TBS 1970年7月28日
あらすじ
和枝(尾崎奈々)が旅行で留守にしている間、直也(大出俊)に縁談の話が持ち上がる。直也は偶然その相手に会い、ますます和枝への思いを募らせる。同じ頃修一(林隆三)も、トシ子(磯村みどり)が見合いすると聞き……。
2023.12.6 BS松竹東急録画。
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谷口和枝:尾崎奈々…福松の長女。21歳。(字幕黄色)
野口勉:あおい輝彦…直也の弟。20歳。
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野口直也:大出俊…内科医。28歳。(字幕緑)
井沢正三:小坂一也…「菊久月」の職人。30歳。
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谷口修一:林隆三…福松の長男。25歳。(字幕水色)
中川アヤ子:東山明美…トシ子の妹。20歳。
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中川トシ子:磯村みどり…修一の幼なじみ。26歳。
葉子:范文雀…直也の見合い相手。
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野口正弘:野々村潔…直也と勉の父。
石井キク:市川寿美礼…野口家の住み込みの家政婦。
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中川ます:山田桂子…トシ子、アヤ子の母。
トメ子:丘ゆり子…やぶ清の店員。
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谷口常子:山岡久乃…福松の妻。46歳。
菊久月
商品棚のウインドウを拭く常子。セットなのに目の前の道路を車が走る。今からどさん子にバイトに行く勉が通りかかり、あいさつした。桃子は予備校に行って不在。福松は受験なんてやめろと言っていると常子が言うと、「でも、勉強しといて損はないですよ」と優等生な発言。
常子は時々泳ぎに誘ってやってくださいなと声をかけた。常子は桃子から勉がカナヅチなことは聞いてないのかな!? 常子は直也の様子も聞く。勉は張り切ってますと答え、昼頃、キクが隣に留守番に来ると伝えた。
正三が作業場からお菓子を運んで通りを眺め、「やっぱり日曜は人が出るなあ」と常子に言う。今は夏休みで家族連れが多い。
常子「今度の定休日にみんなで海に行くのもいいわね」
正三「海行ったって独り者(もん)は面白くもないからな」
常子「正三さん、縁なんてどこにあるか分かんないわよ」
正三「こっちは誰でもいいってわけじゃないんだから」作業場へ戻る。
常子「当分、忘れそうもないわ」
アヤ子が菊久月にやって来た。会社にいると涼しくていいんだけど日曜日はつらいと言い、上等で日もちのいいお菓子を12くらい詰めてくださいとお遣い物を注文し、姉さん今日見合いなのと常子に言った。常子は正三に聞こえないよう指を立てて「シッ!」。
アヤ子「正三さん、まだクヨクヨしてるんですか?」
常子がうなずく。
アヤ子「ふ~ん、粘るわね」
作業場
福松はこの間、組合の集まりのときに出た話として、蒲田に1軒、手放してもいい菓子屋があると正三に話した。630万円。間口2間、奥行き4間の小店でうちにあるくらいの道具はそろっている。寝泊まりは2階。
正三「旦那、俺、そんな店買いませんよ。金もないしね」
福松「頭金くらいは、わしがなんとかするよ。あとはわしが保証人になれば銀行から借りられる」
正三「追い出そうってんですか?」
福松「バカ。なんてことを言うんだ。こっちはいろいろ考えて無理をしようと思ってんのに」
正三、黙って作業を続ける。
福松「うちだって今、お前によそに行かれたら困るのは目に見えてる。だが、いずれは独立させてやりたいし、1軒、自分で店を張ってりゃ結婚するにも条件がいい。そんなことを思えばこそ一生懸命に話を聞いてきたんだ」
正三「すいません」
常子が作業場へ。福松は「まったくひがむのもいいかげんにしてくれ」とあきれる。正三はプイッと外へ。
福松「風に吹かれて頭を冷やしゃいいんだ」
常子「そんな気持ちのいい風は吹いてやしませんよ」
福松「あいつときたらトシちゃんのことしか頭にないんだから」
路地で壁にもたれかかりタバコを吸う正三。通りかかった修一が声をかけた。
正三「情けない男だと思うよ、つくづく。女の1人や2人って世間じゃ軽く言うけどさ」
修一「どっか2人でフラッと行こうか」
修一も妙な気持ちだと言い、トシ子が今日見合いすることを話した。「どうも変だよ、俺も」
正三「だから、この前も奥さんに言ったんだよ。トシちゃんは修ちゃんに惚れてるし、修ちゃんだって…」
修一「そりゃ好きだよ、好きだけどさ。それじゃあ、今すぐにも一緒になりたいとか他のヤツには渡せないとかそういうものはないんだな」
修一がもたれかかっている中川文房具店の店先の看板のライオンのマークみたいなのが半分見切れている。ライオン事務器のロゴマークと思われます。
正三「変だよ、それは。惚れてないんだよ」
修一「うん、正ちゃん見てると、どうも俺ぐらいじゃ惚れてないってことになるな」
正三「そうですよ、キザだよ」
修一「フン。だけど、トシちゃんが今日、見合いだって聞くとね、落ち着かないんだな、なんとなく」
正三「フン。余裕があっておめでたいですよ」
修一「怒んなよ。正ちゃんだからこんな話もできんだ。後先かまわず駆け落ちでもなんでもするような、そんな情熱はないんだ」
正三「ハァ…こうなったらいっそどこでもいいからトシちゃんに嫁に行ってもらうよりしょうがないな」
修一「独身を通すかもしれないぞ。あれで強情なんだから」
正三「ほらね。トシちゃんは嫁には行かないって信じ込んでるから情熱がないとか惚れてないんだとか楽しんじゃってんだよ」
修一「そんなバカな」
正三「今に泣いたって知らないよ。話が決まってから、わんわん泣いたって」
修一「ハハッ、トメ子じゃあるまいし」
鼻歌を歌いながらトメ子が表通りを歩いていたが「あら、修ちゃん! ウフフフッ」と近づいてきた。
修一「そばが伸びんぞ」
トメ子「朝のうちはどんぶり集めよ」
正三「さっさと集めてこいよ」
トメ子「私は修ちゃんに用があんの」
正三「ああ、そうですか」
俺は店に用事があんだと逃げ出そうとした修一をトメ子が引き止める。「この間の縁談さ、潰れちゃったってほんと?」
修一「ああ、お前のおかげでな」
トメ子「ああ、よかったわねえ。泣いたかいがあったわ」
正三「おい。今度あんなことしたらやぶ清に責任取らしてやるぞ」
トメ子「働き口はいくらでもありますよ~だ。ねえ、香水おごっちゃった」と修一に体を寄せる。
この場合、分をわきまえずにぜいたくをする、の意味かな。
修一「どうりでイヤなにおいだ」
正三「なんだか空気までベタ~っとしちゃってさ」
トメ子「まあ、うるさいわね。油なんか売ってるとね菊久月だってどさん子だって潰れちゃうわよ」と修一を突き飛ばして行ってしまい、修一と正三は笑う。修一は、そのままどさん子へ。
作業場
正三「ああ、おかしい。まったく笑っちゃうな」
福松「なんですよ。泣いてるかと思ったらゲラゲラして、いや、近頃のお前もまったくどうかしてるよ」
正三「泣いたり笑ったりするから、まだいいんだよ、旦那。泣きも笑いもしなくなったら、もう死んじゃうね」
福松「フッ、修一もいたんだろ?」
正三「修ちゃんもどうかしてるんだ。2人でフラッと旅に出ようかなんて話してきたんだけどね」
福松「バカ。フラッと出かけんのは和枝だけでたくさんですよ」
野口家
直也「キクさん、出かけるんだって?」
キク「ええ、おますさんにちょっと留守番頼まれちゃって」←直也が休みで在宅してるからキクも出かけられるってことなのかな?
直也「ふ~ん」
キク「おそうめん、お昼、召し上がってくださいね」
直也「うん」
キク「夕食はどうしましょうかねえ」
直也「いや、気にしないでいいよ。こっちはなんとかするから」
キク「せっかくの日曜日なのに旦那様に悪くて」
直也「勉もどさん子へ行ったんだろ?」
キク「ええ。あの店も夏場は暇らしいんだけど勉さんもずうずうしいから」
直也「菊久月にも寄る?」
キク「通りがかりにちょっと声だけでもかけとかないと」
直也「そうだね」
キク「和枝さんって娘さん、よっぽど気性が勝ってるんですね。直也さんと口ゲンカしたからって、なにも当てつけがましく飛び出したりしなくたっていいのに」
直也「旅はいいよ」
キク「でもなんとなくやり方にかわいげがないですよ」
直也「菊久月の奥さん、心配してるだろうな」
キク「心配してんのは直也さんみたいね」
直也との会話中、キクはそうめんを茹で、ざるにあげて水で冷やし、ガラスの器に盛り、冷蔵庫へ。
ポットを持って台所を出た直也は自らお茶を入れていた。
正弘「直也。お前に見せようと思って借りてきたんだ」
直也「なんです?」
正弘「うん? 縁談だよ」お見合い写真を直也に渡す。「常務の姪御さんでね。お父さんは品川で病院を開業しているそうだ」
直也「美人ですね」
正弘「うん。洋装も似合うし、大学では乗馬クラブへ入って活躍したそうだからな」
キク「あら、このお嬢さん馬に乗るんですか?」
正弘「うん」
キク「ふ~ん、ほんとのじゃじゃ馬ね」
正弘「そうでもないだろ。お茶もお花も料理もなかなかの腕だそうだからな」
キク「仲人口なんか当てになりゃしない」
正弘「一度、フラッと遊びによこすと言ってたよ」
直也「困りますよ。僕はまだ結婚する気ないんだから」
キク「気のない人の所にはうるさいほどいろんな話が来るし、気のあるほうにはてんで来ないんだわ」と台所へ戻る。
正弘「キクさんのことも頼んではあるんだがな」
キク「いいんですよ、もう。お見合いの留守番頼まれるようじゃおしまいだわ」
正弘「一度、会ってみないか?」
直也「どうせ断りますよ」
正弘「まあ、履歴だけでも読んでごらんよ。先方のお宅がお前に関係のある仕事だし、いいんじゃないかと思ったんだがな」
直也「はい。さて、本でも読んでくるかな」お見合い写真、釣り書き、湯飲みを持って席を立つ。
どさん子
勉「ハァ…クーラーかけててもなんだか暑いねえ」
修一「昼前からこれじゃ日中はこたえるぞ」
勉「ああ、北海道はいいだろうね。涼しくって」
修一「和枝のやつ、1人旅で何を考えているのやらだ」
勉「葉書も来ないの?」
修一「ああ、昨日、旭川から電話があったとか言ってた」
勉「元気なんでしょ?」
修一「うん。向こうで結構モテてるらしいよ」
勉「兄貴に聞かしてやりたいよ」
直也は日曜日だからゴロゴロしている。和枝と約束のあるときに限ってなんか起こる。
アヤ子が来店し、3時にラーメン2つと注文した。おキクさんが留守番に来るので出前をしてほしい。
アヤ子「アハハッ、あのおばさんも食べるだけが楽しみみたいね」
勉「ああ、恋愛するわけにはいかないもんね」
アヤ子「ああなったらもうおしまいよ。うちの姉さんだって今が潮時だって仲人さんは言うのよ」
修一「人のことうるさく言うなって、その仲人に言ってやんな。人間、結婚するだけが人生じゃないんだから」
勉「そうだよ。自由恋愛だってこともあるんだから」
アヤ子「あらそう」
修一「何が潮時だ。そんなこと言われてトシちゃんがどんな気がするか妹のくせに分かんないのか?」
アヤ子「分かりません」
修一「バカ!」
アヤ子「何がバカよ。私があんたを好きだからって気楽にどなんないでよ。潮時は潮時じゃないの」
修一「うるさい」
アヤ子「何よ、姉さんにばっかり味方して。姉さんを好きなら好きってはっきりおっしゃい」
修一「ああ、好きだよ。アヤちゃんの100倍も好きだ」
何も言わずに店を出ていくアヤ子。トシ子のことがなくても性格悪すぎる。自分より年上の女性のことをバカにしすぎだもん。
勉「いいの? あんなこと言っちゃって」
修一「…」
勉「まあ、アヤちゃんも生意気だけどね」
家に帰ったアヤ子は泣いていた。「修ちゃんは姉さんが好きなのよ。私の100倍も好きなのよ」
ます「そんなことなかよ」
アヤ子「はっきり自分でそう言ったわよ」
ます「もののはずみですよ。人間にはそういうこともあるだろ? うっかり言っちゃって、今頃、しまったと思うとるわよ」
アヤ子「思うもんですか。あれが本心なんだから。みんなで私を子供扱いしてバカにしてるわ。姉さんだってそうよ。自分が修ちゃんに好かれてると思っていい気になって、当分、結婚する気はないなんていい気持ちなのよ」
ます「トシ子はそんな意地の悪い気持ちはなかよ。そりゃあの子だって、ずっと修ちゃんと学校が一緒だったんだからお互い嫌いじゃないさ。だけど年も上だし、さっぱりしとるとよ」
アヤ子「ずるいわよ、姉さんは」
ます「どうして?」
アヤ子「結婚する気が全然ないんなら、お見合いなんかすることないじゃないの。バカにしてるわよ。失礼よ」
ます「しょうがない場合だってあるとよ。義理で見合いぐらい断れんときもあるし、会(お)うてみて、すんなり話のまとまる可能性だってあるとだからね」
アヤ子「まとまるもんですか。好きな人は他にちゃんといるんだから」
ます「アヤ子。いつまでもくどったらしく言ってるんじゃないよ。お母さん、もううんざりだ」
アヤ子「私もうんざりよ」と部屋を飛び出した。
店には女性客が訪れ、ますが店に出た。いつの間にか美容院から帰っていたトシ子が冷蔵庫から麦茶を取り出しコップに注いで飲んだ。さっきの会話、聞いてたんだろうな。
トシ子「アヤ子は?」
ます「2階にいるよ。あの子は店番が嫌いだから、もう困っちゃう」
トシ子「勤めてるんだもの。せっかくの日曜日、かわいそうよね」
ます「いつも手伝わせてるわけじゃなし、今日は特別なんだから」
キクが来るのは12時。トシ子はお米を研いでおこうかと言うが、ますはタダで留守番してもらうわけじゃなし、少しぐらいすることがないと夕方まで間がもてないと返す。アヤ子もいるのに留守番を頼んだんだ?
1時に出るからそろそろ支度しないと、と立ち上がったますにトシ子はせっかくお母さんが作ってくれたから着物を着ていくと笑顔を見せる。
ます「そう。ホテルは冷房が効いとるから、夏の和服もそれほどつらくはないと思うけど」
トシ子「そうね。あっと驚くほど美人になってやろうかな。フフッ」
菊久月の店先で水を撒いていた常子の前に膝上スカートで日傘のキクが現れた。
常子「トシちゃん、当分結婚する気はないって言ってたようだけど」
キク「ん~、もう、おますさんのほうが乗り気なんでしょ。後家の頑張りなんて言うけどねえ、あの人は亭主のいるうちから出しゃばってたんだから」
常子「商売してるとねえ」
キク「奥さん、まあ、この暑いのによく着物着てられるわね」
常子「うちの人がうるさく言うもんですからねえ」
キク「私なんかこのとおり」
常子「涼しそうでいいわ」
キク「ええ、ええ、もうパッパしちゃって」とちらっとスカートをたくし上げる。
キクは路地に入り、中川家ではなく菊久月の作業場に入って行く。「お暑うございます」
福松「やあ、どうも暑いね」
キク「お丈夫で結構ですね」
福松は常子が野口家に行ってごちそうになったお礼を言い、キクもこちらこそと返す。「正三さん」とポンと日傘でたたくなよ~。「何よ、つまんない顔して。今日、夕方までお隣にいるから、お昼休みにでも遊びにいらっしゃいよ、ねっ?」と出て行った。
正三「調子いいこと言っちゃって。今更、遊びに行けるかってんですよ」
福松「女は中年になるとずうずうしいんだよ。うちの奥さんくらいのもんだ。まだかわいいとこがあるのは」←すぐのろける~。
正三「ああ、そうですか。まったく内も外もこう暑くちゃたまんないね」
外から戻ってきた常子は「私、洋服に替えるわ。着物なんて、もうイヤだわ」と宣言。
福松「いけませんよ。菓子屋の女房が」
常子「だって今、店の前、おキクさんが通ったのよ。こんな短いスカートはいちゃって」
福松「知ってますよ」
常子「私だって暑さに弱いんだもん」
福松「お前さんは暑いのも寒いのもすぐ音を上げる。困りますよ、店番が」
常子「イヤなものはイヤ! 正三さん、着替える間、店番頼むわね」
正三「はい」
福松「ほんとにあの人はわがままなんだから」
正三「うちの奥さんぐらいなもんですよね。いつまでもかわいくってさ」前掛けを外して店へ。
福松「おキクさんが悪いんですよ。いい年をしてスカートが短すぎるんだ」
この時代に生きてなくてよかったよ。誰もかれも短いスカートばっかり。
直也の部屋
何か読んでいた直也は、またお見合い写真を開く。しかし、思い出すのは和枝のこと。
和枝と直也で夜道を歩いていたのはこの回だったか。その時のことを思い浮かべて、1人微笑む直也。
突然、正弘がノックもしないで部屋に入ってきたので真顔に戻る。正弘は今電話があって、見合い写真のお嬢さんがうちへ来ると言ってきた。急に困ると断るように言う直也だったが、もう向こうを出ていて、先方では本人には特別のこと話しておらず、書類を届けさせるという名目で野口家へ来る。
直也は病院から呼び出しがあったことにして出かけようとしていた。正弘は穏やかな人なのでアワアワしちゃって、直也は全然言うこと聞かないのね。玄関を開けると、黄色いミニスカート、大きなサングラス、黒髪ロングストレートのジュン・サンダースが立っていた(違)。
范文雀さんはこのドラマと同時期にTBS日曜7時半「サインはV」に出演中。当然、リアルタイムで見たことありませんが、80年代や90年代にやっていた懐かしドラマ特集で必ず取り上げられるドラマで何となく知ってました。木下恵介アワーは日常モノを扱っていたせいなのか?こういう昔のドラマ特集で見たことなかったな~。
この記事にある3代目ブルーバード510型かな? ベージュ? ブラウン?の車が走っている。運転席の女性は信号で止まるとタバコを吸い、助手席の直也は女性を見つめる。車は病院前に止まり、お礼を言って車を降りた直也。
葉子「あたくしの写真、お宅にございますのね?」
直也「あなたの写真ですか」
葉子「見合い写真ですわ。私のおじは、よく相手のお宅に書類を届けさせるんですの」
直也「えっ?」
葉子「フフフッ、じゃあ、また」
病院へ入るふりをした直也はそのまま外へ。
作業場
作業場に入ってきた常子は正三がいないことを確認すると、トシ子とますが車で出かけたことを福松に報告。「トシちゃん、着物でしたよ。チラッとだけど涼しそうないい格好で」
福松「それ見なさい。着物をきちんと着てる姿はいいもんだ」
常子「お見合いと店番とでは我慢のしかたが違いますよ」
福松「見合いか? トシちゃんは」
常子「断るとは思うけど、気がもめるわ」
福松「いけませんよ。隣の娘さんの縁談までぶち壊そうなんて」
常子「だってこっちには正三さんと修一がいるんだもの」
福松「あの2人、フラッと旅に行く相談でもしてるんじゃないのか。ラーメンを食いながら」
常子「正三さん、店を持つ話、乗らないの?」
福松「うん? うん、いや、トシちゃんの婚約でも決まったら、きっぱりと諦めがつくだろう」
常子「そんなの待ってるより誰かいい娘さん探さなくちゃ」
福松「女はゴロゴロ余ってるとかなんとか新聞に出ていたが、さっぱりいやしない」
常子「統計どおりにはいきませんよ。人間なんだもの」
福松「うん。いや、正三のヤツもな、惚れるなら、もうちょっと話の持っていきやすい女に惚れりゃいいんだ」
常子「かわいそうよ。そんなこと言っちゃ。あなただって、随分、ずうずうしい男だって、うちの両親が言ってたのよ」←年の差婚らしいしねえ。
福松「なんです、今頃になって。あの頃、分かったらとっちめてやったのに」
常子「あなたの代わりにとっちめておきました」
福松「うん? ハッ…まあおかげさまで」←露骨にデレデレする。
常子は修一にいつまでもラーメンの店をやらせておくのがイヤなので、福松に折れてほしいとお願いする。どこのお菓子屋さんも親子で立派にやっている。
福松「わしたち一代でいいって言ったのはどなたでしたっけ」
常子「あ・た・し」
でも、修一はこの商売が大好き。和枝や桃子にそんな気はなさそう。
福松「わしが折れたとして修一が戻ってくる。そうなるとあいつのことだ。おとなしく仕事場だけに引っ込んじゃいないぞ」
常子「そうでしょうね。だからお父さんには思い切って、うんと折れてほしいのよ」
福松「うんと折れるったって、3つも4つも折れられますか」
常子「私が頼んでるんだもの。バラバラに折れてくれたっていいじゃないの」
福松「ダメですよ、そんな」
常子「意地悪!」魚を大きな口で食べ始める。
どさん子
カウンターでラーメンを食べる正三。修一は奥に引っ込んでボーッとしている。「こんな穴蔵みたいなとこにいるんだ。たまにはイヤにもなるさ」
正三「こっちだってあんな古くさい仕事場に13年だよ。自分でも若いんだか古いんだか分かんなくなっちまうよ」
勉「若くもなし、古くもなしってとこだ」
正三「いっそ旦那みたいになっちまえばいいね。材木みたいにさ」
修一「ハハッ、頑固な古材だよな」
正三「しかし、ああなるまでが大変だよね。自信がないよ、虫食いだよ、こっちは」
勉「よしなよ。こっちまで先が見えるような気がしちゃうよ。やっぱり日曜日は女の子とデートすべきだな」
修一は1日分払うから今からでも行ってきなと言い、勉は「毎度あり」とちゃっかり。
正三「ダメだよ、甘やかしちゃ」
桃子でも別の子でもどうせ女の子と歩いたら、それじゃ足んないんだと言いながら、日給を渡す。勉の時給は150円×8時間で1200円? 俺もそんな思いをしてみたいとぼやく正三に勉は声をかけりゃいい、正三さんならモテると話す。
そこへアヤ子が来て、さっき頼んだラーメンを今すぐお願いしますと言う。修一は出前をやめたと言い、食べに来いよと言っても嫌だと帰って行った。
勉「あれじゃ、トシ子さんのほうが100倍もいいって言うわけだ」
正三「100倍も?」
修一「いや、つい口が滑ったんだよ」
正三「口がね」
ゲッソリした直也が来店。
正三は「まったくやんなっちゃうなあ」とカウンターにお金を置いて出て行った。
勉「ハッ、正三さんのくさり方」←と笑ってるけど、お前のせいでもあるぞ。
直也「彼だけじゃないよ」
修一「和枝じゃないが、どっかへ飛び出したくなるよな」
直也「ハァ…今頃、どこで何してんだろ」
修一「さあ?」
勉「ハッ、会いたくて会いたくて、か」
直也「会うは別れの始めっていうからな」
ため息をつく直也を不思議そうに見つめる修一と勉。(つづく)
和枝は主演だけど、今回も回想のみ。wiki見ると1970年は映画5本くらい出演してるので忙しかったのかな? しかし、和枝と直也のケンカップルより、修一とトシ子のほうが気になるし、福松と常子のやりとりや、ますとキクの会話のほうが面白いかも。
あっちもこっちも見合い、見合い。当時の当たり前? しかし、ほかの木下恵介アワーってあんまり見合いの話自体持ち込まれてないような?