TBS 1970年8月4日
あらすじ
直也(大出俊)と和枝(尾崎奈々)の仲がなかなか進展しないことに苛立つ常子(山岡久乃)は、直也とケンカをして北海道へ行った娘のことが気にかかる。一方の直也は、積極的で派手な葉子(范文雀)にうんざりしていた。
2023.12.7 BS松竹東急録画。
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谷口和枝:尾崎奈々…福松の長女。21歳。(字幕黄色)
野口勉:あおい輝彦…直也の弟。大学生。20歳。
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野口直也:大出俊…内科医。28歳。(字幕緑)
井沢正三:小坂一也…「菊久月」の職人。30歳。
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谷口修一:林隆三…福松の長男。25歳。(字幕水色)
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中川トシ子:磯村みどり…修一の幼なじみ。26歳。
葉子:范文雀…直也の見合い相手。
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野口正弘:野々村潔…直也と勉の父。
石井キク:市川寿美礼…野口家に25年、住み込みの家政婦。
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中川ます:山田桂子…トシ子、アヤ子の母。
松子:矢吹寿子…うなぎ屋のおかみ。
看護婦:坂田多恵子
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谷口常子:山岡久乃…福松の妻。
本日休業の札の下がるどさん子に桃子がやって来た。ショートカットに紺のTシャツ、ジーパンって今の時代でも全然違和感ないな。ミニスカートは色やデザインで時代を感じるけどね。
桃子は暑いと文句を言うが、修一は今から習字に行くのでクーラーもかけていなかった。桃子が壁に埋め込み型?のクーラーのスイッチを入れる。
桃子「熱心だこと。トシちゃんが通ってるからでしょ」
修一「バカ。余計なこと言うな」
桃子は常子に相談する前に修一に話したいことがあった。予備校をやめようと思っている。つまらないので生産的なことをしたい。「ねえ、兄さん。この店、私にくれない?」
10月から製菓学校へ入学しようと思っている。ただし和菓子ではない。本科が1年6カ月。それから研究生としてどこかのお店に住み込みをし、修一を追い出して、ケーキ屋を開業する。追い出された修一は菊久月へ。2~3年先なら福松も気が弱くなって修一を受け入れるだろうという桃子の予想。
修一「まあ、お前が本気で商売する気ならこの店やってもいいさ」
しかし、修一は学校を出て、住み込みで勉強して、開業するまで10年は計算に入れるように言うと、桃子は私なら5年で十分と返した。修一も今、25歳で何歳のときにどさん子をオープンさせたんだろう? 高校卒業してすぐってことはないだろう。
修一は桃子に職人を使って店の経営だけするのか聞くが、桃子はそこまで考えておらず、修一は思いつきぐらいで店はやれない、大学受験がイヤになっただけのことなら菊久月の手伝いでもしてろと言うものの、桃子は予備校の並才コースに通うより生きがいのある人生だと感じ始めていた。
そんならやってみろと応援する姿勢の修一だが、その前に両親に話すように言う。桃子は時機を見て話すが、まず兄さんに賛成してもらいたかったと言う。桃子は修一の商売の邪魔をする気はなく、この仕事が好きならずっとやってていい、2階のマージャン屋さんに出てもらうと言い出す。いや、それはまた別の話でしょ。
中川文房具店
トシ子が接客中。谷口家に向かって歩いていた修一と桃子だったが、修一は半紙を買うと言って、桃子に先に帰した。
修一は店に入るなり「半紙1畳」とトシ子に話しかけた。
トシ子「お休みなのにどこへも行かないの?」
修一「習字だよ」
トシ子「遊びなさいよ。若いんだから」
修一「自分だって、めったに遊ばないじゃないか」
トシ子「相手がいないもの」
修一「今年の夏も泳げんのは、あと半月だな」
トシ子「半ばになると土用波が立つわね」
「土用波」とは、風がないのに海岸に断続的に打ち寄せる、夏の土用の時期によくある大波のことです。その正体は、日本のはるか南の海上で発生・発達する台風がもたらす「うねり」です。
修一「一度、海行こうか」
トシ子「お休みが違うじゃない」
修一「なんなら一緒の日にしてもいいよ。どうせ暇なんだから」
トシ子「日曜日ならいいけど…アヤ子も誘ってやれるから」
修一「そうなると正ちゃんも連れてかなきゃな」
トシ子「やっぱりダメね。変なものになるわ」
修一「習字、行かないのか?」
トシ子「もう少しあとから」
修一「ふ~ん。じゃ、じゃあな」
トシ子「ありがとうございました」
他人行儀な?トシ子に驚いた表情を浮かべ、店を出て行く修一。
ますが奥から出てきて、修一に見合い相手の浅井とおつきあいすることになったと話したか聞かれたトシ子は、修一さんに関係ないと答え、いちいちお隣に報告するなんておかしいと言うが、ますは話が決まってからじゃ正三さんのショックが大きく、だんだんに慣らしておかないと、と言う。
トシ子は決まるわけないと思っているが、ますは浅井が気に入ってる模様。大学も私立では一流、給料は世間並みだが、財産もある。トシ子は奥さんより商売のほうが性に合ってると笑う。
ま、トシ子は自営業者の妻向き、アヤ子はサラリーマンの妻向きって感じかなあ。
ます「親のことが心配でお嫁に行けんなんていうとは、もう古いよ」
トシ子「そんなんじゃないわよ」
トシ子は習字に行くため、2階へ。
ます「何さ。親のことはちっとも心配してくれんとだから。こっちは心配で心配で商売どころじゃないっちゅうとに」夏ミカン?を食べながら続ける。「修ちゃんが好きなら好きではっきり言えばいいとよ。向こうも向こうだわ。好きなことは好きだけど結婚なんて考えてない。これじゃ、にっちもさっちもいかんじゃなかね。ハァ…アヤ子のこともあるし、こっちは気が気じゃないとだから」
⚟常子「お暑うございます」
裏口に常子が皿を持って現れた。「たまりませんね、こうカンカン照っちゃ」
ます「ほんとに一雨欲しいわね」
常子「土用餅作ったんですよ。店にも出したんですけど、暑気払いにお一つ」
夏に食べるあんこ餅という説明もみたけど、このレシピだと羊羹の中に餅が入ってる。
ます「まあまあ、おいしそうだこと。ちょうだいします」
常子「季節のもんですから野口さんにもお届けしようと思ってるんですが」
ます「おキクさん喜ぶわ。甘いもんが好きだから」
1階に降りてきたトシ子が常子にあいさつ。習字に行くとトシ子が言うと、さっき修一も行ったと常子が言う。
ますはトシ子に土用餅を見せ、仏様に上げるように言った。帰ろうとした常子にますはたまには話しに来てくださいと話し足りない様子。いろいろあると意味深?
菊久月
正三「いらっしゃい」
松子「水羊羹、もう売り切れなの?」
正三「ええ。日もちが悪いもんだから、たくさん作らなくってね」
松子「よく売れるのね」
正三「おかげさまで。土用餅なんかいかがですか? こちらなんですけど。土用の間だけしか作らないんですよ」
松子「あらそう、中なあに?」
正三「餅ですよ。暑いときの体力増強には効果があるって言われてますね」
松子「夏にゆで小豆食べるようなもんね」
小豆が水分代謝を促してくれるらしいです。
正三「逆手の暑気払いってとこかな」
松子「じゃ、それにしようか」
正三「はい」
松子「店員さんにも食べさせなきゃいけないから18ね」
正三「ありがとうございます」と商品を箱に詰める。
松子「近頃、和枝さん見えないけど」
正三「北海道へ旅行中なんですよ」
松子「いいわね、娘さんは。私なんかうちに籠もりっきりで海にも行けやしない」
正三「うなぎ屋さんは夏は稼ぎ時だもの」
世間話も交えつつ、流れるような正三の見事な接客!
常子が店に顔を出した。「あら、奥さんいらっしゃい」
松子「水羊羹買いに来て土用餅になっちゃったのよ」
常子「ありがとう存じます」とついでにと今夜かば焼き5串、6時半に届けてくださいなとお願いした。福松、常子、正三、修一、桃子かな?
松子「あら、申し訳ない。買い物に来て商売しちゃった」
常子「まあ、ハハハ…」
福松が正三を作業場から呼び、奥へ。
松子「540円ね?」
常子は500円でいいとし、松子はうなぎのほうでサービスさせると言う。
松子は様子を伺いつつ「正三さん、元気になったじゃない」
常子「ええ、店ではね」
松子「なんでもいいからご機嫌とってうまく働いてもらうことよ。うちなんか人手がなくて苦労してるわ」
常子「どこでもね」
松子「(声を潜めて)お隣のトシちゃん、決まったそうじゃない」
常子は驚くが、松子はてっきりお宅の修ちゃんと一緒になるもんだとばっかり思ってたわと続けた。松子の息子も同級生で集まるとそんな噂をしていた。正三がいるだけに具合が悪かったわねとも言う。
松子役の矢吹寿子さんは文学座の女優さん。見たことある名前だなと思ったら、「おんなは一生懸命」にも出演していた。芸者・志乃の働く旅館の女将。
最終回にも桃の芝居を信乃と一緒に見に来た。「おしん」の206話にも出てたらしい。あらすじからすると魚屋の客だと思われる。
常子は2階にいる桃子にこれから出かけるので店番をするように言う。作業場で正三が作っているのは、すあま。
正三にまだ手が空かないわねと常子が言ったのは店番を頼むためか。
福松「いいから行ってきなさい。おキクさんだって夕方忙しいんだろうから」
常子「今日は届けたらすぐ帰りますよ」
福松「フッ、あの人のすぐは当てにならないんだから」
正三「俺も習字でも習いに行こうかな。職人だって字ぐらいうまくないとね」
福松「そりゃそうだ。絵だって習ったほうがいいんだ。これからどんどん新しい絵柄を考えんと」
正三「旦那の頭は古いと思ってたけど、そんなことまで考えるんですね」
福松「バカ。こんな世の中に生活してるんだ。それぐらいのことは考えてますよ」
正三「考えることは考えるんだけど、踏み切れないんですよね」
福松「なんの話をしてるんだ? お前は」
正三「修ちゃんと旦那の違いですよ」
福松「フン、あいつの言うとおりにしたら、このうちは並の菓子屋になっちまう」
正三「さあ、それはどうだかね」
常子が何度も「お父さん!」と呼び、福松は茶の間へ。常子はトシ子の縁談が決まったので、正三の耳に入らないよう注意してくださいとくぎを刺す。福松はこっちは気が疲れちゃうとウンザリ顔。常子はお互いさまだと言い、直也と和枝のことが気になるので野口家に行くのだと言う。
福松「いや、あの2人はダメですよ。離しておくに限るんだ」
常子「あら、なかなかいないもの。直也さんみたいにすっきりした男は」
福松「フン。うちじゃ娘より先におふくろさんのほうが惚れちまうんだ」
常子「ええ、ええ。ベタ惚れです」
福松「ああ、そうですか」
常子は口紅をつけながら笑う。高等技術!
作業場で正三が歌う。
♪愛のしとねに 身を横たえて
女は花になればいい~ か
男は男は
どんなに激しく想っても
1969年10月5日に発売された森進一の14枚目のシングル。
カントリー歌手の小坂一也さんが演歌を歌う♪ 「おやじ太鼓」の黒田は歌うシーンがなかったのに(なかったよね?)今回のドラマは主題歌も歌うし、劇中でも流行歌を歌うし、大盤振る舞い。
↑何でジャンルが演歌なんだろう? せめて歌謡曲じゃない?
ナースステーション?
看護婦「先生、また届きましたわ」赤いバラの花束を持っている。
直也「うるさいね。病人でもないのに」
看護婦「恋の病じゃないんですか?」
直也「君にやるよ」
看護婦「高いんですよ、バラは」
直也「花ならうちの庭のでたくさんだ」
看護婦「花は男性から女性に贈るもんだと思ってたわ」
直也「それが正常さ」
看護婦「フフッ」
そこに淡いピンクのノースリーブ&パンツスタイルの葉子登場。
直也「君…」
葉子「先生。あたくしのこと、異常だっておっしゃりたいのね」
椅子に掛け「灰皿ちょうだい」。看護婦はあきれ顔をしてテーブルの上の灰皿を葉子の近くに置く。
看護婦役の坂田多恵子さんは「おやじ太鼓」では仲居さん、「兄弟」ではウエイトレス役で出演。
野口家を常子が訪れた。正弘は庭いじりをしている。きれいな花を咲かせてる。
キク「旦那様。菊久月の奥さん、みえましたけど」
正弘「菊久月の? ああ、勉が世話になってる」
キク「手を洗ってくださいよ。お座敷へお通ししますから」
正弘「ああ」
客間
キクが麦茶を出す。
常子「早くご挨拶にと思いながら失礼いたしておりました」
正弘「いいえ。お互いさまですよ。わたくしのほうこそ勉がごやっかいおかけしまして」
常子「もうとんでもない。息子の店では大助かりです。ほんとに素直ないい息子さんで」
キク「外面(そとづら)がいいんですよ、勉さんは」
常子「まあ、おキクさんったら」
正弘「おキクさんに育ててもらったからかな」
キク「あら! イヤだ、痛いこと言われちゃった」
常子「あの…直也さんにしばらくお目にかかりませんけどお元気ですか?」
正弘「はあ、まあ。なんとかやっとります。あっ、そうそう。あいつはまた外面が悪いほうで、お宅のお嬢さんにひどいことを…。あっ、まあどうぞどうそ」
キク「違うんですよ。直也さんはこちらのお嬢さんに蹴飛ばされたんですから」
常子「ほんとに気の強い娘で申し訳ございません」
正弘「なに、蹴るには蹴るだけの理由があったんでしょう。なあ? おキクさん」
キク「ええ…まあ、そうだとは思いますけど。何しろはっきりしてますよね。お宅のお嬢さん、お二人とも」
常子「そうなんです。私に似ちゃって」
正弘「じゃあ、なかなかの器量よしですな」
常子「あら、どうしましょう」
常子と正弘の笑い声にすっかり拗ねたキク。
正弘「キクさん、何か果物でも」
キク「ございません」
正弘「ビワがあったろ?」
キク「あれはもういただきました」
正弘「あの…スイカが冷やしてあったようだが」
キク「勉さんが目の敵にして食べますからね」
正弘「そうか…お暑いところおいでくださいましたのに、なんのお構いもできませんで」
常子「いいえ。お庭からいい風が入ってまいりますわ」
プイッと客間を飛び出すキク。
正弘「どうも…キクさんも人はいいんですが、気がムラで困ります」
常子「今どきあんなさっぱりした人おりませんですわ」
正弘「うちのためには陰日向なく働いてくれますし、ありがたいとは思っているんですが」
台所
冷蔵庫から1/8くらいにカットされた(もっと小さいか?)スイカを取り出し「フンだ、何が器量良しよ。私にはそんなこと一度も言ったこともないくせにさ」とぶつくさ言いながら塩を振りかけスイカにかぶりつくキク。
勉が帰ってきた。「あっ、キクさん、いたの?」
キク「いるに決まってますよ。出たくたっていろいろ都合があって出られないんだから」
勉「うまそうだね。ちょっと…」と手を伸ばすが、払いのけられる。「イテッ、僕のも取っといてよ。やだよ、1人で食べちゃ」
キク「食べますよ。人のことなんか構ってられないんだから」
勉「どうしたのさ、ええ? 金太郎みたいにカッカしちゃって」
キク「さっさと手でも顔でも洗ってらっしゃいよ。ああ、やだやだ。こんな息子の世話をこれから先、何年もするのかと思ったら頭にきた!」
客間にいた常子に挨拶する勉。お菓子を届けに来たという常子。やっぱりお持たせはその場では食べないものなのかな。勉が「まだスイカ食べてんのかな」と言うと、常子は思わず吹き出す。
庭にいた正弘は切ったグラジオラスを勉に包むように言う。
常子「せっかくのお休みの日をお手数おかけして申し訳ございませんわ」
正弘「いえいえ。会社でも近頃はまとめて夏休みをするようになりましたが、若い者(もん)と違って、私などは海にも山にも行くわけじゃなし庭いじりでもするのが一番休養にまりましてな」
最初は修一の店が休みだから木曜日の1970年7月30日かと思ったけど、この年の土用の丑の日は8月1日(土)。正弘は夏休みで連休?
常子「結構ですわ。うちの主人なんか休みの日まで小豆を煮るんですから、ほんとにもう甘い一方で」
正弘「しかし、腕に職のある人は強いな。私などは来年早々定年なんですが、まだ方針が決まらないんですよ」
常子「でも、息子さんがしっかりしていらっしゃるし」
正弘「直也もまだまだ金がかかるだけです。早くいい相手見つけて独立させたいとは思いますが、こればっかりはもう親の出る幕はなくなりましたな」
常子「心当たりのお嬢さんでも?」
正弘「いや、まだいないようですよ」
常子「さようでございますか」ちょっとがっかりした表情。
勉がグラジオラスの花束を常子に渡した。「ああ、ありがとう。近頃はお花もすっかり高くなって。ん~、いい匂いだこと」
勉はラーメン屋が暇そうだからデパートの配達を友達と決めてきたと言う。修一にはあした話しに行く。常子も修一に会うから話をするし、花も持っていくと言った。
どさん子
花を生けながら、勉のことを話す常子。グラジオラスとマーガレットかな。
修一「それより、直さんの親父さんに会えてよかったね」
常子「うん。そりゃもう穏やかで感じのいい人」
修一「和枝のこと、なんか言ってた?」
常子は直也が和枝のことを正弘にあまり話をしてないことに気付いてしまった。
修一「そりゃ、結婚するわけじゃなし、親父さんにいちいち話さないだろ」
常子「でもね、ちょっとガッカリだわ」
修一は、この間の日曜日にフラッと直也が来て、縁談の相手が直接、直也の家に来たと言う話をしていたことを話した。常子は直也の縁談話に驚き、キクが何も教えてくれないと恨み節。直也は相手の女性が積極的で困っていた。
電話が鳴る。修一が出ると、福松からで常子に代わった。
福松「かば焼きが届いてんですよ。いつまで花を生けてるんだ。正三だって腹をすかしてゲッソリしてんのに」
正三「ゲッソリしてんのは旦那でしょ」
福松「うるさい!」
常子「今、修一と行きますよ。桃子に言ってすぐ食べられるように支度させといてくださいな」とお願いして受話器を置いた。「フンだ!」
修一「親父さん、イライラしてんだろ?」
常子「うちじゅうで一番ご飯食べんのよ」
修一「健康なんだな」
常子「私、時々、原始人じゃないかと思っちゃうわ」
修一、笑う。
常子「でもね、あんなに働く人もいないわね。すごくかわいそうになっちゃうときあるんだ。お菓子を作るだけで人生、終わっちゃうんじゃないかと思って」
修一「満足してんだろ。親父さんだって」
常子「そりゃそうかもしれないけど。なんかもっと別の生き方もあるって気がするんだもん」
修一「いいの? そんな鷹揚なこと言ってて。浮気でもされたら泣くんだろ? 母さん」
常子「うん。そんなことでもしたらワーワー泣いてやるわ」
修一「そうだろうな。困ったもんだ」
常子「だって悔しいもん」
野口家
葉子には大迷惑してるので、正弘がはっきり断れないなら、僕が直接先方に言って断ると言う直也。しかし、正弘は重役の姪で断りにくい。
キク「なんだってパッパ断っちまえばいいんですよ、旦那様」
写真を預かってまだ日が浅く、右から左に断るのはあんまり無礼だと思っている正弘。しかし、直也の怒りは収まらず、病院中で評判になってることもあり、あの女にそんな気を遣う必要がないと反論する。
キク「菊久月の和枝さんもけんかっ早くて、すごいと思ったけど、上には上がいるもんですよねえ」
直也「和枝さんなんかあの女に比べたらかわいい天使だ」←!?
キク「あらまあ、じゃじゃ馬から天使ですか」
直也「んっ…いや、まあ、今んところ、そんな気がするだけだけど」
勉「会わないでいるほうがお互い無事らしいね」
正弘「こんな苦労が出てくるとは思わなかったな」
キク「縁談なんかないほうがいいんですよ」
勉「そうそう。キクさんなんてもう平和でいいや。ハハッ」
キク「さっさと召し上がれ」
直也は「ごちそうさま」と席を立った。勉は「兄貴相当参ってるね」とニヤリ。
うちわで仰ぎながら路地をウロウロする福松。
正三「旦那、もう食べられますよ」
福松「奥さんが帰ってこなきゃ食べてもうまくありませんよ」
正三「ああ、そうですか」
常子が帰宅。
正三「奥さんが一緒でないとうなぎも喉を通らないんだそうですよ」
常子「そうなのよ。お父さんったらほんとに困っちゃうわ」と家の中へ。
あとから来た修一は中川家の様子をうかがう。正三はトシ子が変な男と出かけたと報告。「いやにずうずうしい男でさ、頭にきちゃうよね」
修一「トシちゃんなんかどこへでも嫁へ行けばいいって言ってたっけな」
正三「あれじゃ結局ろくな男つかまないよね」
修一「フッ。あのままばばあになっちまうかもしれないぞ」←という願望!?
正三「いい気味だよ」
そこへトシ子帰宅。「こんばんは」
正三「おかえんなさい」
素直になれよ、まったく。
直也の部屋のカレンダーは8月。やっぱりもう8月か。タバコに火をつけ、ライターの炎を見て和枝を思い浮かべてニヤリ。(つづく)
和枝の北海道旅行の間に続々公開される尾崎奈々さん出演映画。
1970年7月1日公開「風の慕情」
1970年7月25日公開「姿三四郎」
正三さん、僻みっぽいけどちゃんと仕事ができるんだなと実感した回。