TBS 1973年9月11日
あらすじ
北(藤岡弘)は桂(松坂慶子)から、多美(上村香子)が自分にそっけない態度をとっていた理由を聞かされた。多美が北に愛を告白すれば、北は出世を犠牲にしてしまうと思い、北の前途を案じてのことだった。
2024.3.13 BS松竹東急録画。
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北晴彦:藤岡弘…トラベルチェーン開発課の社員。
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中西良男:仲雅美…鶴吉の息子。
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大須賀伸(しん):荒谷公之…織庄の一人息子。
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山下幸子:望月真理子…自殺未遂後、「二上」で働きだす。
静子:相生千恵子…仲居。
竹子:大橋澄子…仲居。
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車を運転する北。思い橋の上で待つ桂。クラクションを鳴らし、桂が車に乗り込み「先に耳に入れときたいことがあるの」と車をバックさせた。北さんの運転は荒い。
せせらぎの間から思い橋を見ていた多美は引き返す車に首を傾げ、帳場に戻り、予約帳を見る。
7月19日(木曜日)
北様 1名
と書かれていた。劇中時間はまだ7月だったのね。そりゃ、さっちゃんのおなかもぺったんこのままなわけだ(予定日は11月8日)。
北さんも随分長く泊まってるんだと思ったけど、そうでもないのかな。
彩子「どうしたの?」
多美「この予約帳の字、桂の字ね」
彩子「あら! 北さん…北さん、いらっしゃるの?」
多美「そうらしいわね。書いてあるところを見ると」
彩子「ただのお祭り見物かしら? そんならいいんだけれど…桂ちゃん、板場に通してあるんでしょうね」
厨房
彩子「鶴さん、せせらぎの間、お一人様通ってる?」
鶴吉「せせらぎ、お一人さん?」
良男「ああ、通ってるよ」
彩子「桂ちゃんから?」
良男「ああ、そうらしいですね」
彩子「ふ~ん」
宿泊客が北だと彩子に聞いた鶴吉は「また出てきやがったのか、あいつ」。
良男「幽霊みてえに言うなよ」
鶴吉「いよいよ本腰入れて乗り込んできやがったかな?」
彩子は桂の行方を聞くが、桂は知らないがさっちゃんなら洗濯場にいると答える良男。「いや、桂の代わりに幸子で用が足りることだってあるじゃねえか」
彩子は良男に桂を捜すよう命じる。良男が桂も幸子も呼び捨てするなんて珍しい。
伸が二上に顔を見せた。受付にいた多美が応対。北が来たと聞いて表情が曇る多美に「あの…僕のことまだ怒ってるんですか?」と聞く伸。
多美「大須賀君のことじゃないの」
彩子も奥から出てきて、二上に来て、お父様のほう大丈夫なの?と伸に聞くが、別に監禁されてるわけじゃない、桂からこっちから連絡するまで電話なんかしないようにと言われていて、ただじっと待っていただけだと言う。彩子は桂の言うこととちょっと違うと話していると、多美は奥へ。
良男が玄関へ入ってきた。「桂、桂、桂っと…こんなとこにはいねえな」
彩子「よっちゃん何してんの。真面目に捜しなさい!」
良男「はい!」とまた外へ飛び出す。
車から降りた北と桂が歩いている。2人ともシャツとパンツ姿だけどめちゃくちゃ脚が長い。桂と身長差を見ると、伸ちゃんより北さんのほうがお似合いなんだよな~。
ここは前に伸が北を案内した「あしがくぼ果樹公園村」かなあ?
桂「街、お祭りでにぎやかだったでしょ?」
北「駅前に寄っただけでまだ街ん中、入ってないから」
桂「そう」
北「そうだ。太鼓の音が聞こえてたな」
桂「秩父、懐かしい?」
北「まだそれほどご無沙汰もしてないよ」
桂「そうね。北さん帰ってから随分長いように思ったの、私だけね」
北「耳に入れときたい話ってなんだい?」
桂「ああ、それね」
北「それねはないだろう。こんな所まで引っ張ってきておいて」
桂「北さん見たら言うの惜しくなっちゃった。だってこれ言うと決定的になっちゃうんだもん」
北「何が決定的になるんだ?」
桂「姉ちゃんと北さんよ」
北「なんだ、そっちの話か。俺はまた君と大須賀君のことかと思ったよ」
桂「フン、姉ちゃんのこと知りたくていらしたくせに」
北「ハハッ」
桂「でも言わないわけにはいかないわ。来てくださったんだから。姉ちゃんが北さんのこと、どうして無理やり追い出すようなことしたかという理由なんだけど…姉ちゃん、事の真相を知ってしまったのよ」ベンチに座る。
北「事の真相?」
桂「そう。トラベルチェーンがうちを買収しようとしたのを反対したんですってね。そして、うちから手を引く代わりに会社を辞めないことやトラベルチェーンがうちを買収しようとしたことを誰にも漏らさないって約束させられたんですってね」
北「どうしてそれを?」桂の周りを歩いていたが、ベンチに座る。
桂「姉ちゃん聞いちゃったのよ。いつか泊まった上役の人と北さんが話してるのを。それで北さんの一生の仕事を棒に振らしちゃいけないって考えちゃったの。だから無理やり北さんに、うちのことから手を引かせるようにしむけたのよ」
北「そうか」
桂「北さんってゆくゆくはトラベルチェーンを継ぐ人なんですってね。私言われちゃったわ、姉ちゃんに」立ち上がる。「自分のためにせっかく築き上げてきた一生の仕事を棒に振ろうとしてるの平気で見てられないって。私にはとてもそんなことできないって。北さん、感激でしょ?」北の手を取る。「姉ちゃん、北さんのこと愛してるから追い出すようなことしたのよ。ねえ、感激しなさいよ」両手を持って北を立ち上がらせる。「しないの? しなきゃウソよ」クルクル回る。
北「そうだったの。それで分かったよ」
桂「だから姉ちゃんのこと思い直してあげて。お願い。姉ちゃん、幸せにしてあげて」
北「うん。多美さんと話し合ってみるよ」
桂「それから姉ちゃん、北さんのこと私も好きなんだと勘違いしてたらしいの。私もとんでもない勘違いだって言っといたけど、北さんからも否定しといて。ああ、何もかも言っちゃってさっぱりしちゃった」あ~あ、と北を背にして大きく伸び。
北「桂君、ありがとう」桂の肩に手を置く。「ところで君と大須賀君のことはどうなんだ?」
桂「そんな同情してくれなくてもいいの。さあ、帰りましょう」走り出し、先に助手席に乗り込み、涙を浮かべる。
運転席に乗った北。「どうしたの?」
桂は北の顔を見ずに前を向いて「ゴー!」と指さし、車が走り出す。
思い橋の上で車を降りた桂。「じゃ、一足先に行ってて。ご成功を祈る」
笑ってうなずく北は車を発進させた。思い橋の上で鼻歌を歌う桂。
欧陽菲菲「恋の十字路」1973年4月5日発売
桂「失恋自殺ってどんな気分かしら?」
二上を訪れた北は笑顔で「ごめんください」。
多美は顔を見るとスッと奥に行き、彩子に「北さんいらしたわよ」。
彩子と伸が出迎え、多美は影で見ている。
庭では良男と幸子が並んで座る。良男は桂を捜していることにしてサボっていた。
幸子「だから捜さなくっちゃ」
良男「いいんだってば。あんな気まぐれほっとけば」
後ろで会話を聞いている桂。
良男「第一、祭りの宵宮まで働かせるなんて労働基準法違反だよ」
幸子「そんな決まりあるの?」
良男「俺の基準法にはな、へへへ…」
声をかけずに2人に背を向ける桂。「ハァ…あんな気まぐれか」
帳場
雑誌をめくる多美。
桂「ああ、暑い暑い」
多美「桂ちゃん、北さんみえてるわよ」
桂「あっ、そう」
多美「あっ、そうって、あんたが予約受けたんでしょ? 大須賀君も捜してたわよ」
桂「あっ、そっか。今どこ?」
多美「せせらぎで北さんと一緒じゃない?」
桂「ふ~ん、じゃ、ご挨拶申し上げてくるかな」立ち上がる。
多美「北さん、あんたが呼んだんじゃないの?」
桂「そう。お祭りにお招きしたの。ついでに私と伸ちゃんのこと社長との間に入ってもらおうと思って」
多美も立ち上がって桂に近づく。「ホントね?」
桂「どうして?」
多美「また桂のおせっかいが始まったんじゃないかと思って」
桂「そんな暇じゃないわよ。自分のことで手いっぱい」
せせらぎの間
北「さすがに涼しいな」
彩子「下の渓谷がちょうど冷房の役目をしてくれるらしいんですよ」
伸「これでお湯から上がって一杯キュッてやれば天国ですね」
北「あとで一緒に風呂に入ろう」
伸「ええ」
桂が顔を出し、かしこまって「いらっしゃいませ」と頭を下げる。伸が捜してたと言い、彩子が北さんが今着いたと桂に言うと「ちょっと留守にしてまして失礼いたしました」と頭を下げ、動揺する北は明日の祭りについて話を切り出す。
伸「夏祭りは子供中心なんですが、でも捨てたもんじゃないです」
桂「あした、伸ちゃん太鼓たたくんでしょ?」
伸「ガキ大将みたいだけど、町の世話役としてはしかたないな」
彩子「とかなんとか言って、結構、たたきたいんでしょ?」
桂「北さん、この度は私と伸ちゃんのためにわざわざお越しいただいて申し訳ございません」
初耳の彩子は驚き、北の顔を見る。「あっ、いや…どうも」
伸「ああ、そういうことだったの。ちっとも俺に相談してくれないんだから」
桂「伸ちゃんからいろいろ申し上げて」
伸「どうもすみません。暑い中を」
北「いや、どういたしまして。お父さん、ずっとおうちにいらっしゃるの?」
伸「ええ、今日明日はうちにいるはずです」
帳場に戻った彩子。「ああ、驚いた。桂ったら織庄の旦那の所に使者に立ってもらうのに北さん呼んだらしいのよ」
多美「そうらしいわね。あきれたわ」
彩子「近頃の若い人たちってのは積極的だっていうけどこれほどまでとは思わなかったわ」
多美「恥ずかしくないのかしら?」
彩子「私たちの時代にはとっても考えられなかったことね」
多美「今だって桂が特別なのよ」
帳場に顔を出した桂は伸もご飯を食べていくと伝えたが、彩子は「ちょっとお座んなさい」と促す。伸ちゃんと北さんにアイスコーヒーを運ばなきゃいけないという桂に多美も止める。「お母さんのおっしゃることが聞けないの?」
仕方なく席についた桂は、多美にコーヒーを運ぶように言い、多美は席を立つ。
彩子「桂ちゃん、こんな大事なこと、どうして私に相談してくれなかったの? 私、今日ほど寂しい思いしたことはなかったわ」
桂「そんな大事なことだと思わなかったから」
彩子「桂ちゃんの結婚がどうして大事なことじゃないの? これほど大事なことがまたとありますか。私はね、あなたたち2人が幸せな結婚をしてくれるのをただそれだけを楽しみに今日の日まで頑張ってきたのよ。これでお父さんに褒めてもらえる。お母さんにも申し訳が立つ、そう思って…」机の上にのの字を書いたり、雑誌をめくりだす桂の雑誌を取り上げる。「それを何? 私にも多美さんにもひと言の相談もなしに間に入ってもらう人を呼んだりして」
桂「お母さん、違うの。北さんに来てもらったのは違うのよ」
せせらぎの間
多美「お待たせしました」
北「お元気そうですね」笑顔~。
多美「おかげさまで」
北「少し夏痩せしたのかな?」
多美「おかげさまで」
伸「夏痩せでおかげさまはないでしょう?」←この場に平気でいる伸ちゃんが好き。
北「多美さん、あとでちょっと話したいことがあるんだが…」
多美「桂のことでしたら、どうぞ母と…」
北「いや、違うんだ。あなた自身のことなんです」
多美「冷たいうちにどうぞ」
北「ありがとう」動揺?して伸のコーヒーに手を伸ばす。
伸「ああ~、これ、僕のですよ」
北「ああ、そうか」
帳場
彩子にも事情を話した桂。「だから、私、どうしてももう一度、北さんと姉ちゃんに話し合ってもらいたかったの」
彩子「ごめんなさいね。そんなこととも知らないで。でも、北さんに織庄に行っていただくのは行っていただくんでしょ?」
桂「ええ」
彩子「それはそれでいいのね?」
うなずく桂。
彩子「なんにも言わなかったけど、私、桂ちゃんも北さんのこと好きなんじゃないかと思って、そればっかり気にしてたのよ」
桂「まあ、お母さんまで? ホント言うとね、私、あんなタイプ好みじゃないの」
彩子「なんですよ。仲人役頼んでおきながら」
桂「だってそうなんだもん」
彩子「勝手な人」
話が一段落し、出ていこうとした桂。
彩子「でも多美さんもそんなに思ってるなら、どうして北さんの懐に飛び込んでいけないのかしらね?」
桂「素直じゃないのよ。世話の焼ける姉だわ」立ち上がり、出ていく。
仏壇に向かう彩子。「お父さん、お聞きになりましたか?」
⚟鶴吉「聞きましたよ」
振り向く彩子に「聞いて泣かされちまったよ」という鶴吉。「この姉を思う気持ち。男みたいに見えても結構優しい女の子なんだね」
このドラマ、立ち聞きパターン多いよね。
多美も桂のことを思ってると言う彩子に、それにひきかえ良男は…と愚痴り始める鶴吉。「親そっちのけでベタベタ、ダラダラ」
彩子はさっちゃんのおなかも日に日に大きくなるのだから、よっちゃんが本気で育てる気なら早いとこきちんとしてあげなきゃねと言い、鶴吉もこのままじゃさっちゃんがかわいそうだと言う。
彩子「どうでしょう? このお祭り機会に正式に婚約ってことにしちゃ」
今のままでは周りに示しがつかないことは鶴吉も気にしていた。彩子は「あしたの尾頭付き6~7枚抜いて、今夜焼いてくれる?」と鶴吉にお願いした。
厨房で♪尾頭~と歌いながら準備をする鶴吉。
良男「親父。陽気の加減で頭がおかしくなったんじゃねえのか?」
鶴吉は「バカ野郎!」とどなり、尾頭付きでけえとこ10枚追加と命じる。
広間?に集められた人々。
良男は冒頭から着ていたオレンジ、赤、白のボーダーTシャツ、幸子はオレンジ色のワンピース。良男の隣に鶴吉、幸子の隣に彩子。幸子側に多美、桂、静子が並んで座り、良男側に北、伸、竹子が座っている。
彩子「今日集まっていただいたのはほかでもありません。中西良男君と山下幸子さんのめでたいご婚約を一緒に祝っていただきたいと思ったからなんです。お祝いの言葉は、いずれ後ほど改めて申し上げるとして、とりあえず固めの杯をしていただきます」
静子が杯を良男と幸子に渡し、お酒を注ぐ。杯の酒を飲む良男と幸子に拍手を送る北、多美。北と目が合いうつむく多美を見てニヤリとする桂。
彩子「さあ、それじゃ皆さんもご一緒に2人の前途を祝って乾杯してやってください」
北「おめでとう」
一同「おめでとうございます!」
彩子「さあ、もう堅苦しいことは抜きにして今夜は無礼講でどんどんやってちょうだい」
伸「よし。俺が祝いの太鼓をたたいてやるか」広間にあった太鼓をたたき始める。
伸の太鼓に聴き入る一同。幸子は涙ぐみ、良男がハンカチを渡す。
これまでの回想シーンが流れる。
思い橋に立っている幸子
幸子の病室に見舞いに来た彩子、彩子にすがって泣く幸子
正紀と幸子の間に入る良男、正紀と言い争う良男
釣りキチスタイルの良男と笑顔の幸子、幸子をおんぶして帰る良男
太鼓をたたき続ける伸。笑顔の桂が多美を見る。多美は酒を飲む北を見ていた。涙、涙の幸子。良男の涙に手ぬぐいを渡す鶴吉。
秩父川瀬祭
屋台囃子、おみこし等々「新日本紀行」的映像が流れる。
二上のロビーでは静子が漫画を読んで笑っていた。桂は多美や北の様子を気にして、ひとり慌てている。
多美と幸子が連れ立って出かけるのを彩子が送り出した。お土産売り場から顔を出す桂。「これでいっちょ上がり。さて、これからが大仕事だ」とほくそ笑む。(つづく)
北さんを好きでいながら伸ちゃんもキープしつつ、姉を応援するスタンスって桂って演じる女優によってはめちゃくちゃ嫌われる役じゃない? ただ、松坂慶子さんって不思議とイヤな女を演じてもイヤな女に見えない。
↑これもよかったよ。
幸子は、それでいいのかい?と思わずにいられない。「本日も晴天なり」の終盤の大介と圭子は良男と幸子のケースと時代も同じなんだけど、結末は全然違った。
多美も幸子も内面の見えづらい人だから、桂の天真爛漫さが魅力的に映るのかも。