公式あらすじ※初見の方、ネタバレ注意
宗俊(津川雅彦)は正大(福田勝洋)の入営を祝うのぼり旗作りに打ち込んでいる。訪ねて来ていた大原正道(鹿賀丈史)に上機嫌でうんちくを並べている。入営まであと2日、ようやく正大が北海道の大学から帰ってきた。元子(原日出子)は、池内千鶴子(石井めぐみ)から預かった手紙を正大に渡す。しかし、渡された手紙をみて正大は一瞬表情を曇らせる。お節介やきの元子は、兄の入営前に二人を会わせるためひと肌脱ぐのだが…
作業場
宗俊「今ぁ、やつの旗ぁ染めてるとこなんだがね、これが本染めの藍だ。正大のやつもね、ガキの時分には、ここで遊んでて一度や二度は、こん中へ転げ込んだこともあったっけが、ハハ。染めってえのはね、大原さん」
正道「はい」
宗俊「いきなり生地こん中へたたき込んだって、これは本物に染まりゃしねえ。生地を煮たまま2日ばっか置いといて水でゆすぐんだ。今度はね、時間がねえんで2日も置いとけなかったんだ。この彦造じいさんがやってるのがゆすぎだ。それを畳み上げて水を切って乾かし伸子(しんし)を張ってからごいれだ。ごはね、大原さん」
正道「はい」
宗俊「豆の汁だ。こいつを生地にしいてやらねえと染めにムラが出るんだ。彦さん、ごはどうした?」
彦造「知れたことよ。念には及びませんぜ」
宗俊「ハハハ、そう来なくてよ。ごはね、大原さん」
正道「はい」
宗俊「加減が物を言うんだ。そりゃもう、うるせえ橘家でも6代目でも所作もんに使う手拭いはだな、これは色がさえてるからって吉宗意外にあつらえたことがねえんだ。いや、歌舞伎だけじゃねえよ。粋筋のねえさん方にしたって、これは目が高えやな。浴衣に手拭いは店のもんでなきゃ、夜が明けねえって騒ぎだ、ハハハハ…」
トシ江「ねえねえ、それくらいにしないと大原さんだって、お忙しいお体なんだしね」
宗俊「おう、そうだった。あっしはてっきり南方の方にでも飛ばされちまってんのかと思ったら、千葉の部隊だって?」
正道「はい」
宗俊「あ~、そりゃよかった。正大は佐倉へ入(へえ)るんだが、またあんたの部隊でも行ったら、ひとつ中学ん時と同様、よろしくお願いしますですよ」
正道「はい」
トシ江「ねえ、大原さんにお茶が入ってるんだって」
宗俊「よし、次はな茶ぁ飲みながら教えることにして、型ぁ置いてのり置きだ。こののりはね、もち米でなきゃいけねえ。もち米ね…おい!」
トシ江「え?」
宗俊「取っときのもち米あったよな」
トシ江「ええ」
宗俊「よし、構わねえから、それで赤の飯炊いて送りに来た連中に振る舞うんだ」
トシ江「何言ってんですよ。あれは業務用に配給になったのを少しずつ取っておいて、よんどころない染めの時に使うんだって、お前さんが防空ごうの中に入れた…」
宗俊「うるせえ! 俺の正大が兵隊に行くんだ。これほどよんどころねえ出来事が二つとあってたまるか! いいから出征の朝には町内に赤飯(あかめし)配って歩くんだ!」
正道「あの、まことに申し訳なくありますが…」
宗俊「へ?」
正道「約束した時間がありますので自分はこれより帰ります」
宗俊「へいへい」
正道「4日の日には見送りに是非伺うつもりですが、武運長久を祈ります」
宗俊「へい」
怒涛のお仕事紹介! 「澪つくし」でも醤油づくりのほかに、大漁旗づくりの見学に行ったり、ヌタを作ったり…社会科見学みたいなこういうシーン、結構好きだ。昔の朝ドラは地元の産業を紹介してたよねえ。
とはいうものの、宗俊が首を長くして待っていた正大は、その日もその次の日も帰らず。
作業場
元子「お母さんが一息入れませんかって」
作業に夢中になっている宗俊。元子は再び声をかけるのをためらう。手元だけが映った時は職人さんの手かな?と思ったけど、そのままカメラは全体を写すと津川雅彦さんがやっていた。旗がぐらぐら揺れる中、色塗りするのが大変そう。
元子「弱っちゃったな…」
そうです。こんな時に元子の相談などとても無理。この男、あだ名が河内山。先代が宗俊(むねとし)と付けた名前を宗俊(そうしゅん)と読んで、お数寄屋坊主の河内山宗俊を気取る辺り、名付けた親にも負けない遊び人だったのですが、今は久しぶりで仕事場へ入る喜びに子供の無事生還を祈る親心を込めて、大真面目な父親なのでした。
宗俊という名に何か覚えがあると思ったら、戦前の映画を以前、観てました。
さて、待ちに待った正大が帰ってきたのは、そのまた翌日の夕方近くのことでした。
路地を歩く大きなリュックを背負った学帽白シャツの青年。
幸之助「よう、まあちゃん」
正大「ああ、おじさん」
幸之助「まあちゃんじゃねえかよ」
正大「今、帰ってきました」
幸之助「今、帰(けえ)ったじゃねえよ。待って待って待ち抜いて、おめえんとこのおやじなんかまるで鶴の首みてえだ」
正大、笑顔。
正大は「3年B組金八先生」の初期シリーズで体育の伊東先生または「マー姉ちゃん」の三吉君。三吉君の出征エピソードは泣けたな~。
幸之助「ほら、さあさあさあ、重かったろ」両手に持った荷物を運んでくれる。
正大「どうもすいません」
幸之助「お~い! 帰ってきたぞ! まあちゃんが帰ってきたぞ! おい!」店に入って声をかける。
順平「あんちゃん! お帰りなさい!」抱きつく。
正大「順平」
トシ江「正大! 正大…」
正大「ただいま」
キン「若旦那! まあ…」
トシ江「正大…」
幸之助「何でぇ、何でぇ、おキンばばあまでがよ。さっさと大将に知らせてこねえか。大将! 河内山ぁ!」
おキンばあさんは泣いてる。
正大「ほらよ」リュックを順平に預けて、家の中へ。
順平「うわ~、重たい」
キン「私が持ちますよ」
トシ江「そうだね、さあ…」
キン「あ~、本当に重い。よっこいしょ…」
トシ江「大丈夫かい?」
キン「大丈夫でござんすよ」
裏庭
幸之助「おい、何やってんだよ。あんなに待ち焦がれていた、まあちゃんが帰ってきたって言ってんだろうがよ」
宗俊「うるせえ。耳があるから聞こえてるよ」
幸之助「気取りやがって素直じゃないよ、お前さん」
正大「ただいま、お父さん」
彦造「若旦那! お帰りなさいまし」
正大「相変わらず元気じゃないか彦さん」
彦造「へえ。彦造、最後の大仕事、今、若旦那の旗ぁ染めさせていただいてます」
正大「へえ、僕の旗を?」
幸之助「おう、4日の朝は見ものだぜ。御大自らの肝煎りでよ『祝す桂木正大君』って大物が久々に人形町の風にはためこうって寸法だ」
正大「そいつはすげえや。何よりもうれしいよ、お父さん」
宗俊「おめえの学校だけは夏休みじゃなかったのか」
正大「ああ、助手の人たちが減っちまったから研究室の手伝いやったりしていたもんで」
宗俊「ふ~ん」
幸之助「ふ~ん。素直じゃないねぇ」
玄関…というか店の出入り口
元子「ただいま。あ~、今日も暑かった」
順平「あんちゃんが帰ってるよ!」
元子「え! 本当!?」
順平「うん」
元子、2階へ。「早く。あんちゃん、早く」
正大「何だよ」
元子「いいから早く」
襖を閉める。
元子「ねえ、約束してもらいたいことがあるの」
正大「約束?」
元子「うん。元気で帰ってくる、俺は絶対死なないって約束してほしいの」
正大「元子…」
元子「そしたらいいものあげる」
正大「いいもの?」
元子「うん。でも約束してくれなきゃ嫌」
正大「分かった。約束する」
元子は机の引き出しにしまっていた手紙を渡す。「はい」
正大「ガンコ…」
元子「後は万事、私に任して。何しろお父さんったら、あんちゃんが帰ってくるのを手ぐすね引いて待ってたって感じなんだから」
正大「分かった」
元子「そんじゃあね」部屋を出ていく。
正大は窓辺に座って封筒を開ける。封筒の折り鶴のイラストで千鶴子だと分かってたのかな? 手紙を取り出すと、髪の毛が一房落ちる。
千鶴子の手紙「電報届きました。一度お別れしてしまった私ですが、あなた様のこと、一日たりと忘れることのない日々でした。どんなにうれしかったことでございましょう。この上はどこまでもお供したいと思い、髪を一房切りました。いつも一緒です。どうぞ私を北の果て、南の海までお連れくださいませ…」
1階
こういう感じのしかなかったけど、宗俊の前にあるのは長火鉢という、長方形のテーブル状のものだった。「おしん」でもお師さんがこういう長火鉢の前によくいた気がする。あとは時代劇でしか見たことないかな。
トシ江「正大! お湯が沸いたから早いとこサッと浴びたらどうかしら。ねえ!」
元子「駄目よ! あんちゃんお湯屋へ行きたいって言ってたもん」
トシ江「お湯屋? あら、だってせっかく焚きもん工面して、うちでたてたのに」
元子「だっていつも言ってたじゃないの。中の湯の富士山と松の木見ながら熱い湯たっぷり浴びないと東京へ帰ってきた気がしないって」
宗俊「よし、それじゃあ連中が来る前に俺もひとっ風呂浴びてくるとするか」
トシ江「それがいいですよ。ついでに背中の流しっこしたらいいしね」
順平「俺も一緒に行く」
宗俊「お前は母ちゃんと後で行け」
順平「嫌だよ、母ちゃんとじゃ女湯だろ」
宗俊「当たり前じゃねえか」
元子「バカだね。本当に気が利かないんだから、この子は。いい? お父さんはね、あんちゃんと二人っきりで行きたがってんの。だけど、江戸っ子なんてのは、やせ我慢の見本だから、そこは子供がうまいこと運んでやらないと」
宗俊「冗談言っちゃ困るぜ」
元子「あら、そんなにてれることないじゃない」
宗俊「てやんでぇ、何が背中の流しっこだ。きれいどころのねえさんとじゃあるめえし、野郎の、それもてめえのせがれの裸なんぞ誰がぞっとするもんか。娘のくせに親ぁからかうと承知しねえぞ」
元子「申し訳ありません。余計なことを申しまして」
トシ江「そうだよ。女の子のくせに弁が立つのも考えもんなんだから」
宗俊「クソ面白くもねえ。俺ぁ、うちの湯に入る」
トシ江「おや、そうですか。はい」
薄氷を踏む思いの賭けは元子の勝ち。
笑いをこらえる元子。
風呂の支度をした正大を連れて外に出た元子。「あの人、叔父さんの店で待ってるわ」
正大「ありがとう。恩に着るよ」
元子「ううん。そのかわり、私も後で聞いてほしいことがあるの」
正大「分かった。じゃあ」風呂桶を元子に渡して、出かけていった。
一部始終見ていた宗俊。知らんぷりして部屋へ。元子は風呂桶を台所の台に隠し、2階へ。
喫茶店で待つ千鶴子。叔父さんの店って絹子と洋三は「あぐり」で世津子さんがやってたような感じのおしゃれなカフェをやってたんだね。店の名前はmonparis(モンパリ=私のパリ)。昨日、「モンパリの叔父さん」って言ってたもんね。しかし、「あぐり」でも”カフェ・セ・ラ・ヴィ”は”珈琲 世良美”と一時改名してたけど、モンパリは大丈夫なのか?
モンパリに入ってきた正大。千鶴子が立ち上がる。
絹子「あっ、あのね、うちももっちゃんから連絡があって…」
正大「どうもすみません」
絹子「だから、その…」
洋三「取って置きのブルーマウンテンだよ。(千鶴子に)よろしく」絹子と奥に引っ込む。おお! 桜中学の職員室!
見つめ合う正大と千鶴子。
正大「手紙、ありがとう。君だと思って…しっかり肌につけて行くよ」
千鶴子「死なないで…。死なないでください。ああっ…」泣き出す。
抱き合う2人。なんかなまめかしい感じがする…。
正大「ああ、死んでたまるか」
台所
洗い物をしていた元子。奥から出てきた宗俊と鉢合わせ。
宗俊「コソコソとさっきから何ないしょ事やってんだ?」
元子「何にもやっちゃいないわよ」
宗俊「そうか」
ドキドキしながらも洗い物を続ける。
一通り登場人物の紹介という感じでなかなか元子の相談事の中身が出てこない。
さっき、モデルとなった近藤富枝さんのwikiをもう一度確認したら、東京の日本橋生まれではあるけど、結構設定はいじってるんだなあ~。原作本みたいなものもないし、その後の進路を参考にしたという程度なのかもしれない。昔のドラマの空気感がたまらなく好きだな。