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【ネタバレ】別れて生きる時も 第三章「哀愁の朝」その三

TBS 1978年1月6日

 

あらすじ

昭和十五年、京都電話局の交換手・塩崎美智(松原智恵子)は母に見送られ、元気に職員旅行へ出かけた。美智は必死でかくしていたが、刑務所に入っていた父・利周(垂水悟郎)が家へ帰ったばかりだった。美しい美智は縁談があるたび、父の秘密に心が凍りついた。

愛の花

愛の花

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2024.8.21 BS松竹東急録画。

peachredrum.hateblo.jp

原作:田宮虎彦(角川文庫)

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塩崎美智:松原智恵子…字幕黄色

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石山:速水亮

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塩崎利周(としかね):垂水悟郎

塩崎喜代枝:利根はる恵

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井村さき:津島道子

陽子:種谷アツ子

ナレーター:渡辺富美子

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小野木:伊藤孝雄

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音楽:土田啓四郎

主題歌:島倉千代子

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脚本:中井多津夫

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監督:八木美津雄

 

改めてあらすじを読み返すと…美智って、京都電話局の交換手じゃないよね? これからなのかな。最初に出てきた会社名は京都理化工業、美智は事務員っぽいし。

 

<夫・利周が恩赦によって刑務所から出所し、ホッと胸をなで下ろしたのもつかの間のことであった。利周は一攫千金を夢見る昔のままの利周だった。その利周が満州へ発つという日が迫るにつれ、喜代枝の悩みは尽きなかった>

 

家で繕い物をしている喜代枝。あ、いせと同じで仕立物してるんだっけ。そこに利周が帰ってきた。

 

喜代枝「あんた、ゆうべどこで泊まってきたん? なんぞあったんやないか思うて、心配で朝まで寝られへんかったわ」

利周「神戸の佐々木と一緒やったんや」

喜代枝「ラムネでも買(こ)うてきまひょか?」

利周「水でいいて」

 

台所で水を飲んだ利周が脱いだ上着を受け取る喜代枝。利周は茶の間に寝転がる。「ああ~、ゆうべは飲みすぎやったなあ」

 

すぐ利周の頭に座布団を運んでくる喜代枝。「あんた、心配やさかい、もうよそで泊まることだけはやめてほしいわ」

利周「ハァ~、13日に下関行くことに決めてきた」

喜代枝「13ちゅうたら、もうすぐやないの」

利周「満州へ行くのがちょっと早(はよ)うなったんや。来るんなら早う来い言うとるけえな」

喜代枝「あんた、まさか、一人で行くつもりになってるんと違うやろな?」

利周「行きとうない言うとる者を無理に連れていくことないやろ」

喜代枝「誰も行きとうないとは言うとらんでしょ。ただ、美智のことが…」

 

利周「ああ~」喜代枝に背を向けて目をつぶる。

喜代枝「美智のことさえ心配なかったら、うちは…」

利周「美智を満州へ連れてってどうせえちゅうんや」

喜代枝「そんなこと言うたかて自分の娘やないの。ちょっとはかわいい思うてやってください」

利周「そうじゃけえ、お前もついてこんでええ言うとるんや」

喜代枝「あんた、そんなこと言わんといて。うちら夫婦やないの。7年も待ってたいうのに。なんで邪魔者扱いせんならんの? うちはもう絶対にあんたから離れへんえ。どこまでもついてくさかい。あんた…」寝ている利周に抱きつく。

 

岸壁の母」のいせはいつだって新二ファーストだったし、新二の父もDVだけど新二には優しかったから、利周のいつも不機嫌顔、利周の顔色ばかり窺う喜代枝は、創作としても酷い両親に感じる。いせはのぶ子と暮らしてるときは仕立物教えたり、家事も手伝わせていたけど、喜代枝って美智に何もさせてないっぽいし。

 

会社の昼休み

そろいの紺のコートみたいな服は制服?

 

陽子「ほな、みっちゃん、満州に?」

美智「まだはっきり決まったわけやないけど…」

陽子「ふ~ん、そんな遠い所へ行ってしまうん」

美智「あしたから四国旅行やさかい、旅行中によう考えてみよう思うてるの」

陽子「なんや、ほな、まだ決まったわけやないのね?」

美智「うん」

 

美智の家の前の路地を自転車で来た小野木。隣のおばちゃんに声をかける。「おばちゃん、気張ってはるな」

さき「おおきに。ヘヘヘッ」

 

小野木が塩崎家の前で自転車を止めていると、利周が出てきた。

小野木「あっ…塩崎さん。あの…区役所の小野木です。この前、お世話した鋳物工場のほうは気に入っていただけんかったそうですまんことでした」

無視して歩きだす利周。小野木は玄関の戸を開けた。

 

塩崎の表札の下に石山と小さな表札。どっちの家も隣のさきさんとこの下宿人なのかな?

 

小野木「ごめんください」

茶の間で悩んでいる喜代枝。「へえ。いや、小野木はん。さあ、どうぞ」

 

小野木「仕事の途中ですさかい庭先で」

喜代枝「へえ。さあどうぞ」縁側に座布団を出す。

 

小野木はマッチでタバコに火をつけると、マッチは庭へポイッ! 「その後、満州行きの話、どうやってるやろ思いまして。やっぱり行くことに?」

喜代枝「へえ」

小野木「美智さんは?」

喜代枝「やっぱし美智は…一緒に連れていくよりほかない。そない思うてます」

 

小野木「しかし、美智さんのためを思ったら、それは…つまり、お父さんという人がおられるかぎり、美智さんには犯罪者の娘ちゅう烙印がついて回りますよってな。そやさかい、美智さんを連れていかれることには反対ですな」

喜代枝「そやけど…」

小野木「むしろ、美智さんのためには、お父さん、できるだけ遠い所へ行ってもらったほうがよいのかもしれません。もし塩崎さんがどうしてもご主人のことがご心配やったら一緒についていってあげてもかまへん思うんです」

喜代枝「そんな…美智一人残して…」

小野木「それは私にお任せください。美智さんの先のことは私が責任を持って面倒を見ましょう。ちゃんといい所へお嫁に行けるようお世話もしましょう。ほんま言うと、私にその当てもあるんです」

 

父親と離したほうがいいという小野木の意見には同意するけど、私にお任せくださいは怪しすぎる!

 

喜代枝「小野木はん。ほんま言うたらな、主人は美智を連れていきとうはないんどす。そやさかい、美智はあしたっから会社の慰安旅行に出かけますよって、いっそのことその間に家を出てしもうたほうがええ。そない言うてはるんどす。そやけど、うち、そんなむごいこと、ようでけしまへんのや。ほんま言うたら、うちはもうどないしたらええのんか、分からんようになってしもうて…」

小野木「それは塩崎さん、今はつらいかもしれません。しかし、美智さんの本当の幸せを思ったら…」

手で顔を覆って泣き出す喜代枝。

 

<父について満州へ行くのは絶対にイヤだと母に言ったものの、母の迷いが手に取るように分かる以上、美智は、その迷いが哀れでならなかった。自分も一緒に行けば母は救われる。今はそう思い始めていた>

 

電車の座席に座っていた美智は斜め前の座席に座る石山に頭を下げたが、本に夢中の石山は気付かない。よく見ると寝ていることに気付き、笑みが漏れる美智。おおっ! 美智の笑顔!

 

美智は立ち上がってまだ寝ている石山の肩をたたく。「石山はん、石山はん、もう着きますえ」

石山「ああ」

 

電車の正面のプレート

 

北野白梅町(きたのはくばいちょう)

    間

帷子ノ辻(かたびらのつじ)

 

嵐電北野線なんですね、と全く土地勘ないけど調べてみました。

 

電車から降りた石山と美智。

石山「すいませんでした。ちょっと寝不足してたもんで」

美智「石山はんは、よう勉強しはるって、うちの母が口癖のように言うてます」

石山「ハハハッ、あの…ちょっと寄るとこがありますので失礼します」

 

<やがて、あの石山が忘れられない人になろうとは今の美智には知る由もなかった>

 

今んとこ、美人な美智にも普通の対応をしている唯一の人って感じ。

 

帰ってきた美智を笑顔で出迎えた喜代枝。「あんた、あしたから旅行に出かけるさかい、お母ちゃんな、一生懸命、お弁当の用意してたとこや」

美智「ほんま?」

喜代枝「お菓子や果物かてぎょうさん買うてきてあげたえ」

美智「えっ? お母ちゃんにしては、よう気ぃついたわ。うち、これからなんぞ買いに行こうかと思うてたんよ」←「お母ちゃんにしては」とか「物分かり悪い」とかちょいちょい毒吐くよね。

 

喜代枝「年に一度の旅行やさかい、うんと気張らにゃ思うてな」

美智「フフッ」←もうお菓子をつまんでいる。

喜代枝「それからな、京極のデパート行って旅行カバン買うてきたわ」

美智「ええ~? ステキなカバンやないの。フフッ。まるでブルジョアの令嬢が持って歩くようなカバンやわ。おおきに」

 

喜代枝「あんた、去年の旅行のときは風呂敷に包んでいったやろ? それ思い出したら、なんや、かわいそうになってしもうてな」

美智「お母ちゃん、こんなええカバン持っていったら、みんながひがんでしまうかもしれへんで」

喜代枝「たまにはええやないの。フフッ」

美智「フフッ」

喜代枝「さあ、早う着替えて、お風呂行っといで。その間にお母ちゃん、晩ご飯こしらえとくさかい。お父ちゃんが帰ってきたら、また気難しいさかい。早うご飯食べて。さあ、なっ?」台所へ移動。

 

美智「お母ちゃん」

喜代枝「うん?」

美智「お父ちゃん、まだ帰ってきいひんの?」

喜代枝「お昼前に帰ってきたんやけど、また出かけていかはったわ」

美智「ふ~ん。うちなあ、お母ちゃんに話したいことがあるのや」

喜代枝「えっ?」

 

美智「うち、いろいろ考えたんやけど、やっぱりお父ちゃんと一緒に満州に行くわ」

喜代枝「ほんま?」

うなずく美智。

喜代枝「そやけど、なんで? なんでそない気になったん? あんた、満州へ行くのは絶対にイヤや。そない言うてたんやないの」

美智「そうかて、お母ちゃん、お父ちゃんのことが心配で満州に行きたいんやけど、うちのためによう行かへんのでしょ? それ思うたら、なんや、お母ちゃん、かわいそうなって」

喜代枝「美智…」

 

美智「うちかて、やっぱりいつまでもお母ちゃんのそばにいたいん。そやさかい、妥協して満州に行ってもええっちゅう気持ちになったんよ」

手で顔を覆って泣き出す喜代枝。

美智「お母ちゃん、どないしたん?」

喜代枝「美智…美智、なんにも心配することないで。お母ちゃんな、満州へなんか行かへん」美智を抱きしめる。

美智「お母ちゃん、ほんま?」

喜代枝「お母ちゃんな、これから先、美智とずっと一緒に暮らしていくよって」

 

塩崎家前の路地を子犬が走る。

 

翌朝、食事をしている美智と喜代枝。利周は布団で寝ている。

 

美智「ごっつぉさん」

喜代枝「さあ、出来たえ」

美智「お母ちゃん、こんなにぎょうさんおにぎり作ってどうすんの?」

喜代枝「ぎょうさん持ってくに越したことないんやろ?」

美智「そやけど…あっ、余ったら陽子はんやみんなに食べてもらうわ。お母ちゃんの作ったおにぎりおいしいさかい」

喜代枝「そやさかい、ぎょうさん持っておいき言うてるやないの」

大きくうなずく美智。「うち、ちっさいときから学校の遠足に行くのが楽しかったんえ」

 

井戸のポンプを押す音に気付く美智と喜代枝。

 

喜代枝「ん? 石山はんか?」

 

喜代枝が戸を開けると、共用の流し?で石山が顔を洗っていた。

喜代枝「おはようさん」

石山「ああ、おはようございます」

喜代枝「石山はん、今日は、えろう早うおすなあ」

石山「はあ、いえ。あっ、徹夜したもんですから」

喜代枝「えっ? 徹夜で勉強してはったんどすか?」

石山「ええ、まあ」

喜代枝「ええ…そら、えろうおすなあ」

石山「はあ、それじゃ」

 

喜代枝は石山を呼び止め、家に戻り、皿におにぎりを数個乗せた。

美智「どうするの?」

喜代枝「こないぎょうさんいらん言うさかい、石山はんに食べてもらおう思うて。やっぱり偉(えろ)うなるお人は違うなあ。ゆんべ、徹夜で勉強してはったんやて」

 

利周「うう~、うるさいなあ」

 

土間

喜代枝「美智が旅行に出かけますよって、ぎょうさん作りましたさかい食べておくれやす」

石山「ああ…じゃあ、遠慮なくいただきます」

喜代枝「石山はん、裁判官にならはるんどしたな?」

石山「はあ」

喜代枝「どうぞ、立派な裁判官になっておくれやす」

石山「あっ、はあ、ああ、どうも」

喜代枝「ほな」

 

塩崎家に戻った喜代枝。「あんた、出かけるときにちゃんとお父ちゃんに挨拶していきや。忘れ物(もん)ないな?」

美智「うん」カバンにお菓子などつめている。

喜代枝「さあ」

 

布団に入ったまま、うつぶせでタバコを吸っている利周に近寄り、「お父ちゃん、いってまいります」と手をついて頭を下げた美智。利周は美智の顔をじっと見たが、何も言わず、反対側を向いてタバコを吸う。

 

紺に白の丸襟のワンピース姿で出かけて行った美智。

 

喜代枝「あんた、もう二度と美智には会われへんのやさかい。なんぞ言ってやってえな」

利周「いいよ」

喜代枝「ほな、うち、駅まで送ってくるさかい。ほな、行こうか」

 

ここまで娘に無関心なのはなんで?

 

<美智は、この優しい母が自分一人を残して満州へ渡る決意をしていることをまだ少しも気づいてはいなかった>

 

駅の階段の途中の看板

 

後は固し、國安し、

 

どうやら「兵強し、銃後は固し、國安し」という標語があったらしい。

 

駅のホーム

美智「お母ちゃん、おおきに。もう帰って」

喜代枝「電車が来るまで…」

美智「お母ちゃん、なんぞあったん?」

喜代枝「なんで?」

美智「なんや悲しそうな顔してるもん」

 

喜代枝「悲しいことなんかなんにもあらへんえ。ただな…」

美智「満州行きのことをまだ迷うてんのか?」

喜代枝「あんたはな、なんにも心配せんかてええのや。お母ちゃんな、満州へなんか行かへんさかい。お父ちゃんに満州へ行かんようによう話してみるけえ」

美智「けったいなお母ちゃん。うち、満州へ行ってもええ、言うてあげてんのに」

喜代枝「そやさかい余計…」

美智「うち、ほんまに言ってもええのえ」

喜代枝「美智、その話は帰ってきてから、ゆっくりしよう。なっ?」

美智「うん」

 

喜代枝「あかん子やなあ。なんで髪をすいてきいひんかったん?」自分の頭のべっこうのくし?で美智の髪をとかし始める。

美智「あんまりゴソゴソしたら、お父ちゃん目ぇ覚ます思うて」

喜代枝「あんた、くし持ってきたんやろ?」

美智「うん。カバン中、入ってる思うけど」

喜代枝「忘れてたらいかんさかい、お母ちゃんの持っていき」

美智「うん」カバンに入れる。

 

喜代枝「美智はかわいい子やもん。きっと幸せになるわ」

美智「朝から何言うてんの? なあ、お母ちゃん、お父ちゃんのお土産、どんな物(もん)がええやろか?」

喜代枝「お父ちゃん、どんな物(もん)でも喜ぶ思うえ。美智がええ思うて買うてきたんやったら。美智、病気をしたらあかんえ」

美智「うん。あっ、電車来た」

 

喜代枝「美智、気ぃつけてな。気ぃつけて行っといで」

美智「お母ちゃん、いってきます」

喜代枝「美智、体に気ぃつけてな」

 

後ろに「御室」の看板が見える。

 

室 御

寺心妙 口雄高

 

御室(おむろ)駅が2007年に御室仁和寺駅へ改称。同じ時期に高雄口駅は宇多野駅へ。

 

電車に乗った美智を見送る喜代枝。「美智、気ぃつけて行っといで。美智…美智…」ホームにしゃがみ込んで泣く。

 

<美智はふと喜代枝に異様な気配を感じはしたが、それよりも旅行への期待で胸が膨らんでいた。やがて、旅行から帰ったときに全てを知るはずである。一心同体と思っていた、あの母親が自分一人を置き去りにしたまま、満州へ去ってしまったことを>

 

電車に揺られる美智。(つづく)

 

美智は成人している社会人なんだから、そんなだまし討ちみたいなことしないでちゃんと話せばいいのにね!? 一心同体と思ってたのは美智だけで、お母ちゃんは常にお父ちゃんお父ちゃん。一人で行かせればいいのに!