TBS 1970年8月11日
あらすじ
和枝(尾崎奈々)が帰ってきた。しかし和枝の帰りを直也(大出俊)にどう伝えるか困ったキク(市川寿美礼)は、福松(進藤英太郎)が病気なので谷口家に寄ってほしいと嘘を言う。菊久月を訪れた直也は久々に和枝と会うが……。
2023.12.8 BS松竹東急録画。
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谷口和枝:尾崎奈々…福松の長女。21歳。(字幕黄色)
野口勉:あおい輝彦…直也の弟。大学生。20歳。
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野口直也:大出俊…内科医。28歳。(字幕緑)
井沢正三:小坂一也…「菊久月」の職人。30歳。
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谷口修一:林隆三…福松の長男。25歳。(字幕水色)
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中川トシ子:磯村みどり…修一の幼なじみ。26歳。
石井キク:市川寿美礼…野口家に25年、住み込みの家政婦。
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中川ます:山田桂子…トシ子の母。
トメ子:丘ゆり子…やぶ清の店員。
看護婦:坂田多恵子
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谷口常子:山岡久乃…福松の妻。
菊久月
和枝が接客している。おお~、久しぶり。ドラマの時間軸だと1ヶ月くらい北海道を旅行してたことになるのかな?
キクに電話をしていた常子だが、和枝が茶の間に来て麦茶を飲み始めてしまったため、電話を切った。和枝は麦茶ポットとコップ2つをそのまま店に戻ったので、福松に「お茶くれ」と言われた常子は麦茶を注いで持っていこうとしたが、電話が鳴り、今度は和枝が電話に出た。
作業場
隣で電話を借りると言う常子に和枝が帰ってきて奥さんのほうがソワソワしているしていると言う福松。
正三「奥さんもあれこれ大変だ」
福松「大変なのは亭主のほうですよ」
お赤飯の折詰、7合入り35、あしたの11時までという注文を受けていいかと和枝が来た。福松はあしたということで他の菓子の手順が狂うと断ろうとする。
和枝「じゃ、お断りするの? 床上げのお祝いだっていうのに」
福松「床上げだ? こっちがぶっ倒れちゃう」
和枝「おなじみさんよ。駅向こうの時計屋さん」
福松「時計屋か。ああ、あそこは開店以来だな」
正三「やりますよ。受けといてください」
和枝「じゃ、お願いするわね」
福松「あ~あ、これじゃまた夜なべだ」
正三「個人商店じゃ格好いいことも言ってらんないね、旦那」
福松「修一のヤツ、面当てがましくラーメン屋なんぞやりやがって」
正三「旦那も今のうちに考えといたほうがいいと思いますよ。このまんまじゃ、せっかくの修ちゃんの腕が鈍っちまう」
福松「バカ。菊久月は俺とお前で十分だよ」
正三「俺なんかただの職人だ。当てになりませんよ。ある日、突然、フラッと蒸発しちまうことだってあるしさ」
福松「脅迫すんのか、お前」
正三「和枝さんだってさ、気分しだいじゃ北海道まで行っちまうんだから」
福松「ちゃんと帰ってきましたよ」
正三「まったくね。ケロッと爽やかな顔しちゃってさ」
福松「だから、お前も休みの日ぐらい山でも海でも行ったらいいんだ。小遣いがないわけでもないくせに」
正三「ねえ、旦那。トシちゃんが最近キザな野郎とつきあってんの知ってますか?」
福松「知ってますよ。なんだって知ってんだ」
正三「あ~あ、今夜はこんな気分で赤飯炊くのか。情けねえったら」
福松「バカ。菓子屋がいちいち作る物にこだわって仕事ができるか」
正三「菓子屋だって、ただの男ですよ。いいよ、もう赤飯なんかやめた!」
福松「正三! こら、正三! おい!」
前掛けを外して裏口→路地→表通りに出ようとしたが立ち止まった。
福松「なんだ、子供みたいにすねて。とにかく一服しよう。3時だ。何か食いながらゆっくり話そう。なっ?」
正三「修ちゃんの店でラーメン食ってきます」
福松「どっちが親方か分かりゃしない、まったく」
作業場に戻り、常子を呼ぶが、階段を下りてきた桃子にお母さんはいないと言われた。桃子は男の子にちょっと会うだけと出かけた。
ますは接客、常子は茶の間で電話をかけていた。橋田ドラマだと玄関に電話があることが多いけど、木下恵介アワーは茶の間率が高い。
トシ子は配達に行って不在。常子は、ますにトシ子の見合いについて聞きたいと思っていたが、キクが電話に出たのでキクと話し始める。和枝が昨晩帰ったことを報告。キクが笑いながら電話してると勉が帰宅。「なんだい、キクさん。ゲラゲラしちゃって」
キクが電話を切るまで見ていた勉。「年寄りの長電話はいただけないぞ」
キク「何言ってんですか、3分どころか2分もかかりゃしない」
配達の途中に帰ってきた勉は何か食わせてよと冷蔵庫を覗く。キクは、いちいち帰ってこないで、おなかが減ったら自分で天丼でもカレーでも食べてくださいと言うが、勉は血のにじむような金でもったいなくて使えないと板かまぼこにかじりつく。
直也は宿直明けだが、土曜も日曜もないと不在。
勉が流しで顔を洗い始めた。
キク「あら、やあねえ。洗面所、行ってくださいよ。気持ちが悪いじゃないの。せっかく衛生的にしてんのに」
勉「何言ってんだよ。こっちはね、もともと清潔なんだから」とキクの前掛けで手や顔を拭き始める。
キク「あ~あ、まあ、まあ、ああ…」
勉「ヘヘッ」
木下恵介アワーのあおい輝彦さんの演じる役はわりと母親だったり年上女性との距離感が近いんだよね~。
キクはどうせデパートのアルバイトをするなら、もっと離れた区域を配達してもらいたいもんですねと言うが、勉は土地勘があり、ロスが少なくて能率的だと言う。
大体、毎日お昼だおやつだと食べに来るんだからロスだらけだと言うキク。どさん子が暇でなきゃ、ラーメンでもチャーハンでも食べさせてくれて一番いい。時々、お土産も持たせてくれると、あらかじめゆでていた?そうめんを出す。「あれじゃ、アヤちゃんが修一さんに惚れるわけよ」とそうめんを食べ始めた勉をうちわで仰ぐ。
勉「菊久月にでも押しかけてまんじゅうでもぶんどってくりゃご機嫌なんだろ。まったくまあ、がめついったらありゃしないよ」
キク「できることなら私が嫁に行きたいくらいですよ」
勉「冗談じゃない。キクさん、一生このうちにいてくれよ。うちの宝なんだから」
キク「ヘヘヘッ。おだてたってダメ」とうちわで頭をポンとたたく。
キクは和枝が帰ったことを直也に知らせなくちゃと思い立ち、受話器をあげるが、和枝が帰ってきたことは内緒にしといたほうがいいと思い、「いつでもいいからちょっと顔見せてあげてくださいな。丈夫そうでも、あの旦那、ポックリ逝っちゃうタイプでしょ。奥さん気にしてましたよ」と直也に伝えた。
菊久月
接客を終えた和枝に作業場から顔を出した福松が隣へ行って常子を呼んで来いと言う。「いや、正三は修一の店に行ったっきりだし、こっちは口がカサカサして、もう茶も飲めやしない」
和枝「だって店番が…」と言ってるところにお客様が来て、福松も「いらっしゃい」と営業スマイル。
裏口を出た福松に自転車で帰ってきたトシ子が「お暑うございます」と声をかけた。福松は常子に帰るように言ってほしいと頼んだ。
作業場
福松「隣まで行って電話するバカがありますか。昔ならとうに離縁ですよ」
常子が戻ってきて、慌てて作業に戻る福松。「のんきでいいよ、お前さんは」
常子「おなかがすいたんでしょ? おそばでも取りましょうか」
福松「甘い顔をしたって知りませんよ」
常子「まあ、心配してんのに」
正三が修一の店に行ったと聞いた常子はちょうどよかったと笑顔になった。
福松「ちょうどいいことがありますか。この忙しい最中に。あいつときたらすぐ頭にくるんだから」
常子「あなた、人使いが荒いから」
福松「冗談じゃありませんよ。昔と違って年中、下手に出て機嫌をとってるんだ」
常子「ご苦労さま」
福松「あいつと一日働いてるんだ。こっちのほうが蒸発したいくらいだ」
常子「ほんとにね。近いうちにパーッと一緒にやりましょうか」
福松「夫婦で蒸発するバカがありますか」
常子「お父さんとじゃ駆け落ちってことになんないのかしら」
福松「ああ、お前さんときたら、もう…」
常子「あとでお隣の奥さんが遊びに来ることになってんの」
福松「いい年をして何が遊びに行ったり来たりだ」
常子「だってトシちゃんが帰ってきたんだもの。おちおち話ができないのよ」
福松「うちに来たって、正三がいるじゃないか」
常子「そうなの。だから今ならちょうどいいんだわ」
修一の店に電話をかけた常子は、ビールでも飲ませて正三を引き止めておくように言い、正三が店を出たら連絡するように頼んだ。
福松「バカバカしい。すぐそこの息子に何がさよならだ」
買い物かごを持ったますが裏口に来た。トシ子には八百屋に買い物に行くと言って出てきたと言うので、常子は帰りにうちにある野菜を持っていけばいいとますを家に上げた。ガランとした谷口家にお休みなの?と聞くます。
常子「いいえ。正三さんがすねちゃってね」
ます「お暑うございます」と茶の間の福松に声をかけ、常子のあとについて2階へ。
福松「亭主だってすねてますよ」
どさん子
正三は常子が早く店に帰れと言う催促の電話だと思っていたが、気晴らしにビールでも飲んで来いと言う修一の発言に驚く。
修一「正ちゃんにつむじ曲げられっと弱いからな」
正三「旦那や奥さんに当たってるわけじゃないんだけど、つい時々やりきれなくなっちまうんだな。いっそ車でもぶっ飛ばして海でも見てこようかな」
修一「夜がいいよ、涼しくて」
正三「行く? 修ちゃん」
修一「ああ」
正三「とは言っても、今夜は赤飯の支度で何時までかかるか…」
修一「夏休み取れよ。3日ぐらい病気したと思って、バンと休んじゃうことだ」
正三「表通りに店を構えてて3日も閉めていられますか。第一、もったいないや」
修一「ハハッ。自分の店でもないくせに」
正三「13年もいりゃ情が移るんですよ」
修一「何もしてやれないんだ。情なんか持たないほうが身のためだよ。イヤんなったら、さっさと出ちまうぐらいの気持ちでいなくちゃ」
正三「今日はいやに冷たいね」
修一「割り切ろうと思ってんだよ、俺も。桃子は大学進学の代わりにケーキ屋になるから、この店、くれって言ってんだ。そうなると俺も具体的に身の振り方を考えなくちゃ」
正三「桃ちゃんがケーキ屋? ここで?」
修一「うん、本気ならやってみろって言っといた」
正三「ふ~ん。いいね、親からもらうものをもらえる人は。ラーメン屋も悪くないし、菓子屋もまんざらでもないし、お楽(らく)ですね」
修一がビールを開けた。「1杯、飲む?」
正三「飲みますよ」
正三は三男坊だから、またいろいろ思いはあるのだろうな~。
作業場
和枝が正三を呼びに来たが、福松しかいない。常子はますと2階にいる。
和枝「珍しいわね。お菓子出したかしら?」←昔から子供同士は仲良かったと言う設定だった割に母親同士は初回あたりの感じだとあまり交流なさげに見えた。
福松「いや、菓子も飲むものもゴッソリ運んでったよ。フッ、まったく亭主が汗水流して作った菓子を遠慮もしないでパクパク食っちゃって、何を話してることやら」
和枝「フフッ、お父さんも一休みして聞いてらっしゃいよ」
福松はそんな暇はないと言うが、腹に力がなくて立っちゃいらんないと盛りそばを頼むように言う。和枝は1つだと配達料20円取られるので、盛りそば2つ注文することにした。
福松「そうめんぐらいゆでておけばいいんですよ。もったいない。まあ、あの人ときたら気が利くくせにどっかパカーンと抜けてんだから」
そう! この家、しょっちゅう店屋物頼むの正直もったいない気がしてた。まあ、ドラマ上、トメ子の出番のためでもあるのか。同じようなお店ものが多い橋田ドラマだとまあ、お目に掛かれない光景だからね。その分、めちゃくちゃ忙しいけどね。
2階
常子「抜けてるのは自分でも分かってるんだけど抜けてる人間が1人ぐらいうちの中にいないとみんなが息が詰まっちゃうでしょ。だから、これでいいと思って」
ます「そうよ、奥さん。利口すぎんのも善しあしなんだから。うちだってトシ子がもう少しぼやっとしてれば、私も気楽なんだけども、あの子に先手先手と打たれちゃうでしょ。いくら親子だって自信なくしちゃうわ」
テーブルの上のくず桜を箸で取って、自分の手にのせて食べるます。常子が飲んでるのはオレンジジュースっぽい飲み物。
常子「トシちゃんはよく気がつくから」
縁談は七分どおり決まりそうだと言うます。「トシ子もね、秋には7でしょ。あれこれ考えたとみえてね、気が動き出してね。この分ならね、来年の春には結婚ということになるんじゃないかって」
ええ? トシ子と修一は同級生で昭和45(1970)年に26歳になる人だと思っていたが、トシ子は昭和18(1943)年秋生まれってこと!? 修一は今25歳で早生まれだと言ってたから、元々学年も1つ違って、さらに早生まれで2歳差みたいな?
常子「まあ、正三さんが聞いたらどう思うかしら」
ます「正三さんには気の毒でね。でも、こればっかりは娘の一生のことだから親としても遠慮してはおられんし、勘弁してもらいます」
常子「いや、そんなことは承知してますよ。うちだって息子の一生のことだから、お宅のアヤちゃんお断りしちゃってね」
ます「でも、アヤ子はまだ若いから2~3年は待てるし、修一さんの気も変わることもあるだろうと思って、私も当てにしてますよ」
常子「さあ、それはどういうことになるか…フフッ」
ます「和枝ちゃんが一番スラッとまとまりそうね」
常子「とんでもない。私は直也さんに一目惚れなんだけど、和枝のほうが愛想がなくて。せっかく北海道まで行ったんだから絵葉書の一枚ぐらい出しときゃいいのにねえ」
⚟福松「おい、正三が帰ってくるよ!」
慌てたますは階段を落ち、裏口から出ようとすると、正三と鉢合わせしそうになり、また谷口家に戻った。菊久月からそーっと出てきたますは、腰を押さえながら慌てて中川家へ。それを見ていたトメ子!
買い物かごにほうれん草を入れて帰ってきたますだったが、骨でも折れたんじゃないかねと腰をさすって椅子に掛けた。
トシ子「お母さん、八百屋さんじゃなくて、お菓子屋さんへ行ってたんじゃないの?」
ます「とんでもない。菊久月なんて、お前…」
トシ子「甘いにおいがプンプンしますよ」
客が来て、トシ子は店へ。
ます「だから利口すぎる子供はイヤだって言うた…アイタタ…」
作業場
トメ子「ねえ、旦那。隣の奥さん、慌てて飛び出していったけど何かあったの?」
福松「さあ? 知らんよ」
トメ子「つんのめって出てったわよ。私の感じじゃね。てっきりトシちゃんの縁談だと思うけどね」
福松「うるさい。さっさと帰りなさい」
トメ子「ほらね。頭にくるとこ見ると、やっぱし縁談だ」
正三「うるさい! トシちゃんに縁談があって当たり前だよ。お前じゃあるまいし、雨が降るようにあるんだよ」
トメ子「まさか正ちゃんを振って修ちゃんの所へ来ようってんじゃないでしょうね、旦那」
福松「こら!」詰め寄るトメ子のおでこをたたいた。
正三「旦那、俺の留守にそんな話進めてたんじゃないでしょうね」
福松「バカなこと言いなさい。トシちゃんがどこに嫁に行くか知らんが、今更、修一の嫁にもらえますか。これ以上、ゴタゴタはまっぴらだ」
常子「また何か言ってるの? トメちゃん。困りますよ、配達のたんびにもめ事起こされちゃ」
トメ子「私だってね、修ちゃんのことを考えると眠れない夜だってあんだから、分かってくれたっていいじゃないの」
正三「眠れないのはお互いさまだよ」
常子「そりゃみんなそうなのよ。自分の思いどおりにいく世の中なら苦労はないんだから」
トメ子「片思いって切ないね、奥さん」
常子「うん、ほんとね」
正三「切ないって顔かよ、ベタベタ塗っちゃって」
トメ子「大きなお世話よ。何さ、どら焼き!」
正三「どら焼き? この野郎、おい」トメ子につかみかかる。やべー奴だよ。
体の大きな福松が二人の間に入って肩を組む。「やめなさい、正三! こんなキューピーの相手になるんじゃないよ」
今度は福松がトメ子に突き飛ばされてしまう。
菊久月の閉店
和枝が福松の様子を常子に聞く。「お風呂へ入って薬を塗ったら治まったようよ」
和枝「ほんとにやぶ清からおそば取んのやめたら?」
常子「そうは思うんだけど、つい便利だから、トメちゃんを出前によこさないように話してみるわ」
和枝「旅行してる間は静かでよかったけど、うちに戻るとすぐこれだもの」
常子「それが生活の場っていうもんなんだから」
和枝「でも、うちは少しゴタゴタが多すぎるんじゃない?」
常子「みんなが年頃になったせいよ」外に出て通行人を見る。「土曜日だっていうのに、あの先生、まだ病院にいるのかしら」
和枝「何ブツブツ言ってんの?」
常子「おキクさんものんきだから通じたんだか通じないんだか」
和枝「ねえ、お母さんも夏休みしたら?」
常子「あのお父さんのお相手じゃ、とても夏休みなんか…」
和枝「1人だっていいじゃないの。山の温泉場かなんかでのんびりするのよ」
常子「お前は1人で何考えてたの?」
和枝「いろいろとね。たまにはうちを離れてみるもんね」
常子「直也さんに葉書出さなかったんでしょ?」
和枝「当たり前じゃないの。あんな人に出す義理はないもの」
常子「旅をすると素直に人が恋しくなるって聞いてたけどね」
和枝「お母さん、直也さんにこだわりすぎるのよ。どうってことない、ただの男よ」
常子「私、ただの男が好きなの」
和枝「まあ」
常子「ただの男って一口に言うけど巡り会うのは大変なことなんだから」
奥から福松が常子を呼ぶ。
和枝「お父さんもただの男だった?」
常子「うん。気難しくて甘くて頼りがいのあるね」
和枝「へえ~」
⚟福松「おい、常子さん、奥さん」
常子は奥へ。
和枝「甘いことだけは確かね」
店の片づけをして、店の明かりを消し、作業場に入ると直也が裏口から入ってきて笑顔で頭を下げた。
和枝「いらっしゃい」
直也「君、帰ってたの」
直也は「面白かったの?」と聞いときながら、「勉強になりましたわ」と答えた和枝にちょっと旅行したからってすぐ勉強になるかどうかと嫌み?
直也「お父さんの具合、どう?」とお母さんがポックリ逝くこともあるとか何とか言って心配してんだろ?と聞くが、和枝はたかが打ち身ぐらいで冗談じゃありませんと微妙にかみ合わない。顔見に来たんでしょ?という和枝にもお母さんの顔を見に来たと答えちゃう直也。またケンカっぽいからみになっちゃう。
物干し場に行った和枝。桃子がギターを持って座っていた。桃子は直也がすっごい美人に追いかけ回されてると話すが、和枝は信じない。
桃子「だってさ、姉さん。真実、恋をしたらよ…あしたがあるって、そう思って待ってるだけでいいの?」
和枝「桃ちゃん、そんなこと言ったって、私…」
桃子「しっかりしなさいよ、姉さん。菊久月の店番だけで青春を送っちゃうなんてバカバカしいじゃない」
桃子がギターで弾き語り
♪或る日突然 二人だまるの
あんなにおしゃべり
していたけれど
いつかそんな時が 来ると
私には わかっていたの
トワ・エ・モワ「或る日突然」デビューシングル。1969年5月10日発売。
和枝は自室に行き、時計台の絵葉書を裏返す。
東京都世田谷区玉川町一二〇八
野口直也様
北海道札幌にて
切なそうな和枝の表情でつづく。
野口家は今は二子玉と呼ばれる地域に住んでるのかな? メインの和枝と直也に興味がもてない。