公式あらすじ※初見の方、ネタバレ注意
圭子(鈴木美江)は男の子を生み冬彦と名付ける。大介(木下浩之)は出生届と同時に、自分と圭子との婚姻届けを一緒に出し、赤ん坊を自分の戸籍に入れるという。元子(原日出子)は、それでは赤ん坊は一生ウソを背負っていかなくてはならなくなると猛反対する。話を聞いた圭子は、元子が言うことが正しいと冷静に判断して結婚は延期しようと大介をさとす。大介は言い返せず、敗北をさとったように部屋を出ていってしまう。
BSのない環境にいたため、遅れ視聴しています。この回は2023年3月15日(水)放送。
大原家ダイニング
元子「冬彦…ねえ。冬彦ちゃん…いい名前じゃないの」
ある年齢以上の人だと”冬彦”で思い出すのはこのドラマ。ただ、私は当時から金八先生の初期シリーズの再放送を楽しみにしてたくらいなので、こういうトレンディな世界に全く興味が持てず、チラ見したことはあるけどがっつり見たことはありません。
大介「僕が考えたんだ」
元子「そう。圭子さん、喜んだでしょう」
大介「ああ。それで、実は相談があるんだけど」
元子「ええ、何かしら」
大介「僕…やはり圭子と結婚します。このふたつき、結婚のことは僕も圭子も何も話さずに暮らしました。それだけは信用してもらいたいんだ」
元子「ええ…」
大介「全ては子供が生まれてから。そう母さんにも言ったけど、冬彦が生まれてみて、僕、逆に結婚の意志が固くなったものだから」
元子「そう…。はい」お茶を出す。
大介「本当に大切なことなのにわがまま通してすまないと思ってます」
元子「分かったわ」
大介「母さん」
元子「じゃ、やっぱりきちんとしないとね」
大介「うん」
元子「お父さんには、お母さんからよく話しておくけど…圭子さんの体がしっかりしてきたら内輪の人に集まってもらってささやかでもいいから、お式挙げないとね」
大介「いや、それだったら必要ないよ」
元子「そうはいかないわよ。一応、あちらのご両親にも知らせないといけないし」
大介「いや、母さんさえ、うんと言ってくれたら、これから冬彦の出生届を出しながら、ついでに結婚届を出して、それで万事解決さ」
元子「なにもそんなに慌てることないでしょうに」
大介「けど、出生届は2週間以内と決まってるんだもの。期限まで、あと6日しかないから」
元子「だったら、出生届だけ先に出しておけばいいんじゃないの?」
大介「それじゃ、何にもならないよ」
元子「何が?」
大介「だって、両方一緒に出すからこそ冬彦はすんなり僕の籍に入れるんだもの」
元子「ちょっと待って、それ、どういうこと?」
大介「だからさ、つまりどうせ結婚するんだから初めから僕の籍へ入れておけば、後々、問題は起きないもの」
元子「問題って、あなた一体何のこと言ってんの?」
大介「だから、僕は戸籍の上でもちゃんと冬彦の…」
元子「それは変よ」
大介「だって、今、入籍しなかったら冬彦は父親のない子として圭子の籍へ入ってしまうんだぜ」
元子「だったら大介は、それがかわいそうだから圭子さんとの結婚届も一緒に出すっていうの?」
大介「いや、もちろん、それだけじゃないさ。圭子を本当に愛してるから」
元子「愛していれば、うそついてもいいっていうんですか?」
大介「うそ!?」
元子「そうよ。それじゃ、生まれて早々…いえ、一生あなたたちがついたうそを冬彦ちゃんは背負って生きていくことになるのよ」
大介「だから、それは冬彦の幸せのために…」
元子「冬彦ちゃん、本当にそう思うかしら」
大介「母さん!」
元子「いいえ、母さん、そんなの反対よ」
大介「まるで訳が分からないな」
元子「分からないのは大介の考え方よ。あなたたちの結婚と冬彦ちゃんの問題とは別ですよ。あなたたち一体、冬彦ちゃん、何だと思ってるの? 将来、冬彦ちゃんに何でそんなことしたんだって言われたら、大介は一体どうやって答えるつもりなの?」
大介「適当な時期に打ち明けるよ」
元子「それで済む問題じゃないって母さんは言ってるの。これはね、冬彦ちゃんの人間としての尊厳を傷つけることなのよ」
大介「けど、現実社会はだね…」
元子「お待ちなさい。結婚は当人同士がするものであって子供のためになんて何の理由にもならないわ」
大介「そんなこと分かってるよ」
元子「だったらどうして?」
大介「母さんは、ひと事だから何でも言えるだろうけど」
元子「とんでもありませんよ。そんな籍までごまかさなければ父親になる自信がないんだったら、あなたには父親であり続けることなんてできません」
大介「僕は冬彦を守ってやりたいんだ。何がいけないんだ!」
元子「大介、お願い。落ち着いて聞いてちょうだい。これはね、人間として根本的なことなのよ。そんな小手先のことで始めて、あなたたち一体、どんな家庭が築けるっていうんですか。大介は圭子さんを愛してるからこそ結婚しようっていうんでしょう? だったら戸籍的にも冬彦ちゃんのいる圭子さんと結婚なさいな。そして、そんな書類上のことでグラグラしない立派な父親になってちょうだい」
大介「分かってないんだから!」
元子「分からないのは大介の方でしょう! これはね、とっても大事なことなのよ。冬彦ちゃんを一人の人間として見るなら、そんな勝手なことしちゃいけないの。それはとっても不遜なことなのよ。冬彦ちゃんにとっては、赤ちゃんだっていうだけの理由で間違った…間違った事実を押しつけられることになるんですよ。それは人間として、やってはいけないことなの。生まれたばっかりの赤ちゃんをそんなご都合主義に巻き込むなんて、あんまりなことじゃありませんか」
大介「分かったよ。母さんは、やっぱり僕たちの結婚には反対なんだ」
元子「大介!」
大介「母さんに分かってもらおうと思った僕がバカだった。帰る」
元子「大介! 大介待って! 大介!」
玄関の扉が閉まる。
圭子のアパート
台所でコップの水を飲む大介。
圭子「私…お母さんのおっしゃることの方が正しいと思う」
大介「何を言いだすんだ、君は」
圭子「大ちゃんが結婚届を一緒に出してしまおうって言った時、本当にうれしかったわ」
大介「だったら、それでいいじゃないか」
圭子「でもね、どっかが違うんじゃないかなって思ってはいたんだ」
大介「圭子!」
圭子「だけど、大ちゃんに言われてよく分かった。お母さんが言うのは当たり前よ。私たち、とんでもない間違いをするところだったわ」
大介「間違い!? だって、君は僕のプロポーズOKしてくれたじゃないか」
圭子「うん」
大介「だったら、何を今更」
圭子「大ちゃんのこと、私、好きよ。こんなにまで面倒見てもらって、お礼の言いようがないし」
大介「他人行儀なこと言わないでくれ」
圭子「でもね、お礼の言いようがないから結婚OKしたとしたら、大ちゃん許せる?」
大介「圭子…」
ノック
圭子「はい」
大介「母さん…」
元子「ごめんなさい。でも、母さん心配でたまらなかったもんだから」
圭子「本当にいろいろご心配かけて申し訳ありませんでした」
大介「帰ってくれないか。もうこれ以上、母さんには関係ないんだから」
圭子「そんなことないわよ」
大介「圭子!」
元子「本当にごめんなさい。母さんが余計なこと言ったばっかりに」
大介「ああ、本当に余計なことだったよ」
元子「けど、圭子さんは、お産してまだ血がおさまらない時期なのよ。これ以上、話を難しくして肥立ちに差し障りがあってもいけないから、だからこのことは、もう5日。ねっ? 出生届のギリギリまで待って、それでもう一度話し合ってちょうだい。でないと…」
圭子「いいえ、私なら大丈夫です。大ちゃん、本当にごめんね。私たち、結婚を延期します」
元子「圭子さん…」
大介「延期して、どうするつもりなんだよ」
圭子「私、もっと自信ついてからお嫁さんにしてもらう」
大介「子供みたいなこと言うんじゃないよ」
圭子「そうよね、子供みたいだったわ、私。一人で産もうって決心していながら、あんまり大ちゃんに助けてもらって、つい甘えたのね」
大介「甘えたっていいじゃないか。結婚すれば夫婦なんだぜ」
圭子「でも、まだ結婚してないもの」
大介「圭子!」
圭子「冬彦が学校へ行くようになって、先生方に戸籍を見られたら私だけの子供っていうことで確かに別な目で見られるかもしれないわ。でも、それでもともとだし、そんな別な目なんか気にしないように私が冬彦をしっかり育てなくちゃいけないんですもの」
大介「どうして…」
圭子「このまま都合よく結婚届を出して全てめでたしめでたしになったら、私は一生、大ちゃんと冬彦に借りを作ってしまうのよ」
大介「どうしてそうまでして突っ張らなきゃいけないんだよ」
圭子「大ちゃん、冬彦の友達になって。そして、私がもっと自信ついて、そして大ちゃんが気持ちが変わらなかったら、その時、私からプロポーズする。ねっ、その方がいいですよね、お母さん」
元子「私はいいのよ。どうか2人でゆっくり話し合ってちょうだい。何だったら私、帰りますから」
圭子「いいえ、いてください。お願いします」
元子「圭子さん…」
圭子「私、初めに決心したようにやってみます。本当にいろいろすいませんでした」
大介は立ち上がり、出ていってしまう。
元子「大介! ねえ…」
圭子「いいんです、お母さん。私、本当に大ちゃんには悪いことしたと思ってます。でもね、私、大ちゃんにうそつきたくないんです。私、大ちゃんのこと好きだから」
元子「ありがとう、圭子さん」
圭子「これでよかったんです。頑張らなくっちゃ」
元子「ええ、頑張ってちょうだい。あなた一人じゃないもの」
圭子「はい」
モンパリ
イライラしてる様子の大介。
八木沢「おい、どうしたの? 何かあったの?」
黙って皿を洗い始める。
大原家玄関
道子「ただいま。ただいま。また誰もいないんじゃないの、この家」
⚟電話が鳴り始める。
道子「あ~、はいはい」鍵を開ける。
大原家茶の間
道子「はい、大原です」
大介「僕だ。母さんは?」
道子「ううん、例によって私は相変わらずの鍵っ子です」
大介「じゃ、言づけておいてくれないか」
道子「いいけど、何かあったの?」
圭子のアパート
布団で横になっている圭子
元子「じゃあ、また明日の朝、来てみますけど、まだ洗い物は無理ですからね」
圭子「はい」
元子「ごはん出来てるから温めるだけだし、それくらいだったら動いても大丈夫。でも、くれぐれも冷たいお水でゾ~ッとしないこと。おしめは、このバケツに入れて蓋しておいてくれればいいから」
圭子「はい。ありがとうございます」
元子「じゃ、くれぐれも気を付けてね」
圭子「はい。お母さんも」
元子「じゃあね、冬彦ちゃん」部屋を出ていく。
圭子「冬彦君」
大原家ダイニング
元子「大介からですか?」
正道「うん。道子にね、言づけてきたそうだよ。今晩からモンパリに泊まることにしたって。しかしね、21日間は責任持って圭子さんの面倒は見るって言ってたよ」
元子「そうですか…」
正道「しかしな、結婚を断られた以上…」
元子「いえ、圭子さんは延期したいって」
正道「まあ、どっちにしても大介は大変なショックだっただろう。少し時間をくれって言ってたよ。気持ちの整理がしたいんだろうな。まあ、けじめはけじめだから圭子さんの朝の面倒は見るけれども、その間、君に圭子さんのことを頼みたいってね、言ってたよ」
元子「私もそのつもりではいましたけど…。帰ってくればいいのに、なにもモンパリへなんか泊まらなくたって」
正道「しかたないさ。男ってもんはな、くだらないと思えても、そういう意地を通さなきゃならん時だってあるんだ」
元子「私の言ったこと、間違ってたでしょうか」
正道「いや」
元子「でも、大介は…」
正道「あいつだってバカじゃないさ。分かってるよ。今はね、そうは分かりたくないって意地を張ってるだけだと思うよ」
元子「ごめんなさい…。本当にすいませんでした」
正道「まあ、しばらくはな、お互いに見守っていくしかしょうがないだろう」
モンパリ
カウンターに座り、ギターをつま弾く大介。歌わないのかな~(期待)。
大原家ダイニング
元子がコーヒーを飲み、正道がタバコを吸う。
子育てとは苦い苦いコーヒーの味のようなものでしょうか。
つづく
圭子役の鈴木美江さんは「おしん」では、仁の娘のあかねで、当時はそれなりに感想を残してたというのに顔の印象がなくて、「おしん」のキャプチャを残してる人の画像を見て、ああ、同じ人だったんだなあと実感。「おしん」のときは現代パートだったから80年代らしい、もっとふわっとした髪型だった。圭と同じように割とおしんに好意的な孫だったんだよね~。妹のみどり(川上麻衣子さん)は、割とバカにしてる派。
おしんの部屋に飾られている写真もおしん、圭、あかねの3ショット。ちょうど3年前の今頃も鈴木美江さん、川上麻衣子さんを毎朝見てたんだなあ。
元子の言ってること、分かるけどな~。冬彦にとっての本当の父親は大介じゃないんだもんね。