TBS 1973年4月10日
あらすじ
青年・北(藤岡弘)は、「二上」に来てから3日目に外出をした。身元もはっきりせず、何もかも謎の多い青年だが、財布を預かった多美(上村香子)と彩子(淡島千景)は、なにげなく中身を見て驚いた。
2024.2.12 BS松竹東急録画。
オープニングが始まる前にナレーションで前回の振り返りをするという木下恵介アワーでは珍しい始まり方。
ナレーション「織物の町、秩父の静かな鉱泉旅館、二上も若い女の自殺未遂事件で一騒動あったが、また静かさを取り戻した。男勝りの美しい女将には2人の娘があった。そして、それぞれのボーイフレンドを自認する2人の青年。ある日、えたいの分からぬ一人の男が風のように現れた。この男は平和だった二上にどんな波乱を巻き起こそうとしているのだろうか」
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中西良男:仲雅美…鶴吉の息子。
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二上多美:上村香子…彩子の長女。字幕黄色。
大須賀伸(しん):荒谷公之…織庄の一人息子。
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山下幸子:望月真理子
静子:相生千恵子…「二上」の仲居。
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専務:土紀養児…北の会社の上司。
仲居:大橋澄子
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大須賀:野々村潔…織庄の社長。
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で、このナレーションの声は誰なんだろう?
桂が玄関へ。もう10分早く起きればいいのにと彩子が言うが、その10分が貴重なのよと桂が慌ただしく出かけていった。
バスを洗っている良男に買い物メモを渡す鶴吉。桂がバスに乗ると良男が運転席に乗り出発。鶴吉は良男にバスの中から「バカ野郎!」と言われても、聞こえておらず笑顔で手を振る。
バスの中で化粧している桂のコンパクトが懐かしの折りたたみ型ケータイみたいな長方形。良男のことをせっかく大学を出て、車の運転手やボイラーの調整じゃもったいないと言う桂。良男は鶴吉を放っておけなくて戻ってきたらしい。
車窓から「もう春ね」とつぶやき、歌いだす桂。
♪ラララ 赤い花束 車に積んで
春が来た来た 丘から町へ
すみれ買いましょ あの花売の
松坂慶子さんもきれいな声だけど、仲雅美さんも上手。「春の唄」は昭和12年にヒットしたラジオ歌謡という認識であってるかな?
バス停には伸が待っていて、バスに乗り込む。また乱暴に発進させる良男。
静子が彩子に北が3日も外出していないことを話していると、北が多美に財布を預けて出かけていった。静子は怪しいから開けてみましょうか?というが、彩子が止める。静子は何も荷物がないと言って部屋を見に行った。金庫からお預かり袋を取り出す際、財布を落とした彩子。中から札束が見えた。彩子は偽札かと疑うが、大家のお坊ちゃんだと思ってたと、多美確認のもと、お預かり袋を金庫にしまった。
昔の旅館じゃ当たり前のことかもしれないけど、いちいち客のことを詮索しすぎで絶対泊まりたくないって思っちゃう。ビジネスライクなホテルのほうが絶対いい。
鶴吉、彩子、多美、静子で朝食中に話し合い。
静子「そういえば2~3日前、銀行強盗がありましたね」
彩子「あんた、探偵小説の読みすぎよ」
鶴吉は多美をワラビ取りに誘う。彩子は今日はお茶のお稽古じゃなかったの?と聞くが、多美は2時からだからその前に行ってこれると答えた。
ジャケットを肩に山道を走る北。スタイルいいなあ~。山の中でシャドーボクシング。北を見ていた多美。
北「なんだ、あんたですか。ずっとそこにいたんですか?」
多美「ええ」
北「人が悪いな。バカじゃなかろうかと思って見てたんでしょう」
多美「いえ」
北は多美が持っていたワラビに興味を示す。北が汗をかいていたので多美がハンカチを渡すと思い切り拭いて「あっ、いい匂いだ。どうも」と返す。いやだ~。多美はニッコリ笑ってたけどね。
東京から来ると空気が違う、新緑の頃はいいでしょうねと明るく話す北。多美か桂が旅館の後を継ぐのか聞く。
多美「決まってませんわ。そんなこと」
北「でも、あんたは旅館経営には向かんな」
多美「そうでしょうか」
北「ヘマばっかりやってんじゃないですか?」
多美「あら! でもそうなんです」
北「そうでしょう」
2人笑い合う。もっと勝ち気な女性ならケンカになる展開!?
伸も桂も織庄で事務員をやってるみたい。伸もバスに乗って織庄に向かってたから、自宅と事務所は別の所にあるんだね。
桂「伸ちゃん、お父さんに言ってせめて電卓ぐらい入れてもらいなさいよ。そしたら伸ちゃんだってできるし、私の給料ぐらいすぐ浮くわよ」
伸「それが分かる親父ならね、息子としても苦労しないよ」
桂「まあ、いくら儲けたって選挙に使っちまうんだから意味ないけどね」
伸「やめようと思って、やめられないのがあの道らしいな」
織庄社長・伸の父が後ろから入って来てるのに気づかない桂と伸。
桂「ああなると、政治も一種の道楽ね」
伸「ヘヘッ」
大須賀「ハハハハッ。ええ? 桂ちゃんよく分かってるねえ」
桂「いけない」
大須賀は多美と田代の息子の話が壊れたことを桂に聞く。
桂「どうしてご存じなんですか?」
伸「いや、俺、言わないよ」
大須賀「いや、狭い町だからな。昨日、組合の寄り合いでちょっと小耳に挟んだんだ」
桂「ひどい話でしょ。息子さんのほうは、あんなに姉さんにお熱だったのに、おうちの反対であっさりチョンなんだから」
大須賀「まったくねえ」
桂「私、よっぽど電話して月夜ばかりとは限りませんからねって言ってやろうと思ったんだけど」
月夜ばかりとは限らないってどういうこと?と思ったら、寝首を掻くみたいな意味合いらしいというのが分かりました。
大須賀「桂ちゃんの空手の見せどころだな」
桂「そう。あんなの私の一撃でイチコロよ」
お~怖、なリアクションをする大須賀。伸もケガしないように気をつけろよと笑い、事務所から出ていく。
織庄社長の大須賀は「あしたからの恋」の直也や勉の父・野々村潔さん(岩下志麻さんの実父)。野々村潔さんと伸役の荒谷公之さんは親子役も納得の似たタイプの顔に見える。
伸はホントに好きなら親父が反対したって2人で飛び出すなりなんなりすりゃいいと桂に言うが、桂が伸ちゃんなら飛び出しちゃうでしょ?と言われると声が小さくなる。指摘されると「親父がね、なんと言おうが俺は絶対に飛び出してやるからな」と机をたたいて立ち上がると、「なんだ、なんだ? なんか用か?」と大須賀が顔を見せた。野口パパより軽妙な感じのお父さんだね。
笑い合う伸と桂。思い出したら腹が立ってきたと桂は「ヤーッ!」と伸に手を振り下ろすが、電話が来るとよそ行きの声で「もしもし、織庄本店でございます」と受ける。ホントにキレイな声なんだよね。
しかし、他にも事務員のいる事務所で社長の息子としゃべってる桂の存在って実際居たら、ちょっとな…。
良男運転のバスに乗る彩子と北。
先に郵便局で降りた北は赤い公衆電話で専務に電話をかけていた。「1軒手ごろなのを見つけました。二上っていう鉱泉旅館なんですがね。今のところ、女手ばかりで細々とやってるんですよ、ええ。市内からそう遠くありませんし。一見、深山幽谷の趣がありますよ」
専務のデスクの後ろは巨大な日本地図。
専務「ほう、敷地はどのくらいある?」
北「約3500平米です。ええ。うまく話を持っていけば、その可能性は十分あると思いますが。ええ、ええ、とにかく2~3日、内情を調べたうえで報告に帰ります」
専務「うん、分かった。じゃあ、吉報を待っとるからね」受話器を置き、赤い旗を秩父に立てる。
郵便局を出た北はサングラスをして町を歩きだす。怪しい~。目立つよ。
病院
思い橋から飛び降りた幸子を見舞う彩子。警察から幸子が飛び降りた理由は失恋だと聞いた。相手の人の結婚式があの2日前だった。分かるわ、と同意し、実はね…と話しだそうとした彩子に警察で聞きましたと幸子。個人情報ダダ洩れ。
彩子はミカンをむきながら話し出す。「私もあのとき、あの思い橋の上から飛び込んでたら芸者・金太郎で終わってたのよね」
金太郎って芸者の定番ネームだったのかな。
彩子「そう。私はあなたより2つ3つ上だったと思うけれど、ある男にのぼせ上がっちゃってね、女房子供がいることは分かってたんだけど、そこはそれ。つい。ちょっといい男だったもんだからね。そんなことどうでもいいわよね。その男の人、織屋の主人だったんだけれど相場に手を出して失敗しちゃってね。普通、金の切れ目は縁の切れ目っていうでしょ。私、そんなの大嫌いなほうだから、破産したその人をうちへ引き取って、そりゃ尽くしたのよ。私に入れ揚げてくれたお金も、そうなった原因の一つだと思うから朝湯朝酒をつけちゃってさ。それがどう、3か月もすると、もう他に女を作ってるじゃないの。それも私の同輩よ。それが分かったときの悔しさったら。もう相手も殺して自分も死んでやろうと思ったの。でも気がついたときには2人で姿を消しちゃって影も形もないの。残ったのは借金だけ。もう目の前が真っ暗になっちゃって何もかも信じられなくなってね。忘れもしない春もまだ浅い…そう、思い橋のたもとに桃の花が散りかけてたわ。気がついてみたら思い橋の上に立ってたのよ。まだ今みたいな立派な橋じゃない、土橋に毛の生えたような橋だったけどね。そのとき、バカなことを考えるんじゃない。お前の命はお前一人のもんじゃないって𠮟りつけてくれたのが亡くなった亭主なのよ。思いっ切りほっぺたを叩かれたわ。その痛いの痛くないのって。目から火が飛ぶってあのこと言うのね。私、それで目が覚めたの。覚めてみれば、なんてバカなこと考えたんだろうと思うんだけれど思い込んでるときには、それが見えないのよね。見えているのは行ってしまった男の背中だけ。そうでしょ?」
うなずく幸子。
いや~、それにしたってすごいセリフ量!
彩子「あなた、学生さんなんだって? 相手の人も?」
かすかにうなずく幸子。
彩子「こんなかわいい人だますなんて悪い男。そんな男と一生一緒に暮らさずに済んだんだからかえってよかったじゃないの。それともまだ忘れられないの?」
幸子「おばさん。私の頬、ぶってください。思い切りぶってください」
彩子「そう。忘れられない」
うつむく幸子。
彩子「いいわ。ぶってあげる。忘れさせてあげる。目、つぶりなさい」
目をつぶった幸子に一度は手を振り上げたものの、抱きしめる彩子。「バカよ、バカよ。死のうなんて」
声をあげて泣きだす幸子。
”おばさん”って単に年上女性を指す言葉だったのに、今や女性に呼びかけちゃいけないみたいな感じになってて、ちょっと悲しいね。侮蔑の言葉でもなんでもないのに。でも、今の感覚だと初対面の人に”おばさん”と言われたらショック受けるかも。80年代以降?バカにするように”おばさん”と言い続けた結果だろうね。
秩父の町を歩く北。良男の運転するバスを見かけ、乗り込む。良男は彩子は車を拾って直接帰るが、レッドアローが来るのでちょっと待っててくださいと北に言う。今日は予約が2組。フリーの客がどのくらいあるかと「二上」の旗を手に車外へ客引きに出ていった。
サングラスを外した北も車外へ。
桂と伸が無人のバスに乗り込む。
レッドアローが到着し、良男が予約の2組をバスへ案内した。バスに乗り込んだ客に「いらっしゃいませ」と声をかける桂。鈴を転がすような声って松坂慶子さんみたいな声かな?ってなんとなく思う。
北は3人、2人、4人の3組のフリーの客を案内してきた。良男は今日は珍しく混んでいて部屋が足りない、予約以外で空いてるのは2部屋だけだと言う。僕の部屋を空けてもいいという北。バスに乗り込むと「どうもお待たせいたしました。出発します。発車オーライ!」と仕切りだす。
北「皆様、早春の秩父へようこそいらっしゃいました。本日は二上館をご利用くださいまして厚くお礼申し上げます」ニコニコ。
桂「皆様、ようこそいらっしゃいました。二上館はこれより約10分でございます。ご用がございましたら、わたくしまでお申しつけくださいませ」と続け、客はこのバスはスチュワーデス付きだと言い、他の客が「うまいぞ」と笑う。
客が大勢訪れ、彩子たちは驚く。
帳場
北とこたつで向かい合う桂。北のトランプマジックにもう一度とせがむ桂。北は桂の部屋に泊まる。
桂「いいわ。どうぞお使いになって。そのかわり、変なとこのぞいたりしちゃイヤよ」
北「大丈夫。僕は人の秘密をのぞいたりするような趣味はないから」
北の言葉に反応する彩子と多美。
彩子「北さんって一体何してる人かしら?」
多美「さあ?」
鶴吉は北をボイラーマンじゃなく客引きだとひらめくが、次のカットはトランプのジョーカーのアップ。北がにやりと笑う。北を見つめる桂。(つづく)
初回はちょっと暗い感じがしたけど、慣れてくると面白くなってきた? 多美が字幕黄色で主役扱いだけど、主要人物の中では今のところ一番セリフが少ないかも。むしろ、桂のほうが主役っぽい。