徒然好きなもの

ドラマの感想など

【ネタバレ】木下恵介アワー「おやじ太鼓」 #51

TBS  1969年7月8日

 

あらすじ

 

鶴 亀次郎は裸一貫からたたき上げ、一代で築いた建設会社の社長である。ワンマンで頑固一徹な亀次郎は子どもたちに"おやじ太鼓"とあだ名を付けられている。この"おやじ太鼓"、朝は5時に起き、夜は8時になるともう寝てしまうが、起きている間は鳴り通し。そんな亀次郎をさらりとかわす7人の子どもたちに比べて、損な役回りはお手伝いさんたち。ひと言多いばっかりに、毎日カミナリを落とされる。

2023.9.20 BS松竹東急録画。12話からカラー。DVDは第1部の39話まで収録。

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鶴家

亀次郎:進藤英太郎…大亀建設株式会社を一代で立ち上げた。62歳。

妻・愛子:風見章子…良妻賢母。57歳。

*

長男・武男:園井啓介…亀次郎の会社で働いている。31歳。

妻・待子:春川ますみ…正子の紹介で結婚。

*

次男・洋二:西川宏…ピアノや歌が得意。空襲で足を悪くした。29歳。

長女・秋子:香山美子…出版社勤務。27歳。

三男・三郎:津坂匡章(現・秋野太作)…二浪して今は大学4年生。

次女・幸子:高梨木聖…大学4年生。

四男・敬四郎:あおい輝彦…浪人中。

三女・かおる:沢田雅美…高校2年生。

*

お敏:菅井きん…お手伝いさん。愛子の4つ下。53歳。

 

電話が鳴る。

お敏「あっ、もしもし」

女性「あっ、マダムね。すまないけどヨーちゃん呼んでよ。私よ」

お敏「あんたどこへかけてんですか?」

女性「あら、ポンポンじゃないの?」

お敏「ポンポンってなんですか?」

女性「違っちゃったわ」電話を切る。

お敏「なんでしょ、まあ」

 

台所

敬四郎「間違い電話なの?」何か作ってる。コロッケ? ハンバーグ?

お敏「失礼な…あっ、マダムね、ですって」

敬四郎「ハハハハッ、いいじゃないの。そば屋と八百屋のマダムだね」

 

ポンポンとは…スナックで以前よく間違い電話のあった黒猫という店から変わった。ここでいうスナックは「二人の世界」に出てきたスナックとは違って、女性のいる店ってことだよね。

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「黒猫」が出てきたのは結構前だね。録画もない時代、約1年前のこのネタ覚えてる人いたのかな?

 

スナックという響き?にまあ、いやらしいという反応のお敏。おなかの辺がムズムズすると言うと、敬四郎からおなかがムズムズするのは待子義姉さんでお敏さんはタムシかなんか出来てかゆいんじゃないの?とからかわれる。

 

お敏「まあ、汚らしい。お料理を作りながら、よくそんな汚いことが言えますね」

敬四郎「料理は味。出来上がりがうまければいいの」

 

台所に幸子が顔を出し、麦茶を2つちょうだいとお敏さんに頼む。敬四郎からお母さんと何話してるの?と聞かれ、「夏向きじゃないわね。もうどうでもよくなっちゃうわ」と幸子。

 

敬四郎「そうそう、恋愛はそれぐらいでちょうどいいの。洋二兄さんみたいなのはベートーヴェンの第5だね。重いよね。もうちょっと爽やかにいかなきゃ」

交響曲第5番 ハ短調 作品67 《運命》 第1楽章:Allegro con brio

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幸子「爽やかに軽薄にね。あんたを見てるとそんな気がするわ」

敬四郎「まあね、皮相的な見方をすればね」

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お敏「知っちゃいねえなってとこでしょ」

敬四郎「そうそう、お敏さん、時々うまいこと言うね」

お敏「そりゃ亀の甲より年の功ですからね」

敬四郎「ハハハハッ、亀の甲だって」

幸子「バカね、あんたを慰めてんのよ。哀れでかわいそうだから。ねっ、お敏さん」

お敏「はい、どうぞ。だってこのありさまを見てたら慰めたくもなるじゃありませんか」

敬四郎「こら、お敏!」

幸子「ほらね。19にもなったらもうちょっと知的にものを考えなさい」

 

19? 敬四郎って二浪なんだよね。去年、イネとビール飲んだりしてたよね。幸子が大学4年の22歳として、まだ誕生日が来てないだけ??

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かおるが第一部で高校入学して、今は2年生なのははっきりしてるから、幸子とかおるの間くらいの年ってことで。

 

敬四郎「くさるよ、全く。何が知的だ」手で粉の入ったボウルにこねてたものを投げつける。

お敏「まあまあ、短気を起こしちゃいけませんよ。人間だって料理だって仕上げが勝負ですからね」

敬四郎「そうさ。何だ、自分なんかかおるの憧れてた人を横取りしたんじゃないか」

お敏「そうですよ」

敬四郎「知的が聞いてあきれるよ!」

 

広間に麦茶を運んできた幸子はクーラーの電源を入れる。

愛子「少し涼しくなったかしら」

幸子「風がないわね」

愛子「日が長いからいつまでたっても夕方が来ないみたい」

幸子「今夜は天の川が見えるかしら」

愛子「雲が出ないといいけどね」

 

今回は1969年7月7日(月)か。

 

幸子「花屋さんの前を通ったら竹を売ってたわ、七夕の」

愛子「あらそう。やっぱり小さい子供のあるうちではお飾りをするのね」

幸子「むかしはうちでもやってたわね。皆で好きなこと書いて」

愛子「いいもんよね。ああいう季節の行事は。お母さん、ずっと昔、山の中の小学校にいたでしょ。よく子供たちとそういうことしたものよ。そんなことでもしなきゃ、なんにも楽しみがなかったのよ。今ではお正月の門松だって立てないうちのほうが多くなっちゃったんだもの。味気ない世の中になっちゃったもんよね。文化だか文明だか知らないけど」

幸子「そういう風習を残すことが文化よ」

愛子「お母さんだってそう思うわよ。やたら無駄だからってやめちゃったら、何にも残りゃしない。殺風景になるだけじゃないの」

幸子「そうよ、東京みたいにね」

愛子「人生なんて無駄がいいのよ。無駄のちっともない人生なんて、お母さん嫌だわ。幸子なんかどう思うか知らないけど」

 

幸子「ううん、私もそう思うわよ。だけどおかしいわ」

愛子「何がおかしいの?」

幸子「だってお母さんが人生だなんて言うんですもの」

愛子「そりゃ、それぐらいのことは言いますよ。お母さんだって昔はツルゲーネフの『初恋』ぐらいは読んだんですよ」

笑いだす幸子に「まあ、バカにして」と愛子。

 

幸子「だって、そのお母さんの初恋があのお父さんでしょ? こんなヒゲを生やしちゃった」

愛子も笑ってしまう。「ハハハ…バカね。お母さんのころは初恋もヘチマもなかったんですよ。なんとなく頼もしいから一緒になっちゃったんですよ。それに気がいいのよ、お父さんは。純情だったのよ。それは今でも変わらないのよ」

幸子「そうね、純情だから簡単に怒鳴っちゃうのね」

愛子「だからお母さんだって我慢ができるんですよ」

幸子「純情っていいわね」

愛子「そりゃいいですよ」

 

幸子「もうなくなっちゃったわ、今の人には」

愛子「あんたにもなくなっちゃったの?」

幸子「さあ、どうかな」

愛子「心細いわね。せめて人間には純情ぐらいなかったら取り柄はないのよ。あとは欲の塊ですからね」

幸子「そうよね。何が恋愛だか分かんなくなっちゃうわ」

愛子「それごらんなさい。だから言うのよ。西川先生のことだってもっと冷静でなきゃダメよ。あんただけが純情だから考えすぎちゃうのよ」

幸子「私が純情かしら」

愛子「純情ですよ。うちの子供たちはみんなそうなんですよ。そんな変な子供が生まれるわけがありませんよ。特に洋二なんかそうなんですよ。わざわざあんなひどいアパートへ入り込んでしまって純情でなければとてもできませんよ」

幸子「洋二兄さん、すごいわね」

愛子「あんたにはできないでしょ? できなくてもいいのよ。まだ本物じゃないのよ。熱に浮かされちゃってるだけよ。西川先生ってきれいだから」

 

え? 西川先生ってきれいだと私も思ってた!

 

幸子「そんなことじゃないのよ」

愛子「そうなんですよ、多少は。分かってるんですよ、お母さんには。お母さんがお父さんと結婚するときにね、こんなはずじゃなかったんだけどと思ったわ。分かるでしょ? お母さんの気持ち」

幸子、笑顔でうなずく。

愛子「娘のときって、そういうもんよ」

幸子「お父さん、今頃どんな顔してるかしら」

愛子「結構威張った顔してるのよ」

幸子「まさかこんな話をしてるとは知らないもんね」

愛子「あのヒゲを生やすときだって随分、照れてたのよ。どうだ、似合うだろ、似合うだろって、とてもしつこく聞くの」

幸子「お母さん、なんて言ったの?」

愛子「敬四郎じゃないけど…まあね」

幸子「フフフッ、まあ、お母さんったら」

愛子「だってそう言うしかないわよ」

七夕ってロマンチックだと笑う幸子。愛子は元々ロマンチックだと言い、このごろは怒鳴られてばかりで当てが外れたという。愛子と幸子でこんな長いシーン、珍しい。というか幸子がメインになる回があんまりないんだよね。

 

敬四郎がいつまで何話してんの?と広間に入ってきた。「幸子姉さんなんかてんで頭きてんですよ」

幸子「頭にきてんのはあんたでしょ」

敬四郎「恋愛より知的ですよ。自治の精神なんだから」

愛子がここへ掛けなさいという。

敬四郎はそれどころじゃないと前掛けを見せつける。「味は極上、香りはヨーロッパ並み。ねっ、ちょっとぐらいのぞきに来てよ」

愛子「のぞいたら、まずくなるわよ」

敬四郎「ん~! そんなんじゃないですよ」←かわいい。

 

幸子はホテルの調理場に入り込むことなく、うちの台所で覚えてくれた方が便利だという。お母さんもお敏さんも楽が出来る。愛子もお掃除もしてくれるし、大学へ行かれるよりよかったと言う。幸子も愛子も敬四郎を女中扱い。

 

敬四郎「ああ、そう。そうやって2人で僕を侮辱すんの。そう、そんなら分かりましたよ。僕は一生このうちにかじりついててたかってやりますからね。あっ、そう!」と広間を出ていった。

愛子「何ができるか楽しみにしてますよ」

敬四郎「おあいにくさま! お母さんと姉さんの口には合いませんよ。なんだい!」

 

敬四郎が台所に戻るとかおるが帰ってきた。

敬四郎「かおるも幸子姉さんに怒鳴ってやるといいよ。かおるの好きだった人を幸子姉さんが取っちゃったんだろ!」と広間に聞こえるように大声で言う。

 

広間

幸子「まあ、あんなこと言ってるわ」

愛子「だってそうでしょ」

幸子「取ったんじゃないわよ」

 

かおるが広間に入ってきた。敬四郎が怒鳴ってたことに「気にしない、気にしない」とかおる。西川先生なんて過去の人だと言う。現代はヤングパワー。三郎兄さんも幸子姉さんもちっともパワーじゃない…かおるの言うことはよく分からない。

 

とんだ純情だと幸子が言うと、かおるは純情なんて習ったことあったかしらと愛情とか欲情とか恋情とかととぼける。とぼけているのは先生だと言い、幸子姉さんとこはどうなの?と聞く。

 

幸子と西川先生が日曜日に多摩川の土手で会ってたのをみんな知ってるとかおるが言うと幸子は怒って広間を出ていき、愛子は本当なの?と聞き、土手はまずいわねと言う。

かおる「そうよ。もっとイカす場所で会わなきゃ」

学校で評判なのではなく、ただ知ってるだけ。人のことなんか我関せず。かおるはその話から彼がお休みになったら一緒に行こうと言われていると愛子に甘える。

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↑で言ってたヨーロッパ旅行に行くとかそんな話? 

 

愛子は疲れたと話を打ち切る。しかし、かおるの行き先は蓼科でのキャンプだと言う。お金もそんなにかからない。とにかくお父さんに聞いてみないとダメと愛子が言ってるところに買い物かごを持った待子が「お義母様! お義母様!」と駆け込んできた。

 

待子が偶然三郎と会った。裏玄関にいる三郎は「ちょっとこの敷居が高くってね」と照れくさそう。

敬四郎「かまわない、かまわない。踏んづけたってまたいだって」

愛子「踏んづけちゃいけませんよ」

 

大げさに敷居をまたいだ三郎に待子は笑う。

愛子「バカね。そんなふざけていられりゃ大丈夫ですよ」

 

敬四郎「どう? 久しぶりの我が家は」

三郎「やっぱり、いいさ」

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5月18日に貴様も出てけ!と亀次郎に言われて、そのまま飛び出したのならもう1カ月半くらいってことかな。

 

三郎は台所にいるお敏に「しばらく」と声をかけた。2階から降りてきたかおるには「ちょっと見ない間に大人になったじゃないか」と言い、愛子に茶の間に呼ばれる。

 

台所

敬四郎「兄貴、飢(かつ)えてるからなんか缶詰でもないの?」

 

飢えるって言い方初めて聞いたかも。字を見れば意味は分かるけど、これ、字幕なかったら分からなかっただろうなあ。字幕に感謝。

 

やっぱりうちはいいんでしょうかねえと言うお敏に、待子が実家に帰ったことを聞く。

お敏「あんなとこ、いいもんですか。大体うちなんてもんじゃありませんよ。あばら家の掘っ立て小屋で」

待子「だって屋根ぐらいついてるんでしょ?」

お敏「そりゃ屋根ぐらいありますよ。タヌキやキツネが住んでるんじゃないんですもの」

待子「でも、お敏さんがよく言うんじゃないの。うちのおふくろはムジナだって」

お敏「それは言葉のついでですよ」

待子「ついでにしては実感が出てたわ。あたくしどんな顔のお母さんかと思ったもの」

お敏「そりゃまあ、あれだって顔は顔ですよ」

待子「ムジナってどんな顔してるの? あたくし見たことないわ」

お敏「おおよそ私みたいな顔してるんでしょ」

待子「あら、そうなの」

お敏「嫌ですよ、まともに見て」

待子「まあ、お敏さんの顔ったら!」と大笑い。

 

茶の間にも待子の笑い声が聞こえる。

敬四郎「底抜けに明るいね」

愛子「いい人でよかったのよ」

三郎「あの人に行き合ったとき、ホッとしたもの」

かおる「ちょっとしたグラマーだけどさ、愛嬌があるわね」

愛子「なあに、その言い方は」

かおる「だってすごいのよ。ウエストなんてこうよ。プリンッ、こうでしょ」と立ち上がり、待子のクネクネした歩き方をまね、愛子たちが笑う。

 

かおるはさらにあんなにミニスカートが嫌いだったお父さんがなんにも言わない。時々これぐらいのはくわよとスカートの裾をたくし上げる。

敬四郎「そうそう、思わず見ちゃうよね」

愛子「怒られますよ、武男さんに」

三郎「案外、いい気分でいるんじゃないの」

敬四郎「そうそう」

 

三郎と敬四郎の言い分、いかにも男が言いそうなことで気持ち悪い。

 

待子が三郎のために桃の缶詰を持ってきた。クネクネした歩き方やミニスカートを見た敬四郎たちは笑う。待子は何で笑っているのか分からず愛子に聞くが、「なんでもないの」と返される。待子が「お義母様、いいですわね。なんだか知らないけど楽しそうで」と言うと、さらに愛子たちは笑う。

 

お敏も大笑いしている愛子たちの元へ来るが、お敏の顔を見て今度は待子が笑う。このあたり、当時はほほ笑ましいシーンとして描いてるんだろうけど、今はちょっと笑えなくなったな。その人のどうしようもないところで笑うのはダメ。

 

武男の「ただいま」と言う声が聞こえ、みんなお父さんが帰ってきたと玄関へ出る準備をする。三郎が「どうしましょう、僕は」と愛子に聞くと「いいのよ、ここにいれば」と答えた。しかし、帰ってきたのは武男一人。三郎は拍子抜け。

 

武男は三郎の姿に「あれ?」と気付く。

三郎「兄さん、お帰りなさい」

武男「お前、来てたのか」

愛子「今、来たばっかりよ」

 

亀次郎は1人で歩いて帰ると花屋の前で降りた。

 

短冊のついた竹を持った子供たちが「たなばたさま」を歌いながら歩いている。

 

♪ささの葉 さらさら

のきばにゆれる

お星さま きらきら

きんぎん砂子

たなばたさま

たなばたさま

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亀次郎もまた竹を持って歌いながら歩く。

♪ささの葉 さらさら

のきばにゆれる

お星さま きらきら

きんぎん砂子

 

ささの…

 

敬四郎「お父さん、おかえりなさい」と迎えに出たのかな?

亀次郎は「ああ!」と嬉しそうに竹をぶんぶん振った。

 

広間

武男「三郎はいい日に来たんだよ。七夕の竹を買うぐらいだからまさか怒鳴りもしないよ」

三郎「そのまさかが当てにならないからな」

愛子「大丈夫ですよ」

お敏「いいえ。夏の雷はどこに落ちるか分からないんですよ」

三郎「脅かすなよ」

お敏「いいえ、長年の経験ですよ」

武男「それで鍛えられたんだものな」

お敏「そうですよ。おかげで心臓は丈夫になりましたけどね」

 

愛子「お風呂はいいんでしょうね」

お敏「あっ、そうそう。足拭きが外に出ていたっけ」

武男「そうだ、待子。表門開けて待ってたほうがいいよ」

待子「ああ、そうでしたわね」

武男「もう他にはなかったかな」

三郎「何が?」

武男「怒られる材料だよ」

三郎「お母さん、大丈夫でしょうね?」

愛子「当たり前ですよ。自分のうちじゃないの。そんなにビクビクすることがあるもんですか」

 

幸子「だけど、お父さんってやっぱりいけないと思うわ。こんなに家族に気を遣わせるんですもの。横暴よ」

かおる「暴君ネロよね」

無知な私は「暴君ハバネロ」なら聞いたことがあるレベルだった…

武男「じゃあ、かおるはネロの子供か?」

かおる「悲劇だわ」

愛子「何言ってんの。猫の子みたいに甘えて育ったくせに。バチが当たりますよ」

三郎「そうだ、かおるは猫の子だよ」

武男「ネロの子よりはいいだろ?」

かおる「失礼ね」

 

幸子「猫よりライオンよ、お父さんは」

愛子「純情なライオンですよ。七夕の竹を買うんですからね」

 

銅鑼が鳴る。愛子にすがりつく三郎に「いいんですよ。しらばっくれて並んでれば」と愛子が言い、表玄関前に並ぶ。三郎もかおるの隣に立つ。

 

亀次郎が顔を見せる。

一同「おかえりなさい」

亀次郎「こら、武男」

武男「はい!」

亀次郎「何ですか。待子さんを立たせといて」

武男「はっ」

亀次郎「はっ、じゃありませんよ。みんな雁首を並べて、もしおなかの赤ん坊が冷えたらどうするんですか」

武男「は?」

愛子「まだ大丈夫ですよ」

亀次郎「大丈夫じゃありませんよ。以後、気をつけなさい!」

 

大きな咳払いをしながら背広を脱ぎ捨てながら茶の間のほうへ歩く亀次郎。

 

敬四郎「さあさあ、どいてちょうだい、どいてちょうだい」と竹を持って入ってきた。

幸子「どうするのよ。そんなものうちの中に持ち込んじゃって」

敬四郎「テラスへ持ってくんだよ。飾りつけすんじゃないか」

テラスというのは広間の隣で植物の置いてる棚があったりする空間。

 

待子「あなた、すいません」

武男「いいんだよ。お父さんがあれぐらい君をかわいがってくれりゃうれしいじゃないか」

待子「はい。あたくし立派な赤ちゃんを産みますわ」

武男「そうだよ。しっかり頼むよ」とスキさえあればイチャイチャ。

 

三郎「ねえ、ねえ。そんなことはいいけど僕はどうなっちゃったの」

武男「あっ、そうか。変だな」

三郎「変だよね」

 

茶の間

亀次郎「とにかく我が家の初孫ですよ。注意の上にも注意をしたって注意のしすぎってことありませんよ」

愛子「生まれるのは来年の2月ですよ。今からそんなこと言ってたら待子さんだって気疲れしちゃいますよ」

亀次郎「お前たちが気疲れさせてるんじゃないか。他に何人もいるのに、わざわざ待子さんを門の前に立たせちゃって」

愛子「そんなことはお父さんより私のほうが知ってますよ。7人も産んだんですもの」

 

まあ、人によって違うので経験者がいても一概には言えない。

 

亀次郎「威張ることありませんよ。なんだ、武男は表六玉だし、洋二はとんでもない恋愛をするし、秋子は秋子であんな雑誌社へ勤めるから出歩いてばっかりいて」

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武男兄さんは亀次郎には散々なことを言われがちだが、すんなり家業を継いで親の望む人と結婚する人はそうはいないぞ!(「道」「ほんとうに」参照)

 

愛子「その次の三郎もバカの…ですか?」

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愛子さんの言葉が途中から無音になったけど、↑これ?

 

亀次郎「当たり前ですよ。なんだ、あいつときたら。あれ?」

愛子「何があれですか?」

亀次郎「変だぞ」…とようやく三郎が玄関に並んでいたことに気付く。

 

愛子「ちゃんとおかえりなさいって頭を下げてましたよ」

亀次郎「おかえりなさいはこっちが言うことですよ」

愛子「あら、そうなんですか。それならいいんです」

亀次郎「いいことがありますか。あいつ、しらばっくれて…」

愛子「お父さん、およしなさい。しらばっくれていなさいって言ったの私ですよ」

亀次郎「バカ者! どきなさい」

愛子「お父さん、およしなさいったら」

亀次郎「ええい」と愛子を軽く突き飛ばしていこうとするのを止める。

 

愛子「三郎がどんな気持ちで玄関に立っていたか」

亀次郎「ずうずうしいやつだ」

愛子「そうじゃありませんよ。親子ですもの。改まって両手をついたら変じゃありませんか。お父さんだって照れくさくてどんな顔するんですか」

亀次郎「こんな顔ですよ」と変顔。

愛子さんの笑いは思わず素で出てしまったように見える。

 

亀次郎「笑い事じゃありませんよ」

愛子「だってお父さん、こんな内輪のゴタゴタは笑って済まさなきゃダメですよ。なんですか、竹を担いで帰ってきたくせに。そういう格好が一番、お父さんには似合うんですよ」

亀次郎「失礼を言うな。昔は昔。今は今だ。とにかく三郎はどこにいるんです?」

愛子「広間でしょうよ」

亀次郎「ちょっとどきなさい」

愛子「嫌ですよ、怒鳴っちゃ」

 

広間のドア付近で様子をうかがっていたお敏が「来ます、来ましたよ」と知らせると、ソファに座っていた三郎がテラスに逃げ出す。

 

亀次郎が広間に入ってきた。竹の陰に隠れていた三郎に「お父さん、機嫌が直ったのよ。ちょっと頭を下げりゃそれでいいのよ」と愛子が声をかけた。

 

三郎「お父さん、すいません」

愛子「ほらね、もうこれでいいんですよ」

亀次郎「よくても悪くても一応は聞くんですよ」

愛子「何を聞くんですか?」

 

三郎にどうして帰ってきたか聞く亀次郎。しどろもどろになりながらも、今日は七夕で急にお父さんの顔が見たくなってと満点回答。

 

愛子「そうですよ。今夜は星と星だって会うんじゃありませんか。ロマンティックでいかなきゃダメですよ」

亀次郎「いや、そりゃ、まあ…」

愛子「なんのためにこんな竹を買ってきたんですか?」

亀次郎「ついフラフラっと買ったんですよ」

愛子「そうでしょう? やっぱり昔のことを思い出したんですよ。子供たちの小さかったときのことを」

亀次郎「いや、多少はそうさ」

愛子「あのころは優しくていいお父さんでしたよ」

亀次郎「冗談言うな。今だってわしが変わるもんか」

愛子「じゃあ、いいじゃありませんか」

 

亀次郎「いいに決まってますよ。(広間に戻り)さあさあ、今夜はみんなであの竹を飾りなさい」

敬四郎たち「はい」

亀次郎「それぞれ願い事を1つずつ書くんですよ」

敬四郎「はい」

 

愛子と三郎は見つめ合って微笑み合う。

 

竹は飾り付けられ、短冊もつるされた。達筆な「天之川」は見えるんだけど、ギックリ腰ならぬギックリ星みたいなのしか見えなかった~。(つづく)

 

三郎は帰ってきたわけじゃなく顔を出しに来ただけと言ってたけど、どうなのかな?