公式あらすじ※初見の方、ネタバレ注意
ヨウ子(早川里美)の結婚の条件が、磯野家でともに暮らすことだとマリ子(熊谷真実)から聞いた正史(湯沢紀保)は、あっさり承諾。年を越して早々に婚約となった。マリ子たちはヨウ子が幼い頃、夜に泊まり先から、寂しくなって家に帰ってきたことを思い出していた。一方、婚約が決まってからの正史は、毎日磯野家にお得意の講義を開きにやってくる。そんな中、近所で火事だと聞いた正史は、人が変わったように飛び出して行き…。
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昨日の電話のエピソードは実際は昭和40年代の出来事だったらしい。確かに一般家庭で昭和27年はそんなに普及してないか。
お嫁に行かずにお嫁に行きたいといういささか奇妙なヨウ子の希望を伝えるために今日はマリ子が島村青年とランデブーでした。
喫茶店
マリ子「本当にご多忙のところ申し訳ございません」
正史「いや、ちょうど30分、体が空いておりましたものですから」
マリ子「本当にご無理を申し上げてごめんなさい」
正史「いや、僕の方だったらそれで構いませんよ」
マリ子「はあ?」
正史「どこへ住むかなんて問題ではありません。要はヨウ子さんの気持ちを大事にしたいということですから」
マリ子「とおっしゃられても何も即答していただかなくても…」
正史「いや、それは関係ありません。どっちにしてたって僕の答えは同じですから」
マリ子「でもおかあ様やおとう様が何とおっしゃいますか…」
正史「大丈夫。僕がきちんと説明します。それに幸い僕は跡取りではありませんし」
マリ子「はあ」
正史「ただ島村の姓を名乗っていただければ親たちは納得すると思いますので」
マリ子「ええ、それはもちろん…」
正史「いや、即答していただかなくても結構ですから」
マリ子「はい…あ…」
手を高く上げ「コーヒー2つお願いします」という正史。
磯野家
ダイニングテーブルにはブドウと紅茶?かな。
マチ子「それで?」
マリ子「うん、だからニコニコしちゃって全然抵抗の色がないのよ」
マチ子「何だか拍子抜けの感じね」
はる「でもそうおっしゃってくだすったんだったら結構じゃありませんか。家のことは岩村の伯父様を通じて向こうのご両親にお願いすればいいことだから」
マチ子「なるほどね」
マリ子「それに正史さんの言い分も確かなのよ」
ヨウ子「言い分?」
マリ子「ええ。あの方、経済部の記者でいらっしゃるし、夜が遅いことが多いでしょう? だから新居を構えるにしてもうら若き愛すべき美しい新妻を一人置いとくことは、とても心配なんですって」
マチ子「ねえねえ、そのうら若き愛すべき美しいって、ヨウ子のこと?」
マリ子「言われてみたいでしょうね~。マチ子も一度でいいからそんなふうに」
マチ子「私は別に…ただね…」
はる「ただ何なの?」
マチ子「うん、全く素直な気持ちで表現すればですね、ヨウ子ちゃん、このお話は絶対にいいわよ。今までのどの人よりも正史さんはきっとヨウ子を幸せにしてくれそう」
はる「いいえ、幸せというのは2人で作り上げていくものなんですよ」
マチ子「そんなことは分かってます。私は祝福してるのよ、ヨウ子のこの話を」
はる「それなら分かるわ」
マリ子「それでヨウ子ちゃんはいいのね? 正史さんがあなたの条件を…たっての条件を受け入れてくれたんですから」
ヨウ子「でも…」
マリ子「あら、まだ何かあったの?」
ヨウ子「私が島村ヨウ子という名前になってしまうなんて…」
はる「それはしかたがありませんよ。島村正史さんと結婚するならば」
ヨウ子「それは分かってるんですけど…」
マリ子「いいじゃないの。名前なんて記号と同じよ」
マチ子「記号と?」
マリ子「だったら逆に考えてごらんなさいよ、ヨウ子。磯野と名乗って新居を構えた方がいいか、島村ヨウ子となっても正史さんと一緒にこのうちでみんなで一緒に住んだ方がいいか」
ヨウ子「それは…」
はる「それはどっちなの?」
ヨウ子「この家からどうしても離れたくないの」
マチ子「やれやれ、大丈夫かしら、本当に」
マリ子「ううん、絶対大丈夫よ。ヨウ子だって正史さんのことをいい方だと思い始めてることは確かなんですもの」
ヨウ子「ええ。あれで突然先生にならなければもっと助かるんですけど」
マチ子「何よ、それ」
ヨウ子「昨日もね、バスの中で突然エンゲル係数のお講義が始まったの」
マチ子「何それ?」
マリ子「そんなの私が知るわけないでしょ」
マチ子「ああ、それはそうね。それで?」
ヨウ子「帰りはグレシャムの法則なの」
マリ子「何のことだか全然分かんないわ」
ヨウ子「だからなおのこと一生懸命教えてくださるみたい。でも恥ずかしくて」
はる「結構じゃありませんか。人間いくつになっても学ぶことを忘れてはいけませんよ。それを忘れることは直ちに退歩を意味するんですからね」
ヨウ子「はい。ですから私も一生懸命お講義を受けていたの。そしたら前に立っていた人がいろいろ質問を始めたの」
マリ子「へえ~」
ヨウ子「そしたら正史さん、その方に席を譲ってしまってね、バスの中を例のごとくゆっくりと歩きながらお講義を始めるでしょう」
マリ子「全く好きね、あの人も」
ヨウ子「そしたらバスは揺れるし、車掌さんは『危ないから動くな』って言うし」
マチ子「やれやれ、もう…」笑い
ヨウ子ちゃんは本当に輝くような笑顔! 大人役になってから最初の頃はものすごくおとなしいというより家族になじんでない感じがしていたからなあ。
ヨウ子「質問をなすった方に対して途中でやめるわけにはいかないでしょう。だから私たち2つも乗り越しちゃったの」
マチ子「ええ~っ!?」笑い
マリ子「いいわよ! ますますもってお似合いだわ!」
はる「そうですよね~!」
ヨウ子「そうでしょうか?」
マリ子「そうですとも!」笑い
というわけでこのカップル年を越して早々めでたく婚約。結婚式は秋ということに相なりました。
今は昭和28年。今、再放送中の「純ちゃんの応援歌」が昭和29年の夏かな。追いついてきた。
結納の品と父の遺影を見ていたマリ子は一人笑い、マチ子に「何よ、薄気味悪い笑い方して」とツッコまれた。
マリ子「だってねえ、思い出さない?」
マチ子「えっ?」
マリ子「ほら、昔、お母様が植辰さんたちを連れて京都のお寺に見学に行った時のこと」
マチ子「うん」
マリ子「あの子、寂しがりもせず写真屋さんに泊まりに行くって喜んで行ったのはいいけど、やっぱり夜になって帰ってきたじゃない」
マチ子「来た来た、三郷さんにおぶさって」
マリ子「そう」
珍しく回想
マチ子「まあ、ヨウ子」
マリ子「どうしたの、一体?」
ヨウ子「(マリ子に抱きつく)マー姉ちゃん!」
智正「申し訳ありません。さっきまでご本など読んでご機嫌がよかったんですが、だんだんおうちが恋しくなったみたいなんですよ」
マリ子「どうもすみません」
智正「いえ、とんでもない。何にもお役に立てなくてどうも」
マチ子「いけない子ね、ヨウ子ったら」
ヨウ子「だって、だって…」
ウメ「こんなもんなんだよ、子供ってのは」
智正「はい」
ウメ「いや、どんなに楽しくてもね、暗くなってくると妙に寂しくなってくるものなんです」
智正「ああ~! ああ、そうなんですか。いや、僕はまた何か気に入らないことでも言ったんじゃないかと思って」
ヨウ子「(智正に向き直り)そうじゃないの、そうじゃないの」
智正「ごめんね、ヨウ子ちゃん。本当、何にもお世話できなかったね」
ヨウ子「違うの、メリーちゃんがいなかったから…」
智正「メリーちゃん?」
回想ここまで。
マリ子「あれは完全に言い訳よ。おばあちゃまのおっしゃるとおり夜になるに従って家が恋しくなったに決まってるわ。だってそれは証拠にあの子、療養所生活を除けば、いぺんもどこにも一人で泊まれたためしがないじゃないの」
マチ子「そういえばそうよね。お嫁さんに行って夜になって帰りたいじゃ問題よね」
マリ子「だからマッちゃんもお嫁さんに行きたくないんでしょ?」
マチ子「んっ?」
マリ子「いいの、ちゃ~んと分かってんだから」
マチ子「いや、そんなことはないけどさ…。でも、ヨウ子、三郷さんには出席してもらいたいって言ってたわ」
マリ子「う~ん、少々問題だけどね」
マチ子「何が?」
マリ子「だって、ヨウ子にとってはもしかしたら初恋の人かもしれないもの」笑い
マチ子「でも道子ちゃんだって会いたいでしょうし、三郷さんには是非出席してもらいましょうよ」
マリ子「そうね。北海道の秋は早いし、もう開拓のお仕事も楽になってるでしょうし」
マチ子「うん。喜んでくれると思うわ、ヨウ子の花嫁姿」
もう一度、父の遺影を見るマリ子。
道子「まあ、何をしてらっしゃるんですか、お二人とも!」
マリ子「えっ?」
道子「『えっ?』じゃございませんよ。ほら、マリ子奥様は工場長さんを印刷所の方へお待たせのはずですし、マチ子先生! マチ子先生は週刊毎朝の方が『新やじきた道中』のお打ち合わせで先ほど応接間の方に…!」
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マチ子「そうだった! あ~、分かった! ごめん、ごめん!」
マリ子「私も行く!」慌てて部屋を飛び出す。
さて、婚約したのはいいが、それを機に思いもしなかった夜が磯野家を毎晩のように訪れようとしておりました。晴れて婚約者となった正史が一晩も休まず、堂々とやって来たのです。
玄関
正史「こんばんは!」
お琴「は~い! まあ、またですか」
正史「そうです、またです。はい、これは皆さんでどうぞ」
お琴「まあまあ、いつもいつも恐れ入ります」
正史「じゃあ、お邪魔します」
お琴「はあ、どうぞ」
応接間には正史と磯野三姉妹。
正史「では今日はご要望に応えまして経済の仕組みにつき、その基礎からお話いたしましょう。まず、経済という言葉そのものにつきましては…」
マチ子「あの…私たち、何もご要望した覚えはないんですけど…」
正史「いえいえ、ご遠慮なさることはないんです。経済は僕の専門分野なんですから。では…」
マリ子「でも、あなただって一日中、新聞社の激務でお疲れでしょうし…」
正史「いえいえ、どうぞお気遣いなく」
マリ子「いや、私たちを気遣ってほしいんですけど…」
正史「はあ?」
マチ子「つまりですね、姉はこれでも姉妹出版の代表でしょう? だから結構、昼は昼で飛び歩いておりますし」
正史「だからこそ問題なのですよ」
マリ子「はあ?」
正史「つまり私はこのように皆様方のお宅を訪問するうちに、皆さんが公定歩合の何であるかも知らないという事実に、あぜんかつぼう然とし皆さんが経済問題について全く無知であると…あっ、失礼」
マリ子「ああ、いえ、いいんです。本当に無知なんですから」
正史「そうですか。では今日はデフレとインフレについて分かりやすくお話いたしましょう」
マチ子「あっ、インフレなら知ってます。ねっ、マー姉ちゃん」
マリ子「うん、知ってる知ってる。『目には目を』よね」
正史「『目には目』?」
マリ子「ええ。あれはね、たしか昭和22年だったと思いますわ。本の定価表だけ幾とおりも印刷しておくんですの」
正史「本の定価表?」
マチ子「だって一晩寝たら何でも値段が上がってしまってるんですもの。あれは絶対の自衛策だったわよね」
ヨウ子「でも、本当に頑張ったわよね。マー姉ちゃん」
マリ子「まあ、そんな」
マチ子「今、思い出すだけでもゾッとするわ」
マリ子「そうよね。返本の山で座るところもない上に南京虫の騒動で…!」
ヨウ子「キャ~ッ! もう!」
マチ子「やめてってば、その話は! もう!」
姉妹で話が盛り上がり、正史オロオロ。
この婚約者教授、経済学が全く一家の体質に合わないものと断念するや、その次の晩からは…パイを持参で中国語研究会。つまり、マージャンの講義を始めるというあんばい。よほど、ものを教えることが好きなお人のようでした。
客間の座卓でマージャンを始める4人。
マリ子「あっ、コケコッコだわ」
正史「それはイーソーといって竹の1です。みんなのパイもよ~く見て。残しますか? 捨てますか?」
マチ子「捨てちゃいなさいよ。何だか、その絵、私、虫が好かないの」
マリ子「そうね。それじゃあ、捨てます。はい」
正史「ドン!」
マリ子「えっ?」
正史「これでヨウ子さんは上がりです」
ヨウ子「まあ」
正史「だから、みんなのパイもよ~く見てと申し上げたでしょう?」
マチ子「ずるいわ、そんなの」
正史「どうしてですか?」
マチ子「だってちゃんと教えてくれるんだったらヨウ子さんはこれで上がりですよって、そこまで教えてくれないと」
正史「しかしですよね…」
マリ子「いいのよ、正史さんがヨウ子をひいきするのは、しかたがないことなんだから」
正史「それはないですよ。勝負は勝負です」
大きな物音がした。襖の向こうで道子が居眠りをして倒れたのだった。
正史「構いませんよ。明日速い人は早く寝なければいけません。僕たちにつきあってるときりがありませんからね」
キリッとヨウ子を見る正史、ヨウ子はマチ子に、マチ子はマリ子に視線を送る。
そんな時、半鐘が鳴る。
マリ子「あっ、火事よ!」
正史「皆さんはここにいてください! 僕が見てきます!」
ヨウ子「島村さん!」
正史「大丈夫! 様子は僕が知らせますから!」
マリ子「でも、ちょっと…」
正史「火事はどこだ~!」
外で見ている磯野家の面々
マチ子「大丈夫かしら? 全然下火になんないみたい」
道子「奥様! 奥様! あの火元は桜寿司さんでした」
はる「まあ、なんてことでしょう!」
マチ子「ちょっと行ってくるわ!」
マリ子たちが止める。こういう野次馬っぽいとこサザエさんっぽい。
ヨウ子「大丈夫かしら? 島村さん…」
マリ子「結局、あの人も江戸っ子なのよね。半鐘が鳴って飛び出していったのの早かったこと、早かったこと」
道子「はい、植辰さんももう既に来ていらっしゃいましたから」
はる「そういえば顔が見えないなと…」
植辰さんは自分の家がなくなって仲間のところにいると言ってたけど、今は姉妹出版の倉庫番として近くに住んでるのかな?
朝男「お~い! お~っとっとっと…どうなってんだよ、おい、ヨウ子ちゃんのあの一緒になるってあの人はよ」
マチ子「あの人って島村さん?」
朝男「おう、バケツ持ってきたかと思ったら消防団のホース取り上げてよ、こっちからこう消すんだとか、やじ馬はこっちどかせろとこうだよ!」
マリ子「何ですって!?」
朝男「おう。俺のあれだよ…すっかり持ち場荒らされちゃってな、とにかくもうでっかい声で消防団に指図してんだから!」
マチ子「あぜんぼう然…そんなに教え好きだとは私、何をかいわんやだわ」
マリ子「本当よね」
朝男「そんなのんきにしてる場合じゃねえぞ。なんとかしねえと、ええ? 人の刺子を奪ってよ、てめえでひっかぶって火の中へ飛び込んじゃうぞ!」
一同「え~!?」
マリ子「だったらどうしたらいいんですか?」
朝男「どうしたらいいって…しょうがねえな。結局俺が行くのか、ええ? しょうがねえ、じゃあついてこい! ついてこい!」
またまたマチ子がついていこうとするのを止めるが、結局、朝男の後に続いて門扉を出ていくマチ子とマリ子。
実際、ヨウ子の婚約者君はまことにもってユニークな人物でした。
島村さん、面白い。マリ子マチ子が双子みたいにがっちり固まったところに少し年の離れたヨウ子が必死につながろうとしている…ように見える…けど、本当の姉妹のことは分からない。家族みんなでヨウ子を子供扱いして、正史に同居を求めたのはマリ子だったりしてな?とかいろいろ考えちゃう。