帰ってきはったいうのに、なんでうれしそうな顔してくれへんの? 7年もの長い務めを終えて帰ってきはったいうのに」
美智「そんなこと言うたかて、うち…それより…何? その顔。年がいもなしにおしろいいっぱい塗りたくって。うち、恥ずかしいてかなわんわ」
喜代枝「なんで? おかしいか? 前のおばちゃんかて、お母ちゃんがお化粧したら、ずっと若(わこ)う見える言うてくれはったえ」
美智「そんなお世辞、真に受けて…ほんまにあさましいくらいやわ」
美智は土間に出て井戸の水をくんで、ぼんやり。
石山「あっ、あの…ちょっと使わしてもらえますか?」
美智「あっ…すんません」
石山「いえ」
石山さんは飯ごうでお米を研いでる?
喜代枝は利周と一緒の部屋で就寝。美智は隣の部屋。
<母の喜代枝が遠い人に思えるのは生まれて初めてのことであった。喜代枝が自分の母であることをやめ、父・利周の妻になったことを今、イヤでも思い知らされずにはいられなかった>
喜代枝「満州やなんて、そんな遠いとこに…せっかく親子3人水入らずで暮らせるようになったとこやないの」
利周「誰もお前に行け言うとるんやない。俺が行くんや」
喜代枝「刑務所から出てきたばっかりやないの。ちょっとの間(ま)くらい、うちでじっとおとなしいしててつかあさい」
利周「メソメソするなっちゅうたら」
美智の部屋にも夫婦の会話が聞こえる。
喜代枝「あんたには苦労させんけえ。うちが一生懸命働くけえ。なあ、あんた」
区役所
小野木「満州に?」
喜代枝「へえ。せっかく職を見つけてもろうたのに、ほんまに申し訳おへんけど」
小野木「しかし、満州へ行かれて、どうされると言うとられるんです?」
喜代枝「へえ。満州で陸軍の仕事を請け負うて大儲けした昔のお友達が呼んでくれてはる、そない言いまして。今日もその相談で神戸のほうへ出かけていきました。主人は昔ら大きな夢ばっかり追うて地道な仕事が性に合わへんのどす」
小野木「で、塩崎さんもご一緒に満州に?」
喜代枝「へえ、主人を一人でやるのは心配ですさかい」
小野木「じゃ、美智さんも」
喜代枝「嫁入り前の娘を一人、残していくわけにもいけしまへん。やっぱし…」
小野木「しかし…しかしですな、塩崎さん。美智さんの将来のためには…つまりですな、やっぱり早くお嫁にやるっちゅうことをお考えにならんと。こんなことを申し上げてなんですが、ご主人は長い間、刑に服してこられました。そういうお父さんのあとについていって、果たしていい縁組みに恵まれるでしょうか? そこんとこをようお考えになって…」
喜代枝「そやけど、美智をほっては行けしまへん」
小野木「しかし…」
塩崎家
美智「イヤやわ。うち、お父ちゃんについて満州なんて、よう行かんわ」
喜代枝「ほな、どないするの?」
美智「どないすって…お父ちゃん一人で行ったらええやないの」
喜代枝「そんな…」
ガラス戸を閉め、美智を座らせる喜代枝。「刑務所から出てきたばっかりやいうのに、お父ちゃん一人で満州へなど行かせられへん」
美智「何言ってんの。お母ちゃん、お父さんはな、子供やないで。立派な大人やないの。それがなんで?」
喜代枝「お父ちゃんはな、今度、また罪でも犯したら、それこそ一生、刑務所に入れられてしまうんやで。そやさかい、お母ちゃんがそばについておらんと…」
美智「ほな、お母ちゃん。うち一人残して満州へ行くつもり?」
喜代枝「そんな…なんぼなんでもそんなことできるわけないやろ」
美智「お母ちゃん、ほんまやな? ほんまにうち一人残して、満州なんか行かへんな?」
美智から視線を逸らす喜代枝。
美智「お母ちゃん…」
喜代枝「うん」
美智「ほんまや。お父ちゃん一人で満州行ったらええやないの。なにもお母ちゃんやうちを巻き添えにすることあらへん。なあ?」
喜代枝「そうや。ほな、ご飯にするさかいな」
美智「うん」ニッコリしたものの、やっぱり寂しげな表情になる。(つづく)
松原智恵子さんはこの当時33歳だったみたいだけど、塩崎美智21歳といわれても全く違和感なし。ただし、きれいだけど、笑顔があまり見られないし、映画版のあらすじを読んだ感じからも、その後も見られそうにないのがオープニングでも分かって悲しい。
この時期、「あしたからの恋」「たんとんとん」の再放送があってありがたかった。やっぱり「あしたからの恋」は何度見ても本当にいい作品だな。花王愛の劇場は話の面白さはあるけど、どんより暗くはなるので。やっぱり明るい作品が見たい。
BS松竹東急の夕方5時枠は1年目は(見てないけど調べると)東海テレビ制作の昼ドラ、2年目は木下恵介アワー、3年目は花王愛の劇場と大体1年ごとに替わる感じかなあ? だったら次はぜひ残りの白黒の木下恵介アワー&劇場を!