TBS 1973年8月7日
あらすじ
多美(上村香子)との結婚を諦めた北(藤岡弘)が暮らす東京の下宿に、桂(松坂慶子)が訪ねてきた。多美に北との結婚の意思はない。桂は「姉の代わりに自分ではどうだ」と言うが、それを聞いた北は怒り出す。
2024.3.6 BS松竹東急録画。
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北晴彦:藤岡弘…トラベルチェーン開発課の社員。
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中西良男:仲雅美…鶴吉の息子。
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大須賀伸(しん):荒谷公之…織庄の一人息子。
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山下幸子:望月真理子…自殺未遂後、「二上」で働きだす。
竹子:大橋澄子…仲居。
ボーイ:松下努
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厨房
酒を飲んでいる鶴吉と良男。「さっちゃんのことだけどさ、どうするつもりだい?」
鶴吉「どうするって…産まれてくる赤ん坊のことか?」
良男「うん」
鶴吉「産まれてくるものはしょうがねえじゃねえか」
良男「だからどうするつもりかって聞いてるんじゃねえか」
鶴吉「俺にそう言われてもな…こいつはさっちゃんの問題だから」
良男「この間は親父の孫にしてもいいとかなんとか言ってたじゃねえか」
鶴吉「そりゃ、おめえ、おめえの子供だっていうから…」
良男「誰の子だってさ、さっちゃん一人で子供育てるっつったら大変だぜ」
鶴吉「おめえの言いてえことぐらい分かってるよ。だがな、こういうことは慎重の上にも慎重を期さねえとな」
鶴吉「いいか? 良男。おめえは親切のつもりでも、さっちゃんにはかえって迷惑かも分かんねえんだぞ」
良男「そんなことねえよ」
鶴吉「証拠があんのかい? よろしく頼むかなんか言われたことあんのかい?」
黙って酒を飲む良男。
鶴吉「それ見ろ。万一さっちゃんはそれでいいにしても、さっちゃんを何するために赤ん坊をダシになんて思われたら、おめえだってイヤだろ?」
良男「当たり前だよ。俺はそんなつもりで…」
鶴吉「分かったよ。分かってるよ。だがな、世間ってものはそういうふうに取るもんなんだ。だってそうだろう? さっちゃんにしてみりゃ産まれてくる赤ん坊を引き取るって言われりゃ、おめえが少々イヤだって、うんって言わざるを得ねえじゃねえか。そんなことでさっちゃんを困らせるのは、おめえの本意じゃねえだろ?」
良男「だから…子供だけ引き取ればいいじゃねえか」
鶴吉「おめえ、それでいいのかい?」
良男「いいさ。赤ん坊だけ引き取って、さっちゃんには手を出さねえ。そうすりゃさっちゃんだって困ることないだろ?」
鶴吉「バカ野郎。おめえってヤツはなんてバカだ。おめえ、さっちゃんが好きじゃねえのかい?」
良男「好きだよ」
鶴吉「嫁に欲しいんだろう?」
良男の謎理論。女一人で育てるのは大変だから??
良男「しかたねえじゃねえか。こうなっちまったもの」
鶴吉「こうなっちまったから子供だけ引き取って、さっちゃん諦めるってのか? バカ野郎。おめえがそんなバカだとは思わなかった」
良男「バカでいいんだよ、俺は」
鶴吉「やっぱりおめえは俺の子だな。バカの子供は結局、バカか」
良男「親父はよ、さっちゃんみたいな女の子が子供抱えて一人苦労してくのを黙って見てろってのかい?」
鶴吉「誰も黙って見てろなんて言ってやしないじゃねえか。こんなことは今日明日には決めなくちゃいけねえってこっちゃねえ。彩さんが帰ってきたら、折を見て相談してみよう」
立ち上がった良男は鶴吉のコップに酒を注ぐ。「おい、親父」
鶴吉「んっ…この野郎。バカにサービスがいいな」
さっちゃん不在で話し合うことじゃないような。
彩子の部屋
布団を並べて寝ている多美と桂。多美が蚊取り線香を焚くために起きると、桂は多美が起きるのを待っていたという。珍しく”お姉ちゃん”と言ってる。そもそも、いつもの”姉ちゃん”って言い方、すごく違和感がある。
桂「お母さん、いつも蚊に悩まされながら寝てたのかしら」
多美「らしいわね。反省しなきゃ。私たちがいい部屋占領しちゃってるからよ」
彩子不在で2人はこの部屋に寝てるのね。
桂「夜中の電話番っていうのも楽じゃないわね。お母さんにお部屋あげるとしたらどこだろう?」
多美「交換台に近くなきゃ困るしね」
桂「深夜用の交換台、寝室にもう一つ置けばいいのよ」
多美「気楽なこと言ってる」
桂「お母さん帰ってくんのいつかしら? 日曜だったら東京まで迎えに行くんだけど…」
多美「そうね」
こんな感じの蚊遣り器。
多美は桂に「大須賀君のこと、どう思ってるの?」と聞く。「約束したんでしょ?」とさらに聞くが、「伸ちゃん、そんなこと言ってた?」と質問返し。
多美「真面目に聞いてるのよ。好きなら好きではっきりしなきゃね。曖昧な態度とってるのいけないことだと思うわ」
桂「好きだとか嫌いだとか、どうして決めなきゃいけないのかしら。私にはそれが分かんないわ。だってそうでしょう? 人間なんだもん。好きだって思うときもあれば、嫌いだって思うときもあるんじゃないかしら。それを100パーセント好きだとか100パーセント嫌いだとか思えっていうほうが無理なんじゃないかしら」
多美「まだなんにも分かってないのね」
桂「何が?」
多美「その程度なら安心ってこと」
桂「あっ、そう。そういうもんですか。『経験者は語る』ね。おやすみ」
多美「慎重に行動しなきゃね」
桂「私、そんな軽薄に見えるかな?」
多美「そんなこと言ってないわよ」スタンドの明かりを消す。
北「言っときますが、僕はここを追い出されて出ていくんじゃありませんよ。用が出来たから帰るだけなんです。また来るかもしれません」
真っ暗な背景に立っていた北がカメラが横に振れるたび、どんどんアップになる演出。
レッドアロー号が走る。
北と高級そうなレストランに行った桂。「わあ、こんなすごいとこ大丈夫なの?」
北「心配するなよ」
桂「今日は月給日前? それともあと?」
北「いやに今日は所帯じみたこと言うんだな」
桂「だってないときだったら悪いもん」
北「まあ、適当なところにしといてくれよ」
席につこうとするとボーイがメニューを持ってきた。メニューを広げても分からない桂は「お任せするわ」とメニューを閉じた。北は「じゃあ、これね」とメニューを指す。
桂「ねえ、何頼んだの?」
北「カレーライス」
桂「ケチ!」と笑うものの、ナイフやフォークがゴテゴテ並ぶのに弱いからよかったという。「ねえ、姉ちゃんからなんか連絡なかった?」
北「あるわけないじゃないか。断られたんだから」
桂「まったく姉ちゃんの気が知れないわ」
北「ホントだよ。こんないい男をな」
ボーイたちがナイフやフォークを並べ始めて、桂は北に笑いかける。
食事が終わり、デザートが運ばれてきた。
桂「ごめんなさい。でももったいないわ、こんなごちそう。高いんでしょ?」
北「気にするなよ。桂君らしくもない」
桂「だってさ、姉ちゃんが振っといてさ、私がこんなごちそうになるなんて、北さんにしてみれば踏んだり蹴ったりですもんね」
北「イヤなこと言う人だな」
北に幸子のことを話す桂。多美が病院へついていったところ、予定日は11月8日。北は相手の男が課長の甥だから何か力になれるかもしれないと言う。お礼を言った桂だが、幸子はその人とは関わりを持ちたくないのではと推測する。産まれてくるのは間違いなくそいつの子なんだからそうもいかないと言う北。
野の花を摘んでいる幸子。もう8月に入ったんだから、もう少しおなかが目立つ感じになってもよくない? 相変わらずミニスカートだし。札所巡りをしている人とすれ違い、立ち上がって頭を下げる幸子。
幸子が歩いているのは、二十二番入り口の地蔵尊のあたり。
良男が麦わら帽子、釣竿を肩にパンタロン姿で走ってきた。
ちょっと違うかあ。良男はシャツインしてるし。連載はこのドラマと同じ1973年から。アニメは1980年から。
良男「あっ、一緒にヤマメ釣り行こうか?」
幸子「ええ」摘んでいた花を地蔵尊に供える。
良男「1人で歩いていたい? そうだね。やっぱりちょっと遠いもんね。じゃ、俺、たくさん釣ってくるから二上に帰って待ってなよ」
幸子「すいません」
良男「あっ、板場の冷蔵庫にね、例のミックス牛乳冷えてるから。じゃ、行ってくるわ」
幸子「いってらっしゃい」
笑顔で見送る幸子に良男は振り向いて大きく手を振り、走り出す。
北のアパートを掃除している桂。「よくも平気でこんな汚い部屋に住んでられたわね」
留守にしてたからしかたないと言い訳する北は椅子に座る。
桂「何日前に帰ってきたの? さあ、どいてどいてどいて」
北「君はうるさい奥さんになりそうだな」
桂「うるさいこと言う前に自分でやっちまうわよ」
北「いや、君は言いながらやらないと気が済まないほうだよ。伸君は苦労するな」
作業の手が止まる桂。「北さんも私と伸ちゃんのこと、そんなふうに見てんのね」
北「違うのか?」
桂「違いますよ。何もかも違いすぎるもん。伸ちゃんとことうちじゃ。家柄も違うし、財産だって比べもんになんないし」
北「へえ。随分、古いこと言うんだな」
桂「そう。秩父ってそういう古いとこなのよ」
北「しかし、彼のこと愛してるんだろ?」
桂「不思議だな。どうしてみんなそれを問題にするんだろう」
北「だけど、愛してる、愛してない。それが問題だろ?」
↑こういう感じのエキスパンダーを伸ばしながら話をする北。昔うちにもあった気がする。”昭和 筋トレ 器具”で画像検索したら”エキスパンダー”という名前が分かりました。北さんが使ってるのはバネ3連式というのだろうか。
桂「好きって程度かしら」
北「愛してるのと好きなのとは別なのかい?」
桂「そう。私の中では別なの。どうせ抵抗があると思うから自分の中でブレーキかけてるでしょ。好き以上にはならないの」
北「へえ。桂君がそんなに古くて弱い女だとは思わなかったな。そんな障害なんか蹴散らしてく人だと思ってたよ」
桂「古い女よ、私って。古くて弱いの。だから、こうやって姉ちゃんの償いに北さんにサービスしてるんじゃないの」
北「償い?」
桂「どう? 姉ちゃんの代理に私。結構いいお嫁さんになるかもよ。そんなに違わないと思うんだけどな。きょうだいだもん」
ムッとしてる?北。
桂「あっ、そう。やっぱり姉ちゃんじゃなきゃダメ。どうもすんずれい」
北「ふざけた言い方をすんじゃないよ」
桂「ごめんなさい」
桂のギャグがいつも笑ってもらえなくてかわいそう。
北「桂君。もう帰りたまえ。君は僕を少し軽く見すぎてる。僕だって男だよ。それも君が言うようにライオンみたいに獰猛な野獣かもしれないんだ。野獣ってのはね、愛情なんかなくったって見境もなく飛びかかっていくんだ」
桂「じゃ、飛びかかってみたら?」
北「それが甘いっていうんだよ。君の空手よりは僕のほうがずっと上なんだ。その気になれば一も二もない。いや、ありがとう。おかげで見違えるほどきれいになったよ。送っていくよ。駅前でアイスクリームでも食べよう」
桂「子供扱いはイヤ。私、北さんのこと愛しちゃったのかもしれない。愛してなんかくれなくてもいい。姉ちゃんの代わりでいいの」
北「バカだなあ。だから子供っていうんだよ」
桂は潤んだ目で北に抱きつくが、「君が優しい人だっていうことがよく分かったよ」と紳士な態度。さすが~。
良男が川で釣りしてるところへミニスカの幸子が笑顔で近づく。「釣れました? たくさん」
良男「今に釣るさ。なっ? うまいのを骨抜きにして食べさせるからな」
幸子「私になら…」
良男「いや、さっちゃんにじゃないよ」
幸子「えっ?」
良男「さっちゃんの子。おなかん中の赤ん坊にさ」
荷物を抱えた彩子が帰宅。大きな声で「ただいま」と叫ぶが、ロビーで昼寝して一旦起き上がった鶴吉はまた寝てしまい、出迎えたのは、竹子と多美。「お母さん、早かったのね」
まだ法事してないよね?
うちのことが心配で早く帰ってきたと言う彩子はロビーにいた鶴吉にお礼を言う。
帳場に入った彩子は仏壇に手を合わせた。「で、留守中、なんか変わったことはなかったの?」
顔を見合わせる多美と鶴吉。
彩子「どうしたのよ? なんかあったのね?」
口ごもる鶴吉は留守中ではなく、その前に原因のあることがあると言い、多美があとで話すとその話を終わらせた。
多美から良男がヤマメ釣りに行ったと聞いた鶴吉は、ヤマメの塩焼きを作ることに決めた。
ミニスカの幸子をおんぶして帰る良男。いろいろ危ない。サンダルが落ちてもそのまま歩き続ける。「ヤマメは釣れなかったけど、こんな大きな魚が釣れたんだもんな」
下ろしてと幸子に頼まれても歩き続ける良男。幸子もだいぶ心を開いたのか、笑っている。
帳場
北が帰ってしまったことを残念がる彩子。お土産も買っていた。
鶴吉「あの男も買収しようと思って来たものの骨折り損のくたびれ儲けだったらしいな」
多美「あの人、そんな人じゃないわ」
普通に帳場にいた伸にお土産を渡す彩子。
伸「あっ、僕にもあるんですか? どうもすいません」
帰ってきた良男と幸子。良男は俺が話してやると様子をうかがう。
厨房
良男は幸子に「あれ飲みなよ」とミックス牛乳を勧める。良男が帰ってきたことに気付いた鶴吉はヤマメが釣れたか聞くが、良男は両手を上げる。「いや、今日はさっちゃんのハイキングが主だったからな」
鶴吉「バカ野郎。流れに足でも取られたらどうすんだよ」
鶴吉は女将さんにあとでチャンスを見て話しといてやるからと幸子に言う。幸子は自分で言うつもりなのに、鶴吉や良男は反対する。
帰ってきた桂。竹子が彩子の帰宅を知らせる。
多美「遅かったのね。誰と一緒だったの?」
桂「うん、伸ちゃんと」
多美「へえ」
帳場
彩子に再会した桂は一段と若くなったと言う。
伸「どこ行ってたんだい?」
桂「あら、伸ちゃん来てたの?」
多美「お母さん、桂ってホントにいけない子なのよ。お母さんの留守中、ちっとも私の言うこと聞かないの」
桂「そう。私はいけない子。とってもいけない子。みんな嫌い。出てってよ! 出ていってったら!」←急変。
伸や多美を追い出し机に突っ伏して泣き出す桂。「お母さん、叱って」
彩子「どうしたのよ? 寂しかったのね、甘えん坊」
涙を浮かべながらも笑顔を見せようとする桂。
彩子「涙、拭きなさい」
多美と伸、良男と幸子がそれぞれ様子をうかがう。
幸子は彩子と抱き合う桂の姿を良男から離れてじっと見つめていた。(つづく)
幸子は美しいだけに何だかホラーだな。
二上姉妹と北の三角関係!?と思いつつ、「あしたからの恋」みたいな感じになりそう。この枠はドロドロした展開にはならないでしょう。
そういえば、週一で再放送していた「3人家族」と「二人の世界」も3月末の週末で終わり。順当にいけば「おやじ太鼓」と「兄弟」の再放送が始まるのかな。「おやじ太鼓」は週一で再放送したら1年以上やることになるんだね。最初の白黒時代からのおやじと愛子さんのやり取りがまた見たい。