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ドラマの感想など

【ネタバレ】木下恵介アワー「おやじ太鼓」 #37

TBS  1968年9月24日

 

あらすじ

お彼岸だというのに子どもたちが出かけてしまったので、亀次郎は渋い顔。一方、武男は片桐とのデートを楽しんでいた。しかし、武男は片桐のある発言がきっかけで、結婚にためらいを覚え始める。愛子もうすうす武男の気持ちの変化に気づいていたようで…。

2023.8.31 BS松竹東急録画。12話からカラー。

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鶴家

亀次郎:進藤英太郎…大亀建設株式会社を一代で立ち上げた。2月5日で61歳。

妻・愛子:風見章子…5月で56歳。

長男・武男:園井啓介…亀次郎の会社で働いている。3月3日で30歳。独身。

次男・洋二:西川宏…ピアノや歌が得意。空襲で足を悪くした。28歳。

長女・秋子:香山美子…出版社勤務。26歳。

三男・三郎:津坂匡章(現・秋野太作)…二浪して大学生。

次女・幸子:高梨木聖…女子大生。1月の成人式に出席。

四男・敬四郎:あおい輝彦…浪人中。

三女・かおる:沢田雅美…4月から高校生。

*

正子:小夜福子…亀次郎の兄嫁。高円寺の伯母さん。58歳。

*

お手伝いさん

お敏:菅井きん…愛子の4つ下。6月で52歳。

イネ:岸輝子…お敏の母。結婚3回目。

*

神尾光:竹脇無我…秋子の恋人。TBS局員。24歳。

神尾光の祖母:東山千栄子

*

片桐黄枝子:堀井永子…武男の恋人。

水原トシ:西尾三枝子…幸子の友人であり、洋二の恋人。

西川:山口崇…かおるの高校の英語教師。幸子と…!?

*

赤松:河原崎次郎…三郎の芝居仲間。

陽子:清水良英…赤松の妻。

 

茶の間から読経が聞こえる。愛子は台所にいたイネに茶の間に座っているように頼む。亀次郎は子供たちが誰もいなくて機嫌が悪い。かおると敬四郎は別宅。

 

イネ「じゃあ、私は座ってくるから、おいしい五目寿司を頼むよ」

お敏「大きなお世話ですよ。おいしいかまずいか入れ歯のガチガチに分かるもんかい」

 

♪教えよう

僕の秘密を 教えよう

誰にも ないしょで

 

敬四郎のギターで踊りながら歌うかおる。あおい輝彦さんの「僕の秘密」だね。

 

愛子がノックして部屋に入ってきた。「若い人にお経を聞きなさいったって無理ね。お母さんだってこっちのほうがいいわ」←愛子がしゃべってるのにかおるは歌い続ける。

 

茶の間

法事で呼んだ坊主の読経を聞いているのは亀次郎とイネのみ。イネは大あくびを亀次郎に見られた。亀次郎は席を立ち、台所のお敏に愛子を呼んでくるように言う。お敏は酢飯を混ぜなければならず、躊躇するが、亀次郎が「わしにだってできますよ」と代わる。

 

お敏「左手にうちわを持って、こう、あおいでくださいね。まだごはんがあったかいですから」

亀次郎「分かってますよ。こうやってあおぎゃいいんだろ」←自分を仰いでいる。

お敏「やっぱり旦那様、左うちわが似合いますね」

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お敏が別宅に呼びに来た。かおるは行くのを拒否。必ずお坊さんを呼ぶときは日曜日なんだもんと不満を漏らす。今回は1968年9月22日(日)。家族が揃っているせいか日曜日のエピソードが多いね。

 

台所

♪つぼ殿(どん) つぼ殿(どん)

お彼岸参りに行(ゆ)かめえか

お彼岸参りに行(ゆ)きたけど

カラスという黒鳥が

出ちゃ つつき 出ちゃ つつく

後ろの正面 だあれ

 

こんな歌詞初めて聞いた。亀次郎が左うちわしながらごはんをこねこね。愛子、お敏、かおるが見ていると分かると慌てる。亀次郎と愛子、かおるは茶の間へ。

 

お敏「ああ、驚いた。頭にきちゃったのかと思ったわ。あら! なあにこのお寿司は。ほんとにこねちゃったんじゃないの」

 

茶の間で五目寿司を食べる亀次郎、愛子、かおる。かおるが少し多すぎちゃったと言うと亀次郎は食べてやるからよこしなさいと言う。

 

愛子「不機嫌な顔で食べてんの、あなたじゃありませんか」

亀次郎「当たり前ですよ。せっかくお経を上げてもらってんのに誰もいやしない。それもお前が承知で出すなんて、もうあきれて腹も立たんよ」

愛子「そんならいつまでもブツブツ言わないでくださいよ」

亀次郎「言いたくないから怒った顔で食べてるんですよ」

 

かおるにヒゲにごはん粒がついてると言われると、つけたんですよとごはん粒を取って食べた。子供たちはそれぞれ行くところがあると愛子が言うと、それが気に入らない亀次郎。かおるは「ごちそうさま」と出て行こうとし、愛子が残した分も台所へ持っていこうとするが、よこしなさいと亀次郎が皿を奪い取る。

 

亀次郎「無理は男の意地ですよ。意地がなくてこの世の勝負に勝てるか」

愛子「知りませんよ。あとで苦しくなったって」

亀次郎「ヘッ、片腹痛いこと言うな」

愛子「片腹で済みゃいいですけどね」

亀次郎「そんなへなちょこか。このわしが」

 

広い駐車場のレストラン

武男が運転席から降りる。ここは黄枝子の選んだ店らしい。看板のところがうまーく黄枝子の体で隠れてるのね。2階がレストランなのは分かった。1階はブティック。

 

黄枝子「ねえ、いいもの売ってるでしょ?」

武男「しゃれたものがあるんだな」

黄枝子「見るとみんな欲しくなっちゃうわ」

武男「あのセーターなんか君にぴったりじゃないの」

黄枝子「あっ、あのダスターコートもちょっと小憎らしいわね」

大きな襟?のついたコートということかな。ダスターは雑巾、はたき。

 

武男「とにかく先に食べようよ」

 

レストラン

黄枝子「私って気が小さいくせに貪欲なのかしら。おいしいもの食べるの大好きなの」

 

武男は黄枝子をいつも趣味がいいと褒める。黄枝子はデザイナー。武男はさっきウィンドーで見たセーターが気に入ったならおごると言うが、黄枝子は悪いわよと遠慮しつつ、ちょっと大きすぎる夢だと前置きしながら、あなたと結婚したら一つだけお願いがあると言う。

 

裏玄関

武男が帰宅。愛子は台所で何か作ってる。ロールキャベツっぽく見えるんだよなあ、何か巻いてる。亀次郎は急に思い立って浅草の浅草寺へイネも連れて行った。愛子は五目寿司を食べるように言うが、食べてきたと答える武男。お敏は旦那様が歌いながら作ったのだと♪つぼ殿 つぼ殿 お彼岸参りに…と再現して歌い、「いいわよ、あんたまで歌わなくたって」と愛子にツッコまれる。

 

武男も五目寿司を食べるから茶の間に持ってきてとお敏に頼み、愛子にも話があると手を洗いに行った。愛子はお敏に合図し、お敏は愛子のかっぽう着を脱ぐのを手伝う。この辺の動作がしゃべりながら自然。

 

お敏「何がよくてあんな気の強い人好きになるんでしょうね。私はどうも第一印象がいけませんでしたよ」

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愛子「武男さんは優しい人だって言ってましたよ」

お敏「ホホーだ。あれで優しいなら私なんか浅草の観音様ですわ。お賽銭をどっさり上げてもらいたいようなもんですわ」

愛子「うちの仁王様に食ってかかったんですものね」

お敏「そうですよ。あれで優しいだなんてホホーだ。開いた口が塞がらない。タニシのつぼ焼きですよ。ヘッヘ、カラスの勘三郎がそっぽ向いてカーカーですよ」

 

茶の間

座った武男は即座にタバコを吸い始める。愛子が五目寿司とお茶を運んできた。「お敏さんったら面白い人。カラスがそっぽ向いてカーカーですって」

 

武男は愛子に片桐と食事してきたことを話す。何を食べてきたのか聞かれ、舌平目のバター焼きとミックスサラダと答えた。

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愛子「そりゃおいしそうね。随分取られるんでしょ?」

武男「まあ、大したことありませんよ。今度お母さんも行きますか?」

 

場所は第三京浜の入り口の手前の右へ行く広い道、目黒通りの自由が丘へ曲がるちょっと手前、最近出来て、広い駐車場があると武男が説明した。今もあったりするのかなあ。Googleマップで見たけどよく分からなかった。

 

話がそれたけど、本筋へ。

愛子「おいしいものを食べてるようなら仲がいいんですよ」

武男「そりゃおいしかったですよ。とにかく舌平目ですからね」

愛子「その舌平目がちょっと気になるわね」

武男「どうしてですか?」

愛子「舌鼓を打つとか舌打ちをするとかちょっと調子がよすぎるんじゃないかしら。いいえ、これはお母さんの勘よ。お魚のことを言ってるんじゃないのよ」

武男「それはもちろんですよ」

 

愛子は少し接近しすぎだと思っていて、最初は武男から近づいたものの、最近は黄枝子のほうが積極的だと武男も思っている。愛子は、亀次郎と面と向かってけんかした人なのにどうも腑に落ちない。武男もまた変な気がした。

 

黄枝子は洋裁をやっていて、マンションの1階でレストランと一緒に自分でしゃれた店を持ちたいという夢を武男に聞かせた。マンションは亀次郎が建てる。その半分を貸しマンションにしたら家賃収入で食べるに困らない。

 

愛子「大した舌平目ね。目黒通りならサンマでも食べときゃよかったんですよ」

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武男「そう思いますか。お母さんも」

愛子「思うどころじゃありませんよ。カラスでなくたってそっぽを向きますよ。カーカーですよ」

 

丸の内のオフィス街をデートする洋二とトシ。洋二はスーツ姿。ま、武男もだけど。

トシ「すごいビルね。これが日本人の町かと思うわ」

洋二「僕なんか脚が悪いせいもあるけど、どうしても自分の住んでる町のような気がしないものね。よそよそしいよね」

トシ「脚が悪くなくたって洋二さんは特にそうよ。現代の東京に住んでいて、ウサギやタヌキの絵を描く人ですもの。よくあんな無邪気なイメージが湧くと思うわ。私なんて真っ黒なイメージばっかりよ。それがいろんな色が混じり合ってドロドロした真っ黒よ。絶望的ね。ほとんど希望がないわ」

 

東京育ちの洋二にそんなこと言ってやるなよってちょっと思う。同じ東京者同士ならまだしも、トシは福岡出身だしね。

 

洋二「君はもっと利己的になればいいんだよ。人のことなんかどうだっていいから。もっと自分だけで幸せを願えばいいんだよ」

トシ「洋二さんがそんなこと言うなんておかしいわ。あなたこそそういう人間とは一番遠い人じゃないの。だからあんなきれいな絵本ができるんだわ」

洋二「それしか能がないからね」

トシ「だからすばらしいのよ。一つでも人より優れた才能があるんですもの。今頃、あの絵本がニューヨークで審査されてるんでしょ?」

洋二「さあ、どうかな。国際コンクールは厳しいものね」

トシ「私、祈ってるわ。あんなかわいい絵本がこの東京よりももっとすごい摩天楼の中で賞を争ってるんですものね。それも腕力や体力で勝つんじゃないんですものね。優しい美しい心が勝つんですものね。すばらしいと思うわ。私って、今まで祈るなんてこと知らなかったけど今度だけは本当に祈っちゃうわ」

洋二「ありがとう」

 

武男も洋二も気が強くて自分の意思をしっかり持った(美人な)女性が好きなんだね。まあ、武男のほうはちょっとあやしくなってきたけど…。トシは純粋すぎる人だと思うことにしよう。それがちょっと思想強めな感じがするのかな。

 

浅草・浅草寺

亀次郎とイネは賽銭箱の前で手を合わせる。亀次郎の隣に立つイネは「おかげさまでいいお彼岸をしました。さあさあ、帰りましょうか」と話しかけるが、亀次郎は無視して手を合わせ何か祈り、頭を下げる。

 

イネ「六さん、六さん、六さんのことをお願いします。あん」

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イネが祈るたび、最後に「あん」って言ってるの何?ってつぶやきをいくつか見かけた。手を合わせること、「あん」しなさいみたいなニュアンスで言われたことあったような気がして、私はそんなに違和感なかった。

 

関西ではないし、「まんまんちゃん」は聞いたことないけど、「まんまんちゃん」「あん」=「南無阿弥陀仏」「あな尊し」らしいです。

 

亀次郎と愛子が賽銭箱の正面を陣取ってる隙間からドンドン賽銭が投げ込まれている。

 

大衆食堂

亀次郎はカレー、イネはぜんざいを食べている。

イネ「でもまあ、旦那様ほどご成功なさった方でも、よくまああんなにご丁寧にお願いすることがあるもんですね」

亀次郎「いやいや、わしは元来、神も仏もないほうでね、とにかく父親が明治政府の弾圧で死ぬし、母親はわしと兄貴を抱えて苦労のしづめで死んじゃったからね」

イネ「おやまあ」

亀次郎「神も仏もあったもんじゃないよ。ただただ頑張って頑張って生きてきたんだよ」

イネ「それにしては今日のはバカに長かったじゃありませんか。私はどうかしたんじゃないかと思いましたよ」

亀次郎「ハハハハ…!」豪快な笑い声に周りの人が振り返る。「いや、え~、確かにどうかしてたかもしれん。何しろ洋二の本がアメリカのなんとやらでなんとか賞に選ばれたんだ」←具体的なことが何も分からない!

イネ「ああ、それで」

 

亀次郎「とにかく子供のことは心配で心配で上から順番に拝んでも7人だからね」

イネ「そりゃそりゃご苦労さまです」

亀次郎「それにあれだからね、いちばん上は結婚適齢期でしょうが」

イネ「ああ、確か遅いくらいの30で」

亀次郎「いやいや、男の30はちょうどいいよ。わしと一緒だよ」

イネ「おやまあ」

亀次郎「その次が洋二の絵本のミス世界コンクールだからね」

イネ「はあ」

亀次郎「そのまた次の秋子が、いや、これがまた煮ても焼いても食えないばばあがついてるんだ」

イネ「じゃあ、私よりもうわてですか?」

亀次郎「うわてもうわてもとにかく心臓にヒゲが生えてるみたいなばばあだ」

 

料亭

神尾の祖母「いかがでございます? お気に召しましたか? ここのお料理は」

秋子「ええ。日本料理ってほんとに世界一だと思いますわ。器もきれいですし、味もとってもこまやかですね」

神尾「おばあちゃん、いいとこへ案内してくれましたね」

祖母「そうですか」

秋子「やっぱり日本はいいなって思いますわ」

祖母「そんならよかったんですよ。あたくしなんてそんなにいろいろなとこを存じませんでしょ」

秋子「いいえ、最高ですわ」

 

神尾は秋子に酒を勧めて、神尾が杯についで飲ませた。おばあちゃんも一杯。

祖母「まだ一本目でしょ? 今日は存分にお飲みなさい。おばあちゃんがついであげますよ」

神尾「あとが怖いんじゃないでしょうね」

祖母「怖いもんですか。それどころか今日、あなた方2人にとっては確かとってもいい日だと思うんですよ」

神尾「どうしてですか?」

祖母「ねえ、秋子さん。本人を前にこんなこと言うのもなんですけど、あなたがオーストラリアに行ってらした間、光はもうそれはそれはしょんぼりしてしまって」

神尾「ハハッ」

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そうかい? ルル子がいたじゃないの。喫茶店のウェートレスに笑いかけたり。

 

祖母「何しろ一人っきりの孫でございますし、わたくしはふとこれが幼かったころのことを思い浮かべたんでございます。父親は戦死いたしましたし、母親とは別れなければなりませんでしたし、これは幼いときから、わたくし一人が頼りだったんでございました。ですから、わたくしも今、これのためには是が非でも力になってやりたいと存じます。どうぞもう今日からはわたくしの公認でございます。愛情のありったけで光とつきあってやってくださいまし。お願いいたします」

秋子「はい」

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同じく再放送中の「ほんとうに」で千絵が長男を前夫の母に置いて、次男だけ連れて再婚したけど、神尾は長男の聰と状況が似てるのね。祖母は神尾の母を再婚させたと言っていたから、追い出したようなものなんだろうけど。

 

神尾「おばあちゃまは公認してくださっても、秋子さんのお父さんが…」

祖母「それはおばあちゃんに任しておきなさい。もう一度だけ、あたくしがお会いしに伺います」

神尾「えっ、出かけていくんですか?」

祖母「行きますよ。あんな頑固おやじには、わたくしも頑固ばばあになってぶつかるしかありません」

 

高円寺・清和荘

三郎「だからさ、だからおばちゃんだってさ…」

正子「いいえ、もう私の言うことは言うだけ言ったんですからね」

三郎「まあまあ、おばちゃん、そう言ってしまえば身も蓋もないじゃないの」

正子「だけどですよ…」

赤松「なにも僕たちだって行くとこさえあれば頼みませんよ」

陽子「そうよ。なにもいたくているんじゃないんですもの」

正子「こっちだっていてもらいたくていてもらったわけじゃありません」

赤松「ですけどですよ…」

三郎「まあまあ」

 

赤松「まあまあ、じゃないよ」

陽子「あなたは黙っててください」

正子「黙っててくださいってことはないでしょ。大体がですよ、三郎さんが頼みに来たから、あんた方を置いてあげたんじゃないの」

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陽子「それだって一旦入れば居住権がありますよ。部屋の掃除だって廊下の掃除だってしたんですからね」

三郎「まあまあ」

赤松「いつも電話に出たのは僕ですよ。肉だって魚だって買いに行ってあげたじゃありませんか」

正子「そんなこと当たり前ですよ。お情けで置いてあげたんですからね」

三郎「だからですよ。おばちゃん…」

正子「あんたのおかげで大迷惑ですよ」

 

陽子「何がそんなに迷惑なんですか? 留守番だってしてあげたし、水道料だって新聞代だって立て替えてあげたじゃありませんか」

正子「そんなこと大きなお世話ですよ。とにかく部屋の人が帰ってきたんだから出てってください」

赤松「だからさっきからいってるじゃありませんか」

正子「行くところがなければ三郎さんの部屋へ転がり込めばいいんですよ」

陽子「だから初めからそうしてくれれば問題はなかったんですよ」

三郎「ところがそうはいかないんだったら」

赤松「それを無理にでもいかしてくれるのが友情じゃないか」

陽子「あんた、いつだって友情はあついような顔してたじゃないの」

赤松「だから芝居は下手だけど、いつだって主役をやらせてたじゃないか」

三郎「まあ、そういえばそうかもしれないけど」

 

正子「まあ、なんて厚かましい友情かしら」

陽子「友情なんてもともとそうなんですよ」

正子「そんならそうでそんなに友達に頼ることはありませんよ」

赤松「頼ってるんじゃありませんよ。利用できるものは利用するのが現代じゃありませんか」

三郎「まあまあ、そう言ってしまえば身も蓋もないけどさ」

正子「身だの蓋だの初めからあるんですか? 三郎さんも少しいいかげんですよ」

三郎「まあまあ。おばちゃん、そう興奮しちゃっちゃ話にならないですよ」

 

正子「なるかならないか、おっかない亀さんに聞いてもらいますからね」

三郎「とんでもない!」

赤松「それはダメですよ」

陽子「怒鳴られるだけですよ」

正子「怒鳴られたほうがいいんですよ」

三郎「頼みます、それだけは! とにかく『もしもし亀よ』なんて、そんな優しい亀と亀が違うんですからね」

 

腹立つわー! このカップル!

 

幸子は西川とデート。ロケ地は駒沢オリンピック公園らしいです。

西川・幸子「The long brown path before me leading wherever I choose」

西川「そうそう」

幸子「ダメね、私の発音は」

西川「いや、そうでもない。なかなかいいですよ」

幸子「もう少し英語やっとけばよかったわ」

ホイットマンの「Song of the Open Road」という詩らしいです。

 

西川「僕だって怪しいもんだ。やっと高校生を教えられるぐらいかな」

幸子「秋子姉さんが言ってたけど、オーストラリアのインテリは、とってもアメリカ英語を軽蔑するんですって。特に英国系の人がそうなんですって」

西川「ああ、そうかもしれないな。英国人っていうのは英国風ってことをとても誇りにするからね」

幸子「日本人は日本風ってことを誇りにするかしら」

西川「さあ、何を誇りにすればいいのかな」

幸子「難しいわね。うっかりすると国粋主義者みたいになってしまうし」

西川「うん。確かにすばらしくいいものはあるんだけども、それが近頃はやりの愛国心と結びつくとどうも変なことになっちゃってね。日本人は愛国心というと真っ先に戦争のイメージがきちゃってね」

幸子「あたくし、よく思うんですけど、うちの父みたいな人がほんとの意味での日本人じゃないのかしら。もちろん欠点だらけよ。よく怒鳴るし、がざついし、でも嫌いじゃないわ。しみじみと親の愛情を感じることがあるの。決して粗雑じゃないわ。むしろとってもこまやかな心情があると思うの」

西川「この前お会いしたとき、いきなりヌーっと入ってきて大きなせきばらいをしたでしょ。ちょっとびっくりしたもんね」

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この回の最後の辺りね。

 

幸子「ハハハッ。でもお父さんのほうがてれてすぐ出てってしまったでしょ。『ごゆっくり』とかなんとか言って」

西川「ハハハッ。とてもいい人じゃないのかな」

幸子「つまり不器用なのよ。怒鳴らなくてもいいのに怒鳴ってないと格好がつかないのよ」

西川「分かるな、そういう人。つまりずるい人じゃないんだよね。ずるい人だったらいつもニコニコしてたほうが得だもんね。分かるな。君のお父さんっていう人が」

芝生の上に置いた手と手が触れてしまった二人。

 

幸子「先生も一度、怒鳴られてみるともっとよく分かるわ」

西川「えっ、僕が?」

幸子「どうもそういうことになりそうな気がするの」

西川「どうしてそんな気がするの?」

幸子「だって…」

西川「だって、なんなの?」

幸子「父はね、必ずと言っていいほど息子や娘の結婚話には反対するのよ」

西川「どうして反対するの?」

幸子「それがはっきりした理由がないのよ。つまり愛情過多ね。だから兄の場合も姉の場合も、いつも母が間に立ってカッカしてるんですわ」

 

もうそんな結婚がどうのなんて話してるんだ? かおるもびっくりしてるよ、きっと。

 

茶の間でカッカしている愛子。「武男さんは武男さんで舌平目みたいな人を好きになってしまうし」

武男「その好きがちょっと怪しくなってきたんですよ」

愛子「そんないいかげんなことってありますか」

 

いや、武男のはやめといた方がいいと思う。敬四郎も大学に今年も落ちそうで大学受験をやめようとしている。敬四郎や武男はまだ亀次郎には言わないよう口止めする。

 

亀次郎とイネが帰宅。裏玄関に並ぶ武男たちの顔を見て「さあさあ、お彼岸みたいな顔で突っ立ってないで風呂でも見てきなさい」という亀次郎。

 

やっぱり怒っている亀次郎にため息をつく愛子。(つづく)

 

今日は第1部の最終回が近いせいかもしれないけど人がいっぱい。きょうだいも同じ画面にはいなかったけど、みんなそろった。

 

亀次郎だったり、「本日も晴天なり」の宗俊だったり、ただ大声を出すから嫌!と最初から見ないというつぶやきや、実際見てもなお、あんなおやじ毒親だとかいうのを見ると少し悲しくなる。子煩悩だし、何よりそんなおかしなこと言ってないんだけどね。