TBS 1972年2月29日
あらすじ
良子(沢田雅美)は寿美子(山本陽子)に、正司(加藤剛)の父は小川(三島雅夫)だとウソをついた。寿美子は正司に会えると思い、小川の見舞いにまでやって来る。良子は正司に、もう一度小川に声をかけてほしいと頼む。
2024.4.4 BS松竹東急録画。
愛はいつも
美しい花のように
可憐ではありません
何処かの国に
可憐な虫を食べる
美しい花があります
愛もまた
あなたから奪います
それでもなお
愛すしかないのです
及川正司:加藤剛…添乗員。33歳。字幕黄色。
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前田寿美子:山本陽子…鉄板焼屋「新作」の娘。25歳。字幕緑。
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及川勉:小倉一郎…正司の義弟。20歳。
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清:桐原新
矢場:日野道夫…小川と同室だった患者。
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林:高木信夫…鈴木の向かいのベッドの入院患者。
田中:渡辺紀行…小川の隣のベッドの入院患者。
鈴木:豊田広貴…林の隣のベッドの入院患者。
ナレーター:矢島正明
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宮沢泰子:馬渕晴子…正司の元婚約者。
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前田新作:浜村純…寿美子の父。「新作」マスター。
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小川:三島雅夫…1年半入院している病院の主。
病室
ドアが開き、矢場が入ってきた。「いやあ、皆さん。一足お先に退院しますんでね」
林「今日ですか?」
矢場「ええ、もうじき女房が迎えに来るんですよ」
林「そうですか」
矢場「これは残り物(もん)で悪いけど、皆さんであがってもらえないかな」
手に持っているのは「オーケー」と書かれた紙袋。OKストアかな?
林「ええ、頂きますよ」
矢場「ヘヘッ、じゃ、ここに置きますよ」
小川のベッドの隣が矢場、その隣が鈴木だったのが、矢場が個室に移ってからは鈴木が小川の隣のベッドになったのに、今回は矢場のベッドが空きベッドになっていて、紙袋もそこに置いた。
矢場「小川さんは寝てるのかな?」
林「まだ寝てはいないでしょ。ついさっきお茶飲んでたから」
小川はカーテンを引いて、姿が見えないようにしている。
矢場「小川さん、寝てるの?」
ベッドに座り、じっと聞いている小川。
矢場「返事がないとこ見ると寝てるのかな?」
林「矢場さんじゃ、寝ていなくても返事をしたくないんでしょう」
矢場「なるほど。ねえ、小川さん、イヤなヤツは退院しますからね。ヘッ、そのかわり、あんたは2年でも3年でもゆっくり入ってるんだね。それはそうと、ほら、その後、ベニスの息子さんちょいちょい来るの?」
林「いいえ、さっぱり」
矢場「さっぱり来ないの?」
林「ええ、来ませんね」
矢場「そうか。それで小川さん、機嫌が悪(わり)いんだな」
小川「うるさいことをゴチャゴチャ言ってないで早く退院したらどうなんですか!」
矢場「はいはい。おっしゃるように退院しますからね。ベニスから帰った息子さんによろしくね。それにしても冷たい息子だな」
小川「大きなお世話ですよ」
矢場「あっ、やあ、つい気になってね。ヘヘッ」
ノック音がして、寿美子が果物かごを持って登場。患者たちに会釈をすると、患者たちは唖然とする。
寿美子「あの…小川さんはこちらでしょうか?」
矢場「ええ、ここですよ」
寿美子「いらっしゃるんですか?」
矢場「ええ、小川さん、お客様だよ。カーテンを開けなよ」
寿美子「いえ、お休みならいいんです」
矢場「いえいえ、さっきまでね、プリプリどなってましたよ」
勢いよくカーテンを開ける小川。
寿美子「あら、こんにちは。先日はどうも失礼いたしました」
小川「ああ、いえいえ、そんな…」
寿美子「一度、お見舞いに伺おうと思ってたんです。こんな物持ってきましたけど、どうぞご退屈のときに召し上がってください。どこへ置いたらいいかしら?」
小川「いえいえ、頂きます、頂きます。ありがとうございます」
寿美子「何がいいのか分からなくって」
小川「いいえ、もうこんなにたくさん」
矢場「小川さん、ここへ置きなよ、どれ」果物かごに手を伸ばす。
小川「いや、いいんですよ。あんたなんか」手を振り払う。「あんたなんかに触ってもらいたかないんですよ」
矢場「へえ~、人がせっかく親切に…」
小川「おや、あなたの親切なんてどこにあったんですか?」
矢場「へえ、大きなお世話か?」
小川「ええ、ええ、そうですよ」
寿美子「じゃ、下に置きましょうか?」
小川「いや、あの…この台の上、はい。うんうん、オレンジにメロンにバナナ。重かったでしょ?」
寿美子「ええ、ちょっと重かったけど」
矢場「じゃあ、皆さん、お元気でね! 早く良くなって退院してくださいよ」
林「病院来たら、また寄ってくださいよ」
矢場「そうねえ。でも、小川さんにイヤな顔されちゃうからな。でもまあ、おっかなびっくり寄りますから。アハハハ…じゃあ、さよなら。(小川に)バイバイ。(背を向けて手をあげて)バイバイ!」病室を出て行く。
うるっせぇ男だな!
小川「ああいう嫌みな男ですからね。しょっちゅう、この病室へ来て私に絡むんですよ」
寿美子「でも、退院してったんでしょ?」
小川「いや、でもまだ通うんですよ。その度に寄るんですよ、きっと」
堀「小川さん、大丈夫、大丈夫。ああいう人はね、外へ出てしまえばケロッとしてね、こんな陰気臭い病室へなんか寄りゃしないよ」
小川「とにかくお互いに病人ですよね。あっ、そうそう、あの…その腰掛け持ってきて、ここへ掛けてください」
寿美子「ええ、お借りします。あっ、すいません」椅子に腰かける。
小川「ハァ…だけどね、目が覚めるようですね」
寿美子「えっ? 何がですか?」
小川「あなたですよ」
寿美子「まあ、恥ずかしい。どうしましょう」
小川「いえ、本当に」
寿美子「ありがとうございます」
小川「いいえ、ありがたいのはこちらですよ。ようこそわざわざ」
このシーンの小川さんは、「雁の寺」の慈海っぽさがあった。
寿美子「いけませんでしたね。さっきちょっと売店に寄って伺ったんです。あなたがジュースを持っていってあげた方」
小川「ええ、とうとうね」
寿美子「がっかりなさいましたでしょ?」
小川「こういうとこにおりますとね、お互い同士、慰め合う人が欲しいですからね」
寿美子「そうでしょうね」
林「さてと、売店行ってジュースでも飲んでくるかな、田中さん行かない?」
田中「いえ、僕は…」
林「そう、じゃ、何か買ってくるよね」
田中「あっ、いいですよ、そんな。そこに置いてった物もあるし」
林「ああ、そうか。残り物(もん)じゃ、さえないけどね」紙袋を開けてみて「なんだ、ろくな物ないよ。じゃ、ちょっとね」病室を出て行った。
病室のみんなにセリフのあった3話だと林の隣の若い男が田中だったのに、前回から矢場の隣にいた中年くらいの男性が田中になってる。
それにしても、内科の患者だろうにそんなしょっちゅう食べ物買っていいの?
小川「ああですからね、言うことが」
寿美子「病気で長く入院してるとイライラするんでしょ」
小川「ええ、体よりも気持ちのほうが病人ですよ」
寿美子「あっ、それはそうと息子さんもちょいちょいいらっしゃいますか?」
小川「えっ?」
寿美子「ちょっと売店で伺ったんですけど、あれなんですってね。ここしばらくおいなりさんを食べにいらっしゃらないんですってね」
小川「ああ、そう…ああ、そう。おいなりさんですか」
寿美子「とてもお好きなんでしょ?」
小川「そ…そうなんですよ。どうしてあんな物が好きなのか」
寿美子「やっぱりあれじゃないんですか。あの…ベニスへ長く行ってらっしゃると、かえって日本のああいう物が…」
小川「ええ、ええ、そうそうそう。あの…何しろ、ベニスは…イタリアでしょ?」
寿美子「ええ」
小川「イタリアは、あの穴の開いたマカロニ。それから、あれ、なんだっけ…」
寿美子「スパゲティやピッツァですか?」
小川「そうそう、あれあれ、ハハハッ」
寿美子「いろんなおいしい料理がたくさんあるんでしょうね」
小川「ええ、あるんでしょうね」
寿美子「あれですってね? あの方、ベニスへあの…お料理の勉強に行ってらしたとか」
小川「ええ、まあ、そのつもりで…」
寿美子「何年ぐらい行ってらしたんですか?」
小川「そうですね…丸2年かな。え~と、あれはあのときだったから…」
小川さんの後ろのカレンダーは29になってる。今回の放送日は1972年2月29日。
旅行社
正司の会社はいつの場合でも楽しい人との交渉です。とりわけ、新婚旅行のプランを相談されると、ふと自分の心の中のわびしさに突き当たるのです。そして、そのわびしさの中にほんのりと浮かぶ1人の女性。いや、しかし、そうした思いも得られない虹に心を奪われる、あまりにも淡い少年的な夢かもしれないのです。
オフィスで働く正司。最初は電話、何か書いたり、次はタイプライター?を打っている。ワープロじゃないよねえ?
寿美子「ただいま」
良子「喜んだでしょ? とても」
寿美子「ええ。私までうれしくなってしまって」
良子「そりゃよかったわ。あんな立派な果物かごまで頂いたんですもの」
寿美子「お茶だけ1杯頂けます?」
良子「ええ、今、入れてます。おいなりさんもあがるんでしょ?」
寿美子「なんだか胸がいっぱいなの。今は頂けないわ」
良子「じゃ、また今度ですね」
寿美子「いえ、せっかくだから頂いて帰ります」
良子「いいんですよ。そんな無理しなくたって」
寿美子「そうじゃないの。食べたいことは食べたいの。恐れ入りますけど、2人前包んでくださらない?」
良子「あんなおいなりさん、わざわざ持って帰るんですか?」
寿美子「だって秀行さん、お好きなんでしょ? 私だって、ちょっとね、食べてみたいわ」
良子「秀行さんって、あれなんですか?」
寿美子「ええ、あの方、秀行さんっておっしゃるんですって。やっぱり違いますね。じゃ、包んでくださいね」
良子「ええ」
寿美子「それにあれなんですってね。あの方、またベニスへ行ってしまうかもしれないんですって?」
良子「あら、そうですか」
寿美子「ベニスっていいでしょうね。私もそのうち行きたいと思ってるんです。そしたら、向こうでお会いできるかしら? でも、考えてみると変なご縁ですね。このお店で偶然、お会いしたんですもの。それにお父さんとお会いしたのもこのお店ですもの」
良子「それで小川さん、なんて言ってました? 息子さんちょいちょい来るって言ってましたか?」
寿美子「いいえ、それがとっても忙しいんですって。2年ぶりですってね、帰ってらしたのは」
良子「あっ、そうなんですか」
寿美子「秀行も大変だって、お父さん言ってましたわ。30ですってね、あの方。3月3日が来ると1になるですって」
良子「随分いろんなこと聞いてきたんですね」
寿美子「フフッ、おかしいでしょ、私って」
良子「ヘヘッ、やっぱりそりゃ」
寿美子「そうなの。私、おしゃべりでしょ? つい根掘り葉掘り失礼なことまでお聞きしちゃって」
良子は包んだいなり寿司を渡す。「どうぞ」
寿美子は120円と聞き、随分お安いんですねとお金を渡した。「父も好きなんですよ、おいなりさんは」
良子「じゃまたどうぞ。これから売り切れないようにたくさん仕入れときます」
寿美子「そうですね。秀行さんが来てもがっかりしないように。じゃ、私、失礼します。お茶をごちそうさま」
良子「どういたしまして」
寿美子「では、また」売店を出ようとして引き返す。「でも、あれなんですよ。あの方がどこにいらっしゃるか、お父さんもご存じないんですって。大学時代の友達んとこをあっち行ったり、こっち行ったり飛び歩いてるんですって。そりゃ、久しぶりの日本ですもの。でも、早く来てあげればいいですよね。そのうち、私もまた参りますわ。さよなら、お邪魔しました」
ため息をついて椅子に掛けた良子。またしても寿美子の後ろ姿を目撃する勉。「あの女、何しゃべってたの?」
良子「なんだかがっくりきちゃった」
勉「向こうから見てたんだよ。早く帰らないかと思って」
良子「もうマッサージ終わったの?」←今でいうリハビリ?
勉「うん。もうしばらく通ったほうがいいって」
良子「ねえ、今の人、料理屋さんの娘さんでしょ?」
勉「うん、そうだよ。だからちょっとあか抜けしてんだろ」
良子「その人がね、わざわざこんなとこのおいなりさん買ってくんですもの。頭きちゃってるみたいね」
勉「何が頭へきちゃったの?」
良子「お兄さんよ、正司さん。相当好きらしいわよ」
勉「ホントかい? そりゃ」
良子「いや、もっともあの人が好きなのは正司さんじゃなくて秀行さんですけどね」
勉「秀行って誰さ?」
良子「いや、小川さんの息子さんよ。ベニスに料理の勉強へ行っていた」
勉「へえ~だ。じゃ、うちの兄貴とその秀行ってのと、ごっちゃになってんだな、あの女は」
良子は勉に寿美子のうちがどこの料理屋なのか聞いた。勉から赤坂の鉄板焼きの店だと聞き、驚く。良子がはつと会い、昨日、正司に連れて行ってもらったのが「新作」という店だと知った勉は「じゃ、兄貴も惚れてんのかな?」と推理。しかし、店に寿美子はおらず、2人はどういうことかと混乱する。
小川「おやおや、あなたもいましたね。ちょうどよかった、ちょうどよかった。さあ、食べましょうよ、一緒に。メロンですよ、ええ? ほら、いい匂いですねえ。ん~、やっぱりメロンは高いからね。ヘヘヘッ。おい、よっちゃん、ぼんやり掛けてないで一緒に食べましょうよ」
良子「食べちゃうの?」
勉「そりゃ食べようよ」
小川「そうそう。いやあ、今日は私はとびっきりうれしくってね。へへへへ…」
新作のマンション
ダイニングテーブルの上にはおいなりさん。
寿美子「とてもおいしいおいなりさんよ。さあ、食べましょうよ」
新作「お前ね、お父さん、忙しいんですからね」
寿美子「毒よ。あんまり働いちゃ。午後は一服して昼寝するぐらいじゃなきゃダメよ」
新作「そんなのんきなことが言ってられますか」どんな大事件かと思って帰ってきたら、こんないなり寿司を…と少々ご立腹。
寿美子「私はねえ、このおいなりさんがとっても好きな人が好きになっちゃったの」
新作「なんですか、ややこしい。好きな人が好きだって」
寿美子「あの人ですよ、ポーっとした。六本木の空を見たでしょ? 私、もう他の人なんていらないわ」
新作「まるで狐憑きだ」←だからおいなりさん?
こんなおいなりさんのどこがうまいんだと食べ始める新作。
寿美子「その人はイタリア料理がとってもうまいのよ。ベニスに2年も勉強に行ってたんですって。だから、どっか違うの。目が涼しくって、スマートで、すんなりしてるのよ。とってもいい感じ」
新作「あきれてものが言えませんよ」
寿美子「そりゃ多少は、そう思うでしょうけど」
新作「多少じゃありませんよ。なんですか、お前は。お前が言ったんですよ。外国へなんか行ってる男は嫌いだって。それがよくもまあヌケヌケと」
寿美子「でもね、お父さん…」
新作「でもねは、お前の口癖ですよ」
寿美子「だけどですよ…」
新作「だけどは、私の口癖ですよ」
寿美子「そんなこと言ったら取りつく島がないじゃないの」
新作「ありませんよ、もともと。断ったのはお前ですからね。せっかくの写真を見ようともしないで」
寿美子「まだ、あんなこと言ってる」
新作「言いますよ、いくらだって。昨日だってそうだよ。せっかくおばちゃんがその人を連れてきてくれたのに」
寿美子「そんな人とは問題じゃないんですよ」
新作「いいや、問題ですよ。あんな目が涼しくってスマートで」
寿美子「すんなりしてるのはベニスの人ですよ。なんですか、文句言いながら食べてるくせに」
新作「そりゃ食べますよ。目の前にありゃ」
夜道を歩く良子と正司。
良子「ねえ、お兄さん」
正司「うん? なあに?」
良子は一度だけでは小川さんが気の毒だから、もう一度だけとお願いするが、正司は一度だけの約束だったと渋る。いいことするのにどうして一度だけでなきゃいけないの? 小川さんは他に生きてる楽しみがない、それだけを毎日待ってる。良子は病室の入り口で小川がお兄さんに抱きついて泣いているのを見ていた。
良子「誰が見たって、ホントの息子さんみたいだったわ」
正司「それがみんなウソだからね」
良子「ウソかしら?」
正司「どうして? ウソもウソ。大ウソじゃないか」←亀次郎を思い出す口調。
良子「私、ウソだと思えないの」
正司「面白いこと言うね、君は。ウソに決まってんのに」
良子「じゃ、ウソでないことって何かしら?」
正司「さあ、たくさんあるだろう?」
良子「ないわ。ホントのことなんてたくさんないわ。お兄さんがウソでも小川さんのことをお父さんって呼んであげたら、それはホントのことになんのよ。だって、小川さんはホントにそればっかりを待っていたんだし、お兄さんだって、あのときホントに真心から、そう言ってしまったんでしょ?」
正司「とうとうお兄さんになってしまったのか」
良子「そうよ。私、ウソに呼んでる気はしないの。ホントにそんな気がするんだわ」
正司「ありがとう。僕だってそれでいいよ」
良子「じゃ、お願い」
正司「困ること言うよ、君は」頭をなでなで。キャーッ!
好意を持った人間じゃない限りセクハラ行為になりうる危険な行為でもある。
良子「だって…あのね、カナリヤの歌知ってるでしょ? 『歌を忘れたカナリヤ』」
正司「ああ、知ってるよ」
なんつー歌詞だよ! 前に売店に来た小川さんのバックにこの曲流れてたような。
良子「歌を忘れたカナリヤだって優しくしてあげたら歌いだすんでしょう? 小川さんだって、とっても寂しい人だけど、優しくしてあげたら幸せになれるわ」
正司「どっかでコーヒーでも飲もうよ」
良子はベニスの歌が聞こえてくるみたいであのお店がいいと言う。
正司「じゃ、行こう」そっと良子の背中に手を当てる。キャー、何なの今日は。
この夜、良子にとっては何気なく甘い夜でした。しっとりとぬれてくる霧雨のせいもあったのですが、それよりもなお、肩に感じている正司の手を、あながちお兄さんのいたわりとばかりは思いたくない気持ちだったのです。
この前のあのクラシックな雰囲気の喫茶店。これが、この前、待ち合わせで外に立ってたパブ・カーディナルだよね?
そういえば、哀れな少女のような境遇に育った良子には、この夜のような経験は初めてなのです。この前、この店に来たときは、ただ小川さんのために懸命でした。でも、今は胸が熱くなってくるようなほのかな喜びと適当な悲しさが入り交じった気持ちなのです。良子は思いました。まだ自分の知らない恋という感情を垣間見たように。
正司「どうしたの? そんな悲しそうな顔して」
良子「あら、そんな顔してたかしら?」
正司「いい顔だよ。真面目に何かを思い詰めてるみたいで」
良子「たまにはね」笑顔を見せる。
正司「そういう娘さんだよ、君は」
変だわ、娘さんなんて、と笑う良子。
正司「いや、現代はね、そういう感じの女性がいなくなったんだよ」
良子「じゃ、私なんて特別かしら?」
正司「そう、特別」
良子「フフッ、だって病院の売店の娘ですもん。こういうとこへ来たって場違いだし。そういう意味で特別でしょ?」
正司「違うよ。いい人だよ。今どき、人のために苦労したり、心配したりする人はいないよ」
良子「小川さん特別ですもん」
正司「いや、弟のことだってさ。ありがとう、いつも感謝してるんだよ」
良子「どうしてああなのかしらね。ちっとも悪い人じゃないのに」
正司「そう。ちっとも悪い人じゃないんだけどな」
良子「私ね、イライラしてつい余計なこと言いたくなっちゃうの」
正司「いいんだよ、言ってくれたほうが。僕が言うと、かえって変になるよ」
良子「私なんてね、あんた、バカねって言うのよ。そうするとね、勉さんったら、バカは分かってるって言うんですもの」
正司「頼むよね、あんなヤツだけど」
良子「そのかわり、頼むわね。小川さんのほうのことも」
正司「まあ、しかたがないのかな」
良子「だって、息子さんでしょ? それなら、たったいっぺんしかお見舞いに行かないってのは変よ。それじゃ小川さんだって、前よりなおつらくなっちゃうわ」
正司「分かったよ、分かったよ」
良子「あっ、そうだ。そのかわりね、とってもいいことがあんのよ。小川さんとこへもういっぺん行ってあげたら」
正司「なんだろう? とてもいいことって」
良子「それは行ってみれば分かるの。きっと驚くようなことよ」
正司「驚くの? 僕が」
良子「ええ、そう。とってもいいことじゃないのかしら」
正司「なんだろう? 一体」
良子は言いたくないことを言ってしまったのです。その人と正司が初めて会ったとき、正司はきれいな人だねと言ったのです。そのきれいな人と正司が接近していくことは、やはり女として良子の喜べないものがあるのです。では、一体、良子の女心は正司と勉との間でどう揺れ動いているのでしょうか。
正確には売店に初めて来た寿美子を見た良子が「きれいな人よね?」と正司に話しかけ、正司が「うん、ちょっとね」と言ったんだけどね。
ふと、視線をあげた正司の目に女性の姿が映った。2階席から降りてきた泰子と連れの若い男・清「誰? あの人」
泰子「いえ、ちょっと…」
気まずさにタバコに火をつける正司。
良子「あの人、誰?」
正司「いや、ちょっとね」
泰子たちは出て行き、たばこを吸う正司と正司を見つめる良子。(つづく)
良子は小川に見舞客が来るのは嬉しいことなので、寿美子にも言い出せないでいるんだろうねえ。ん~、それにしてもナレーションの矢島さん、加藤剛さん、とっても渋いいい声だな~。
今週の月曜日からBS-TBSで「赤い迷路」という赤いシリーズ第1弾のドラマを再放送していると今さら知る。途中から見れないしな~。「想い出づくり。」のときはTverでも配信してたのにねえ。赤いシリーズは見たことないけど、大映ドラマということで、80年代の大映ドラマは結構見てたから、あのノリかあ~と思って諦めることにします。きっと字幕もないことだろうし。
BS11やBS松竹東急などはある程度先の番組も知ることができるけど、民放各局のBSチャンネルはそこまでホームページに力入れてないっていうか、せいぜい1週間先のことしか分からないから、古いドラマをやってるイメージもなかったし、チェックするのが面倒。でも意外といろいろやってる。うまく知ることはできないかな。
亀次郎&初子の誕生日会(2月5日)。みんなで「おやじ太鼓」を歌う。
5話は神尾が出る~。
こっちもこっちで2周目も楽しい。